魔法科高校の劣等生 -Masquerade Devil Hunter-   作:スダホークを崇める者

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忘れていたわけではないのですが、リアルでゴタゴタしたり最新話がなかなか書きあがらずに上げるに上げられませんでした。
暫くリアル事情が不安定になるので更新も不安定になる可能性が高いです。
失踪だけはしないよう心掛けますが…。



4. 嵐の如き歓迎期間

 

達也の風紀委員入り、深雪の生徒会入りを皮切りに(別にこれらが基準というわけではないが)第一高校では年度最初の大イベントが始まろうとしていた。

クラブ勧誘活動期間である。

普通の学校でもあるであろうイベントで、別に目新しいということはない。

しかし、第一高校……というよりも魔法科高校にとっては今後を占う大事な行事だ。

この勧誘活動次第で、全国魔法科高校親善魔法競技大会――通称九校戦の成績が吉にも凶にも出るからだ。

九校戦とは、正式名称通り全9つの魔法科高校の代表選手が数々の魔法競技で競うもの。

いわば、魔法競技の甲子園と言うのが分かりやすい言い方であろうか。

この九校戦の成績は生徒にとっては進路に関わるし、学校側としても威信に依るところがある。

「まぁ、俺たちには基本関係ない話なんだよな。 二科だから出る幕ないし」

昼食の席でぼやくのはギリギリ一科に届かず二科になった紫輝。

彼の言う通り、これらの話は基本一科生がメインなので二科生である彼らにはそこまで関係のないことなのである。

「でも、非魔法系クラブも入部者の争奪戦は、そこそこ激しくなるって聞きますけど……」

「事前に決めておけば問題ないんじゃねぇか? 行きたい場所にさっさと行っておけば無駄に誘われないで済みそうだろ」

「一理あるけどそんなこと出来たら苦労しないわよ。 というか、私以外はもう行きたいところ決まっちゃってたりする?」

紫輝と同席しているのはエリカ、レオ、美月のいつものメンバー。

達也と深雪は生徒会室で勧誘期間の説明を受けながら食事をしている。

「私は美術部にしようと思ってます」

「俺は山岳部だな。 んで、紫輝は言うまでもなくスケート部だろ?」

「確かに俺は言うまでもないか。 ……エリカは決まってなさそうだな、その様子だと」

「ん~……ちょっとね。 っていうか、紫輝君はともかく二人とも決めるの早すぎでしょ」

紫輝は高校でもスケートは続ける気満々なので当然スケート部。

魔法科高校にあるのか、と最初は思ったが普通にあったのだ。

ちなみに、魔法科高校でスケート部があるのは一、二、五、八である。

インハイにも普通に出ているらしい。

そして、美月が美術部、レオが山岳部と聞いて紫輝は大いに納得した。

まさにイメージそのままなのだから。

「そうなるとエリカは注意した方がいいんじゃないか? 決めてないというのもあるが、見てくれも十分いいわけだからな」

「深雪じゃないんだし、そこまででもないと思うけどなー」

エリカは紫輝のそれをお世辞と取っている風だが、紫輝的には割と本心だ。

紫輝の見立てではあるが、仮に氷の上に立った場合は深雪とエリカの映え具合はそこまで差はない。

何故氷の上なのか、それは紫輝的に比べやすいからで他意はない。

そのくらいエリカの容姿は整っているし、雰囲気もまさに陽なので華やかさは十分だ。

故に部のマスコットにせんが為の争奪戦が起こるのでは、と紫輝は思って忠告をしたのだ。

まぁ、本人がこう言ってるならばしつこく言うつもりも無いが。

「いっそ紫輝君もいるし、スケート部にしちゃおうかな」

「おいおい、流石にそれは身の程知らずだろうが。 あんなの一朝一夕で出来るようなものじゃねぇぞ?」

「少なくともアンタよりはこなせる自信はあるわよ。 アンタじゃあ手すり磨きがせいぜいじゃない?」

「なっ、それはお前も同じだろ!」

……と、またまたエリカとレオの口喧嘩が勃発。

しかも喧嘩の種が自分とスケートなのが何とも悲しいところだ。

入学後何度目かもう数えるのも面倒なくらいの回数発生しているが、よく飽きないものである。

「はいはい、機会があったら滑り方を教えてやるからそろそろ行くぞ?」

もはや手慣れた様子で力づくで止めて(今回はピコハン×2)、そのまま食堂を後にする紫輝達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の座学が終わり、放課後。

達也は早々に風紀委員本部へと足を運んでいた。

クラブ勧誘活動期間中はデモンストレーション用にCADの携行が許可されている。

魔法を含めた乱闘が勃発しやすいので風紀委員の出番が多くなるらしい。

新入りの達也も早々に見回りに駆り出されるのだから、その忙しさは想像できる。

そんな達也に内心で合掌しながら、紫輝も早々に行動する。

廊下から外の様子を見ると、もう既に賑わいというか喧噪がこちらまで伝わるレベルだ。

既に決めている身なのに無駄に疲弊はしたくないので、紫輝はとにかく紛れた。

廊下も結構人が多いので、気配を紛らわせるには何かと都合がいい。

途中、人波に抗えずにいたほのかと雫を見掛けたが、下手に救助しようとするとミイラ取りがミイラになりかねないのでスルー。

そうやって人波を上手くやり過ごして、紫輝はスケート部の部室までたどり着けた。

部室とはいっても、あくまでミーティング等で利用する部屋だが。

部活動はあくまで外のスケートリンクで行う、ということは知っているので驚きはしない。

「失礼します……ってあれ?」

ノックをしても反応が無かったので、部室に入ってみるともぬけの殻だった。

ただ、部屋の中を見る限り、先ほどまで何人か人がいた形跡はいくつも散見される。

活動をしていない、というわけではなさそうだ。

……そうなると、いくつか考えられる線はあるが

(どちらにしろいないんじゃ仕方ない、少し時間を潰してからまた来るか。 幸い、暇つぶしの手段には困らないからな)

ここで誰かが来るのを待つという選択肢もあるが、流石に誰も居ないからって勝手に入って寛いで待つのも気が引けた。

クラブ勧誘期間もまだ初日なので、最悪入部は今日じゃなくても問題は無い。

気を取り直して今度は第2体育館へ向かう。

お目当てはここで演武を行っている剣道部である。

何で剣道部なのかは、やはり使用CADの片割れは十手なので近接戦闘技術に興味があるから。

それに、下手なところを歩いて勧誘されるくらいなら静かに演武を見る方が全然有意義だろう。

「……紫輝? 何故お前がこんなところにいるんだ」

演武を何気なく眺めていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。

声の主と、その付き添いについては誰かはすぐに分かった。

後ろを振り返ることなく紫輝は苦笑気味に答える。

「スケート部の部室に行っても何故か誰も居ませんでしたーってオチだ。 出払ってるんだったらってことで、今はこうやってフラフラしてるってわけ。 ……そういう達也は見回りついでにエリカに付き添ってるのか? これはあることないこと深雪に密告しないとな……」

「待った紫輝君、流石にそれは私が危ないからやめてくれない?」

紫輝の最後の言葉が、本気か冗談か分からないので本気で焦っているエリカ。

達也はそれを冗談と判断してあえて取り合わなかった。

「スケート部の先輩方だったら走り回っているのを見かけたぞ。 お前のことを名指しで探し回っていたな」

アレは何が何でもお前が欲しいようだ、と付け足す達也。

本来ならもっとより良い環境を求めてもおかしくはないのに、何故か魔法科高校に入学したインターミドルチャンピオン、それが紫輝だ。

スケート部があるならばそのような超有望人材を見逃すはずがない。

自分の与り知らないところでそうなってることに、紫輝も流石に乾いた笑みが零れていた。

「ははは……まぁ、そういうことならあっちが探してくれるのを待つか、頃合いを見てまた出直すべきか。 やれやれ、人気者は辛いね全く」

「これでもし一科生、それも上位の成績だったらとんでもないことになってたでしょ。 ある意味二科生で良かったね紫輝君」

もしエリカの言う通りだったら……頭をよぎったのは、先ほどのほのかと雫の様子だ。

紫輝ならば楽にやり過ごせるのだが、気重な事態になるのに変わりない。

と、ここでふと紫輝は周囲の様子に気が付いた。

「ところで、目を離している内に何か騒がしくなってないか?」

先ほどまで竹刀の乾いた音しかしなかった体育館だったが、今はざわめきが主になっている。

何かあったのか……と3人は演武が行われていた方を向くと、一人の男子生徒が割り込んでいた。

「お、何か面白いことになってるじゃない。 よし行こう!」

エリカはすぐさま人混みの方へと向かっていく。

紫輝も野次馬精神というか、面白いもの見たさでエリカに続く。

達也は魔法が絡んだ荒事になる可能性もあると踏んで、あくまで風紀委員として現場へと向かう形で二人に続いた。

人混みを掻き分けて最前までたどり着くと、先ほど見えた男子生徒と剣道部であろう女子生徒が言い争いを始めたところだった。

「まだ剣術部の時間じゃないはずよ、どうして待てないの桐原君!」

「おいおい、心外だな壬生。 俺はただ、そっちの演武を手伝ってやっただけだぜ?」

割り込んだ男子生徒は剣術部で、剣術部の演武の時間は剣道部の後というのはすぐに分かる。

そして、これは明らかな割り込み行為で普通に考えれば剣術部に非があるように見える。

「おっ、これはなかなかの好カードね」

「エリカ、あの二人を知っているのか?」

「直接の面識はないけどね。 女子の方は一昨年の全国女子剣道大会準優勝の壬生沙耶香。 男子の方は一昨年の中学関東剣術大会のチャンピオン、桐原武明よ」

エリカによる騒動の渦中に居る二人の説明を受けて、紫輝も好カードという単語に納得がいった。

種目は大きく異なれど、紫輝も同じ世界に身を置くもの。

この二人が肩書き相応の実力、そして雰囲気そのものにシンパシーのようなものを感じていた。

……が、それと同時に。

(傍から見ればよくある、魔法系クラブと非魔法系クラブの衝突に見えるが……)

少なくとも達也とエリカには、ただの一科生と二科生の衝突にしか見えていないだろう。

だが、紫輝の中ではその決めつけには違和感が生じていた。

確かに挑発はしているだろう。

言い草も二科生を下に見ている一科生のそれに似たものに聞こえなくもない。

しかし、その言い草の中に別の何かが根にあるように紫輝は捉えていた。

プライドだけで二科を見下す輩とは何かが違う、と。

具体的に何かは分からないが……。

とりあえず、風紀委員である達也が今は静観を貫いているので自分も見守ることにした。

「口で分からないなら、剣で分からせるしかないみたいね」

「剣道が剣術に勝てるとでも? まぁ、可哀想だから魔法は使わないでおいてやるがな」

「むしろ、魔法ありきの剣術で純粋に剣だけの技を磨いた私に勝つつもり?」

……売り言葉に買い言葉、まさにそんな応酬である。

一触即発の雰囲気の中、達也は止めに入る準備は整えている。

いつ魔法による乱闘に発展してもおかしくない状況だから、その判断は正しい。

互いに竹刀を構えてから数秒の静寂の後に桐原が先に動き出した。

「ちょ、いきなり面?」

「いや、あの初弾はブラフだな」

不意打ち気味に動く桐原の面を狙った一撃は僅かに初速から減速している。

それさえ分かれば、この一撃がブラフであることはすぐさま見抜けた。

桐原の初弾を避け、そこからは互いに互いの剣を捌く膠着状態に。

一見すれば互角の勝負に見えるが、それは見た目だけ。

「桐原先輩不利だな。 初弾のブラフ以外面を狙う様子が無いから意図的に面狙いを縛ってる。 ……それにしても、準優勝でこれだけ強いのかよ。 全く気後れしてないどころか、押してるようにも見えるが……」

「……ううん、違う。 私が2年前に見た壬生沙耶香の剣と明らかに違う」

紫輝は男子相手に全く遅れを取らない壬生に素直に賞賛の言葉を贈る。

達也も内心で同じことを思っているが、エリカだけは壬生の技量に驚いているようだ。

「そんなに違うのか?」

「うん、断言できる。 ……たった2年でここまで成長できるなんて」

(確かに、急成長なら驚くのも無理はないか…… ただ、どうしても気になるな……壬生先輩のあの剣筋)

素人目でも分かる壬生の剣筋の鋭さ……否、それがあまりに鋭すぎることが妙に気になる紫輝。

確かに彼女は強い。

しかし、それは剣道というものに沿った強さなのかどうか。

その問いの答えは、当然紫輝にはあるわけがない……が、似たようなことを考えたことがあった。

それはかつての……

(あー、止めだ止め。 今はそれどころじゃねえ)

余計な思考に陥るところを寸でのところで振り切る。

と、あれこれ考えている内に状況は動いていて、壬生と桐原は互いに距離を取ってから決め手の一撃を放っていた。

二人の突きが、見た目同時に互いの小手に当たる箇所に入る。

「相討ち!?」

「いや、桐原先輩の方が浅い。 対する壬生先輩の突きはきちんと入っている」

よく見ないと分からない差だが、試合ならば確実に壬生の勝利となっているだろう。

剣道部と剣術部は勝敗が判明した瞬間に正反対の反応を示していた。

「勝負あり。 真剣だったら致命傷よ、桐原君」

淡々と勝敗を告げ、もう止めるように桐原に促す壬生。

しかし、桐原の表情に諦めは見られなかった。

諦めるどころか、不敵に笑っていた。

「はは……そうかよ壬生。 お前『真剣勝負』がお望みなのか? だったら……!」

桐原は左袖を少しまくってから腕に装着されている汎用型と思われるCADを操作する。

魔法の発動が完了すると、まるでガラスを引っ掻いたような不快な音、そして超音波がその場に響き始めた。

周囲の人間が耳を塞いでいる中、桐原は再び壬生に斬りかかった。

壬生は後方に跳んで回避を試みるが、不意を突かれたこともあり避けきれず、胴着が斜め一字に斬られていた。

(おいおい、高周波ブレードは流石にやりすぎじゃないか? 後の処分どうなるんだこれ……)

不快音に眉を顰めながらも明らかに見当違いなことを心配する紫輝。

高周波ブレードとは、殺傷性ランクBの近接用振動系統魔法。

刀身を高速振動させて、局所的に液状化を発生させてその箇所で切断する魔法だ。

紫輝も実物を見るのは初めてだが、確かにアレはほぼ真剣だとその威力には納得した。

……とはいえ、それを脅威に思うかどうかは別ではあるが。

解説はさておき、桐原は休む間もなく壬生に斬りかかろうとしていた。

「ダメ、危ないっ!」

流石に万事休すか……と思ったその時。

二人の間に割り込むように乱入する者が現れた。

言うまでもないだろうが、達也である。

乱入者の存在に周囲は驚愕、更に桐原もその動きを緩めてしまう。

それを好機と言わんばかりに、達也は両腕に装着したCADで魔法を同時発動させる。

するとどうか、その場の大半の人間が乗り物酔いのような感覚に陥ってしまう。

高周波ブレードの超音波による不快感から続けての感覚で、立っていられない生徒もいるくらいだ。

唯一多少不快な表情をしているだけの紫輝は例外中の例外であろう。

が、達也が発生させたであろう酔いの症状はすぐに収まった。

「え、一体何が……!?」

突然不快感が無くなったことでエリカは逸早く達也の方を見る。

目に入ったのは、達也が桐原を取り押さえている光景だった。

周囲の人間もその光景に目をやるが、一体何が起こったのか理解できている人間は殆どいなかった。

その例外の一人の紫輝は、ただただ微笑で達也のことを見ていた。

「こちら第2小体育館、逮捕者1名。 負傷していますので、担架の方をお願いします」

取り押さえている達也は、淡々とインカムで本部に連絡を取る。

その作業はまさに手慣れたもので、とても新入りの風紀委員には見えない。

「風紀委員……ってあれ、ちょっと待て。 二科生……だと?」

今までにない実例、二科生の風紀委員。

それを前にして達也、エリカ、紫輝以外からはどよめきが起こっていた。

更に言えば、一科生が二科生に抑えられているという状況もまた周囲の困惑を呼んでいた。

「ちょっと待て! 何で桐原が逮捕なんだよ!」

そんな中、剣術部員の一人が達也に抗議してきた。

(いや、むしろどう考えたらお咎めなしになるんだこれ……)

ツッコミを入れる紫輝だが、あくまで口には出さない。

別に横槍を入れてもいいとは思うのだが、折角幼馴染が仕事に精を出しているのに邪魔はするつもりはない。

「魔法の不適正使用により、桐原先輩は逮捕します」

抗議に対してあくまで簡潔かつ事務的に答える達也。

そんな態度が癇に障ったのか、剣術部員は口調を更に荒くしてまくし立ててくる。

「ふざけるな! それなら壬生だって同罪だろうが!」

あろうことか先ほどまで桐原と共に騒動の中心だった壬生も同罪だと訴えてくる。

それを聞いて紫輝はますます呆れてしまった。

まるで人の話を聞いていないのだから。

「魔法の不適正使用、と申したはずですが」

「何だ、その言い方…!」

達也としてはあくまで二度同じことを言っただけに過ぎない。

しかし、感情的になっている剣術部員からすればかなり鼻についたのだろう。

「言ってることは最もなんだけどねー……」

エリカも流石に達也の淡々とした受け答えはまずいと思っていた。

ただ、紫輝が相手じゃないだけまだマシだったのかもしれない。

彼の場合だと、確実に火に油を注ぐような挑発も混ぜた言葉が飛んできたであろう。

なお、今は黙っていてくれている紫輝は……相変わらず面白そうな笑みを向けていた。

紫輝がこれなら大丈夫か……エリカがそう結論付けた丁度その時、剣術部員は青筋を立てながら達也に飛びかかってきた。

しかし、達也はこれを最大限引き付けてからの最小限の動きで避ける。

飛びかかる対象を失った剣術部員はその勢いのまま前のめりに転ぶ。

「なっ……この野郎っ!!」

仲間がやられて(ただの自滅だが、あちらからしたらそういう認識)他の剣術部員も怒りの形相で達也に次々と襲いかかってくる。

しかし、数が増えようが同じこと。 引き付けて避けての繰り返しである。

横から来ようが、背後から来ようがまるで関係ない。

全て見切ってただ避けるだけだった。

「凄い、全部見切ってるんだ……あれじゃあ誰も達也君を止められない」

最初は助太刀をすることも考えていたエリカだったが、それも忘れてすっかり達也の身のこなしに見入っていた。

エリカがそうなってしまうほど、達也の動きには無駄が見られない。

「この、二科生の分際で!!」

「っ、ここで更に魔法!?」

見入っていたからこそなのか、一歩引いた位置で機を待っていた部員が痺れを切らした故の魔法の発動兆候に気付くのが遅れる。

しかし、達也は全く動じずに最初に桐原に対して行ったようにCAD二機で魔法を同時発動。

すると、奇襲を試みた剣術部員二人の起動式はあっさりと破壊されてしまった。

「な、何で……発動できない…」

更に明らかに何かに酔っているのか、立っていることすら出来ずに倒れこんでしまった。

これで全部か……と達也は周囲を確認していると、咄嗟に背後を振り返った。

何事かと思ったエリカはすぐさまそちらを見ると、まだ一人だけ残っていた者が既に魔法を発動させようとしていた。

達也は同じような手法で防ごうと……したが、それをするまでもなかった。

「なっ、俺の魔法まで!?……うわっ!」

何故か起動式が破壊され、更に何者かが最後の一人を転倒させていたのだから。

達也はため息をついて苦笑を浮かべていた。

「そのために今の今まで紛れていたのか? まさにいいところ取りだぞ、紫輝」

「何のことやら。 俺はたまたま親愛なる幼馴染の仕事を邪魔する不届きものを止めただけだぜ?」

達也の視線の先に居たのは、先ほどまで完全傍観に徹していた紫輝だった。

(い、いつの間に……?)

先ほどまでは自分のすぐ近くに居たはずの紫輝が、達也以外の誰にも移動を悟られぬことなく最後の一人を無力化したのだ。

エリカは達也が行った魔法キャンセルのことも相まって更に混乱してしまった。

「あれ、それで達也……これって問題行動じゃねぇよな?」

「いや、大丈夫だ。 あくまで取り押さえただけだからな。

  少なくとも不適正行為にはならないから安心しろ」

「ならいいんだ。 じゃあ、俺はそろそろ……「居た!」ん?」

達也のお咎めなしという回答を聞き、安心してずらかろうとした紫輝。

いつまでもこの場に居て、追及されることがあったら面倒極まりないからだ。

しかし、どこかからか聞こえた第3者の声に思わず立ち止まった。

すると、凄まじい勢いで紫輝の方に走ってくる一団がいた。

(おー、これはなかなか趣のある迎えで何よりです)

すぐに迎えと分かったその一団は器用に勢いにブレーキをかけて紫輝に急接近する。

「いやぁ探した探した! 君が獅燿紫輝君だよね!?」

「ええ、間違ってないですよスケート部の皆さん。 とりあえずまずは落ち着いて落ち着いて。 話は部室に行く道中で大丈夫ですから」

遠回しに現状入部の意思ありということを告げると、それを汲み取ったのか歓喜の叫びをあげるスケート部の面々。

その中には男子だけでなく女子も居たことには紫輝も少々驚いたが。

そして、少し落ち着かせてから第2小体育館を後にした。

……達也とエリカを除いて、大半はすっかりと置いてけぼりを食らっていたが。

「あははは……何というか、最後は見事に持って行ったね紫輝君……」

「まぁ、流石は紫輝と言ったところか。 これであいつも結果オーライだな」

最後の最後で台風のように騒動を締めていく紫輝に、二人は苦笑するしかなかった。

紫輝はあの後、無事にスケート部に入部することが叶った。

合流さえしてしまえば元々入る意思はあったので、部室に入ったらすぐに入部届を書いて即入部だった。

その時のスケート部室内はボルテージが凄まじいことになっていたが……。

それほど渇望されていた、と思うと紫輝もさほど悪い気はしなかった。

活動日や大会のことを説明、そして部員紹介の後は、それはもう怒涛のように時間が過ぎて行った。

特に紫輝への質問やアドバイスを求める声が矢継ぎ早だった。

一部を切り取ると、『何でそんなにホイホイトリプルアクセルが飛べるのか?』や、『今シーズン曲どうするのか?』、そして雫も質問した『4回転は競技用プログラムに入れるのか?』などなど。

紫輝も面倒臭がらずに1つ1つ丁寧に、かつどこか楽しそうに答えていた。

ただ、トリプルアクセルについてはどう答えたらいいものか分からずに

『うーん、とある五輪金メダリストじゃないんですけど、それこそ壁にぶつかっていくように飛んでるんですよね』

と、思いっきりズッコけながらも笑いを取るようなことを口走った。

また、4回転については雫に対するコメントと同じことを言ったら絶賛の嵐だった。

恐らく、最初の部活動の時は4回転トウループの実演から始まる可能性が高い。

そんな感じで時間は過ぎていき、部長の一声によって今日のところは解散となった。

外は既に夕闇に染まりつつあったが、まだ紫輝は帰るつもりはなかった。

事前に深雪たちと合流することを決めていたからだ。

校門の近くまで行くと、薄暗い中でもすぐに分かる集団が目に見えた。

エリカ、美月、レオ……そして深雪。 しかし、達也の姿はまだ無いようだ。

「悪い悪い、先輩方と談笑が白熱してて遅れちまった」

「まだお兄様はいらしてないから大丈夫よ、紫輝」

「俺たちもさっきまで部活だったからな、っていうか談笑が白熱ってどういう状況だ?」

達也の姿がまだないのは、今真由美、摩利、そして部活連会頭で十師族に並ぶ十文字克人に先ほどの騒動の説明をしている最中だからだ。

部活連というのは全クラブ活動統括組織のこと。

早い話、達也は一高内のスリートップ(三巨頭と呼ばれている)を前にしているのだ。

並の人間ならば恐れ多くて舌が回るかどうか。

何事かと紫輝も思ったが、紫輝から見ても達也の対応は問題は特になかったのでお咎めは無いはず。

自分があの時行ったことも、唯一あの場で正確に分かった達也もいちいち話しはしないから、懸念はない。

……話は変わるが、達也のことはスケート部での談話の中でも少しだが話題に上った。

実はこの一高スケート部、一人だけ一科生(2年男子)がいるのだが達也に対して悪感情どころかむしろ賞賛の言葉を贈っていたのだ。

現部長によると、このスケート部は割合こそ少ないが一科生が入るというケースは珍しくもないのだそうだ。

だから、この部では基本一科とか二科に捉われたりすることはまずない。

そんなことを考えている暇があったらコンパルソリーでもしている、とのこと。

居心地の良さを感じるとともに何とも愉快な集まりだと思ったものだ。

「もしかしてスケートやってる人って変わり者が多かったりする? 一科生なのに非魔法系クラブ所属って人もいるだなんて」

「結構いいところの出らしくて、かつそこそこ成績残してたらしいからな。 まぁ、スケーターに変わり者が多いのは否定しねぇが」

「紫輝がその筆頭ですからね」

深雪の直球発言には軽い手刀で返す紫輝。

こんな雑談をしている内に、達也が校舎から姿を現していた。

「わざわざ待っててくれていたのか、すまない」

「なぁに、大したことじゃねぇから気にすんな。 とりあえず初日からお疲れさん」

紫輝に始まり、順々に達也に労りの言葉を贈る。

「お疲れ様です、お兄様。 本日はご活躍でしたね」

「大したことじゃないさ、紫輝もあの場に居てくれたからな。 深雪もご苦労様」

深雪は最後に駆け寄りながら賛辞の言葉も忘れずに達也を労わる。

達也はそんな深雪の頭を撫で……まぁ恒例の兄妹イチャつきタイムだ。

「まぁ、兄妹だって分かっちゃいるんだけどな……」

「凄く絵になりますね」

「君たち、あの二人に何を期待してるのかな? 後紫輝君、ちょっとおじさん臭いよ?」

「ははは、ハリセンをご所望かな、お嬢さん」

冗談でハリセンを準備するのを見てエリカは流石に待ったをかけた。

痛くはないのだが、音が清々しいくらいに響くので心臓に悪いのである。

その後は時間もやや遅いということで、達也の提案で何か食べることになった。

待たせてしまったということからか、達也の好意によるおごりで。

エリカと美月は以前に引き続きで最初は遠慮がちだったが、深雪と紫輝が背中を押した。

なお、前回はおごった側の紫輝も今回はおごられる側である。

「そういえば達也、今日お前が逮捕した2年の桐原って高周波ブレードを使ったんだろ? よく何ともなかったな」

各々が頼んだものが来るまでの雑談で、今日の剣術部と剣道部のいざこざの話に移る。

「アレは有効範囲が狭いからな。 それさえ分かっていればよく斬れる刀と変わらないから対処は変わらないさ」

「それって、真剣の対処は簡単ってことですよね……危なくないんですか?」

何ということもない風に答える達也だが、恐らくその辺りの感性が普通な美月は真剣というだけで危険と思ったのだろう。

その懸念に答えたのは達也本人ではなかった。

「お兄様なら真剣くらいならなんてことはないわ」

「でも桐原先輩って超高校級の剣術使いだよ? 確かに達也君のあの動きは達人級だったけどさ」

「それでも此奴には全然届かないだろうな。 達也はただ動きがいいってだけじゃあないからな」

ブラコン上等な深雪と、口は軽いが達也への信頼は深雪と同等かもしれない紫輝。

達也にとって肉親、そして最も付き合いが古い友人(というか家族というレベル)の二人が断言したのだ。

3人は苦笑せざるを得なかった。 ……紫輝の言い草には意外に思いながら。

「でも、高周波ブレードって単なる刀というだけじゃなく、超音波も放ってたような……」

「確かに普通ならその超音波も脅威でしょうね。 でも、お兄様は魔法の無効化もお手のもの、十八番なの」

深雪の口から発せられた『魔法の無効化』という語句に疑問符を発する3人。

……が、エリカのみは思い当たる節があるから「あっ」と声を漏らした。

「エリカは思い当たる節があるようね。 お兄様が飛び出した後に乗り物酔いのような感覚に陥ったでしょう」

「うん、すぐに収まったんだけど結構クラクラしたわね……じゃあ、まさか」

「そう、それはお兄様の仕業よ。 お兄様、キャスト・ジャミングをお使いになったのでしょう?」

「「「キャスト・ジャミング!?」」」

『キャスト・ジャミング』……今度は一斉にこの単語に反応を示す。

語句からして魔法の無効化を意味する言葉に聞こえるが……

「全く、深雪には敵わないな」

「お兄様のことでしたら、何でもお見通しですよ?」

「って待ったー! それもう兄妹の会話じゃないぞ!」

話題を逸らすかのように雰囲気を出し始める兄妹にレオはすかさずツッコミ。

ツッコミを入れた、という点で紫輝は心底感心していた。

(ただ、もう少し切り込まないと駄目だぜ、レオ)

感心と同時にダメ出しも忘れずに、だが。

そして兄妹に見事にというか清々しく返され、レオは盛大にズッコけた。

「このラブラブ兄妹にツッコミ入れようってのが間違いなのよ……レオ」

ほんの僅かだが耐性が出来たエリカは撃沈したレオにそう言い聞かせる。

が、まだまだ兄妹の攻勢は続くようだ。

「おいおい、その言われようは不本意なんだが……」

「ふふ、いいではありませんか。 私とお兄様が深い兄妹愛で結ばれているのは事実ですもの」

行動は更にエスカレートして深雪が達也に思いっきり身を寄せてきた。

知らない人間が見て、この二人が兄妹に見えるかと言われたら……恐らく九分九厘Noだろう。

こんな行動を取られては、僅か程度の耐性しかないエリカもレオと同じように崩れ落ちるしかなかった。

……だが、その猛攻を止めるストッパーがようやく重い腰を上げた。

「1名冗談だってわかってないから悪ノリも程々にしておきな、バカップル兄妹」

何てことない声と共に兄妹の額に1つずつ扇子が投擲された。

割と勢いのあるその一撃に達也と深雪は揃って変な声を上げてしまう。

それと同時に、甘ったるい空気は一気に霧散された。

「え、え? 冗談?」

冗談だと分かっていない1名……美月はまだ赤い顔を覆ってしまった。

エリカとレオはそれを微笑ましいように見つめ、その後空気を変えた張本人を見やり

「うん、流石は幼馴染というか……」

「豪胆だな、紫輝って……いや、分かっちゃいたんだけどな」

「単に慣れてるだけさ。 時には空気を読まずに換気もしなくちゃな」

どこか憧憬を含んだ眼差しを向けていた。

割と強めのツッコミを受けた二人は苦笑しながら既に元の位置関係に戻っている。

「さて、キャスト・ジャミング云々の話だが……。 まずは、キャスト・ジャミングがどういったものかの認識は大丈夫か?」

紫輝はそのまま雑談の舵を戻す役を買って出た。

彼の問いに、3人は少し戸惑いながらも持っている知識から捻出を試みる。

「ジャミング用のサイオン波を発生させて魔法式の妨害をする、でいいんだよね? でも確か特殊な石が必要だったよね。 なんだったっけ」

「アンティナイトだよ、エリカちゃん。 あれ、でもアンティナイトって確か……」

「ああ、アンティナイトは軍事物資だ。 一学生が持てるようなものじゃないし、当然俺も持ってはいない」

魔法の妨害が出来る代物が魔法師が社会の基盤になってる今の世で出回るはずがない。

実際、軍以外で持っているのは表ならばSPなどの良家の護衛くらいだ。

……そんな達也の言葉に、明らかに矛盾していることに3人はすぐに気付いた。

「それじゃあどうやって無効化したんだ?」

「……これはオフレコで頼みたいんだが、俺が使ったのは『キャスト・ジャミング』ではない。 その理論を応用した『特定魔法のジャミング』なんだ」

前置きはここまで、ようやく本題というか結論から入る。

しかし、その結論がいきなり特大の爆弾ともいえる代物だった。

何故ならば

「あれ、そんな魔法って…あったか?」

「私は聞いたことないんですけど……」

「……え、まさか一介の高校生の達也君が新しい魔法を開発した……ってこと!?」

そう、達也の言った『特定魔法のジャミング』……こんな効力の魔法は今までにないものなのだ。

キャスト・ジャミングはあらゆる魔法をキャンセルするので汎用的なキャンセル魔法と言える。

これは先ほど出てきたアンティナイトが無いと使えない対抗魔法だ。

しかし、達也の言う魔法は、キャンセル範囲こそ一気に狭まるがそれでも絞りさえすればその魔法のジャミングは可能、だということ。

この違いが分かったからこそ、エリカ、レオ、美月は達也の非凡な才にただただ驚いていた。

「まぁ、偶然見つけたという方が正しいんだがな。 CADを2機同時で使うと互いのサイオン波が干渉し合って魔法が発動しづらくなるのは知っているだろう?」

「ああ……何となくで前に試したけど全然ダメだった記憶があるぜ」

「わ、身の程知らずー! そんな高等技術そうそう出来るわけないでしょ」

以前にCAD2機を試したレオをエリカが茶化して、また喧嘩になりかけるところだったが、

紫輝が笑顔で扇子を構えているのを見てすぐに収まった。

その様子を見てから、達也は説明を続ける。

要するに、このいわばキャスト・ジャミングもどきはこのサイオン波同士の干渉を利用したものだということ。

事前に妨害したい起動式と、妨害したいものとは逆の起動式をそれぞれのCADで展開する。

ただし、この2つは魔法式に変換せず複写増幅を行ってサイオン信号波とする。

この信号波を無系統魔法として放てば、この2つの魔法式と同じものはある程度無効化できる、という理屈だ。

理屈は理解したところで、レオが更なる疑問を口にした。

「理屈は分かったが、何でこれオフレコなんだ? 特許取れば儲かりそうじゃんか」

ぱっと見はただの新しい魔法と言うだけなので、特許を取れば利益は計り知れないものだ。

そう思うレオの考えは間違ってはいない。

しかし、このキャスト・ジャミングもどきについて忘れてはならないことがある。

「オフレコの理由は2つある。 1つは、この技術はまだ未完成であること、もう1つはアンティナイトを使わないで魔法を妨害できることそのものが問題だということだ」

「要するに、アンティナイトの価値が下がるし、その上こんな技術を反魔法師な連中が手に入れたら……ここまで言えば想像つくよな?」

達也が語る2つの理由、そして紫輝の付随説明。

特に紫輝が示した最悪のケースを聞いて、レオは合点が言ったようだ。

エリカと美月は最初から分かっていたようだが。

「確かに、魔法師が主になりつつある現代社会の基盤を揺るがしかねませんからね……」

「下手すると私たちまで危うくなるってこともあるわね」

「そういうことだから最低でも対策法が見つからない限り、公表する気にはとてもなれないな」

編み出した魔法で自分たち魔法師の立場を危うくするような自滅行為はまさにもっての外だ。

ただでさえ、昨今の魔法師に対する反対運動は絶えないのだから。

わざわざそんな連中に弱みを見せてやる道理など当然ながらない。

「ただ、このキャスト・ジャミングもどきは結局、起動式を瞬時に読み取って妨害準備をする必要があるから、おいそれと出来ることじゃないのも確かだ。 要するに今この魔法を使えるのは達也だけだからそこまで気にする必要もないとも言えてしまうぜ?」

「紫輝の言う通りですよ、お兄様。 私もちょっと考えが過ぎるんじゃないかと思います」

「何だ、二人とも俺のことを優柔不断のヘタレと言いたいのか?」

冗談めかすように言う達也。

それに合わせてか、深雪と紫輝も似たような表情で

「さぁ、どうでしょう。 紫輝はどう思ってるの?」

「俺は別にヘタレとは思ってはいないぜ? 石橋を叩いてるなってくらいには思うがな。

 では、ここでエリカにも聞いてみようかね」

達也の冗談を上手く盥回しにして深雪→紫輝、そしてエリカへ投球する。

その意図を理解したのか、エリカも少し意地の悪い笑みを浮かべる。

「私もそうは思わないけどねぇ、ここはあえて美月の意見も聞いてみちゃおうかなーって思うんだけど」

「え、ええ!? 私ですか!?」

更に美月へボールを投げるエリカだが、自分にまで飛び火するとは思っていなかったようだ。

不意を突かれてすっかり挙動不審になってしまう。

「全く、いいチームワークしてるな」

何とも言えない連帯感にレオは一人苦笑してしまっていた。

この連携に混ざらなかったことを良かったとも少し寂しいとも思ったが口には出さない。

出したら今度は自分が標的になりかねない……そう感じたから。

「あ、そうださっきの話にちょっと近いことなんだけど。 紫輝君ってあの時どうやって魔法をキャンセルしたの? 達也君とは違う方法だっていうのは分かるんだけど……」

エリカが思い出したかのように尋ねたのは、あの騒動の終わり間際のこと。

不意打ち気味に放たれそうになった魔法がキャンセルされ、その剣術部員は無力化。

それを行ったのは紫輝であることは達也だけでなくエリカも分かっていた。

しかし、魔法をキャンセルした方法が分からない。

少なくとも、乗り物酔いのような感覚にならなかったからキャスト・ジャミングもどきではないことは薄々分かってはいるみたいだ。

「あー……やっぱエリカには俺の仕業だってバレバレか。 あれは魔法はキャンセルしたっていうより起動式を破壊したのさ。 七草先輩があの時やったみたいにな」

特に隠し立てするようなことでもないのであっけらかんと真実を話す紫輝。

真由美を例に挙げたことで、エリカだけでなく現場を見ていないレオと美月、深雪も紫輝が何をしたのかがすぐに分かった。

「だが、紫輝の場合は会長のサイオン弾より更に密度が濃いから破壊というより粉砕、だな。 こいつは発動速度だけでなく、サイオン保有量にも長けているからな」

「へぇ、そうなんだ。 だから私と似たタイプのCADも持ってるんだね」

「まぁ、その代わり精度は言うほどじゃないぞ? あの時はあれくらいの距離だから当てられたようなもんだ。 十手の方もエリカに比べれば燃費は悪いしな」

「でも、そんだけ手札があると羨ましいぜ。 俺なんか硬化魔法の一点特化だからバリエーションを増やすのがせいぜいさ」

ただ、手札があるとはいえ今の紫輝は干渉力と規模が厳しいので魔法戦だと結構厳しいことに変わりない。

しかし、紫輝にとってそんなことは些細なことだ。

これから起こるかもしれないことを考えれば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラブ勧誘期間はまだまだ続く。

たとえ紫輝が無事にスケート部に入ったとしても、だ。

しかし、勧誘期間が終わるまでは部活動も始まらない。

そうなると何が問題なのか……それは至ってシンプルだ。

(……暇だな)

早い話、それぞれ風紀委員と生徒会で活動中の兄妹を待つ時間が問題だ。

いっそ早く下校してスケートリンクに行くなりなんなりすればいいと思われるが、今日はリンクを貸し切る日だ。

そんな日に一般に混ざって練習する気にはなれなかった。

(達也に嫌がらせしてる、またはやろうとしてるヤツにお灸を据えるのも面白そうだが……)

深雪経由で聞いた話なのだが、勧誘期間初日の桐原の一件以来、やたら一部の上級生(大体一科生)が達也に嫌がらせをしているらしい。

襲撃犯を追うところに立ちはだかって妨害、乱闘に見せかけてわざと魔法を誤爆……あげるとキリが無い。

深雪はさぞご立腹だったが、それを聞かされた紫輝も同じだ。

達也ならば大丈夫なことは分かっていても、身内がそのようなことをされるのは許し難い。

しかもそれが二科だから生意気と言う、彼からすれば下らないにも程がある理由だから更に腹が立つものだ。

だが、ここはまだ表舞台……紫輝の場合はやりすぎてしまう危険性もある。

そうなった場合は迷惑するのは達也なので困っていた。

気配同調からのサイオン弾(厳密に言えば、紫輝が使うこれはちゃんとした魔法名はあるのだが割愛)だけなら魔法を使用した嫌がらせ妨害にはなる。

あんまり度が過ぎるようならそれを行使してやろうと思った。

さて、今日は遅寝早起きが続いて妙に睡眠不足な感が否めないので昼寝でもしようと屋上へと向かっていた。

(あれ、誰かいるみたいだが)

屋上へのドアを開けようとしたところで、先客が居ることに気付く。

まさか、この時期に放課後に屋上で屯するなんて考える生徒がいるとは露にも思っていなかった。

まぁ、構わず寝てればいいかと思い、ドアを開けると……

(おい? 何だこの見てはいけない光景は)

双眼鏡で何かを必死に追っている女子生徒が3人、紫輝の視界に入った。 というか入ってしまった。

しかも内2人が知り合い……ほのかと雫だから余計にどうしたものかと思ってしまった。

これが全員顔も知らなければ知らんぷりで昼寝に興じることも出来たのだが……

ここは3人の動向を見守る形となった。

「あ、達也さん発見」

雫がぽつりと呟いたのを紫輝は聞き逃さなかった。

達也が対象……ということは、一瞬本当にストーカーになっていたのかと思ったがすぐにそれは思い直すことになる。

「後ろからまた魔法!」

(……あー、そういうことか)

達也に対する嫌がらせの魔法行使を見て、またと言ったことで彼女たちが何をしているのかがようやく分かった。

何かの偶然で達也が嫌がらせを受けていることを知ったのだろう。

そのことに紫輝同様に憤りを覚えて、襲撃犯をどうにかできないかと探っているところか。

一般生徒の領分を超えている気がしないでもないが、それは紫輝には関係ない。

「おっと、魔法が効かないからって逃げてるぞ襲撃犯」

達也がキャスト・ジャミングもどきで魔法をキャンセルしたのを見て、思考を巡らせるほのかと雫に対して言葉を掛ける。

無論、気配同調も解いている。

いつの間にか隣に居た紫輝に驚きながらも、逃走を図る襲撃犯の方へ視界を集中させる3人。

相手も自己加速術式を使っているからかかなりのスピードだが、かろうじて顔は捉えることが出来たようだ。

そして、今度は雫とほのかの目は紫輝の方へと向いていた。

「えっと……な、何で獅燿君がここに……?」

「達也と深雪を待とうと思ったが暇でしょうがないから昼寝に来た。 すると面白そうだから俺も混ぜてもらったってだけだぞ?」

「それ、凄く趣味が悪いよ獅燿君」

雫の言うことは一理あるというか、もはや正しいのだが紫輝は全く悪びれない。

そして、ほのかの顔色はどんどん青くなっていた。

達也にかなり近しい関係の紫輝にこのストーカー紛いの行動をしているところを見られたのだから無理もないが。

「獅燿君! お願いですから達也さんには絶対に言わないでください! 後、深雪にも!」

「安心しろ、流石にそこまで性悪じゃあない。 そっと胸の内に仕舞っておくさ」

……達也なら分かっていそうだが、という言葉は出さずに紫輝は黙認を了承した。

まぁ、何か聞かれたら事実を伝えれば変な印象を与えないで済むだろう。

そして、今度は初めて見る3人目の女子の方へ向き直る。

「そちらは初めまして、だな。 1-Eの獅燿紫輝だ。 一応達也と深雪とは幼馴染で、そっちの2人とも仲良くさせてもらってる」

「へぇ、あの究極美少女とそのお兄さんの幼馴染かぁ。 あ、私はアメリア=英美=明智=ゴールディ。 よろしくね、獅燿君」

こちらが二科生であっても全く態度に変化が無いエイミィを見て、紫輝は思った。

(……これ、むしろ森崎と不愉快な仲間たちが少数派に見えてくるんだが……)

出会ってきた割合の問題なのだろうが、そう錯覚してしまうのは無理もないだろう。

達也から聞いた話だと、風紀委員も実力主義故に一科二科というしがらみはそこまででもないらしい。

生徒会も言うまでもない。 唯一それだった服部もあの様子だと考えを改めていると思われる。

まぁ、少なからず達也の影響もあってのこともあるのだろうが……。

(だから出る杭は打たれるってノリで今の状況なんだよな……)

「そういえば、獅燿君はちゃんとスケート部に入った?」

「ちゃんとって、おいおい……まぁ、入ったぞ? 他に選択肢もないし」

これでもしスケート部に入ってなかったらどう続いたかが若干怖いくらいの勢いだ。

他のクラブに入っていたら間違いなく兼部を推していたに違いない。

「へぇ、獅燿君ってスケート滑るんだ。 かっこいいね!」

「ちなみに、前シーズンの全中優勝者だよエイミィ」

「ふぅん……って、え!? まさかのかなりの実力者っていうか全国区!?」

非魔法系の競技でも全国区クラスならば驚かれるのはやはり変わらない。

こう何度も驚かれるのを見てしまうと紫輝としても若干こそばゆくなってしまうところだ。

「そういえば、その恰好を見るに3人も部活は決まった組ってことか。 エイミィは狩猟部なのは一発だとして……」

「私と雫はSSボード・バイアスロン部です。 ちょっと色々とあったんですけどね……」

SSボード・バイアスロン部と聞いて紫輝はほのかの言う色々がすぐに思い当たる。

スケート部での雑談中に話題に上がったのだ。

OGが二人の女子生徒を攫って風紀委員長……要するに摩利とのスケボーチェイスが始まったとか。

その二人の女子生徒がほのかと雫だったというわけなのだが。

「色々あったけど現部長は大丈夫だから、多分」

「まぁ、ウチの部長も俺を引き入れるために部員総動員させるような人だからなぁ……」

「そりゃあ全中チャンピオンは何としてでも欲しいでしょうに。 あ、そういえばあの時凄い走ってたのってスケート部だったんだね」

その後も暫く部活動の話に華を咲かせて(紅一点の真逆でも紫輝は全く持って動じていない)、いい時間になったので紫輝は達也と深雪に合流、3人も帰宅することとなった。

最初に確認した達也に襲撃を掛けた生徒(エイミィ曰く剣道部の部長らしいが)の裏付けを取るように助言することも忘れずに。

(しかし、達也に魔法を撃った奴が剣道部部長……偶然じゃあねぇよな……)

桐原が剣道部に突っかかったのも何か理由があると思った紫輝の直感もあながち間違いではないかもしれない。

今はまだ何も起きていないが、俗に言う嵐の前の静けさなのだろうか。

これでもし、『アイツら』まで絡めば……ものの一瞬で殺伐とした騒動と化すだろう。

(そっちの警戒はそろそろ密に、だな。 ……やれやれ、入学早々これとはな……)

入学早々起こり得るトラブルがどこまで面倒になるのか、それを思って紫輝は静かに溜息を吐いた。

 

 




紫輝が使ったサイオン弾丸は…まあ、言うに及ばずあの魔法です。
CADなしでもこれだけの精度ですが、CADありだと赤いコートの彼よりちょっと悪い程度の狙撃精度になります。
次話からじわじわ事態が動きます。 そして、ようやくまともにあいつらの登場します。
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