METAL GEAR SOLID MILLION MONKEYS 作:竜田揚げ丸
ウイルスチャルがレーザーガンの引き金を引こうとした瞬間、俺はメカボーを構えた。
少しでも被害を抑えられるならという被弾覚悟の判断だったが、しかしその必要はなかった。
「リップルスト-ム!」
奴らが引き金を引こうとした瞬間、ハルカが広範囲の攻撃を叩き込むことで体制を崩させたからだ。
爆風が奴らを襲い、確実なダメージを負わせていく。
「スネークさん、大丈夫ですか!?」
「あぁ、問題ない。…すまない、油断した」
「お互い様です。最初に助けてもらったのは私ですから」
そう言いつつも、ホーミングアローの弦に手をかけて辺りを警戒する仕草を見せるハルカ。
俺も改めてマシンガンのトリガーに指をかけ、爆風の中から敵の気配がないかを確認する。
瞬間、再び重低音の転送音を響かせながらウイルスチャルが現れた。
しかも今度は最初から二桁単位で、俺の見たことのないガチャメカを装備した個体も何体かいる。
見た目は俺の持つランチャーに近いがカラーリングが赤色になっている箇所があるガチャメカ、自走する爆弾らしきガチャメカ、また腕が砲台のように変形している個体もいた。
また、そうして観察しているうちにもウイルスチャルの物量はどんどんと増していく。
「…どんどん増えていきますね」
「あぁ。戦力の分析を、と思ったがどうもそういう訳にもいかないらしい」
俺がそう言った瞬間、ハルカはホーミングアローの弦から手を離してウイルスチャルに発射する。
それと同時に、俺もまたマシンガンの弾薬をばら撒いて手当たり次第にウイルスチャル達にぶつけていく。
すると。
「「「「ウウウッ…」」」」
何人かのチャル達がうめき声をあげながらどこかに転送されていくのが確認できた。
よろめきもしなかったせいで分かりづらいが、どうやら一定のダメージを与えれば撤退させることは可能なようだ。
それがわかった以上、俺たちがやることはたった一つだ。
チャル達全員を撃破し、この場を切り抜ける。
ウイルスチャルの総数が何体なのかわからないが、逃げ場がない以上とにかくやるしかない。
「ハルカ! こいつらを全員撃退する!」
「はい!」
ハルカの応答が聞こえた瞬間、俺の眼前で光の柱が立った。それもただの光の柱ではない。高出力のエネルギーレーザーだ。
もしもあと数歩を踏み出していたならば、俺は今頃あのレーザーに焼かれて黒焦げになっていただろう。
それにしても、いったいどこから?
メカボーを手に襲い掛かってくるウイルスチャルをいなしながら、俺は辺り一帯を可能な限り観察する。
すると、小さなメカが自走してくるのを目撃した。それが俺達の足元に来る前に射撃してみれば、そいつはその場で先ほどのレーザービームを放出した。
どうやら自走式のレーザービーム砲台がこの戦場には投入されているらしい。
そこまでわかったところで、今度はまた別の方角でエネルギーの爆風が上がった。幸いハルカと戦闘しようとして離れていたウイルスチャルに直撃していたためにハルカにケガはないようだが、爆風の範囲が広い。もしも直撃したらたまったものではないだろうことは明らかであるたため、その手の装備をしている敵の数は優先的に減らしておいた方がいいだろう。
ハルカもそう思ったようで、戦闘しながらもちらとこちらに視線を送ってきた。
「スネークさん、伏せてください!」
「何を…」
「一掃します!」
ハルカにそう言われた瞬間、初めて会った時の状況を思い出した俺はローリングでウイルスチャルを何人か弾き飛ばしながら伏せた。
すると。
「スピンショット!」
ぐるぐるとハルカは回転しながら、ホーミングアローに番えた矢を次々と放っていく。
かなりの数のウイルスチャル達に矢が突き刺さるが、しかしそれでも相手の軍勢は減らしたそばからその数を補充されていくために総数に変わりがない。
「きりがない…!」
「さすがに少しは楽になるかと思っていたが…。まるで趨勢に変わりがないとはな…」
相も変わらず張り付けたウイルスチャル達の大軍を見て思わずそんなことをこぼしてしまう。しかしそれでもどうすればこの状況を切り抜けられるかを考え続けなければ、俺達に明日は訪れない。
ランチャーのエネルギーは心もとないため、それらを使った攻撃はタイミングを選ばなければ効果を出すのは難しいだろう。また通信が途絶されているためにオタコン達にパワーアップパーツを付与してもらうということは論外だ。
ハルカの攻撃に頼りすぎるというのもよくはない。彼女のガチャメカにもエネルギーが必要であるため、下手に攻撃させれば彼女には打つ手がなくなってしまう。
「…厄介だな。打てる手があまりない」
「だからってここで諦めることなんて…」
「わかっている。だががむしゃらに戦ったところで追い詰められるのは俺達だ。…とりあえずこれを持っておけ。もしその弓が使えなくなったらほかにお前の身を守る手段はないだろう」
そう言って俺はハルカにショットガンを渡し、ハルカもうなずいてそれを受け取った。
ショットガンのエネルギーにはかなり余裕がある。とりあえずではあるが、武装問題はこれでなんとかなるだろう。
とはいえ、問題が一つ片付いた程度では状況は好転しない。
…仕方がない。ここは大胆に動くしかないだろう。
「俺がブーツを使って攪乱しながら可能な限り数を減らしていく。混乱に乗じて敵を叩け」
「…わかりました。でも、気を付けてください」
「わかっている。奴らのガチャメカは見ただけでも強力だ、お前も巻き込まれないようにしろ。可能な限りチャルを遮蔽物にするんだ」
俺はそう言うとBランチャーを取り出し、ある程度チャル達が密集している地帯を狙って発射して怯ませる。それと同時に素早くブーツを履き、メカボーを手に奴らに突撃する。
メカボーや格闘による攻撃を交え、時に奈落へとウイルスチャルを叩き込んだりもしつつも陽動の役割をしっかりと果たす。それに意識を割かれたウイルスチャル達を、ハルカは容赦なく射抜いていった。
片方が攪乱、もう片方が主な攻撃。この役割分担である程度楽に戦える。俺がそう手ごたえを感じていたところで、蹂躙されるばかりだったウイルスチャルは抑揚のない声で呟いた。
「ガちゃメかコンとローる」
ウイルスチャル達の手から光が放出されると同時に、ダッシュブーツの出力が徐々に下がっていく。
メカボーの発行部分も消灯し、パワーアップパーツ・リフレクの象徴である緑色の稲妻もまた消えていく。
これらの状況をからまさかと思ったが、それは最悪の形で的中した。
「スネークさん! ガチャメカが…!」
やはりそういうことらしい。今、俺たちのガチャメカは何らかの形で機能停止に追い込まれている。
これで戦況は振出しに戻るどころか、最悪と言ってもいいほどに俺達は追い詰められている。
俺はまだCQCを始めとした格闘戦の心得があるためにまだガチャメカなしの戦闘はできなくはないが、ハルカはそうではない。ガチャメカが使えないならばなぶり殺しにされる危険性がある。
そこまで思考が至ってハルカの方を見てみれば、ガチャメカの使えない状況のハルカに対しウイルスチャル達が数人がかりでにじり寄っているのが見えた。
俺は即座にブーツを脱ぎ、ウイルスチャル達に投げつけた。仮にここでガチャメカを紛失したとしても、現実にある装備品がなくなるわけではないはずだ。
今はとにかく、少しでも俺に注意を向けさせなければならない。
「相手してやる、
あまり使いたくはないが、ハルカへの道筋にいるウイルスチャル達をCQCを使って武装解除を行うと同時に投げ、腕が直接武装になっている個体は足場から突き落としていく。
ガチャメカを使った時ほど数を減らせるわけではなく、また痛みという概念をインストールされていないのかわからないが反応が薄くCQCが効いているかもわからない。
だがしかし、やらなければ俺達の命はない。
「…どうした、丸腰の兵士も殺せないのか!」
時々そういった挑発も織り交ぜつつウイルスチャル達の注目を集めながら、俺はウイルスチャル達をCQCで相手どっていく。
投げ、掴み、時々盾にしながら戦闘を続けていくが、しかし元々の技術は基本的に殺しではなく制圧をメインとした動きなのでウイルスチャルの数を減らすペースはかなり遅い。
少しづつ、地道にCQCで敵戦力を削っていると不意にハルカは叫んだ。
「スネークさん、後ろ!」
ハルカの叫び声に反応して後ろを見ると、先ほどまで敵の気配を感じなかった筈にも拘わらずウイルスチャルが俺の真後ろに立っていた。恐らくは俺の真後ろに転送されてきたのだろう。戦闘のどさくさに紛れて真後ろに敵がいきなり現れれば、優れた兵士であっても一瞬反応が遅れてしまう。それは俺とて例外ではない。
「…お願い、動いて…!」
ハルカが半ば祈るようにホーミングアローを俺の真後ろに居るウイルスチャルに向けて、そして放った。
今の状況ではそれは無駄な行為だ。俺は内心そう思っていたが、しかしホーミングアローから放たれる青い光弾を見てそれが間違いだったことに気づいた。それと同時に俺はローリングして弾道から離れると、ホーミングアローの弾は俺の真後ろに居たウイルスチャルに直撃する。
「ホーミングアローが使えるようになった…! スネークさん!」
その言葉と同時に、俺はメカボーを見る。刀身には青い光が戻り、そして同時に緑色の稲妻が走っている。
それはつまり、メカボーは機能が回復していることを示していた。
ならばと思いレーザーガンを取り出して数多居るウイルスチャルに向けて発砲を行った。小さな青色の光弾が宙を裂き、ウイルスチャルに着弾した。この分なら他のガチャメカも同様だろう。
「ガチャメカが使える内に叩けるだけ叩くぞ。だが気をつけろ、いつまたガチャメカが使えなくなるかわからん。あまり前に出すぎるな」
「わかりました。スネークさんも気を付けてください」
そういったやりとりの後、再び始まるガチャメカを使ったウイルスチャルとの激闘。
やはり武器を使えるというのは楽なもので、先ほどCQCを使っていた頃よりも手早く処理ができている。
しかしこれはマイナスがゼロになっただけで、やはり事態はあまり好転してはいない。
それを承知でなお俺達が戦っていると、再びウイルスチャルは何かを呟いた。
「入力こンとろール」
瞬間、俺達の身体の動きがおかしくなる。前に進もうと足を踏み出そうとすれば足が後ろに下がり、腕を上げようとすればそれは振り下ろされた。
意志とは真逆に身体が動き、俺もハルカも態勢を崩してしまい致命的なまでに隙を晒してしまう。このままではまずい。頭ではそう理解できているが、しかし体は無茶苦茶に動き続けて態勢を戻すどころではない。
「くぅっ…VR空間をここまで掌握できているなんて…!」
「…ちっ、ピポトロンクラックの奴…ここが現実世界ではないことをいいことに好き放題しているな…!」
恐らくこの状況を作ったであろう存在に思わず苛立ちを口に出してしまうが、しかし体は相変わらず思った方向とは逆の方向に動き、もはや戦闘どころではなかった。なんとかできないかと頭を回しつつ、それと同時に動作は緩慢ながらもレーザーガンを使って一体一体になんとか攻撃を仕掛けていくが、やはりそれでは効率が悪くウイルスチャルは増える一方であり俺もハルカも徐々に囲まれつつある。
せめてまともに体が動きさえすれば…。そう思った瞬間、願い通り突如として体が思うように動くようになった。
「ハルカ!」
叫びながらCQCで俺の周囲のウイルスチャルをなぎ倒し、ハルカの援護に向かおうと先ほどまでの包囲されていた地点から俺が少し離れたあたりでいきなりこのVR空間に激震と轟音が真後ろから走り抜け、その地点に居たであろうウイルスチャルが吹き飛んでいった。
何が起こったかを確認するために背後を確認してみれば、先ほどまで俺が包囲されていた辺りの床から大きな金属塊が地中から顔を出すモグラの様にその姿の一部を見せていた。
突如として現れたソレからなるべく視線を逸らさず、しかし何とか囲まれているハルカを救出しその鉄塊の様子を見守った。アレは一体何か、今の俺達の状況を覆せる一手になりうるのか。あるいは、敵の増援なのか。それを見極めなければならないからだ。
俺達が近寄ってくるウイルスチャルを撃退しながらソレの様子を見ていると、その鉄塊からどこか聞き覚えのある声が聞こえてきたのだった。
「やぁ、君にしては随分と苦戦しているみたいだねスネーク! 今度こそ僕が助けに来たよ!」
お久しぶりです。
act12=バーチャルスペース編・前編はここでおしまいとなります。今回は話の本筋は進んでいませんが、話が進む予定のバーチャルスペース編・後編をお楽しみに。
ご存じの通り不定期更新のためいつになるかはわかりませんが、次回もお楽しみいただければ幸いです。
前回にも書きましたが、失踪したり戻って来たりを繰り返しているにも関わらず未だに読んでいただけている方には感謝の念しかありません。
本当にありがとうございます。