OVER PRINCE   作:神埼 黒音

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王都の長い夜

王都を目指す一行に様々な贈り物が届く。

それは酒であったり、新鮮な野菜や果物であったり、時には高そうなアクセサリーなどだ。

近隣の領主や代官に命じられた者達がご機嫌伺い、といった様子で毎日のように訪れる。

最初こそ驚き、恐縮していたモモンガであったが、今では少々、うんざりしていた。まるで自分が大企業の会長にでもなり、中小企業の営業から引っ切り無しに名刺を次々と渡されているような状況なのだ。

 

 

(俺はそんな偉い人間じゃないってのに……)

 

 

最初こそ、良い所のお嬢さんらしいラキュースさんへのご機嫌伺いかと思っていたが、標的が自分であると知った時の驚きと言ったら………。

ハムスケを従えてから、すっかりヒーロー扱いと言うか、何と言うか……。

ばっさり言ってしまえば、所謂《コネ作り》なのであろう。

営業職であった身なので理解は出来る。但し、それに応える事なんて自分には出来ない。

 

そもそも王都へ行くのも、自分の見栄から出た錆なのだ。

今でこそ、ニニャさんのお姉さんを探すという真っ当な目的も出来たが、とても知らない人達からの期待やお願いに応えられるような状況にはない。

向こうに着けば、八本指というギャング(?)と戦闘になる可能性も高い。

そんな中で名刺だけ次々貰っても、重荷になるだけである。

 

 

「気にしなくて良いですよ、モモンガさん。彼らは彼らなりの思惑や目的があってこうしてきているだけで、モモンガさんが別に気に留める必要なんてないですから」

 

 

ラキュースさんはあっけらかんと無視しろ、と言うが小市民の自分には中々難しいものがある。

そもそも、自分は名刺を貰う側ではなく、相手に受け取って貰う側であったのだから。

 

 

「貴族からのご機嫌伺いなんて、本当に気持ち悪いですよね。全部燃やしちゃいましょうか。僕、モモンガさんのあの魔法、また見たいです!」

 

 

ニニャさんは一点の曇りもない良い笑顔でそう言うが、食べ物を燃やす趣味は流石に無い。

と言うかこの子、マジで貴族が嫌いなんだな……無理もないだろうけど。

 

 

(それに、新たなプレートか……出世したって事で良いのか??)

 

 

胸からブラ下げているプレートを見る。

先日まで銅だったのが、今では《白金/プラチナ》のプレートへと変わったのだ。

鉄、銀、金、と三段飛ばしの抜擢である。会社ならいきなり新入社員が課長クラスになったようなものか?そう考えると空恐ろしいものがある。

そんな人間が周りからどんな目で見られ、内心でどう思われるか……。

 

 

「あの街の都市長は中々、肝が据わった方なんです。モモンガさんの英雄性をいち早く見抜き、抜擢したんでしょうね。私としては早く同じアダマンタイト級にして欲しいのですが……」

 

 

いやいや!アダマンタイト級って、いわば社長みたいなもんでしょ……新入社員からいきなり社長って、訳が分からないにも程がある。

ラキュースさんもそうだけど、蒼の薔薇の人達って俺を過大評価しすぎじゃないだろうか……。

 

 

「僕も、モモンガさんならアダマンタイト級になれるって信じてます。いえ、これまでのアダマンタイト級なんて塗り替えて、“過去の遺物”にしてしまうって信じてます」

 

 

ニニャさんが指を組んで、キラキラとした目を向けてくる。

組合に登録して、まだそんな月日も経ってない新入社員に何を期待してるんですか……。と言うか、過去の遺物って……その現アダマンタイト級の方が横にいらっしゃるんですが。

 

 

「アダマンタイト級を過去の遺物扱いに出来るなんて、将来有望な“銀級”の方ですね」

 

「僕達のチームなら、時間はかかっても必ず上へ登れると信じています」

 

(せ、切磋琢磨しあう良い会話なんだよな……うん、そうに決まってる……)

 

 

にしても、プレートの色や素材か……。

今は《蒼の薔薇》と《朱の雫》で、王国では青と赤の二種類が有名な色になってるんだよな?

でも《流星》って何色なんだ??

いや、その前に自分がアダマンタイト級とかになれるのかどうかも分からないけれど……。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

そんな微妙な空気を漂わせる一行に、十騎ほどの集団が近づいてくる。

全員が鎧を着用した、随分と本格的な騎兵集団だ。

 

 

「皆さん、馬車の中へ。ハムスケ、前へ出るぞ」

 

「了解でござるよ!」

 

 

念の為、二人を馬車の中へ入れ、ハムスケと前に出て身構える。こんな広い街道で何かをしてくるとは思えないが、来た事もない場所だしな。

近づいてきた騎兵の集団が馬から降り、先頭に居た男性が一人だけ近づいてくる。

 

 

「警戒させてすまない。私はリ・エスティーゼ王国の戦士長、ガゼフ・ストロノーフという………失礼だが、モモンガ殿であられるか?」

 

 

俺よりもむしろ、横に居るハムスケを見て確認してくるような言葉だった。

道中はハムスケのお陰で全くモンスターが寄って来なかったが、逆にこいつが居ると、どんな相手からもバレバレになるって点もあるんだよな……。

 

 

「戦士長が自らお出迎え?それって独断なの?指示なの?気になる所ね」

 

「これはラキュース殿。息災そうで何よりです」

 

 

ラキュースさんの声に、ガゼフと言う男が呼応する。どうやら旧知の間柄のようだ。

しかし、俺に何の用だろうか……?

 

 

「エ・ランテルの英雄殿が初めての王都で不自由せぬよう、案内役を仰せつかってな。それに、それ程の大魔獣を連れて歩くとなると、各所に連絡なども必須となる」

 

「な、なるほど……お手数をおかけします」

 

 

英雄殿と言われるのは何やら背中が痒くなるが、ハムスケを連れて街中を歩くとなったら、確かに大変な騒ぎになりそうだと思った。ライオンを連れて首都を歩くようなものか?

何の連絡も無しにそんな事をしたら、パニックになりそうだ。

飼い主の自分まで自動的に牢屋へ叩き込まれるだろう。

 

 

「しかし、聞きしに勝る大魔獣ですな……正直、こうしている今も冷や汗が止まりません」

 

「拙者も今は殿の家臣、命令がない限り人間を襲う事はないでござるよ」

 

「そ、そうなんです……慣れれば可愛いものですよ……」

 

「可愛い、ですか……私は何年一緒に居ようが、ドラゴンを可愛くは思えんでしょうな」

 

 

そう言ってガゼフさんが渋く笑う。

ハムスケってドラゴンみたいな扱いなのかよ……ハムスターなんですけど……。

その後は全員で軽い自己紹介をして王都へと向かう事になった。ガゼフさんは平民出身らしく、随分と気さくな感じの男性だった。

ニニャさんもガゼフさんとは笑顔で話している……何だかホッとするな。

またギスギスしないか少し心配だったが……ちょっとだけ会話を聞いてみるか?

 

 

「戦士長様は凄いですね……平民からその立場にまでなられるなんて」

 

「ガゼフで構わんよ。英雄殿の友人から様付けで呼ばれるなど、ゾッとする話だ」

 

 

何だか普通に話してるみたいだし、大丈夫そうだ。

それにしても英雄、ねぇ……。

じゃれてきたハムスケが、気が付けばお腹を見せてた記憶しかないんだが。

 

でも平民出身で、良い立場にまで出世するなんて、この人は凄い人なんだろうな……聞けば聞く程、この国はリアルに似ている気がするのだ。

平民は貧困層であり、貴族は富裕層と言えるだろう。

貧しい者は教育もロクに受けられず、人権も殆ど省みられないって点も酷似している。

流石にリアルでは身分制度までは設けられてはいなかったが、あからさまじゃないというだけで、歴然とした立場の違いは随所にあった。

 

 

(この人は、自分の力で“今”を掴み取ったのか……)

 

 

それは、自分には出来なかった事だ。

成す術もなく、ユグドラシルの最終日を一人で迎えた事を思い出す。自分がこの人のように強ければ、また違った展開があったのだろうか。

そんな事を考えていると、ラキュースさんが小声で囁きつつ、袖を引いてきた。

 

 

「モモンガさん、戦士長は王国きっての剣の使い手です。それに、弱者を身を挺して守る立派な戦士でもあります……八本指との戦いに、彼も巻き込むのはどうでしょう?」

 

「巻き込むって……」

 

「えぇ……巻き込む、です。現状、王国に味方は少なく、敵ばかりの状況です。モモンガさんもご承知の通り、八本指は体制側に完全に食い込んでおり、真っ当な手段では追い込めません」

 

 

ご承知の通りって、全然知らないんですけど?!

と言うか、体制側に食い込んでるギャングって何だよ!それもう、ギャングじゃないじゃん!

反社会勢力が行政側って……一体、どういう集団なんだ……。

身から出た錆とは言え、とんでもない連中と戦う事になってしまったなぁ……。とは言え、何の関係もない人を巻き込もうとは思わないが。

 

 

(いや、ちょっと待て!)

 

 

関係ないどころか、大いに関係あるのか??

言わば、この国の軍隊とか警察のお偉いさんなんだよな……。

むしろ、そんな連中の取り締まりとかは、この人達の仕事だとも言えるんじゃ……。

そんな事を考えてる間に、遠くに城壁が見えてきた。あれが王都なのか?

 

 

(はじめての首都、か……)

 

 

まさか、こんな大勢の人に囲まれながら首都へ入る事になるとは。少なからぬ騒ぎが待っているであろう都市……好奇心と、緊張で半々といったところか。

何が起こるか分からないし、ちゃんと気を引き締めないとな。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「ねぇ、戦士長?何でモモンガさんが私達、蒼の薔薇と同じ宿屋じゃないのよ?」

 

「ん?い、いや……私が懇意にしている宿屋でな。それで部屋を取ったのだが」

 

あれから城門で様々な手続きや各所への連絡などを終え、ようやく王都の門を潜ったのだが………泊まる宿屋についてラキュースさんがガゼフさんに噛み付いていた。

 

 

「取り消して!今すぐ!ハリー!ハリー!」

 

「待て、仮にも王城からの手配で予約を取っているのだ。簡単に取り消しなど出来ん」

 

「……ぁ、あの、私は別に何処でも構いませんよ。出来れば安い方が良いですが」

 

「そんな……!モモンガさん、私達と同じ宿屋にしましょう……ね?」

 

 

そうは言われてもなぁ……キャンセル代とか請求されたら堪ったものじゃない。それに、蒼の薔薇の人らが泊まってる宿屋って絶対に高いだろうしな……貧乏人には辛すぎる。

 

 

「それと、モモンガ殿。滞在費は全てこちらで精算するので安心して貰いたい」

 

「本当ですか!?」

 

 

ラッキー!

ラキュースさんには悪いけど、奢りだと言うなら遠慮なく受け取ろう。

ろくに金を持ってない現状では、少しでも節約出来る所は節約していかないとな。

思わぬ申し出にホクホクしていると、周囲からの視線が痛い程に突き刺さってくる。道行く人が見てくるというより、海を割るような形で人が左右に分かれていく……。

 

 

(凄い注目度だな……仕方ないけどさ)

 

 

殆どの人がハムスケを見て驚いているが、先に連絡を走らせていた所為か混乱にはなっていない。だが、それだけじゃなくアダマンタイト級冒険者や戦士長などといった有名人まで一緒に居るから、余計に注目を集めているような気がする……。

横を歩いていたニニャさんも、下を向いて観衆の目から隠れるようにしていたが、そろりと遠慮がちに口を開く。

 

 

「ガゼフさん、僕もモモンガさんと同じ宿屋に泊まれるのでしょうか?」

 

「無論だ、其々に個室を取ってある。支払いもこちらがさせて貰う」

 

「ありがとうございます!でも、出来れば同じ部屋が良いのですが……」

 

「相部屋か?男同士とはいえ、窮屈であろう」

 

「いえ、大切な“税金”ですから……少しでも節約出来たら、と」

 

「ははっ、君は若いのに随分としっかりしているのだな……流石は英雄殿の友人だ」

 

 

相部屋??

節約という点では頷けるけど……何だろうか、妙に落ち着かないと言うか。

でも仕事でホテルに泊まる時も大体、先輩・後輩関係なく大部屋だったよな……。

何やらショックを受けていたラキュースさんだったが、今の二人の会話を聞いて猛然と顔を上げ、ニニャさんを睨み付けた。

 

 

「そこの黒猫さん?王宮は宿屋代に困る程、困窮はしていないの……遠慮なく個室で寝てね」

 

「いえ、僕は一市民として税を無駄使いしたくないんです」

 

「なら、猫らしく路地裏で寝るなんてどうかしら?」

 

「流石はアダマンタイト級冒険者の方ですね。王都でも野宿の心得だなんて」

 

 

思わずごくりと唾を飲み込み、そっと視線を外す。

外した方向に、ガゼフさんが居た。彼も何やら複雑な表情をしている。

どちらともなく、視線だけで会話が出来た気がした。

―――早くこの場を離れよう、と。

賛成だ。全くもって大賛成だ。

 

 

「モ、モモンガ殿……では宿屋に案内する。無論、魔獣も預ける事が出来る宿だ」

 

「そ、それは助かりますね!行きましょう!えぇ、すぐに!」

 

 

ハムスケの背に乗り、宿屋へと急ぐ。

いやー、ハムスターの背に乗るなんて最初は恥ずかしかったけど、今じゃ全然平気だな。むしろ、外部から隔離されたような安心感すらある程だ。

 

 

「一つだけ聞いても良いだろうか?モモンガ殿は何故、王都へ?」

 

 

遠慮がちに、だが、自分の目をしっかりと見ながらガゼフさんが聞いてくる。

馬鹿正直に答えて良いんだろうか?

でも、誤魔化したところで戦士長なんて偉い立場に就いてる人なら、すぐにバレてしまうしな。

 

 

「八本指ですよ」

 

「……!?」

 

 

短く、だが、はっきりとこっちも答える。

ニニャさんのお姉さんの事はプライベートな話だし、流石に言えないしな。

本来なら部外者である俺が八本指がどうこうなんて言い出したら、遠回しに「あんたらも仕事しろ」と言ってるようで気が引けるけど……。

 

 

「エ・ランテルの英雄殿は、随分と豪気なお人のようだ……だが、余り褒められる事ではないな。迂闊に口を滑らせると、何重もの罠にかけられるのが王都だ……気を付けられた方がよい」

 

「ご安心を、(そんな怖い集団に)余り時間を掛けるつもりもないので。そういう(PK)集団への対処(逃げる事)も慣れていますから」

 

「待…っ…、……連中の……上層部への浸透具合は尋常ではないのだ……ッ!」

 

 

あれ?何か絶句してるな……。

もしかして、言葉を省略しすぎただろうか。何か戦士職の男の人と話すのなんて久しぶりだから、ついたっちさんみたいな感覚で話してしまってたかも知れない。

戦闘中は略して話すのが普通だったからなぁ……これは改めなきゃマズそうだな。

もう少し、分かりやすく言った方が良いだろうか。

 

言い直そうとした時―――――目の奥で派手に火花が散った。

ちょっと待て!待ってくれ!相手が相手だし、ヤバイだろ!

 

 

 

 

 

「諦めたら―――――そこで試合終了ですよ」

 

「な゛っ………」

 

 

 

 

 

おぁぁぁぁ!何て台詞を吐きやがるんだ!

余りの危険球に今度はこっちが絶句する。

 

 

「私だけかね―――――?まだ勝てると思っているのは」

 

「君は……いや、待て!モモンガ殿、貴方は一体、何をしようとしているのだ!?」

 

「そろそろ自分を信じて良い頃だ。今の君はもう、十分あの頃を超えているよ」

 

「………!?俺、は……、……」

 

 

何言ってんだ、この口は!

大体、“あの頃”って今日会ったばっかりだろうが!

 

 

「……俺は、……………」

 

 

何かよく分からんが考え込んでるみたいだし……

今の内に適当に誤魔化して宿屋に入り込んでしまおう!このまま会話を続けてたら、絶対ロクな事にならんぞ!

 

 

「い、行くぞ!ハムスケ!」

 

「殿ー、寝床には藁や草をたっぷりお願いするでござるよー」

 

「あっ、待って下さい!僕も行きます」

 

 

逃げるように案内された宿屋へと駆け込む。

王都へ着いて早々、心臓に悪すぎだろ!

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

呆然と佇むガゼフの背中に、ラキュースが拳を軽くぶつける。

ゴツン、と金属の鎧と篭手がぶつかる無骨な音が響く。

ガゼフはそれに対し、振り返りもせずに弱々しく口を開いた。

 

 

「俺は、気付かぬ内に“傍観者”になっていたのか……?教えてくれ……」

 

「はっきり言えば、そうね。いや、貴方だけじゃない……この国の全てが傍観者だった」

 

「この剣は陛下を守り、陛下に捧げるべきものだ……俺の考えは間違っていたのか?」

 

「さぁね、そんな事は自分で考えたら?私は、私の為すべき事を為すだけ」

 

 

その台詞の後に「愛する人と一緒にね」と付け加え、ラキュースが一人で身悶えする。顔を赤くしたり、首を振ったり、キャァァァ!と叫んだり、実に目まぐるしい。

ガゼフはその醜態すら目に入らないような有様で、腰に佩いている剣を見つめていた。

そして、群集に紛れ、そんな一行を見つめる影もいる……八本指の中でも、特に隠密能力に長けた者達だ。殺気も何も出していないので、流石にラキュースやガゼフであっても気付くのは難しい。

 

 

《あれがエ・ランテルの英雄か……何の強さも感じなかったが》

 

《だが、あの大魔獣はマズイ……危険すぎる。人間が勝てるような存在ではないぞ》

 

《本人は弱いが、魔獣を使役する異常なレベルのタレント持ちと見た》

 

《あの魔獣……六腕の連中ですら危ういと見たが、お前はどう判断した?》

 

《勝てん。勝てる訳がないだろう。論外だ》

 

《それは、“闘鬼”でも……と言う事か?》

 

《相性の問題もある。不死王ならば………あるいは……いや、これも希望的観測に過ぎん》

 

《そうか……。ともあれ、一度報告に戻ろう》

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「同じ部屋に居ると……な、何だか照れますね。モモンガさんっ」

 

「え、えぇ……」

 

 

あれから宿屋へと入り、副官のような人が様々な手続きを取ってくれた。

自分もハムスケを小屋に連れて行って贅沢な寝床を作ったり、取ってくれた部屋で旅塵を落としたりと瞬く間に時間が過ぎていく。

ちなみに、ちゃんと其々個室を取ってくれる事となった。

一通りの整理を済ませ、晩飯はどうしようかと考えていると、ニニャさんが部屋に来たのだ。

 

 

(個室で良かったかもな……)

 

 

男二人だというのに、何故か緊張感とドキドキが凄い……。

仕事で先輩や後輩達と大部屋で寝るなんてザラだった筈だ。

残業で帰れなくなり、会社で雑魚寝した事も数え切れない。だが、何か違う。違う。

 

ベッドに腰掛け、落ち着かない素振りで辺りに視線を漂わせていると、こちらをジッと見つめているニニャさんと視線がぶつかった。

大きくおでこを出した、可愛い顔。とてもじゃないが、男とは思えない。

俺は……もしかして、そっちの気でもあるんだろうか?

ハムスケの背に乗って見られるのも慣れてきたし、Mっ気があるのかと驚愕していたが、まさか……本当にそっちの気まであるというのか。もうペロロンチーノさんを笑えない。

 

落ち着かなくて、ガゼフさんから貰った王都の簡略地図を出して広げる。

地図や記号を見ていれば気も紛れるだろう……うん、そうに違いない。

王都って広いなー、ははっ……。

 

 

「地図……モモンガさん、僕もそっちのベッドに行っても良いですか?」

 

「えっ……」

 

 

その言葉を、拒絶出来ない……もう、視線を外せない。

隣に腰掛けてきたニニャさんの腕が、自分の腕とぶつかる。近い。近い。近い。

それに、柑橘系のレモンのような香り……なんで男の子からこんな香りがするんだよ?!

 

 

「僕、嬉しかったんです……力になりますって言って貰えて……」

 

「と、当然の事ですよ。恩は返すべきものだと私は、」

 

 

そっと、手が重ねられた。

ニニャさんの顔が真っ赤だ……。

ぇ……これマズくないですか。男同士なのに……でも、嫌じゃないな……。

いやいや!そっちの方がマズいですよね!どう考えても!

ニニャさんの縋るような目が自分の胸を撃ち抜く。唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。

 

 

「モモンガさん。僕、モモンガさんの、事が……」

 

「ニ、ニニャさん……!?」

 

 

 

 




これは夢なのか?現実なのか?
暑い真夏の夜、加熱した欲望は遂に危険な領域へと突入する。




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