魔法科高校の劣等生 -Masquerade Devil Hunter- 作:スダホークを崇める者
明日から3日間は全部某アイスショーに行きますので、上げるならまさにこのタイミングでした。
今現在はFateGOで大暴れ中。 頼光様欲しかった気もするけど、まあ来ないものはしょうがないね。
ライダーゴールデンがいればそれでいい。 ただ、これで☆4ライダー何人目だろうか。
今年のクラブ勧誘期間はいつも通りに騒がしくなり、そしていつも通りに収束するように終了した。 それと同時にクラブ活動がスタートするので、新入生の大半はここから平常運転が始まると言ってもいいだろう。
逆に、平常運転が始まるからこそ一息をつける者もいるわけなのだが
「達也、今日は風紀委員は非番なのか?」
「ああ……やっと一息つけるよ。」
そう、クラブ勧誘期間内はずっと働き詰めだった風紀委員である。
期間中はずっと校内を巡回、更に問題が発生した場合は即座に対応。
特に達也は2日目以降の一科生による妨害も相まってか気苦労が絶えなかったからなおさら安堵感の中に居た。
「魔法で攻撃を受けたりもしたんですよね? 何事も無くて本当に良かったです。」
「まぁ、達也にはアレがあるから基本大丈夫だろうが、本当に何事も無くて安心したぜ。」
珍しく心配するような口調の紫輝だが、あまりに目に余ったので最終日辺りの妨害に対しては密かに気配同調→想子弾丸のコンボで達也を援護していたりもする。
無論、達也以外には誰にも紫輝によるものだとは悟られてはいない。
「あまりの活躍っぷりから、達也君は反魔法師派がよこした刺客だなんて噂も流れてるわよ。」
「他人事のように言ってくれるよ、全く……」
根も葉もない噂に、達也は更にため息を吐いた。
その様子から、もう少し早めに行動を起こせばよかったかと紫輝も若干後悔していた。
「今日からCADの携帯制限も元通りだし、そっちの心配も無くなるだろ。 勧誘期間も終わったから無法地帯ってことももうねぇしな。」
「そうだといいんだがな……。」
傍から見れば疲れ混じりの返しにしか見えないが、実際のところこの時点で達也は何か予感を感じていた。
その原因は、昼休みの生徒会室でのとある一件。
勧誘期間が終わってどこか気が緩んでいるところにその話題は上がったのだ。
1枚の写真と、達也の襲撃現場の証拠という文面の通報。
達也、そして深雪はこの写真の出所が何者なのかはすぐに分かった。
しかし、肝心の写真は逃走しているところなので証拠能力は無い。
その場では放っておいても問題ないという結論を出し、真由美や摩利も同意して終わったが……。
深雪の迎えに行く道中で、達也はまずこのことを紫輝に伝えた。
紫輝は屋上での一件で写真の出所がほのか、雫、エイミィの3人だということはすぐに察する。
その上で、彼も達也と同じ不安を覚えた。
「学生レベルの嫌がらせで済むならまだしも、今回はどうも色々ときな臭いからなぁ。」
「やはりお前もそう思うか。 ということは、お前の方の一件と絡んでいる可能性もあると?」
「大ありだな。 学校周辺に居たのが天然モノじゃなくて人造、しかもプロトタイプってところがますます怪しい。」
あっちの専門家の意見を聞いて達也の不安も更に広がる。
この時点で達也はある団体の関与まであると睨んでいるが、紫輝の担当案件まで重なるとなればふとした拍子で一気に事態が変わる可能性すらある。
そして、相手が何かを仕掛けてくるとしたら……危険なのは誰かは言うまでもない。
「紫輝、可能な限りでいいから頼まれてくれないか?」
「了解。 まずは索敵範囲を絞らせておく。 そうすれば俺が動けなくてもまだどうにかなるはずだ。 お、来たようだぞお姫様が。」
言うまでもなく深雪のことだが、彼女がA組の教室から一目散に向かってきた。
「お兄様、お待たせしました……って、紫輝は今日から部活じゃないの?」
「よほど遅れなきゃ時間についてはあれこれ言われねぇからな。 やれやれ、いきなり4回転実演だからプレッシャーが凄まじいぜ。」
本当にプレッシャーになっているか否かは分からないが、とりあえずサボっているわけではないので深雪もそれ以上追及はしない。
それよりも聞いておきたいことが深雪にはあった。
「あの、お兄様……先ほど紫輝と話していたのはもしかして……。」
「ああ、昼休みの件だ。 紫輝には耳を通すべきだと思ってな。 紫輝の方も関わっている可能性が否定できないから助力も頼んでいたところだ。」
「まぁ、俺にとっても3人はダチだからな。 危険なら助けるのは当然のことさ。」
紫輝が動くと聞いて深雪は若干だが安心した。
流石に達也ほどとまでは行かないにしても、深雪は紫輝のことは信頼している。
彼が達也と同じ方向に舵を切れば、それこそ敵などいないとまで思っているくらいだ。
そんな深雪の様子に達也と紫輝は揃って苦笑を浮かべていた。
「あ、ちょっといい?」
暫く歩いていると、背後から声を掛けられた。
3人は一斉に振り返ると、そこに居たのは紫輝と達也は見覚えのある顔の女子だった。
「一応はじめまして、かな? 私は2年の壬生沙耶香。 貴方たちと同じ二科生よ、司波達也君、獅燿紫輝君。」
達也はまだしも、まさか自分まで認知されているとは思ってもみなかった。
あの時の自分は最後の最後しか手を出していないし、それも達也とエリカにしか見えていないものかと思っていたからなおさらだ。
「あれ、達也はともかく俺って名乗ってもいませんよね。」
「ほら、あの後スケート部が凄い勢いで現れて君を連れ去ったじゃない。 それに、かつてのスケート黄金期に迫る実力を持つ全中覇者ってことでも有名よ?」
全中覇者で実力も備わっているくらいで魔法科高校内で有名になるかはさておき、前者の理由で納得行った。(スケート黄金期に迫る、というところは内心で全力否定)
考えてみればエイミィもスケート部が行った『獅燿紫輝をさがせ』は知っていたのでおかしな話ではない。
「それで、自分に一体何の用なのでしょうか壬生先輩。」
話がずれかけているところを達也が軌道修正に入る。
あんまり時間がかかると深雪が生徒会室へ行くのがどんどん遅れてしまうから、手早く済ませたいところなのだ。
「あ、話が逸れちゃってるわね。 剣術部との諍いの時に司波君助けてくれたでしょう? そのお礼がしたいから一緒にお茶でもどうかな。」
達也、そして紫輝としては予想通りの用だった。
ただ、この時紫輝の直感は何かを察知した。
ほのか、雫、エイミィの3人と共に確認した達也に魔法を放った男子生徒。
エイミィはあの時剣道部の部長と言っていたことを紫輝ははっきりと覚えている。
本当に達也に魔法を放った人間の一人がエイミィの言う通り剣道部部長とは限らない。
しかし、この如何にもというタイミングで同じ剣道部員の壬生がわざわざ達也に会いに来ているのが引っ掛かる。
本当にお礼がしたいだけなのかもしれないので断言はできない。
だが、警戒しておくに越したことは無い……紫輝はそう結論付けた。
達也は壬生の誘いを15分後に合流する、という形で了承した。
深雪を生徒会室へ送ることを当然ながら優先した。
その後は何事もなく生徒会室前に到着、達也は図書室で待っていると言い残して去ろうとする。
「お兄様、その……気を付けてくださいね。」
「壬生先輩のことか? せいぜい部活の勧誘がせいぜいだと思うから大丈夫だと思うが……。」
恐らく女の勘というやつなのだろう、嫌な予感がよぎる深雪に対して達也は若干楽観的だ。
いつもなら紫輝も楽観的に接するところだろうが、今回は深雪と全く持って同感だった。
「お兄様が名声を博するのはとても嬉しいことです。 ですが、その力を利用しようとする輩も現れるのではないかと思うと、不安で……」
「流石にそれは気にしすぎだろう。 それと深雪、たかだか高校生の活動で名声を博するは大げさだぞ?」
「もう、いいじゃないですか!私にとってお兄様の名は名声なのです!」
照れ隠しでそっぽを向いてしまう深雪を微笑ましく思いながら達也はその場を後にした。
紫輝もそろそろ行こうと踵を返そうとすると、後ろから袖を掴まれて立ち止まった。
「……紫輝も同じ予感がしているのよね?」
「ああ、壬生先輩のことはどうも引っ掛かりを覚える。 ……深雪、桐原先輩の供述書かなんかって見たのか?」
生徒会役員の深雪ならば逮捕した生徒の供述書を見てもおかしくはない。
その中に、引っ掛かりを解決するカギがあるかもと思い、深雪に尋ねた。
深雪もまさにそのことを紫輝に相談しようと思っていたのでまさに互いに都合が良かった。
彼女が話した内容は、まさに紫輝が感じていたことほぼそのままだった。
壬生の剣筋が剣道らしからぬ荒々しいものになっていたこと。
元々綺麗だった彼女のそれを殺伐としたものに変貌させた汚染源がきっと存在するということ。
そして、それを正そうとしたというわけではなく、ただの八つ当たりであの行動に出たとのこと。
最後の八つ当たりに関しては若干予想外だったが、軒並み紫輝の予想と一致していた。
紫輝の疑念がますます確信めいたものになっていく。
「ありがとよ、深雪。 八つ当たりってのは意外だったが大体俺の推測が当たってた。 というわけでこっちからも情報提供。 生徒会に送られた写真に写ってる人物だが剣道部の部長だろうな。 提供者があの3人ならその可能性は高い。 よって、剣道部は黒の可能性が濃厚だ。」
「じゃあ、壬生先輩はやはり……。」
「恐らく、達也をその手の話に誘導する可能性はあるな。 まぁ、達也なら問題はないだろうし、むしろ釣り上げる可能性すらあるだろうから今は待つことしか出来ない。 特に深雪は下手に動けば狙われる危険性も増えるし、それは俺も達也も絶対に避けたいからな。」
紫輝としても達也任せになってしまうのは心苦しいが、相手の狙いが達也である以上仕方ない。
それならば達也が相手を釣り上げて本命が居るようならばそれを叩くのがベストだ。
そのついでで紫輝の方の本命が出てきてくれればなおよし。
まだ完全にそちらも関わっているとは断言こそ出来ないが、最悪の状況を考えれば普通に有り得る事態だから、備えるに越したことは無い。
深雪も心苦しいことではあったが納得していた。
ある程度この件の方針を固めたところで、深雪と紫輝は今度こそ別れた。
深雪は生徒会、紫輝は高校生活初の部活動に励んでいる間、達也は壬生とカフェで話をしていた。
去り際では深雪はあのように心配していたが、達也自身は深雪、そして紫輝以外に靡くつもりなど到底ない。
それだけのために彼は今ここに在るのだから。
さて、壬生との会話はまず改まったお礼から始まった。
達也は別に風紀委員としての務めを果たしただけと謙遜で返すも、壬生の方から穏やかでない言葉がいきなり出てきた。
曰く、『風紀委員の活動は学校への点数稼ぎ』とのこと。
そんな事実は無いと思われるが、壬生はすっかりそう思い込んでいるようだ。
半ば強引な流れからとはいえ、それでも自分が所属している風紀委員がそのような依怙贔屓を受けていると言われるのはあまりいいものではないと冗談のように指摘すると、達也は別だと慌てて取り繕った。
(何故風紀委員に悪感情を持っているかは読めないが……まぁ、報告事項だな。)
風紀委員の話は一旦打ち切り、今度は達也の剣道部への勧誘に移った。
これは予想通りの範疇、出方としてはベターだろう。
ただ、達也にそれを受ける理由は特にないのは言うまでもない。
元々彼は徒手格闘術を使っての近接戦闘がメインで、剣は素人。
何故そんな自分を誘ったのかを逆に聞いたら、『剣道に向いていそうだから』と無難な答えが返ってきた。
どう考えても別に理由があるのは明白である。
「壬生先輩、自分を誘うには他に理由があるのでは?」
あえて直球に他の理由を引き出そうとしてみる。
いきなり投げかけられる質問に壬生は少しだけ動揺を見せるが、隠しても仕方ないと判断したのか、すぐに口を開いた。
「私たち非魔法系クラブで連携して部活連とは別の組織を発足しようと思ってるの。 実技の成績とかは仕方ないにしても、クラブ活動でも魔法が優先されるというのはおかしいと思ってね。 魔法が上手く使えないからと言って、私の剣……私自身まで否定されるのは耐えられない。 私たちは魔法だけが評価の対象じゃないって学校側に伝えたい。 司波君にはそれを手伝ってほしいの。 あ、今日は無理だったけど獅燿君にも話をするつもりだから。」
いきなりスケールが大きくなって達也は思わず苦笑してしまった。
彼自身壬生は割と剣道一筋だと思っている節があったのでそのギャップに苦笑した、という方が正しいのだが……。
「司波君、もしかしてバカにしているの?」
このタイミングで苦笑されては誰でもこう思うのは仕方ない。
しかし、達也自身は別にバカにしているというわけではない(というよりバカにすることが出来ないという方が正しい)。
「いえ、自分の目が曇っていたと思っただけです。 壬生先輩のことをただの剣道美少女と思っていましたから。」
普通なら歯が浮くような言い回しだが、こういう言葉が平然と出てくるのは達也ならではだ。
しかし、言われた方の壬生はあまりそう褒められるのに慣れていないのか、顔を朱に染めて俯いてしまった。
この場に紫輝が居れば間違いなく嫌な笑みを浮かべながら言っただろう。
『この天然ジゴロが、深雪に通報するぞ?』、と。
それを考えると、紫輝が部活に行っていたのは好都合、または救いとも言えた。
「一応忠告しておくと、紫輝の勧誘は難しいと思いますよ。 あいつは普段の言動こそ軽いから誤解されがちですが、スケートに対する心根はこっちが眩しいと思うほどひたすらまっすぐです。 たとえ一般的に評価されなくても、何も気にしないと思いますよ。」
話の流れをすっぱりと変え、紫輝の話に移した。
とはいえ、こんな忠告くらいで諦めるとは達也自身も思ってもいない。
ただ、紫輝が何かを言って事態を拗らせないようにするための予防線だ。
まぁ、この状況で紫輝が余計なことをするとは思えないが、念には念を入れてだ。
「それは分からないじゃない、全中覇者なのにそれが二科生になったというだけで評価されなくなるってなったら内心は悔しく思ってるかもしれないわよ?」
自分にも言い聞かせているような、そんな言葉だ。
しかし、紫輝の場合はそれは有り得ないと達也は内心で断言していた。
そもそも紫輝は自分と同様に二科生になることを承知で入学している。
プライドが無駄に高い一科生に対する辛口は多いが、だからと言って自身の評価に不満を持っているわけではない。
むしろ、今の自分の状態を受け止めて真摯に己を高めている。
そんな紫輝が壬生が言ったように内心で腐っているかと問われれば、否と言い切れるだけの自信は達也にはあった。
ただ、それを口に出しても仕方ない雰囲気なのであえて言わないが。
「紫輝のことはさておき、壬生先輩は学校側にそのことを主張してどうしたいのですか?」
逸れつつあった話題の軌道を再び戻し、手っ取り早く結論を尋ねる。
魔法以外でも評価してほしい、という方針は分かったが、結果として学校に何を求めているのか。
せめてそれは知っておきたいのだが、壬生は答えるに答えられない様子だった。
「結論が出ている、というわけではないのですね。 でしたら、結論が纏まったらまたこうして話しましょう。 それまでは保留ということで。」
「あ……うん、分かったわ。 じゃあ、これ私の番号。 決まったら連絡するから。」
壬生の番号を受け取り、この場は別れることになった。
この後は深雪の迎えが来るまでは図書室で資料を閲覧していた。
色々とゴタゴタがあって叶わなかった資料閲覧が出来たことで、深雪が迎えに来た時の達也はいつもよりも生き生きとしていたとかなんとか。
翌日、昼休みの生徒会室で達也は壬生と話したことを真由美と摩利に伝えた。
最初は何故か壬生に言葉責めをしていただのというデマのせいで大幅に話が逸れてしまったが。
そのデマを本気で受け止めてしまった深雪が感情のままに魔法を暴走させかけて氷の世界を形成しかけたが、達也の弁明で事なきことを得たとか。
この時ほど達也は紫輝がいたらと思ったことは無かった。
そのことはさておき、まず風紀委員の活動が内申に影響があるのかと摩利に尋ねたが、答えは当然ノーだった。
名誉職でしかなく、躍起になって就任するようなものではないらしい。
こうなると何者かが印象操作をしているのは明白になってくる。
思い込みが激しいと言っても少々度が過ぎている。
真由美と摩利が妙に言い淀んでいる様子を達也は見かねて自分の推測を口にした。
「印象操作している連中にはバックがいるのでしょう? 例えば……反魔法国際政治団体、ブランシュとか。」
「なっ……何で達也君がその名前を!?」
「政府レベルで情報統制がされてるはずなのに、どうして!?」
達也から高校生レベルでは知りえないはずの組織名が出てきたことに驚く2人だったが、達也からすればそれはどうでもいいことだし、話すつもりもない。
こういう時は深く追及される前に、こちらから深く切り込んでいけばいい。
「人の口にはそう簡単に戸は立てられないということですよ。 この件についての政府のやり方はどうかと思いますよ。本来なら公開して然るべき情報です。」
「……そうね。 魔法を排斥しようとする集団があるのは事実なのに、まるで逃げの一手だものね……。」
「……いえ、会長の立場なら仕方ないと思います。 ここは国立の機関で、その国が規制をかけているのですから。」
あくまで非があるのは国であり、この学校ではない。
更に言うなら、生徒会長とはいえ一生徒でしかない真由美が責任を感じることはない。
自分で追いつめておいて慰めるというコンボを達也は意識してか無意識かは分からないが行っていた。
そのことを摩利が面白そうにからかい、また深雪が魔法を暴走させかかる。
無論すぐに止めにかかる達也だが、これからは紫輝も何とか言って連れてくるべきかと本気で思ってしまった。
そして、昼休みが終わり教室へ戻る直前には今回の壬生の件について改めて頼まれる。
今回の話を聞いて、ますます放っておけないと思った達也は出来る限りのことはする、と返してその場を後にした。
ブランシュの話が出てきた昼休みと同日の夜、紫輝は司波家に訪れていた。
今回彼を呼び出したのは達也だ。
要件は聞かなくても分かるし、紫輝としても丁度良かったからその誘いは快く受けた。
また、放課後部活に向かう時にたまたま幹比古に会ったので情報共有を行った。
幹比古も精霊を用いて適度に学校の周囲を探っているのだが、時折精霊がざわめくらしい。
完全にイコールでは結べないが、『奴ら』の可能性が高い。
しかも、精霊が騒ぐほどなので天然モノと見られる。
裏でここまで尽力してくれた幹比古に紫輝はひたすら感謝した。
紫輝の偵察役はほのか達の方に割いているので幹比古の行動はまさにファインプレイと言えた。
ちなみに、今のところほのか達の方は何も起こってはいない。
さて、話は少々逸れたが今の紫輝は達也と共にケーキを食べる深雪を眺めながらコーヒーを飲んでいた。
嬉しそうにケーキを頬張る深雪の姿を見て、『こういうところは普通に年相応だよなぁ』と正負のどちらとも取れないような何とも言えないことを考えていた。
「お兄様、美味しいケーキをありがとうございました。」
「深雪にはいつも美味しい料理をご馳走になってるからな、そのお返しということにしてくれ。」
こんなやり取りを聞くと、時折だが食事の世話になってる身として自分も何か返すべきかと考えるあたり紫輝も意外と律儀だ。
「紫輝、別にそこまで気にしなくていいのよ? 普段から貴方には色々迷惑をかけてるんだから、それでお相子よ。」
「まぁ、逆に紫輝が迷惑をかけることもあるから微妙に釣り合いは取れていないようにも見えるがな。」
「うわ、ひっどい兄貴だな……そういうのは心の中に留めておいてくれよ。」
珍しく深雪がアメで達也がムチというパターンである。
達也が冗談めかしているので紫輝も合わせて拗ね気味に言っているだけで、ただのじゃれ合いパターンの1つでしかないのだが。
さて、そんな穏やかな時間もここまでである。
「それで、お兄様。 紫輝も呼んだということは……昼休みに話題に上がった組織の件ですよね?」
「ああ。 深雪には黙っていて余計に不安にさせてしまってすまなかったな。 紫輝も詳しくは知らないだろうから同席してもらった。 ……キャビネット名、『ブランシュ』オープン。」
説明のために居間のスクリーンに今まで集めたブランシュのデータを映す。
傍から見れば家の中なのにまるで大学などで行われる講座のようだ。
その内容はとても穏やかなものではないのだが。
「ブランシュ……? あー、小耳に挟んだことはあるな。 表向きは魔法による差別撤廃が目的だったっけ。」
「そう、表向きはその通りだ。 では、魔法による差別とは具体的にどういうことなのか……。」
と、ここで達也は深雪の方へ視線を送る。
このような会話になった場合、達也は深雪に回答を考えさせることが多い。
この時の達也は兄でありながら『教師』、と言ったところだ。
だからこの時間は司波達也先生による深雪のためだけの授業と言ってもいいかもしれない。
なお、紫輝は経験上で何となく察しはついているが深雪の思考の邪魔はするつもりはないようだ。
……暫く考えたが、深雪はイマイチ差別に当たる要素に検討がつかなかったが、何とか自身の答えを出した。
「本人の実力が社会的に評価されない……ということですか?」
「まぁ、一般的に考えると難しい問題だろうな。」
深雪の回答は正しいものではないが、だからといって達也は怒ることはまずない。
別に正しい回答を要しているのではなく、あくまで深雪に考えさせることの方が大きいのだ。
間違えたのならば、より分かりやすく解説をすればいいのだから。
「簡単に言えば、魔法師の収入の話だな。 魔法師の平均収入は一般的な職よりも高い。 そこから魔法による差別、という問題に飛躍させているというわけだ。」
「ただ、こういう話には大体カラクリがあるってもんだ。 平均収入が高いって言っても希少スキルを持ってる一部が凄まじく稼いでるってだけ。 その一部を除けばどっこいどっこいさ。」
そしてそんな文字通りの偏見を持って、魔法師は大した苦労もせずに稼ぎを得ていると非難する。
そこから魔法そのものへの偏見、そして魔法師と非魔法師の差別という思考が生まれる。
ただし、魔法の素質……いわば才能だけで稼げるはずがないのだ。
才能があってもそれを活かせるように努力、研鑽を積み重ねなければ意味は無い。
しかし、その事実からは完全に目を背けているのだ。
「魔法科高校でも同じことを考える人間は多いということだ。 ……いや、それ以外でもいくらでもいるのだろうな。 自分が評価されないのは才能が無いから、あの人が評価されるのは才能があるから……こう思い込んでいる。 評価されないのが嫌ならば別の道を探せばいいのに、その道から離れたくが無い故にそんなものを探そうともしない……。」
「要するに『才能』ってものを理由に自分にフタをしちまうんだよな……やれやれ、何でこう下剋上精神とか持とうとしないんだか。」
「それはお前の闘争心……というか負けず嫌いが凄いだけだと思うぞ。」
達也の指摘に深雪も首を縦に振っていた。
そのことについて掘り下げてもいいが、今は話を脇道に逸らすのはやめておこう。
「まぁ、才能の無さを盾にするという弱さは俺の中にもあるから、あながち否定は出来ないのだがな。」
紫輝と比較しているのか、達也は自嘲気味に言った。
流石にこの言葉は紫輝としても否定したいところだが、まだその必要は無かった。
「そんなことはありません! お兄様は他の人とは違う才能を持っているだけです! その才能のために人並みを遥かに上回る努力をなさったじゃないですか!」
達也の自虐的な言葉に先に反応するのは当然のように深雪なのだ。
ただ、その反論は今回ばかりは些か的を外してしまっているのは激昂しているからだろうか。
「それは俺にその別の才能があったから出来たことだ。 もし、それすら無かったら……多分平等なんていう甘い幻想に囚われてしまったかもしれない。」
この指摘に、自分の主張が一般的なそれとズレていることに気付いた深雪は俯いてしまった。
しかし、この更なる自虐発言に口を挟んだのは紫輝だった。
「いーや、お前はそんなまやかしに惑わされる程弱くはないぞ。 才能が無いなら無いなりに立ち回るのが司波達也という人間だ、俺が保障してやる。」
普段から過小評価が目立つ達也だが、紫輝はこれを好ましく思っていない。
過大評価よりはいいが、己を小さく見過ぎては行動すらも小さくなってしまう。
それに、紫輝は知っている。
同じく自己を過小評価気味に語っていた人物が、心の持ちよう1つ変えるだけで己を遥か高みまで持って行ったという例を。
だからこそ、達也には己の評価を少しでいいから改めて欲しいのである。
「まぁ、お前がそこまで断言してくれるならありがたく受け取っておくよ。 話を戻すと、魔法と言うのは結局は力だ。 この思想を徹底すると、その背後にはこの国の魔法師全体の弱体化を狙う輩もいるだろう。 ……そして、そんな連中を放っておくがないだろうな。 十師族……特に『四葉』はな。」
四葉、という単語を達也が口にすると深雪の表情が一気に青冷める。
口にした張本人も厳しい表情になっていたが、更に続けた。
「最悪の事態になれば、伯母上は俺たちを『四葉』の戦力として投入することになるだろうな。 他の十師族……要するに七草と十文字が見ている前で。」
「そんなことになったら……私たちはもう高校生ではいられなくなってしまいますね……。」
十文字、七草と同じく十師族の一つで、その中でも最恐と言われている名、それが四葉。
30年以上前に起きたとある事件から『アンタッチャブル』とまで言わしめている。
そして、達也と深雪の叔母こそが四葉の現当主だ。
達也の懸念は傍から見ればそう間違ったようには聞こえないだろう。
「さて、ここからは話の方向性が変わるが……紫輝。 事件の背景は分かってきたが、ブランシュと悪魔の繋がりは密だと思うか?」
議題変更とばかりに達也の口から出てきたのは、『悪魔』という現代ではあまり聞くことがなくなった単語。
もしこの場に他に誰かがいても隠喩にしか聞こえないだろう。
「反魔法師団体って話なら経験則でしかないがほぼ確定じゃないかね。 俺が去年潰したとある教団も、元はと言えば反魔法師団体だった。 『魔法によって歪められた世界を正す』ってのをお題目に悪魔使ってやがった連中だったし、 他の団体……それもブランシュの下部組織って話なら同じように使っても不思議はない。」
「そんな……! そのようなものを使ってよくも世界を正すなんて言えたものです……!」
魔法師社会を破壊するためなら悪魔にでも手を借りる。
その結果がどんな悲惨なものになるか……それは専門家の紫輝だけでなく、かつて巻き込まれたこともある達也と深雪も分かっている。
だからこそここまで不快感を示すのだ。
「ああ、後一高には俺の協力者がいるんだが……既に天然モノまで出てくるかもしれないって話だ。 二人とも気をつけろよ。 恐らく境界がそこそこに緩んでる。」
「本来なら境目がそれなりにしっかりしているという日本で緩むということは……反動で大型が出るということはないのか?」
「それはないな。 恐らく人工的手段で境目を緩くしてるんだろうが……如何せん確認出来た種類が少なすぎる。 所詮下部組織だから大した技術じゃないんだろうな。」
せいぜい出ても中級の下ってところか……と紫輝は追加で呟いた。
とはいえ、達也と深雪はそこまで安堵はしなかった。
この二人は、今話題に上がった『悪魔』の危険性を理解している。
奴らは……特に中級クラスに一歩入れば、まさに大半の魔法師にとっては天敵と化すのだから。
悪魔の話もそこそこに、無事状況確認を終えて紫輝は帰宅……する前に
「そういえば紫輝、壬生先輩から非魔法系クラブによる同盟の誘いは来なかったのか?」
「ああ、来たけど断ったよ。 だって俺……っていうかスケート部全体がそんなのどうでもいいって思ってるからな。 根っからのスケートバカしかいないしな、最高なことに。」
そうあっけらかんと答える紫輝に、達也も流石に壬生に僅かながらの同情を覚えたとか。
更にその翌日の午前の授業……E組が現在魔法実習室を利用している。
この日の実習課題は、『単一系魔法を1000ms以内に発動させること』だ。
二人一組で行うこの発動速度の課題は終わりさえすればあっさりと終わるが、終わらない者は居残り確定だ。
この課題で半ばデモンストレーションとばかりに最初にクリアしたのは紫輝のペアだ。
試技の時に見せた圧倒的な速度を目の当たりにして、誰もが最初に見たいと熱望したからだ。
その期待に応えて、紫輝は240msという驚異的な記録を叩きだす。
500msを超えれば優秀とされる中ではまさに飛び抜けている。
それに感化され、次に紫輝と組んでいる男子生徒も余裕のあるタイムでクリアして、紫輝ペアが一番乗りになったということだ。
(それに比べて俺はこれだからな……あの状態であれだけの速さは羨ましいよ本当に。)
達也は2回目で1052msとギリギリアウトのタイムで失敗している。
分かっていたことだが、いくら他の2つが劣っていてもなお速さのアドバンテージがある紫輝を少しは羨ましくなる。
「すまない、美月は既にクリア出来ているのに……。」
「いえ、そんなの全然大丈夫ですよ。」
美月はこう言ってくれているが、やはりペアの相手が自分の所為で課題終了にならないのはやはり心苦しい。
本来この程度の魔法なら彼はここまでする必要は無いのだが、止むを得ない。
徐々にクリアするクラスメイトが増えて番が回るのが早くなって来た頃の3回目。
今度こそと臨んだ結果、940ms……1000ms以内達成である。
「達也さん、クリアですね!」
「やれやれ、ようやくクリアか……。」
「おー、達也も終わったか。 これでようやく話しかけられるな。」
達也の終わるタイミングを図って紫輝も混ざってくる。
先ほどまでクラスメイトに助言を送っていたのか女子生徒が紫輝にお礼を言って別れているところは先ほど見えた。
「それにしても、達也さんは本当は実力はあるはずなのに評価されなくて悔しくないんですか? 全く気にしていないみたいですけど……。」
「コンマ1秒が生死を分けることもあるから処理速度も実力の内だよ。 この体たらくでは評価が低くても仕方はないさ。」
「でも……実際はもっと速く発動できるんでしょう?」
その言葉に、達也は思わず戦慄した。
しかし、それを何とか顔に出さないように、代わりに拳を強く握りしめることで動揺を抑える。
「……何故そう思うんだ?」
「いったん構築した魔法式を破棄してましたよね? 起動式の読み込みと魔法式の構築が平行していました。 だから、達也さんはこの程度の魔法なら起動式なしで魔法式を構築できるのかなって。」
(……すげぇな。 そこまで見抜くとは……これなら悪魔の出る位置事前に察知出来たりするんじゃね? っていうか、案外俺の中にも気付いてたりしてな。)
美月の眼の性能の高さに舌を巻いている紫輝。
彼はまだ舌を巻くだけで済んでいるが、色々とある達也は違う。
秘匿すべき技術がこんなに早くバレるとは思わなかったのだから。
ただ、バレたものは仕方ない。
ここは詳細に踏み込まれないように適度に真実を話すことにした。
「確かに基礎単一系ならもう少し速く発動できるが、あくまで工程が少なくないといけない。 俺では5工程までが限度だな。」
「5工程なら戦闘用でも十分活用できそうですが……。」
「俺は戦闘用に魔法を学んでいるわけではないからね。 多工程の魔法も使うし、そのためには起動式はやはり必要なんだ。」
「逆に戦闘に重きを置く俺からしたら羨ましいがなその技術は。」
「お前は元々速いからいらないだろうに。」
一部の事実を語ったことで美月はそれ以上追及することはなかった。
ちなみに、紫輝が達也を羨んでいるのは半分事実で半分は嘘。
彼が羨んでいるのは全く別の要素であり……更に達也の起動式なしで魔法発動出来るスキルは本当に羨む必要はないのだから。
その後、美月が達也がきちんと目的を見据えて魔法を学んでいる姿勢に感銘を受けて。
あくまで『眼』のコントロールの為だけに魔法を学んでいるが、これからは自分の目的を考えてそれを達成するということを生き甲斐にしていきたい……
以上のことを盛大にエキサイトして熱弁を奮っていた。
あまりに白熱していて周囲の注目を浴びていたが……
その後は居残り組になってしまったエリカとレオの方を3人は待つことになった。
なかなか最後の一歩がクリアできなかった二人だが、レオは達也の、エリカは紫輝の助言で何とか1000ms切りを達成。
そして、丁度いいタイミングで深雪、ほのか、雫の3人が入室して少々遅い昼食となった。
「それにしても、何であれだけ発動が速くなったんだ?俺たち。」
「レオは目標の目視という動作がなくなってその分集中リソースを魔法式構築に割けたからだな。 エリカはやっぱり普段から片手で得物使ってるからそのままのイメージで行った方が速そうだったからあの助言をしたのさ。」
紫輝の説明を聞いて二人は納得した。
色々理論云々言っても、魔法の根底はイメージだ。
そのイメージに対して割いたリソース、更にその強固さは魔法の行使に関わってくる。
精神論をベースとした理屈である。
「深雪さんたちはもうご飯は食べたんですか?」
「ええ、お兄様に先に食べているように言われたから。」
「あれ、深雪ならてっきり『お兄様より先に箸をつけるなんてできません』って言うと思った。」
いくら何でもそこまでは……と思う大半の面々だが、それを裏付けるのは幼馴染の役目だった。
「いつもはそうだぜ? 全くどこぞのメイドかって感じでそこも頑なだからなこのブラコンは。」
「その言われ方は不本意だけど、紫輝の言う通りね。 今日はあくまでお兄様の命令があったからで、いつもならもちろんそうよ。」
当然のように言い切る深雪に、紫輝と達也以外からは乾いた笑いが起こっていた。
もはやこれでは兄妹愛以上に忠誠じゃあ、と思ってもいた。
「そ、そういえば深雪さんたちのクラスも実習は始まっているんですよね?」
何とも言えない空気だったが、すぐに話題を変える。
そんな美月に、大半が『ナイス!』と内心で親指を立てていた。
「多分美月たちと同じ内容よ……でも、手取り足取り教えられるくらいなら一人で練習した方が為になるから……。」
「まぁ、見込みある生徒だもの、当然じゃない? ウチの剣術道場も見込み無い奴は放っておくもの。」
一科生のみに教官が付く制度に対しての賛同に、ほのかと雫は意外そうにしていた。
エリカはそこから、自分の家の道場を例えにして話を続ける。
「ウチの道場は入門して最初に足運びよと素振りは教えるけど最低半年は技を教えないの。 刀を振るって動作に身体が慣れないと技はちゃんと身につかないからね。 後は先人の技を盗むのよ。 だから教えてもらうのを待ってるのは論外ってこと。」
紫輝はこの方針を聞いて全力で同意をした。
教えてもらうのを待つのではなく、技を盗む心意気でいること。
それは戦闘技術でも、スケートでも紫輝が常時心がけていることだから。
特にスケートに関しては偉大な先達は日本には多いから、盗めるものも多い。
「そういえば、深雪たちも使ってるCADって同じなんだよね? 参考までにどのくらいのタイムかやってみてくれない?」
単純に主席のタイムがどれほどかの好奇心からのお願いだ。
深雪としても別に見せて減るものではないし、達也も推奨したので快諾した。
……その結果は、225ms。 僅かだが先ほど出した紫輝より速かった。
「紫輝君よりも速いじゃん! 15msだけだから僅差だけど。」
「いつ見ても凄い数字……って、え? 獅燿君もこれくらい速いの!?」
紫輝の魔法力の全容を詳しく知らないほのかと雫はエリカの後の発言に驚いていた。
二科の中に深雪と同格の発動速度の生徒がいるとは思ってもみなかったのだろう。
「いっそ、紫輝もやってみたらどうだ? 目標は225ms切りってことで。」
「おーい、さりげなくハードル上げるなレオ君。」
そう言って紫輝が続いてCADを起動する。
見た感じでは深雪と本当に遜色ない発動速度で、話は嘘ではないことをほのかと雫は理解する。
その肝心のタイムは……
「あちゃー、惜しい! 3ms差の228ms!」
「凄い……深雪にここまで肉薄出来るだなんて。 もし干渉力と規模が普通くらいでもあったら、余裕で一科生だね。」
惜しくも3ms差で深雪に負かされたが、それでも二科ということを考えれば普通は上々というか異常な速度とも言える。
これで一科でないことがある意味おかしい。……雫とほのかは二人してそう思った。
当の本人たちはこれだけの記録を前に全く自然体たが。
「ハハハ、まあこんなもんじゃねえか? 据置型じゃあ俺も深雪も完全に勝手が分かってるものじゃねえし、あくまで参考にしかならないからな。」
「そうね、私もお兄様に調整いただいたCADじゃないと実力を発揮できませんし……。」
実力者二人(片方は現状発動速度徹底特化)の会話を他所に、改めて深雪の実力に息を飲むE組3人。
そして、発動速度だけとはいえ深雪に肉薄できる紫輝の力に大いに驚くA組2人。
そんな面々にこれまた苦笑を浮かべるしかない達也という、何とも言えない空気の中この日の昼休みは終わった。
同日放課後、達也はカフェにいた。
一昨日の質問の答えが纏まった、ということで壬生に呼び出されたのだ。
暫くコーヒーを飲んで待っていると、急いでいたのか息を切らして壬生がやってきた。
その前にわざわざ様子を見に尾行をしていた摩利を見つけたりもした。
その時、壬生の表情には影が差していたが誰もそれには気付かなかった。
摩利がカフェから去るのを見届けてから本題に入る。
というよりも、壬生はいきなり結論から繰り出してきた。
「私たちは、学校側に待遇改善を要求しようと思うの」
かなり踏み込んだ発言だが、まだ具体性に欠けている。
そこで、達也はどう待遇改善をするのかを尋ねた。
授業、クラブ活動……その中で予算なのか使用スペースなのか。
しかし、クラブ活動については、少なくとも剣術部と剣道部は割当スペースは同じ。
予算についても活動実績に基づいた上で、魔法実技系に割合が多くなっているに過ぎない。
達也がそこまで指摘すると、返すに返せない壬生は
「じゃあ司波君は不満じゃないの!? 実力はあるはずなのに、実技の評価が悪いってだけで『雑草』と見下されて!」
「不満ですよ、勿論。 ですが、別に学校側に変えて欲しい点もありませんし、教育機関として特に期待もしていません。 あくまで魔法大学系列でのみ閲覧できる非公開資料の閲覧権限と、魔法科高校の卒業資格さえ手に入ればそれでいいんです。 まして、二科生を雑草と蔑むことも学校のせいだとは思ってません。」
「えっ……?」
矢継ぎ早に、しかし色が見えない表情で淡々と己の本心の一部を語る。
その語られた内容は明らかに不満と思いながらも割り切っている風なもの。
自分の評価などまるで気にしない、鋼の精神性も垣間見えた。
壬生とは主義主張を共有することは出来ないと判断して達也は席を離れようとする。
「ま、待って! 何でそこまで割り切れるの!? 一体何を支えに……。」
「俺が魔法を学ぶのは、重力制御型熱核融合炉の実現……そのためです。」
それだけ言い残して、達也はカフェを後にした。
「……っ!?」
ある日の放課後、スケート部の活動中の紫輝だったが唐突な報せが入って普段は滅多に起こさないトリプルアクセルのすっぽ抜けをやらかした。
転倒ではなくすっぽ抜けという、珍しい失敗に紫輝の動きを参考のために見ている部員は皆不思議がる。
獅燿紫輝のジャンプの失敗は基本転倒であることは割と認知されている事実だったりするのだ。
「どうしたんだ獅燿君? シングル抜けなんてらしくないが。」
「あー、いやちょっと靴紐が緩んだかなって感じたせいでタイミング逃しました。 ちょっと心配なので直してきます。」
これだけ唐突かつ大きめのアクシデントでは致し方ない、部員全員はそう思って特に気にせず各々の練習を再開する。
紫輝の入部というのはなかなかに影響が大きかった。
彼の周辺視野の良さ、というのはこの場でも発揮されている。
全員のレベルを見て、そこから各々が感じている自身の課題をヒアリングして端的にアドバイスを送る。
あくまでざっと見たレベルの助言だし、紫輝自身の経験談も踏まえたものにすぎないが、全中覇者の助言ということもあってか藁にすがる思いで参考にした。
まだ結果が出ているわけではないが、手応えを感じている者も多々いるようだ。
特に、トリプルアクセルに苦慮していた部長の錦谷慧は紫輝のトリプルアクセルを間近で見ることが出来たのも相まって少しずつだが進展が見えている。
……そんな以前よりも活気に満ちているスケート部員たちを尻目に、紫輝は靴紐を点検しながら険しい表情をしていた。
『(あの3人が剣道部部長を尾行しているって……どう考えてもヤバイだろそれ。)』
『(ええ、付近にバイクに乗った連中が待機しているのも見えたわ。 十中八九……いえ、九分九厘罠ね。 しかも3人共全く気付いてない……マズイ状況ね。)』
女性の声で送られてくる情報に、紫輝はますます表情を険しくする。
恐らく、剣道部部長が行っているのは釣りだ。
ほのか達3人が自分を嗅ぎ回っていることを察知して、自分を囮に釣り出して仲間のところへ誘き出す。
更に、話相手が言うには3人の尾行はまるで素人、見つけてくれと言ってるようなものらしい。
……どう考えても最悪の結末しか浮かばなかった。
『(ただ、俺が行くには場所が遠いな……ショートカットすれば行けそうだが……)』
『(あんまり大っぴらにやると色々と迷惑掛けそうなのがネックね……って、あら? ……紫輝、まさかの助っ人候補が居たわ。)』
……その名を聞いたとき、紫輝はすぐさまその人物に連絡をした。
その相手は、紫輝の少しばかり切羽詰った様子に驚きながらも、援護の要請をあっさりと承諾してくれた。
丁度その頃、ほのか、雫、エイミィの自称『美少女探偵団』は尾行の真っ最中だった。
対象は、剣道部部長の司甲。
二科生でありながら風紀委員となった達也に魔法による妨害を仕掛けた一人で、その現場を唯一3人が目撃出来た者だ。
陰湿な行動を許せないという義憤から、この唯一目撃出来た妨害実行犯の、妨害直後の逃走写真を何とか撮影して匿名で生徒会へ送ることも行った。
しかし、証拠性に欠けるからなのか何も動きが起こらず、3人は意気消沈。
……そんなところに、件のターゲットが一人で無防備に下校する姿が見えたのだ。
しかもほのかと深雪は事前に今日は剣道部が休みではないことを聞いている。
怪しい……そう思い即尾行を行った……というわけだ。
「そろそろ学校の監視区画から外れる。」
「しかも、行きはキャビネット使って登校してたのに今は逆方向だけど……。」
「それは私も確認したよ。 うん、怪しさ全開だね!」
どこへ向かうかは分からないが、少なくとも帰り道というわけではないのが明らかだ。
部活もすっぽかしていることも相まって怪しさ全開なのだが、その余りの怪しさに対する警戒をこの3人は怠っていた。
ここまであからさまだと、多少そういう事の経験がある者ならば即警戒だ。
しかし、この3人は見事に素人……普通の一学生だから仕方ないが、あまりに危険だ。
「……あっ逃げた!」
ゆっくりとした歩調から一転して走り出した司甲。
すぐに歩調の変化に気付いた3人は同じように走って追う。
そして、路地裏に入っていくのを見て、追い詰められるか……と期待する3人。
同じく路地裏に入ると……そこには居るはずの司甲の姿が無かった。
「あれ、さっき間違いなくここに入って……!?」
どこかへ隠れたのかと探そうとすると、背後から駆動音と共にほのか達のいる路地裏にバイクが進入してきた。
しかも4台、それらは3人を囲うようにして停止するとドライバーは全員降りる。
完全とは言えないが、あっさりと包囲されてしまった。
「こいつらが司様を嗅ぎ回るネズミ達か……。」
タイミングを考えて明らかに司甲の仲間だろうが、そんなことは関係ない。
今は、この暴漢達から逃げることが先決だ。
「……行くよ!」
相手から近寄ってくれたことで開いた僅かな包囲の穴、そこに向かって3人はダッシュ、逃走を図る。
いきなり始まる逃走だが、暴漢達もすぐさま追いかけてくる。
それも織り込み済みか、先に行動を起こしたのはエイミィだ。
既にスイッチはオンにしてある汎用型CADを素早く操作する。
そして、暴漢たちに向けて空気を収束させることで作った鎚の一撃を放った。
「え、ちょ、エイミィ!?」
「自己防衛的先制攻撃ってやつよ!」
まぁ、この場合は確かに正当防衛は成り立つが……
そんな話をしている内に、まだ残っている暴漢がじわじわと距離を詰めてきている。
「なら、私だって!」
ほのかは十八番の閃光魔法(後遺症が出ない程度に出力は抑えている)を放って目を眩ませる。
効果覿面だったようで、これで追う者はいなくなる。
このままなら逃げ切れる……そう思った矢先だった。
「っ!? あ、頭が……!」
突然3人にのみ起こった、頭が割れるのではないかというくらいの頭痛。
まさか……と思って暴漢たちを見やると、見覚えのある指輪を翳していた。
(まさか、キャスト・ジャミング!?)
しかも、達也が使っていたもどきではなく文字通りの、本物のアンティナイトによるキャスト・ジャミングだ。
出力もかなり上げているからか、3人共誰も動くことは出来なくなっていた。
暴漢たちは立ち直ったのか、動けない3人を確実に始末しようとその手にナイフを持って複数人で近づいてきている。
「この世界に……貴様ら化け物は必要ないのだ!」
魔法師を化け物というシンプルな蔑称で罵倒しながら、ナイフを振りかざす暴漢たち。
絶体絶命……まさにこの4文字の状況だったが
「……当校の生徒に何をしているのですか。」
間一髪、まさにギリギリのタイミングで救いの手は差し伸べられた。
全員が声をした方を向くと……そこにいたのは、暴漢たちに冷徹な眼差しを向ける深雪だった。
感情が昂ぶっているからか、既に冷気が周囲に立ち込めている。
堂々たる振る舞いも相まって『氷の女王』という言葉がよく似合うであろう。
「この、まだ仲間が居たか!!」
若干気圧されながらも暴漢たちは3人を行動不能に陥らせたようにキャスト・ジャミングを深雪に向けて放つ。
3人はその様子を見て元々悪い顔色を更に青くさせるが……事態は3人の予想とは全く違う方向に動いていた。
「なっ……!? キャスト・ジャミングが効かないのか!?」
普通の魔法師ならば頭痛で身動きも取れなくなるサイオンによるノイズを受けても、目の前に居る深雪は全く動じていなかった。
まるで歯牙にもかけていない。
「非魔法師のキャスト・ジャミングなど、私には効きません。」
「なっ……どうせハッタリだ、もっと出力を……っ!」
更にキャスト・ジャミングの出力を上げようとするが、それは叶わなかった。
深雪は、それよりも早く、そしてキャスト・ジャミングの影響を受けない圧倒的干渉力で魔法を発動させたのだから。
発動したのは『
達也に頼んで起動式を入れてもらった魔法の1つである。
圧倒的干渉力から放たれるソレを受けて、暴漢たちは成す術もなかった。
暴漢たちは気を失い、一安心……と思ったが、深雪の背後にまだ暴漢らしき者が残っていることに雫が逸早く気付いた。
「深雪、危ない!」
深雪が気づいた時には既にナイフを振りかざしているので回避は間に合わない。
……が、それにも関わらず深雪の表情は崩れることが無かった。
次の瞬間、暴漢のナイフは甲高い音と共に弾かれていたのだから。
何事かと暴漢がそれを行った犯人の顔を見ようとしたところで、今度は鈍い打撃音が響いた。
「……人の妹分にんなもん振りかざしてんじゃねぇよ、掃き溜めが。」
脳天に直撃した踵落としにより、暴漢は一撃の元に昏倒した。
それを行ったのは……普段の軽口はどこへやら、蔑むように倒した暴漢を見下ろす紫輝だった。
「紫輝? 流石にその言葉は汚いと思うんだけど……。」
「いやいや、こいつはいいんだよ掃き溜めで……。 おーい、3人共。 大丈夫か?」
周囲にはもう仲間の気配はないのか、警戒を解いて自然体に戻る紫輝と深雪。
まるで何事も無かったかのようなこの二人を見て、3人はようやく自分たちが助かったのだと実感した。
「あ、ありがとう深雪、獅燿君!」
「間一髪だった……本当にありがとう、二人とも。」
「司波さん、キャスト・ジャミングを意にも返さないで魔法使えるなんて凄いねやっぱり。 獅燿君は最初の自己加速が凄い速かったし、本当に二科生なのか疑っちゃうよ~。」
緊張の糸が切れたのか、まだキャスト・ジャミングの影響こそ残っているが深雪と紫輝に礼を言う3人。
エイミィは初めて見る深雪の圧倒的とも言える実力、そして紫輝の自己加速術式を含んだ身のこなしを賞賛した。
「さてさて、安心したところで……どうするこいつら。 3人が望むなら通報するが……。」
落ち着いたところで加害者のこの集団の処遇について尋ねる。
事を大きくしたくないからか、雫がひとまずは通報はいらないという旨を述べ、ほのかとエイミィもそれに同意する。
紫輝としても通報ははっきり言って面倒なのでありがたい限りである。
「じゃあ、後始末は私たちがやっておくから3人は早く帰った方がいいわ。 また同じことが起こらないとも限らないから……。」
「……そうだね、じゃあ二人に任せる。」
特に深くは聞かずに、3人はそのまま帰路に着いた。
紫輝としてはもう少し何か聞かれるかと思ったが、まぁ何はともあれこれでいい。
(……全く、下級とはいえ憑いてるのを投入するとはな。)
最後に自身の手で動きを止めた暴漢に視線をやって、紫輝は内心でため息をついていた。
明らかにこいつだけ、他の暴漢とは違って『臭う』のだ。
深雪は現在『音波遮断』と『サイオンシールド』をこの空間に掛けた上で八雲に連絡をしている。
その間に、紫輝はこの臭いの元を消そうと画策する。
(……こりゃあ、中だけでも丸ごとでも大差無いな。 まぁ、深雪の前で丸ごとやるわけにも行かないから……?)
そこまで思考を巡らせたところで、紫輝はふと周囲を見渡した。
常人ならばまず気付かないだろう。
現に、今のところ深雪は気付いている様子はない。
しかし、紫輝はこの時点で既に気付いた。
自分を狙ったかのようにこの空間は隔離されていることを。
(……その上、こいつと同じ臭い……。 なるほど、緩んだところに引き寄せられたか。)
徐々に此処を隔離している何かの気配は濃密になっていく。
八雲への連絡が終わった深雪も、その異変には気付いていた。
「紫輝、これはまさか……!」
「あー、そのまさか。 全く、こんな街中で出るとはね。 ……多分こいつの中身に引き寄せられたんだろうよ。」
指差すのは紫輝が倒した暴漢。
この暴漢の身体からは異変に同調するかのように黒い何かが噴出していた。
「とりあえず深雪、お前は離れてろ。 いつも通り俺が狙いみたいだからな。」
「分かったわ。 存分に暴れてきなさい、紫輝。」
それだけ言って、深雪は紫輝から離れて待機する。
そうしている間に、路地裏の出口の方にはいつの間にか敵対勢力が出来上がっていた。
腕や脚に当たる部位に鋭利な三日月の象った刃を備えた、案山子のような布袋が6体。
恐らく、この場に美月のような霊子放射過敏症の魔法師が居たら、悍ましいオーラが見えたことだろう。
現に、そのような目を持っていない紫輝と深雪にもその負のオーラは感じることが出来るのだから。
その禍々しい雰囲気は、まさに『悪魔』のそれであった。
「さーて、相棒共はいないからちょいと役者を連れてきますか……と。」
傍から聞けば意味不明な言葉を呟いてから、紫輝はホルスターからあっという間に特化型CADを取り出して構える。
ただ、銃口が向けられる方向はまるで明後日の方向……何もない空の方角だった。
何も知らない者ならば、紫輝がとち狂ったとでも思って嘲笑しただろう。
しかし、この場に居るのは事情をある程度だが把握している深雪のみ。
彼女は心配する風でもなく、何かあった時のためにCADを握って見守るだけだ。
そして、紫輝は空へ向けて3度、CADの引き金を引いた。
『(ケルベロスはそのまま俺に憑依。 アグニ、ルドラは魔具で来い。)』
『(御意)』
『((確かに、承った。))』
紫輝は何かに向けてそう念じると、次の瞬間には紫輝とその周辺に変化が起こった。
彼の目の前には、赤と青の鋸のような形の剣が刺さっていて。
紫輝からは禍々しくも、獰猛なオーラが立ち込めていて、その瞳の色は元来の紫色から水色に変化していた。
『おお、1年ぶりに紫輝が我らを呼んだ。』
『確かに久しい。 だが兄者よ、最後に呼ばれたのは1ヵ月前ではないか? 1年は流石におかしい。』
紫輝と深雪の他には誰も居ないはずなのに聞こえてくる第3者の声。
今は前に居る悪魔たちによってこの空間は切り離されている。
古式魔法の結界のようなものなのだが、そのせいで第3者は基本的にこの場に乱入は不可能だ。
消去法で考えれば、紫輝の前に刺さったままの一対の双剣が声の主なのだろうが……。
「おいおいお前ら、敵を目の前に漫才はやめろって前に言っただろ……。」
現に、紫輝が双剣に向けて話しかけているのだから、そうとしか考えられない。
さて、紫輝の言う通り、案山子のような悪魔がジワジワとこっちに近づいてる以上お喋りをしている暇はない。
ないのだが……この双剣は紫輝の小言が聞こえていないのか、まだまだ好き勝手に話を続ける。
『そこに居るのはもしや深雪嬢ではないのか、兄者。』
『ん? おお、確かにそうだ。 久しぶりだな深雪嬢!』
「え、ええ……お久しぶりですね、アグニ、ルドラ。」
挙句傍観に徹するはずの深雪をも巻き込むアグニとルドラと呼ばれた双剣。
あまりのフリーダムさに深雪も流石に苦笑せざるを得ない。
『これまた随分と……こういう時は何て言うのだルドラ。』
『お美しくなった、と言うのだぞ兄者。 それが常套句だとネヴァンが言っていた。』
「あーお前らいい加減黙ってろ! ネヴァンも何阿呆なこと吹き込んでんだ!」
あまりにも間抜けな会話も聞き飽きたのか、地面から抜いて顔のようになっている柄を相互にぶつける紫輝。
そんなことをしている間に、案山子の悪魔の1体が飛び上がって紫輝を切り刻まんとしていた。
深雪がCADを構えて迎撃を試みる……が、その必要は無かったようだ。
『……全く、お前らは我らが主に手間を掛けさせ過ぎだ。』
アグニとルドラとは違う声が響くと同時に、飛び上がった案山子の悪魔は氷漬けになっていた。
氷像となっている案山子の悪魔はそのまま重力の流れのまま地面に落下していく。
「その声……ケルベロスですね、今紫輝に憑いているのは。」
『ああ。 だが、話は後だ。 今は目の前のスケアクロウ共を掃除するのが先決。』
「……んじゃま、さっさと片付けますかね残り5体を。」
氷像となっている案山子……スケアクロウをアグニで両断してから残り5体へ向かっていく紫輝。
自己加速術式を使っていないにも関わらず、そのスピードは使用時と大差がない。
対象は、一番近い位置に居る腕に刃を装着しているタイプのスケアクロウだ。
加速の勢いをそのままに、両手のアグニとルドラを交互に振るうこと2セット。
魔法を使っていないはずなのに炎、そして風の各々に纏うアグニとルドラに斬りつけられ、スケアクロウの身体に刻んだ斬撃の後は片方燃えて、もう片方は荒々しく抉られている。
とどめとばかりにアグニとルドラを交差させ、X字状になるように同時の斬撃を放つ。
この一撃で、案山子はボロボロになって文字通り死体となったスケアクロウは黒い瘴気を放って消滅する。
残りは4体、その内の1体である脚型のスケアクロウが背後から飛び上がっての奇襲を試みていた。
しかし、周囲をよく見ている紫輝がそれに気付かないわけがなく。
凶器となりえる脚部をピンポイントで斬り落として攻撃手段を失わせる。
無情にもその状態のスケアクロウを、別のスケアクロウに向けて全力投球。
反応が鈍いからか、防御が間に合わずに直撃してどちらもあらぬ方向へすっ飛んで行く。
その吹っ飛んだ片方のスケアクロウに追いつき、今度はサッカーボールのように蹴り飛ばす。
先ほどと同じ組み合わせでスケアクロウ同士がぶつかり、またあらぬ方向へすっ飛ぶ。
『紫輝、お主も遊び過ぎだぞ。』
「えー、もう少しやりたかったんだがな……仕方ないか。」
ケルベロスからのお咎めをつまらなさそうにしつつも受けた紫輝は、再び加速。
無防備なスケアクロウにアグニとルドラそれぞれで一刀両断して残り2体とする。
相手も数を減ってきて焦れてきたのか、残った2体は一斉に紫輝に斬りかかってくる。
「狭いし時間も無いしでないない尽くしだったが……これで終いってことで。」
紫輝はアグニとルドラの両方を上に構える。
その際に、2本それぞれの柄が互いに連結するかのような形にしていた。
1本になったそれは、長さの短い薙刀にも見える。
その状態で、紫輝はアグニとルドラを上に向けたまま回転させた。
『『ash to ash!(灰は灰に!)』』
2体同時の叫びと共に、アグニの炎とルドラの風が同時に放たれる。
回転しながら放たれることにより、炎と風も同様に回転して炎を纏った竜巻のようになる。
それに完全に巻き込まれた2体のスケアクロウは、燃やされ切り刻まれて最後はボロボロの灰になって散って行った。
「あーあ……物足りないな。」
増援の気配も無いからか、再度警戒を解いたはいいが、最初の出たのはぼやきだった。
『場所が場所だから仕方あるまい……。』
「いや、まぁそうなんだけどさ……手ごたえ無いし場所の制限で暴れられないしだぞ? 流石にフラストレーションが溜まるわ……」
「……もう少しその欲求はどうにかならないの? 見ているこちらは何だかんだで心配なのに。」
悪魔の気配がないからか、深雪も紫輝の傍まで戻ってくる。
送り出す時はああ言ったが、それでも内心はやはり不安が勝っていたのだ。
紫輝の実力を心配してのことではなく、この遊びというか刺激を求めたがる性質を心配してのことだった。
「無理だな。 よく言うだろ? バカは死ななきゃ治らないって。」
『自分でバカと言うのもどうかと思うが。』
『紫輝の場合はバカというよりクレイジーだと思うが。』
余計なことを言い出す双剣の顔を互いにぶつけて黙らせる。
まだ何か言いたげだったが、紫輝の有無を言わせない視線を浴びたら今度こそ何も言わなくなった。
さて、増援が居なくなった……ということは、この異常空間もそろそろ終わるということだ。
『さて、そろそろ去るとするが……。 深雪、久方ぶりなのに慌ただしくてすまんな。 とりあえず、達也によろしく伝えておいてくれるか?』
「ええ、ケルベロスもわざわざお疲れ様。 また会いましょう。」
紫輝の中に居たケルベロス、そしてアグニとルドラは再び虚空へと帰っていく、
それと同時に、切り離された空間は元に戻り、重かった空気も元通りになった。
「さて、先生が運んでくれるんだったら俺らはさっさとずらかるか。 っていうか、俺は練習に戻らないといけないんだが。」
「……紫輝、何も言わなくていいから早く戻りなさい。」
有無を言わさないジト目で深雪に睨まれると、流石の紫輝も余計なことは口にしないで早急に練習場へと戻っていった。
深雪は一旦先ほどまで悪魔と紫輝が戯れていた場所を一瞥する。
今回の騒動が達也と紫輝の予想通りに展開しつつあることに一抹の不安を感じていた。
せめて、これ以上のことが起きないように深雪は祈ってから、学校へと戻っていった。
はい、というわけで紫輝の手札をようやく公開出来ました。
使用した悪魔はケルベロス、アグニ&ルドラ、ネヴァン。 全部デビルメイクライ3のあいつらそのままです。
ただ、本人に憑けたり魔具にしたりと割とやりたい放題。 ちなみに残ったアイツも次話でちゃんと出てきます。
今回はアグルドを魔具として使いましたが、ゲーム上の技であるジェットストリームLV3とツイスター(テンペストも)はちゃんと使えます。
テムコプター? いや、流石にそれは……いずれかやるかも。
基本的にゲームでの動きをベースにしているので、本家デビルメイクライ3をやっていれば何となく動きは想像できるのではないかと。
ただ、中級者以上にとっての肝であるエネステは流石にやらせません。 あれ出来たらダメですって(笑)
悪魔の『憑依』、というか紫輝の悪魔を用いた戦い方については後々詳しく解説します。
敵悪魔も今回はスケアクロウだけですが、6話ではもう少し種類が増えます。
恐らく1、2、3、4の雑魚悪魔はオールスターで出す予定。 名倉は除外。 だってやってないし。
悪魔の出現関係もデビルメイクライ準拠です。 要するに別次元である魔界があって、境界が緩んだら出てきます。 今回の話でも語られてますね。
この設定を魔法科で使おうと思ったきっかけは、簡単に言えば来訪者編ですね。
今回は紫輝だけですが、その内原作キャラが悪魔と戦う場面も出てきますので、適度にご期待を。
さて、次はもはや1ヶ月おき投稿が出来るかどうかも怪しいところです。
色々リアルも状況が二転三転しそうなので……。
ですが、暇があったら執筆は進めますので、どうかよろしくお願いします。