第一話だけどまだ全然始まってないです。
閑静な住宅街の日本家屋から閑静という言葉に果てしなく遠い男達が出てくる。
「あいや、本日は日本晴れ!桜も見事に咲いているでござる!」
朝っぱらから大声で近所迷惑極まりない年中日本晴れな男、獅子神隼人は本日も平常運行だ。
「ハヤト!忘れ物はないか!」
これまた大声でうるさい年中常夏な男は獅子神萬駆この男もいつも通りだ。
「「「若ぁー!!!」」」
二人のあとからいかにも忍者といった格好の男達が、ぞろぞろと騒がしく湧いてくる。彼らはバングの部下、獅子神忍軍の忍者たちである。
「若、武者修行、頑張ってください!」
「若、遠くから応援してます!」
「若、彼女の一人ぐらいつくって来てください!」
忍者たちは口々にハヤトに声をかける。そう、今日は3月31日、明日から川神学園に転入するためハヤトは今日から川神に居をうつすのだ。
忍者たちにハヤトも言葉を返す。
「応!一番目と二番目ありがとう!三番目は余計なお世話でござる。」
ハハハハッ!と全員で大きな声で笑う、やはりどこまでも近所迷惑なやつらだった。
「獅子神さんたち、今日は朝早いねぇ・・・。」
声をかけてきたのは隣にすむ老人、鈴木さん。どうやら騒がしさで目を覚ましたようで少し眠そうにしている。
「おお!おはようござる、ご老公!」
バングがよすぎるくらい元気よく挨拶をする。
「おはよう、ああ・・、そういえば今日だっけハヤト君が出発するの。少し静かになるかねぇ。」
おそらく鈴木さんは”静かになる”という言葉を淋しくなるという意味でなく、そのままの意味で言っているであろう。
しかし、そうとらなかったバングはにこやかに
「心配ご無用!拙者たちがいるでござる!」
と暑苦しい笑顔で言った。
「そういえばそうだねぇ・・・。」
鈴木さんは苦笑いをうかべる他なかった。
鈴木さんはもう一眠りすると自宅にもどっていった。いがいに図太いご老人だ。
「さてハヤト、本当に忘れ物はないか?」
「もちろんでござる。最低限の着替えに、スマホ、アメニティグッズ、あとは忍道具。その他はあらかじめアパートに送ってあるでござるから安心でござる。」
スマホやら宅配便やら現代社会の利便性をしっかり享受している忍者・・・。
「ならばよし、では行くとするでござるか。」
そう言いおもむろに準備運動を始めるバング。
「え!?バング殿も来るのでござるか!?」
ハヤトとしてはこれから独り立ちという気持ちのところに水を差された気分だ。
「あったりまえでござる!おぬしがこれから世話になるのだ。保護者としてしっかり挨拶をしなければなるまい。」
存外まともな理由にハヤトはなにも言い返せない。
「しかし・・・、その恰好ではまずいのでは?」
「む・・・」
ハヤトの指摘通りバングの恰好はほぼ上半身裸に赤マフラー、ズボンのスリットから赤フンがチラリといった。職務質問をうけること間違いなしのコーディネートだ。
ちなみにハヤトは一度職質をうけてからは外にでるときは普通の恰好をしている。今もなんの変哲もないジャージだ、赤マフラーはしているが。
「ええい!ようはおまわりさんの目にとまらなければいいのでござる。」
ハヤトはここでなぜバングが準備運動をしているのかに思い当たる。
「ま、まさか準備運動をしているのは?」
「ここから川神まで直線距離で20キロメートルもない、なに30分もあれば着く。」
「走って行くのでござる。」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・ふぅ・・・ちょうど・・、30分くらいでござるか。」
「・・・・・・・・・・・おぇ゛っ」
川神にたどり着いた二人は息も絶え絶えといった体だった。それもそのはず二人はここまでアスリートの全力疾走並の速度でノンストップのまま、文字通りの直線距離で高速道路などを飛び越えながらきたのだ。いかに武人が”気”という力で肉体を強化できるとはいえ中々の無茶だった。
しかしバングはもう回復したようで。
「しかしハヤト、だらしないぞ力や速さでは拙者に負けんようになったと思っておったが、持久力はまだまだでござるな。」
これでまだまだとはなかなか厳しい師匠である。
「うう・・・、鍛えなおすでござる・・・。」
期待に応えようとする弟子あってのものだが。
「その意気やよぉし!」
そうして息を整えながら歩いているうちに目的地にたどり着いた。ちなみにバングの恰好を見て驚いていた通行人は何人かいたが、皆なぜか一様にああ・・と納得したような顔をして去っていった。
着いたその場所でまず二人を迎えたのは巨大な門、中から聞こえる修行僧たちの鍛錬の声、そして三つの文字が堂々と書かれた看板。ここが武の総本山、川神院である。
「よし、では・・・。」
そう言ってバングは息を大きく吸い込む。それを見たハヤトは反射的に耳をふさぐ。
「た ぁ の も ぉ ーーーーーーー う!!!!」
ビリビリと辺りの空気が震える。周囲の木々から一斉に鳥が飛び立つ、川神院の中では修行僧たちがバタバタと慌てている。余韻が収まるころに門の潜り戸から修行僧が一人出てくる。
「なんだ貴様ら!道場やぶりか!」
凄まじい剣幕だった。
「あーいや拙者らはけっして怪しいものでは・・・。」
直前の行動と恰好からいって信じられるはずのない弁明だった。
修行僧が今にも襲い掛かってきそうというところでもう一人中から出てくる影があった。
「そ、総代!」
「あー、もうよいその二人を中に入れてやれい。」
総代と呼ばれた老人が先ほどの大声で耳が痛むのか、耳を指でふさぎながら修行僧に命じる。
「おお!鉄心殿!」
バングはホッとした様子で老人、鉄心に話しかける。
「うるさいわい!おぬしの声は普通に話しても一般人の三割増しなんじゃからもっと気を使わんか!だいたいさっきの声もなんじゃ!わしは心臓が止まるかと思ったわ!」
「いやー、鍛錬中のようだったので普通に言っても聞こえないかと。」
だからと言ってさっきのはない。バングを尊敬してやまないハヤトでさえそう思った。
「で、後ろにいるのが例の子かの?」
鉄心がバングの後ろを覗き込むようにハヤトを見る。
「はいっ!拙者の名は獅子神隼人!バング殿の不肖の弟子でござる!」
「おぬしも声が大きいのう・・・。」
鉄心はハヤトの目をじっと見つめ何かを探っているようだった。ハヤトはそのプレッシャーに目を逸らしたくなるが、理由はわからないが逸らしてはダメだと思い、自分に言い聞かせ鉄心の目を見つめ返した。
「不肖なものかよく似ておるよ。声の大きさも、その真っ直ぐな目もな。」
鉄心がそういうとになぜかバングが安心したようだった。
鉄心の言葉にハヤトは内心小躍りするぐらい喜んだ。かの川神鉄心に認められたこともだが、なにより尊敬するバングに似ていると言われたことがうれしかった。
「まあ立ち話もなんじゃ、中に入ろう、茶ぐらいはだすぞい。」
そう言って潜り戸から中に戻ろうとした鉄心だが突然振り向くとハヤトに向かって言った。
「そういえばハヤト・・・だったかの、川神は初めてじゃろ?」
唐突すぎて意図の読めない質問だったがハヤトはそのまま答えた。
「はい?そうでござる。」
そうすると鉄心は少し意地の悪そうな笑みをうかべてこう言った。
「ようこそ、川神へ、歓迎するぞい、盛大にの。」
美少女ゲーム原作なのにオッサンとジジイしか出てきてない・・・。