OVER PRINCE   作:神埼 黒音

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隣のハムスケ

「ヒ………ッ!」

 

 

ンフィーレア少年から悲鳴が漏れ、その前に立って背後に庇う。

森の奥から出てきたのは……。

大きな鞭のような尾を持つ、超巨大なジャンガリアンハムスターであった。

 

 

「お、お前が……森の賢王………なのか?」

 

「ふふ、某の偉容を見て動揺しているでござるな。フードの下から伝わってくるでござるよ」

 

「じゃんがりあんはむすたー、じゃないか………デカいけど、可愛いな」

 

「むむ?!某を可愛いとは……それに、某の仲間を、種族を知っているのでござるか??」

 

 

色々な面でビックリだ。ユグドラシルでもしゃべるモンスターは居たが、あれらはあくまで入力されたものであり、ちゃんとした「会話」が出来るモンスターなど存在しなかった。

当たり前だ、あれらはデータなのだから。

この世界のゴブリンやオーガも何か口走っていたが、片言の獣のようであり、これとは違った。

 

 

(しかし、完全にハムスターだな……尾だけは鞭みたいだが………)

 

 

どう見ても賢王という姿ではないと思ったが、後ろのンフィーレア少年は恐怖を感じているようだ。やはり、図体がデカいからか??

 

 

「種族というか、こう、手に乗るような小さなハムスターだったけどな……」

 

「それは……ツガイとしてダメでござるなぁ……某はずっとこの森で一人だった故、同じ種族の仲間も居らず、子孫を残す事が出来ないのでござるよ………」

 

 

ハムスターが子孫を残せない、と凹んでいる姿は妙なシュールさがあった。

むしろ、同じ種族が周囲に一杯居るのに童貞で、子孫を残せていない自分は……。

………止めよう。

何で俺が森の真ん中で落ち込まなきゃならないのか。

 

 

「も、モモンガさん……逃げましょう……危険です……ッ!」

 

「少し待って貰えますか?会話が出来る相手のようなので。ちなみに聞いておきたいんですが、この魔獣を街へ連れ帰る事は可能ですか?」

 

「森の賢王を、ですか?!こ、こんな恐ろしい魔獣を………確かに、魔獣を使役する冒険者の方は居ますけどっ……これは、余りに別格すぎますよ!」

 

「なら、可能は可能なのですね」

 

 

怯える少年を宥め、ハムスターに話しかける。

うまく行けば、このハムスターを使役して連れて帰れるかも知れない。どうも恐れられているようだし、ペットにでもしたら自分の名が大きく上がりそうだ。

 

 

「某を使役など、寝惚けた事を……恐怖で錯乱しているのでござるか?」

 

「ふむ………ならモンスター戦らしく、力で服従させるとするか」

 

 

事実、ユグドラシルでも殴りながらテイムし、力で服従させる方法が一番ポピュラーであった。

アイテムを使ったり、好む餌を用意したり、と他にも様々な方法があるがビーストテイマーではない自分には、そのようなアイテムもないし、スキルも所持していない。

 

 

「いくでござるよ、人間っ!」

 

「ハムスターを殴るとか、動物虐待っぽくて嫌だけどなぁ………」

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

ハムスターの尾が鞭のようにしなり、それを首を捻って回避する。

横にあった巨木が貫かれ、地響きを立てて倒れた。

かなりの威力があるらしい。

それを見たハムスターが瞬時に自分へと飛び掛ってくる。何だか大きな犬にでもジャレつかれてるような気分だ。

 

振り下ろされた爪を杖で弾き、その刹那―――杖を相手の横っ腹へ叩き込む。

これで終わるかと思いきや、まるで金属でも叩いたような硬質の音が跳ね返ってきた。

見た目とは裏腹に、随分と硬い毛のようだ……。

 

 

「中々やるでござるな……しかし、これはどうでござるかな……《盲目化/ブラインドネス!》」

 

 

相手の毛に刻まれた文様の一つが光り、魔法が発動される。

どうやら、このハムスターは魔法も使えるらしい……マジック・ハムスターだ。可愛い。

そんな事を考えていたら、体が七色の発光に包まれ、優雅な仕草で右手を天に掲げた。

まるで星を掴もうとするようなポーズを取り、口が勝手に言葉を囀りだす。

 

 

 

「我が往くは星の大海―――――《星視/スタービジョン!》」

 

(ひぃぃ!やめろぉぉぉぉぉ!)

 

 

 

スキルが自動的に発動し、相手の盲目魔法を無効化した。

いや、もう無効化しないでいいわ!真っ暗でも良いから!

いっそ気配だけで戦うわ、もう!

 

 

「むむ?!面妖な……しかし、綺麗な光でござるなぁ……」

 

 

ハムスターに感心されるとか、何の罰ゲームだよ……もうさっさと終わらせるぞ!

俺の心が死ぬ前に、だ!

こいつを殴ったり、魔法で攻撃するのは何か可哀想だし……獣なんだから恐怖系で責めてみるか?

 

でも、出るんだろうな……出るだろうな………。

こんな美味しいスキル、出ない筈がないもんな……絶対、格好付けたポーズが出るぞ。

もう、覚悟を決めよう………!

 

 

 

「《絶望のオーラⅠ》」

 

(出ないのかよッ!ふざけんなよ!)

 

「こ、降参するでござる……某の負けでござる……!」

 

 

ハムスターに向けて黒い波動が放たれ、それを受けたハムスターがひっくり返る。

お腹を見せて服従(?)のポーズを取っているようだった。

はぁ、もう何でも良いよ……戦闘よりずっと疲れてしまった………。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「某、これからは殿に忠誠を誓うでござるよ!」

 

「そ、そうか……?まぁ、適当に頼むよ」

 

「モモンガさん、凄いですよ!森の賢王を従えてしまうなんてっ!」

 

「凄い、んでしょうかねぇ………」

 

 

何かジャレてる内に、いつの間にかひっくり返ってお腹を見せていたような……。

大体、このハムスターを連れて帰っても名が上がるどころか、見世物になるんじゃないのか?

女の子や子供には可愛いと評判になりそうだけど。

 

 

「これ程の《大魔獣》、見た事も聞いた事もありませんよ……街で大騒ぎになると思います!」

 

「某の姿が殿のお役に立つなら嬉しいでござるな!」

 

 

何故かはわからないが、ンフィーレア少年にはこのハムスターが立派に見えるらしい。この世界の住人の審美眼というか、価値観というか……うーん……。

 

 

「ぁ、ですが……森の賢王が居なくなると、森の均衡が崩れるんじゃ……この近くに、僕もよく知る村があるんです」

 

「森は最近、トロールの勢いが盛んでござってなぁ……某が居ようと、居まいが、どちらにしても拮抗は崩れるでござろう」

 

「ンフィーレア君、ご心配なく。近い内に代わりとなる者を私が置いておきましょう」

 

「へ……モモンガさんは他にも使役している魔獣がいるのですか?!」

 

「い、いえ、譲り受けた良いマジックアイテムがありまして。中々のものですよ」

 

 

流石に自分の都合で魔獣を連れ出して、森の生態系やら近隣に被害を出す訳にはいかないしな。ンフィー君を街まで送ったら、実験も兼ねてスキルの《創造》を試そうじゃないか。

それをこの地に配置し、モンスターが外に出ないように見張らせよう。

人類未踏の地らしいし、ここで大きな発見などをすれば名も上がるかも知れない。

 

その後はンフィー少年が奥地で目を輝かせながら植物や薬草を採取し、籠が一杯になれば馬車へ戻り、また奥地へ戻るという行動を繰り返した。

森の賢王が居る所為なのか、モンスターは逃げ散って気配すら感じさせず、安全に往復する事が出来た。このハムスター、モンスター除けに良いかも知れないな。

 

 

「しかし、いつまでも森の賢王だと言いにくいし、名前でも付けるか………」

 

「おぉ、殿が某の名を考えてくれるのでござるか!」

 

 

そうだなぁ……どんな名前が良いだろうか。

ゲレゲレ、大福、もょもと、とっとこハム太郎、丸大ハム……

色々と浮かぶが、センスが無いと散々言われたからなぁ……何とか汚名を返上したいものだ。

 

 

「よし、今日からお前はハムスケだ!」

 

「ハムスケ!良い名でござるな!某は嬉しいでござるよ!」

 

「そ、そうか!?そうだよな……俺のセンスは間違ってないよな?!」

 

 

一人と一匹が抱き合うように森の中で騒ぐ。

それを聞いたンフィー少年は苦笑いしていたが、口に出す事はなかった。

時に優しさとは残酷でもある。

 

 

 

 




ねんがん の はむすたー を てにいれたぞ !

と言う事で、皆様のお陰で20話を超える事が出来ました。
今更ですが、ツイッターで創作垢を作成したので、
そちらでも何か垂れ流して行こうと思います。




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