壺中天の歴史   作:黄色背負蜘蛛

1 / 2
1,古代上

 地球に住まう私のある友人から、魔法世界の歴史に多くの影響を与えながらその歴史認識について外部に知られていない壺中天のそれを知りたいので、使える資料はないかと頼まれた。そのため私は壺中天で一般的な歴史の教科書を日本語に抄訳することにした。ところが、これが噂となったのか多くの人からこれを見せてくれと頼まれるようになった。そのためここでその抄訳を公開することにする。

 

0人類の誕生

要約:人類はアフリカで猿から進化して生まれた。

 

1古代

1,1魔法世界の成立まで

1,1,1魔法世界成立以前

 壺中天の前身であるアルタニオナス家は魔法世界の成立したそのときすでに25代600年もの歴史を持っていたと記録されている。アルタニオナス家はネクロマンシーや異界展開の魔法を良く操っており、その相続法は末子相続であった。ただし近年の資料の分析から7代目と8代目、16代目と17代目の相続は実際には師匠-弟子関係であったのを後から親子関係であったかのように書き換えたのだと言う説が有力となっている。

 

1,1,2魔法世界の成立と論功行賞

 今から2700年前、26代目の当主のアルディルのころ。いわゆる"造物主"が中心となって、魔法世界の建設が行われた、アルタニオナス家は異界展開の魔法を良く扱ったのでこれに参加した。

 

 魔法世界の成立後、ウェスペルタティア帝国(訳注1)(古王朝)が建国され、、魔法世界全体を領域とした。古王朝はこの時代魔法世界唯一の国家であり、その後700年弱ほど続くことになる。魔法世界の成立に伴い、当時地球に住んでいる魔法使いの大半が魔法世界に移住した。

 

 そして魔法世界の成立に関する論功行賞が行われることとなった。アルタニオナス家は魔法世界そのものの成立の術式やその他の功から第一位とされたが、魔法世界の土地を求めず、財宝か権力を求めた。というのも、アルタニオナス家は長く魔法壺(注1)に住んでいたが、彼らにとってみれば魔法世界というのはいわば超巨大なだけの魔法壺であり、そうであるのならば自分用の魔法壺を自作する方がよいと考えたからだと言われている。

 当時のウェスペルタティア帝国には財宝がなかったのでアルタニオナス家には莫大な権力が与えられ、さらに地球‐魔法世界間の交通を取り仕切る権利が与えられた。

 

 訳注1;日本語の文献では王国と翻訳されることが多いが、壺中天の歴史家の流儀では帝国と訳されるのでそう訳した。

 

 注1;ダイオラマ魔法球の前駆的なもの。壺の形をしている。漢字文化圏ではダイオラマ魔法球も含めて壺中天と呼ばれることもある。

 

1,1,3最初期の人口増大

 魔法世界の成立前の抗争の時点でアルタニオナス家の顕著な欠点としてマンパワーの低さが挙げられていた。アルタニオナス家は長い歴史を持っていたものの死霊術死の家系であったため、譜代の死体や死霊を持っていたものの譜代の家臣といえるようなものはほとんどいなかった。また魔法世界の成立後アルタニオナス家は多くの権力を得たもののそれを維持するために必要な人材なども不足していた。しかしながら古王朝の派閥力学が一家で圧倒的に優勢なアルタニオナス家対反アルタニオナス派となったため外部から人材を供給するのも困難になった。

 

 そのため魔法世界の成立以前よりアルタニオナス家は信用できるマンパワーの増大を考えるようになった。そこで目をつけられたのが異界展開の魔法の変法の一つである時間流の加速であった。アルタニオナス家は時間流を数十倍に加速した魔法壺を作成し、その中で生殖や教育をおこなって人口を大きく増やした。彼らはアルタニオナス家の属人達と呼ばれた。属人達はすべてアルディルの子孫であるとされており、このことが彼らの忠誠心を保証していた。

 

 魔法世界の成立後もこの活動は続けられた。しかし、この人口増大法は他の諸侯にとってみれば不気味なことこの上ないものだった、また属人達の高い(アルタニオナス本家への)忠誠心とその質・量はほかの諸侯に警戒を与え、結果アルタニオナス家対反アルタニオナス派という構図をかえって強化した。

 

1,2古王朝前期のアルタニオナス家

1,2,1最初期の対立

 王国の祭祀を取り仕切り、また王家の財産を管理する権力を得たアルディルだったが、その前途は多難であった。多くの役職がアルタニオナス家の属人達によって占められた状態は、それだけでアルタニオナス家をNo2としては大きすぎる勢力にしていた。このことはそれだけで王国内の権力闘争にアルタニオナス派対反アルタニオナス派という構図を生み出した。

 

 また、アルタニオナス家が死霊術師であったことも悪影響を与えていた。死霊術師の視点から見れば死亡した優秀な人間の魂を死霊術によってとらえないでおくのは非常にもったいないことに思えた。しかしながら魔法世界成立直前の混乱期なら、死亡した戦士その場で即座に死霊術によって屍兵として復活させ戦闘を継続するのは喜ばれる行為だったが、安定期に入った魔法世界で、優秀な人間が死亡するなり押しかけていって死体を死霊術の材料にさせてくださいと頼みに行くのはひどく不気味で、権力者にふさわしからぬ行動だった。

 

 最初のころは、"造物主"がまだ生きていたため対立は表面化しなかった。造物主には年長の長女と年少の長男がいた息子の嫁はアルタニオナス家の人間だった。反アルタニオナス派は息子が王になればいよいよ手が付けられなくなるぞと考えて娘を王にしようとした。その結果ウェスペルタティア王国の継承法は男女両系長子相続になった。

 

1,2,2大粛清

 "造物主"の死期が近づくと反アルタニオナス派はクーデターを画策するようになった。しかし実際に"造物主"が死亡するとアルタニオナス家は死亡を発表する前にカウンタークーデターを起こした、しかし、反アルタニオナス派もこの日のために準備をしていたため、オスティアでは大規模な市街戦が発生した。結果反アルタニオナス派の有力人物は大半が死亡したが、アルタニオナス家の主要人物はこのとき地球に避難していたため事なきを得た。同時に"造物主"の長男と長女も死亡した、そのためアルタニオナス家は"造物主"の次女を王に立てた、これがアマテルである。"造物主"が死亡したのも反アルタニオナス派が原因であると公式には報道された。

 

 この事件(オスティア市街戦*注2)の後数十年間にわたって反アルタニオナス派の残党に執拗な追跡が行われた、またこの他にもアルタニオナス家の権勢を脅かしうるような知識人もまた粛清された。これらの粛清の結果、魔法世界における地球に関する知識のほとんどは失伝し、地球の存在は魔法世界においてアルタニオナス家のみが知ることになった。

 

 注2:オスティアの戦い/市街戦と呼ばれるものは多数あるがこれはその最初のもの。最初オスティアは巨大な浮遊した一枚岩だった。しかしながら多くの戦いの末、無数の破片に分かれ現在のような景観となった。

 

1,2,3宗教の統制

 大粛清がひと段落するとアルタニオナス家は新たに最高神祇官という役職を作って魔法世界の宗教を組織化した。この宗教には魔法世界全土の文化を統制し統一化する、教会組織を諜報機関の草として利用する、王国の権力を正当化する等の目的があった。

 これに伴って"造物主"の神格化が行われ主神扱いとなった。この教会組織の神官はその全員がアルタニオナス家の属人達によって占められており、この独占は現在まで続いている。

 この宗教はその端緒から権力の要請に基づいたものだったため独特の神学が発展した。その一方で表面的には首尾一貫した宗教だったので古王朝のうちに魔法世界の全土に広がることとなった。

 

1,2,4同時期の地球と再移住活動

 当時、魔法世界が成立した後の地球では技術を持った魔法使いのほとんどが魔法世界に移住した結果、魔法技術の多くが失伝し、地球の魔法文明は崩壊していた。また水準以上の魔法使いのほとんどが魔法世界に移住したため、地球土着(訳注2)の魔法使いの魔法力の平均は魔法世界のそれと比べて大きく劣るようになった。これは現在でも見られることである。

 

 大粛清の時、アルタニオナス家は魔法世界のゲートポートに兵力を結集して地球に転移させ、地球上で別のゲートポートに移動させ魔法世界に再移動させるという戦法で魔法世界における兵力移動を遮断する戦法をとったことがあった。この戦法は相当に有効だったのでアルタニオナス家は地球に拠点を築き、入植するようになった。また、大粛清の結果、魔法世界で地球に関する知識が失われたため、地球への再移住活動はさらに加速した。

 

 このとき地球の魔法使いで優秀な魔法力を持ったもの見つけると彼らを自分たちにスカウトしたりもしたため、地球土着の魔法使いの魔法力はさらに低下した。この時期、地球土着の魔法使いの一部のものは彼らのよりも洗練された魔法を操る再移住者の影響を受けたため、この時代に由来する地球土着の魔法の一部にはアルタニオナス家のそれの影響がみられる。

 

 訳注2:地球土着という言葉は字義どうりに解釈できる言葉ではなく魔法史の専門用語なので注意すること。

 

1,2,5二頭体制の成立

 最高神祇官の成立によってアルタニオナス家は魔法世界のあらゆる側面に権力を及ぼすようになった。しかしながら教団組織は非常に巨大でありまたアルタニオナス家のほかの部門に対する独立性も高かったため当主一人がすべての権力を握るのは困難になっていった。

 そこで、古王朝が成立してから6代目の当主のイシルモンは当主の権限を二つに分けた。弟のナルドゥアには教団組織の権力を、兄のミナスティオンには古王朝の政治的な役職や地球における財産の管理等のその他の権力を与えた。この後、ミナスティオンの子孫は兄系アルタニオナス家、ナルドゥアの子孫は弟系アルタニオナス家と呼ばれるようになった。この二家は後の時代にはアルタニオナス家を二つに割るようになったが当初は兄系優位の二頭体制であった。(訳注3)

 

 訳注3:かつての歴史観では、大帰還に伴う壺中天の形式的な成立に対して、この兄系と弟系の分裂をもってして壺中天とナルドゥリオナス人が分裂し、壺中天が実質的に成立したとする見方が強かった。しかし、近年の見方ではこの当時の壺中天は5(7とする流儀もある)つの部門に分かれており、それらの間での人口流動も多かったため前述の見方は時期尚早とされている。




解説
翻訳云々
 原作との矛盾の指摘は歓迎しますが、本SSの形式の関係上一部の矛盾点は壺中天の歴史認識によるという設定からわざとそうした物もあります。

"造物主"
 原作でほかの呼び方が示されてないのでここでもそう呼ぶことにします。

財宝か権力か
 このとき借金してでも金を払っていればどうなったことやら。
 いや、金を払うために魔法世界人が地球により大々的に略奪しにきそうな気がする。

当時地球に住んでいる魔法使いの大半が魔法世界に移住した
 魔法世界には明らかに中国的な地名があるので当時の中国人(周?)も魔法世界に移住したのでしょう。

一般の日本語の文献では王国と翻訳されるが、壺中天の歴史家の流儀では帝国と訳されるのでそう訳した
 歴史業界ではよくあることです。

最初期の人口増大
 魔法世界が火星に建設された超巨大ダイオラマ魔法球だとすると逆に、ダイオラマ魔法球内で生まれた人間が地球で再実体化できないという問題が考えられます。この場合はダイオラマ魔法球内の物質をすべて地球由来のものとする方法で解決可能と考えます。

男女両系長子相続
 原作ではアリカが女王となっていたのでその背景を考えてみました。魔法世界では魔法で物理的性差を相当覆せると思うので、もともと社会的性差が小さいのかもしれませんが。

大粛清
 強すぎるNo2を排除しようとして逆に乗っ取られる。
 実際にはソ連のそれよりも秦の焚書坑儒に近いかもしれない。やりすぎかもしれませんがアルタニオナス家には忠誠心あふれる実働部隊がいますし、魔法世界には国が一つしかなく外敵を考える必要がないので多少の行き過ぎは深刻な問題にならないと思います。
 また原作で地球の存在がおとぎ話扱いされていた理由も考えてみました。

オスティアの戦い/市街戦
 きっとオスティアではクーデターや市街戦が日常茶飯事なのでしょう。

魔法技術、魔法力
 本SSでは魔法力は先天的な魔力量や魔法を操る能力、魔法技術は洗練された魔法などを表すことにします。また、壺中天の視点から見た場合は東洋呪術は単なる系統が違う魔法の一種で広義の魔法使いに含まれるものとします。

地球では…失伝云々
 原作の描写からこのような設定を追加しても問題ないと思います。この作品で描いたような形で魔法世界が成立したのだとすると、むしろこのような現象に言及しないのは不自然だと思います。

続く
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。