魔法科高校の劣等生 -Masquerade Devil Hunter-   作:スダホークを崇める者

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はい、約2カ月ぶりです。
言い訳になってしまいますが、仕事の方がかなり忙しくなってとても執筆に割けるような状況ではありませんでした。
ただその間もチマチマ設定や先の展開の詰めはやっていました。 そんなことするくらいなら書けよって言われれば本当にその通りだと思います。
しかも今回のアップも半ば強行です。(まだ15話は書ききれていないので)
というよりも早く九校戦編は終わらせたかったので15話はかなり詰め込み状態になっています。(字数が過去最高になる可能性高し)
ただそのお蔭で第16話で無事に九校戦編を終え、ある意味本番その1の夏休み編に入れそうです。
ただこの16話も割と大変そうですけどね……優等生がどこまで進んでるかが把握できてないのですが、ミラージ・バット本戦ってまだですよね確か。
とりあえず、執筆スピード自体は仕事が少し落ち着いてきたので少しは戻せそうです。
16話を可能な限り早く書き溜め、続く15話も早めに上げられるように努めます。
遅筆かつ更新不定期な本作品ですが、どうかよろしくお願いいたします。









14. 水上デッドヒート&氷炎魔界

 

アイスピラーズ・ブレイクの決勝リーグの面々が次々と決まる頃には並行してバトル・ボードの準決勝が行われていた。

紫輝はエイミィの試合後すぐさまバトル・ボードの会場へ直行。 競技内容を考慮するとこちらの方が紫輝好みなので当然と言えば当然だ。

深雪と雫の対決が決勝で発生する可能性も高いので優先順位はこちらの方が上である。

準決勝の第1試合、スタートこそほのかは出遅れて2番手に甘んじるがそこから一見するとコーナリングでスキを突いて先頭に躍り出る。

……無論相手のライン取りが甘くなったとかそういう簡単な話ではない。 当然達也仕込みの効果的な策が仕掛けられていた。

というのもこの試合は全員がサングラスを装着するという奇妙な光景が広がっていたのだ。

理由は言うに及ばず、ほのかの冒頭発光妨害……要するにフラッシュ対策である。

本来なら水飛沫によって視界が奪われやすいので敬遠されるが、そのリスクを負ってでもフラッシュは対策しなければならない。 まあ当然の選択だろう。

しかし、これもまた達也の計算の内。 フラッシュによるスタートこそ行わなかったが更なる策をほのかに授けていた。

サングラスを装着する場合、水飛沫のリスクも当然あるのだがそれ以上に厄介なのが暗所の認識がしづらくなる点だ。

要するにコースの切れ目……走行ラインを見極めることが難しくなる。

そこにダメ押しとばかりに影を誤認させるような幻影魔法を用いてよりラインを甘く取らせる。

そうすれば後は栄光の花道。 あっさりと先頭を奪い、ジワジワと差を広げてのトップチェッカーであった。

相手のみ走行ラインを縛らせた状態で自分は悠々と抜き去るという一見エグい戦法は紫輝にとっては好物以外の何物でもなかった。

魔法の使い方もそうだが、策によってラインをこじ開けて突破するところに暇なときに読んでいる某走り屋漫画が浮かんだからだ。

そして、もう一方の準決勝から上がってきたのは当然のように沓子。

まさにエキスパート対策士、対極とも言える決勝戦だ。

「っていうか、紫輝は大丈夫なのかい? 今日は2つの会場を行ったり来たりじゃないか。」

「まあ、バトル・ボード決勝までは余裕で持つだろうがピラーズ・ブレイクは分からん。 最悪寝てるかもしれねえ。」

「確かにピラーズが決勝1戦のみになるのは濃厚で時間的余裕が出来たとしてもそこまで休めないもんね……って言うか紫輝君がそこまでお疲れっていうのも珍しい気が。 何かあったの?」

その疑問があったのはエリカだけではなかったようだ。

達也もそうだが、紫輝も相当タフな人間だと思っていたらしく、まだまだこの程度なら余裕だと自然に思っていたのだ。

そんな彼の、やや疲労の色が見える様子はやはり少々意外だったようで。

「昨晩ふと『そういや、全ジャンプをクアドにする練習ってのもあったな』と思い至ってその場のノリでやってみたら思った以上にキツくてな。 まあ転倒は無かったがステップアウトだのオーバーターンだの増えて余計に体力も消耗してこの有様だ。」

「おいおいおいおい、すぐに海外入りだってのに大丈夫なのかよそんな無茶して。 コーチも頭抱えそうだぜそれ知ったら。」

「いや? そのことを伝えたら『まあ、紫輝だからな。』と言われただけだが。」

それは要するにそういうものだと諦められているのでは……紫輝以外の考えは全員一致していた。(美月がそれを口にしようとしたがエリカが止めた)

まあ実際はその思考は半分間違っていて、諦めているというよりはどうにかなるだろうというある種の信頼の方が強い。

そもそもスケートにおいては博打というものを紫輝は嫌う。 クアドの確実性はかなりのものになっているので心配する要素もそこまででもないのだ。

それにもし、紫輝が明らかな無茶を言い出したら止めるし、紫輝もきちんとそこは従う。

この絶妙な距離感と信頼関係、これこそが紫輝と高島コーチが上手くいっている要因でもある。

そんな雑談も程々に、紫輝たち(結局皆心配で同行することに)はバトル・ボード決勝の観戦へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピラーズ・ブレイク程では無いがバトル・ボードの会場もかなり客席が埋まっていた。

現状評価では沓子の方が有利と見る者が多いようだ。

ただ、予選と準決勝でほのかは全く別々の策を実行したので今回も何かしでかすのではないかと期待する声も少なくない。

確かに予選・準決勝を見る限り展開次第でどうにでも転がる対決だ。

紫輝の中で浮かんでいる展開は2つ。

その中で結末のみ抜擢すると、大差で沓子が勝利するか僅差でほのかが辛勝か、このいずれかだ。

前者が浮かんだ要因は単純なカン。 沓子がここまで何かを隠していると告げているのだ。

そもそもあそこまで予選と準決勝で派手に得意魔法を使っておいて対策の更に上を考えないはずがない。

ただ序盤はあくまで様子見でここまでと同じ出力にするだろう。

それで勝てれば良し、そうでなければ隠し持ってるだろう奥の手や絡め手でほのかのリズムを崩す。

そしてそのまま沓子が逃げ切り1着というのが前者の全貌だ。 それを覆すのが後者のパターンとなる。

「何だか、本当に解説席に座ってる人みたいですよ獅燿君。 凄い読みと言うか……。」

「いや、所詮は今までやってきたゲームとかから引っ張ってきただけの経験則、更にあくまで俺だったらという仮定も混ざってる。 行うのは一丁前の人間なんだから参考程度に留めておいてくれ、外した場合恥ずかしいからな。」

「とは言っても何だかんだで外さないと思うんだけどねー。 確かにあの三高の娘、まだ何か隠し玉があってもおかしくないし。」

エリカの後押しに対してレオと幹比古も同様の感想を抱いている。

明らかにここまでのレース、聞いた感じではまだ沓子には余裕すら感じられるのだ。

特に同じ古式魔法、それも精霊を使役する身の幹比古はその傾向が強い。

そろそろ始まるのでそこから先は言わなかったが、この決勝戦で鍵になるのはとにかく揺れない精神力。

どうあってもほのかは沓子の策に対して受け身に回らざるを得ないので、そこを耐えることが出来るかがカギになる。

そんな紫輝の思考を他所に決勝戦はスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(よし、スタートはOK! 冒頭の水面操作は封じることが出来た!)

先頭を陣取ったのはほのか。 スタート直後の水面に領域干渉代わりの鏡面化魔法を放ち沓子の先手を封じた。

古式魔法の初動の遅さに付け入って水面に対して先に情報改変を行うことによる改変妨害、更に加速魔法で先を行ったのでひとまずはまあまあと言ったところだろうか。

しかし、遅れを取ったはずの沓子の表情は涼しい。 想定の範囲内と言ったところだろうか。

(古式魔法の弱点は織り込み済みじゃ。 だからこそ、ここから仕掛ける!)

殆ど予備動作もなく得意魔法を仕掛けてきた。

スタート後のストレートから少し先の区間の水面が荒ぶりだし、先行するほのかを飲み込まんと牙を剥きだす。

これまで沓子と対戦した選手は為すすべもなく飲み込まれた脅威そのものだが、ほのかの顔に焦りはない。

(その程度は想定済み! ……タイミングはここ!)

次の瞬間、大半の人間は目を疑った。

何せ、いきなりほのかはボードと共に上に飛び上がったのだから。

(跳躍魔法によるショートカットは禁止じゃぞ? 一体何を……ん?)

背後から訝し気にほのかの動向を観察する沓子であったが、すぐに状況を察した。

ほのかはただ跳躍したのではない。 あくまで水面にギリギリ触れるレベルで上に飛んだだけだ。

そこからすぐさま水面にボードをギリギリ接した状態を維持して一気に通過する。

ボードそのものは水面に触れているので水面上の走行とみなされる上に荒波の影響を受けない。

まさにルールのギリギリを突いていくこのやり方は達也仕込みだろう。 明らかに影響されていた。

これには紫輝もご満悦の様子。

(なかなか良い対策じゃ……じゃが、まだまだ仕掛けは先にあるぞ?)

水面すれすれ走法により荒波を突破される光景を見ても沓子は慌てない。

コースの先の方へ仕掛けてある精霊を活性化させようと仕掛ける。

(精霊の活性化ノイズ! ……よし、見えたよ達也さん!)

だが、その仕掛けが通じるほどほのかは甘い相手ではない。

達也から自身の強み、『光に対する感受性』は対沓子では立派な武器になることを伝えられている。

発動までのタイムラグ、その間で精霊の活性化ノイズを即座に認知。

後はピンポイントに精霊を抑え込む消波を叩き込むだけの簡単な作業だ。

(……なっ、精霊が抑え込まれた……そうだ、あやつそういえば光のエレメンツじゃったな。 それならば視認できてもおかしくはない。 ……ははは、こうでなくてはな!!)

自身の得意技が徹底して抑え込まれたことに僅かな驚きを見せるが、クラウド・ボールの試合を観戦している時のことを思い出す。

あの時、本当に分かりづらい愛梨の魔法もほのかは視認できていたのだ。

精霊が活性化する際に発するノイズが見えてもおかしくはない。

これまでとは違い対等に渡り合ってくる相手を前に、沓子は無邪気な笑みを零していた。

まさに彼女が求めていたのはこれだ。 互いの技と知略がぶつかり合う本物の勝負。

決勝にしてようやくこの高揚感を味わうことが出来ていた。

レースの方へ戻ろう。 精霊を抑え込んだことでほのかを阻むものは暫くは無いので快走が続いている。

順調にコースで最も高い場所に位置する滝の頂に差し掛かっていた。

(ここは一番位置が高いから全体を見渡すには絶好の場所! そしてそれを抑え込めば……!)

1周目終盤、ここまで割と上手く行っているからかほのかの表情は余裕が見えた。

しかし、そこに緩みがあることに彼女自身は果たして気付いているのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、完全に油断してるぞ。 このまま行ったら世の中苦労は無いんだがな……。」

モニターに映ったほのかの表情に紫輝の第一声がこれだった。

余裕がある表情と言ったが、紫輝からすると明らかに緩みすぎに見えているようだ。

「え、でも精霊は抑え込んでるからほのかさん有利なんじゃあ……。」

「素人目だが走行技術は拮抗してるか若干有利なくらいだ。 このまま押し切れるんじゃねえのか?」

紫輝のネガティブ意見に待ったをかけるのは美月とレオ。

相手のメインウェポンを封じているし走行技術では劣っていない。

確かに、普通に見れば負ける可能性はそう考えられない……そう思うのも無理はない。

「二人ともそれは楽観視しすぎ。 あの三高の選手、まだ何か企んでてもおかしくはないわよ。」

「僕もそう思う。 確かにさっきは光井さんが精霊を抑え込んだけど、まだ何かあっても驚くことは無いよ。 精霊魔法というのはそんな簡単に徹底対策出来るものじゃないからね。」

対してまだ安心するには早い、紫輝に同調する意見を示すのは幹比古とエリカだ。

エリカはその観察眼から、幹比古は精霊魔法を操る者としての意見から。

二人がまさに紫輝の懸念事項を代弁してくれたので、紫輝は更に経験論からの補足を付随する。

「まあ別に余裕があるのは悪いことじゃあないが……ほのかのあの様子は明らかに緩みすぎだ。 ああいう状態は瞬間判断力を鈍らせる。 判断間違えて逆転される可能性は普通にあるぞ。」

ここまで紫輝のほぼ予想通りの展開になっているのだ。

沓子の様子見の策をほのかは確実に突破していき、リードを広げていく。

だが、それでもなおほのかが大差で負けるor僅差でギリギリと予想したのは、このほのかの気の緩みにあったのだ。

このような強敵との競り合いというシチュエーションを体験したことが無いから仕方ないことなのかもしれないが、その油断は猛毒だ。

一発勝負の競技の世界に身を置いている紫輝ならではの予想、まさに的中していた。

「でも、一体相手は何やるんだ? 精霊をやっても抑え込まれるだけなのが関の山だぜ?」

「……いや、同じものを使うにしても使い方次第で効力は違うよ。 古式魔法はいわば騙し合いの側面もあるから、その方向で少し工夫すればその効果はガラッと変わる。」

「俺ならそうするな。 油断してるところに騙し打ちをかけて一気に精神的打撃を与えて逆転……理想的なシナリオだ。」

この時エリカは『紫輝君なら確かにやりかねないね……。』とボソッと呟くが当然紫輝の耳に入っているので軽いデコピンをお見舞いされた。

そんなことを話している間に、先頭のほのかがコース内最高高度に達して、コース全体を見渡していた。

「……やはりな、そう簡単に勝たせてもらえたら苦労はねえ。」

逸早く事態を察した紫輝の静かな独白。 それはここからの苦戦を予期させるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滝の頂上からコース全体を見回したほのかはその異様な光景に顔を青くしていた。

(え、これ……ほぼ全域? ちょっと待って、これどうすれば……。)

そう、ここから先のコースほぼ全域に魔法が仕掛けられている跡が見えたのだ。

いくら消波を叩き込めば無力化できるとはいえ、これだけの量に対応していては想子切れは確実。

とりあえずは最も近いところ……着地地点付近のトラップを消そうと消波を放つ。

……と、すぐに手応えに違和感を感じた。

(あれ、さっき無効化した時に比べて手応えが軽い……っ! そうか、ダミー……!)

明らかに消した対象の中身が無いことから即座にその結論に至ることが出来ただけマシだろう。

しかし、いくら光に対する感受性が強くてもダミーと本物の違いを見極めるのは現時点では困難を極める。

片っ端から消していくわけにも行かず、やや戸惑いながらもループへと入っていく。

無論ここにも魔法は仕掛けられている。 ただ、本物かダミーかが見分けがつかない以上突っ込む以外なかった。

(ここは小さい波……ここも! 本物だけど効力そのものは小さいからそのまま通過できる! 古式魔法は偽装も多いって聞いてはいたけど、こういうことね。)

単純に水面に仕掛けたトラップによる妨害ではなく、虚偽も織り混ぜて精神的に揺さぶり、あわよくば想子切れを狙った戦法に切り替えてきた。

沓子の第2の策もきちんと看破したのでまだまだ大丈夫……ループの出口に向かいながらほのかは再度安堵していた。

しかし、その表情はループの出口に差し掛かる辺りで再び崩れることとなった。

(え、ちょっと何!? 不意打ちが過ぎるよー!)

咄嗟に跳躍魔法を放って即座にそれを回避した。

そう、ループの出口にこれまでのものとはまるで違うトラップ……渦が仕掛けられていたのだ。

危うく足を取られるところだったが、反射的に避けることはできた。

しかし、不完全な回避だったのかバランスを崩してしまう。

「お先じゃーっ!!」

そこに機を伺っていたのか沓子が瞬く間に抜き去っていく。

まさに二重の策。 最初は精神的動揺を誘い、安心するも束の間大物トラップで不意を突く。

見る者が見れば褒め称える光景だろう。

だが、沓子の猛攻はまだまだ終わりを見せることは無い。

「ようやくこれを使えるわい。 さあ、突き放すぞ!」

ほのかを抜いた勢いそのまま……いや、むしろ増強して2周目に突入する沓子。

その直前に古式魔法で使うためのCADを装着している方の手で何かを操作している沓子の様子を確かにほのかは見た。

(え、そっちもCAD!? しかもアレは移動系……現代魔法!?)

古式魔法使いと思っていた矢先の光景に更なる驚愕を生む。

使用想子を緻密にコントロールしないと出来ないCAD2丁同時使用を沓子はこの舞台でやってのけていた。

というのも、この一見型破りにも見える現代魔法・古式魔法の同時使用は沓子ならではの技術とも言える。

何せ使用している古式魔法は四十九院のルーツとも言えるもの、寝ていても使用できるほどの熟練度がある。

ならば、同時に使う際は現代魔法の方によりリソースを割いてしまえばいい。

まさに合理的な手法である。

(って、何この水流……! さっきまではこんなんじゃあ……あっ!)

対するほのかは更なるペースダウン。

水面を見ると、明らかに沓子の仕業ととれる恐ろしい波が彼女の行く手を阻んでいる。

何故このタイミングか……僅かの逡巡でほのかは気づいた。 この為の移動魔法であったことを。

駄目押しとばかりの移動魔法は単にほのかとの距離を開くためだけでなく、荒ぶる波の範囲から離れるという目的もあったのだ。

何にせよ、この状況を打開しないと勝機など生まれない。

が、先ほどの跳躍で飛び越えるにしろ意味はなく、それをやったら無駄にスタミナを消耗してますます泥沼だ。

(このまま……負けるの……?)

明らかにほのかから戦意が無くなってきているのが遠目からでも分かる。

そんな様子を見て、沓子は自身の勝ちを確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席でもほのかの敗戦ムードにやや雰囲気が暗かった。

無理もないだろう。 明らかに崩れかけているメンタル、ジワジワ削り取られる体力。

ここからの逆転など流石に厳しい。 それが大多数の思考であった。

「やるな沓子のヤツ。 まさか古式魔法と現代魔法を同時に使うとは……それに心理戦も上手い。 見ていて楽しいなおい。」

「っておいおい紫輝、呑気に感心してる場合じゃねえだろ。 これ明らかにやばいぞ?」

予想通りとはいえ、ここまで鮮やかにレースをコントロールする沓子に対して素直に賛辞を贈る紫輝。

まさに望んでいたのはこのような試合であり、更に沓子の試合の運び方が好みドンピシャなのでその喜びようもなかなかのもの。

ライバル校の選手の戦術に対するこの喜びようは一見薄情に見えるが、紫輝はこの場に対して望んでいるのは『面白い試合』だ。

それを見せてくれるならば、例え同郷でなくても喜び褒め称える。

だが周りはそうもいかない。 ほのかの失速に焦りを見せているのは真っ先に紫輝に待ったをかけたレオだけではない。

「徹底的に翻弄された形だから厳しいな……。 後1周あるとはいえ平常心を取り戻して更に追い上げというのは……。」

「言うまでもねえがキツイな。 そこらのエリートならそのまま戦意喪失の敗退安定だな。」

この状況を覆すのは並大抵のことではない。

可能不可能以前にそれを実現させようとする揺るがない精神。

序盤有利の状況を崩されてここまで追い打ちを掛けられた今、それを維持するのは相当に難しいことだ。

そのハッキリとした物言いから、ほのかの準優勝が確定か……そんな雰囲気になりかけるも、紫輝は続ける。

「だが、少なくともほのかは元々自分の技量に自信がないからこそ人一倍入念に練習してきた。 少なくとも逆転のカードは揃ってんだ、後はガッツだろ。」

「え、逆転のカードってそんな要素があるの? まさかの達也君の隠された秘策とか?」

唐突の掌を返したような意見に素っ頓狂な声で問われる。

しかし、紫輝はそうそう見せない真面目な表情のまま首を横に振り否定した。

「言っただろ、入念に練習したと。 それがまさに打開策だ。 後は……いや、これについては別に言わなくてもいいか。」

「え、そんな風に切られると余計に気になっちゃうんですけど……。」

「まあ、気持ちは分かるけどこれが紫輝だから諦めよう柴田さん。 今はとりあえず光井さんがいつも通りに戻ってくれることを祈るだけだ。」

続きはWebで、とギャグを飛ばすようなノリで答えをはぐらかす紫輝。

それでいて、内心では檄を送っている。

(思い出せ、今までやってきたことを。 そして浮かべろ……誰にその勝利を捧げるのかを。)

それらのピースが全て嵌った時にこそ逆転の狼煙は上がる。

そして、何かを見出したのか彼女の顔が上がった瞬間に直感が発動した。

『まだ勝負の幕は下りる時ではない』、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほのかの内に電流が走ったのは沓子がダメ押しとばかりにより水流を荒くしたときだった。

あまりに激しい水流から、目の前に大きな波が現れている。

そのまま飲み込まれるか……否。

(……そうか! まだ私にはこれがあった!)

飲み込まれるどころか、逆に波を制して逆に糧としていた。

思い至ったと同時に体が動いていたが、その動作には何の淀みもない。

まさに水を得た魚。 先ほどまでの失速加減が嘘のような見事なV字復活を遂げていた。

(そうだ、私にはSSボードで築いてきた技術があった。 そしてその技をアレンジして練習を重ねたこの走り、これもまた私自身の力、そうでしたね、達也さん!)

ほのかの脳裏にはかつて達也に贈られたその助言、そして達也自身が浮かんでいた。

これには紫輝による『達也の助力を無駄にしない』、この助言がここに来て生きる。

無意識下ではあるが、達也への想い……『依存』が彼女の力を最大限、いやそれ以上に引き出していた。

いわばゾーンに入った状態だ。 そして、観客席の紫輝はまさにこの時を待っていたとばかりに笑みを浮かべている。

(なんじゃあれは!? まるで曲芸のようにスイスイとかわすなど今まで見たことないぞ!?)

想定外の追い上げに沓子の表情に初めて焦りの様子が見えた。

しかし、ここに来て自分が築いたリードを思い出す。

(だが、流石に半周程の差を詰められるということは……なっ!?)

ふと後ろを振り返ると先ほどまでのアドバンテージは既に半分は縮まっている状態になっていた。

恐るべし猛追。 それはまさに殿一気を目論む追込型の競走馬のよう。

(仕方ない、ここはもう大盤振る舞いじゃ!)

先ほどまであった勝利への確信はもう捨てていた。

今出来うる最大限の水流操作……それはもはやお伽噺に出てくる嵐のようだった。

ここが海ならばまさに生か死かの瀬戸際の戦いになるし、この舞台でも下手をしなくても相当な危険が伴う。

(大丈夫、今の私なら行ける!)

しかし、ほのかには何も関係はない。 今はただ己の勝利を達也に捧げるが為に邁進するのみ。

通るべきラインが見えているのか、そう思わせるくらいの鮮やかな回避だ。

減速する素振りもなく、むしろ余計に加速しているようにも見えた。

嵐を抜けたら、もう既に沓子の背中を完全に捉えることが出来るほどの差になっている。

残すは終盤のループ……その中で鍵になるのは出口のコーナーだ。

ここは下りになっている上に見た目以上にRが厳しくインを攻め切るのが相当難しい。

まさに僅かな技量の差が左右する、レースの最終局面を占う重要ポジションだ。

そのことは沓子もほのかも重々承知している。

(まさかここまで追い上げられるとは……じゃが、最後の最後でインを譲らねばわしの勝ちじゃ!)

ループ内でもジワジワと差を縮められるが、沓子の意識は勝負所の出口にしか向いていない。

背後から迫られるプレッシャーも何とか振り切り、ループの出口に差し掛かる。

それと同時に可能な限りリスクを削り、かつ1人分のスペースを開けないくらいにインを詰めているように見えた。

……そう。 見えただけ。

(今……!)

本来ならいないはずなのに、彼女はそこにいた。

沓子はインを締めたはずなのに、ほのかはどこ吹く風かその有り得ない場所を位置取っていたのだ。

(な、わしはインを取ったはずじゃぞ!? ……あ、まさか準決勝の時の……!)

何が起きたのかはすぐに思い出すことが出来た。

そう、ほのかが準決勝で見せた幻覚魔法である。

この土壇場で内側にある影をより濃くして目の錯覚を起こし、インを取ったように見せられたのだ。

実際はギリギリ一人分のスペースが空いており、ほのかはそこに飛び込んだ。

この競りに競った状況だからこそ、そして猛追をかけるほのかのプレッシャーに飲み込まれていたからこそ見逃し、引っかかってしまった。

最後の最後で逆転、その勢いを持続させたままほのかは逆転先着でチェッカーを受けた。

 

「よっしゃ、よくやった。 というかこんな面白いものをよく見せてくれた。 というか最後のぶち抜き方はアレか、どこぞの豆腐屋みたいで最高だったぞ。」

「落ち着いて紫輝君もはや何言ってるか分からないから。 日本語喋ってよ。」

二転三転する展開、元々こういうレース系の接戦を見るのもまた好物な紫輝は終わってからもテンションが上がりっぱなしだった。

ちなみに豆腐屋の中でも特に浮かんできた光景はヘッドライトを消して奇襲をかけるブラインド・アタックだったようだ。

当然これを理解できる人間はこの場にはいない。 いたら相当の変わり者と言える。

「にしても、あそこから持ち直す辺り光井さんも存外ガッツあるんだな。」

「おいおい、単に自己評価が低いってだけでメンタルが弱いってわけじゃあねえんだぞ? 恋する女子ってのはそういうもんだ。」

「そういうものでまとめちゃっていいのでしょうか……。」

まあ実際問題、エレメンツ特有の『依存』を力に変えただけでなくSSボードの経験を活用したのも大きな要因だ。

使えるものは何でも使い、達也への恩義に報いる……まさにほのからしいレースだった。

普段のどこか小動物を思わせる仕草が多い彼女をよく見るこのメンツからすれば結構意外だったことだろう。

「それにしても、紫輝はよくここまで読めるものだよ……。 殆ど展開が当たってたじゃないか。」

「ほのかだけでなく、沓子の方も接触して性格の片鱗は把握していたからな。 後は魔法特性とかも入れれば大体読めるさ。」

「達也も大概だが、紫輝もやっぱ頭切れるよな……流石は筆記学年3位。」

この場合筆記の順位は関係するのか……と思ったが突っ込むのは野暮なので何も言わなかった。

さて、無事にバトル・ボード女子はほのかの優勝により三高の追撃を更に抑えることが出来た。

ワンツースリーフィニッシュが確定しているアイスピラーズ・ブレイクもあるのは大きい。

まあ、男子がその分成績が奮わないお蔭でイーブン寄りになってはいるのだがこの際贅沢は言ってられない。

「……さて、次はアイスピラーズ・ブレイクなわけだが決勝が1戦のみになったわけだから時間はある。 よって早めに席を取って寝るか。」

「それもそうだね。 多分超満員になりかねないから早めに移動しよう。」

「あの、獅燿君明らかにおかしい言葉があった気がするんですけど……。」

美月の指摘も空しく全員は移動を開始する。

深雪と雫という色々な意味で好カードな戦い、是非とも観戦したい人間は多いだろう。

今からでも間に合わないということも有り得るくらいだが、その時はその時だ。

なかなかの強行軍だが、こればかりは致し方ない。 やれやれとため息をつきながらも紫輝達はアイスピラーズ・ブレイクの会場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その最中、一足先にアイスピラーズ・ブレイク決勝の会場に到着していた達也は二人の上級生に囲まれながら試合の開始を待っていた。

「超満員ねー。 そういえば獅燿君達は今どこに行ってるの?」

「バトル・ボード女子の決勝を見てからこっちに来るはずですよ。 アイツはバトル・ボード一押しですからね。」

「まさにイメージ通りだな。 そうなるとますます面目ないな……。」

「いや、渡辺先輩が気にすることではないでしょう。」

冗談なのか真面目なのかは分からないが自身が参戦していた準決勝の事故のことを思い出すも、即座に達也はフォローを入れる。

実際摩利に落ち度があったわけでは断じてないのだから本当に気にする必要など微塵も無いのだ。

そんな中真由美は意地の悪い笑みを浮かべながらこんなことを尋ねる。

「それにしても、本当は深雪さんの方につきたかったでしょ達也君。」

まあ、弄るための問いであることは言うに及ばずだ。

普通ならば狼狽するなりそれに近い反応を示すだろう。

「ええ、勿論です。」

しかしそこは達也、にべもなくこのような返答である。

下手な反応をしようものならまず弄られるのは分かり切ったことなのでもう隠さずに堂々と、だ。

「清々しいくらいの即答っぷりだな……。 シスター・コンプレックスという単語を知ってるか?」

「身内を応援しているだけでシスコンと呼ばれる理由が分からないのですが。」

摩利がストレートに弄りにかかるがこれも柳に風。

まあ、それくらいでシスコンなんて呼ばれたら世の中の仲が良い兄弟はみんなシスコンなりブラコンとなってしまう。

達也の返しは全く持って正しいのだが、この際その正しさは何も意味を持たない。

「ちょっと摩利、聞いた? 完全に開き直ってるわよ。」

「これは重症だな……獅燿のやつを呼んだほうが……いや、アイツもその可能性もあるか……?」

本人の前でヒソヒソ話という意味のないこと(実際狙ってやってるのだろうが)をする二人の思考回路に疑問を持ちながらスルーする達也。

……が、最後の方に明らかな間違いが含まれていたので、本人の名誉のためにも口を挟むことにした。

「渡辺先輩、紫輝はこういう場面で身内贔屓をするヤツでは無いですよ。 普段は深雪と戯れることも多いですがこういう場では至って公平です。」

「そうなのか? ……じゃあこの試合に関してはどちらも応援すると。」

摩利、そして真由美はそれはもう意外そうな表情をしていた。

やはり普段から深雪と戯れている=兄的立場の愛情表現という図式からそう見ていたらしい。

「いえ、こういう場合は北山さんの方にエールを送るかと。 アイツは如何に面白い試合が見られるか、このことに焦点を置いてますから。」

「それはそれで薄情な気がするわね……それ、深雪さんが知ったら吹雪になったりしないのかしら。」

「大丈夫ですよ、深雪もその点はよく分かっています。 まあ、後で拗ねるでしょうが。」

そう、理解はしている。 だが、深雪の根幹は普段周囲に見せている『優等生』の仮面とはまた違うのだ。

普段はちょっかいをかけてくる紫輝に対してストレートな憎まれ口をぶつけているが、それは信用・家族愛の裏返しなのだ。

だからこそ関心が自分に向かなければ寂しくもなる。

「何だか、普段のあいつらからは想像できない関係だな……。」

「深雪がああいう顔を見せるということはそういうことですよ。」

「へえー……じゃあ達也君的には深雪さんの彼氏最有力は紫輝君ってことでいいのかしら?」

これまた別方向で面白いネタを見つけたとばかりに追求する真由美。

摩利もその問いでそんな光景を思い浮かべるが、なるほど確かにそう悪くないかもしれないと思っていた。

それに対する達也の回答は、これまた淡々としたものだった。

「まあ、深雪にとって血縁以外で一番親しい異性は間違いなく紫輝でしょう。 ですが、あの二人はそういった関係になるには近すぎて何か違う……お互い言ってましたよ。」

「え、近すぎてって……何それどういう意味なの?」

「要するに、家族的付き合いが長くて今更お互い異性として見るのは違和感があるということか。 なるほど、確かにそうとも取れるな。」

真由美の疑問には先に言葉の意味を察した摩利が的確に答えていた。

要するに、恋愛経験でよく聞く『近すぎる幼馴染程恋愛が成就しない』という一例だ。

なるほど、確かに長いこと義理の兄妹関係のようなことになっていればそうなるのも分からなくもない。

「……何だかよく分からないものね。」

「まあ、真由美が分からないのは無理もないだろうな……。」

「ちょっと摩利!? 何よその勝ち誇ったような顔!」

(もうすぐ始まるが、まあここは静観がベストだろうな……。)

試合開始まで時間が無いことに気付いているのか気付いていないのか。

まあどちらにせよ自分が絡んではロクなことにならないので、あえてスルーを決め込むこととした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新人戦アイスピラーズ・ブレイクもいよいよ決勝戦を迎える。

本来ならブロックを勝ち上がった3人によるリーグ戦になるのだが、全員が一高ということで同率1位にするという案もあった。

しかし雫が深雪との試合を特に希望。 深雪もその挑戦を受けたのでリーグ戦は予定通りの決行。

逆にエイミィはブロック決勝のダメージが尾を引いているので棄権。 頂を争うのは先の二人となった。

普通ならば決勝、しかもどちらもここまで圧勝劇で勝ち上がっているので観戦側も盛り上がる。

……が、約一名見るからに雰囲気に反している者もいるわけで。

「いやまさか本当に宣言通り眠るなんてね……。」

「まあ仕方ないよ。 明智さんのブロック決勝とか光井さんの決勝戦でだいぶヒートアップした反動、更に昨晩の微妙に無茶な練習も合わさればいくら紫輝でもこうなるさ。 一休みする時間があって良かったよ。」

苦笑を隠せない面々の視線の先にいたのは現在進行形で舟を漕ぐ紫輝の姿だった。

これまでも身内の出番以外では目を閉じていることも多かったが、それは少し眼の疲れを癒しておくという軽い休憩レベルだった。

それが今は完全にガチ睡眠。 ある程度予測はしていた幹比古以外にとっては意外すぎる姿だ。

「っていうかこのまま寝かせてていいのか? ……寝過ごさせたら後が怖い気がするんだが……。」

レオの提言に全員は顔を見合わせた。

そう、そろそろ決勝スタートの時刻なのだ。

それなのに眠ったままで、しかもその試合を見てないなんてことになったら……。

まあ紫輝ならばのらりくらりと追及をかわすだろうが、その余波が自分たちに来たらたまったものではない。

雫はまだしも、深雪が起こすとばっちりは掠るだけでも勘弁願いたい。

そう思って無理やりにでも起こそうと思ったその時、件の男は丁度良すぎるタイミングで目を覚ましていた。

「……あー、快眠快眠。 で、何なんだこの微妙な空気は。」

「流石、仮眠でも時間は正確だね。」

予定調和と言わんばかりに当然のように起きたことに流石に驚きは隠せなかったようだ ……幹比古を除いて

「もしかして眠りながらも会話が聞けるような魔法とか使ってたんですか!?」

「んな魔法あったとしても俺には使えないっての。 ちゃんと自分の睡眠パターンを考えて寝ただけだって。」

「まあこれで紫輝君への被害巻き添えは防がれたってことで。」

最もらしい理由の返しだが、この回答が事実と異なることを知るのは幹比古だけだ。

実際は魔法を使っていたのだ……それも、四葉の得意分野とも言える精神干渉魔法を。

ただ、紫輝が直に用いたわけではない。 今の魔法力ではまだそのような細やかな芸当は出来ない。

(精神干渉が得意なネヴァンを一時的に憑依、精神を解体して一部を手早く再生させたら後は放置。 ……柴田さんの眼が感知する可能性もあったけど……流石、上手く誤魔化したようだね。)

自己暗示の類であり、心因的ストレス等を軒並み解消できる効率的な休息用魔法だ。

本来なら精神を解体した段階でネヴァンの憑依を解き、自然再生に任せるのが正しいのだが、時間がないのでこの形となった。

この強引なやり方も精神干渉が得意な悪魔と契約している紫輝だから出来ることだ。

もしネヴァンがいなければ手動でバラバラの精神を再生する者が誰もいなくなるのだから当然と言えば当然だが。

そもそもこの荒療治は肉体が無防備になる上に一時的に人格を無意味な断片とするので一見すれば危険行為にも見えるだろう。

実際は特に副作用などはないのだがこの時代で行う人物はほぼほぼ皆無だ。 魔法師ならなおさらである。

紫輝は表と裏の両立を志しているが故にこの魔法に頼ることは少なくはない。

その場で軽く腕を伸ばして寝起き故のぼやけを払うと、いつもの様子で視界を前へ向ける。

「にしても、結局ピラーズ・ビレイクも一高同士の決勝になるか……。 ここまで順当だとイマイチ面白くねえな。」

「うーん、この競技って番狂わせが起こりづらいイメージあるけどね……。 特に深雪なんかあんなおっかないの使う時点で下剋上も厳しいでしょ。」

「おっかないってより大味だろうに。 1回見ればこっちは満腹、その点雫の方がまだマシだ。」

それでもマシというだけで面白くは感じていないのだが。

スピード・シューティングの能動空中機雷はその発想から素直に称賛するが、今回は至って普通なことが原因なのだが。

普段の言動から派手好きだと思われる紫輝だが、この辺りの感性は複雑怪奇だ。

まあ、それは大体スケートが多大に影響していることは言うに及ばず。

「とりあえず、雫が何か驚かせてくれることに期待しておくさ。 深雪は正直手の内も大体読めちまってるし。」

「要するに……やっぱり紫輝も深雪さん有利と見てるってわけか?」

「この競技自体アイツの得意とする振動系統・冷却の領域なんだ、ざっくり見てそうなるのは流石にどうしようもねえ。 言うなれば某3作目の雪道でスタッドレスとビッグタイヤが喧嘩するようなもんだ。」

最後の例えを理解出来るものはまあこの場にはまずいないだろうが、その見解に全員は納得している。

だからこそ、雫の食い下がりないしは下剋上に期待するのだ。

こちらも達也が担当しているので何かはまず仕込んでいるはず。

少なくとも対深雪だからと言って手を抜くような、そういうタイプのシスコンでは断じて無い。

そもそもそれをやったところで深雪が喜ぶわけがない。

そうこうと展望を語っている内に主演二人が舞台に上がったようだ。

(……あ。 今更なんだが勝った場合の餌として何か用意すればよかったな、雫にだけ。)

何を餌にするかは言うまでもない。

それで何かが変われば良しだったが……もはや過ぎたことはどうにもならない。

そう内心でぼやいていると、対峙していた二人は同時にCADを構え、決勝の火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出だしはそこそこ競っているように見える。

これまでの試合でワンパンKO勝ちを収めてきた深雪の氷炎地獄(インフェルノ)による猛攻を雫は情報強化一本で耐え抜いている。

更には間隙を縫うとばかりに共振破壊をお見舞い。 こちらもまたここまでの試合では確実に相手の氷柱を破壊してきた攻撃手段だ。

しかし、相手はこの世代最強と言っても差し支えないのではと言われる深雪。 氷炎地獄を維持しながら自陣の防御を展開するのは何も問題は無い。

共振破壊による各個撃破は叶わず、結果的にお互い致命打を与えることが出来ずにいる。

この状況が割と雫に対して不利であることもまた言うまでもない。

防御しているとはいえ、元々干渉力では深雪の方が上。

すぐにやられないだけで、じわじわと氷柱へのダメージは蓄積しているのだ。

徐々に氷柱が原型を留めるのが難しくなっている。

このままではジリ貧確実。

(……使うよ、達也さん。)

共振破壊以外のもう1つの武器、使い時は今だろう。

身に着いたとはいえ、モノに出来ているかと言えば微妙なところなのが怖いところ。

しかし、リスクを恐れて勝てる相手ではない。

(それに、ここで逃げたら達也さんに申し訳ないし獅燿君に確実に笑われる。)

自分の力量を信用して授けてくれた秘策、ここで使わないでいつ使うか。

……紫輝に対してはあまりの言いようだが、とにもかくも己に対する短い鼓舞はこれにて終了。

後は練習通り。 深雪がどう対抗するかは今は考えない。

一呼吸の後、懐からその秘策を用いるための武器を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫がそれを取り出した瞬間、会場全体からざわめきが聞こえた。

無理もないだろう。 何せ彼女が取り出したのは……

「まさかのもう一機か。 達也のヤツ、随分と大それたことをやらせやがる。」

もう一機のCAD。 それも雫が使うところはそうそう見たことが無い特化型だ。

達也もCAD二機同時の使用はやったことがあるが、あれはキャスト・ジャミングもどきのための布石。

今回は明らかにそれとは違う、情報強化と併用する形で特化型でないと使いづらい魔法を使う布陣なのだろう

「ここまで1回もやってないのに大丈夫なのでしょうか。 こんな大事な場面で……。」

「いや、むしろここで使わないと勝機は生まれないよ。 北山さんは明らかに勝ちに行ってるんだ。 その為ならこの程度のリスクは安いものだよ。」

例え同じ一高選手同士でも……否、だからこそ余計に勝ちたいのかもしれない。

そんなハッキリとした覚悟を見せられてはきっちり見届けてるしかないではないか。

(ただ、並の術式ではあの防御は突破できねえぞ? 一体何を伝授しやがったんだ。)

雫は細かな制御はさておき処理能力の素早さを売りとするタイプ。

そんな彼女が特化型を使わなければならない程……要するにかなり消耗する一発なのだろう。

それも得意とするのは振動系……この時点で紫輝の中ではあの魔法の存在が頭の中に過っていた。

そしてその予想は見事的中することとなる。

「うお、何だ今の、レーザーか!?」

「深雪の氷柱が溶けてる……突破したってことね。」

雫が放ったのはSF映画などで使われそうなビームのようなものだった。

その様子を見て、紫輝は合点が言ったように2、3度頷いた後解説に入る。

「フォノンメーザーか。 超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする結構な高等魔法だ。 まあ、雫レベルの魔法力、そして達也のバックアップがあれば使えるのも納得だ。……ただ。」

「ただ……って紫輝、君の望み通り北山さんが一矢報いたんだ。もう少し喜んでもいいんじゃないか?」

幹比古の言うことも最もだし、紫輝もCAD2丁持ちのパラレルキャストからフォノンメーザーを使うという点には大いに驚いてる。

しかし、それを上回る懸念があることもまた事実。

「フォノンメーザーもそうだが、CAD二丁同時使用……いわばパラレルキャストも達也から教わったものなのは間違いない。 これが普通の相手ならいいんだが……今回は困ったことに深雪だ。 アイツはパラレルキャストが使えるほどの制御力が優れているわけではない。」

「……あ。 だから今から畳み掛けないと。」

「エリカは分かったか。 そう、雫は深雪の対抗心に火を点けてしまった。 出来れば不意を打った今ダメ押しとばかりに行かないと一気にひっくり返されるところだが、雫はまだフォノンメーザーそのものを完全にモノに出来ていないように俺は見える。」

要するに、立て直しの時間を与えてしまい更に手痛い反撃を受けてしまうことになる。

しかも相手が敬愛する(敬愛だけかはともかく)兄と同じことをしてきた雫に対抗心を燃やす深雪だ、その意図しない緩みが致命打になりかねない。

深雪の方へ注目すると、既にフォノンメーザーの不意打ちによる驚愕から復帰して次の行動に移っている。

(あー、こりゃ拙い。 恐らく一気にカタをつけに行ったな。)

直後、雫のフィールド全体に冷気が発生する。

一体何事かと大半の観客は思うが、確かにこの魔法を公共の場で使うのは初めてだから仕方ないかもしれない。

振動・減速のスペシャリスト、司波深雪の代名詞と言える魔法……『ニブルヘイム』。

ただ、代名詞とはいえとある事情により制御に難があったので僅かながらの心配を紫輝、そして別のところで観戦している達也は抱いていた。

実際ブランシュ残党狩りでは完全に制御しきれているとは言い切れず(早い話ちょっと強すぎた)、達也のフォローが無ければ……という状態だったのだ。

だが、それは杞憂に終わった。

(少なくともあの時よりは制御が効いている。 ……さて、こうなってしまうと対処できるのか。)

何故この状況でニブルヘイムを選択したのか。

液体窒素すら発生させるこの強力な冷却魔法だが、この状況では雫のフォノンメーザーに対する防御策にのみ使ったように見える。

しかし、これでいいのだ。 この液体窒素によって一瞬でケリをつける前準備は仕上がったのだから。

雫が仮に気付いたとしても対処できるかは分からない。

……傍から見れば雫も何か対応策を即座に練って実行しているようだが、深雪の表情に変化が無いことからそれが特に有効ではないことはすぐに分かった。

「……終わったか。」

「え、紫輝君何を言って……ってああっ!?」

もう結果は見えた。 その意図が含まれる紫輝の呟きに皆が怪訝の反応を示した時、予測通りのことは起きていた。

再度深雪は氷炎地獄(インフェルノ)を発動。

……するとどうか。 雫のフィールド上に存在する氷柱が一斉に、そして一瞬で崩壊した。

何が起こったのかと混乱している中、紫輝は淡々と述べる。

「ニブルヘイムによって液体窒素が発生、それは雫のフィールドにある全ての氷柱に付着していた。 さて、この状態でまた氷炎地獄(インフェルノ)を使ったらどうなる?」

「……そうか。 液体窒素が気化して膨張。 一斉崩壊はそれが原因というわけか。」

「正解。 まあ、雫もフォノンメーザーという鬼手を見せたから関心は持って行けただろう。」

インフェルノにニブルヘイムという一種の『魔界』を作り上げた深雪には及ばないだろうが……そのようなどこか面白くないような意見を言外に含めていた。

何はともあれこれで新人戦3日目の全て終了。 後残すは男女別々の花形種目の『モノリス・コード』と『ミラージ・バット』のみとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の全プログラムが消化され、今日の深夜の練習に備えて少しでも体力回復に勤しもうと行動しかけたところだった。

息を切らしているほのかを見かけたのは。

そういえば優勝の祝いを伝えていないことを思い出して声を掛けたら、凄まじい勢いで腕を掴まれて拉致紛いに連れていかれた。

はて、相手が達也ならばそれも分からないでもないが……半ば引きずられながら疑問が絶えなかった。

が、周囲に人が減ってくるとほのかが申し訳なさそうな顔をして口を開いてくれた。

「ごめんなさい! でもこれは獅燿君じゃないとダメかなと思って……。」

「……もしかしなくても雫か? じゃねえとここまで俺を連れて行かねえよな。 っていうかこれ他の生徒に見つかったら割と問題だよな……。」

連れてこられたのは紫輝たちも宿泊しているホテル、その中でも一高女子が使っている方面だ。

選手ではないとはいえ男子である自分がいて大丈夫なのかとは一瞬よぎったが、まあほのかも一緒だからどうとでもなる……はず。

まあ実際運がいいのか悪いのか他の誰とも遭遇せずに目的地へたどり着くことは出来たわけで。

「雫……? 獅燿君連れてきたよ。 開けるよ? 開けるからね?」

「流石に念を押しすぎじゃねえか? とりあえず入るぞー。」

女子の部屋にも全く臆せず入室する紫輝。

当の対象は試合の衣装のままベッドに腰かけていた。 ほのかと紫輝に気がついてはいるのだろうが視線は未だこちらに向いていない。

やはりというべきか、未だに敗戦を引きずっている。

「……えっと、雫。 その……残念だったね。」

「ほのか、バトル・ボード優勝おめでとう。 後獅燿君……ごめんなさい。」

ほのかの声でようやく気が付いたのか、少しだけこちらに顔を向けた。

一見いつも通りに見えなくもないが、明らかに何かを堪えている。

そして、いきなり謝られた紫輝は特に表情を変えずに二の句を告げていた。

「おいおい、何で俺に謝るんだ? 達也にならまだ1000歩くらい譲って理解できなくもねえが。」

「だって、本来ならコロラド戦の為に練習に没頭しないといけないはずなのにわざわざ観戦に来て、それなのに不甲斐ない試合を見せちゃったから。」

「お前なあ……。 んなこと律儀に観客に言わなくていいっての。 こっちは好きで見に来てるんだ、いちいち気にするな。」

まあ本来は無頭竜の動きに対応できるように来ているのだが、好きで見に来ているのはこの上ない事実。

だからこそ、意図して手を抜いたとかそういうことでなければ責める筋合いは紫輝には一切ないし、そのつもりもまるでない。

そんなフォローだったが、雫は相変わらず暗い表情のままだ。

「……それと、深雪に全然敵わなかった。 少しは抗えると思ったけど全然ダメ……やっぱり烏滸がましかったのかな……。」

挙句よりネガティブ発言が出てきてしまっていた。

確かに一見すればニブルヘイムからの氷炎地獄(インフェルノ)のコンボを放った深雪が完全にあの場を支配していた。

しかし、それはあの試合の表面しか見えてない者の意見に過ぎない。

「どこまでネガティブなんだよ……。 いいか、大体の相手は冒頭の氷炎地獄(インフェルノ)で終わってる中お前は粘りつつフォノンメーザーでアイツに傷を与えたんだぞ? そこで明らかに深雪は一度怯んだ。 恐らくお前がCAD二丁同時に使用して攻めてきたからだ。 アイツの鬼手を引きずり出したのは誰でもないお前の功績だ、そこはまず誇るべきだろ。 強いて言うなら、フォノンメーザーを完全にはモノに出来てなくて追撃が甘かったのが隙だったな。 だがそれも二丁持ちの負担も考慮すれば致し方ないこと。 確かに手も足も出なかったと評する輩もいるだろうが、俺は少なくとも勝機はあったと思うぞ。 俺から言わせれば深雪側にも付け入るスキは割と多かった。」

怒涛の決勝戦の独自評、雫だけでなく一緒に聞いていたほのかすらもあんぐりとしてしまっていた。

ただシビアというだけでなく、勝ち目くらいならまだあったとフォローも含んでいる。

いつの間にか雫も顔を上げて、それでもなお食い下がっていた。

「でも、負けは負けだよ……。」

「ああ、結果は負けだ。 で、お前はそれで折れるのか? たった1回の敗北で深雪に屈伏すると。 痛快すぎて笑えねえぞ。」

「し、獅燿君落ち着いて!」

段々と口調が荒々しくなってきているのを見かねてほのかが落ち着かせようとする。

が、そもそも紫輝は平常……それは次で察することは出来た。

「それ言ったら俺は何度国内で『黒須柊』という壁に阻まれたと思ってる。 最初にぶつかった時はジャンプ構成すら負けて俺も崩れてのボロ負け、はっきり言うが今回のお前よりも惨めな負けだったぞ。 だが俺は絶対勝てないなんて微塵も思わなかったぞ。 ジャンプ構成は追いつくどころか追い越して、スピンステップも可能な限り克服して、この間のミドルでようやく勝てた。 かれこれ2シーズンも掛った。 俺だけじゃねえ、同郷にもそうじゃなくても腐らずに継続して成功したヤツはいくらでもいる。 才能のあるなし関係なく、誰も彼も時にズタボロに負けて傷がつこうと戦い続けた。 そんな人達に比べればひよっこな俺たちはどうだ?」

紫輝の熱弁に、雫の脳裏には色々な映像みたいなものが展開されていた。

同年代のはずなのに最初の激突では話にもならなかったが時を重ねながら食らいつき、そして追いついた紫輝。

国内選考が激しい中崖っぷちに立っていると称したとある男が、有言実行を基に精神改革を為してかつて開催されていた五輪の舞台に立つという大躍進……否、大飛翔を遂げた光景。

当時の絶対王者との年季の壁が大きく、自身の武器を磨いて勝てると信じて挑み続け大舞台で遂に打ち勝った現代でも至高の一人とされるあの選手のことを。

……この時既に、雫の目には静謐にだが火が再度灯っていた。

「……そう、だね。 獅燿君の言う通り。 私よりも酷い負けを経験した人もいる……でも、みんなそれぞれのやり方で超えてた。」

「ああ。 それに、これからそんな壁にぶち当たるのは避けられねえぞ? 俺も、お前もな。 俺なんかもうすぐそれが迫ってるかもしれねえ。」

「コロラドには去年の世界ジュニアチャンピオンの彼も出るからね。 ……でも、今私にここまで言ったんだから負けても慰めたりしないよ?」

雫の口調がいつも通り……否、いつもよりどこか不敵になっていた。

明らかに紫輝の空気に中てられているが、紫輝もほのかもこの場は彼女が普段通りに戻ったことに安堵していた。

「はは、それでいいさ。 何なら、帰ってきて早々今の俺みたいに批評かましてくれても構わねえぜ?」

「うん、そのつもり。 勝っても負けてもビシビシ突っ込むから。」

「……あれ、何だか私完全に蚊帳の外……。」

「あ、ほのかゴメン。 そしてもうこんな時間……よし、色々スッキリしたから夕食に行くよ。」

すっかり本調子になったのか、むしろ普段より活き活きと雫は足を運んでいた。

その様子を見て、紫輝とほのかは互いに見合わせて苦笑を浮かべていた。

 




改めて思うのですが沓子の口調これで大丈夫なんだろうか。
間違いがあったら容赦なく指摘してください。 一応気を付けてはいるんですが方言等ばかりは調べきれない部分も出てくるので。(単なる調査不足とも言える)
このバトル・ボード決勝は是非とも文章化したかった1戦で、優等生どころか九校戦編全体でも屈指のお気に入りです。
そして最後は慰めるのではなくあえて発破を掛けさせました。ツッコミどころはあると思いますがこれが紫輝流です。


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