魔法科高校の劣等生 -Masquerade Devil Hunter- 作:スダホークを崇める者
モチベは相変わらず下がっておらずそこそこ保っているのですが日々安定して文章が浮かぶわけではないのが痛い。
毎日更新している作者さんとかそこらへんどうしているのやらかと常々思っています。
今回の13話ですがやや短めになってます。
まあいつも通りの長さに思うかもしれませんが自分の中では短めです。
まだまだ紫輝の解説ターンは終わりません。
正直このチャプターで大暴れ出来るのって最後の最後くらいだからなのは痛い。
九校戦5日目、新人戦はこれで2日目となる。
この日行われる競技はクラウド・ボールとアイスピラーズ・ブレイク。
女子の方では(そもそも知り合いで出場するのが女子ばかりなのだが)深雪、雫、エイミィが全員アイスピラーズ・ブレイクにエントリー。
クラウド・ボールの方には友人関係に当たる愛梨が、そして間接的な知り合いになる春日菜々美と里美スバルが出場する。
どちらも知り合いが参戦するということで取捨選択が悩ましいところだが、紫輝はとりあえず先にクラウド・ボールを観戦していた。
(まあ、ピラーズブレイクはリーグ制だからその分時間もかかるし、後の方の試合を見ればいいよな。)
スケジュールが詰まった上での移動も慣れっこなので問題はない。
どちらかと言うと、睡眠時間の短さから訪れる眠気の方がよっぽど問題だ。
(……お、ようやっと愛梨が来たか。)
丁度いい具合の緊張感を含む友人の顔を見ると自然に襲い掛かる眠気は霧散した。
ちなみに、今は準々決勝。 愛梨の相手は春日菜々美となっている。
なお、紫輝は到着時間の関係上この二人の戦い方は一切見ていない。
だが、周囲のコメントという断片である程度は概要は頭の中で整理は終えていた。
(春日さんは壁や天井を駆使して自陣にボールを落とさない派手だが理にかなった戦術。 対する愛梨はとにかく速い……まあそれしか分かってないんだよな)
そう、愛梨についてのコメントはとにかく『速い』としか無いのだ。
元々リーブル・エベーという競技では『
その速さがどんなものなのか、それを可能な限り解明する楽しみも加わったと言えば確かにそうなのだが。
そうこう思考している内に試合は始まった。
発射されるボールを愛梨は的確に打ち返し、菜々美は自陣に落ちる前に魔法で変幻自在に返球する。
周囲の壁を利用したその変幻自在の攻めは『虹色の跳弾』(レインボースプリング)という名に違わない。
更に、ただ変幻自在に返しているのではなくあえて落下直前の位置を狙って跳ね返しているので運動エネルギーの利用にも事欠かない。
単純に見えて考えられている、巧妙な策であった。
(しかもこれ、人間の限界スピードをシミュレートしてるか? まあ確かにそれなら並のヤツなら封殺できるが……果たしてどうだ?)
いくら加速魔法を用いても、反応が出来なくてはまるで意味は無い。
初動が遅れるとその積み重ねによってジワジワと取りこぼしが出てくるのだから。
……そして紫輝はここで『
(きっちり全ての球に追いついてるが……明らかに初動が速いな。 魔法発動までがほんの僅かに速い。)
ただ魔法発動が速いと言うだけでは説明が足りないタイムラグの埋まり様である。
気が付いたらその場にいる、なるほど確かに稲妻だ。
紫輝の脳裏には中級でも厄介者に分類されるブリッツがよぎっていた……それほどの『速さ』だ。
(単に加速魔法の効果ってわけじゃねえな……魔法発動のプロセスに何か一工夫あるな。)
紫輝の見立てでは、知覚情報の伝達の効率化……この魔法は使っているのではないかと推測。
下手をすればその伝達した情報から何をすればいいのか、その伝達すらも効率化しているのかもしれない。
……ちなみに、紫輝の見立てはほぼ当たっていた。
愛梨の稲妻の正体、それは知覚した情報を直接精神で認識する魔法とそれに対する最適解を精神から肉体に命じる魔法の2つで成り立っている。
脳・神経ネットワークの介入分のタイムラグがまるっと無くなるので、その差は僅かだが絶大なもの。
この回答に至った瞬間、紫輝はこの時点で愛梨が優勝するであろうと断じていた。
恐らく決勝の相手はスバルになるだろう。
彼女の試合も見たが、自身の存在を感知できないようにする魔法……正しくはBS魔法が働いているのはすぐに分かった。
仮にも気配同調というスキルを独学で身に着けたのでそれくらいはすぐに分かった。
確かにこの競技では地味に効いてくるだろうが、愛梨相手では分が悪い。
恐らく彼女ならばスバルを認識できないのならば初めから認識しないでボールにのみ集中すればそれだけで勝ちだ。
彼女ならばその解にすぐたどり着くだろう……そうなれば負けは無い。
(……この競技限定だと、俺でもちょいと手を焼くな。)
相対することはまずないが、もし自分ならばどうするか。
見立てでは紫輝ならば『素』で愛梨と打ち合いは出来るだろう。
仮にも上級悪魔と殺し合って生還するほどの身、それくらいのことが出来なくてどうするか。
そうなれば、他に必要なのは決定打。
これさえ何とかなれば自分でもいい勝負くらいは出来るだろうか。
そんなことを考えている内に、あっという間にワンサイドに傾いた試合は終わった。
紫輝は知らないが、彼女のこれまでの2試合とそこまで大差のないスコアだ。
(全く、知覚情報の認知と肉体制御命令を精神から直接なんて、よっぽど血のにじむ努力じゃなきゃまず身につかねえ。 これはそう簡単に破れるもんじゃねえな)
紫輝は生き残り、力を得るために死に物狂いでこなしてきた実戦経験から太刀打ちできるが、他の人間はそうでもない。
上級生を退けてミラージ・バットの本戦にエントリー出来るというのはそういうことなのだ。
アレを使わなければ、深雪とて苦戦は免れないだろう。
結局紫輝は残りの全試合もきちんと観戦。 予想通り、決勝のスバル対愛梨は愛梨のトリプルスコアで決着となった。
それでも愛梨相手に二桁のポイントを奪っているだけ他の選手より健闘しているし、この準優勝は十分価値あるもの。
むしろ、昨日のスピード・シューティング女子が本来有り得ない結果なのだ。
……その有り得ない結果を引き出した達也の功績に改めて末恐ろしいものを感じていた。
(さて、昼飯食ったらピラーズ・ブレイクの方か。 試合内容はともかく深雪は何を着るのやらか)
楽しみというよりは不安の要素の方が大半を占めているのが周囲とズレているところなのだが……。
何せ、選ぶのはあの達也だ。 奇抜な衣装はまず期待できないだろう。
衣装を自由に選べるからこそ、多少は冒険して欲しいと思っていた。
そんな不安を隠せない状態で、紫輝はそそくさと昼食の調達へと向かった。
午後、紫輝は上手くいつメンと合流を果たして観戦を共にすることが出来た。
試合が始まるまでまだ時間があるからか、午前中の行動について尋問染みたものを受けている最中。
「……要するに、私たちの試合を放っぽってクラウド・ボールを見に行ったと。」
「1回戦とか雫やエイミィの実力なら余裕だろうに。 それなら後々の試合を見た方がいいだろ?」
「いや、確かにそうだけど……。 まあ、紫輝ならその辺りは仕方ないか。」
ワンサイドゲームよりも接戦を見たい、そんな目線は理解できるには出来る。
が、自分の試合を少しでも多く見てほしいと思うのもまあ無理はないだろう。
「まあ、このことはこれくらいにしておく。 でも、せめて一試合は見て欲しい。 後衣装も。」
「衣装って、お前確か振袖だろ? ファッションショーみたいだと聞いたからもうちょい奇抜なのを期待してたんだがな俺は……。」
ちなみにエイミィの乗馬服は紫輝的にはまだ及第点らしい。
まあ、彼の衣装センスはスケートに基づくものになっているのでそこは仕方ないと言えば仕方ないのだが……。
「……じゃあ、来年ももし出る時は獅燿君が見繕ってくれる?」
「まあ、覚えてたらな。 それまでに大まかなリクエストは考えておいてくれよ。」
「普通にそこは二つ返事で了承するんだな……。」
「っていうか、スケートの伝手をそういうことに利用して大丈夫なんですか……?」
美月の言うこともごもっともではあるが、そこは紫輝だからなのか誰もあえて突っ込まなかった。
達也の何とも言えない人脈もそうだが、紫輝も彼と同じくらい不可思議な人間関係についても深く突っ込むのは同じくらいに野暮だ。
……まあ、実際は人間どころか人外もその脈に含まれているのだが。
と、丁度この話題が終わったところで試合開始のアナウンスが耳に入ってきた。
(おーおー、ミラージ・バット本戦代理選抜ですっかり話題になってら。 多分愛梨たちもこの試合は見てるんだろうな……ん?)
自身と同じく上級生を押しのけてのミラージ・バット本戦出場の選手を見ないわけがないだろう。
さて、それぞれの自陣に試合を前にする二人が入場してきたのだが……。
(巫女服かよ!?……マジかスタンダードにも程があるぞ……)
周囲が見惚れたり絶賛する中、紫輝だけはそれこそ盛大にズッコケてしまっていた。
あまりにもベタすぎる(紫輝からすれば)選択に、今すぐ達也を探してハリセンをかましたくなったほどだ。
「ちょ、どうしたの紫輝君いきなりズッコケて。」
その中でも割とドライな反応を示していたエリカが真っ先に紫輝の状態に気が付いた。
周囲も思わず見惚れるのを止めて紫輝の方を向いているが、誰一人としてその理由に思い至っていない。
「……あんまりにもどノーマルな選択につい反射的にな。」
「え、でも深雪凄い綺麗だと思うんですけど……。」
「綺麗なのはそりゃそうだ。 でもあれじゃあ面白味ってもんがなあ……遊びが無さすぎるだろうに。 こういう格好も精神的要因になるのは分かってるんだがな。」
一体何を言っているのか分からないとばかりにハテナマークが飛び交っているが、まあ無理もない。
傍から見れば見当違いなダメ出しだろうし、紫輝も自身の言い分がおかしいのは承知した上での物言いだ。
それでも、あまりにもベタすぎる選択というのはどうにも受け付けないのだ。
唯一紫輝の内面の理解が深い幹比古くらいだろうか、この思考回路を理解しているのは。
……そしてその頃、別の席で妹を見守るThe シスコンが軽めのくしゃみをしていた。
「あら、達也君がくしゃみなんて珍しいわね。 体調は大丈夫?」
「ええ、問題はありません。 ……多分紫輝が深雪の衣装にダメ出しをしているんじゃないかと。」
「おいおい、まさかそんなこと……いや、有り得るなアイツなら。 『ベタすぎてつまらない』と評しそうだ。」
摩利の予測、まさにドンピシャであった。
実は達也も紫輝に衣装を打診してはいたのだが、兄妹の基準からして明らかにおかしいものばかりなので全て却下している。
紫輝としては普通に妥協してセレクトしていたのだが、それでもスケートの衣装基準なので露出がまだまだ多めだったのだ。
それでは流石に時代錯誤にも程があるだろう。
なお、それを紫輝に指摘したら『常々思うんだが、みんながみんなそんな清楚な佇まいじゃつまんねえだろうに』と返されたという……。
「相手はすっかり飲み込まれてるわね。 確かにこれをひっくり返すには衣装を奇抜にするくらいしかないかも。」
「獅燿がもし出ていたら衣装的に話題になった可能性もあっただろうに、それはそれで残念だな。」
「ある意味なんでもやってきそうで怖いんですがね。」
そして、そんな2カ所によるやり取りを尻目に深雪はただただ深呼吸をしていた。
下手に魔法を暴発させないように気を落ち着かせているのだ。
(……ここで魔法を暴発させたらお兄様にご迷惑を掛けてしまうわ……それに、間違いなく紫輝に一生言われ続ける……それだけは絶対に避けないと……)
今でもダブルアクセルが飛べないことを忘却の彼方へ消し去らせることを許さない紫輝のことだから容易に想像できる。
なお、その件の紫輝は仮に深雪がやらかしたとしても衣装の方にしかツッコミは入れないだろうが……。
そして、霊子の動きすらも穏やかになるこの静謐なこの雰囲気の中、試合はスタートした。
それと同時に深雪の初動により一気に空気は緊迫したものに急変する。
何せ、深雪が速攻で放った魔法により対の光景が一気に展開されたのだから。
「片や熱気、片や冷気。 ……あー、これ『
「って、獅燿君のコメント本当冷めてるけどこれ地獄絵図じゃん。 どうにかなるのこれ……。」
エリカの独白に、答える……というより回答出来る人間は誰もいない。
対抗策というものが全く浮かばないのはどうしようもないことだろう。
何せこの魔法、アイスピラーズ・ブレイクという競技においては攻防を共にする理想的な広範囲魔法なのだから。
(要するにマハラギダインとマハラクカジャを同時に放ってるようなもんだからな。 ただの戦闘なら使われたところで脅威でも何でもねえが、この競技だと結構面倒だな。)
悪魔が使う魔法の中で広範囲兼高威力を誇る火炎と堅牢さに拍車を掛けさせる防御補助、これを1つの魔法で行っているのは能率面では最高であろう。
現に相手選手は自身の魔法が全く効かず、灼熱地獄によりいたぶられる氷柱には何もフォローが出来ない。
まさに八方塞がりであった。
結局成す術なく氷柱は全滅。 深雪のパーフェクトゲームで決着となった。
「あっけない閉幕だな。 まあ、妥当だが。」
「おいおい、もう少し深雪さんの勝ちを喜んでやった方がいいんじゃねえか?」
「フライングとかしなければそうそう負けねえだろアレは。 誰か上手いこと意表を突いてくれないもんかねえ。」
そう言いつつ紫輝の視線は雫の方へ向いていた。
出場メンバー的に考慮しても、深雪対抗馬第1号なのは彼女。
そのことから来る期待の視線。 雫はそれを分かった上で笑みを零す。
「まずは決勝へ行ってからだけど、もし当たることが出来たらやられっ放しのつもりはさらさら無い。 勝つ気で行くよ。」
「おう、その方が俺は楽しいからな。」
俄然やる気になった雫に対して満足げな笑みを見せる紫輝。
身内の応援よりもより面白い試合を所望する、ある意味酷薄だがどこまでも紫輝らしかった。
会場整備のためのインターバルの最中
紫輝は頃合いとばかりに定期連絡を入れていた。
とりあえず今のところ悪魔関係の動きが無いことから一旦索敵行動を止めたという旨まで伝える。
「それが賢明だな。 そっちには独立魔装大隊の幹部陣も控えているし、いざという時に君が疲労困憊では極めてまずいからね。 後流出した資料だが恐らく人造悪魔関連のみで『帰天』についてはほぼノータッチだったみたいだ。」
「まあ、アレは自然発生の悪魔が大量に必要になるからコストパフォーマンスは激悪ですから。 無頭竜は所詮は犯罪シンジケートでしか無いですからね。」
「後厄介になりそうなのは……そうだな、鎧の破片も奪われているところを考えると前に報告があったグラディウス・カットラス以外にもいるだろうね。」
ルシファーの懸念については紫輝も考えうる最悪の事態を想定していたから結果的に杞憂と言えた。
鎧の破片ということは、恐らくあの量産型中級悪魔も出てくるのはほぼ間違いない。
だが、そのレベルでも言うほどの脅威ではない。
最大の脅威は言うまでもなく帰天した存在が新たに生み出されること
何せ、ベースにしたモノによっては下手な上級悪魔よりも強い悪魔が誕生してしまうのだから、その脅威度は計り知れない。
「では、次はあちらが動き出した頃合で。 それまではのんびり観戦していきたまえ。」
その言葉を最後に通話は終了。
時間はあるが早めに座席を戻ろうと踵を返しかけたところに見慣れた人影が視界に入る。
形だけでも先ほどの優勝を祝ってやろうと歩みを進めると、丁度友人二人……沓子と栞と話しているところのようだ。
「確かに司波深雪はとんでもない魔法力の持ち主。 でも、競技会である以上魔法力だけで勝敗が決まるわけではないし、私たちはそのように努力を積み重ねてきたわ。 とんでもない強敵だけど恐れては駄目よ。」
「そうじゃのう。 それに、あのレベルの魔法師とぶつかるのはまさに絶好の機会。 あやつと当たるであろう二人が羨ましいのじゃ。」
先ほどの深雪の圧倒的な試合運び(紫輝からすれば順当すぎてつまらないが)を見て改めて鼓舞を入れているのだろう。
若干手が震えているところを見ると恐れが全くないわけではないが、それを表に頑として出さない。
(いい牽引役してるじゃねえか。 俺も見習うべきだな。)
いくらリーダーとはいえ人間、恐れを抱くのは当然のことだ。
しかし、そのようなネガティブ要素は己の内に留め、周囲に伝染するのを避けるのは士気の維持には不可欠。
恐らく、この上に立つ資質という意味では深雪よりも愛梨の方がより良いものを持っているだろう。
「ところで愛梨。 そこにいるのは知り合いかしら。」
「え?……って、貴方はこんなところで何をやっているの紫輝。」
意識的に気配同調を解いたのはいいが、予想以上に早く気付かれてしまった。
話が切れるタイミングで綺麗に割り込もうと思っていたのだが……。
「小休止がてらに通話してその帰りにお前らがいたからちょっとな。 クラウド・ボール優勝おめでとうさん。 よくあんな効果的なモノを身に着けたもんだ。」
「ありがとう。 やっぱり貴方はきっちり気付いたのね。」
「光井じゃったか、あの女子も気づいておったが……お主の場合は眼だけで理解するとは、流石じゃ。」
沓子の口からほのかの名が出たことは何も言うことは無い。
二人は同じ競技に出場しているし、沓子の方から何かアクションを起こしても何もおかしいことはない。
「紫輝……もしかして、貴方が愛梨の言っていた獅燿紫輝君、でいいのかしら。」
「おっと、そういえば初めてだったな。」
「その時栞は塞ぎこんでおったからのう。」
容赦ない沓子の発言に言葉を詰まらせかける栞だが、そこには表情の陰り等は一切見受けられない。
完全に吹っ切っれているようにも見えるその様子に、口端は僅かに上がっていた。
「でも、その状態から吹っ切ることが出来たのは貴方のお蔭でもあるわ。 それについてはお礼を言わせてもらうわ。 ……でもいいのかしら。他校の選手を復活させるようなことをして。」
「俺はあくまで困ってる友人をちょいと後押ししただけさ。 それに俺としては面白いものを見せてくれる人間は一人でも多い方がいいってのもある。 むしろどこぞのブラコ……もとい最有力選手に一矢報いて欲しいくらいだからな。」
「自分の所属校のエースを負かしてほしいだなんて……愛梨の言う通り、変なところで薄情ね。」
「周りに同輩がいなくて良かったのお主。 あの司波深雪を負かしてほしい等と聞いたら何が起こるか分かったものではないぞ。」
あの容姿に加えて圧倒的魔法力ということを考えれば、校内での人気については彼女たちで無くても誰でも想像できることだ。
まあ、本来の深雪の顔を知っている身からすれば、その評価自体が紫輝にとっての苦笑対象なのだが、言わぬが花というものだ。
「まあ、とりあえず3人共頑張ってくれや。 俺としても貴重な練習時間を割いてまで魔法力のごり押し試合を見に来たってわけじゃねえからな。」
「無論よ。 初めて見た時は聞いたことが無い名だったので誤った評価を下してしまいましたが、慢心は全て捨てます。 ミラージ・バットにて全身全霊で彼女を倒すので、貴方も根を詰めすぎて肝心な時に睡魔に襲われることが無いように。」
「だ、そうだぞ栞。 これはなかなかにプレッシャーじゃな。」
「沓子ならお手の物でしょうけど、確かに私には高いハードルね。」
「気を張ることはねえさ、俺は少なくとも眼はそこそこに肥えてるからな。 玄人好みは大歓迎さ。」
計算に裏付けされた栞の戦術は確かに玄人好みの面はあるだろう。
しかし、スピード・シューティングの時は達也の対策を先に理解したからこそ栞は分が悪いと踏んでこそいるがそれと戦術の好みは別だ。
紫輝の美的感覚上では、豪快な雫よりも緻密な計算の元で成り立っている栞の戦い方の方が好みだった。
ただ、勝てば官軍である都合上それを口にすることは無いが。
そんなこんなで紅一点とは真逆の状況を全く感じさせない様子で三高の三人娘との雑談で時間を潰す紫輝。
妹分や同郷に見られたらさぞかし色々言われそうだが、幸いほとんど誰にも見られずに済んだとか。
その後に行われた2回戦でも無事に深雪、雫、エイミィは突破して明日のブロック決勝に駒を進めた。
無論の事だが栞も完封勝利を果たして次はエイミィとぶつかることとなる。
ほのかのバトル・ボード予選圧勝も合わせて、夕食の席では女子の間では達也の評価が鰻上りであった。
……なお、対照的にイマイチ奮わなかった男子は負のオーラを巻き散らしていたが……。
そして夕食を終えて各々の部屋に戻ろうとしたそのタイミングでまさかの三高の面々とドッキングすることとなった。
しかも深雪と愛梨がきっちりと顔を合わせるというおまけつきである。
共にミラージ・バットの本戦に出場する身……ということだけでなく、懇親会での愛梨の深雪に対する発言のこともあって周囲は一触即発の空気を予想した。
が、愛梨にそのような意図は全く無く、まずはその1件の謝罪。
そして、改めて真正面からの宣戦布告を行った。
別の形で静かに……ただし負の感情は見られない様子で火花を散らす二人。
深雪がどのような反応を見せるのか、遠目で見守っている達也以外は好奇の目を向ける中(真由美は何かやらかしてくれないかと期待しているくらいだ)、深雪は静かにそれを受け取った。
虚勢を見せることも、臆する様子も一切見せない……紫輝からすればまだまだ猫を被った状態で。
そんな若々しいやり取りをしている者達と打って変わって、1人静寂の中で紫輝は今日も氷の上を舞っていた。
今日はひたすら通し練習なのだが、若干変わった手法を試していた。
(……状態も状態だからか、結構くるなこりゃあ。)
フリーの3度目の通しで紫輝は若干だが息を荒げていた。
本来ならばこの程度の回数の通しならばこのようなことになるのはそうそう有り得ない。
が、今はとある先人が試した体力増強手法……高難度ジャンプを入れられるだけ入れる試合では出来ない構成に臨むということを行っていた。
その選手がやっていたのは全ジャンプ4回転トウループだが、まだ完全安定ではない紫輝は後半のジャンプを代わりに3A関係、しかも全てコンボにして代用。
それでも前半3つは全て4回転トウループ、更に後半はトリプルアクセルのコンビネーションのオンパレード。
その成否も4回転トウループが時折ステップアウトorオーバーターン気味の着氷になるくらいという確率もまた恐ろしい事実だ。
ここまでやる気を見せたのは、今日の愛梨の試合が要因である。
普段の軽い雰囲気とは裏腹に割と負けん気を発揮することも多いので紫輝らしいと言えばらしいのだが。
更に、決して万全ではない今のコンディションでの負荷を掛けるという普段とよりかけ離れた練習もやりたかったので丁度よかった。
特に試合になるとジャンプ以外……特にステップ、スピンのレベルを取りこぼすことが多いからその対策にもなり得る。
あらゆる意味で今の紫輝に丁度いい練習法だ。
(まあ、この程度でへばってたら勇利さんには遠く及ばねえからな……可能な限り痛めつけておかねえとな)
現在日本男子を一人で牽引している先輩の姿を浮かべながらひたすら滑り込む紫輝。
ただ、いくら苛め抜くとは言ってもその場で動けなくなる程まで疲労して氷の上で一夜を過ごすなんてことになったら洒落にならない。
遮二無二ではなく、帰る分の余力はきっちりと残してこの日の練習を終えた。
ふと体力お化けな先人のことを思い出して行った練習だが、思った以上にハードだがその分効果も大きい。
(悪条件下の練習、これもこれからのメニューに追加だな。)
自身の内で感じる成果に納得しながら、帰路に着く紫輝。
……なお、翌日まで残るであろう疲労のことはあえて考えないことにしていた。
九校戦6日目(新人戦3日目)、この日ではバトル・ボードとアイスピラーズ・ブレイクの順位が遂に決まる。
まず行われるのはピラーズ・ブレイクのブロック別の決勝戦。
最初に行われるのは紫輝の再注目試合、エイミィ対栞のカードだ。
ちなみにこの後はバトル・ボードの準決勝へ急行するのでその忙しさは凄まじいことになっている。
(片や豪快、片や緻密。 奇しくもスピード・シューティング準決勝と似たような光景だな。)
昨晩やや調子に乗って自身を苛め抜いた影響を全く表に見せず、紫輝はこの一戦をただただ楽し気な表情で心待ちにしている。
エイミィは氷柱そのものを巨大な鈍器と用いて相手の氷柱を破壊する戦法取り、片や栞は計算に計算を重ねた上での波の合成を武器にする。
全く持ってタイプが違うのでどちらが有利になるのかは読めないが、それがまた面白さを増長させていた。
「分かってたけど本当に楽しそうだね紫輝。 この試合が終わったら寝そうで心配だけど。」
「あー……そうだな。 今はハイテンションで誤魔化せてるがこの試合が終わったらちょっと部屋に戻って寝るかもしれねえ。 何だかんだでキツイ。」
「……大丈夫? 試合見ないで深雪に凍らされそうになっても私は助けないよ?」
「おいおいエリカ、俺が深雪に口で負けると思うか?」
物凄く何かを含んだような笑みを見せる紫輝に、エリカはこれ以上何も言うことはなかった。
それもそのはず。 紫輝と深雪が舌戦を繰り広げる場面は割と見受けられるが、紫輝が負けた例はほぼ皆無に等しい。
深雪が静かな怒りを発した時に見せる凍り付くような笑みも、悪魔を狩るのが日常茶飯事なこの男にはそよ風程度にしかならない。
一高唯一の対司波深雪抑止人員は伊達ではない。
「深雪さんと北山のリーグ行きがかなり濃厚と見えるから、ある意味この一戦が一高ワンツースリーフィニッシュのキーってわけか。」
「でも、相手の十七夜選手はスピード・シューティングの時から立ち直っててより手強く感じるから……なかなか厳しそうですよね。」
スピード・シューティングの時はどこかに気の緩みのようなものも僅かに見られたが(それでも敗退の原因は達也対真紅郎にあるのだが)、今はそれが無い。
その間接的要因となった紫輝としては嬉しい話だが、一高対三高という観点で見るとなかなか厄介だ。
女子スピード・シューティングこそ一高のワンツースリーフィニッシュだが、新人戦だけでも男子スピード・シューティングと女子クラウド・ボール、更に本戦の方でも男女バトル・ボードは三高が優勝している。
アイスピラーズ・ブレイクでも2位を取って食らいついているので稼ぐことが出来る時に稼いでおきたいところ。
それを考慮すると、直接対決となるこの試合の重要性が増すのは必然的と言えた。
例え新人戦でポイントが半分だったとしてもその影響は断じて小さくない。
そんな緊張感が若干増した空気の中、メインキャストの二人が舞台へと上がっていった。
(……緊張は問題なさそうだな。 だが、試合前に見かけた時は顔色がいいようには見えなかったのが気がかりだな……。)
遠目であったが、本調子とは言いにくいような状態に見える。
エイミィは努めて自然を装っているが、紫輝の人外染みた直感は誤魔化せない。
大事な局面ではやはりフィジカルがものを言う。
ただでさえ接戦の可能性が高いこの1戦で抱えるそのマイナスに、紫輝は表にこそ出さないが若干の不安がよぎっていた。
そんな何とも言えない空気の中、開始のゴングは鳴った。
まずは仕掛けたのはエイミィ。 先手必勝とばかりに意気揚々に魔法を発動させる。
(単純に見えるがやはり起動式に無駄がない。 自身の柱を犠牲にこそするがとある側面で見れば強いんだよなこの戦法は。)
氷柱を倒して豪快に転がす、いわば柱そのものを動かす豪胆な戦法。
自陣のストックを使うこの一見デンジャラスな戦法のメリットに紫輝は即座に気付いていた。
栞はこれまで用いてきた波の合成でローリング氷柱を止めようとするも、魔法そのものが効力を発揮しない。
先に『柱そのものを動かす』という事象改変が働いているところに新たに上書きするには相応の干渉力が必要になる。
深雪クラスならば無理やり出来るかもしれないが、基本的にはそうそう出来ることではない。
先んじて情報強化を掛けた柱もこの勢いから発する運動エネルギーにはとても敵わず、まるでボーリングのようになぎ倒されていた。
「すっげえストレス発散になるよなこの魔法。 やってみてえな……。」
「待った紫輝。 君がこれをやると惨状を引き起こしかねないから止めた方がいいと思う。」
紫輝の小さな呟きにその真の意図を理解した幹比古が止めを入れた。
彼には想像できたのだろう。 自前で用意した氷柱で対象は7ヘルズやスケアクロウなどのあくまで下級悪魔を、しかも薙ぎ倒すのではなく轢殺するという光景が。
確かにゾロゾロ沸いてくる雑魚にやると鬱憤も晴れるだろう。
しかし、それに気を良くしてテンションがハイになることで周囲に被害を及ぼしかねない。
ちなみに、その会話を聞くだけ聞いていたケルベロスとネヴァンも幹比古の思考に全力同意していた。
「ま、まあ何はともあれこれで2個リード、先手は打てましたね。」
「でもこのまま終わらせてくれるとは思えねえな……何せ相手が相手だ、対策の1つは練ってるだろ。」
「三高の参謀役もそこそこやるみたいだからねえ……。」
エイミィの先制にそのまま押し切れと熱を上げている者もいるが、紫輝の周囲はまだまだそれには早いとばかりに平静を保っている。
スピード・シューティングでも見せた圧倒的な計算能力、栞の固有能力とも言えるそれが逸る心を抑える楔となっていた。
先制成功の勢いのまま、エイミィは2本目の柱も同じようにローリングさせ栞の陣地に猪突猛進させる。
1本目よりも勢いが増しているようにも錯覚出来るその様子に観客のボルテージはますます上がっていく。
栞は今度は先ほど試した波の合成による妨害は行っていない。
このまま2つ目の列も纏めて倒されるか……と思われたが、ぶつかった先頭の氷柱は倒れずに何故か滑走する。
直線上に滑る氷柱は後ろの氷柱も巻き込んで滑って行き、3つ目でそれは止まる。
そのまま一体化した3本の氷柱にエイミィが放った氷柱がぶつかるが、質量の差が災いして破壊することは敵わなかった。
「氷柱が倒れずに滑りやがった……まるで摩擦が無くなったみてえだが……。」
「みたいじゃなくて、実際に摩擦を無くしたんだ。 まあ、あくまで一時的だがな。」
「え、でも待って。 1つ目と2つ目は確かに一緒に滑るけど3つ目はぶつかる側の質量が倍になってるから壊れるか倒れない?」
エリカの言うことは最もで現実の光景と矛盾しているように見える。
しかし、この問題は簡単に解決できるのだ。 そしてここから先が栞の独壇場と言える部分である。
「そのままならエリカの言う通りだ。 だが、この摩擦係数変化には続きがある。 神がかりと言えるその計算能力で3つ目と接触するその瞬間に1つ目・2つ目の氷柱の摩擦係数も一緒に増大させて慣性移動を停止させてる。 だからこそピッタリ3つが一体化してるのさ。」
「スピード・シューティングの時もそうでしたが、そんな細かすぎる計算をあっさり処理できるなんて……。」
紫輝が述べる事実に思わず絶句するのも無理はない。
あまりに細かすぎる制御、こんなもの普通の魔法師ならばまずパンクする。
それを易々とこなす栞の計算能力に改めて舌を巻いていた……それは別の場所で観戦している達也も同じくだ。
「というか、このタイミングでやる辺り策士だな。 エイミィの勢いを完全に殺して主導権を握るつもりか。」
「確かに完全に虚を突かれてる……このままじゃ格好の獲物だ。」
あえて初っ端からこれを使わなかったのは精神的ダメージをより増大させるのが狙いだったのだろう。
1回は成功させ、通用すると思ったところに防がれた方が打撃が大きいのは言うに及ばず。
そこを畳みかけるように、栞はお得意の波の合成をエイミィの陣地へと放った。
「おいおい、このままじゃあっちのワンサイドになっちまうぞ? そんなのは見たくねえぞ俺は。」
「そ、そんな呑気に構えてる場合じゃないですよ、このままじゃあ……!」
「ああ確かにこのままボケっとしてりゃあ終わりだ。 ……ったく、弾は残ってるんだから湿気た表情になるのは早いだろうが。」
あくまで飛ばすのは檄。 断じて悲壮感を醸し出すことは紫輝はしない。
一見絶体絶命だが、まだエイミィに勝機が無いわけではない。
参謀の彼がこの事態を想定していないとは露にも思っていないこともある。
が、それ以上に感じていたのだ。
(……無意識の縛りプレイは一旦終わりにしな。 )
彼女から感じる違和感……その正体は一種の鎖、またはリミッターと言えるもの。
そんな紫輝の独白が届いた……わけではないだろうが、次の瞬間。
「そんなの……いやっ!!!」
何かを振り払うが如く声を上げるエイミィ。
そして呼応するように残った氷柱の内1本が今までやられっ放しだった鬱憤を解き放つが如く発射される。
ソレは不意を突かれる形で栞の陣地の氷柱が一列……3本まとめて粉砕していた。
「わ、いきなりどうしたの!?」
「アレがエイミィの本来の力なんだろ。 あのローリング戦法はアイツからすればおとなしすぎるくらいだったからな。」
塩味然としたコメントとは裏腹に笑みを浮かべていた。
これこそが、彼がこの場で観たかった光景だったのだから。
(そうだ、これ以上頑張ってもしょうがないなんて嘘だ、思ってもいないし思いたくもない。 嘘は無意識に現実を塗り替え、やがて真実になる……やっと、あの時のグランマの言ってたことが分かったよ)
幼い時の遊戯でわざと負けた後に受けた祖母の言葉。
咄嗟についた嘘を即座に見抜いただけでなく、それがもたらす危険性を静かに指摘してくれた。
あの時は何を意味するかは分からなかったが、この土壇場でその言葉を思い出し、そして己の内面と向き合った。
もう迷うことは無い。 やれることを最後までやるだけだ。
「よし行けもういっちょだ!」
迷いが無くなったエイミィは更にもう1発自陣から『砲弾』を発射させる。
「く、させない! 防御に徹すれば……!」
雲行きが怪しくなったからか、栞の表情からも余裕が無くなっていた。
情報強化の防御を堅固にして対応しようとするが、全力全開の砲弾はそんな容易に防げる代物ではない。
先ほどと同じように3本まとめて破壊、数はこれで一気に3対2と拮抗する。
「すっげえ! これならギリギリ行けるぞ!」
「ああ……このまま持ってくれれば……っておいおい!?」
反撃の糸口を掴み、引きずられるようにイケイケな雰囲気になるかと思ったその矢先。
まるで充電が切れたかのようにエイミィは膝を着いてしまう。
「予想以上の消耗……普段はまずやらないリミッター解除だから燃費の方までは回らなかったってワケか。」
「いきなりブースト圧を変えるようなものだから無理も無いけど、まさかの悪い方向に博打が働いたのか……こうなると十七夜選手の反撃で終わってしまう。」
案の定エイミィの攻勢が止まったことで栞に再起の機会を与えてしまっていた。
少し息を整えてから、トドメの合成波を放った。
現在エイミィの氷柱残数は2だが、砲撃魔法を使う手前1本でも失ったら敗北が確定してしまう。
万事休すか……と思いきや
「あれ、氷柱がちょっとだけ動いてる……? もしかして波の焦点から逃れるため?」
美月の呟きの通り、本当にゆっくりとだが2本の柱が逃れるように動いていた。
合成波発生、焦点から逃れる……このイタチごっこを続ければ逃げ切ることは不可能ではないだろう。
……だが、数の上では負けている以上タイムオーバー狙いの逃げでは何も意味は為さない。
「でも、最後の砲撃を打とうにもあんな状態じゃ威力が足りないだろ? もし足りたとしても、2回目に防がれてそのままになってる分の柱もあるから、更に強い砲撃じゃねえと数の上で負けちまう。」
「だがそんな事実は関係ない。 何本壊さなきゃいけない条件だろうが、やらなきゃ勝てねえんだからな。」
そう、更に言えばこの後更に試合が控えていようがそんなことも当然この際無勘定だ。
今この瞬間で勝利を得るか、はたまた目前で攫われるか……ただそれだけなのだから。
……エイミィの様子からしても諦めるという選択肢はとっくに捨てているようだ。
後は、この敗色濃厚の現実を己のイメージ1つで打ち砕くだけだ。
(……どうやら、覚悟はできたみてえだな。)
合成波の衝撃の余波で氷柱が削れてきているので時間もないが、エイミィの様子を見てもはや何も言う必要はなくなった。
覚悟を決め、文字通り限界まで想子を引き出し。
「これが、最後……行けー!!!」
最後の大一番、これまでで一番の勢いでファイナルアタックを仕掛けた。
これに対して栞がどうするか……選択肢は事実上二つ。
クロスカンターが如く残った氷柱を狙うか、防御に専念するか。
勝ちの芽という意味ではどちらもそう大差は無いかもしれない。
が、エイミィの気迫に圧されたのか、それは分からないが彼女が選択したのは後者、防御策であった。
(くっ……もう後の試合どころか、肉体・精神どちらのことも考慮しない全開……! でも、それでも破壊されるわけには……! 私のことを信じてくれている愛梨のためにも……!)
栞も栞で残った想子全てを防御に注力。
エイミィの相手の氷柱を全て打ち砕くイメージか、または栞のあらゆる攻撃を全身全霊で防ぎ切るイメージか。
長いようにも思えたこの一瞬の競り合いは割とすぐに決着が着いた。
「通らなかった……?」
エイミィの氷柱が先に根を上げて砕け散っていた。
その光景から、エイミィの惜敗か……と誰もが思ったが
「いや、そうでもねえみたいだぜ?」
紫輝だけがその雰囲気に待ったをかけていた。
一体何事かと彼と同じ場所に目を向けると、そこには目を疑うような光景があった。
エイミィの氷柱が玉砕したのとほぼ入れ違いで、栞の氷柱3本全てに横一線の亀裂が入っていたのだ。
そして、3本まとめて同じように上部が崩れかける様となった。
「……負けたわ。 ……完敗、よ……。」
既に精魂尽き果てて倒れたエイミィ、それに続くように栞も静かに倒れこんだ。
彼女もまた、最後の防御で全ての想子を使い果たしたのだろう……まさに死闘と言える一戦だった。
「……見事だ。 俺が見たかったのはまさにこういう死闘……ここに来た甲斐があったな。」
そんな二人に向けて、紫輝は静かに拍手を送っていた。
文字通りぶっ倒れるまで死力を尽くした試合、彼が最も見たかったものをそれを見せてくれた二人にはただただ感謝の意しかなかった。
疲弊しきった二人はそのまま病院へと運ばれた。
深雪と雫と共に決勝リーグへ勝ち上がったエイミィだが、この状態では当然棄権せざるを得ない。
まあ、残った3人全員が一高なので決勝リーグそのものを行わないで全員同率1位にするという案も上がっていたくらいなので、本来なら戦う必要もないのだが。
だが、残る二人……特に雫が深雪と試合を行うことを強く希望していた。
対する深雪も断る理由は無いようで、エイミィは棄権により3位確定、残る二人で優勝を争うこととなった。
そして同刻、別の病室にて
「ようやく起きたわね。 お疲れ様、栞。」
「愛梨……? 勝つことが出来なくてごめんなさい。」
決勝リーグについての説明の為に無理やり起きたエイミィとは対照的に栞はゆったりと目を覚ましていた。
最初に浮かんだのが勝てなかったことに対する謝罪ではあったが、スピード・シューティングの時に比べてマイナスの感情はそこまで感じられない。
むしろどこか清々しさが感じ取れる、そんな穏やかな顔をしていた。
「全力を出し切ったとてもいい試合だったわ。 紫輝もとても賞賛していて色々モチベーションが上がったみたい。」
「むしろ彼は次の決勝リーグを楽しみにしておいた方がいい気がするけれど……それは言わない方がいいかしら。」
「まあ、彼としては一高の順位よりも1つでも面白い試合が起こる方が大事だから当然と言えば当然だけれど。」
二人は知らないが、元々九校戦の観戦はついででしかないのだ。
あくまで無頭竜の動向の探り、悪魔を動員させている場合はその駆除の方が主目的。
それが無ければ今でもホームリンクでJGPS(ジュニアグランプリシリーズ)に向けた調整を行っていただろう。
更に言うなれば、ただのエリート学生が琴線に触れることもまずない。
そういう意味では、ここまで圧勝という言葉で済まないワンサイドゲームを連続している深雪も面白い部類には入っていない。(まあ身内だから手の内を知っているが故でもあるが)
選手そのものに独自性、または紫輝の感性を刺激するものがあるか、または試合そのものが紫輝のアスリート部分を刺激するものであるか。
今回の試合は後者に当てはまり、心の底から躍動したのだった。
「それにしても、悔しいはずなのに凄い清々しい気分ね。 前みたいに塞ぎ込むのではなく、この敗北を先へ生かさないと……そう思えるほどに。」
「この短い間で強くなったわね、栞。」
「貴女のおかげよ、愛梨。 貴女という最高の友人のおかげで、私は過去に縛られない未来を見つめられるようになったのよ。 だから、ありがとう。」
この言葉を聞いて、愛梨は内心で安心していた。
今朝、栞からの決意表明を聞いた時からずっと思っていたのだ。
栞にはただ自由に、自分のために力を尽くしてほしい、と。
それは自身が一色の家を背負っている立場だからこその願いでもある。
(……栞は私たちの思っている以上に強い心を持っていたわ。 まさに貴方の言った通りだったわよ、紫輝。)
ある意味きっかけを見出してくれた紫輝にささやかな感謝を送りながら歩を進める。
栞があれだけの戦いっぷりを見せてくれたのだから、今度は自分の番。
ミラージ・バット本戦……同じ1年で更に自身より魔法力が上手の深雪がいるだけでも厳しい戦いになるのは言わずもがなだ。
しかし、それでも勝ちに行く。 そう己を鼓舞出来るだけのものを栞から受け取ったのだから。
というわけで、個人的に割と好きな試合、エイミィ対栞でしたー。
優等生オリジナルの試合は結構好きな試合が多いのでこちらでもピックアップしていきますよ。
割と紫輝が薄情な面が見られますが、彼は面白い試合が見たいので、その末で身内が勝った負けたはそこまで重視はしていません。
結構出番がおとなしいとはいえ、ちょこちょこ紫輝の細かいところを明かしていくようにしています。
まあこういうところまでこだわろうとしてるから執筆が遅れるのですが……。
さて、そろそろGWが近づいてきますが私はアイスショーを見に行くので(4/29と5/4)そこまで時間が取れるわけではありません。
FGOのCCCコラボとか艦アケイベント2回目、更にはブラウザ版の春イベも始まるというトリプルコンボも待ち構えてますからね……。