OVER PRINCE   作:神埼 黒音

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廃墟の果て

「ようやく、落ち着いたわね……」

 

 

ラキュースの言葉に、蒼の薔薇のメンバー達が頷く。

イビルアイとニニャが連れてきた女性の治療や介抱で、先程まで大騒ぎとなっていたのだ。

体を清め、スクロールを使って治癒し、意識が戻った途端に狂乱しだした女性を押さえ……今は《睡眠/スリープ》の魔法をニニャと女性にかけて、隣室で休ませている。

 

今は起きているより、眠っていた方が良いだろうと判断したのだ。

体は治癒出来ても、辛い記憶は消えたりはしない。

だが、それでも、緩やかに時間が……それを忘れさせてくれる事もある。

 

 

「やはり、踏み込むべきだったのね……私の判断ミスだった」

 

 

ラキュースがそう呟いたが、それには誰も頷かない。

これまでも散々、考え抜いて「襲撃しても無意味」「デメリットの方が大きい」と一段高い、戦略的な視点から判断し、八本指の別部門を叩いていたのだから。

 

王国という全体像で見れば、追い詰めに追い詰め、縮小され尽くした売春部門の優先度は低くなり、一番危険で、八本指の潤沢な運営資金となっている麻薬部門を叩くのは当然でもあった。

単純に後になるか先になるか、という話ではない。

 

 

「後悔なんぞ後だ。俺ぁ、今からでも踏み込むべきだと思う」

 

 

ガガーランが、目を真っ赤にして言う。

人一倍、情に厚い女だ。ツアレと聞かされた女性の状態を見て激憤しているに違いない。

 

 

「踏み込むには、準備が要る」

 

「あそこを潰せば、愛用してる貴族連中が黙っていない」

 

 

忍者二人は冷静である。

イジャニーヤという忍びの集団に居ただけあって、酸いも甘いも知り尽くした二人だ。

ツアレの境遇に同情はしても、それに流されはしない。

 

 

「踏み込む必要は―――無い」

 

 

イビルアイの言葉に、全員が振り返る。

椅子に座り、何かを考え込んでいた様子だったが、異様に静かだったのだ。

 

 

「イビルアイよぉ、そりゃどういう意味で言ってんだ?」

 

 

ガガーランが怒気を篭めながら言う。彼女が仲間に対し、こんな態度を取るなど珍しい事だ。

隣に居るラキュースも、鋭い視線をイビルアイに向けている。

 

 

「既に、モモンガが踏み込んでいる。恐らく、今頃はもう………」

 

「おいおい!おめぇはあの王子に、一人で行かせたってのか!?あそこにゃ、何人の男が詰めているか知ってる筈だろ!六腕の連中だって定期的に見回りにきてる場所だろうがッ!」

 

「誰が居ようが一緒さ。ラキュース、王城へ行ってラナーに伝えろ―――――娼館に居る人間は《死滅》した、とな。それと、今から戒厳令を敷くように、と。無差別な市街戦になるぞ」

 

 

イビルアイの言葉に全員が目を剥く。

今の台詞に、何箇所も突っ込み所があったからだ。

 

 

死滅?

戒厳令?

市街戦?

 

 

「イビルアイよぉ、一体、何の話をしてんだ?俺っちにも分かるように説明してくれ」

 

「イビルアイ、ガガーランには三行で説明するべき」

 

 

ガガーランとティアから苦情が上がり、イビルアイが多少の説明を始める。

 

 

・モモンガが踏み込んだ

・娼館の従業員は全員死ぬ

・自動的に八本指と戦争開始

 

 

「レッスン1、終わりだ。理解したか?あの男は随分と怒り狂っていたのでな……もう、今頃は誰も生きていないだろうよ。たった一撃を見ただけだが、あの男は強い」

 

イビルアイの最後の言葉に、全員が少し驚く。

彼女が、誰かの強さを認めるなど珍しい事だ。いや、皆無と言って良い。自らの圧倒的な強さを堂々と自負し、それを強い誇りとして生きているのをメンバー達はよく知っている。

 

 

「姫さんに伝えるって言ってもよぉ……ラキュース、どうせ貴族連中は動かねぇんだろう?」

 

「そうね……せめて戦士長に伝えはするけど、彼も動けるかどうかは分からないわ。むしろ、騒ぎになるなら王城へ詰めて、警護しなければならない立場だもの」

 

「やっぱり、ガゼフ無能」

 

「違法ではないが、不適切」

 

 

全員が言いたい放題だ。特に忍者二人。

メンバー達が思い思いの事を口にする中、イビルアイが席を立つ。

それを抜け目無く、ティアが見ていた。

 

 

「ラキュース、後を頼む。私は娼館の片付けに行ってくる」

 

「イビルアイ、モモンガは私が迎えに行く」

 

「ティア……これは遊びじゃないんだ」

 

「遊びとは心外。私はモモンガの事に関する限り、常に真剣」

 

「なら、余計に今はそっとしといてやれ。今の姿は、余り知り合いに見られたくはないだろうよ。私のような……《赤の他人》が一番良い」

 

 

その、吐き捨てるように言った言葉には妙な重みがあり、ティアが思わず身を引く。

ラキュースもそれを皮切りに、大きく手を叩いて全員に指示を出し始めた。こうなった時の蒼の薔薇の行動は素早く、迷いがない。

 

 

「ティア、冒険者組合に行って八本指が王都で暴れる可能性があると伝えて。ティナはそれに駆り出される冒険者への指示をお願い。ガガーランはここで二人の傍に付いていてあげて。私は王城へ行って、出来る限りの話を伝えてくる」

 

「「「了解」」」

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

(濃厚な、死の気配………)

 

 

イビルアイが先程の娼館へ転移すると、途端、血の匂いが鼻についた。

いつもなら野次馬として出てくるであろう、暗黒街の住人もまるで息を潜めるようにして、気配を殺している。聡明な者は既にこの辺りから逃げ出したようだ。

 

裏口を見ると、先程まで外敵を拒むようにして存在していた、分厚い鉄の扉が消滅している。

中を見ると、広がる一面の赤が目に入った。

鉄の扉も、その中で所在なさげに人を押し潰しながら壁にもたれ掛かっている。

 

 

(赤、赤、赤、血……骨、肉、臓物………)

 

 

まるで何処かで見たような光景に吐き気がした。

この赤は、良くない。

良くない、ものだ。

 

中に踏み込むと、もう一階の部分には生きている《生命》を感じなかった。

死体の中には、派手な服を着たコッコドールの死体らしきものもある。上半身は弾け飛んだのか、残っているのは下半身だけであり、豪華なズボンと靴だけが、彼の名残を残していた。

 

 

(サキュロント……)

 

 

要注意人物として、頭に入れていた六腕の一人。その死体もあった。

右手首が落され、首は何処に行ったのか見当たらない。

ホラーを主体としたオペラでもここまで酷い演出はしないだろう。

掻き分けても掻き分けても、死体と死体の間に、また死体があり、死体がある。

まるで邪教を信じる集団が魔術の生贄にでも使ったかのような惨状だ。自分はまだしも、やはり、ここには仲間を連れてこなくて良かったと思う。

 

 

(下か……)

 

 

何かで覆い隠していたのであろう、隠し階段が開いている。

下から微かに聞こえる声と呼吸、幾つかの気配。

常人なら降りるのを躊躇うであろう一歩。それを覚悟を決めて踏み出す。

その先に待っている光景を、何処かで予想しながら。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

真っ先に目についたのは、男に馬乗りになって狂ったように殴っている女。

その隣では小さいナイフを持って、もう死んでいるであろう男の顔に何度もナイフを差し込んでいる女。髪を振り乱しながら、狂ったような笑い声を上げている姿は、自分であっても直視しかねるものがある。

 

膝を抱え込んで石のように固まっている女も居れば、何かの呪詛を吐きながら壁を引っ掻き回している女もいた。もう、精神が完全に壊れてしまっているのだろう。

彼女らの足元に転がっているのは、幾つかのポーションと思われる空瓶。

 

 

(モモンガが、与えたのか……)

 

 

ほんの少し、希望が出た。

今も怒り狂った状態なら最悪、殺し合いになると思っていたのだ。

仲間を連れて来なくて良かった。改めてそう思う。

多少は落ち着いているなら、余計に知り合いには見られたくない姿であろうし、惨状だ。あの一種の堅物達からあれ程に愛され、信頼された男だ……彼女たちには、こんな光景を見せるべきではない。

 

ぼんやりとした明かりが漏れている部屋を覗くと、そこには木箱に座ったモモンガがいた。

着ていたローブは脱がれており、横に打ち捨てられている。

恐らくは《汚れた》為に、着ているのが嫌になったのだろう。その顔は噂で聞いた通り、恐ろしい程に整っていた。これなら、王子などと呼ばれるのも無理はない。

 

 

「………で、気は晴れたか?」

 

「いえ、残念な事に……むしろ胸は塞がっていますよ」

 

「だろうな。私もそうだった」

 

「へぇ、似たような経験があるんですね」

 

 

その言葉には答えず、自分も部屋の中に入る。

動物の脂肪を使った、原始的なランプで照らされている部屋だ。この金のかかった館に、こんな物が置いてあるという事は《敢えて》置いてあるのであろう。

何らかの雰囲気……重く、苦しい、暗い、そんな空間を演出する為に。

 

 

「………大勢、殺しちゃいまして」

 

「だろうな。ここに来るまでに存分に見せて貰った」

 

「牢屋入りですかね。それとも、縛り首ですか?」

 

「厳密に言えば、ここは存在しない事になっている。存在しない場所で起きた事に、罪などない」

 

「へぇ、そんな屁理屈が罷り通るんですか?」

 

「法が無言であっても、八本指は必ず報復手段を取ってくるさ。牢屋に入ろうが安全ではない」

 

 

八本指に歯向かった者が牢屋に入ろうが、その先の牢屋で必ず殺される。

看守や、囚人の中に彼らと通じている者が山程居るからだ。八本指の人間にとって、牢屋は鉄壁の檻でもなければ、何でもなく、監視の為に敢えて牢の中に入っている者も居るくらいだ。

 

 

「……怒るって、とても疲れるんですね。それに、何だか虚しいですし」

 

 

辺りには死体と狂人しか存在せず、その中で一人、座り込んでいるモモンガの姿に胸が痛む。

この光景は、かつての自分を思い出させる、辛い風景だった。

 

 

「ははっ、自分のような人間に怒る資格なんてあったんでしょうかね。それも、こんな大勢の人を容赦なく殺しちゃって……あぁ、リアルだと大量殺人鬼だなぁ。ニュースに乗っちゃいますね」

 

「何を言ってるのかよく分からんが、お前のした事は別に間違ってはいないさ」

 

 

事実、ここに居る連中は千回殺されても文句は言えない外道どもだ。

自分が踏み込んでいても、似たような状況にはなっただろう。まして、ラキュースやガガーランが踏み込んでいたら、怒り狂ってどうなっていたか分からない。

 

 

「お前のするべき事は一つだ。ここから動く状況に対し、責任を取る事。それだけだ」

 

「責任、ですか……ははっ、大量殺人鬼が取る責任ってなんですか。もっと殺せとでも?」

 

「端的に言えば、そうなる。ここまでの事を仕出かしたんだ。八本指は面子の為にも、その総力を挙げて襲ってくるだろう……この戦いは、我々と八本指のどちらかが滅ぶまで続く」

 

「まるで恨みの連鎖、ですね……”燃え上がる三眼”の時も相手が死滅するまで、だったもんなぁ。そう考えると、あははっ、何処の世界でもやってる事は同じなのかも知れませんね」

 

 

―――パン!と、殺風景な部屋に乾いた音が鳴る。

 

 

木箱に座り、何か遠いものでも語っているようなモモンガの頬をイビルアイが叩いたのだ。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「現実逃避はそこまでにしろ。今話しているのは過去じゃなく、これからの事だ」

 

 

頬を叩かれる、という衝撃に頭の中が真っ白になる。

何処か虚ろだった世界が、急速に色彩を取り戻していく。

 

 

(ビンタされた……?女の子に……?)

 

 

そして頭に浮かぶのは、こんな時ですら―――――1つの事。

 

 

(そうか、“攻撃”じゃないんだ………)

 

 

これが攻撃であったなら、スキルによって防がれていた筈だ。

なら、今の行為は純粋に自分に向けられたもの。それが叱咤なのか、怒りなのか、心配なのか、呆れなのか、何なのかは分からない。でも、それは純粋に自分に向けられた“激しい感情”だ。

 

こんなのをぶつけられたのは、一体いつ振りだろうか。

いや、生まれて初めてかも知れない。

 

 

「辛いのは分かるが、立ち直れ。私もそうした……お前にだって出来る」

 

 

そう言って、イビルアイさんが自分の頭に両手を伸ばし、その胸元に引き寄せた。

赤いローブと、黒いシャツ、小さな胸、凄く良い香り。

色んな事が頭に浮かび、今度は別の意味で頭が真っ白になった。

 

 

「お前は私の信頼する仲間達から随分と愛され、心配されている……そんな良い男が、いつまでも呆けているな。凛々しい姿を、またあいつらに見せてやれ」

 

 

その言葉に赤面する。

ちょ、ちょっと待って欲しい……こんな風に女の子から包まれるとか、何か、もう……。

優しく撫でられる手付きと、胸に顔を埋めている状況に心臓がバクバクと高鳴る。

あぁぁぁ……何だこれ……この感情はなんだ……。

気付けば無意識に両手を伸ばし、自分も彼女の体を抱き締めていた。

ダメだ、何か泣きそうだ……。

 

 

「冷静かと思いきや、子供のようになったり、手に負えなかったり、何かこう、お前は私が今までに感じた事のない気持ちを湧き起こしてくれるな。これが”母性本能”というやつなのか」

 

「どう考えても、()の方が年上だと思うんですけど……」

 

「残念、私は250歳でな。お前の方が年上という事はありえんよ」

 

「250歳って、からかってるんですか……」

 

「……お前ほど《仲間》に信頼されているなら、構わんか。後から苦情を言われても困るしな」

 

 

そう言って、彼女が仮面を取る。

そこにあるのは、綺麗としか言いようがない少女の顔と、流れるような金の髪。

彼女の顔はとても美しく、その背丈に見合った可愛らしいものであった。

それに、心の奥底を見透かすような赤い宝石のような眼。

 

 

「何だ、驚かんのだな。下手をしたら殺し合いになるかとも思っていたんだが……まさかとは思うが、南方では吸血種が溢れているなんて事はないだろうな」

 

「ヴァンパイアですか?確かに見慣れてはいますが……それがどうしたんです?」

 

「う、うん……?いや、まぁ、慣れ?ているのなら良い、のか……?」

 

 

何だか離れがたく、眼だけを上へ向けて言った。

吸血種どころか、ゴーレムやらアンデッドやら、ナザリックは異形種の一大デパートだったしな。

正直、今更どんな種族を見ても驚かない自信がある。

 

 

「………で、モモンガ。そろそろ離れても良いんじゃないのか?」

 

「嫌です」

 

「ぁ、あのな………」

 

 

正直、離れがたいと言うのもあるが、いま対面で話をするのは辛すぎる。

小さな体に、細い腕。

俺は、こんな小さな子を相手に不貞腐れて、まるで子供のように感情を爆発させていたのだ……。

それも、最後には平手打ちのオマケ付きである。

 

 

(ぐっ……ぁ……は、恥ずかしすぎる………)

 

 

とてもじゃないが、まともに顔を見れん。

出来うる事なら、このままの体勢で顔を見られないまま会話をしたい。それに、誰かにこんな風に包んで貰いながら会話するなんて、これまでに一度も無かった事だし……。

 

 

(え”っ……ま、まさか……俺は、彼女の事を……)

 

 

そこまで考え、頭に血が昇った。待て待て!

どう考えても、この子は子供だぞ?!

吸血種とか250歳とか言ってるけど、正直全然ピンと来ないし……

 

アニメやラノベとかで「ロリBBA」みたいなキャラも居たけど、あんなの見た目が子供だから子供じゃん!って素直に思ってたし……。

 

 

「なぁ、モモンガ。私は長く生きている所為か、多くの仲間を失ってきてな」

 

「は、はぁ………」

 

 

突然始まった話に、ドキリとする。

変な事を考えていた所為か、心臓に悪いんですが……。

 

 

「その中には、時に英雄と呼ばれる存在もいたが、それでも、いつかは別れが来る」

 

「それは、そうかも知れませんが………」

 

 

究極の話、自分だって、誰だって、そりゃいつかは死ぬ。

そうなれば強制的に、別れだって来るだろう。

それが寿命なのか、病気なのか、戦闘によってなのか、理由は幾つもあるだろうが……。

だが、自分は別れなんて経験したくない……心が耐え切れないからだ。

こういうのが彼女の言う、”子供”な所なんだろうな……。

 

 

「モモンガ、お前はとても強い力を持っている……だが、何の制御もないその力は、危険だ。お前は私のように、孤独にはなるな。お前は私と違って、大勢の人に愛される“人間”なのだから」

 

 

優しく撫でられながら言われたその言葉に―――遂に防壁が崩れる。

これまでずっと、何重にも、何百重にも自分を堅い殻で覆ってきた。

だけど、もう。これは、ダメだ。

何年もの乾いた日々と、リアルの孤独な日常、たった一人で放り込まれた異世界で。

彼女は、彼女が……自分の防壁を、粉々にしてしまった。

 

 

「ん”ん……上手く言えんが、その、まぁモモンガ、お前はだな、私を反面教師にして、」

 

「………とる」

 

「ん?」

 

「……………鈴木悟。俺の名前、です」

 

「えっ……」

 

 

自分の言葉に、彼女が動揺した声を上げる。

無理もないか、いきなりこんな事を言われても意味が分からないに違いない。でも、自分は言いたかったのだ。ここはもう、ゲームじゃない。ユグドラシルじゃ、ない。

 

 

―――――彼女の前では、もう、「モモンガ」で居られそうもない。

 

 

何故か、泣きたいような気持ちでそう想った。

上手く言えないけれど……これは、嬉しいのだろう。自分は今、確かに嬉しさを感じている。

彼女に取っては、迷惑な事かも知れないけれど。

 

 

「フン……よく分からんが、お前にとっては大切な事だったのだろうな」

 

「自分の、勝手な自己満足ですから。言っておいてなんですけど、気にしないで下さい」

 

 

何故だろう、酷く気分が晴れやかだ。

心を覆っていた暗い雲が晴れ、静かな夜に満天の星が静かに佇んでいるような気配。

この世界に来てから、いや、リアルでもこんな気分になった事はない。

 

 

 

 

 

―――キーノ・ファスリス・インベルン

 

 

 

 

 

「えっ」

 

「………わ、私の、名だ。お返しと言う訳ではないが、その、人前で呼ぶのは禁止だからな!」

 

 

 

彼女がそっぽを向き、見た目通りの子供のような態度を取って。

それを見て、俺も笑う。

彼女は、どんな孤独を過ごしてきたのだろう。

―――250年。

それはきっと、自分よりも重いものだ。

 

出来うる事なら、いつか、自分の話も聞いて欲しい。

大勢の仲間達の事を。

そして、仲間達と作り上げた、大墳墓の事を。NPC達を。

数々の、大冒険を。

 

 

 

 

 

「…………行くぞ、悟」

 

「自分の名前も、人前では呼ばないで下さいね?」

 

「ん”……な、何だそれは、私に対抗したつもりかっ!」

 

 

その言葉に思わず笑い、それを見たキーノが怒ったように目を細め、諦めたように笑う。

辺りは死体だらけで。

一面、真っ赤で。

部屋の向こうからは、狂ってしまった女性が叫んでいる。

 

まるで、この世の果てのような状況で。

ただ、世界には自分と彼女の―――――二人だけが居た。

 

 

 

 




悟君とキーノちゃん。
原作では数奇な運命を辿りそうな彼女ですが、
今作ではシュガールート一直線です。



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