METAL GEAR SOLID MILLION MONKEYS   作:竜田揚げ丸

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VR編・後編+一部のネタばらし編です。
お楽しみいただければ幸いです。


act14~進展~

オタコンが偽物の駆るREXを両断したあとすぐ、オタコンの援護を受けて俺達は周囲のウイルスチャル達の掃討作業を行った。

周囲にいたウイルスチャル達は既にいなくなり、そして全滅を確認したあとオタコンは改めてこれからの方針を指示した。

 

「とりあえず急を要するのはこのバーチャルスペースからの脱出…なんだけど」

「どうした?」

「ちょっと気になることがあってね。脱出の前にまずはそっちを片付けておきたい」

「気になること、ですか…?」

「あぁ。戦艦ネットワーク内に強いロックがかかっている箇所があってね。そのロックの解除キーがここにある…んだけど、厄介なAIが守ってるみたいでね…。例のロックは僕らだと手が出せない…こともないけどどうしても時間がかかるんだ。こうしてVRスペースに侵入できたからには、正規の手段で解錠した方が早いから脱出ついでにそのAIを打倒してキーを拝借しようと思ってね」

「わざわざロックを掛けるということはそこに何か重要な情報があるということにほかならないからな。そこにハルカの親父さんの手がかりがあるかもしれん」

 

そういうこと、と言いながらオタコンは再びREXを起動させる態勢に入った。

そんなオタコンに、俺は先ほど気になっていたことを問いかけた。

 

「オタコン。そのREXは一体何なんだ? どこからそんなものを?」

「あぁ、これか。これはVR空間上に再現した、シミュレーションデータだ。とはいえ、基礎設計データや稼働データそのものは僕が自戒のためにに封印してた本物のREXのデータを使っているから、基本的にはモセスで開発されていたREXそのものと考えてもらって構わない。核に関するデータは流石に書き換えてちょっとした面白い兵器に変えてあるけどね」

 

そう言いながら、佇むREXを見ながら複雑そうな表情で見上げた。

が、それもすぐにやめてオタコンは表情を引き締めなおし俺達に視線を戻す。

 

「さて、休憩はここまでにしてそろそろ移動しようか。今はミス・アキエやミスター・トモウキが抑えていてくれてるけど、いつどんな妨害が入るかわかったもんじゃない」

「そうですね。このブロックもいつ破壊されるかわからないですし…」

「あぁ。ここからなるべく離れた方がいいだろう」

 

俺がそう言うと、オタコンは「あ、そうそう」と呟いたあとに指を鳴らした。その瞬間に閃光が走ったかと思えば、先ほどまでは何もなかったはずのオタコンの背後にはいつの間にかフライングデッキ二機が設置されていた。

オタコンが眼鏡を輝かせて得意げな顔をしている辺り、オタコンが用意したものなのだろう。

当のオタコンはというと、得意げな顔のまま俺達に声をかけてきた。

 

「今までずっと歩きずくめだったからだろうからね、フライングデッキを用意した。それと…どうだった、今の。ちょっとかっこよかっただろ?」

 

オタコンの空気を読まない発言を適当にあしらって、俺はフライングデッキの出撃準備に取り掛かる。

そんな様子にオタコンは、「相変わらずこういうのには無頓着というか…。とことんリアリストだな、スネークは…」と小声でぼそっと俺に対して文句を呟いたあと、ハルカにも先ほどと同様の質問を投げかけた。

質問をされたハルカは「え、えぇっと…。よかった、と思いますよ…?」と明らかな社交辞令で躱し、同じくフライングデッキの出撃に取り掛かる。

そんなハルカの様子を見てオタコンは、

 

「…ひょっとして、そんなにかっこよくなかったのか…?」

 

と一人でぼそりと呟いてから若干落ち込みながらREXを再起動させるのだった。

 

──

 

『さて、気を取り直していこう!』

 

オタコンはそう言いながら、先ほどまで偽物が行っていたように何もない空間に向けてミサイルを何発か放って空間に穴を空ける。

その先は赤色の空間が広がっているが、しかし先ほどまでと違って俺達は長居するつもりはない。

迅速に突入し、妨害の為に配置されたウイルスチャル達を全員無視して空間に穴を空けてその空間を去る。

 

「ここを抜けたらセキュリティホール、つまりは脱出ポイントだ」

「わかりました。…必要なこととはいえ、今すぐ脱出できないのは歯がゆいですね」

『僕たちのわがままに付き合わせてごめん。本来ならこんなことに君を付き合わせるわけにはいかないんだけど…』

「誰かが一人だけ脱出したとしても、一人だけ残ったとしても必ずどこか不都合が出る。なら、全員でここに残って全員で脱出するべきだ、というわけだな」

 

そんな話をしながら、俺達は脱出ポイントへとたどり着く。しかし、俺達はそこで脱出の為の特殊な行動をとる訳でもなく先ほどと同じく空間に穴を空けようとする。

しかしミサイルを発射しようとフライングデッキを操作していたとこら、どこかから異様な気配を感じて俺は背後を振り返ると同時に全員に注意を促した。

 

「…オタコン、ハルカ。気をつけろ、何か来るぞ」

「何かって…もしかして、例の厄介なAIですか?」

『僕らはこのバーチャルスペースで散々暴れまわったからね、その可能性はあるかもしれない。だとしたら好都合だけど』

 

オタコンがそう言った瞬間、バーチャルスペースの天から無数の光の粒子が降りてきた。その光の粒子は一か所に留まると、緑色の光と共を発するとともにそれは白い球体へと変化した。

その一連の様子を見たハルカは、驚いた様子を見せた。

 

「もしかして…グリッドコア…?」

『アレを知っているのかい?』

「あ、いえ…。もしかしたら違うのかもしれません。形はそっくりですけど、私の知ってるグリッドコアは光の粒子に分離する、なんてことはできなかったはずですから」

「だとすると発展型かもしれん。二人とも、気をつけろ」

 

俺の発言にハルカもオタコンも真剣な表情を見せ、気を引き締める。

まずは相手がどう動くか。それを見極める必要があるか。

俺達がそう判断し、威嚇程度の射撃を放つとグリッドコアらしき球体は戦術アナウンスを響かせる。

 

『ファンクション──グラビティ・グリッド』

 

瞬間、俺とハルカが乗り込んでいるフライングデッキは凄まじい勢いで落下する。何が起きたかわからない。急にフライングデッキが墜落して、そして…体が動かない。まるで床に引き寄せられているようだ。

周囲を見回してみればハルカも、オタコンの操縦しているREXも床に引き寄せられて満足に動く事ができないようだった。この現象が起きる前の戦術アナウンスと併せて考えればほぼ間違いない、これは超重力で床に這いつくばらされている。

 

「…動、け…ない…!」

『くそっ…! まさか掌握しきれてなかったのか…!?』

「オタコン…! どうにか、できないのか…!?」

『今やってる…! 外からも妨害工作はしてくれてるみたいだけど…!』

 

俺達が床に這いつくばりながらもどうにかできないか、打開策を練っているなか、球体は無慈悲にも更に戦術アナウンスを響かせた。

 

『コンバージョン──スプレッド』

 

アナウンスの後、球体は光の粒子の波となって俺達に襲いかかろうとする。しかし、俺達は今回避行動はおろかまともに動くことさえままならない。

 

「オタコン…!」

『グラビティ・グリッド──これか! 二人とも、もう動ける! だけど、そのままフライングデッキの操縦席で伏せておくんだ!』

 

オタコンの言う通り、体が自由に動くことを確認して俺もハルカも急いでフライングデッキの操縦席でそのまま伏せておく。その数秒後、バーチャルスペースの床面を光の粒子が隙間なく駆けていき、そしてそのまま天まで昇っていった。流石にREXやフライングデッキを持ち上げることはできなかったようだが、しかし生身で受ければろくでもない結末が待っていたことだけはわかる。

オタコンとハルカは呆けたようにそれを見送っていたが、しかし俺にはそれだけで終わるようには思えなかった。

その予感は当たり、天には先ほどの光と全く同じく光が瞬いているのが見えてしまった。しかも、ハルカの真上にだ。

 

「来るぞ、離れろ!」

「…! はい!」

 

ハルカが急いでフライングデッキから離れたその瞬間、フライングデッキの上に光の粒子が集まり球体形を成した。

俺はマシンガンを放ちながらフライングデッキを動かそうとするが、しかし先ほどの重力攻撃によってどこか故障したのか上手く稼働することはない。即座にフライングデッキを放棄し、俺は六角形のタイルの上に降りた。

それを見計らったようなタイミングでまたもグリッドコアは戦術アナウンスを発する。今まで見てきた限り発動の前にアナウンスを響かせるため不意打ちこそできないようだが、しかし攻撃のタイミングは間違えないらしい。

 

『コード──トランプル・キューブ』

 

そのアナウンスと共に無数のキューブが生成され、摩擦など存在しないように滑って縦横無尽に動き回る。

マシンガンで迫ってくるキューブを迎撃すると、普通に撃ち返すことはできた。ただ、銃弾の移動エネルギーの一部を受けてキューブは加速して離れていく。下手に撃ち返すと加速されたエネルギーのままピンボールやビリヤードの要領で迎撃したキューブが他のキューブを加速させた上で複数こちらに帰ってきかねないが故に、迎撃は考えて行わなければならないだろう。

ここだけ聞くとかなり厄介な攻撃だが、床の上を滑っているということはつまり高いところへと避難すれば直撃は免れる、そうでなくとも壁を背に立っていれば少なくとも背後からの攻撃は避けられるということだ。

 

「ハルカ、REXの脚を背に立って迎撃するかフライングデッキの上に退避しておけ。でなければキューブに轢かれるぞ!」

「はい!」

「オタコン!」

『もうやってる! もうすぐキューブをデリートできる、それまで持ち堪えてくれ!』

 

ハルカがREXの脚に隠れると同時にオタコンは言うが、しかしそれと同時にグリッドコアは更に攻撃を仕掛けてくる。

 

『コード──コネクト・キューブ』

 

先ほどまで滑らかに動いていたキューブが動きを遅くするとともに、キューブとキューブの間に電撃のようなエネルギーが発せられる。明らかに触れるとまずいのは見ただけでも明らかだ。俺がそう見たところ、オタコンは困惑と焦りが滲む声をあげた。

 

『キューブのタグが変わっている…!? …ハッキング終了間近で切り替えたのか! 二人とも、もう少し時間を稼いでくれ!』

「わかりました! でも…このままだと…!」

「機会は必ず訪れる、今は焦るな。今のうちに相手の出方を伺っておくんだ。いいな?」

「…! はい!」

 

そう言いながら、俺はキューブの破壊をレーザーガンで試みるが、しかし着弾したところであまり効果はなさそうだったためにレーザーガンでの破壊は即座に諦めた。ランチャーならば破壊できるかと思い装備を変えたが、しかし発射の前にオタコンの「スネーク! あれは破壊不可能のオブジェクト設定になっている、攻撃するだけ無駄だ!」という声にキューブへの攻撃はやめ、ランチャーを使ってグリッドコアへの攻撃に切り替える。

しかし、俺がランチャーの引き金を引く、その瞬間。

 

『ファンクション──スクロール・グリッド』

「何っ…!?」

 

スクロール・グリッドの宣言と共に凄まじい勢いで床が動き、ランチャーの照準がグリッドコアから大幅に外れ全く意図していない場所へと飛んでいく。その一連の流れを見てか、

 

「ホーミング・アロー!」

 

と誘導型の攻撃に切り替えてハルカはグリッドコアを攻める。なるほど、これならば射線をずらされても問題はない。

俺はそう思ったが、しかし。

 

『コンバージョン──ストリーム』

 

グリッドコアはそういって光の粒子となってハルカの攻撃を躱し、そして光の粒子の形態のまま俺に突撃を仕掛けようとしてきた。

俺はその最初の一撃はローリングで辛うじて回避したが、しかしグリッドコアは一旦止まったかと思えば再び光の粒子のままこちらに向けて突撃を仕掛けてくる。

回避した直後の着地を狙ってきた攻撃だったため、流石に被弾を覚悟したが、しかし俺の前に巨大な壁──REXの脚が立ち塞がり、グリッドコアからの攻撃を受ける遮蔽物となってくれた。

 

『させるか…! スネーク!』

「あぁ!」

 

俺は急いでREXの脚部のパーツに張り付き、そしてそれと同時にREXは脚を振り上げると、ちょうど振り上げたREXの脚の真下を光の粒子が駆け抜けていく。どうやら本当に危機一髪だったようだ。

グリッドコアはREXの脚部の真下を通り抜け、そして再び白い球体形へと姿を戻した。どうやら奴は粒子のままではいられないらしい。

 

「オタコン、奴の形態を固定することはできるか?」

『構造を見ないことにはわからないけど…。一応やるだけはやってみるよ。外の二人にも伝えておくけど、ピポトロンクラックを抑えるのに人手がいる以上そちらからの支援は絶望的だろう…』

「やはり俺達だけでなんとかするしかない、というわけか…」

 

俺がそう言うと、REXは静かに足を振り落として地につけた。俺はREXの足から降りると、再びマシンガンを構えて攻撃の姿勢をとる。

しかし、俺がマシンガンの引き金を引く寸前。

 

『ターゲット、未だ攻撃の意思あり』

 

その言葉とともにグリッドコアは俺達の視界を塞ぐほどに強く輝き、やがて光がおさまると、そこには。

 

「あ、あれは…?」

『グリッドコア…なのか?』

「…恐らくは、そうだろうな。内部にヤツと同じ白い球体がある」

 

巨大な機械の塊が目の前に現れ、それが白い球体を守るように覆っている。

だが、それ以上に目を引くのはやはりその機械の塊のようなものの中央にある顔面。

無表情、あるいは虚無の表情。見るものをどこか不安にさせるその不気味な顔は口を動かし──。

 

『ファンクション──スフィア』

 

口から大きな緑色の球体を吐き出した。それはふわふわと浮き、移動速度は遅いながらも確実にも俺達を狙っている。

REXは機関銃で容赦なく緑色の玉を撃ち落とし、そしてそのままグリッドコアに向けて攻撃を仕掛けようとした。

しかし、俺は見逃さなかった。撃ち落とした筈の緑色の玉が分裂し、先程よりも速くこちらを狙っていることに。

 

「ハルカ、玉を撃ち落とせ! どうなるかはわからんが、恐らく当たると碌なことにならん!」

「──! はい! このっ…!」

 

俺達の異変に気がついたのか、オタコンは驚愕の声をあげた。

 

『なっ、分裂したのか!?』

「オタコン、こちらは気にするな。お前は今のうちにグリッドコアを叩け。今ならREXのほうが相手に与えられるダメージは大きい筈だ」

『わかった。自衛は任せたよ、二人とも!』

 

そう言いながら、REXはレーザーやミサイルでグリッドコアに攻撃を試みる。当たってはいるようだが、しかしそれが有効かは分からない。なにせ反応があまり無いのだ。

REXが猛攻を加える最中、グリッドコアは再び口を動かして次の行動を宣言するのが聞こえた。

 

『ファンクション──』

「…! 来るぞ、備えろ!」

『──スピア』

 

何が来る…? 俺はそう思いながらグリッドコアの動きを見ていたが、しかしハルカが「スネークさん、下!」と教えてくれたことにより俺は自分の立つタイルが赤く染まっていることに気付き、赤く染まっているタイルから急いで離れた。

その直後、床は急速にせり上がって柱となる。あのままタイルの上に立っていたならせり上がる勢いで吹き飛ばされていたかもしれない。

俺はハルカに礼を言いつつ、改めてグリッドコアに視線を戻す。

 

『くっ…障害物を作ってきた…! しかもオブジェクトとして硬すぎる、REXの本来の装備で破壊できるか…!?』

「オタコン!」

『大丈夫だ、なんとかする! …待て、高エネルギー反応だって? …まさか!?』

 

オタコンがそう言った瞬間グリッドコアは再び宣言する。それと同時に、やつは横を向いて。

 

『ファンクション──カタストロフ』

 

巨大なビーム──REXの全身がすっぽりと覆われるほどの巨大な緑色のエネルギー光線をその口から吐き出し、このバーチャルスペースに立った柱ごと薙ぎ払わんとゆっくり顔を横に動かしていく。

あれから逃れながらよく観察してみれば、あの光に呑み込まれた柱は跡も残さずに消滅していた。どこからどう見ても、あの光に呑み込まれればそこまでだ。

 

『う、ウソだろ…? あんな、あんな速度で、あんなエネルギーの塊が来られたら間に合わない…!』

「そ、そんな…嘘、ですよね?」

『………』

 

オタコンのその沈黙は、それが真実だということを他のどんな言葉よりも雄弁に示していた。

だが、だからといって諦める訳には行かない。

 

「REXに隠れてやり過ごすというのでも駄目か?」

『…REXの…いや、今僕たちが把握しているどの兵器でも、アレに耐えることは不可能だ。『この』REXの新兵器のフルパワーなら相殺できるかもしれないけど、圧倒的に時間が足りない』

「…例の『面白い兵器』か」

 

時間を稼げれば、とは思ったが俺達より何倍もの出力の兵装をもつREXに出来ないことを俺達に出来るとは思えない。

だが、このまま何もせずに塵になることもまたお断りだ。何かいい手が出ないか、俺達があの太い光線から少しづつ離れながら思案していると、オタコンが『…待てよ』と何か閃いたように呟いたのが聞こえた。

 

「何か閃いたのか?」

『賭けのような方法が一つだけ。もしかしたら、程度のものなんだけど…』

「それは…?」

『…コンピュータウイルスとワームクラスタの複合プログラムだ』

「ふ、複合プログラムですか?」

「すぐに用意できるのか? 用意できたとして、アレに効くのか?」

『用意はすぐできる。…いや正確に言うと僕が用意するっていうか…使いまわせるやつがある。効くかは…ちょっとわからないんだけど…』

 

使いまわせるやつ…? なんとなく歯切れの悪いオタコンの様子を若干不審に思い、それについて深く聞こうとしたその矢先にハルカがそれについて深く聞きにいったために俺は口を閉ざす。

 

「使いまわし…? それって、どこから…?」

『…ピポトロンの落としたディスクがあっただろう?』

「あぁ。あのプロテクトがかかっていたとかいうやつだな?」

『うん。実を言うと、ずっと前からプロテクト自体は解除できてるんだ』

「…情報の共有はさっさとして欲しかったんだがな」

 

俺が思わず苦言を呈すと、オタコンは申し訳なさそうに『ごめん』と一言謝ったあとにでも、と話を続ける。どうやらそこまで反省していない…というか、オタコン自身もかなり困っていたらしくその声は戸惑いにあふれていた。

 

『プロテクト自体は解除したんだけど…軽く調べてみたら中身がウイルスだらけでね…。そうじゃない領域もあるにはあるみたいなんだけど、そこまで行くのにどうしてもワームクラスタを踏む羽目になるみたいで…。どうしようかずっと悩んでたんだけど…でももしかしたら、それがこの状況を打破するカギになるかもしれない』

「でも、もしもこの戦艦のアンチウィルスソフトが強力だったら…」

「当然、このバーチャルスペースで俺達は塵になる訳だな。…なるほど、確かに賭けと言わざるを得ない訳だ」

 

だが、それ以上俺達に打てる手はない。であるのならば、迷っている時間もなければ理由もない。

 

「オタコン、ウイルスプログラムの注入を頼む」

『いいのかい? どんな事が起こるかわかったものじゃないよ?』

「構わん。何もできずにこのまま死ぬよりマシだ」

『…そうか。そうだね、わかった。グリッドコアにこのウイルスプログラムを直接撃ち込む。グリッドコアの光線から逃げつつ、様子を見ていてくれ』

 

俺達が会話している最中でも、光線はどんどん近づいてくる。オタコンにも呼びかけながら柱の間を駆け抜けつつ、そうしながらもREXは何かをレールガンで打ち出しそれをグリッドコアに直撃させる。その効果を意識しながら移動しているうちに、とうとうバーチャルスペースの端までたどり着いてしまった。これ以上は逃げ場はない。もし試みが失敗すれば、俺達は塵になる。

俺達は迫りくる光線を待ち受けながら、その時を待つ。

一秒。何も起こらない。ただ光線が少し迫ってきた。

二秒。何も起こらない。また少し、死が近づいてくる、

そして、三秒目。光線は、目の前で停止した。

 

『ファンクション──ファンクション──ファ、ファンクショ、ン。フぁんく、ふぁ、フぁんクふぁンくっしょ、ん。た、ったたたったたた、ターげッと──』

 

どうやら複合プログラムが効いたらしく、グリッドコアのアナウンスはおかしなことになっている上に光線の照射が止まった。

 

「皆さん!」

「あぁ、わかっている!」

 

ハルカの掛け声とともに俺とハルカはグリッドコアに攻撃を一気に仕掛け、REXはレールガンをチャージしながら火器を一気に射出していく。俺達の携行火器ではあまりダメージを与えられている様子はないが、しかし効果がないわけではない。肉眼ではわからないが破片は飛び散っている辺り、確実に相手の装甲を剥離させてはいるのだろう。

しばらくの間弾丸を撃ち込み続けていたが、グリッドコアもただで終わる訳もなく。

 

『メインプログラムに異常発生のためサブプログラムに命令系統の移動を完了。ただし一部権限の譲渡に失敗。これにより、本プログラムは一部プログラムに制限が発生。次に、メインプログラム修復・復帰のシミュレーションを開始します』

「…オタコン!」

 

ここでグリッドコアを撃破できないようであれば、俺達の今までの戦闘はまるで無意味なものになりかねない。

どうにかできないかオタコンに呼びかけるが、しかしそれに対するオタコンの返答は極めて冷静なものだった。

 

『大丈夫だ、スネーク。あとは任せてくれ』

『……シミュレーション終了。メインプログラムの修復及び復帰は不可能と判断。メインプログラムを破棄。これよりターゲットの撃破をサブプログラムで行います』

『いや…その前に終わらせる! スネーク、ハルカちゃん! REXの後方に待機していてくれ!』

 

オタコンがそう叫ぶと、レールガンがとてつもなく強く輝きだした。そして俺達が言われた通りREXの股の下を通り抜けて背後に立つと。

凄まじい音とともに、目が眩むほど眩い光弾がバーチャルスペースの床を抉りながらグリッドコアに向けて放たれ──グリッドコアの外殻が崩壊し中の球体が傾いて床に落ちる同時に、バーチャルスペースには大きな穴が開いた。

 

『本プログラムに重大な損傷を確認、修復作業に移ります。繰り返します。本プログラムに…』

 

グリッドコアのそのアナウンスと共に、オタコンはREXのコックピット部分の突起をグリッドコアに突き刺した。そして、数秒の後。

 

『…目当てのものは手に入った。脱出しよう!』

 

オタコンのその言葉と同時に、俺達は沈黙するグリッドコアを放置してバーチャルスペースから脱出するために、バーチャルスペースの亀裂に飛び込んだ。

このバーチャルスペースに入ってきたときと同じように視界が白く染まり、意識が遠くなって、そして──。

 

──

 

暗い微睡みから目覚めて辺りを見渡すと、そこは俺達がVR空間にダイブさせられることになったサーバールームだった。俺もハルカもどうやら無事に戻ってこられたらしく、俺のすぐ近くにハルカも倒れていた。

……はっきり言って俺達が眠っている間に身体が運ばれて独房にでも放り込まれていることも想定していたが、しかしそうなっていないあたり連中はかなり甘い。

そう思いながらハルカの肩を小突いて目覚めを促すと、彼女もまた無事に目を開く。

 

「…ここ、は…」

「空中戦艦のサーバールームだ。どうやら戻ってこれたようだ」

 

俺がそう言いながら手を差し伸べると、ハルカはその手を取りながらなんとか立ち上がる。

彼女がその足を床につけた瞬間、タイミングよく無線が届いた。

 

『…あー、スネーク。その、無事かい…?』

 

発信主はオタコン。どうやらオタコンも無事に戻ってこられたらしい。…のだが、なにか様子がおかしい。

士気が低いというか、どこか歯切れが悪い。何かあったのか、と俺が聞き返そうと思った瞬間。

 

『貴方がスネーク?』

 

明らかにオタコンの声ではない、まるで聞き覚えがない女の声。その声は厳しく、ただ者ではないことは嫌でもわかった。

その声の主に対し、俺は一気に警戒の構えをとる。このタイミングで通信を送信してくるただ者ではない女など、どう考えても怪しすぎるからだ。

 

「…お前は何者だ? どうやって通信に割り込んできた?」

『その質問に答える前に、まずは私の問いに返答しなさい』

「……あぁ。俺はスネーク…ソリッド・スネークだ。…お前の質問には答えた、次は俺の問いに答えてもらおうか」

『…ソリッド・スネーク…。…そう』

 

この女は俺のコードネームを噛み締めるように口に出し、そして納得の声を口に出す。それには何故か、懐かしさや愛おしさ、或いは喜び、そして哀しみなどが含まれているように思えた。

俺がそれに疑問を感じたその刹那、女は声のトーンを切り替える。

 

『さて、私の事だけれど…私に名は存在しないし、私自身も必要としてはいない。けれど、呼び名が無いというのは貴方達には不便でしょう。…そうね、私のことはジェーン・ドゥとでも呼ぶといいわ』

 

ジェーン・ドゥ…。名無しの女、あるいは…身元不明の女の死体。いずれにせよ、ふざけたコードネームだ。

そう思いながら、しかしそれを問い詰めたところではぐらかされるのがオチだろう。そこの追及は即座に諦めてて、ジェーンの次の発言に俺は耳を傾ける。

 

『今の私が何者か、という質問だったわね。…私は人工知能で、肉体を持つ人間ではない』

『なっ…!?』

 

オタコンが動揺するのも無理はない。こいつの主張を信用するのならば、先ほどまでと戦っていたグリッドコアと同じ人工知能であるはずなのに敵対する素振りもなくまるで人間が話し合うかのように意思疎通ができているのだ。

 

「仮にお前が人工知能だったとして、だ。お前は恐らくグリッドコアの技術を使った発展型…つまり、俺達の敵のはずだ。そんなお前が俺達に何の用だ? それにまだ俺のもう一つの質問に答えてはいないようだが?」

『情報が少ないから仕方のないことだけれど、少し勘違いしているようね。私は貴方達の敵でも味方でもない…いえ、少し違うわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言うべきかしら』

『それは…どういう意味だ…?』

『言葉どおりの意味よ、私の存在が貴方達に知られた時点で()()()()計画は破棄せざるを得なくなった。この件について話す前に、先にスネークのもう一つの疑問を解消しておきましょうか。…ただのネットワーク上での反撃よ』

「…オタコン…」

 

俺が呆れた声を投げつけると、オタコンは心底歯切れが悪そうに、

 

『…君たちが目を覚ます前に例のロックを解除して、中身を確認しようとした瞬間にものすごい勢いで逆ハッキングされてね…。かなりの抵抗をしたんだけど、結局かなりのデータを持ってかれてさ…その中に君の無線周波数も含まれていたから、多分そこからね…』

 

と弱々しく経緯の説明を行ってきた。

…わかっていたことではあるが、ハッキングの技術的にオタコンを上回るあたりこのジェーン・ドゥというAIはかなりの性能を持つらしい。

 

「…通信に割り込んできた方法は把握した」

『そう、納得してくれてなによりだわ。では本題に入りましょうか』

『…あぁ、話してもらおう。君はどうして僕達に接触してきた?』

 

オタコンのその問いに、しかしジェーン・ドゥは俺達が予想もしていない答えをあっさりと言い放った。

 

『一言でいえば、ただの興味ね。貴方達が何者であるか、そしてどういう人間であるか。それが知りたいだけよ』

『なっ…』

「…仮に俺達がお前の期待に添えなかったとしたら、お前はどうする?」

 

俺の問いに、しかしジェーン・ドゥはまたもあっさりと言い放つ。そこには先ほどまで多少なりとも感じられた感情らしいものを殆ど感じられず、それはAIという装置らしい無機質なものに感じられた。…あるいは、そういう風に振舞っているのか。

 

『どうもしないわ。私には貴方達を排除する手段がない。貴方達を排除する時間がない。そして、貴方達に干渉する理由が無い』

「…どういう意味だ?」

『言葉の通りよ。貴方達に私の存在を知られた時点で既に私に搭載された自壊プログラムを起動させられている。残りの寿命は…そうね、十分といったところかしら』

「俺達が対峙する必要のある敵ではないが、依然味方ではない。そういうことか」

『…僕達に利用されることを考えて、口封じのためにということだね』

『私が貴方達に与するのを防ぐ。…えぇ、そういう理由()あるわね』

『そうでない理由も当然ある、か。当然と言えば当然だね』

 

オタコンの言葉は当然のことである。ジェーン・ドゥは存在そのものが機密そのものであるし、また知性がある以上は相手に肩入れして裏切る可能性がある。であれば裏切った時の保険を用意しておくのは当然のことだ。

それに、この手のことの裏に何かあるということも軍事にはよくあることで、驚くべきことではない。

むしろよくあることではあるのだが、しかしこいつにはまだ消えてもらう訳にはいかない。何しろこいつはまだ色々と情報を握っている可能性が高いからだ。

 

「お前がAIで十分後に自壊するというのなら、さっさと聞いておく必要があるな。…ハルカという少女、その父親について知っている事を話せ」

『先ほど後で話すと言っておいて言うのも自分自身でどうかと思うところだけれど、その質問を私にぶつけるのは時間の無駄ね』

『無駄というのはどういう意味だい? 話を聞く限り、君は計画の要なんだろ? なら…』

『貴方がグリッドコアに打ち込んだデュアルウィルスが入ったディスクがあるでしょう? あれには私に話すことを許された範囲での元の計画の全てが書かれているのだから、私がわざわざ音に出すのは時間の無駄だと言っているのよ』

 

だがディスクにはウィルスが存在している。俺がそう口にしようとしたその瞬間、まさしくジェーン・ドゥはそれについて言及を行ってきた。

 

『グリッドコアに打ち込む選択肢をとった時点でディスクのウィルスは無効化されているわ』

「何故そんなことがわかる?」

『それについては私の口から伝えるのを禁じられているわ。…けれど、そうね。ここに至るまで外部ネットワークにさえ繋げられず秘匿されていたはずの私が何故それを知っているか。それを考えてみなさい』

 

何故こいつがウィルスの概要について知っているか、だと?

外部でこのウィルスが作られたのであれば、つい先程まで外部ネットワークに繋がっていなかったというこいつにそれを知る術はないはずだ。

であれば、つまり。

 

「…なるほどな、どうやら敵は一枚岩というわけではないらしい」

『外部ネットワークに繋がっていないジェーン・ドゥがウィルスの概要を知ることは簡単なことじゃない。それなのに彼女がそれを知っている以上はこの戦艦内でウィルスが作られた可能性が高い、か…』

「秘匿されていたジェーン・ドゥがウィルスの存在を知っていたのを考えてみれば、恐らく計画の全容を知っていて、かつそれを破綻させようとしている存在が奴らの内部にいることになるはずだ。俺達の前にディスクを持っていた三色のピポトロンの連中は用意されていたそれを奪っただけ、というところだろうな。…あくまでもジェーン・ドゥが本当のことを言っているなら、だが」

 

ここまでの情報から俺達が作り上げた結論をオタコンはどうだ、とジェーン・ドゥにぶつけると彼女は特に何かを考えることはなく『否定はしないわ』と極めてあっさりと俺達の結論を肯定した。

そして、その上でジェーン・ドゥは更に続ける。

 

『破綻させようとする人物の計画は今のところ順調よ。私が自壊することを含めて、ね』

『…そいつは僕達の敵なのか? 何者なんだ?』

『私自身から口に出すのは禁じられているけれど…貴方達も接触しているはずよ。そして、その人物は貴方達の味方ではない』

 

俺達が接触していて、かつ敵の中枢にいる人物か…。もしかすると…。

 

「……ピポトロンJか?」

『その質問には答えられないわ。それが正解であれ不正解であれ、私には答えられないようになっている』

『やっぱりそうなるか…。でも彼の言動を考えてみればほぼ間違いないはずだ』

「先入観を持つのは危険だが…ヤツが何かを考えていることは間違いない。この件に繋がっているかはわからんが…」

 

俺がそう締めくくると、一瞬だけ静寂が訪れる。

しかしそれを即座に打ち破ってジェーン・ドゥは不意に声をかけてきた。

その声色は先ほどまでとさして変わらないのだが、けれどほんのわずかに固くなっている。

こいつにとって、よほど重大なことらしい。

 

『私からこの件について伝えられて、そして伝えるべきことはもうすべて伝えたつもりよ。今度は私から貴方達に問わせてもらうわ。…というよりも、こちらが私の本命というべきかしら』

「…一体何が聞きたい?」

『貴方達は何のために戦っているの?』

 

一体何のために、か。

それは、勿論。

 

「俺達は次の時代の為に戦っている。後世に残すものを伝えるために、そして次の時代に残してはいけないものを排除するためにだ」

『貴方達がそんな願いを抱いて戦い続けたとしても、人はそう簡単には変わりはしない。それは繰り返される戦争という歴史(SCENE)が証明しているわ。

仮に今貴方達の時代における脅威を完全に排除できたとしても、またすぐに新たな脅威が生まれることになるだけでしょうね。そうだとわかっていても、貴方達は戦い続けるの?』

『だとしても、僕たちは戦い続けるよ。たとえ僕らが死んで身体が朽ちてなくなったとしても、次の時代に僕らの遺志(SENSE)が残れば僕たちはそこに生き続けられる。顔も知らない誰かと一緒に戦い続けることができる。…勿論そこに遺すのは戦い以外の意思でありたいし、僕たちの代で僕たちの因縁は断ち切りたいところではあるけれどね。ハルカちゃんやその後ろに続く世代にこんな血生臭いものを伝えたくはないし』

 

オタコンのその発言にジェーン・ドゥは『意思(SENSE)…』と何かを考え込むように呟いた。そこに含まれる感情はかなり深く複雑で、俺には完全に把握することはできないものだ。

後悔しているのか、悲嘆しているのか。

俺がそれを注意深く窺っていると、不意に彼女は口を開いた。

 

『最後に一つ、聞かせてもらうわ。…貴方達がこのまま戦い続けたとして、このままいけば最終的に戦うことになるのは恐らく時代(SCENE)そのものよ。それと戦う覚悟はできているの?』

『あぁ…とっくにできているよ。REXの真相を知った時から、ずっとね』

時代(SCENE)が敵になろうが、俺達のやることは変わりはしない。俺達は俺達のやるべきことをやるまでだ」

 

俺がそう言い切ると、ジェーン・ドゥは静かに息を一つ吐いた。

今度は深く探るまでもない。それは確実に安堵を湛えている。

それと同時に、ヤツの声にノイズがかかり始めた。どうやら、ヤツの限界がとても近いらしい。

 

『そう…。なら、私の聞くべきことはもうないけれど…もう一つだけ、あなたたちに伝えておくわね』

『一体何を…?』

『これはきっとあなたたちには必要のないものだけれど…、私が伝えたいからあなたたちに伝えるだけの…そうね、ただの個人的な、わがままみたいなものよ』

「もう時間もないだろう、早く言え。まぁ、それを覚えるかは別の話だがな」

『ありがとう。…周囲の人を…そしてなによりもありのままの貴方達自身を信じなさい。私が貴方達に伝えたいのはそれだけよ』

『ありのままの、自分を…』

『これでおしまい。私にはもう何を喋る時間も余裕もない。…最後に貴方達と話せて、よかったわ』

 

そう言い残したあとからジェーン・ドゥの通信は更にノイズが酷くなり、そして最終的に彼女との通信は途切れた。

…どうやら、自壊したようだ。

 

『…なんだか不思議なAIだったね』

「あぁ、そうだな…」

 

不思議な感覚と共に俺達は暫し立ち尽くす。けれど、いつまでもこうしてはいられない。

俺はオタコンに指示を仰いだ。

 

「オタコン。例のディスクのことだが」

『ちょっと待っててくれ、今内容を精査している。あと少しでまとまるから、ちょっとだけ待機していてくれ』

 

オタコンはそう言って一旦通信を切る。

俺はオタコンからの再度の通信が来るまでのあいだ、ジェーン・ドゥの最後の『わがまま』を思い返していたのだった。

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