魔法科高校の劣等生 -Masquerade Devil Hunter-   作:スダホークを崇める者

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10話目が予想以上に書けないし入学編はこれで終わりなのでもう上げちゃいます。
FGO夏イベはマリーは来ましたのでまあ悪くないかな、と。
艦これ夏イベ2016は26はE1甲15回目辺り、アクィラはE4乙4回目S勝利でゲットしました。
イベやる前はやる気が全く無かったのですが、一番嫌だったE3が終わってからはヒャッハーモードになって一気に終わらせてやりましたよ。
まあ、今回も大和型の出番が無かったのですが(´・ω・`)


7. 騒動は閉幕まで

結果から言えば、紫輝はあっさりと達也たちと合流は出来た。

図書館から保健室へ向かう彼らとうまい具合に鉢合わせになったからだ。

「で、何でまた達也が壬生先輩を抱えてんだ?」

「ほら、担架呼ぶだけじゃ味気ないじゃない? 先輩も達也君に運ばれたってことなら嬉しいと思うし。」

エリカの言い分を聞いて紫輝は納得するように頷いた。

もし自分もその場に居合わせていたら同じことを考えていたはずだから。

「何で俺が運ぶことで喜ぶのかは理解できないんだが……。 むしろ、同性のエリカが運んだ方が後腐れ無く済ませられるんじゃないか?」

「お兄様、エリカがこう言ってるんですから仕方ありませんよ。」

「時間短縮になるからいいじゃねぇか。 後、朴念仁も程ほどにしておけよ。」

二人にこう言われては、達也も渋々納得せざるを得なかった。

紫輝の時間が惜しいという言い分は最もだからまだいいのだが。

「あ、そういえば紫輝君はどこ行ってたの? 流石におとなしく避難してたってことはないでしょ。」

「そりゃあこんなイベントは謳歌しなきゃ損だろ。 俺は演習林の方に居たテロリストを一人で虱潰しに無力化作業だ。 まぁあれくらいじゃあ満足するには程遠いがな。」

しれっと発せられた嘘に兄妹は思わず苦笑してしまった。

嘘というよりも、真実の半分しか告げなかったという方が正しいか。

別にテロリストと戦ったこと自体は間違ってはいないし、そいつらとの闘争に限れば満足するはずはない。

しかし、その中には『悪魔』という存在はすっぽり抜かれている。

悪魔との生粋の殺し合いも行っていて、それに対しての満足感は付き合いが長い達也と深雪ならば表情と雰囲気で一発で見抜ける。

特に深雪は、前回の悪魔狩りは場所も相手の質も物足りず不完全燃焼だったのを見ていたのでなおさら分かる。

何はともあれ、適度に真実を混ぜた虚偽なのでそうそうバレる心配はないだろう。

更に途中でレオと合流して(レオにも紫輝はどこへ行っていたかは聞かれたが、同じように流した。)、保健室に到着する。

三巨頭も後から揃って到着して、事情聴取の準備は万端となる。

「あら、紫輝君も一緒だったのね。 貴方は大丈夫だったの?」

「移動中に襲撃に遭いましたが蹴散らしておきましたよ。 腕はそこそこ立つと自負していますので。」

少なくともあの程度ならば何の問題も無い……と、追加しておいた。

当然だが、悪魔のことは彼女たちにも伏せておくつもりだ。

今はいらぬ混乱を招いている場合ではないし、出来れば紫輝の裏事情はまだ隠しておきたい。

「達也君、実際のところ彼はどれほどなんだ?」

「我流ですが、荒事にはかなり通じていますよ。 更に魔法の発動速度だけなら深雪と互角ですから、割と風紀委員は向きかもしれませんね。 ……ただ、そういうことはやりたがらない性格ですよ、基本的に。」

「流石はお兄様、俺のことをよくわかっていらっしゃるようで。」

「それは気色悪いからやめてくれ……。 ここを永久凍土にするつもりか。」

紫輝の二人称の気色悪さよりも間接的に弄られる深雪にハラハラしていた。

……現に、ちょっと怖い笑みを紫輝に向けているが全く堪える様子は無い。

エリカやレオはもう見慣れたが、摩利と真由美……特に摩利は感心していた。

「……あの状態の司波を相手に全く臆さないとは、度胸がある。 ますます欲しいな、ウチに。」

「摩利、気持ちは分かるけど落ち着いて。 紫輝君はスケート部期待のホープなんだから、そっちに専念させてあげましょ?」

割と本気に見える摩利だが、流石に真由美は窘めていた。

というより、可能ならば生徒会に引き入れたいくらいだ。

対深雪のストッパーという意味で……。

そして、このタイミングで壬生は意識を取り戻す。

じゃれ合っていた(傍から見ればそう見える)紫輝と深雪も即座に真面目な風を装い、話しても問題ないことを確認してから事情聴取を開始した。

切っ掛けは1年前の入学式の直後だった。

この時に同じく剣道部に所属していた司甲から非魔法系クラブの集会があるということを聞いて、何の疑いも無く通ったらしい。

その時には司甲の兄……司一にも会ったらしい。

要約してしまえば、大体の予想通りブランシュが背後に居た、ということだ。

あまりにも予想通り過ぎて紫輝や摩利は肩透かしを食らっていたが。

「1年前のクラブ勧誘期間の時に、剣術部を止めた渡辺先輩の剣捌きが凄くて感動して……それで試合を申し込んだんですが、二科生だけという理由で素気無く断られたんです。 それが凄く悔しくて……多分、その隙を突かれたんだと思います。」

「ん? ちょっと待て、私はそのように断った覚えはないのだが……。」

壬生の証言に待ったをかけたのは摩利本人だった。

どこか食い違いが発生しているのか、現在必死に1年前の記憶を掘り起こしているところだ。

「傷つけた側が覚えてないのはよくあることですよー。」

「エリカ、何があったかあえて聞かないでおいてやるから個人的なことは後でだ。 とりあえず、渡辺先輩がそんな理由で断るのは違和感があるな。 でなければわざわざ危ない橋を渡って達也を風紀委員に勧誘しないさ。」

紫輝の指摘に大半の人間は賛同していた。

彼自身は摩利との接点は少ないが、それでも一科と二科の差別を助長するような人間ではないことくらいは簡単に分かることだ。

エリカは一人だけ納得して居なさそうだが……。

「確か……あの時は『私なんかではお前の相手は務まらないから、他の人を当たった方がいい』……こんな感じのことを言ったな。 私はあくまで魔法を併用しているから、純粋に剣のみを鍛えた壬生に勝てるはずがない。 だから、私なんかよりもいい相手はたくさんいるという意味で言ったのだが……。」

摩利から告げられた真実は、壬生の思ったいたものとはまるで違っていた。

ここまで違いが生じているとすると、記憶違いにしてはあまりにおかしい。

ブランシュにマインドコントロールを掛けられていた、と考えるのが妥当だろう。

(反魔法主義掲げておいてソレか……気に食わねぇな。)

その中で紫輝は静かに怒りを溜め込んでいた。

義憤というよりも、純粋な苛立ち……簡潔に言えば気に入らない。

まぁ、1年前の時点で相手のやり口の一端を知ってはいたのでキレてはいないが、不快感を全く隠す様子も無かった。

「そんな……じゃあ、私はずっと勘違いしてて、逆恨みをしていたってこと……? この1年、完全に無駄だったじゃない……。」

この1年ひたすら剣の腕を磨いた原因そのものが勘違いだったと分かってしまった。

マインドコントロールによる思考の誘導の結果とはいえ、壬生は途方もない虚無感に苛まれる。

が、すぐにその虚無感は取り払われることになる。

「無駄ではありませんよ、壬生先輩。 勘違いとはいえ、二科だと侮られても嘆きや悲しみに負けずに鍛え上げたからこそ今があるんです。 エリカも言っていましたよ、全中の時よりも遥かに強くなっていると。 経緯はどうあれ、先輩が積み重ねた努力……それは確かなはずです。」

「達也に大体言われたから簡潔に纏めて……何もかんも否定したら剣が泣きますよ?」

それはいくら何でもまとめ過ぎだろう……という外野の感想はさておき。

「……司波君、ちょっといい?」

起因こそ勘違いだが、そこからの過程と生じた結果には間違いはない。

それだけでも認められたことで、彼女は解き放たれたのだろう。

達也の胸を借りて、今まで溜め込んでいたものを全て放つように泣き始めた。

普段ならこのような行動に嫉妬を含んだアクションを見せる深雪も、今回は空気を読んで自重していた。

壬生が落ち着いたところで、これからの方針について議題は移った。

「壬生さんや他の生徒たちは警察に任せることにします。 残念だけど……こればかりはどうしようもないわ。」

「いえ、いいんです。 それだけのことをしたんですから。」

襲撃事態はもう鎮静化しているので、残すは手引きをした生徒たちの処遇についてだ。

これも警察に任せるのがベターに見えるし、壬生もそれを受け入れている。

しかし、そこで待ったの声が上がった。

「待ってください。 肝心のテロ首謀者たちがまだ残っています。 そいつらを潰せばマインドコントロールを受けていた、ということで壬生先輩たちは無罪放免になるはずですが。」

「えっ……ちょっと待って達也君。 それってテロリストたちと一戦交えるってこと!?」

「それはいくら何でも無茶だ、学生の分を超えているぞ!」

テロの首謀者たちの無力化……達也の提案はシンプルだが考え得る限り過激なものだった。

後輩に、いやそれ以前に生徒にそのような危険なことはさせるべきではない。

強く反対する真由美と摩利だが、達也にも引きたくない事情が色々ある。

「じゃあ、壬生先輩を家裁送りにするんですか? 俺としては、後味が悪くて嫌なエンドなんですがね……。 そういうのは某マルチバッドエンドだけでいいですよ。」

「確かに、この状況で警察の介入は好ましくない。 ただ、相手はテロリストだ。 俺たちも当校の生徒に命を懸けろとは軽々しく言えんぞ。」

根底こそ違えど、紫輝は言うまでも無く達也に同調する。

今まであまり言葉を発せず状況を見守っていた克人も今回は三巨頭の一人として口を開いた。

達也の意見に賛成ではあるが、それは上の立場である自分たちが行うつもりなのだろう。

無暗に首を突っ込むなと言外に込めているが達也の姿勢に変わりはない。

「生徒会や部活連のお力を借りるつもりはありません。」

「……一人で行くつもりか。」

「そうしたいのですが……ね。」

一人で行こうとしてもそうはさせてくれない者もいる。

該当するのは言うまでもなく、如何にも行く気満々で達也を苦笑させている深雪だ。

「私も行くわ。 流石に黙ってられないし。」

「俺もだ、足手纏いにはならねぇぞ?」

校内の鎮圧に一役買ったエリカとレオ、この二人も同行の意を見せた。

これだけ戦力が揃えば不足はないだろう。

「待って司波君、私のためだったらやめて。 罰を受けるだけのことはしたんだし、仕方ないから……。」

壬生はあえて危険を冒そうとする達也を止める。

自分のためにこれ以上危ない目にあってほしくはない、と。

しかし、彼女は一つだけ思い違いをしている。

今の達也の怒りは、矛先こそテロリストだがそこにあるのは紫輝と同じく義憤などではない。

「壬生先輩の為ではありません、俺はもう既に当事者だからですよ。 自分たちの生活空間が標的になり、日常が損なわれそうになった……これだけで理由は十分です。 俺と深雪、そして紫輝の日常を壊す者は何があっても排除する、それが俺にとっての最優先事項ですから。」

その言葉の裏にある確かな怒気に、その場の大半の者が思わず冷や汗をかいてしまう。

身内が危ないから危険な芽は摘む、と言えば聞こえはいいし、当たり前のことだ。

しかし、達也の場合はこの行動原理の重さは他者の追随を許さない。

……それが唯一、彼に残された激情なのだから。

「ところでお兄様、ブランシュの拠点がどこにあるのかという問題がありますが……。」

「それならば問題はない。 知っている人に聞けばいいだけだ。」

それだけ言うと、達也は無言で出口になっているドアを勢いよく開いた。

その先に誰かが居ることを見越した行動であり、更に言えばそこに居た人物に大半は驚かざるを得なかった。

「貴女は、カウンセラーの小野遥先生!?」

「え、遥ちゃん!? 何でまた……。」

「……九重八雲先生秘蔵の弟子から隠れ遂せようだなんて、流石に甘かったか……。」

(あー……身のこなし方がどっかで見たと思ったが、先生の弟子って線だったか。)

深雪も同じことを思っていたのか、紫輝と同じような表情をしていた。

そして、達也がこの場にわざわざ招いたということの意味も理解していた。

二人の予想通り、遥はブランシュのアジトを知っていたのだ。

ただ、特に不穏な空気にもならずに情報を貰えたのには紫輝も少し驚いたが。

「……って、ここ学校のすぐ近くじゃない!」

「バイオ燃料の廃工場か……。 放置されているところを見るに、バイオ兵器の心配は薄いな。」

まさに一高から見て目と鼻の先と言える位置だった。

紫輝の本命からも大した距離ではない。

若干情報上のリスクが発生する状況になってしまっていた。

(まぁ、関係ねぇか……どうせ殆ど誰も認識できないだろうしな。)

廃工場がアジトではあるが、紫輝の目的地も恐らく同じ役割であろう。

というより、位置関係からすれば増援要因だろうか。

ならば、相手もぎりぎりまでカードは切らない。

徹底的に隠密を重ねて、アジトの方に何があってもいいように待機している。

それを考慮すると、本隊は余裕をもって待ち構えているだろう。

連中が欲しくて仕方ない達也のことを狙って。

ならば、紫輝の役回りは達也と深雪に対する脅威を消す……ただそれだけだ。

「恐らくあちらは待ち構えているだろうから、車を用いた正面突破がベストだな。」

「それならば、車は俺が用意しよう。」

達也も紫輝と同じ結論に至っていた。

その意見を汲んで克人が家で足を用意させることを即断した。

「え、十文字君も行くの!?」

「十文字家の者として当然のことだ。 だが、それ以上に一高生として今回の事態は看過できん。 下級生ばかりに危険な役を担わせるわけにもいかん。」

克人の言い分を聞いて、真由美もならば自分も提案しようとするが、即座に克人と摩利に却下される。

この状況で生徒会長がいなくなるのは好ましくない。

が、せめてもの反撃か真由美は摩利の同行も道連れとばかりに封じた。

即座に作戦決行ということで、参加メンバーの達也、深雪、エリカ、レオ、克人の5人は用意された車に向かうことになった。

「……って、あれ? また紫輝君が消えてる。」

「アイツもてっきりついてくると思ったんだがな……帰ったのか?」

「周囲の残党狙いだ、恐らく。 案外俺たちが終わるころに合流してくると思うぞ。」

至って真っ赤なウソだが、それを看破できる者は誰もいない。

側面の敵を任せるのだから、これくらいの嘘吐きはお安い御用だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也たちによるブランシュのアジトへの襲撃が決まる少し前。

紫輝は殆ど誰にも悟られることなく校舎の外へ出ていた。

可能な限り早く奇襲部隊を壊滅させたい一心からだ。

下級程度ならばあのメンバーでも問題はないかもしれないが、少しランクが上がった中級になったら一気に雲行きは怪しくなる。

更にそうなれば、一応は隠している自分の立ち位置が明るみに出てしまうことだろう。

それ自体は必死に隠すことではないと紫輝自身は思っているが、そこは上の意思を汲んで隠蔽に努めている。

そんなこんなでやや急ぎ足で歩いていると、見覚えのある顔の生徒が目に入った。

「……こんなところで何してるんです? 桐原先輩。」

「うおっ!? ……あれ、お前はあの時司波兄と一緒に居た……確か、獅燿だっけか。 驚かせるんじゃねぇよ。」

直前まで気配同調を行っていたので、桐原からすればいきなり出てきたのと変わらない。

無論、紫輝は分かっていてやっているので悪びれもしない。

「伝えておきますと、今から達也たちはブランシュのアジトへ殴り込みに行くそうですよ。 桐原先輩も行きますよね? 壬生先輩の無念を晴らしに。」

「あ、あぁ……確かにそのつもりだ。」

何故紫輝が己の行動を先読みしているのか……その疑問は思いっきり表情に出ていた。

「もう一人の幼馴染が生徒会に居るので貴方の調書を読ませてもらったんですよ。 俺は剣に関しては素人ですが、壬生先輩の剣がどこか荒々しいものを含んでいるのは感じ取れました。 先輩からも、二科に対する侮りというよりも単純な八つ当たりという感情も見受けられましたね。」

「お前、本当に俺の1つ下かよ……大した洞察力っていうか、感受性っていうか。 ……だからこそ技術と芸術を両立させなければならねぇ競技で活躍できるってわけか。」

感心しているというより、半ば呆れられていた。

ただ、紫輝の場合は洞察力や感受性ではなく紛れもないただの直感なのだが。

「まぁ、とにかく行くなら早く十文字会頭に申し出た方がいいですよ。 車を用意すると言っていたので、納得させられれば同行も出来ると思います。」

「お前は行かねぇのか? 足手纏いにはならねぇと思うが。」

「俺には俺の役割があるんですよ。 あいつらが自分たちの障害を叩くなら、俺はそこに横槍を突く無粋なヤツを叩くのが仕事なんで。」

それだけ言って、紫輝は去って行った。

ご丁寧に現れた時と同様に気配同調を忘れずに。

「獅燿紫輝、か。 ただの変わり者ってわけじゃあねぇなありゃあ……。」

最後の言葉の瞬間、垣間見えたのは恐らく本性の一部だろう。

素を装っていたが、桐原は確かに一瞬だけ紫輝の内から静かな殺気を感じた。

飄々として人を食ったような人間だというのが第一印象だったが、すぐに評価を改めていた。

『アレは、飄々とした仮面を被った狩人だ』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気まぐれから桐原と話して時間を使ったが、大したタイムロスではない。

そこからはノンストップで幹比古の元へとたどり着いた。

「よぉ、待たせて悪かったな幹比古。」

「大丈夫、そんなには待ってないよ。 ……ところで、早速でアレなんだけど、どうやって現場に行くつもりなんだい?」

些細に見えるが最大の問題である。

達也たちよりも先に到着……できれば先に片付けておきたいところなのだが、今から徒歩だと明らかに手遅れになる。

更に言うならば、今はテロリストを取り押さえている警察などもいるので誰の目に留まらないのは普通ならば無理だろう。

……あくまで普通ならば、だが。

「その点は安心しろ、もう頼んであるし……丁度来たみたいだな。」

紫輝が頃合いとばかりに別方向へ視線を向ける。

そこにいたのは、背格好はテロリストたちを取り押さえている面々と変わらない。

しかし、幹比古はすぐに理解した。

この人物が普通の人間ではないということを。

「……足は用意できました、仮面殿、吉田幹比古殿。 こちらへ。」

「あぁ、いきなりですまんな。」

短い労いの言葉の後、先を行く黒服の人物の後に続く紫輝。

それだけのやり取りだったが、幹比古はすぐに黒服の正体を理解する。

同時に彼が問題ないということも分かって、紫輝に続いた。

3人は誰にも咎められることなく一台の車の前に到着する。

かなり高級そうな車に乗り込み、すぐさま走り出した。

「一応こちらの方でも相手の戦力は把握しております。 最大でもランク4がせいぜいで、規模も残党だからか大したことはありません。 お二人ならば殆ど問題はないかと思われます。 ただ、状況によっては境界の揺らぎが大きくなってランク5の出現の可能性もありますので、そこはご注意を。」

「ランク5……そうなると今の幹比古だとキツイか。 ケルベロスかベオウルフ……いや、さっきケルベロスだったから今回はベオウルフを護衛に置くか。」

「……そうだね。 今の僕だとブリッツやデスサイズの相手はちょっと苦しい。 お願いするよ。」

なお、何故ケルベロスかベオウルフしか選択肢がないかは至って単純な話だ。

アグニとルドラは2体一緒にいないと戦力的に苦しいので、召喚の燃費では苦しい。

ネヴァンは幹比古が苦手としているのでよほどのことがない限りは一緒にはするべきではない。

後1体は紫輝の目の届く範囲にいないと危ない……主に制御的な意味で、だ。

更に、ベオウルフは先ほど正式召喚すると言ったのでまさに丁度いい機会だった。

細かい戦力配分は先ほどの校内戦から変わらないという話まで聞いたところで、紫輝と幹比古を乗せた車は目的地へたどり着いた。

「では、ご武運を。」

簡潔に激励の言葉を聞くと、車は即座にその場を離れていった。

帰りは幹比古だけは乗せていくつもりなので、頃合いになったら戻ってくるだろう。

「放課後業務だぞ、と。」

空へ向けて特化型CADの引き金をまずは一度引く。

先ほどは武具として呼ばれた、一見獣人に見える獰猛さが際立つ悪魔が召喚される。

『よしっ、ようやくこの状態で出番か! 幹比古、大船に乗ったつもりでいろよ!』

「ははは……相変わらずだね、ベオウルフは。」

本来の姿での戦闘に早くも気分の高揚を見せるベオウルフに幹比古は思わず苦笑した。

その様子を見て笑みを零しながら、紫輝は更に引き金を三度引く。

校内の時と同じように、1体を憑依、残る2体は武具として呼び出した。

『あらあら、こんな寂れたところじゃあライブも盛り上がらないわね。』

『観客には期待出来なさそうだな、ネヴァンよ。』

『単独で呼び出されるとやはり妙な気分だ……。』

武器として呼び出されたのはケルベロスとネヴァン、憑依に呼び出したのはルドラ。

ケルベロスの形状は3本の棒が鎖で繋がっているヌンチャク。

こちらは普通に一見で武器と分かる形状なのだが、ネヴァンの方はまず初見では誰も武器とはわからないであろう。

何せ、形状が俗にギターと呼ばれる楽器なのだから。

「毎回思うけど、それが武器っていうのもなかなかユニークだよね。」

「その代わり、演奏スキルというものも要求されるから多芸じゃなきゃ扱いづらいがな。」

『そもそも、多数の上級悪魔を魔具、憑依、召喚で使い分ける人間なんて他にいないから実質紫輝専用みたいなものよ。』

他に悪魔と契約を行っている人間を幹比古は知らないが、紫輝が如何に規格外なのかはよくわかる。

これでまだ全力を封じられているのだから、それがまた末恐ろしい。

「さて、お話はこれくらいにして……幹比古は外の見張りを頼む。 恐らく境界の揺らぎで外にも悪魔は現れるだろうから、お前はベオウルフと一緒にそれを倒してくれ。 俺は中のご一行を叩き潰す。」

「分かった。 大丈夫だとは思うけど、一応気を付けるんだよ、紫輝。」

それだけ言って、紫輝は正面から工場の中へ入り、幹比古は式を召喚してベオウルフと共に周囲の警戒に当たる。

裏のブランシュ残党殲滅戦は、今この時より始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃工場の構造は至ってシンプルだが、今紫輝が通っている通路はやや狭い。

そんな中に所狭しとスケアクロウがいい塩梅で配置されていた。

「やれやれ、通路にゴミを捨ててんじゃねぇよ全く……!」

最も近いスケアクロウに接近しながら、逆に最も視界の奥に見えるスケアクロウに向けてルドラから抽出した疾風魔法を浴びせる。

先手必勝とばかりにヌンチャクによる連続攻撃を始める頃には、奥の敵は無残に切り刻まれていた。

『……紫輝。 ポイ捨てを否定しながら更に汚してどうするんだ。』

「ハッハッハ、何のことかわかんねぇな! ああ、ネヴァンはもう少し出番は待ってくれよ。」

『分かってるわ。 こんな場所じゃあ私も乗らないもの。』

別にネヴァンを使って戦えないわけではないのだが、紫輝も本人もこんな狭苦しい場所では気が乗らない。

武器の形状がギター、要するに奏でる必要があるから気分はより大切なのだ。

その分ケルベロスに使用頻度は偏るが、手数が長所のヌンチャクにとってこの狭いフィールドは丁度良い。

たまにいる瓦礫に隠れた個体の奇襲もあるが、それもルドラから引き出す疾風を巻き起こす魔法『ガルダイン』と、手刀で放つ『残影』で処理。

さて、紫輝が殲滅を行っている間に彼の悪魔の使い方を説明する。

まずは『憑依』。 これは悪魔を自身の精神領域に一時的に格納して、使用できる魔法のイメージを共有する。

その共有イメージを引っ張り出して、後はゲートを通して魔法式を通常のプロセスと同様にエイドスに向けて放つ。

憑依の強みの1つは、一般の魔法師が行っている起動式の読込と魔法式への変換をスキップ出来る点だ。

いわば、魔法発動のタイムラグが殆どなくなるに等しい。

更に、憑依した悪魔は自前の魔法領域とは別物のソレになるので、その気になれば2つの領域で魔法を放つことは容易だ。

ただ、現在の紫輝の自前魔法領域では、自己加速くらいしか実用的なものは使えないのだが……。

代わりに、現状のデメリットとして悪魔が使う本来の魔法より確実に効力が弱まってしまうことが挙げられる。

それでも今の紫輝が使うより出力は強くなるので何も問題はないし、手数が増えるのは何にも代えがたい。

次に『装備』、これはそのままで悪魔を『魔具』と呼ばれる武器の形で呼び出す。

憑依に比べると次元の穴を開くための想子・霊子使用量は増えるが、それは憑依よりも確固たる形で呼び出すからだ。

魔具は悪魔の意思と力をそのまま武具としたもので、その形状は悪魔によって当然異なる。

意思があるので持ち主との意思疎通は容易だし、力も込められているので普通の武器としてだけでなく、魔法も使える優れもの。

いわば、意思がある武装一体型CADと言えばいいだろうか。

欠点は魔法使用の際に想子・霊子を当然のように、しかも憑依より明らかに消耗すること。

憑依と併用する場合はこの2つの残量に気を使う必要が出てくる。

最後に『召喚』。 これもそのまま、在るがままに悪魔を呼び出す。

対象の悪魔が元来の力をそのまま発揮できるので、シンプルにして強力なのは言うに及ばず。

ただし、欠点は言うまでもなく、前者2つに対して想子・霊子の消費量が更に乱暴になっている点だ。

並の魔法師の想子量では、まず上級悪魔を1体呼び出すことも出来ない。

達也・深雪クラスならば人並み外れた想子量を持つので、上級ならば1体は呼び出せるだろう。

紫輝レベルの保有量でも、憑依と装備との兼ね合いを考えると乱発は出来ない。

以上が悪魔を用いた戦闘法。

紫輝がこれら全て用いることが出来るのは、偏にその人外染みた想子と霊子の保有量が最大要因だ。

実を言うともう1つ、悪魔以外のとあるものを用いた戦い方もあるのだが……それについては後にしよう。

通路に居た全てのスケアクロウをボコボコ、または氷漬け、はたまた刻んで全滅させた紫輝。

主にケルベロスを用いた打撃攻撃がメインだったので、消耗自体はそこまで気にするレベルではない。

そして今、見るからに待ち伏せに丁度いい広間の前を陣取っていた。

「……人間ちょっと、後はランク3以下……いや、何か混ざってるな。 またブレイドか?」

『まぁ、フロストはもう旬が過ぎてるから微妙よねぇ……案外ブリッツとか。』

『悪くてもせいぜいその辺りか。 やはり人為的発生ではそのレベルが限界と見える。』

大体ここに来る前に貰った情報通りであった。

仮に現在その場にいなくても、漁夫の利とばかりにあちら側からの奇襲もあり得る。

ただ、境界の揺らぎの規模から考えれば、せいぜい中級が限度。

ケルベロスやネヴァンと同格かそれ以上はまず出てくることはない。

相棒が手元にない今の紫輝にとっては非常にありがたいことであった。

「そろそろ放課後ライブと洒落込もうか、ネヴァン。」

ケルベロスを一旦収納して(憑依とは別の精神領域に文字通り収納している)、ネヴァンを引っ張り出す。

艶美に輝く紫色のギターは、高揚の意思を見せるが如く電撃を走らせていた。

『今まで裏方だった分、盛大に暴れさせてもらうわよ。 マグロにならないよう気をつけなさい?』

「ハッハッハ、それはオーディエンスに言ってやれ。」

既にネヴァンを奏でる体制には入っている。

自身の後方に追い風となるように疾風魔法……ガルダインの弱体化版の『ガル』をルドラに放ってもらう。

「Let's rock! ワンマンライブの始まりだ!」

ルドラによる追い風と汎用型から読み込んだ自己加速術式の相乗効果により、ドアを飛び蹴りで開けるだけでは飽き足らずにそのままの勢いで広間に入っていく紫輝。

予想だにしなかった登場に人造悪魔召喚魔法師も、呼び出された悪魔たちも一瞬だが呆気にとられる。

その一瞬がまさに命取り。 紫輝はその一瞬で距離を詰めながらネヴァンを弾き始める。

「まずはほんの小手調べだ、これくらいで絶頂すんじゃねぇぞ?」

最初にネヴァンの魔具を見たときはギターなんて弾いたこともなかった。

しかし、使えなければ宝の持ち腐れということで、暇を見つけては基礎から始めて今は多少は様になっている。

そんな紫輝の少しぎこちない調べに呼応して、ネヴァンは雷撃を放つ魔法、『ジオダイン』を放つ。

校内での戦闘と同じように、まずは悪魔召喚担当を無力化。

その際に相手はマシンガンで応戦してくるが、それは蝙蝠の使い魔による壁で防ぐ。

ギターの演奏スキルという特異な技能が必要になること、それとトリッキーな挙動さえクリアすればネヴァンは攻防を兼ね備えた優秀な魔具だ。

単体への火力こそ手数に勝るケルベロス、単発火力の凄まじいベオウルフには劣るものの、その制圧力はまさに圧巻。

小手調べと言いながら、最小限の防御に回すだけで残りの使い魔は攻撃に回しているので、取り巻きの雑魚悪魔にも攻撃の隙を殆ど与えない。

使い魔故に使えるのはジオダインより威力が低い『ジオ』だが、それでも数の暴力で弱いスケアクロウ、マリオネットは徐々に数を減らしている。

間隙を縫うように攻撃するブレイドや鋏の代わりに鎌を持っていること以外は大体シンサイズと同じ特徴を持つ悪魔のシン・シザースには、憑依しているルドラのガルダインがお見舞いされる。

憑依の影響で威力こそ弱まっているが、シン系統の弱点である仮面を砕くには十分だ。

ブレイドは一部残ってしまうが、それでも暫くは身動きは取れない。

無粋な邪魔者を封じつつ行われた小手調べの一曲により、悪魔召喚魔法師は全て無力化、そして下級の中でも特に脆い面々はあらかた殲滅してしまった。

『だらしないわね……早すぎよ、貴方たち。』

「甲斐性の無いヤツらだな全く。 まぁまだ残ってるみてぇだから……第2部と洒落込むか!」

残っているのは校内でも戦ったブレイドとメガスケアクロウ、7ヘルズでも特にタフなヘル・スロース。

その中で最も与しやすいメガスケアクロウに向かってネヴァンを構えて突っ込む。

ブレイドは爪飛ばしで紫輝を狙うが当然使い魔の防壁に阻まれる。

また、ヘル・スロースはワープでひたすら日和見をするようなので、現状は邪魔にはならない。

ただでさえ鈍いメガスケアクロウは電撃を帯びた突進をモロに受けて吹っ飛んでいく。

「美麗なサキュバスの手痛い抱擁だ、ありがたく受け取りな!」

『紫輝、後でちゃんとケアしなさいよ?』

一旦ネヴァンを奏でるのを中断して、瞬時に形状を鎌に変形させる。

そして、吹っ飛ばしたメガスケアクロウに向けて回転投擲。

ネヴァンが自前で放つ加速術式により、対象が壁にぶつかる前に回転する刃に巻き込むことに成功する。

そこから硬化魔法で自身と床の相対位置を固定して、回転運動を常時加えるようにする。

こうすることでメガスケアクロウの動きを完全に封じる。

「まずはてめぇからだ、トカゲ野郎!」

ケルベロスを再び取り出し、現存の相手戦力で最も面倒なブレイドに向かう。

先ほどまで様子見に徹していたからか、距離はかなり離れているが自己加速で一気に詰める。

遠距離攻撃の爪飛ばしをさせる隙も与えずに先制攻撃を行う。

ブレイドも思わず反撃ではなく、盾でケルベロスによる猛攻を防ぐ選択を行った。

『……ふん、それは愚策だ。 我の前ではな!』

硬化魔法を発動させ、更に単純な加重系統魔法で打撃の威力を向上させる。

上級悪魔という人間からすれば超常の存在の干渉力による魔法の効力は言うまでもない。

怒涛の連撃で、ブレイドの盾をあっという間に破壊する。

「さーて、仕上げだ! Chew on this!」

連撃を止め、ケルベロスを地面に叩きつける。

すると、地中の水分を利用して紫輝の前方に氷柱が発生。 ブレイドを串刺しにする。

それだけでは足りないと判断して、十手型CADによる一閃で止めを刺す

……と、ここでどこかかしらか咆哮が聞こえてきた。

「吠えてる時点でバレバレなんだよっ!」

再度ケルベロスを叩きつけて、今度は周囲に氷柱を突き立てる。

そこには、ブレイドとの交戦の隙を狙ったヘル・スロースが同じように串刺しの状態になっていた。

ヘル・スロースは連続ワープから攻撃に入るときには必ず吠える癖がある。

ブレイドと交戦しながら、紫輝は常に耳を傾けてヘル・スロースの攻撃の予兆を逃さないようにしていたのだ。

ブレイドと同じように十手型CADで止めを刺し、ジワジワと削ったメガスケアクロウも遂に逝ったことでネヴァンも手元に返ってくる。

これでこの場にいる全ての敵は殲滅。

……したかのように見えたが

『はぁ、私の嫌な予感ってよく的中するわね。』

ネヴァンのため息交じりの言葉と共に、部屋の中央に雷が発生する。

無論、外は快晴なので自然現象であるはずがない。

雷と共に、ブレイドを一回り大きくして、雷をその身に纏う悪魔……通称ブリッツが自らを鼓舞するように咆哮をあげていた。

「……遅刻してきた阿呆には、ちょいと御仕置きが必要なみたいだな。」

『どうやら、我らの出番はここまでのようだな。 帰るぞ、ネヴァン。』

『そうね。 最後は彼にいいところを譲りましょう。』

『……次は兄者と共に呼んでくれよ、紫輝。』

憑依していたルドラ、魔具のネヴァンとケルベロスをあろうことか戻してしまう。

これで紫輝は自然体となり、その気配を察知したブリッツは一目散に紫輝にその鋭利な爪を向けていた。

が、その大振りな一撃は軽く上半身を反らすだけで回避する。

そして、悪魔を召喚するときとは別の拳銃型の特化型CADを取り出して、銃口を自身の蟀谷に密着させる。

「ペルソナ……!」

校内での戦いで居合刀を呼び出したときと同じ動作。

しかし、今回呼び出したものは武器ではない。

代わりに呼び出されたのは、オールバックにした銀髪に青い瞳、青い貴族風の服装の男。

その左手には、紫輝が校内の戦いで用いていた居合刀が握られている。

『……フン。 久々に俺を呼び出したと思えばこの程度の相手、か。 まぁいい、たまにはお前の遊びに付き合ってやる。』

「ああ、頼んだぜ……『ウェルギリウス』。」

ウェルギリウスと呼ばれた男……これこそが、紫輝が持つ仮面……ペルソナである。

別次元から呼び出される悪魔とは異なり、無意識の領域にいる己の別の一面を呼び出す。

この召喚は最終的に系統魔法等と同じくゲートを介するが、想子・霊子の消費量はかなり少ない。

無論、そのメリットに対するデメリットもある。

最たるものは、ダメージの共有だ。

早い話がペルソナが仮にダメージを受けた場合、それがそのまま元の人物に反映されるということだ。

自身も前衛で戦える紫輝にとっては割と手痛い。

が、このデメリット自体は紫輝があまりペルソナ……ウェルギリウスを使わない理由には直結しない。

何故か? それは、並の相手ではそんなデメリットなど問題にすらならないからだ。

新たな敵の気配を察して、近接では避けられると判断したのかブリッツは距離をそのままに電撃を放ってくる。

無論、攻撃の予兆はまるわかりなので紫輝とウェルギリウスは共に最小限の動きでかわす。

『……Kneel before me.(平伏せ)

苛立ったというわけではないが、目障りなことに変わりはない。

冷酷な言葉と共に、ウェルギリウスは居合刀……『閻魔刀』の柄に右手を添え、瞬時に抜刀と納刀を三度繰り返す。

すると、空間そのものを切り裂く斬撃が三回ブリッツに向けて放たれる。

『次元斬』……神速の抜刀により発生する斬撃で次元そのものを斬る、魔技。

ブリッツは雷の鎧を纏っており、これをどうにかしない限りダメージを与えることは困難だが、それをあっさりと無力化してしまう。

次元斬の余波によりブリッツは転倒するが、休ませる暇など与えるはずもない。

ブリッツを機転とした瞬間移動(『エアトリック』という)で一気に距離を詰め、閻魔刀で素早い突きを繰り出す。

そこから返す刀で怒涛の如く斬撃を繰り出す。

十回、二十回……それ以上にもなるであろう斬撃の嵐をブリッツに浴びせ、見るも無残な状態にまで追い込む。

最後に締めとばかりに後ろに振り返りつつ最後の斬撃を与える。

更に、無慈悲とばかりにブリッツの背後の空間は、ウェルギリウスの想子と霊子で生み出された水色の剣……『幻影剣』で埋め尽くされていた。

Rest in peace.(安らかに眠れ)

静かに告げながら、納刀。

その涼しい音を合図に、幾重にも張られた水色の剣は一斉にブリッツに襲い掛かる。

閻魔刀による十にも渡る斬撃に加え、剣の数だけ痛覚が直接精神に叩きこまれれば中級悪魔でも上位とは言っても耐えられるはずもない。

結局殆ど成す術もなく、最後であろうこの場にいる敵は散っていった。

「……いつ見ても、俺には真似できそうにはねぇなこりゃ。」

『貴様が真似をする必要などないだろう。 力を求めることに反対はしないが、探究が過ぎて身を滅ぼすことだけはやめろ。』

「分かってるさ。 その重みはとっくに捨てたし、やれる範囲でやらせてもらうよ。」

無意識領域に戻る直前に聞いたこの言葉に、ウェルギリウスはただ微笑を返し、そのまま戻っていった。

境界の揺らぎが収まってきたことを感じ取り、これ以上の襲撃は無いと判断して、紫輝も来た道を引き返すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

境界の揺らぎが収まっていることは、外で奮闘していた幹比古とベオウルフも感じ取っていた。

こちらは大物こそ出てこなかったが、ランク1の悪魔が2、3体で徒党を組んでひたすら襲い掛かってきてある意味休む暇がなかった。

ベオウルフが見た目通りの大味な蹂躙戦法で大半を処理して、小賢しくそれを回避したヤツは事前に術式を準備していた幹比古が叩く。

単調な作業だが、並の人間ではそう長続きするものではない。

ただでさえ、悪魔との戦いは慣れが無いと精神的摩耗が激しいのだから。

その点、幹比古は紫輝に引っ張りまわされたという経験から精神的にはかなりタフな部類になっていたので問題はなかった。

「……おー、随分と派手にやったみたいだなお前ら。 全く、ここが廃工場でよかったぜ。」

そこに、同じく一仕事終えた紫輝がやってくる。

別に心配はしていなかったが、それでも傷一つない紫輝の姿に思わず息を吐く幹比古。

「それを言うならそっちも随分と暴れてたね。 突風とか轟音とか雷鳴とか色々と聞こえてきたよ。」

『ハッハッハ、それなら幹比古も俺が逃したヤツを雷やら炎で蹂躙していただろうに。』

まさにどっちもどっちである。

まぁ、周囲への被害を考慮すれば威力の調整をキチンとやっている幹比古にいい意味で軍配が上がるが。

「分かってると思うが、これで俺らの仕事は終わりだ。 今回も助かったぜ幹比古。」

「まぁ、君に振り回されるのはもう慣れたからね。 そのお蔭で僕も自信がついてきたし、お礼を言うのはこっちの方さ。」

まだ魔法の発動速度、という根本的問題こそ解決はされていない。

しかし、それでも現実を受け入れてその中で自分が出来ることを模索して戦ってきたからなのだろう。

初めて会った時の卑屈で自分を否定していた頃の幹比古は、もういない。

「それは何よりだ。 まぁ、報酬の配分は後々話し合うとして……俺は達也たちと合流する。」

「僕は普通に帰るよ。 いくらケルベロスやベオウルフの援護ありとはいえ、ちょっと疲れたからね。」

『あれだけやっておいてちょっとで済ませる辺り大したものだ。 この際本当にデビルハンターになるか?』

「ハイハイお前はもう帰りなさい、と。」

未だに高揚しているのか割と洒落にならない冗談を抜かすベオウルフをさっさと帰還させる。

……とはいえ、幹比古は内心この提案をさほど悪くないと思っているから、冗談で済まない可能性もあるのだが。

「お疲れ様です、お二方。 往路同様に足はこちらにお任せを。」

「流石、ナイスタイミングだぜアンタ。」

かなりいいタイミングで出てきた行きと同じ黒服の男の手配した車で、同じ道を進んでいく。

紫輝は達也たちのいる廃工場から遠くない場所で降ろしてもらい、そのまま達也たちとの合流を図る。

そして幹比古は、今日の己の戦いぶりに手応えを感じながら自宅へと帰還。

こうして、獅燿紫輝の一高入学後の初デビルハントは幕を閉じる。

ここからは、再び飄々とした司波兄妹の幼馴染の仮面のターンである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ魔法師! 本物のキャスト・ジャミング、壬生一人を相手にした時とは桁違いだぞ!」

紫輝が一仕事終えて合流しようとしている頃、達也も首謀者である司一を追い詰めていた。

深雪と共に正面から向かって行くと、早速自分たちの前に取り巻きと共に姿を現した司一。

最初は達也のキャスト・ジャミングもどきを狙って仲間にしようと話を持ち掛けるが、達也は首を縦に振らず投降勧告を行う。

話で無理ならばと壬生や司甲を手駒をしたように大げさなパフォーマンスと共に『邪眼』を放つ。

しかし、本物の意識干渉型系統外魔法の『邪眼』ではなく、それは映像機器でも再現可能な催眠光波。

達也の得意とする、キャスト・ジャミングもどきではない魔法の無力化を用いて起動式の一部を消すことで催眠パターンを無くす。

そうすれば、ただの光信号でしかない。

口で言うのは簡単だが、普通は出来ないことを達也は行っていた。

そんな達也を、とんでもないイレギュラーと評価を改めた司一の取った行動は惨めな逃走劇だった。

無論達也はそれを許すはずもなく、妨害する取り巻きを深雪に任せて司一を追跡、そして今に至るわけだ。

「大量のアンティナイトといい、さっきの催眠術といい……パトロンはウクライナ・ベラルーシ再分離独立派で、そのスポンサーは大亜連合。 流石に馬脚を現しすぎで呆れるぞ、三流が。」

「それが分かったからどうなる! どうせ御得意の推理を誰にも聞かせることなくここで死ぬんだからな!」

セリフもまさに三流で、達也でなくても呆れ果てることは間違いないだろう。

それに、達也にとってはキャスト・ジャミングはまさに意味を持たない。

その事実を証明するためにCADの銃口をテロリストの一人に向け、引き金を引く。

自分たちの優位を全く疑わないテロリストたちだったが、次の瞬間それが間違いだったと気づくことになる。

何せ、CADを向けられた自分たちの仲間が脚から血を噴き出して倒れたのだから。

「なっ……!? 何故だ、何故魔法が使える!?」

「キャスト・ジャミングの波動から魔法の妨害になる部分だけを打ち消した……それだけだ。」

心底つまらなさそうな、色の無い視線を向けながら淡々と己の行ったことを告げる。

達也の実力に底が見えないことも相まって、司一が恐怖の余り壁にへたりついてしまった。

とんでもないモノを敵に回してしまったと、今更ながら後悔しながら。

しかし、そんな思考もすぐに強制終了される。

自身の背後の壁が、いきなり切り崩されたのだから。

「ひ、ヒィィィィッ!?」

「お、どうやら当たりみたいだな。」

道を切り開くという字が如く現れたのは桐原だった。

彼の得意魔法、『高周波ブレード』ならばこの程度の芸当は朝飯前だ。

「よう、司波兄。 やるじゃねぇか、これだけの人数を相手に。 ……で、こいつは?」

「それがブランシュのリーダー、司一です。」

割と地獄絵図な光景を見ても表情一つ変えずに達也を称賛する。

そして、達也が淡々と事実を述べた瞬間に桐原の表情は鬼の形相に変わる。

「こいつが……? そうか、こいつか! 壬生を誑かしやがったのは!!」

「ヒィィィィィっ!」

清廉な壬生の剣を汚した張本人を目の前に怒りを抑えられるはずもなく、高周波ブレードを再発動する。

そして、恐怖の余りに身動きが取れない司一の腕を、一刀の元に叩き伏せた。

それだけでは怒りが収まらないのか、更に追い打ちを掛けようとする。

「止せ、桐原!」

声を張り上げて静止を掛けたのは、桐原の後を追ってきた克人だ。

強い静止の声を聞いて、桐原の動きは間一髪のところで止まる。

「会頭……。」

「お前が手を汚す必要はない。」

「そうですよ、桐原先輩。 こんな掃き溜めにそこまでする価値なんてありませんって。」

克人の諭すような声と、何故か聞こえてくる人物の宥める声に桐原も剣を収めた。

……そして、ワンテンポ遅れていないはずの人物の存在に気づく。

「って、何でお前がここにいるんだ獅燿!?」

「あれ、俺桐原先輩が文字通り道を切り開いた辺りからもう居ましたけど。 いやー、漢ですね。」

「……桐原先輩。 これが獅燿紫輝なので気にしないでください。」

入学後でこのやり取りは何度行われたのだろうか……。

しかし、達也はこの場に紫輝が現れたことに若干の安堵もしていた。

彼がここにいるということは、彼が役目を終えたということなのだから。

「司波、これで全員片付けたか?」

「ええ、これで全てです。」

「そうか……後のことはこちらで対処する。 お前たちは先に戻っていいぞ。」

現在の十師族でも3番目の影響力を持つ十文字家ならば、仮に警察庁トップだったとしても干渉を許すことはない。

今回、司波兄妹……特に達也が持つ特異能力はこれで矢面に曝されることはなくなった。

なお、克人自身は紫輝がここにいることは特にツッコミを入れることはなかった。

気づかなかったわけではないが、彼の神出鬼没ぶりは事前に真由美と摩利に聞いているので特段驚かなかっただけなのだが。

「ああ、達也。 言うまでもないが一応。 深雪がちょいとやりすぎちまったみたいだ。」

「今確認した。 全く、そっちのフォローも入れて欲しかったんだがな……。」

「一応一言だけかけておいたさ。 後はお前の役目だろ、お兄様。」

紫輝の茶々に苦笑いしながら、達也は深雪がいるであろう方角へ左手のCADを向けた。

深雪に何かがあったというわけではない。

紫輝が言った通り、少々やりすぎてしまったのでその後始末をしているだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、達也と紫輝は颯爽と現れた深雪と合流した。

「お兄様、ご無事でしたか。」

「ああ、問題はない。 ……後、あれは深雪が気にすることはないぞ。」

一旦深雪から視線を外し、今しがた十文字家の人間に担架で運ばれるテロリストの姿があった。

意識こそ無いようだが、先ほど自分が見た状態とはまるで違っていた。

「偶々コールドスリープ状態に陥ったようだ。 命に別状もなければ、後遺症の心配もない。」

違う、深雪は内心で即座にそう呟いた。

あのテロリストは、間違いなく自分が感情的になって凍らせたのだ。

そして、目の前にいる兄が全てを察してくれて、今回猛威を振るったものとはまた別の異能と呼べる魔法を使ったのだ。

出来れば使ってほしくないその魔法を、自分の犯した失態の尻拭いに使わせてしまった。

その事実が、深雪の心に若干ながら影を落とす。

……と、そこに軽い手刀が頭に入った。

思わず『あいたっ』と、また淑女らしからぬ言動が出てきてしまった。

「し、紫輝? 一体何を……。」

「まーた達也に迷惑かけたと思ってんだろ。 全く、お前らは互いに唯一の肉親なんだから迷惑なんてかけてナンボだっての。 妙なところで甘え下手なんだよ、お前は。 少なくとも、このシスコンの権化がこの程度のことを迷惑だなんて思いもしねぇよ。」

「……お兄様を不愉快な二つ名で呼ぶのは止めなさい。 折角まともなことを言ってるのに、台無じゃない。」

まだ元気は無いが、深雪の心は僅かながらも軽くなるような気がした。

本調子ではないにしろ、憎まれ口を叩けるならば問題はないだろう。

「紫輝、この場で聞いておくが……お前の方も片付いたんだな?」

「だから俺がここにいるんだっての。 最後にちょいと面倒なのが来たが速攻で帰宅させてやったよ。」

「まぁ、お前に勝てるほどの悪魔を用意できるような連中ではなかったからな……。 お前に勝てるレベルの悪魔がどれくらいなのかが分からないが。」

実際、紫輝と幹比古が相対した大半の悪魔は一般の魔法師でも何とかなるであろうレベルだ。

ただ、その場合物量作戦に対抗できるだけの技量か頭数が必要になるが……。

だからこそ、紫輝と幹比古だけでどうにか事を隠しながら対応できたのだ。

もし中級レベルが下っ端で上級悪魔が現れだしたら……言うまでもないだろう。

「そういえば、今日は仮面をつけていなかったが……顔から素性が割れる心配はないのか?」

「あー……アレはちょいとあの人に預けて機能強化中なんだよな。 まぁ、国内なら逆に『仮面』は知られてないだろうし、素顔で大丈夫だろうけど。」

それに、国内ならば知られても二重の意味で揉み消してくれるから何も心配はいらない。

デビルハンターとしての彼は、むしろ国外とあっち側の上の方が名は売れているくらいだ。

「お、いたいた……って紫輝!?」

「本当に達也君の言う通り、ひょっこり現れたわね……。」

「お、レオにエリカも見張り作業お疲れさん。 全く、もう少し早く来てれば加勢してやれたんがな……。」

紫輝の行動を知る者からすれば非常に白々しい言葉に兄妹は顔に出さないように内心で苦笑した。

何はともあれ、新学期早々一高を脅かしたブランシュによるテロは、ようやく閉幕となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブランシュ問題が終わり、落ち着きを見せ始めた4月24日。

もはやいつメンと化した紫輝たちご一行は早くも行きつけとなった『アイネブリーゼ』に来ていた。

テロが収まってすぐの頃は深雪もまだ完全に立ち直り切れてなかったが、達也が徹底的に甘えさせ、更に紫輝がからかったりツッコミを入れたりしたので本調子に戻るのはそう時間はかからなかった。

(……あー、アレの試し撃ちどうすっか。 早くやってくれたのはいいんだが、見事にタイミング悪いっていうか……)

テロが鎮圧してから2日後に、改造に出していた紫輝の相棒が返ってきたのだ。

とはいえ、普段から持ち歩けるようなものかと言われればそうでもない。

今回がイレギュラーだっただけで、日本では基本悪魔の自然発生は珍しいので使う機会は滅多にないのだ。

現状は時折メンテをする以外、完全に宝の持ち腐れだった。

「おい、どうした紫輝? 妙に上の空だけど何かあったのか?」

「あー、いやちょっとここ最近4回転が不調で自己分析してた。」

「……獅燿君、スケーターの性は今はお休みした方がいいと思う。」

「あんまり四六時中考えてると悪循環に陥ることもあるから、適度にお休みも必要ですよ?」

普段は軽いのにスケートのことになったら人が変わったかのように真剣になるのが紫輝だ。

それを知っている面々だから、上手く誤魔化すことができた。

実際、4回転トウループの調子が悪いのは事実だが。

「随分と賑やかだけど、今日は何か特別な日なのかい?」

紫輝がメインウェポンの処遇について考えている間に、マスターが何事かと尋ねてきていた。

確かに、いつもの集まりにしてはどこかハイテンションだ……特にエリカが。

「お疲れ様会……と言ったところですかね。」

「え? 何言ってるの今日は達也君のお誕生日会だよ!」

達也が苦笑しながら答え、それに被せるかのようにエリカがそれなり級の爆弾を投下した。

爆弾発言の後、深雪と紫輝、達也以外は一瞬の沈黙の後、驚きの声を上げた。

誰にも伝えていなかったのは明白だった。

「あー、そうか。 4月とは言ってたから今日やろうってことか。 にしても、何てドンピシャなことか。」

「まあ、正確な日付は知らなかったけど、4月中なら誤差の範囲って……ん? ちょっと待って紫輝君。 ドンピシャってどういうこと?」

ドンピシャという言葉に違和感を感じたエリカが何のことかを聞き出そうとするが、紫輝は視線を外しながら苦笑するだけ。

視線を外した先を追うと、そこにはどこかおかしそうに笑っている深雪の姿が。

「……みーゆーきー? まさか、謀ったわね?」

「あら、私はよく知ってるわねって言っただけよ。 少なくとも嘘は言ってないわ。 紫輝にも確認をとればよかったのに。」

「だって紫輝君だともっと性質が悪いことしそうだし。」

「うーわ酷い言い様だな。 いくら俺でもダチの誕生日関係でそこまで性格悪いことはしねぇぞ?」

……普段の行動や言動が災いしてるのでは?

レオ、美月、ほのか、雫、そして達也は揃いも揃って同じことを思っていた。

そして、ここで重要なことに思い至った雫が静かに呟く。

「……誕生日プレゼントを用意していない。」

「あっ……。」

3人以外はその事実に思い至って見事に落胆した。

時間が無かったし、具体的な誕生日も知らなかったから彼らに落ち度はない。

しかし、そういう理屈で済まされるような話ではないのだ。

それだけ達也が友人(約1名はそれ以上に見えるが)として思われているのだから、紫輝はその様子を見て内心で安堵していた。

なお、紫輝は問題はない。 深雪との共同作業による逸早く祝ったのだから。

「まぁまぁ、ここは一つこのザッハトルテを僕と君たちからのプレゼントということで手を打とう。」

まさに渡りに船な提案であった。

そうと決まればとばかりに、素早くロウソクを16本用意する。

まだロウソク16本かという紫輝の茶化す発言もありながら、ロウソクに灯された火を息を吹いて消すという今も昔も変わらない儀式を皮切りに改めて達也の誕生日を祝う会が始まる。

「そういえば、獅燿君の誕生日っていつなんですか?」

今回と同じ轍を踏まないためなのだろう、紫輝の誕生日を逸早く尋ねたのはほのかだった。

「紫輝の誕生日は9月7日よ、ほのか。 夏休みが終わったら割とすぐね。」

「既にシーズンが始まってるけど、そこだけはちゃんと空けておくように。 試合もその日は何もなかったはずだし。」

「流石スケオタ、スケジュールはほぼ把握済みってか。」

雫のスケオタ的なスケジュール把握に他の面々は揃って苦笑いを見せた。

流石に紫輝でも国内やら国際B級大会のスケジュールを全て把握してる、ということは流石にない。

その後も、時折ツッコミが発生しながらもワイワイはしゃぎにはしゃいでいた……主にエリカが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月は変わって5月。

達也と深雪、そして紫輝は病院に訪れていた。

理由は至って単純、壬生の退院祝いだ。

司一のマインドコントロールに長い間支配されていたので、念には念を入れて入院していた。

特に何も問題はなかったからか、割と早い退院となったわけなのだが。

「それにしても、花束なんてわざわざ持参しなくても良かったんじゃないか?」

「おいおい達也、合理性っていうのはこういう時は捨て置くものだぜ?」

「紫輝の言う通りですよ、お兄様。 こういうものは自分で持っていくことに意味があるんです。」

とある事情故に仕方ないが、達也の合理性に偏った発言は見事に二人掛かりのダメ出し攻撃の前に封殺される。

特に、紫輝は受け取る側に回ることもあるから余計に説得力があるのが決め手となった。

周囲の深雪に対する視線やざわめきは当然意にも介さない。

3人はロビーを見回して壬生の姿を探すが、割とすぐに目に入った。

そこには、意外なことに桐原の姿もあった。

「桐原先輩、毎日さーやの所にお見舞いに来てたんだってさー。 マメだよね、見た目と違って。」

「いや、それは入院してたのが壬生先輩だからこそだろ。 じゃなきゃあの場にわざわざついていかないだろうし。」

背後から突然聞こえた声に特に驚きも見せずに反応するのは紫輝だった。

達也も事前に把握していたからか、驚く素振りは見せず唯一欲しかったリアクションをしてくれたのは深雪だけだった。

「ってエリカ! 貴女も来てたのね。」

「さーやって……随分と親しくなったんだな。」

「……深雪はともかく、紫輝君と達也君を驚かせるのはやっぱり無理だったか。」

「いや、お前は何となくいるとは思ってたぜ? そうでなくても気配ですぐわかったけどな。」

二人のリアクションを見れず少し悔しがるエリカに、追い打ちを掛ける紫輝。

割と容赦のない口撃を受け、エリカは少しばかり拗ねたような仕草を見せる。

「ふーんだ、そんなに性格が悪いと彼女とか出来ないわよ?」

「ご生憎、そんな余裕があったら苦労してないぜ?」

「……二人とも、話が大幅に逸れているぞ。 とりあえず今は壬生先輩の退院祝いだろうに。」

いつまでも続きそうな静かな口撃合戦に止めを入れる達也。

とはいえ、エリカも紫輝もいつまでも続けるつもりはなかったのですぐに矛を収めた。

そのタイミングを見計らい、花束を持つ深雪が壬生に声を掛けた。

「壬生先輩、退院おめでとうございます。」

「司波さん達……ありがとう。」

この時の壬生の笑顔は、感謝の念と共に解放感を感じるものだった。

達也とついでで紫輝に掛けられた言葉、そして入院中で色々と思考を巡らせて色々なものから解き放たれたのだろう。

その後、達也は壬生の父親と共に少し離れたところで何やら話していた。

(……もしかして、風間さん辺りの知り合いか? まぁ、俺が立ち入るような話ではねぇな。)

このタイミングで少し離れるということは、互いに……特に達也にとって聞かれたくない話をするからであろう。

その場合、有り得るのは独立魔装大隊関係しか考えられない。

残り2つの選択肢については、紫輝も周囲関係をある程度、ないしは知りすぎている位なので即座に消せるのだ。

とはいえ、雰囲気からしても特に達也の不利益になるような話ではないのはすぐに分かった。

ならば、自分もここは真っ当な反応を見せるべきだ。

「とりあえず、良かったですね桐原先輩。 司一に斬りかかった時はなかなかいい絵になってましたよ。」

「……獅燿。 司波にも釘を刺しておくが、あの時のことは言うなよ? 言ったらただじゃおかねぇからな。」

「言いませんって。 これは、男の秘密ってことでタダで口を閉じておきますよ。」

表情こそ相変わらずだが、僅かでも紫輝の本性を知った桐原はとりあえずその言葉は信用することにした。

が、忘れてはならない。 この場には彼女の存在がいることを。

「ちょっとちょっと二人ともー? 何よ男の秘密って。」

「うわ、千葉!? なんだよ、いきなり!」

「そのままの意味だエリカ。 この件に関しては俺は絶対口を割らないぜ?」

ちゃっかり二人の密談を聞いていたエリカが聞き出そうとするが、二人は徹底ガード。

特に紫輝は例え札束が目の前に出てこようが割らないというくらいの意思表示を見せた。

こういう時はかなり律儀な男である。

「ぶーぶー、いいじゃない別に。 ……いいもん、達也君に聞くし。」

「俺もしゃべるつもりはないぞ、エリカ。 こればかりは当人たちの間で自己完結すべきことだ。」

丁度いいタイミングで現れた達也も早々に非口外宣言。

余りに早く詰んでしまったので、一転して話題を壬生に振ることにした。

「そういえば、何でさーやは達也君から桐原先輩に乗り換えちゃったの? 好きだったんじゃないの?」

「え!?」

いきなり核心を突くような質問に、壬生も流石に戸惑いと共に頬を朱に染めてしまう。

更に、そんな質問を投げかけられては桐原も黙ってはいられないだろう。

「おい、千葉!」

「エリカ、流石に調子に乗りすぎよ?」

「やれやれ、こういうのはやっぱり好物ってワケか。 分かりやすいぜ。」

深雪も流石に看過出来ないのか窘めの言葉を発し、紫輝はこの年頃の女子特有の思考にツッコミも入れなかった。

達也は唯一、何も言わないというか言えないというか、沈黙を貫いていたが。

「……うん、確かにエリちゃんの言う通り。 私は司波君に恋してたと思う。」

そんな中、壬生から静かに発せられた答え。

桐原は若干ながらショックを受けたよう顔をして、エリカは顔を輝かせていたが、それに構わず壬生は続ける。

「司波君は、私には持っていない揺らぐことのない強さを持っていたから。 でも、それと同時にそれが怖かった。どんなに追っても、懸命に走っても追いつくことは出来ない。 そして思ったの。 これは恋というよりも、憧れ。 ううん、偶像めいた幻想を抱いてたのかもね。 そんな時に、桐原君が来てくれた。 毎日お見舞いに来てくれて、色んなことを話して……思ったの。 彼とならば、一緒に歩いて行ける。 時には喧嘩したりもするけど、お互いに間違いを指摘しあいながらも一歩ずつ進んでいけるって。」

そこまで聞いて、深雪の表情は僅かにだが曇っていた。

達也が如何に特別な存在か一番よく知っているからこそ、このような孤独と相対することが多いことも理解している。

だからこそ、自分だけでもその孤独を癒す存在になろうと、改めてこの場で決意した。

しかし、そう思ったのは深雪だけではない。

病院からの帰り道、唐突に紫輝は口を開いていた。

「達也。 確かにお前はその生い立ちと力が故に時に孤独になるかもしれない。 だが、どんなことになっても深雪、そして俺がいるから孤独にはさせやしないぞ。」

「ええ、紫輝の言う通りです。 お兄様が音の速さで駆け抜けて行かれても、空を突き抜けて翔け昇られても、私と紫輝はついていきますよ。」

「置いて行かれるのは、むしろ俺の方だと思うんだがな……。 まぁ、何はともあれ、まずは足場を固めるところからだ。」

一旦授業を抜け出したのだから、再度学校へ戻るのだろう。

紫輝と深雪もそれに続くように歩いていく。

「ところで、お兄様……。 学校はお辛くないですか? 本来は通う必要はないはずなのに、侮りを受けてまで……私のために、無理を為さっているのではと……。」

これは、ずっと抱いていた懸念……否、不安だった。

資料閲覧という目的があるとはいえ、達也自身の現在の能力を考慮しても魔法科高校に通う必要性は言うまでもなく存在しない。

既に知っているであろうことを再度学びに行っているのだから。

紫輝曰くシスコンの権化がそんなことを思っているわけはなかった。

「深雪、俺は嫌々学校に通っているわけではないよ。 この日常は今でしか経験できないからな、可能な限り満喫したいと思っている。

 紫輝ではないが、退屈とも無縁だからな。 ……それは紫輝も同じだろう?」

「ああ、どいつもこいつも飽きさせない面々だ。 あいつらがいてくれるからこそお前らも前より活き活きとしてるしな。 ……だからこそ、あの掃き溜め共からは何としてでも離してやらないとだがな。」

この時、兄妹の前だからこそ見せる悪魔狩りの顔になっていた。

既に紫輝は、レオやエリカ、美月などの面々は何としてでも悪意から守る対象に入っているのだ。

そのことを改めて確認出来て、達也と深雪もどこか満足気だ。

「まぁ、とりあえず今は日常に戻ろう。 紫輝も、あんまり物騒な顔をしてるなよ?」

「……それもそうだな。 とりあえずスマイルスマイル……っと。」

「貴方の笑顔は胡散臭い、または飄々としたという言葉が必ず前置きになるから大して変わらないわね。」

「ハッ、深窓の令嬢という仮面の下がただの残念ブラコン娘なお前には言われたくないね。」

いつも通りの深雪と紫輝の口撃の応酬、それを苦笑しながらも微笑ましく見守る達也。

とりあえずは取り戻した日常を、3人は暫く謳歌することになった。

 

 




はい、初投稿から4カ月くらいで入学編終了です。
話数は大体アニメ版を基準で分けたのですが、1話の長さで考えるとどうなんでしょうねこれ。
ただ、長くしようとしたわけではなく、最低限書かないといけないと思ったことを書いたら結果的にこうなっただけなので……。
今回は遂に紫輝のペルソナが表舞台に立ちました。
『ウェルギリウス』という名の由来はちょっと調べれば分かるとは思います。
スキルはDMC4SEとUMVC3基準です。 要するに出来ることはほぼやりますね。
まあ、ベオウルフとフォースエッジが無いので凶悪度合いは落ちますが、そこは紫輝の共闘で若干はカバーできますし。
ここから先も紫輝の表切り札として君臨します。
ちなみに、第1話冒頭で出てきたのはウェルギリウスではありません。 伏字の文字数をよく数えると微妙に多いですしね。


さて、次回からは九校戦編。 紫輝は二科生なので表舞台での活躍は当然のようにありません。
よって、九校戦自体は比較的圧縮していく予定です。
それ以外のところはそこそこに書きますが。 当然ですが悪魔も出てきます。
後、とある別作品からゲストキャラが何人か出てきます。 まあ、スケート方面なので知らなくても問題はないです。


リアルの事情が未だ不安定なのでいつまで安定更新が出来るかはわかりませんが、簡単に失踪するつもりはありません。
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