OVER PRINCE   作:神埼 黒音

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エ・ランテル

見上げるような城門へ、大勢の人が列を作って並んでいた。

街へ入る際には簡易なチェックを受け、入場料を払う必要があるらしい。

身元不詳の旅人などは金を上乗せして払うか、街で何かあった時に責任を負ってくれる保証人を立てなければならないとニニャさんから聞かされていた。

 

 

「心配しないでいいですよ?僕が保証人になりますから」

 

「何から何まで、すいません………」

 

 

保証人だけじゃなく、この国の通貨を持っていない俺は入場料までニニャさん頼みである。

頼りになる先輩どころか、年下にタカるダメ男になってないか?

異世界に来て、最初の一歩がヒモみたいになってるってどういう事だ……。

こんな情けない姿をかつての仲間に見られたらと思うとゾッとする。

 

 

(何にしても、まずは仕事探しだな……営業の仕事はあるのか?)

 

 

早くまともな職に就いてお金を返さないとな……これ以上のイメージダウンは避けたい。

オーガとの戦闘後は妙に褒め称えてくれていたが、

余りの痛々しさに気を使ってくれたんだろう……。

まるで年下の子に厨二を慰められる大人の図であった。

 

 

(くぅぅぅぅ!死にたい!)

 

 

余りに恥ずかしさにこの場で転がりそうになった。

ヤメロ!あれはもう思い出すな!何も無かった!そう、何も無かったんだ!

俺達はオーガなどに会ってない……いいね?いいよなぁ?!

 

そんな現実逃避をしていると、

横ではニニャさんが「保証人………責任……僕が……えへへ」とか嬉しそうに呟いている。

何でこの子は責任を負わされるのを喜んでいるんだろうか………。

と言うか、街で俺が何かやらかすと思われてるのか……一応、社会人だったんですよ?

 

 

「よーし、次のー」

 

「モモンガさん、僕達の順番が来ましたよ」

 

「えぇ、行きましょう」

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「あんたは銀級の冒険者か……ん、横のは?」

 

「この人は遠国からの旅人でして。僕が保証人になります」

 

「そうかい。なら、詰め所に行って氏名と宿泊先を記してくれるか」

 

 

案外スムーズに進むもんだな……などと思っていると、衛兵が俺を見て何かを言っている。

やっぱり、身元不明の人間など街に入れるな!ってなるんだろうか……。

こちらを見て「似顔絵のローブ」「アダマンタイト」「薔薇」など、よく分からない単語を並べているみたいだが……彼らは一体、何を言ってるんだろうか??

 

しまいに「流星」「小宇宙」「ゲリピー」とか電波な単語まで飛び交っている。

大丈夫なのか、こいつら……。

ニニャさんも不安そうにこちらを見ている。

やがて話が終わったのか、衛兵の中でも一番立場の高そうな人がこちらへ来た。

一瞬、何もしてないのに逮捕でもされるのかと思ったら、酷く丁重な姿勢で頭を下げられた。

 

 

「失礼、貴方様は蒼の薔薇、ティア様のお知り合いの方ではありませんか?」

 

「は??薔薇?」

 

「実はティア殿から見かけたら連絡を欲しいと言われておりまして……」

 

「いや、すいませんけど、そんな人を知らないんですが……」

 

 

一体、何の話だ?誰かと間違えてるんじゃないのか。

この異世界に知り合いなんて居る訳もない。

もし居たとしても、変わり果てた自分の姿に気付く筈もないんだから。

そんな事を考えていると、横からローブが引っ張られた。

見ると、ニニャさんが何か思いつめたような目で下から見上げてくる。

 

 

「モモンガさん……アダマンタイト級の方とお知り合いだったんですか?」

 

「いえ!私にも何がなんやらで………」

 

「蒼の薔薇の皆さんって、凄く綺麗な方ばかりだって………」

 

「いやいや!そもそも、蒼の薔薇っていうのが分かりませんよ!」

 

「本当ですか?僕、信じて良いんですか?」

 

「ニ、ニニャさん……?何か違う話になってませんか?」

 

 

衛兵長とも言うべき中年の男が、こちらの様子を見て訳知り顔で頷く。

うんうん、と腕を組んで「わかるよ、あんた」とでも言いたげな表情だ。

こいつはこいつで、何か勘違いしてないか??

衛兵長はこちらに両手を優しく向け、まるで痴話喧嘩を仲裁するようなポーズを取った。

 

 

「えぇ、えぇ、勿論事情がおありなのでしょう。同じ男として気持ちは分かりますとも」

 

「………えと、衛兵長さん?何の話を」

 

「肉ばかりではなく、時には野菜や甘い物だって欲しくなる。そうでしょうとも」

 

「いや、何でここで食べ物の話が……」

 

 

「何もおっしゃられますな!我々もそれぐらいの融通は利かせて貰いますとも。我々は何も見なかったし、聞かなかった。貴方様はここに「一人」で来られた、そうですな?」

 

 

ダメだ、こいつ……勝手に納得して、勝手に話を進めちゃってるよ!

このままじゃ埒があかないじゃないか……。

それに、後ろの行列から「早く行け」と物凄い目で睨まれてるし……すいません!

 

 

「と、とにかく!衛兵長さん……街の中に入れて貰えますか?後ろの方に迷惑なので」

 

「おぉ、これは失礼しました!ささ、どうぞ中へ!」

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「では、宿まで案内させて頂きます。そちらでごゆるりとご滞在下さい」

 

「や、宿まで……ちょっと待って貰えますか。ニニャさんと話をしたいので」

 

「えぇ、勿論ですとも。貴方様も大変ですなぁ……」

 

 

こいつ、その訳知り顔を止めろ!大体、何だ……その蒼の薔薇というのは。

その名前を聞いてからニニャさんの目が何か怖いし……さっきから無言だし。

……ずっとローブを握られたままだし。

 

 

「モモンガさん………」

 

「は、ふぁい……!何かの人違いでしょうけど、誤解を解いてきますよ」

 

「これ………僕の宿泊している宿のメモです。落ち着いたら……連絡を下さい」

 

「わ、分かりました」

 

「漆黒の剣のニニャと言って貰えれば、伝わりますので……」

 

 

何かさっきから俯いたままだし、泣きそうな表情に見えるんだが……。

俺がこのまま何処かに行って……そのまま消えるとでも思っているんだろうか。

お金も借りっ放しだし、恩を受けたまま消える程、薄情ではないつもりだぞ。

 

 

(何か、トラウマでもあるんだろうか……)

 

 

どうしてだろうか。

その心細そうな姿が酷く、一時の自分に重なって見えたのは。

 

 

俺はそっとニニャさんの肩に手を置くと、安心させるようにポンポンとその肩を叩いてやった。

自分でやっといて何だけど、これ凄く先輩っぽいな。

 

 

「心配せずとも、何処へも行きませんよ」

 

「モモンガさん……!」

 

 

ニニャさんがやっと顔を上げ、こちらを嬉しそうに見てくる。

うん、やっぱりこの子はこういう優しい笑みが似合うな。

………いや、男の子に対する評価としては何かおかしいか?

かつての仲間じゃあるまいし、俺はノーマルだ……断じて、おかしな性的嗜好などない。

そう、だよな……?

 

 

 

 

 

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ぶくぶく茶釜

「やっと男の娘の良さに気付いたの?モモンガさん」

 

 

ペロロンチーノ

「黙れ、姉」

 

 

 

 

 

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あれ、何か今の回想シーン変じゃなかったか?台詞とか立場が逆だったような……。

いや、まぁそれは良い。

ニニャさんも分かってくれたようだし、さっさと面倒な事を終わらせてくるとするか。

早く仕事も見つけないといけないしな……。

 

 

「それじゃ、衛兵長さん。案内して頂けますか?」

 

「素朴ですが、心にグッと来るテクでしたな。良いモノを拝見させて貰いました」

 

(こいつ……さっきから俺達の事を何だと思ってるんだ!)

 

 

衝動的にその口を縫い付けてやりたくなったが、かろうじて堪える。

街へ来て早々、揉め事を起こしたくない。

 

 

「それじゃ、行ってきますね。ニニャさん」

 

「………はい、待ってますね」

 

 

こうしてニニャさんに別れを告げ、衛兵長に案内されながら宿へと向う事となった。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

ニニャは宿に戻りながら、じくじくと痛む心の悲鳴を聞いていた。

彼が去った後、これまで感じた事もないような寂寥感が自分を襲ったのだ。

喪失感、と言って良いかも知れない。

姉が連れ去られた時と同じような寂しさと、痛み。

 

 

(蒼の薔薇………)

 

 

自分達のチームが目標として掲げる「魔剣」すら所持する最高峰のチーム。

恐らくは王国史上、最も煌びやかで知らぬ者など居ない集団。

その乱れ咲く華のような絢爛豪華なメンバー達は、人類の最高峰であり、人類の切り札とも言われるアダマンタイト級冒険者に相応しいものだ。

 

それに比べ、自分は駆け出しからようやく抜け出した銀級の冒険者である。

地を這う虫と、天空を駆ける大鷲ほどの差があるだろう……。

人生の最終目標として出てくるような壁が、いきなり目の前に出現したのだ。

神というものが居るなら、それは自分にとって敵に違いない。

 

 

(目的は……あの魔力、なんだろうな……)

 

 

蒼の薔薇がどうやって彼を知ったのか?

どうやってその魔力を知ったのか?

アダマンタイト級冒険者ともなれば、その情報網は国中に広がっているのか……。

 

 

(知れば当然、無視なんて出来ないよね……)

 

 

どれだけ誇張しても言い過ぎではない、と思えるほどの威力だった。

あれだけ優れた魔法詠唱者なら、アダマンタイト級冒険者が直接スカウトや、協力などを要請しにきたとしても全く不思議ではない。

かの蒼の薔薇が仲介をするとなれば、国から招聘される事だってありうる。

貴族だって見栄を張る為に、優れた者を傍に置きたがるだろう。

どちらにせよ、彼は自分のもとから大きく離れて行ってしまう。

 

 

彼は何処にも行かない、と言った。

でも、それは彼がこの国の貴族や国の傲慢さを知らないからだとも言える。

国や貴族から良いように使われ、必要がなくなれば捨てられる。

彼にそんな想いをさせたくない。

 

 

「自分に出来る事は何だろう……」

 

 

ニニャは宿に戻りながら、必死に考えていた。

 

 

 

 




こいつら中学生のカップルか……!(歯ぎしり
次回はクレなんとかさんがチラっと出てきます。




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