METAL GEAR SOLID MILLION MONKEYS 作:竜田揚げ丸
未だに読んでいただいている方には感謝しかありません。
act11、お楽しみください。
「取りあえずピポトロン達は何とかなったが…これからどうするつもりだ?」
ピポトロン達が去った後、俺はハルカに話しかける。
ピポサル達の穴がある作戦ならばともかく、ピポトロン達の策は最早サルゲッチャーであっても危険だと判断したからだ。
「確かに俺達にはこれ以上お前の親父さんに関する情報はなく、奴が…ピポトロンJが寄越してきた手がかりしかない。
ここまでなんとかなってきたが、この先に進めば命はないかもしれない」
いくら彼女がサルゲッチャーかつハイテクオリンピアの初代チャンプであるとはいえ、試合と実戦は違う。
ハルカの表情を見つつ、俺は更に続ける。
「俺は任務の関係でこういうことには慣れている。
今ここでお前が大人しく家に戻ったとしても、こうなった以上はお前の親父さんは俺が必ず助け出す。…それでもお前はここに残るか?」
ハルカは少し困惑していたようで、不安な表情を見せる。
しかし一瞬目を伏せて逡巡したかと思うと、次に見せた瞳は決意に満ちていた。
「…私は残って、戦います。どんなに危険でも、私にとってたった一人の大切なお父さんだから。
もしもスネークさんが帰れって言っても、私は諦めません。
絶対に、私の手でお父さんを助けます」
それが私のやるべきことだから。そうハルカは言葉を締める。
この目をした人間にはこの手の説得は通用しないということを、俺はモセスのあの事件で学んだ。
「…わかった。だが、ついてくるなら常に注意しろ。可能な限り俺はお前をサポートするが、間に合わない可能性もある。
月並みな言葉だが、お前の親父さんを助けたとしてもお前が無事じゃなければ話にならん」
その言葉にハルカは驚いたのか一瞬目を見開いたかと思うと、少し苦笑した。
「…どうした?」
「…いえ、なんというか。普通の軍人さん、というか大人の人だったら絶対に帰れって言うのに、スネークさんはそんなこと言わないんだなぁって思って」
「…普通の大人じゃなくて悪かったな」
「あ、いえ…そうじゃなくて…ええと…」
言い訳に苦慮するハルカを横目に、ため息混じりに俺はオタコンを呼び出す。
これまでの情報の整理と今後の動き方について相談するためだ。
『ピポトロンJがそんなことを…。なるほど、話はわかったよ。これからデータがアップロードされた端末を探しに?』
「あぁ。そうなるな」
『そうか…。でも、アテはあるのかい?』
「いや、無い」
『まさか…端末を一つ一つ虱潰しに調べに行くとか言うつもりじゃないだろうね?』
「他に何が手があるのか?」
『話によるとデータはアップロードされているんだろう?だったら戦艦内にデータアップロード用のサーバーがあるはずだ。
そのサーバー自体を調べてアップロードされたデータを調べた方が早いな』
「だがピポトロンクラックが居る以上、お前がハッキングする訳にもいかないだろう」
俺がそう言った瞬間、オタコンはなにかを考えこんでいるようで黙り込む。
そうして数秒、オタコンは徐ろに口を開く。
『ナスターシャ。今もそこにミスタートモウキ達は居るかい?』
オタコンが突如としてナスターシャに連絡を声をかける。
その直後、ナスターシャは若干疲労を漂わせた声を出しながら応答してくる。
『居るが…どうしたんだオタコン』
その応答の態度にずっと通信をモニターしていたらしい大佐が通信に割り込んでくる。
『どうしたんだナスターシャ…。まさか負傷でもしたのか!?』
そんな大佐の様子に自嘲気味にナスターシャはふっと笑い応答する。
『いや、負傷はしていない。が、先程までピポソルジャーの連中に囲まれてな。サルゲッチャーの諸君に何とか追い払ってもらったところなんだ。…本来大人が守るべき子供たちに助けられるとは、自分が情けない…』
「なら、次が無いように俺たちがさっさと終わらせるしかないな。ハルカを連れながら言う事ではないかもしれないが…」
『…そうだな。スネークの言うとおりだ、ナスターシャ。彼らにあまり負担をかけないためにも、君の力を貸してくれ』
『…あぁ、そうだな…。ここで自分の無力を呪っていたって仕方がない。私は私のやれることを全うさせてもらうよ。…トモウキ達だな?呼んでくる』
そう言ってナスターシャが席を立ち、トモウキとアキエを呼んでいた。
少し静かになったかと思えば、大きな声でトモウキが応答してくる。
『お困りのようだね、オタコン君!うんうん、その状況でよく私を頼ってくれた!私を呼ぶ声あらばこのトモウキ、我が全身全霊をもって誠心誠意働かせてもらおう!さぁ、一体何をしたらいいのかね!?この私のIQ1300の頭脳に是非とも指示してみたまえ!さぁ、さぁ、さあぁ!!』
そのやたらと大きな声で一息も入れずに行ったマシンガントークに俺は通信をしている端末を離したくなった。
気圧されているのは呼び出した張本人のオタコンも同じのようでマイクから遠い位置に顔があるのか少し聞きとり辛かったが、
『なんでこの人いつもが声こんなに大きいんだ…?』
と呟くのが聞こえた。
そんなオタコンにトモウキに変わってアキエが応対する。
『ごめんなさいねぇ。トモウキくんには私からきつーく言っておくから。それよりも私達に何か用があったんじゃない?』
『あ、えぇと。まずはそちらにパソコンはあるかお聞きしたくて』
『パソコン…?えぇ、研究用のノートが私の分とトモウキくんの分がそれぞれ1台ずつ』
その情報に加えてナスターシャが更に補足をしてくる。
『加えて、今避難してる場所のデスクトップが数十台ある』
デスクトップが数十台。
ナスターシャは今キャンパスにでも避難しながらこの無線を行っているのだろうか。
そんなことを考えながら聞いていると、
『スペックはわかるかな。ネットワークはどうだい?』
とオタコンは呼びかける。
少し待っていてくれ、とナスターシャの声が遠くなっていくと同時に俺はオタコンにどうするつもりなのかを聞いてみることにした。
「オタコン、そろそろ聞かせてくれ。どうするつもりだ?」
『うん?あぁ、そういえばまだ言ってなかったっけ。こっちから仕掛けようかなと思って』
『仕掛ける…?エメリッヒ博士、すまないが我々に君の考えを聞かせてもらえないだろうか』
『その前に、前提としてピポトロンクラックのサイバー攻撃の腕は僕一人よりも上だと考えた方がいいと思います。ハッキングも、クラッキングも、そしてマルウェアも』
「お前よりもそういった技術の腕は上なのか?」
オタコンの珍しく弱気な発言に俺は思わず声に口に出してしまう。
それに対しオタコンは半笑いで、
『技術者としてのプライドの話をすれば自分より優れた技師はいない…と言いたいところではあるけれど、実際のところソフトウェアの分野でもハードウェアの分野でも、僕より優れた技術を持つ人間は僕らが知らないだけで沢山居るさ。現に僕以上にソフトウェアやブログラムに精通している人を一人、僕は知っている…』
そう言うオタコンの声色は、何処か寂しげでだった。
REXを作っていた時のチームのうちの一人なのだろうかとも思ったが、どうにも違うような気もする。
俺がそう考えていると、通信を傍受していたらしいメイ・リンが口を挟む。
『オタコン、しっかりして…?ピポトロンクラックに対抗できるかもしれないのはオタコンだけなんだから…』
その言葉にハッとした様子のオタコンは咳払いして気を取り直し先程の話の続きを話す。
『えぇと、どこまで話したっけ…。あぁ、ピポトロンクラックの腕の話か』
『ザッツライッ。具体的にどういう攻撃を仕掛けるか、そしてなぜこのタイミングで攻撃を仕掛けるかは未だ聞いていないね、オタコン君』
『焦らすようで申し訳ないんですけど、ミスタートモウキ、それからミス・アキエ。お二人はこれからも協力していただけると考えても構わないですか?』
『それは構わないが…。いったいどうするつもりなんだね?』
『…スネークの持っている端末をサーバーにつないでプログラムを流し込み、仕掛けてくるだろうピポトロンクラックの攻撃を僕らで処理しながら必要なデータを抜き取ります』
『えぇと…。ちょっとリスクが高すぎるんじゃないかしら』
『状況が変わってきたんです。ミス・アキエの言う通り確かに本来避けるべきリスクではあるけど、実際問題そんなことを言ってられないほど僕らにはあまり時間がないのかもしれない。これまでの敵の周到さを考えると、もしサルゲッチャー…ハカセ達がこの戦艦を制圧したら戦艦は自爆もしくは自壊する可能性すらあります。ちょっとやそっとのリスクで時間を無駄にはできない』
オタコンの言ったことはたしかに敵が考えそうなことだった。
ただでさえ各国の軍隊を圧倒する程の兵力と科学力をもったピポソルジャー達に加えて、圧倒的な力を持つであろうピポトロンGやサイバー攻撃のためのピポトロンクラック、諜報・攪乱に何かと有用な変身能力を持っているピポトロンメタといった、各方面に有用な駒を用意している様な連中が万が一にも制圧された時のことを考えていない訳がない。
もしも情報を抜き出す前にこの戦艦が失われると、俺達は今度こそハルカの父親に関する情報を失ってしまうことを意味する。
そうならないためにも、俺達はサルゲッチャーによる戦艦制圧よりも早く情報を手に入れる必要があるのだ。
『攻撃に使う為のプログラムや、ある程度想定される攻撃に対する防衛用プログラムはスネークがサーバールームに着くまでに組んでおくつもりです。勿論、二人から見て改良できる点があればどんどん改良していってほしい。もしそちらの端末の状況やネットワークに問題があれば、僕が今使ってるこの端末一つでピポトロンクラックに対抗することになりますから』
そう言って攻撃の準備をしようとするオタコンに、しかし俺は異議を唱えた。
どうにも言ってることとこれからやろうとしている事がちぐはぐに感じたからだ。
「待てオタコン。先程お前自身がピポトロンクラックより腕は劣ると言っただろう。それとも負けると分かっててやるつもりなのか?」
俺のその質問に、オタコンは力強く返答してきた。
『確かに僕一人よりもヤツの方が上だとは言ったけど、負けを前提に戦うつもりはない。
一人で戦ったら勝てないだろうけど、優秀なエンジニアが三人いるなら話は別のはずだ』
そう言ったところでナスターシャが戻ってくる。
『調べてきた。パソコンは最新の機種というわけではないが、ここ数年でロールアウトした型で、それなりにスペックは良いな。ただ、構内のネットワークはピポソルジャーの襲撃の影響で使い物にならないみたいだ』
『ネットワークから切断されている以上そっちは使い物にならないか…。じゃあやっぱり、僕の端末だけで…』
しかし、トモウキがここで何か閃いたかのように口をはさむ。
『いや…ネットワークだけなら手があるかもしれない』
『でもネットワークが使えないっていうのは…』
『いや、私がスペクター君に協力していた時に使う予定だった、ハッキング用ネットワークステーションがまだ残っているはずなんだ』
ハッキング用ネットワークステーション…。
またどうにも物騒な名前のネットワークを何故こいつは所有しているのだろうか。
俺は聞いてみる事にした。
「そんなものを何故お前が持っているんだ?」
『メサルギア事件の前に起きた、
『もちろんだとも。我々米国も被害を被ったからな』
大佐やトモウキの言う
それは数年前に起きた、名前の通り全世界でピポサルがテレビジャックを起こした事件…らしい。
噂には聞いていたが、当時の俺はアラスカで隠居していたため詳細を知らないので軽く聞いてみることにした。
『その名の通り、全世界で電波ジャックがあってピポサル達による番組の放送があったの。
そのピポサルの番組を見た人達は皆ナマケモノになってしまった』
「ナマケモノとは、つまり…」
『えーっとね…。生物学的なナマケモノになるんじゃなくて無気力とか、そういうことよ』
「あぁ…。
『えぇ…。そう、なんだけどね…』
「どうした?」
俺が聞くとメイ・リンの説明は要領を得なく、その上『らしい』や『みたい』といった伝聞系の口調で信憑性にだんだん欠けてくる。
結局その事件はどうなったのかがわからず俺が困惑していると当事者の一人であるトモウキが口を開く。
その口調は今までと比べて若干申し訳なさそうで、声も若干小さくなっている。
『アキエさんや当事者の私以外のメイ・リン君を始めとしたこの場にいる人達はその後の事件の詳細を知らないのさ…』
「何故だ?」
『先程にもあったが、その番組を見た人達はナマケモノになってしまう』
「あぁ」
『軍や警察の人間が詳細な記録を取ろうとすれば、まず発端となったこの番組を見ざるを得ない』
「…なるほどな、よくできた作戦だ。軍や警察はピポサル達の電波ジャックを記録、もしくは対応のためまず番組を見なければならない。が、それでナマケモノ化し指揮系統が軒並み使い物にならなくなる」
『…その通りだ、スネーク。情けない話だが、ナマケモノになっていない人物とはつまりそのナマケモノビデオを見ておらず、情報や状況がわからず何が起きてどう対応すればいいか分からなかった者達なのだ。我々が現在に至るまでわかっていたのは【当時数日に渡り電波ジャックが起きた】ということだけだったんだ…』
まさかそんなことが起きていたとはな…と大佐がそう締めくくると同時に、俺は軽く戦慄する。
俺がアラスカに居た時にまさかそんなことが起きているとは…。
こうして話を聞いているとシャドー・モセスの時に何故リキッド達がナマケモノビデオを使わなかったのか一瞬疑問に思ったが、
ついでに、メサルギア事件の際にオタコンや大佐が必死にメサルギア破壊を促して来た事にも納得がいった。ナマケモノ砲など発射されれば本当に人間社会が終わりかねなかったのだ。
『その節はお騒がせした…。話を戻させてもらうが、当時の私はあのナマケモノ映像で人間達を完全に無力化するにはテレビ電波だけでは不完全と考えていた』
「基本的にはテレビを見ている連中が多いが、当然そうでない連中もまた存在している訳だからな。インターネットやラジオ音声、各種無線なんかもお前たちのターゲットだったという訳か」
『ザッツライッ。だからこそ、当時の私はスペクター君に言って独自のネットワーク回線やラジオ電波局を用意したのだよ。…もっとも、使う前に鎮圧に来たサトル君たちの獅子奮迅の活躍とその対応に追われたお陰で【ソレ】を稼働する機会は結局なかったのだがね…』
何故だか微妙に落胆しているような声のトーンのトモウキは、しかしながら次の瞬間に声の張りを取り戻し、俺はその声の大きさに端末から若干耳を遠ざけることとなった。
『しかぁしッ!私は結局使わなかった【ソレ】がいつの日か役に立つ日が来ると確信していたッ!何故ならスペクター君の企みは私と共謀した時点で三回目!二度あることは三度ある!つまり三度目あれば四度目が必ず訪れると思っていたのだッ!それがッ!今ッ!
今こそ忘れさられた【ソレ】の出番なのだろうッ!』
トモウキの突然のヒートアップに俺が内心不快に思っていると、メイ・リンは至極どうでも良さそうに彼に質問した。彼女もまたトモウキの熱量に若干の呆れを覚えているのだろう。
『で、それまともに動くの?電波ジャック事件はシャドーモセスの前に起きたし…。下手すれば解体されてるんじゃないの?』
『ノンノン、【ソレ】は限りなく目立たないところに設置させてもらったさ。こだわりの強いウッキーファイブの諸君の干渉も少なかった地だったからね』
途中で話に出てきたウッキーファイブとやらについても気になったが、今は頼みの綱について知ることが先決だと思い俺はそれの所在について尋ねた。
「どこなんだそれは?」
『【ソレ】ことテレボーグ2414号
『あ、アキハバラだって!?』
『しかもそれは遠隔起動が可能の上、自衛装置がついているッ! そいつは衛星を介することで地球上のどこにでもラグジュアリィビームを放てる代物さ!』
「…自衛にしては過剰じゃないか?」
俺が半ば呆れながらトモウキに問うと、奴は自信満々にこう言い放った。
『過剰だとも! 当時の私も作るだけ作って機能自体は五重にロックしたくらいだからね!』
…前々から思っていたが、やはりこいつは俗にいう頭のいい馬鹿というやつなのかもしれない。使わない機能などはなから搭載しなければいいだろうに。
そう思ったがしかし、ここまでの長いようで短い時間での会話で何故そんなことをしたのかがなんとなく想像できてしまった。この男には人間抹殺とか大それた理由などなく、ただただ『ロマン』のため、すなわち出来るから搭載してしまっただけなのだろう。
『…まぁ兵装についてはともかく、肝心のネットワーク強度と範囲はどうなんです?』
『当時シミュレーションを何度も繰り返したが、問題ないとも。衛星を介することで全世界への遅延のない通信を行える代物だからね』
『…とんでもない技術的革新ではないか、それは?』
『その通りです。なので悪用を防ぐためにいくつかの細工はしていますし、資料はいまや宇宙の塵ないし炭になっています。また地上に残ったものもすべて破棄していてこの世にはもう現物と私の脳内にしかデータは存在しない代物です。本当はすぐにやらなければいけなかったのだろうが…今回の件が終わった後にでも解体しますよ』
『そうですか…。僕もそうできたらどれだけ…。いや、後悔は後だ。話をまとめよう』
オタコンはそういうと、これからの俺たちの行動指針を簡潔にまとめてきた。
俺とハルカが行うことはサーバールームへと向かい、そして俺の持っている端末を接続すること。
そしてサーバールームへと向かう間、オタコン達技術チームは攻撃・防御プログラムを組んでおき、俺達が実際に端末を接続した際にはその端末を通してネットワークステーションを介し多数の端末から攻撃を仕掛け、最終的にはハルカの父親の居場所についてのデータを見つけ出す。
そしていつも通りではあるが、これらは極めて迅速に行わなくてはならない。
『スネーク、頼む。この機を逃せばハルカの親父さんの捜索は手詰まりになるかもしれない。そこを念頭に動いてくれ』
「わかっている。お前こそ頼むぞ、オタコン」
『…あぁ、勿論だ。こちらのことは任せてくれ。簡単にはいかないだろうけど、最善の結果を出すことを約束する。ハルカちゃんにもそう伝えておいてくれ』
「了解した」
そう言って俺は通信を切る。その後ハルカに俺たちが立てた作戦について、そしてもしかするとこれが最後のチャンスかもしれないということを話すと彼女は目を見開いた。
「…これが、最後のチャンス…」
「あくまでも『かもしれない』という程度の話だがな。とはいえ、あまり軽視していいわけでもない。時間の関係上これからの行動は常に最後のチャンスだという意識は持っておいた方がいいだろう」
俺がそういうと、ハルカは神妙な表情を見せて静かにうなずいた。
「…わかりました。スネークさん、改めてお願いします。お父さんを助けるために力を貸してください」
「当然だ。ただ、ここからはスピード勝負になる。基本的には俺の指示に従ってもらうぞ」
「…はい!」
そして俺達はリキッドたちが乗っていた空中戦艦の地図を基にサーバールームへと向かった。時に徘徊するピポソルジャー達をやり過ごし、またある時には待ち伏せしていたピポソルジャー達を返り討ちにし一網打尽にして破損していないチップを強奪しながら進んでいく。
その道中、通路に置いてある端末を見かけてふとこれを使えばわざわざサーバールームに行かなくても済むのではないか思ってオタコンに連絡してみたところ、
『確かに普段ならそれでもいいけど、今回は話が別だ。端末のセキュリティホールを探し、その端末からサーバーに侵入するまでに時間がかかった場合それは命取りになる。もしその間に気づかれて防御プログラムを組まれた場合それ以上の攻撃が不可能になるだろう』
「そうなれば勿論、作戦は失敗…という訳だな」
『残念ながらそうなるわねぇ。いくらいいプログラムを組んだところで、ちゃんと動作させなければ意味がないから』
『本音を言えば侵入してセキュリティを切りたいところだけど…。先に端末を接続してクラッシュさせられるのは避けたいな』
という意見をもらい俺の案はあえなく却下となった。どうやらどうあっても俺達実働部隊はサーバールームにまで行かなくてはいかないらしい。またサーバールームのセキュリティの解除がどうしても必要な時はまた色々破壊工作をする羽目になるとも、技術チームは言った。
その事実を改めて受け止め、俺達はサーバールームに向けて慎重かつ素早く進んでいく。
そうしてついにサーバールームの前に着いたところで、俺はオタコンに通信をする。
「こちらスネーク。サーバールーム前に到着した」
『流石だね、スネーク。想定よりも大分早い』
「プログラムは?」
『9割方完成している。ドクタートモウキとミス・アキエのプログラムが色んな意味で凄まじいものだったからすぐだったよ。後は細かい調整をいくつかするだけだ』
「ドク…」
いつの間にかトモウキのことをドクターと呼ぶまでに打ち解けている相棒に若干困惑しつつ、俺は話を戻した。今はそんなことはさしたる問題ではないからだ。
「…まぁ使えるなら文句はない。それよりもオタコン、サーバールームにはこのまま突入しても構わないのか? セキュリティは解除した覚えはないが…」
『いや、待ってくれ。何かしらのセキュリティはあるかもしれない…というか、間違いなくあるだろう。スネーク、チップを何枚か送ってくれ』
「構わないが…。どうするつもりだ?」
『自走式の
「セキュリティがあったら?」
『また追加で装備を作るよ。大丈夫、チップさえあれば大抵のことは何とかなるさ』
あっけからんとした様子で俺の問いに答えるオタコン。その返答に思うところはないでもないが、とりあえず言われた通りに俺はチップをオタコンに送った。
すると数分後、自走式のカメラ搭載型の
そんな何とも言えないデザインのそれを動かし通路へと侵入させてみたところで奇妙な事実が浮かび上がった。
「…セキュリティが作動していない?」
「…え? そんなことあり得ない、ですよね?」
「普通ならまずありえない。サーバーは情報の宝庫だからな、普通は厳重な警備を固めるはずだ。物理的にも、ネットワーク的にも」
「…じゃあこれって罠がある、と言っている様なものですよね」
「そうだな。なにが起きるかわからない。注意しろ」
『ふぅむ…。しかし何故セキュリティを作動させていないのだろうか? 先ほどスネークが言った通り、サーバーは情報の宝庫だ。スネークがこの戦艦に潜入していることを考えればむしろこちらに警備を割く必要があると思うが…』
『スネークさんがここまでくると予想していなかったんじゃないかしら?』
『アキエさん、それはあり得ない。ピポトロンJは明らかにスネーク君の力量を高く見積もっていましたからね』
あれこれと議論がされているが、しかし説得力のある結論は出なかった。
考えれば考えるほど敵の目的が見えず気味の悪さだけが深まっていく。
「…考えるだけ時間の無駄か」
『それどころか考えれば考えるほど士気が下がる気がするな…。見えない問題に固執してる訳にもいかない、とりあえず先に進もうか。スネーク、十分に注意してくれ』
「勿論だ、任務に戻る」
そう言って無線を切り、ハルカと視線を合わせた後にゆっくり、慎重に通路を進んでいく。ライトタンクのような比較的小回りの利くマシンが現れるかもしれないと思いながら進んでいるが、そのような気配は相も変わらず感じられない。しかしそれもまた薄気味悪さを引き立てていた。
俺もハルカも武装から手をは離さず進んでいき、その通路の終端の大きな扉に近づいた途端それがゆっくりと開いていく。
ここで先ほどの
とはいえそもそもサーバールームに何故かそのような美しさを感じさせる部分がある時点で怪しいが故に、部屋に足を踏み入れる前にハルカに目配せをし俺が先にサーバールームに足を踏み入れたが、しかし警戒も虚しく何も起こらなかった。後から入ってきたハルカの時も同様だ。
「…こちらスネーク。サーバールームに侵入したが、異常はない」
『了解だ、スネーク。手筈通り端末をセットしてくれ。多重攻撃でサーバーを落としてデータを引き抜く。2人も準備しておいてください』
言われた通りに端末をセットすると、端末が自動で動き始めた。オタコン達の作ったプログラムが稼働しているのだろう。
しばらくして『バックドアを複数作ったからもう端末を抜いてもらって構わないよ』というオタコンの通信を受けて端末をサーバーから引き抜いた。
後はもうオタコン達の電子上での戦闘が終わるまで辺りを警戒するしかないだろう。
そう思っていたところ、このサーバールームの壁を不思議そうに眺めるハルカの様子が気になったので俺は彼女に話しかけてみることにした。
「何か気になることでもあったのか?」
「この壁、どこかで見たことがあるような気がして…」
「見たことがある?一体どこで?」
「わかりません。…でも、私は多分これを知って…あ、もしかして」
ハルカがそこまで言った瞬間、オタコンから通信が入った。作業が終わり、データが取れたのかと思ったためハルカとの会話もそこそこに通信に応答する。
『…ネー…! …そ…を…るん…!』
データが取れたにしてはオタコンの様子がおかしい。何か焦って叫んでいるようだが、しかしノイズがあって聞き取りづらく何を言っているか…。
…待て、ノイズ?
先程までは普通に通信出来ていた筈だ。なのに今は通信にノイズが出るほどに不安定になっている…ということは通信妨害がされたのだろうか。だとしたら、いつの間に?
そこまで思考が至った瞬間、サーバールームの扉がひとりでに閉じた。
「スネークさん!」
「ハルカ、俺の近くに居ろ。…どうやら嵌められたらしい」
「そんな…!」
ハルカが驚愕に目を見開いた瞬間、サーバールームの壁がぼんやりと輝き始めた。
何が始まるのかと思いつつ、さっさとこの部屋から出た方がいいと勘がそう告げたために扉にマシンガンやレーザーガン、果てはランチャーまで色々と撃ち込んでみたが、扉には傷一つついていない。
ハルカもサンシャイン・アローを始めとする高出力の技を使ってまで扉を破壊しようとしたが、やはり傷つきもしない。
そうしてる間にも壁は輝き続け、やがて強烈な光となり辺り一体を包みこんだ。
「うぅっ…!」
「ハルカ!」
周りが見えないほどの光の中、辛うじてハルカの輪郭だけが見えた俺はハルカと逸れない様に彼女の腕を掴んだ。
光が俺達を包み込み、そしてまた同時に俺の意識もまた光の中に溶けていき……。
…。
……。
………。
…………なに、が。
なにが、おこった…?
段々と、いしきが覚せいしてくる。
ぼんやりとした頭であたりを見渡せば、そこは全くみおぼえのない場所であることにきづいた。ただ、隣にはいしきのない少女が一人。
…その姿を見てようやく頭が冴えてきた。
俺は彼女を揺さぶり、声を投げかけた。
「ハルカ! おい、しっかりしろ!」
「…ぅ…。…すねーく、さん?」
どうやら生きてはいるらしい。ゆっくりと目を開く彼女の姿を見て安堵し、そして改めて辺りを観察してみた。
床は縁が輝いている透明なパネルになっている上に宙へ浮かんでおり、明らかに先程まで居たサーバールームとは全く違う。さらに言えば周囲には先程まであったはずの機材の姿はなく、ただ空間が広がっているだけだ。周りの空間もぼんやりと青く輝いているのに薄暗く、また果てが見えないほどに広く見えるがそれでいて何処にも行けないような窮屈さを感じさせる。
そして、自分の体であって自分の体でないようなどうしようもないこの違和感。
俺はこの感覚を知っている。
それはハルカも同じだったようで、その違和感の理由についてを口に出した。
「…サーバールームの壁は私がVR空間にダイブする時の機械とよく似てたし…ここはもしかして、VR空間…?」
「…そのようだな。どうやらトラップが仕掛けられていたらしい」
「…それにしても、ここから出るにはどうしたら…」
「わからん。…が、とにかく先に進むほかないだろう」
望み薄ではあるが、オタコン達に無線をかけてみる。
…案の定、無線はただ無慈悲かつ無機質にコール音を鳴らすだけで誰にも繋がりはしなかった。
ため息一つを吐き出した後俺はマシンガンを、ハルカはホーミングアローを手に握りつつ先へ進もうとしたその矢先。
まるで藻などで濁りきった川のような艶のない緑色の髪に、同じく黒みがかった緑色のボディースーツのようなものを纏った三人組が重低音の転送音を響かせつつ現れた。
いや、そいつらは人間なのかすらも疑わしい。何故ならそいつらは皆例外なく同じく顔を持ち、そして皆一様に口に笑みを貼り付けてそれを一切崩しはせず、生気のない無機質な瞳をただこちらに向けているからだ。
「チャルさん…?」
ハルカが恐る恐るといった様子で彼女らに少しだけ近づきながら問いかける。チャルというのは確かハカセが作ったかなり高性能なAIだとかなり前にオタコンから聞いた…気がする。当時は興味があまりなかったので聞き流していたが、そんなことを言っていた気がしないでもない。
であれば味方である可能性もないわけではない…と言いたいところではあるが、しかしながら今の彼女らはどうも味方である気は全くしない。
そういえばオタコンはニッポンのとある街でガイドAIのモデルにチャルが選ばれ、試験的に運用が開始されたとも言っていた気が…。
………まさかとは思うが。
「ハルカ!そいつらから離れろ!」
俺はさらに近づこうとするハルカの腕を掴んで俺の体がある方向へとに引き寄せ、それと同時にマシンガンを彼女らに向けて雑に発砲した。
不意を突かれたチャルたちはマシンガンの弾丸を受けてわずかよろめく。貼り付けた笑みはそのままで、しかしその手には確かに俺のものと似ている銃──おそらくはレーザーガンがいつの間にか握られていた。
全く同じ動きでやつらは機械のように体勢を持ち直し、そして同時に銃をこちらに向けた。
リフレク機能を使うためにメカボーを引き抜いたが、しかしやつらは何故か発砲をしてこない。
何故かと動きを観察していると、「スネークさん、あれ!」という叫び声とともにハルカがある一点を指し示した。
それは宙に浮かんだ半透明なディスプレイ。その中には映像が写っていた。
今俺達の目の前にいる「チャル」と同じ状態の「チャル」と、恐らくは正常に稼働しているであろう目に生気が宿った「チャル」との戦闘の映像。
それは無機質なマシンガンで武装するこの虚ろな目のチャルが、半ば一方的に生気の宿る目をしているチャルを攻撃し、最終的には攻撃されていた側のチャルもまた俺達の目の前に居るチャルへと変化していく、という趣味の悪い映像だった。
……俺の想像が当たっているならば、きっとこの虚ろな目のチャルはコンピュータウィルスにやられているのだろう。そしてそれは、恐らくニッポンのどこかの街で試験稼働されていたもので、それもかなりの数が居ると思われる。
これが偶然というわけもないだろう、恐らくはピポトロンクラックの仕業だ。
映像がループ再生されるのを確認した後に今俺達の目の前に居るチャルに視線を戻す。
……俺は目を疑ったと同時に、敵から目を離した自分の判断を後悔した。
先程まで三人だった筈のチャル…いや、ウイルスチャルは五人に増えていたのだ。
そして動揺している間にも七人、十人とさらにその数を増していく。
「「「「「「「「「「「私ハ、何人ニモナレマスシ、ドレモ本物ナンデスヨ?」」」」」」」」」」」
合言葉のように奴らはそう言い放ったあと、ウイルスチャル達は俺たちに一斉に発砲しようと、トリガーを引こうとする──。
act11 読了ありがとうございました。
一応構想では日本空中戦艦編の半分以上は終わっているつもりですが、皆様お気づきの通りクソほど遅筆ですのでまた暫くお待たせしてしまうことを先にお詫び申し上げます。本当に気長に待っていただければ幸いです。
最後になりますが、このクソほど更新の遅い上にムダに長い駄文を楽しみにしていただいている方には心からの感謝を申し上げます。