魔法科高校の劣等生 -Masquerade Devil Hunter-   作:スダホークを崇める者

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まだ8話目を書き終えてないけど早めに投稿。(2話の終わり方がアレだったので)
艦これ春イベはE-5ラスダン……支援ゲーは冷や冷やします。


3. 勧誘と暗雲

ほのかの提言により、駅までの道を男子3人、女子5人という集団は並んで歩いていた。

もっぱら、今の話題は当然……

「えっと……紫輝君って、もしかしなくてもどこかの有名人……ってことでいいんだよね。」

事情が分かっていない者を代表してエリカが尋ねる。

なお、名前呼びについては達也がほのか、雫に名前呼びを許容したことからで、いっそ紫輝もそう呼んでしまおうとのこと。

誰に尋ねたかは本人も分かっていない(仕方がないことである)が、いの一番に答えたのは雫だった。

「その手のコアなファンの中では結構有名人。」

「いや、まさか同学年に俺のことを知ってるスケオタが居るとは思わなかったぞ……。」

初めて見せる呆気に取られている表情と共に、妙な固有名詞が混ざっていることに気づく者も居た。

「えっ……スケオタって、もしかして……あっ思い出しました!! 獅燿君ってそういえば特番に出てましたよね、フィギュアスケートの!」

「そういえばそんなこともあったわね、紫輝。」

エリカとレオがピンと来なかった中、美月は一人当たりをつけることが出来たようだ。

同時に、初対面の時に感じた既視感も要因が分かった。

テレビ番組で出ていた顔だから、何となくだが覚えていたのだ。

無論だが、幼馴染である達也と深雪は知ってはいたが言いふらすことでもないので黙っていたのだ。

「特番に取り上げられるほどってことは、やっぱすげぇのか?」

「まぁ、普通なら凄いか。 中学時代のインターミドルは2位、2位、優勝と好成績を残していたからな。」

「それだけじゃないよ、中1の時に既にトリプルアクセルを降りることが出来てたというだけでスケオタの間ではかなり期待されてた。 1年、2年の時は他のジャンプの抜けや転倒の影響で2位だったけど、3年の時にはほぼノーミスで完全勝利。 最近はジャンプだけでなくステップも最低でもレベル3キープできるようになって成長曲線が……。」

「ちょ、ちょっと雫落ち着いて! 殆ど置いてけぼりの人もいるんだから!」

先ほどまでのクールな装いはどこへやら、トークが止まらない雫。

これには流石の紫輝も苦笑するしかなかった。

これまでに彼が関わってきたスケオタの者と同レベルの話をされては、こうなるのも無理はない。

「一応俺が解説しておくと、トリプルアクセルというのは簡単に言えば3回転半ジャンプだ。 現状の人間が出来るのは4回転までと言われているからその次の難度ということになるな。」

「恐らく世界で戦うには4回転以上に必須と言う人もいる要素ですね。 世界レベルでトップになるには最終的に4回転とトリプルアクセルは皆当然のように揃えないと話にならないとも言われてるくらいです。」

達也と深雪による簡易的説明でエリカとレオもとりあえず理解。

何となくだが紫輝が凄いスケート技術を持っているということも分かった。

なお、最終的に男子の空中戦は4回転2種計5本やら3種計6本飛ぶ時代にまで発展したとか。

「で、そんなトリプルアクセルは既にお手の物な獅燿君に質問。 ずばり、クワドについて。」

「まあ、そうなるだろうなぁ……。」

雫だけでなく、レオとエリカ、更にある程度精通している達也、深雪、美月、ほのかも気になるようだ。

紫輝としても勿体ぶる理由も特にないので、あっさりと答えた。

「現状完成度70%程度ってくらいか。 トウループならフリーに1本入れるくらいは行けそうだな。」

本人的には別に大したことない事実だ。

何せ、練習で始めたのはちょうど去年の9月辺りだったから。

抜ける(ジャンプの回転がすっぽ抜けるという意)、ということは無いが着氷乱れ、転倒は珍しくもない。

そんな上下も見られるからせいぜい70%で、あまり極度な期待をするなという意味もあった。

「入れられるには入れられるってことだね。 まぁ、15歳で4回転が安定したらそれはそれで恐ろしいよ。」

「代わりに他の構成は鬼にしたからな。 ……まぁ、それは見てのお楽しみってことで。」

「そういうことなら、見に行かないとスケオタ失格かな。」

不敵な笑みと共にそう締める紫輝。

そんな彼を見て、雫もまた不敵に笑って観戦宣言をした。

「そういえば、獅燿君がスケートをやっているということなら、達也さんと深雪さんのどちらかも実は……。」

ふと、美月がそう呟いていた。

幼馴染の紫輝がやっていたから、というには詳しいのもまたそう思わせる要因だろう。

「そう言われれば……確かに司波さんがやると凄く映えそうだし……。」

「達也君がやってもなかなかイケそう。 ほら、紫輝君とは違ったタイプだけどカッコいいことに変わりないしね。」

と、他の面々も気になりだしたようだ。

……そして、当の2人と紫輝は何とも言えない表情をしていた。

だが、この好奇の目の数々からは逃れることはできそうにない。

「俺はやっていないぞ。 そもそもそういうものとは基本無縁だったからな。 知識も紫輝の試合を観てから吸収したようなものだ。」

達也の方は事実そのままを語ればいいので問題はなかった。

彼にはそのような習い事の縁がなかったのは事実、特に取り繕う必要はない。

「まぁ、達也はそうだろうな……ってことは、深雪さんはやってたってことか?」

レオが掛けた言葉に、僅かに……達也と紫輝のみが気づくレベルでの反応を示した深雪。

そこから微妙に憂慮が垣間見える表情に少しずつ変わっていった。

「……あれ、俺もしかしてマズいこと聞いた?」

「さっすがデリカシー皆無、今回も絶好調ね~。」

深雪の様子に何か癇に障ってしまったかと心配するレオ、そしてそれをおちょくるエリカ。

本日だけで一体何度目か分からないやり取りを始めている中、紫輝と達也はどう答えたものかと悩んでいた。

と、そこに助け舟が現れた。

「達也さん、1つだけ。 司波さんって試合経験は?」

当然というべきか、知識ならば百戦錬磨の雫であった。

質問もシンプルで、かつ意図も分かるものには分かりかつ誤魔化しやすいものだった。

「いや、深雪は試合出場経験なしだ。 そこまでやっている時間が無かったからな……。」

「あ、そういうことだったんですか……。 それなら仕方ないですよね。」

「それに、深雪さんが試合に出たら変に萎縮する人も出そうですし、それが良かったのかも……。」

ほのかと美月はその『言い訳』に納得したようだ。

しかし、雫だけはこの『試合に出たことがない』という言葉を別の意味でとらえていた。

深雪のあの表情は、紫輝は試合でかなり活躍しているのを間近で見ているから少し落ち込んでいる、という意味で捉えることもできるだろう。

しかし、そこは曲がりなりにもスケオタ。 すぐに浮かんだのは全く別の理由だ。

すかさず深雪に近づいて、小声で尋ねた。

「……もしかして、バッジテストでつまずいたってオチ?」

「……ええ、その通りよ。」

スケオタである雫には隠しても仕方ない、ということで深雪はもう開き直った。

そこに達也もさりげなく混ざってくる。 当然周りには聞こえないように小声で。

「……3回転ジャンプは問題ないんだ。 女子の鬼門と言われるルッツとフリップも飛び分けは問題ない。 ……ここまで言えば、分かるか?」

「……ダブルアクセル、だね。 しかも獅燿君はその1つ上のトリプルアクセルをもう飛べるから……。」

ジャンプの種類は6種類……難易度順にトウループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツ、アクセルと存在する。

女子の場合はトリプルルッツが入り、かつ3-3のコンビネーションが安定して飛べれば普通に世界でもそこそこに通用するレベルだ。

深雪の場合は3回転ジャンプは特に難は無いのだ。 当時はトリプルトウループ→トリプルトウループも飛べていた。

ジャンプの踏切りの際のエッジエラーが怖いルッツとフリップの飛び分けも完璧となれば、紫輝くらいの活躍が出来てもおかしくはない。

そう、ここまでなら確かにそう言える。

しかし、最大にして厄介な壁……紫輝がもう会得したトリプルアクセルの1つ下、ダブルアクセル。

どうしても深雪はこれだけは飛べなかったのである。

恐らく、アクセルジャンプだけ前向きに踏み切る必要があることが原因なのだろうが……

そして、バッジテストという試合参加の為の義務と言えるライセンス試験ではダブルアクセルは必須項目だ。

「……この場合、ご愁傷様と言うのが正しい?」

「……いいのよ、代わりに紫輝が活躍してくれれば、それで。 ……ええ、いいのよ。」

雫の慰めの言葉に、深雪はそう答えた。

達也と雫の表情が何とも言えないものになったのは言うに及ばないこと。

ちなみに当の比較対象となっていた紫輝は路上にも関わらず言い争いを続けるエリカとレオに本日二度目のツッコミ(今回はピコハン)を入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜……大体日が変わるにはまだ早い時刻。

紫輝は特に何も考えずに屋外……それも第一高校付近を歩いていた。

ちなみに、彼に夜遊びをする習慣は無い。

……いや、ある意味夜遊びなのかもしれないが、それは一般定義からすると相当外れたものだが。

(残り香程度だな……居ても本当にポイ捨てレベルか。)

僅かだが、それでも一度嗅げばそう忘れない『腐臭』を嗅ぎ取る。

帰宅途中にふと思い至ったことだった。

朝・昼に異常がなければ、夜に探索してしまえと。

というより、人工的ならばなおさら夜の方が都合がいいのでは……そう考えたのだが。

ただ、出来る限り日常生活に支障を及ぼしたくはないので今日は本当に軽め。

……そう言い聞かせていた時だった。

『ヤツら』の気配……というより殺気がいきなり濃くなったのは。

(……やれやれ、本当に様子見のつもりだったんだが……高校デビュー早すぎだろ)

予想外の展開にため息をつく。

もしこいつらが人工的なモノではなく、自然発生だったら少しは喜んだであろう。

しかし、人工的なヤツらは隠蔽工作が面倒くさい。

要するに、思う存分暴れることが出来ない。

……それを考えると若干だが苛立ちも募ってきた。

(……チッ。 さっさと廃棄して帰るか。)

毒づきながら紫輝は歩みを進める。

気配を隠そうとさえしていないから居場所はすぐに分かった。

第一高校から距離が離れた、裏路地の中。

……そこにヤツらは居た。

(うわー……これしかも旧型という名の失敗作じゃねえか。 そんなモン一高の近くに置くなよ……)

それは、確かに紫輝が愚痴を零すのも無理はなかった。

見た目こそは人間ベースだが、それだけだ。

薬でも投与したのか、ベース体よりも筋肉の隆起は激しい。

しかし、正気など初めから存在していないのか、目を常時見開かせてギョロギョロと獲物を求めている様子だ。

明らかに人から外れているのは分かるが、外れる方向がとにかく醜悪だった。

どこぞのスプラッタ映画にでも出てくるゾンビのように。

それが3体。……今年度になって何度か嗅いだ臭いよりもきつく、流石に紫輝もその顔が歪んでいた。

「掃除開始。」

どこからともなく取り出した拳銃型CAD……俗に言う特化型の引き金を引く。

さて、普通の優れた魔法師ならばこれで起動式読み取り→魔法式展開というプロセスを踏んでこの醜悪なゾンビ(仮)をまとめて一掃しただろう。

しかし、紫輝は展開速度こそ一高でも深雪に次ぐが、干渉強度と展開規模に現状難があるアンバランスな魔法師。

故に、規模が小さい魔法で1体ずつ仕留める。 これだけしか出来ない。

……彼がセオリー通りの魔法師ならば、だが。

特化型の引き金を引いても何も起こらず、それにも拘わらずそのまま仕舞ってしまう。

この時に紫輝の姿をようやく視認したのか、ゾンビ(仮)3体が醜悪な肉体を割と俊敏に動かして紫輝に向かっていく。

が、この3体が紫輝に人外染みた暴力を振るう時が訪れることがなかった。

決着は一瞬のことだった。

いつの間にか紫輝は初期位置からゾンビ(仮)3体を挟んだ向こう側の位置へ移動していて。

その後ろには首がへし折られていた2体の既に動かない人体らしきものと、歩行モーションを取ったまま氷のオブジェとなっている改造人間。

一瞬にして2体を抹殺、1体を戦闘不能という状況だ。

2体の首をへし折ったのは、いつの間にか左手に裏手で握られている十手……放課後の小競り合いでも使用した、エリカが使用する警棒型の刻印魔法が施されているCADと同系統のものだ。

しかし、もう1体が氷像となっているのは何故か。

……それについて語られるのは、もう少し後のことだ。

言えることは、紫輝が今回使用したCADは十手と冒頭の特化型の2つのみ、だということのみ。

さて、氷像となったゾンビ(仮)を、何も色が感じられない視線を寄越す。

そして、醜い氷像に何も装備していない右手で拳をぶつけた。

『……せめてもの慈悲だ。』

拳を離しながら聞こえてきた重厚な声。

……それと共に、氷像に少しずつ罅が入っていき……最終的に崩壊。

完全に姿を留めない状態での抹殺……まあ、確かに慈悲とも言えるだろう。

残り2体の首へし折れ状態のゾンビ(仮)にも同じように氷結→バラバラにするの工程を行い、後始末は完了。

全3体の駆逐を確認して、紫輝はすぐにその場を後にした。

この時間でも街頭カメラは動いているが、今この場にいる紫輝の姿は捉えられることはまずない。

それでも、念には念を。 いつまでも現場にいるものではないのだから。

……そして、誰も居なくなった路地裏はバラバラの氷が徐々に溶けて水になっただけで後は至って自然な状態に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、いつものように紫輝は司波兄妹と学校へ向かっていた。

昨晩の影響があるのか、時折欠伸を噛みしめながら。

しかも、就寝は遅いのに朝はいつも通り早くしなければいけないのがまた辛かった。

「随分と眠そうね、紫輝。 昨晩は遅かったの?」

第一高校の最寄駅へ向かうキャビネット内で深雪は心配そうに尋ねた。

口には出さないが、紫輝の生活リズムの規則正しさをよく理解している達也も表情では同じ様子だ。

「ああ……この場だから言うが、ちょっと探りを入れてな。」

「探り? 今までのお前の口ぶりからすると、今はもう少し様子見をするところじゃないのか?」

何の探りかは二人ともすぐに理解した。

この件に関しては、まだ明らかになっていることが殆どない。

そんな状態にも関わらず、無暗に行動を起こすようなことは紫輝はしない……二人はそのことをよく知っていた。

だからこそ、疑問が生じたのである。

「まあ、本来ならそのつもりだったんだが……あんまりにも不気味でな。 それに、人造だった場合入学していきなり何か事件を起こされるのも嫌だったんで。」

……まあ、要するに。

「気まぐれってことね。……何もなかったから良かったけど、出来る限り控えてって毎回言ってるじゃない。 何かあったら私はともかく、お兄様が気が気でいらっしゃらなくなるから。」

「……待て深雪。 ナチュラルに俺だけ心配性にしないでくれないか? そういうお前も、紫輝がふらりと『狩り』に行ったら1時間ごとに……」

「そ、それは一応立ち位置としては血は繋がっていないけど兄みたいなものですし。 それにお兄様とどちらかを優先しろと言われたら私はお兄様を優先します!」

「まあ、それでも心配はしてくれるんだろ? 全く可愛いやつだなお前も。 ……で、達也も自分が俺に対して心配性だってことは否定しないのな。」

「否定も何も、俺も深雪と同じだからな。」

それは要するに、深雪よりは流石に下だが優先度は高いということだ。

短いながらも、そういう意味が含まれた返しに紫輝の表情は明るくなる。

なお、深雪は紫輝の言いように恥ずかしくなったのかそっぽを向いている。

「ははは、前も言ったかもしれないがブラコン・シスコンの相互関係のお前らに心配されるってのは  奇妙だが嬉しいなやっぱ。 そんなお前らだから俺も張り切っちまうってわけなんだが。」

「奇妙とは何だ……そして、張り切った挙句に火傷するような真似だけは控えろよ?」

そんなこんなで、今回の件については進展があった、または紫輝が動くという事態になったら知らせるということで落ち着いた。

兄妹は別に首を突っ込むなとは言うつもりは殆ど無い(全く無いわけではない)ので、連絡さえしてくれればということで妥協した。

そんな会話だけであっという間に最寄駅に到着。

駅へ降りて学校へ向かう道すがらでエリカ、レオ、美月と合流する。

「すっげぇ眠たそうだな、紫輝。 何かあったのか?」

開口一番にレオが紫輝の状態について尋ねてきた。

まさか正直に事情を語るわけにも行かないので

「入学後少し落ち着いたからって調子に乗ってゲームやり過ぎた。」

若干ベタで最もらしい理由を述べておいた。

「お前の場合はゲームを一度始めると長いからな……。 しかも本業のレースゲームをやるとは、羽目を外し過ぎだぞ。」

口裏を合わせる、というわけではないが自然な流れにするために達也は苦言をあえて漏らした。

合わせて紫輝もまるで悪びれもしない様子で苦笑する。

「何か想像出来ちゃうね、紫輝君がコントローラー握ってる姿って。 しかもレースゲームだから曲がるときに体も一緒に倒してそう。」

と、エリカは言うが紫輝のゲーム事情を知る達也と深雪は内心で苦笑した。

紫輝のレースゲーム……しかも某Qに関してのプレイ風景を観たらこう思うだろう。

『これ、レースゲームっていうよりアクションじゃね?』……っと。

「でも……その、スケートの練習ってしなくても大丈夫なんですか?」

ともかく、3人共見事に信じ込んだので余計なことは言わないで済みそうな流れにはなった。

紫輝としては達也と深雪も巻き込みたくはないのに更に関係のない友人を自身の都合に巻き込むつもりはさらさらない。

だからこその嘘。 まあ、僅かながらに心は痛むが仕方のないことだ。

「練習は軽くだがやってるぜ? あの後一人でスケートリンク探して滑ってたからな。」

ちなみに、これは事実である。

帰宅後にスケート靴その他を持ち出して、事前に候補として見繕っていたスケートリンクで滑っていた。

練習中はやたらと視線を感じたが、まぁいつものことなので気にしないでいた。

スケオタコミュニティ内限定とはいえ、顔が知られているのは存外大変だ。

「昨日北山も言ってたもんな。 人によっては氷に1日乗らないだけで三日分遅れをとることもあるって。」

「そういうこと。 まぁ、ガチガチにやるのもアレだからってことで息抜きも設けてるがな。 勉強もそのうちの1つだし。 ま、それでも達也はともかく深雪にも勝てんがな。」

「そう言いながら大体差が無いじゃない。 お兄様のご教授があったとはいえ誇っていい成績よ、紫輝。」

「まさに文武両道だね。 普段の軽さに反して成績良しはなかなかプラスだよ、紫輝君。」

エリカの少し貶しながら褒める言葉には「軽くて悪かったなっ」と笑いながらチョップを入れた。

紫輝にとっては勉強ですら息抜きだ。

その甲斐もあってか、勉学においては常に達也、深雪に次ぐ成績を常に保っている。

背景には達也が時折勉強を見ている、というのもあるがそれは深雪とて同じことだ。

まさに文武両道という言葉を体現していた。

スケートの競技成績も良いことから、相乗効果というのは本当にあるのかもしれない。

それからは昨日駅まで同行したほのか、雫についての話になった。

この中で唯一の一科である深雪も含み、全員まともな感性の一科生が居て安堵していた。

その中でも達也は深雪が一科生の中で孤立しないで済む、という点でも安心していた。

なお、紫輝はまさかの伏兵(スケオタ的な意味で)の雫の存在により、競技で下手を打てばその度に突っ込まれる立場になっているが……。

「た・つ・や・くーん!」

そろそろ学校が見えてきた、というところで集団……というか達也を呼び止める声が後ろから聞こえてきた。

聞こえてきたのは女性の声。 そして、女子生徒で達也のことを下の名前で呼ぶ人物となれば消去法で声の主は分かる。

声が聞こえてきた方を全員一斉に振り返ると、そこに居たのはやはりというべきか

「七草先輩……あまり大きな声で呼ばないでください。」

昨日の森崎たちとのいざこざをあえて見逃してくれた真由美であった。

相手が生徒会長であると分かるや否やレオ、美月、エリカの3人は最初は鳩が豆鉄砲を食らった表情をしていたがすぐさま姿勢を正す。

昨日の放課後のことで何かあったのか、という不安もあるが故だ。

ちなみに、最初に呆気に取られていたのは生徒会長である真由美が達也のことを親しそうに呼んでいることが原因だ。

「あ、おはようございます七草先輩。 昨日はありがとうございました。」

「おはよう紫輝君。 昨日のことは気にしなくていいわよ、何となくだけど事情は分かってたから。」

昨日の一件はいわば見逃してもらったようなものなので、まずは礼儀正しくお礼から。

ただ、様子からして昨日のいざこざのことで何かあるというわけではないようだ。

それが分かっただけで3人の緊張の糸は解けていた。

「あの、それで会長……? お兄様に一体どんな御用で?」

先ほどの名前呼びが気になっているのか、要件を訪ねる深雪の口調がどこかぎこちない。

ちなみに、深雪ほどではないが紫輝を除いた者は全員同じことを思っていた。

何で生徒会長が達也を唐突に名前で、それも親しそうに呼んでいるんだ、と。

そんなことを知ってか知らずか、真由美は本題に入った。

「本題に入るわね。 司波達也君、司波深雪さん。 あなたたち二人を生徒会のランチに誘いたいの。」

すぐに紫輝は事情を察した。

いつだったか、新入生総代は生徒会へ勧誘するということを夕歌から雑談混じりで聞いていたのだ。

深雪は二つ返事で了解して、達也も深雪が行くならばと同行することになった。

ただ、表にこそ出していないが乗り気ではないということくらいは紫輝は見抜いていた。

「あ、いっそのこと紫輝君もどう?」

「あー、それは嬉しいお誘いですね。 でも、俺がいると二人に対する本題が進まなくなっちゃいますよ? 今回は二人を優先ということで、またの機会ということでお願いします。」

「……考えてみればそれもそうね。ごめんなさい紫輝君、無理言っちゃって。」

「いえいえ、お気になさらず。 むしろ俺のようなしがない二科生を誘っていただき至極光栄ですよ。」

紫輝も別に誘いを受けても良かったのだが、何かを察したのだ。

誘われたのが自分ひとりならまだしも、達也と深雪と一緒だと何か起こりそうだと。

根拠の何もない直感だが、経験上こうするのが正解だと判断したのだった。

「……で、どうした深雪。 さっきから妙に浮かない表情だが。」

先に学校へ向かった真由美の後ろ姿を見送りながら、周りに悟られないように深雪に声を掛ける。

原因は分かるが、このまま別れてクラス内で何かを引き起こしたらそれこそ面倒だ。

森崎とかその他多数はどうでもいいが、ほのかと雫にそういう迷惑はかけられない。

だからこそ、ここで不安の芽は刈っておきたかった。

「……紫輝、何故会長はお兄様に対してあんなに親しげなのかは分かる?」

「いーや、ハッキリとは。 ただ、入学式の時から妙に興味津々って感じだったから今のところは興味対象ってところじゃないか? 後はブラコンのお前の反応を見て楽しんでいる節もあるかもな。」

現状分かる限りの真由美の人柄から推測した結果を淡々と述べる。

紫輝は最初に会った時から真由美は見て思ったのは『猫かぶり』であること。

十師族の一人だからなのかは、他の理由からかは分からないが本性を隠している。

そして、それは気に入った相手の間でのみ表に出てくる……ということまでは感じていた。

恐らく、達也はその対象になりつつあるだろう。

だからこその名前呼び。 更に言えば、自分自身もその対象になりつつある……かもしれない。

自分に関しては、まだ喋ってると面白い後輩という立ち位置にも思えるので違う可能性は高いが。

「まぁ、深雪が思っているようなことは今のところは無いと断言は出来そうだ。 ただ付き合いが長くなると何とも言えないからな……。 とりあえずお前は達也のたった一人の妹なんだから、もう少しドンと構えておけ。 ……いっそ今日にでも家に帰ってから悪戯でも仕掛けてやれ。」

「……そう、そうよね。 ありがとう紫輝。 それとごめんなさい……いつもいつも貴方にはこういう愚痴ばかりで。」

「気にするな。 俺は何があってもお前らの味方であり続ける……そう決めてるからな。」

そうとだけ言い残すと、紫輝は先を行く友人たちの元へと駆けていく。

小走りで追う深雪の表情には、先ほどまでの曇りは見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の午前中は座学。

各々自席でオンライン授業を受けている。

達也はこの時、何故真由美が深雪だけでなく自分も誘ったのかをひたすら推察していた。

……では、紫輝はどうなのか。

(しかし、魔法科高校付近で旧型とはいえアレを放置するとはな……ただの偶然ってことは無いよな。)

授業を受けながらも、考えるのは昨晩の人外。

ただ、想定よりも型が古いということが懸念事項であった。

見た目ゾンビでしかないあのタイプだったら、別に専門家である紫輝でなくても問題はない。

達也や深雪でも余裕だろうし、恐らくエリカでも余裕だろう。 実戦を見たことが無いが恐らくレオも、そして幹比古でも。

しかし、問題なのはその脅威性ではない。

人造のアレならば、別にあの出来損ないよりも強いレベルは多数確認している。

……出し惜しみをしているのか、それともそれくらいしかいないのか。

それに、警戒すべきは人造だけではない。

天然モノを呼び出す人員もいないとも限らないのだから。

(まぁ、どちらにしてもこれだけは言えるな……この学校が狙われてるかもしれない……ということ。)

魔法というものが表に出てきてもうそれなりの時は経過しているが、魔法師という者ほど立場が面倒なものは無い。

反魔法師集団……なんていうものもあるくらいなのだから。

そして、この学校が狙われるということは、紫輝にとっては身内に手を出されるということとほぼイコール。

早急に、且つ確実に仕留めていかなければならない。

(ただ、あんまり大っぴらに行動してまた達也と深雪に心配は掛けたくないし……後は七草先輩とかにもお手を煩わせるようなこともないようにだな……そうなると、ここは1つ偵察をお願いしようかね。)

ちなみに、紫輝は先ほどから言及しているアレが表立って出ない場合はそこまで活発に動くつもりはない。

そのような状況なら、それこそ真由美たちに任せるのが筋だろうし、達也・深雪でもよほどのことが無ければ問題はない。

彼が担当するのは、あくまで自分でしかどうにもならない領域なのだから。

そうしていろいろと思考を重ねている内に午前の授業は全て終わっていた。

達也と深雪が不在だったので、今回はエリカ、レオ、美月に紫輝を加えた4人での昼食だ。

昨日のように森崎と不愉快な仲間たちに邪魔されることなく、面白おかしく話をしながら食事にありつけた。

会話は言うに及ばず今は生徒会室に居るであろう達也と深雪がもっぱらの話題だ。

深雪に関しては紫輝が勧誘目的だということを説明して(隠すことでもないので)すぐに終わった。

……だが、達也については色々と憶測タイムで盛り上がっていた。

実は真由美とは前に会っていた、名前で呼ばれてるのも実はそこから来るのか、まさかの達也も生徒会勧誘?……などなど

今頃当本人はくしゃみでもしているのではないか、というくらいの勢いであった。

紫輝も悪乗りして『案外風紀委員に推薦されたりしてな』とか根も葉もないことを言っているのだから更に笑えない。

……そう、本当に笑えない発言だった。

「まさか本当に風紀委員に推薦されてるとは思わなかったぞ……俺の適当発言すげぇな。」

午後の実技授業(最初なのであくまで演習用CADを動かすだけ)の順番待ちでの雑談で、いきなり達也から昼休みのことを聞かされた時は

流石の紫輝も驚いてしまった。

簡単に詳細を聞くと

1:やはり深雪が呼ばれた理由は生徒会への勧誘だったが、深雪は達也も生徒会入り出来ないかと打診

2:しかし、今は生徒会役員は一科生から選ばれるという規則になっているので渋々断られる(デスクワークが強いなら欲しかったらしい)

3:と、ここで同席していた摩利が風紀委員ならば一科とか二科は関係ないから推薦出来ると進言

4:真由美はこれに乗り、達也は実技が特に悪い二科生の自分に風紀委員は務まらないと反論する……というところで昼休み終了

この件は放課後に改めて決めるとのことらしい。

「何だか面倒なことになったね、達也君。」

「そうかぁ? 面白そうだと思うけどな、俺は。」

「でも凄いですね、風紀委員長からのスカウトだなんて。」

反応は3人とも見事にバラバラだった。

(俺の予感は何故こうも当たるんだ……)

それもまた直感スキルの賜物……としか言いようがない。

流石にこの状況で無神経な発言をするほど紫輝も意地は悪くはないのか

「達也としては不本意だろうな……断るんだろ、お前のことだから。」

「……ああ。 流石に相応しくないと思うからな。」

と達也は謙遜気味に話すが、他の面々は否定していた。

紫輝も達也が風紀委員に相応しくないとは全く思わない。

彼の正確な実力を把握している数少ない者だから。

それに、深雪の心情を考えてもここは出来れば断っては欲しくないと思っている。

……まぁ、達也が風紀委員になるということは自然に真由美、摩利と異性の先輩との接触機会が増えるのが深雪的にはマイナスなのだろうが……

「お、そろそろ空くからお先に行かせてもらうぞ。」

前のクラスメイトの何名かが終わりそうなのを確認して列の先頭の紫輝も並んでいる据置型CADの1つの前に立つ。

すぐさまCADにサイオンを流し込んで操作を開始する。

発動速度の早さは、明らかにこの空間にいる何者よりも早い。

その早さを見て、クラスメイト達は次々に声を上げた。

「うわっ何だすげぇ早い!」

「え、彼も二科だよね!? あれ並の一科生より早いんじゃあ……」

どの生徒も……CADを操作している者も見入っていた。

エリカ、レオ、美月も当然その中に入っている。

唯一達也だけはどちらかと言えば苦笑、といった表情だったがそれは事情を知る者だから。

「すっげぇな紫輝、あのスピード。 本当に俺らと同じ二科生なのか?」

「成績上は問題なく二科生だぞ? スピードだけが取り柄だからな。 代わりに干渉力と規模はボロボロな有様だぜ?」

(後2人抜いたら一科だった……というのは言わぬが花、だな。)

実技終了後は端で雑談に興じる。

先ほどの紫輝の凄まじい発動速度を見た際の熱が収まらないのか、すっかりその話ばかり。

昨日といい、今回といい話題の多さは達也といい勝負である。

「でも、あれだけ早ければ干渉力と規模が微妙でも成績はともかく、魔法戦なら割と何とかなるんじゃないの?」

「物理攻撃禁止の場合が多いからキツイと思うぞー、流石に。 何でもありなら行けるんだろうが……そんな事態はそう無いだろうからなぁ。」

「案外獅燿君も風紀委員が向いていたりして……。」

ボソッと呟く美月に達也は全力賛同していた。

自分とは違って、紫輝には発動スピードという差別化要素があるから。

更に、身体能力も高いのもプラス。

代わりに風紀委員に推薦されてほしいくらいである。

しかし、紫輝はこの学校にもあるであろうフィギュアスケート部に入るのはまず確定。

兼任も出来るだろうが、事情があるから風紀委員まで兼任する余裕はまず無いだろう。

そこまで分かっているので、美月の言葉に賛同するのは内心でのみ、に留めた。

ついでに、自分も改めて風紀委員入りは丁重に断ろうと方針は固めた。

達也の魔法の発動速度は紫輝と比較するどころか、このクラス全体から見ても下位なのは明らか。

改めてその事実を突きつけられて、ますます自分は相応しくない……そう思った。

そんな達也を見て、紫輝もただただ苦笑することしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、達也と深雪は生徒会室へ再度訪れた。

達也は風紀委員入りを断るつもりだったが、結果的にそれが出来る状況ではなくなってしまった。

原因は、深雪と生徒会副会長の服部刑部少丞範蔵の軽い言い争いだ。

服部は最初から二科生である達也を眼中に置いていなかったのだが、この時点で深雪に悪印象を抱かせていた。

更に、達也の風紀委員入りを推す摩利に二科では風紀委員は務まらないと反対。

摩利は一科と二科の差別を風紀委員で行う、という行為は断じて否だと主張するも、服部は引き下がらず。

そこに深雪が達也の実力を見てもいないのに断言しないでほしいと割り込む。

しかし、服部は深雪に身贔屓に目を曇らせてはいけない、と諭すような口調で言い含めようとした。

さて、幼馴染からいつも『シスコンの権化』などと言われている達也が妹が身内贔屓だとか目が曇ってると言われて静観を貫けるか。

言うまでもなく無理であろう。

達也は、自分のために怒ってくれる深雪のために服部に模擬戦を提案した。

周囲も困惑しながらもそれに賛同、この模擬戦の結果に達也の風紀委員入りが左右されることとなった。

今は全員が模擬戦が行われる演習室に移動していた。

「……まぁ、どうせそんなこったろうと思ったさ。 流石はThe シスコン。」

……いや、本来なら居るはずがない者まで混ざっていた。

唐突に聞こえた、生徒会室のやり取りではいなかった者の声にその場の大半の人間が驚愕した。

無論、例外は2名。

「紫輝……何で貴方がここにいるの?」

「……深雪。 それは聞くだけ野暮だぞ。」

紫輝の唐突行動に慣れきっている司波兄妹だ。

暫く全員がフリーズしていたのだが、紫輝は思い出したかのように

「あぁ、初めましての方は初めまして。 丁度今模擬戦をする達也、そしてその妹深雪の幼馴染の獅燿紫輝です。 見学というか見物くらい構いませんよね、七草先輩、渡辺先輩。」

「え、ええ……別に構わないけれど……。」

「……一体いつの間に混ざっていたんだ、君は。」

話しかけられた真由美と摩利は逸早く復帰。

他の面々も遅れて現実に戻り、突然の部外者の方を見やった。

「単純にこの集まりに混ざって入っただけですよ。 別に忍び込んだわけじゃあないです。」

「私たち全員に悟られずに混ざるって……一体どんな魔法ですか……。」

シャープな雰囲気を纏う女子……市原鈴音は溜息を吐きながら呟いた。

小動物のような雰囲気の小柄な女子……中条あずさは突然出てきた紫輝に怯えているような様子だ。

服部も最初は何事かと思ったが、相手が二科生だとわかって視線を険しくしていた。

「いや、魔法じゃなくて単に身に着けた技能ですよ。 ……で、そろそろ模擬戦始めないと日が暮れちゃいますけど。」

「引っ掻き回しているのはお前だろうに……。」

ただ、紫輝の言うことも間違いではない。

演習室を取る時間にも限りがあるので。時間を無駄には出来ない。

紫輝のことが気にならないわけではないが、ここは進行を優先する。

今回の模擬戦のルールは以下の通りだ。

・相手を死に至らせる、また回復不能な障碍を与える術式は禁止

・直接攻撃は相手に捻挫以上の負傷を与えない範囲で

・武器の使用は禁止(素手はOK)

至って一般的な魔法戦のルールだった。

普通なら魔法力の優劣で決まりそうな戦い。

「服部君はこの学校でも五指に入る腕前ですが……。」

「司波さんと……えっと、獅燿君は心配じゃないんですか?」

服部の実力を知る二人は、普通に服部有利と見ていた。

それは当然のこと、一科と二科……それも学年も違う。

更に、達也は実技評価は二科の中でも悪い。

普通ならば相手にもならないはずだ。……普通ならば、だが。

現に勝負の行方を聞かれた二人はといえば

「いいえ、ちっとも心配ではありませんよ。」

「心配だったら俺はここに居ませんよ。 惨敗した幼馴染に追い打ちをかけるような慈悲の無い人間ではないつもりなので。」

深雪と、先ほどまでのふざけた雰囲気から一転、真面目になった紫輝はきっぱり断言した。

そして、二人は全く同じ結果を予想していた。

『勝負は瞬きする間もなく、それこそ一瞬で終わりうる』、と。

「では……始めっ!」

摩利の合図とともに模擬戦が開始された。

開始と同時に、服部は右腕の汎用CADを操作しようとする。

放とうとしているのは、単一系移動魔法。

スピードを徹底重視した術式で達也を壁に向けて吹き飛ばし、そのダメージで戦闘不能にするという 単純かつこの場では効果的に見える戦法。

素の発動速度でも達也に勝るところに、更にスピード重視となってはますます発動速度で勝てる道理はなくなるだろう。

そう、発動速度対決ならば。

大半の予想を裏切り、達也は開始直後はCADを構えずに唐突な加速で服部との距離を一気に詰めた。

(なっ!? 速い!)

虚を突かれた形の服部だが、すぐに持ち直す。

座標を即座に修正して改めて達也に照準を定めようとする……が

(消えた……!?)

達也の姿が服部の視界から完全に消えていた。

この瞬間、紫輝と深雪は勝負はついたと判断した。

深雪は分からないが、紫輝には達也の動きは完全に見えていたのだ。

あの一瞬で素早く背後に回り、丁度CADを構えて攻撃体制に入っているところまでの全てが。

そして、服部は背後に回った相手の姿に気付くことなく、何かの拍子に倒れ伏せた。

深雪は予想通りの兄の勝利に歓喜の表情を浮かべ、紫輝も予想通りの幼馴染の勝利に静かに笑みを浮かべた。

「し、勝者……司波達也。」

だが、他の上級生たちは全く事態に追いついていなかった。

とりあえず見かけ上の勝敗だけ告げる摩利だが、審判役を引き受けた彼女も何事か完全に整理がついていなかった。

そんな雰囲気もいざ知らず、達也はCADをトランクに仕舞おうとする。

「待ってくれ。 最初の動き……アレは自己加速術式なのか?」

最初の疑問、冒頭の達也の動きについてまず摩利は本人に尋ねた。

達也の発動速度で自己加速術式を使う場合、あんな開始直後に発動していると明らかなフライングだ。

しかし、あの動きは流石に自己加速以外だとは考えづらかった。

「いえ、それだとフライングになりますからね。 アレは身体技能ですよ。」

「お兄様は九重八雲先生に師事していらっしゃるのですよ、渡辺先輩。」

しかし、達也の答えは否、純粋体術と回答。

更に深雪も兄が八雲の弟子であることを証言することで、達也のフライング疑惑を否定した。

「あの忍術使い九重八雲!? だから魔法なしであれだけの動きを……流石は古流だ。」

高名な忍術使いの弟子という事実が分かれば特に疑う要素もない。

ひとまず第1の疑問は晴れた、と言ったところか。

「では、はんぞー君が倒れたのも忍術によるものかしら。 私にはサイオン波を放ったように見えたんだけど……。」

「七草先輩、正解ですよ。 早い話、服部先輩はそれで酔ったんです。」

第2の疑問、服部が倒れた原因についての真由美の問いには紫輝が回答した。

魔法師は常にサイオンを感受している。

そこに強烈なサイオン波をぶつけて酔わせた……とまぁ至極簡単な方法だ。

しかし、そこで別の疑問が現れる。

「でも、基礎単一系のサイオン波だけで酔うなんて、普通は有り得ないはずだけど……。」

「……波の合成、ですか。」

鈴音は自身の推測を話し始める。

振動数の異なるサイオン波を3連続で作る。

その3つの波が服部の位置で丁度ぶつかるように調整する。

これにより、三角波が如く強い振動が発生して、酔わせるレベルのサイオン合成波が完成する。

「お見事です、市原先輩。」

「ですが、あの短時間で3つに振動波を作れるのに実技評価が低いのはおかしいですね……。」

最後の問題、発動速度。

実技評価と明らかに矛盾するところだが、それもすぐに理由は判明した。

「あの~……もしかして、そのCADってシルバーホーンじゃないですか!?」

「うわっ!?」

いつの間にか達也の持っているCADをまるでお宝を鑑定するような目で間近で見るあずさの姿があった。

あまりにいきなりの行動に達也を含む全員が吃驚していた。

そこからはあずさによるシルバーホーンの説明が始まった。

まぁ、ざっくり言えばトーラス・シルバーという奇跡のCADエンジニアが手がけた、『ループキャスト』に最適化されたCADだということ。

ループキャストとはその名のまま、一回の展開で同じ魔法を使用者のキャパシティの許す限り連続発動できる起動式。

……これらのことを矢継ぎ早に、立て板に水が如く説明するあずさの姿を見て、紫輝は摩利に尋ねる。

「渡辺先輩……中条先輩ってもしかしなくても……。」

「……ああ、重度のデバイスオタク、だ。 CADのことになるとあんな風に豹変してな……。」

そう言っている間に真由美があずさを落ち着かせ、その隙に達也はシルバーホーンを仕舞った。

しかし、ループキャストが連続発動の要因と分かってもまだ腑に落ちない点がある。

「しかし、ループキャストは同じ魔法を連続発動するもの。 振動数の異なる波を作るのは不可能のはずです。」

そう、全く同じ魔法を発動するだけでは、同じ振動数の波しか作れない。

合成波の根底が崩れてしまうのだ。

……が、鈴音は一つの方法に気が付いたようだ。

「まさか、司波君……貴方は、座標、強度、持続時間に加えて振動数も変数化した、と……?」

「ええ……ですが、多変数化は学校では評価外ですから。」

「……なる、ほどな……。」

ここで先ほどまで倒れていた服部がまだ酔いが残ってはいるが起き上がる。

話は聞こえていたのか、どこか納得したような表情だ。

「学校の評価項目は、『発動速度』、『魔法式の規模』、『情報の書換強度』……この3つ。 評価が合わないというのは、こういうことだったのか……。」

まだ辛そうだが、言わなければならないことがあるので鞭を打って立ち上がる。

そして、深雪の方へ向き直ると

「司波さん、先ほどは身贔屓などと言って申し訳ない。 目が曇っていたのは私の方でした……許して欲しい。」

先ほど、とは生徒会室でのことである。

その時も発言を撤回して、更に年下の深雪に頭を下げて謝ったのだ。

服部の様子に大半が呆気にとられたが、深雪は同じように頭を下げて

「いえ、私の方こそ生意気を申しました。 どうかお許しください、服部先輩。」

同じく生徒会室で熱くなってしまったことを謝罪。

これにより、一件落着であった……。

「これで二人とも正式加入ね……って、あれ? 紫輝君は?」

先ほどまで話に入っていた見物人の姿が見えないことにようやく気付く真由美。

他の面々も周囲を見回すが、その姿はどこにもなかった。

「何なんだアイツは……。 いきなり出てきたと思ったらいきなり消えて……。」

「それが紫輝ですから、気にしない方が賢明ですよ。」

唯一紫輝の去る様子を見ていた達也だが、いつものことなので気にしないように忠言する。

やや締まらないが、達也は風紀委員本部で、深雪は生徒会室で仕事についての説明を受けた。

(一科でもあんな殊勝な人間もいるのか。 これなら校内は心配いらずだな。)

そして、一足早く帰途に着いた紫輝は服部が自身の非を認めた様子を見て安心していた。

プライドを捨てて負けを認めることができるのは立派なことだ。

森崎のような一科生ばかりかと思っていた紫輝も考えを改めていた。

(まぁ、二科側にも問題は無いとは思えないんだけどな……それに関しては俺の領分では無いから突っ込む気もないが)

この差別意識は二科生側にも問題はあるし、紫輝もそれは感じてはいる。

しかし、紫輝はそんな問題まで解決しようとするお人好しでは断じてない。

それに、彼がわざわざ重い腰を上げなくても恐らく真由美辺りが動くだろう。

とりあえずは唯一の心配だった達也と深雪の周囲関係もどうにかなりそうだったので、当面は己の領分問題に手を割くことが出来ることに安堵しつつ、紫輝は帰り道を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜……紫輝は自宅ではなく司波家に居た。

帰宅して暫く赤い帽子にヒゲが印象的な彼のレースゲーム(使用キャラは緑の恐竜)で遊んでいたら、深雪から連絡が来たのだ。

紫輝に問題がなければ食事がてらこっちに来てくれないか、と。

別に紫輝自身このようなことは初めてでもなく、むしろ頻繁にあると言ってもいいくらいだ。

なお、食事がてらというところに一瞬首を傾げるも今日あったことを考えてすぐに深雪の意図は理解出来た。

また、自炊は問題なくこなせる紫輝(HAR使用せず)だが、忙しい時はどうしても楽な食事に走ることもままある。

それを心配して、ということも含まれている。 というかいつもはこうである。

紫輝も丁度暇を持て余していたところなので快諾、司波家へお邪魔することになった。

食事中は紫輝が居るにも関わらず兄妹は人目を気にせずイチャコラしていた。

ただ、別に紫輝を蔑ろにする、ということもない。

紫輝自身もこのイチャコラ空間にはとっくの昔に慣れているし、むしろ微笑ましいとも思っていた。

その証拠に、適度に軽口が飛び出すくらいだ。

それが分かっているから達也と深雪も遠慮することがない。

「さて、俺はコイツの調整を行うが……紫輝、お前のCADは大丈夫か?」

「俺のは大丈夫だ。 確か先月やってもらったばっかだし、まだ大がかりな改革はいらんだろ。」

この会話から分かると思うが、紫輝のCAD調整は達也が基本的に行っている。

深雪の分も当然のことながら行っており、見るからに負担が大きいと思われる。

だが、紫輝のCAD調整でやることが意外と少ないからそれほどでもないのが現実だ。

紫輝自身でもメンテナンスくらいは出来るが、それでも餅は餅屋ということで達也に任せっきりにしている。

前回のメンテからそこまで期間を置いていないので今回は見送ることにしたが。

「なら、いつも通り好きに寛いでて構わないぞ。」

「オッケー。 んじゃ、お言葉に甘えさせてもらうぞ、と。」

達也は地下室へと向かい、紫輝は端末で何やら動画を見始めた。

流石に勝手知ったるとはいえゲームをやるつもりは全くないようだ。

そこに片付けを済ませた深雪が紫輝の隣に座って

「紫輝、もしかしてスケートの動画を見てるのかしら?」

「あぁ、今後の俺の指向の参考資料……兼、モチべ上げだな。」

深雪にも見えるように画面の位置を調整する。

そこに映っていたのは、2014年の世界選手権男子ショートプログラム。

それも、そこで1位に立った日本男子の演技だった。

「紫輝は彼の演技が本当に好きなのね。」

「元々表現力が凄くて、当時でも明らかにパーソナリティ溢れる選手だったからな……。 ただどうしてもジャンプが決まらず五輪代表争いでも6番手って言われてて。 それを決死の想い、そして己を鼓舞する言葉を力にして代表争いを勝ち取ったんだ。 俺以外にもこの人を尊敬する人は少なくないさ。」

普段は軽いように見える紫輝だが、スケートのことになれば真摯になる。

特に、過去の偉人の話をしている時は別人にも見えるくらいだ。

深雪としては、普段からこんな風ならもう少し敬愛するので惜しいと思っている。

が、互いに性別を超えた家族的感情を抱いているからむしろいいのか、と最近は思い直していた。

「そういえば深雪、達也は地下室に籠りはじめたから俺の目を気にせずにちょっかいかけるならチャンスだぞ?」

端末からは会場から溢れんばかりの歓声と拍手が聞こえてくる中、紫輝は一旦視聴を中止して深雪にそう促す。

深雪は一瞬何事かと混乱したが、すぐに今朝の会話を思い出した。

「え、まさか今夜!? まだ心の準備が……。」

「ほら、そこはCADの調整頼むついででやればいいんだよ。 俺と違ってお前は調整スパン短いし、何の違和感も無いだろ? ああ、具体的な行動はお前が決めろよ。 俺も覗くとか野暮なことはしないから別にR指定なことしても問題は無いぞ。」

「ちょ、紫輝!? 流石にそこまでは……。」

深雪はどんどん顔を赤く染めながら縮こまっていく。

紫輝が野暮なことをしないというのは嘘ではまずないので心配はない。

しかし、いきなりR指定だ何だ言われたら根からの淑女な深雪がこうなるのは言うまでもないことだった。

半分面白がっているが、割と真面目な口調で紫輝は続ける。

「おいおい、今日割と生徒会室で七草先輩に弄られたりしなかったのか? あの人のことだから達也と渡辺先輩が一緒だったからってあることないこと言ったりとかしただろ多分。 達也だから大丈夫だとは思うが、ここぞとばかりにそういう過激な悪戯くらいしてもいいと思うぞ俺は。 というかやってくれると俺が後々楽しいからやって欲しい。」

否、半分どころか8割は面白がっている。

しかし、今の深雪には突っ込むだけの余裕はない。

だから、紫輝の悪魔の囁きにすっかりその気になってしまった。

「……そう、そうよね。 妹だからこそいいのよね。 紫輝、私はやるわ。」

「おう、行って来い。 何事も当たって砕けろだ。」

深雪はどこかへ引っ込み、紫輝はそれを見送ったら再び端末で動画の視聴を始めた。

丁度、2015年GPFの男子フリーを見ている頃、地下で何かが倒れる音が聞こえた。

紫輝は音だけで地下で何があったのかはすぐに把握した。

(やれやれ、R指定にしてもいいとは言ったが……Gの方向にしろとは言ってないぞ俺は。)

まぁ、それで深雪の気が晴れるならいいかと思い直して紫輝は静かに帰り支度を始めた。




あらすじを見れば分かる方もいらっしゃると思いますが、紫輝は何と現役のフィギュアスケート選手でしたー。
何でまたこんな設定にしたのかと言うと、アニメ九校戦編の飛行魔法テストの時に深雪が空中スケートを行ったことが最大要因ですかね…トリプルトウループ飛んでましたし。
ただ、深雪までスケーターにするのは原作を考慮すると無理が生じるので、ダブルアクセルが苦手というファクターを加えて競技から遠ざけました。
2A飛べないとバッジテスト6級以上が取れませんからね…。
後は自分自身がそれなりのスケオタであることも要因です。
それに合わせて雫は九校戦オタクであり、かつスケオタに。 ちなみに他にもスケオタ設定が追加される原作キャラはそれなりにいます。
なお、紫輝のこの実力はリアルだと現在世界最高得点を保持している彼の同じ年頃に近いです…ジャンプだけ。 スピンとステップは隙があるので総合的には劣ります。
…正直フィギュアスケートを全く知らない人にとってはなんじゃそりゃって設定ですが、非魔法系の競技者という設定にはしたかったので。

後は微妙に初戦闘シーン。 一瞬で終わってますが。
この時出てきたゾンビ(仮)は最新5作目がなかなか出てこない某Hから始まるガンシューの最弱雑魚を想像してください。
何故干渉力と魔法規模がボロボロな紫輝が深雪みたいに対象を凍らせているのか…。
ちなみにペルソナは未使用です。 1話の冒頭で出てきた『彼』以外は使えませんので。

なお、4話は8話が書きあがり次第投稿予定なので、そこそこに遅くなる可能性が高いです。
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