闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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それでは皆さんご一緒に

生きとったんかワレェ!


九話 デート・アンド・

 日も沈み、空が薄暗くなる頃。

 優一は新★マツエパークの駐車場で翼と対峙していた。

 

「それで、ただのデートのお誘いなわけないでしょ?」

「まあね、一応訊いとくけどこっちに来る気は?」

「訊くまでも無いでしょ?」

「この前の試合」

「───ッ!」

 

 優一の体が固まる。翼の言った試合とは《笛吹く姫》、伊藤彩音との試合だろう。

 本来、学内での試合の映像というのは門外不出なのだが目の前の翼は裏の世界を牛耳る“闇”の弟子集団、YOMIのリーダー。試合の映像記録を独自のルートで入手したのだろう。

 

「相手の娘を殺そうとしてたでしょ?」

「それは……」

 

 何も言い返せない。活人拳でありながら相手に殺意を持ち、殺そうとしたのは紛れもない事実だからだ。

 

「何度も言ってるけど、貴方はどうあがいても殺人拳(こちら側)の人間なの」

 

 一歩、翼が近付く。

 

「だまれ……」

 

「たった二年の間にその拳に何度殺意を乗せた? 何度殺意を抱いた?」

 

 二歩、翼が近付く。

 

「だまれ……!」

 

「一度、誰かを殺してみたら? そうすれば貴方がどちら側の人間なのかはっきり分かるよ?」

 

 三歩、翼が近付く。

 

「だまれ……ッ!」

 

「手始めに、私を殺してみる? 貴方になら殺されても良いよ?

 ね、暗鶚の最終兵器さん♪」

 

 左の耳元で、翼が囁いた。

 

「ッ……だまれぇ!」

 

 優一の肘撃ちが翼の鳩尾を捉える。

 しかし、殺気の乗った(・・・・・・)その一撃は翼に当たることなく宙を切る。

 

「ほら、静の武術家なんて言ってる貴方がそんなにも乱されてる。図星なんでしょ?」

 

 右側から、声がした。

 上段横回し蹴り、翼の爪先が優一のこめかみを狙って放たれる。

 それを屈んでかわす。

 

 屈んだままの低い姿勢から左脚に力を込め左膝を伸ばし、右脚で踏み込み、懐に潜り込む。

 放つは洪家拳の五形拳が一つ、蛇拳。

 指先を揃え、手首を内側に曲げた、蛇拳特有の鎌首をもたげた蛇を模した貫手。

 右肘を軸に、下から掬い上げるように蛇の牙が翼の胸元に迫る。

 

「しゅっ!」

 

 蹴り直後の僅かな隙をついた攻撃は翼が上体を反らすことで彼女に当たることは無かった。

 

 

 そう、彼女には。

 

 

「あっ」

 

 ビリリッ、と貫手が翼の黒いインナーをその下の下着ごと破いた。

 ちょうど胸元の、ステラや美羽に比べれば小さいがちゃんと存在を主張する女性らしい膨らみの谷間が顔を出す。

 

 ぴたり、と両者の動きが止まった。

 

 微妙な空気が、辺りを流れる。

 

「へ……変態!!」

 

 バシィンッ! と“可視化不能”の平手打ちが優一の頬を捉え、打ち抜かれる。勢いそのまま、きりもみしてふっ飛んで顔面からアスファルトの上に墜落。

 なお、頬についた赤いもみじマーク以外に、優一には傷一つ無い。

 

「もう、信っじられない!」

 

 優一に背を向けてライダースジャケットの前のボタンをとめる。

 

「つ、翼があんな事言うからでしょ!」

「うるさい! だからと言ってレディの服を破るとか、ましてや、む、胸元をはだけさせるとか武術家以前に、男としてダメでしょ!」

「グハッ!?」

 

 言葉の矢が胸に突き刺さる。

 殺人拳云々の話より好きな人に変態呼ばわりされたことや男としてダメと言われた事の方がダメージが大きい気がする。というか絶対に大きい。

 

 さっきまでのシリアスな空気は何処へやら、今度は気まずい空気が二人の男女を中心に辺りを支配し始めていた。

 

 ぐぅぅぅぅ……。

 

 優一の腹が鳴った。

 

「あ……」

「………………はぁ」

 

 

===

 

 

 場所は変わってマツエパークから少し離れた所にあるファミレス。そこに一輝達はいた。

 ステラの咆哮する腹はステーキプレート6枚、ライス大盛り8杯、デザートの高さ60センチにも及ぶスペシャルチョコレートパフェをもって鎮められた。

 今は食事を終えてコーヒーなどを飲みながらゆっくりしながら談笑していた。

 

「今日はありがとう。おかげさまでとっても良い修業が出来たよ。

 ……黒鉄くん達と修業するようになってから毎日驚きと発見、そして成長の連続だよ」

「いや、綾辻さんの努力あってこそだよ。僕は綾辻さんの背中を押しただけさ」

「ううん、そんな事ない。ボク一人だったら今ほど強くなれてなかったと思う」

「?」

 

 彼女の瞳に何かが揺らいだのを一輝は見逃さなかった。何があったのかは分からない。ただ、瞳の奥に見えた感情は……。

 

 ガッシャアァン!

 

 突如割れる窓ガラス。

 転がり込む三人の人間。

 客から上がる悲鳴。

 少し遅れて割れた窓の縁に足をかける男女の影。

 

「まったく……折角のデートだってのに貴方にくっ付いてきた刺客のせいで台無しね」

「この前のテロは僕関係無いよ?

 まあ、僕達らしいと言えばらしいよね。

 あっ、お店の人、ごめんなさーい!後で弁償しまーす!」

 

 割った窓から入店し、店の中で倒れる大人の男を掴んで外に投げ捨てる。

 

「失礼しましたー!」

「今度パフェ食べに来まーす!」

 

 投げ捨てた大人三人を引きずって店を背にする二人。

 

「やっぱりゆーいちくんって殺人拳向きだよね。普通気絶した人間をバットにして攻撃する?」

「ウチの師匠は人間を手裏剣にするよ?」

「……やっぱりおかしいわ、活人拳」

 

 

 

「……今の、ユウイチとツバサよね」

 

 嵐のように去っていった優一と翼の背を呆然と見送る。

 その時、一輝と綾瀬の生徒手帳が同時にメールの着信音が鳴った。

 メールの内容を確認する。

 

「あの、ごめん! 宇春からすぐに帰ってこいってメールだ ごめんね、先に帰るよ!」

「あ、はい。お気をつけて」

「うん、ありがとう。黒鉄くん! あ、お金はボクが払うよ! 先輩だしね!」

 

 綾瀬はそう言ってそそくさと支払いを済ませて店から出る。

 

「どうしたのかしら、あんなに慌てて」

「それは……たぶん」

 

 一輝が生徒手帳の画面をステラに見せる。

 

===

 

送信者:

 選抜戦実行委員会

 

本文:

 黒鉄一輝様の選抜戦第十一試合の相手は、三年一組 綾辻綾瀬様に決定しました。

 

===

 

 




次回更新日、未定!

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