魔法科高校の劣等生 -Masquerade Devil Hunter- 作:スダホークを崇める者
この4カ月、表面上は普通にしていましたが割と危なかったところがあります。
とりあえず、これで憂いはなくなったので安心して執筆作業に入ることが出来ます……。
とはいえ、10月になったらリアルが安定する代わりに執筆時間が一気に減るのですが……。
でも何とか月1更新以上は確保したいところです。
では、九校戦編のスタートです。
8. 試験終了後
7月……この時期は高校生にとっての正念場の1つと言えるイベントがある。
その名も『期末試験』。 学生ならではのこのイベントは魔法科高校でも例外なく存在する。
というより、つい先日それが終了して結果が発表された。
総合成績は順当通り首席の深雪が堂々の1位、2位にほのか、3位に雫と1-A組が独占。
実技成績も同じような状況で、深雪1位、2位に雫、3位には森崎が入っていた。
が、筆記試験になるとこの状況が一気に変化した。
首席の深雪は2位になり、1位には500点満点で490点という驚異の点数を獲得した達也が入った。
そして、深雪に続く3位には達也と同じくE組の紫輝、そして幹比古が同点でランクインした。
知っている者からすれば驚くことでもないが、教師陣も含む大半の人間はこの筆記試験の結果には大いに驚いた。
3位が二人という状態のトップ3に二科生が3人も名を連ねたのだから、当然とも言えるだろう。
「で、俺はまたこの順位というわけだ。」
自身の総合順位を見て何とも言えない表情をしているのは筆記試験第3位タイの紫輝。
テストの成績自体大して重要でもないのだが、流石に入学試験と同じく総合102位という結果には暫く呆然としてしまった。
「おいおい、102位とか後少しで一科じゃねぇか。 やるな紫輝。」
「筆記3位なのに総合で3ケタっていうのは素直に喜べないけどね。」
「おいおいエリカ、流石に今のはちょっとグサッと来たぞ?」
「でも、凄いですね獅燿君……魔法幾何学で堂々の満点だなんて。」
紫輝のあまりにアンバランスな成績を見て、素直に称賛を送るレオ、美月、逆におちょくるエリカ。
例え筆記でトップクラスでも筆記と実技の比率が良くても1:2なのでこの結果は致し方ないことだ。
現に、筆記ぶっちぎり1位の達也も総合ではボロボロなのだから。
そして、今この場にその筆記トップはいない。
「それにしても、何で達也さんは呼び出されたのかな……。」
「筆記がトップで実技がボロボロなことに教師陣が違和感を感じたんじゃねぇか?」
「でも、それだと獅燿君も呼び出しがあってもおかしくない気がする。」
この場にいない達也を心配するほのかに、紫輝の適当な回答に静かにツッコミを入れる雫。
そう、今達也は丁度呼び出しを受けて生徒指導室にいる。
この面々は、達也を待ってこうやって雑談で時間を潰している最中である。
「いや、俺は速度だけのアンバランス型だって認知されてれば大丈夫な気もするがな……お、噂をすればだな。」
紫輝の言葉の途中で、生徒指導室のドアが開く音が聞こえた。
それに続いて、去り際の会釈を行う達也の姿も全員の視界に入ってきた。
「……ん? どうしたんだ、みんな揃って。」
「いや、何でまたお前が生徒指導室に呼ばれたんだって思ってな……。」
「ああ、実技試験のことでちょっとな。」
紫輝の予想がほぼそのまま当たる結果となった。
早い話が、実技試験で手を抜いていたのではと疑われていたらしい。
普通に考えればそんなことをするメリットなど存在しないので、聞くのも馬鹿馬鹿しいことなのだが……。
いくら理論と実技が別物と言っても、実技が伴っていない状態での理論の理解には限界がある。
まぁ、何とか誤解は解けたのでひとまずは大丈夫なようだが。
「そういえば、そろそろ九校戦だな。」
「あー、生徒会は選手とエンジニアの選定で忙しそうにしてたな。 深雪も流石に慌しそうだったし。」
九校戦……正式名称は全国魔法科高校親善魔法競技大会。
日本国内に9つある魔法科高校の選ばれた生徒がスポーツ系魔法競技で競い合う催しだ。
この舞台で活躍した選手は軍人の道に進むことも多いらしく、軍の方も競技会場と滞在用のホテルを貸し切る形で全面協力を行っている。
要するに、魔法科高校に通う生徒にとっては夢の舞台というわけだ。
「深雪さんも出場は確定ですよね。 流石に大変そうです。」
「まぁ、深雪に関しては大丈夫じゃない? 同年代であのレベルはそうそういないだろうし。」
成績を考慮すれば深雪の出場はまあ確定だろう。
彼女の魔法力の凄まじさはわかっているので、エリカの楽観的な発言は無理もない。
しかし、雫は険しい表情で語り始めた。
「油断は出来ない。 今年、三高に一条の御曹司が入学したらしいから。」
「え、一条ってあの一条か!?」
一条……七草と十文字と同じく現在の十師族に連なる家系だ。
それだけの大物が同じ学年にいるということに、レオに美月、エリカも驚きのリアクションを上げた。
「一条……ああ、『クリムゾン・プリンス』か。 そういえば同年代だったっけか。」
そんな3人の反応を尻目に、至って淡々とした表情の紫輝。
それと共に放たれた言葉も、語尾に『で?』とでも付きそうなくらいに淡白なものだった。
「獅燿君は全く驚かないんですね……。」
「まぁ、獅燿君にとっては十師族よりもスケートの先人の方がよっぽど尊いからある意味当然。」
「いや、同じ十師族直系でも七草先輩と十文字先輩は尊敬してるぜ? あの二人はこの目で見てるからな。 ただ、十師族ってだけで身構えるのはバカ臭いってだけさ。」
「それがお前の長所とも短所とも取れるところだな。」
そもそも、ケルベロスやベオウルフなど上位悪魔と対等の立場にいるのが紫輝だ。
それに、『仮面の悪魔狩り』としての活動の中でその手の大物とのやり取りもあったので同年代の十師族くらいで臆する要素はどこにもなかった。
「っていうかさ、紫輝君も九校戦に通用しそうだよね。 クラウド・ボールとかまさに向きじゃない?」
「毎回気配消してるし、足も速いからな。 新人戦レベルならそれだけで優勝もぎ取れるんじゃねぇか?」
エリカとレオの言うことはあながち的外れではない。
クラウド・ボールならば身体能力の重要度も増す上に、現状得意な自己加速を生かせるので勝ち目は大いにあるだろう。
まぁ、二科生の時点でお鉢が回ることはほぼ有り得ないから意味のない展望なのだが。
そんなことになったら、いい顔をしない一科生も多いので面倒になること請け合いだ。
「まぁ、スケート系の競技でもあれば独壇場だったろうから出ても良かったんだがな。」
「……そんなことになったら観客席が大変なことになると思う。」
何がどう大変になるかは言うに及ばずである。
その日の夜、紫輝は達也、深雪と共に九重寺を訪れていた。
九校戦に出場する深雪に稽古をつけてもらうことが目的らしい。
別段紫輝には用事は無く、暇だからついてきただけだ。
達也曰く、アイスピラーズ・ブレイクは基本的に問題はないとのこと。
深雪の得意分野を考えれば、確かに彼女が負かされることは考えづらい。
それこそ、悪魔をフルに使った今の紫輝でもほぼ無理だ。
その代わりと言ってはあれだが、もう1つの出場可能性が高いミラージ・バットは若干フィジカル面で心配がある。
深雪自身は別に運動音痴ではなく、むしろ同世代で考えれば並以上あるのは確かだ。
しかし、如何せん華奢なのだ。 要するに、体力面に隙があるかもしれないということ。
そういうことで、八雲に頼んで幻影魔法を使って競技と似た状況を再現してもらっている。
「そこまで! 一旦休憩にしよう。」
達也の一声と共に、八雲は魔法を止めて、深雪も一旦休憩に入る。
幻影を視認しては棒で薙ぎ払い、視認しては今度は跳んで薙ぎ払ってとそれなりのハードワークだ。
しかもそれを30分持続させていたので流石の深雪も息を切らしていた。
「紫輝、お前の方から何か気になることとかは無いか?」
「視認と反応はまぁ及第点じゃねぇか? 後はひたすら試行回数で体力配分を覚えるくらいだろ。」
紫輝もただ見物していただけでなく、達也と共に助言をしている。
部内でもやはり意見や助言を求められることが多いので、割と様になっている。
「……誰だ!?」
唐突に達也が背後を振り返って声を大にする。
何事かと思った深雪は達也と同じ方角を向き、視認出来た人物に僅かながら驚きの表情を見せ
紫輝は初めから分かっていたのか、いつもと変わらぬ顔でその人物と視線を合わせた。
「おや、遥くんじゃないか。」
「八雲先生はともかく、司波君、更には獅燿君にまで見破られるって、私の技量が落ちたってことですか?」
その人物とは、意外なことに遥だった。
この場で八雲と話しているということは、恐らく達也と同じく彼の弟子なのだろう。
まぁ、彼女が只者ではないのは初見で感づいていたので大して驚きはないのだが。
「いや、達也君は僕たちとは違った『眼』を持っているからね。 紫輝君は……まぁ、経験かな。 そうとしか言えない。」
「まだ16歳にもなってないのに八雲先生にそう言われるなんて、よっぽどなのね。」
「まぁ、火遊びが好きなお年頃ってことで。 ところで、小野先生は八雲先生の弟子って認識で正しいんですよね?」
適当なところではぐらかして話題を戻す。
短い会話だが、遥は恐らく『仮面の悪魔狩り』のことを知らない、または知っていてもイコール紫輝であることは知らないことはすぐに分かった。
彼女の素性如何では別に知られてもさほど問題はないのだが、ここはまだ秘匿を貫いておく。
「その通りだよ。 ……この先のことを話しても大丈夫かな遥君。 達也君が特に知りたがっているみたいだし。」
「ダメと言われても話しますよね、先生は。」
「じゃあ、そういうわけで……。 遥くんは公安の所属で調査官なんだよ。 僕に弟子入りしたのは達也君より後だから、君にとっては妹弟子だね。」
「ちなみに、カウンセラーの方も資格持ちだかられっきとした本職よ。」
二人の話を聞いて、先日の校内テロにおいて相手の狙いや潜伏先を知っていたのも頷けた。
なお、ブランシュが悪魔系の戦力を持っていることは知らなかったことから、やはりまだこの国は悪魔系の情報に疎いことも改めて確認できた。
だからこそ日本では『仮面の悪魔狩り』は無名で、あの時は顔を隠す必要もなかったのだが。
「自分よりも後に師匠の弟子になったとのことですが、それにしては見事な隠形でしたね。」
実際、一朝一夕で身につくレベルの隠形ではなかった。
規格外な直感を持つ紫輝はともかく、達也に『眼』を使わせるというのは、並大抵の技術ではない。
「それが私の魔法特性だもの。」
「なるほど、BS魔法師ですか。」
BS魔法師……BSとはBorn Specializedの略で、早い話先天性の特異魔法技能を持つ魔法師のことを指す。
よく「BSの一つ覚え」と言われるが、一点特化の技能とも言えるので場合によっては一般の魔法師を凌駕する実績を残すこともできる。
目の前にいる遥の隠密系についてはもはや言うに及ばずだ。
「……その肩書きは好きじゃない。 どうせ一つ覚えですよーだ。」
「まあ、今の魔法師は万能を良しとする風潮ですからね……。」
「何もかもが中途半端よりは一点を極めているほうが優れていると俺は思いますよ。」
達也の持論については紫輝も同意だ。
戦闘においても、総合的には格上でも自分の土俵ともいえる究極の一があれば勝機は生まれる。
ただ、紫輝は性質が異なる複数の上級悪魔を従える都合上、究極の一というものは無い。
ある意味、圧倒的な手札の数が究極の一と言えるのかもしれないが。
「そうそう、司波君に獅燿君。 この件は極秘事項だからオフレコで頼むわよ。」
「分かってますって。 言いふらす趣味はありませんから。」
「こいつの口の硬さは俺が保証しますよ。 ……そうですね、代わりに4月のようなことがあったら早めに情報を貰えませんか。」
「そうね、ここはギブアンドテイクってことで。」
達也の相変わらずの抜け目のなさを見て、紫輝はただただ苦笑いをするしかなかった。
テストが終わっても、終業式まで授業は続く。
紫輝たち1-Eは、現在1-Fと合同で体育の授業に取り組んでいた。
行っている競技はレッグボール、周囲に壁が存在するフットサルというのが適切な競技である。
「オラオラ、どきやがれ!」
持ち前の身体能力をフルに使って、レオが相手陣地に特攻をかける。
その勢いはもはやラグビーのそれに似ているところがある。
それほどの勢いなので、F組もそうそう止めることができない。
が、ジワジワとマークが厳しくなってきたので、頃合いを見て壁を使い達也にパスを送る。
達也もこのワンサイドゲームの立役者の一人なので、即座に別の人間が達也を止めようと数人が向かってくる。
(……そっちか!)
それを知ってか知らずか、達也は傍から見たら完全に見当違いの方向へボールを送った。
誰もいない空間なのでF組の面々もボールを奪えないが、このままではボールは完全にフリーになってしまう。
が、達也が誰もいない空間にわざわざボールを送るようなことをするはずがなかった。
「ナイスパスだぜお兄様、ってな!」
達也がボールを送った先には、気配同調で殆ど誰も認識ができない紫輝がいた。
これは魔法でも何でもなく本人が身に着けた技法、ズルでも何でもない。
このまま行けば、何も問題はなく更なる点差をつけることが出来るだろう。
だが、紫輝はここで思う。
(これだけじゃあ、つまんねぇな……この策で行くかね。)
このままゴールを決めてもつまらない、ということで周囲を見回して即座により面白い策を考え付く。
そこで有効策ではなく面白いを重視してしまうのは紫輝の悪癖だ。
まずは普通にゴールに向かっていく。
特段動きが速いわけではないが、F組の生徒は紫輝からすると遠い位置取り。
紫輝の企みは誰も止められない。
(……頃合いだな、受け取れ!)
今こそが頃合いと見て、紫輝はシュートを放つ。
そこそこのパワーで放ったそれは、コース的に見ると角度は微妙なところだった。
(いや、アレでは恐らく……。)
達也はシュートの軌道からして、ゴールに入らないと踏んだ。
そして、案の定ボールはゴールの中に向かうどころか、フェンスに当たって跳ね返った。
……が、そこで終わらないのが紫輝の企みだった。
跳ね返ったそのボールを、まるで見透かしていたかのように一人の男子生徒がそのまま捉えたのだから。
(……全く、それでこそ紫輝だよ。)
紫輝の奇抜な策を即座に見抜いていた幹比古の手で再度シュートが放たれる。
まさかの二段階の策、相手のキーパーは何もできずにボールがゴールに入る様子をそのまま見届けてしまっていた。
この後も達也とレオ、幹比古、神出鬼没に絡んでくる紫輝の4人がメインで活躍したことでE組の圧勝となった。
「あいつ、やるな。」
「ああ。 見た目の割に動けていたし、あの紫輝の奇策を見事にフォローしていたから周辺視野もいい。」
(吉田幹比古……あの古式魔法の名門、吉田家の次男。 ……そして恐らく、紫輝の協力者でもあるんだろうな。)
達也は当然素性を知っているし、聞いたわけではないが紫輝の協力者が彼なのは一発で分かった。
何せ、あの紫輝と問題なく連携出来ている時点で関係者なのは明白だ。
元々素性のことも考えて興味があったのか、休憩時間を利用して幹日古と接触を図ることにした。
「ナイスプレー。」
「やるじゃねぇか吉田、紫輝にあそこまで合わせるなんて並大抵じゃねぇぞ?」
「幹比古だ、苗字で呼ばれるのはあまり好きじゃないんだ。……後、そういうこと言ってるとハリセンが来るよ?」
その忠告を聞いて思わず周囲を見回しながら頭を押さえるレオ。
普段からツッコミを受けているが故の防御行動を見て、二人……否三人は思わず苦笑してしまった。
「人を問題児扱いとは、どうかと思うよな幹比古。」
「……いや、正直君は問題児スレスレだと思うけどね。」
「それについては俺も同意だな。 ところで、二人は以前からの知り合いなのか?」
「あー、そういえば説明してなかったな。」
ざっくりとだが紫輝は幹比古との馴れ初めを話す。
とはいえ、この学校に入学する前にふと会って、紫輝がいつものように振り回したと話しただけだ。
無論、それだけの話ではないのは達也もわかっている。
悪魔関連に巻き込まれなければ、紫輝が協力を要請するとは思えないからだ。
「すっげぇ破天荒っぷりだな……おっとそうだ、俺のこともレオで構わないぜ、幹比古。」
「俺のことも達也でいいぞ、幹比古。」
「オーケー。 実を言うと、前から君とは話したいと思ってたんだ。」
「奇遇だな、実は俺もだ。」
理論分野トップと3位タイ、というだけでこのやり取りに違和感はない。
だが、互いに話したいと思っている動機は他にあるのは言うに及ばず。
「何とも言えない疎外感だな……。」
そんな中、ただ一人置いてけぼりのレオは思わずぼやいてしまう。
「レオとも話したいとは思ってたよ。 何せあのエリカと対等に付き合えるんだからね。」
「それもそれで釈然としねぇな……。」
「まあ確かに対等だな、ツッコミを受ける頻度的な意味でも。 ……そういえば、幹比古ってエリカとも知り合いだったんだな。」
対等というよりも二人に対して同時に突っ込む場合が多いのでカウントも同時に増えるだけなのだが。
そして、エリカとも知らない仲ではないことを初めて知ったので追及する。
「まあねー、いわゆる幼馴染ってやつになるのかな。 まあ、知り合ったのは十歳だから微妙なところだけどね。 最近は避けられ気味で紫輝君と仲良くやってるみたいだけど、ミキは。」
「エリカ、いつの間に……。 というか、そのミキっていうのはやめてくれと言って……。」
横から現れたエリカが紫輝の疑問に回答する。
最後にはやや怪しい、正しく言うならその手の趣味の人間が食いついてきそうな言い方が混ざってはいるが。
なお、一緒に来た美月が若干そのような反応をしていたことは紫輝以外誰も気づいていない。
女みたいな呼び方をされた幹比古はそれを嗜めようとしてエリカの方に視線を移して……彼は固まってしまった。
「エリカ、君は何て格好をしているんだ!?」
「え、何って……伝統的な女子用体操服だけど。」
幹比古だけでなく、レオまで固まってしまっていた。
何せ、今のエリカは見事なまでに太ももを剥き出しにしており、この時代からすると露出過多になりかねない。
なお、狼狽する二人とは対照的に達也と紫輝は淡々としていた。
「そんなに変か? 変わったデザインのスパッツだと思うが……。」
「待て待て達也、こんなスパッツがあるわけないだろうが。」
「紫輝君の言う通り、これはスパッツじゃなくてブルマーって言うのよ。」
「
「そんな訳ないじゃん! 女子用体操服って言ったでしょ!」
見事なまでのボケっぷりである。
エリカに合わせるように紫輝もハリセンを炸裂させた。
と、ここでレオが我に返って爆弾を投下する。
「ブルマーっていうとアレか! モラルが崩壊していたその昔、女子中高生が小遣い欲しさに親父共に売っていたという……。」
「ちょ、バカ! 何てこと言ってるのよ!」
「ここから先はR指定、学生には早いっての!」
エリカの脛蹴りと紫輝のハリセン、ダブルツッコミここに極まる。
ただ、レオの脛はかなり頑強だったからか、蹴った後に足の痛みに耐えきれずに跳ね回っているからイマイチ締まらないのだが……。
「エリカちゃん、やっぱり普通のスパッツに戻した方がいいよ。」
「それについては同感だな。 異性からすれば割と目のやり場に困るぜ、それ。」
「って、そんな平然とした顔で言われてもねぇ……。 ……まぁミキも妙な目で見てたから戻した方がいいわね。」
流石に羞恥心が出てきたのか、素直に美月と紫輝の忠告を受け取った。
そして、聞き覚えの無い呼び名に美月は首を傾げた。
「エリカちゃん、ミキって……吉田君のこと?」
「エリカ、頼むからその女みたいに呼ぶのはやめてくれ……。」
「えー、だってそのまま呼ぶと噛みそうなんだもん。 じゃあヒコは?」
「それじゃあまるで猿みたいな呼び方になっていないか?」
話題はすっかりと幹比古の呼び方に変わっていた。
なお、美月の苗字呼びについては特にツッコミを入れない辺り、そこは割り切っているのかもしれない。
「おいおい、ここはミッキーだろ。 まさに愛称って感じでいいじゃないか。」
「待った、その呼び方も嫌なんだけどそれ以上に色々危ないよそれは……。」
「だな……今にも黒服が出てきそうだぜ。」
何で危ないかは言うに及ばず……あの黒いネズミが脳裏によぎったからだろう。
この時代でもネタ的な意味でも恐怖を与えるとは、恐るべし黒いネズミ。
なお、達也だけは何のことか全くわからないのはご愛嬌である。
「そういえば、前ほど苗字呼び嫌がってないのね。」
「……いや、今でもあんまり好きじゃないけどね。」
(前ほどということは、以前はかなり嫌がっていたということか……。)
古式魔法の名門の次男が苗字で呼ばれるのを嫌がっていた。
それだけ、何か重いものを抱えているのか……そう判断はできたが、達也は特に深入りはしない。
また、今はそこまで嫌がっていないという点については紫輝が一枚噛んでいると踏んでいた。
それについても、特に追及するつもりはなかったが。
その日の昼休み、達也と深雪は生徒会にて昼食をとっていた。
九校戦関係の作業はまだ終わっていないが、選手選考についてはある程度目途が立ったので終わりは見えている。
……しかし、まだ問題が全て解決されたわけではない。
「問題はエンジニアの方よね……。」
選出作業を率先してやっている真由美は溜息混じりにぼやいていた。
そう、残っている大きな問題は選手のCAD調整等を担当するエンジニアの人員不足だ。
「何だ、まだ揃っていないのか。」
「特に三年が深刻なのよ。 二年はあーちゃんや五十里君を筆頭に、優秀なエンジニアが揃ってるのだけれど……。 せめて摩利が自分のCADを調整出来れば……。」
「……そ、それは深刻だな、確かに。 うん。」
確かにセルフ調整で出来ることが一番好ましく思えるが、選手兼エンジニアとなると流石に負担が重すぎる。
現に、自分で調整することも可能な真由美や克人もセルフ調整を行うことは流石に無い。
「ねぇリンちゃん、やっぱりやってくれない?」
「無理です。 私では中条さんたちの足を引っ張るだけですので。」
再三要請しても首を縦に振ってくれない鈴音の様子に、真由美は本格的に机に突っ伏してしまった。
そして、そんな様子を見て達也の第六感は察した。
『このままここに居たら何か良くないことが起こる』……と。
アイコンタクトで深雪に合図して、感づかれないように離席しようとした。
「あ、だったら司波君がいいんじゃないでしょうか。」
しかし、あずさの鶴の一声により達也はこの場にいないといけない状況となってしまった。
達也の第六感は当たってほしくもない時に当たってしまったのである。
「深雪さんのCADを調整しているのは司波君ですし、一度見せてもらいましたが一流メーカーレベルの仕上がりでしたよ。」
「……そうよ! 完全に盲点だったわ!」
「そうだ、委員会の備品も見ているんだったな。 完全に忘れていたよ。」
真由美に摩利も先ほどの空気はどこへやら、一気に表情が明るくなっていた。
なお、深雪も同じように表情を明るくしているのは言うに及ばずであろう。
この状況はどうにもならない……しかし、達也はそれでもなおささやかに抵抗を試みる。
「……一年生がエンジニアに加わるという事例は過去に無いのでは?」
「どんなことも最初は初めてよ。」
「前例というのは覆すためにあるものさ、君の風紀委員入りもまさにそれじゃないか。」
その抵抗も柳に風、説き伏せるのはかなり厳しそうだ。
しかし、この程度であっさりと諦めるわけもなく、更なる屁理屈を並べて抵抗する。
「進歩的に考えるお二人はそうかもしれません。 ですが、俺は一年生でそれに加えて二科生。 反発を買いかねない人選はユーザーとの信頼関係を考えると如何なものかと思いますが。」
達也の言い分は間違いではない。
CADの調整というのは、魔法師の内部も見た上で行うものだ。
そもそも魔法そのものが精神的要素で失敗もあり得るものなので、信頼関係が脆弱であることはこの上なく危険だ。
しかし、この場ではその言い分が完全に逆の意味で働いてしまっていた。
「お兄様……私は、九校戦でもお兄様に調整して頂きたいのですが、ダメでしょうか?」
止めを刺したのは、深雪のこの懇願であった。
そう、この兄妹はまさに信頼関係など言うに及ばず、可能ならば普段と同じように調整することが望ましい。
その点を考慮すれば、深雪が達也にこのようにお願いをするのも何もおかしなことはなかった。
「そうよね! やっぱり信頼出来る相手に調整して欲しいわよね、深雪さん!」
ここぞとばかりに深雪の意見を支持する真由美。
こうなってしまってはもう完全に八方塞がりだ。
そのまま達也はエンジニアに推薦され、放課後の九校戦の会議に出席することになった。
なお、その会議にて達也の選出についてやはり反論が発生した。(好意的な意見もそこそこにあったが)
そこで、克人の計らいにて達也のエンジニアとしての実力を見せることとなった。
ちなみに、調整役として買って出たのは達也の実力を知る桐原だった。
課題は普段使っているCADの設定を競技用のものにコピーして即時使用可能にするというもの。
達也としてはスペックが異なるCADの設定をコピーすることに若干の危惧を抱いたので、完全に安全重視で作業を行った。
そこから先は、まさに達也以外の人間にとっては未知の光景だった。
画面いっぱいに流れる数字、開いては閉じるウィンドウ……一般的なものとはまるで調整風景だ。
更には驚異的なキーボードオンリーの調整方法と来たものだ。
凡夫は古い手法だ何だと言っているが、そうでない者は達也の行っていることがハイレベルであることは理解できていた。
調整が終わったCADを桐原はすぐに使用したが、違和感は全くなし。 満足の行く結果だった。
が、頑なに達也の実力を認めない……否理解できていない面々は難壁をつけてくる。
対して、達也のチーム入りを強く推薦したのはあずさと、意外なことに服部だった。
二科生だから、前例が無いからと実力があるはずの者をチームから外すなど以ての外と真っ向から反論していた。
以前では考えづらいその発言に、真由美と達也は思わず微笑を浮かべていた。
止めに克人もチーム入りを強く支持したことにより、達也は晴れてエンジニアに選ばれた。
その日の晩、紫輝はスケートの練習から帰って早々通話を行っていた。
その相手は赤の他人が聞いたら確実に恐れおののく人物であること。
しかし、意外なことに会話内容そのものは至って普通であった。
「そう、達也さんはエンジニアとして参戦するのね。 深雪さんは順当に出るようだし、すっかり貴方は仲間外れになってしまったわね。」
「楽しそうに言わないで下さいよ真夜様……それに、俺にとっては8月下旬からが本番なのに九校戦でエネルギー使うわけにも行かないですし。」
「それもそうね。 それに、貴方が九校戦に出たらそれこそ反則でしょう。」
外見は三十代と言ったところだろうか、美しさと可愛らしさが上手く同居している雰囲気の貴婦人である。
彼女こそが十師族筆頭四葉家の現当主、四葉真夜。
世界最強の魔法師の一人とも言われているほどの人物で、『極東の魔王』、『夜の女王』などの二つ名を冠している。
それほどの大物と紫輝は雑談をしているのである。
「そういえば、春の一件では裏で悪魔退治をしていたようね。 それはあの御方からの依頼でいいのかしら。」
「いえ、完全に俺の独断です。 予想以上に事態が水面下で深刻になって報告する間もなかったので。」
「気にする必要は無いわ。 悪魔に関しては貴方に任せる……いわば餅は餅屋。 それが私たちの総意なのだから。」
いくらアンタッチャブルと称される四葉と言えど、魔法師として戦力が凄まじいのであって所詮は人間。
中級までならともかく、上級悪魔になったらとてもじゃないが対抗できない。
だからこそ、唯一悪魔に対抗しうる紫輝の存在はとにかく貴重なのだ。
「それにしても、日本でも人為的な悪魔出現が確認されたとなると、いよいよもって貴方の存在も国内で明るみになるのかしらね。」
「むしろ、USNAとか欧州で大暴れしたのに四葉以外が全く把握できていないのが驚きですよ。」
「それだけ貴方の存在は隠したいのよ、あの御方は。 四葉としても上級悪魔と相対し、更に契約まで交わすほどの力を持つ貴方は可能な限り隠匿したいもの。 そのせいで随分と窮屈にしてしまってるけれど……。」
「お気になさらず。 俺の事情で四葉に危険をもたらすわけにはいきませんからね。 ……USNAではちょっとそれでやらかしましたし。」
関係ない人間を己の事情に巻き込んだ過去、それを自嘲気味に仄めかす。
まぁ、その事件は何も犠牲を払わずに落とし前をつけたからその点は良いのだが。
7ヵ月前のことを思い返しながら、ふと紫輝は思った。
(……そういえば、アイツはちゃんとやってるのかねえ。)
最初はいざこざから始まり、当時の自分としては珍しく放っておけずに共闘して巻き込んでしまったとある人物。
あれから全く連絡は取っていないが(というか忘れていた)、果たしてちゃんとやれているのかどうか。
紫輝にしては珍しい他人の心配であった。
「どうしたの? もしかして、その巻き込んだっていうのは女の子だったりするのかしら。」
「何でまたそういう話に……確かにその通りですが。」
「夕歌さんや勝成さんが心配しているからよ。 貴方は女っ気がどうしても無いって。 ちなみに私や葉山さんも同じく心配ね。」
「勝成さんはともかく、夕歌姉さんには言われたくないっての……。 こればっかりは仕方ないでしょうに。」
同じく四葉の分家で次期当主候補の新発田勝成、夕歌同様に紫輝がそれなりに連絡を取り合っている中の年上の男性だ。
四葉の分家同士は本来そこまで馴れ合う、ということは無いのだが獅燿家……というより紫輝だけは割と特別だ。
その理由として、紫輝は幼い時に自ら次期当主候補の座を辞退していることがある。
また、早くにして悪魔等イレギュラー駆逐担当というポジションというオンリーワンの立場に立っているのも大きい。
「一高ならば家柄的にも貴方に相応しい人もいるでしょうけど、急かすつもりはないわ。 でも男色にだけは走らないでくださいね?」
「スケーターには割と見られるとはいえ、俺は至ってノーマルだからご安心ください。」
紫輝の場合、別に女性に興味が無いというわけではない。
ただ単に関係が進まないだけなのだ。
異性からすれば「面白い人だねー」で終わるし、紫輝側も異性としてそこまで意識をしたことがない。
果たして、これからそう意識できる女性に出会えるのか、また現れるのか。
「あ、今日達也から実験に付き合って欲しいって言われてたのでそろそろ……。」
「達也さんの実験? もしかして、アレかしら。」
「多分そうだと思いますよ。 俺としても実用化まで至ると凄い有り難いから結構協力しててようやく形になりそうだと言ってました。」
「流石は達也さんね。 じゃあ、時間が空いた時はまたあのゲームで勝負しましょうね。」
「望むところです。 前回はしてやられたからリベンジさせてもらいますよ。」
最後の最後に四葉当主とその分家当主らしからぬ約束をして通話は終わった。
……どこの世界に某赤い帽子な彼のレースゲームで遊ぶ十師族当主とその分家当主がいるのだろうか。
丁度同じころ、夕食を終えた達也に連絡が入っていた。
非通知となっているが、達也の素性からすれば珍しくもないことだ。
何の躊躇いもなく端末を操作すると、画面に映ったのは旧知の顔であった。
「リアルタイムでは2か月ぶりかな? 久しぶりだな、特尉。」
「お久しぶりです、風間少佐。 呼び方から考えるに秘匿回線ですね?」
通信の相手は達也のとある立場からすれば上司に当たる人物だ。
陸軍一○一旅団・独立魔装大隊隊長、風間玄信少佐。
山岳戦・森林戦における世界的エキスパートであり、国内屈指の名指揮官とも言われているほどの人物だ。
また、達也と同じく九重八雲の弟子でもある。
「まずは業務連絡の方からだ。 本日サードアイのオーバーホールを行い、部品をいくつか新調した。 よって、これに合わせてソフトウェアのアップデートと性能テストを行って欲しい。」
「分かりました、明朝に出頭します。」
「いや、学校を休むほどの差し迫った要件というわけではないぞ?」
明日も普通に学校だが、それを休んでまで素早く事を済ませようとする達也。
しかし、学生の基本は勉学であり、それを妨げる意図は無いと伝える風間。
「いえ、次の休みは研究所の方で新型のテストがありますから。」
「本官が言えたことではないが、高校に入ってからますます生活が学生らしくなくなっているな。」
「こればかりは仕方のないことですよ。」
高校に入る前からもそうだったが、入学後はますます生活の密度が上がってきたのは事実だ。
学生生活とアスリート活動、更に裏の悪魔狩りを偏らせることなく過ごしている紫輝に称賛を送ってしまった。
ただ、紫輝の場合は悪魔狩りが片手間で済むレベルの話であることが殆どだからバランスよくできているだけだ。
実際、ここ最近の紫輝は4月の事件の影響による残飯狩り以外は殆ど悪魔を狩っていない。
そのフラストレーションをすべてスケートにぶつけていた。
「ところで、聞くところによると今夏の九校戦にエンジニアとして参戦するそうだな。」
「ええ……。」
思わず返事に間を持たせかけたのは、ほんの数時間前の情報をどうやって入手したのかに疑問を持ったからだ。
聞いても答えてくれるか定かではないので聞かないのだが。
「その九校戦だが、気をつけろよ達也。」
「……何か只事じゃない様子ですね。」
呼び方が変わったことで、それは上官ではなく旧知の者としての忠告になる。
一介の高校生に軍の情報を伝えるという程の事態になっているということだ。
「九校戦の会場、富士演習場エリアに不穏な動きがあった。 具体的には侵入者の痕跡が見つかってな。 更に、国際犯罪シンジケートの構成員らしき人間の姿の目撃情報もある。」
「軍の演習場に……。 時期を考えれば九校戦狙いですね。」
日本トップクラスの魔法師の卵が集う大会でテロを起こされたら……言うに及ばないだろう。
「ちなみに、侵入者は香港系犯罪シンジケートの『無頭竜』の下部構成員ではないかという話だ。」
「……どうやって正体に当たりをつけたのですか?」
「壬生に調べさせた。 既に面識はあるとは思うが。」
風間の言う壬生が5月に会った壬生紗耶香の父だということはすぐに分かった。
話によると、退役後に内閣府情報管理局に転籍して現在は外国犯罪組織の情報担当を担っているとのこと。
それならば、確かに当たりをつけるのは容易であろう。
「後、この件は仮面の彼にも伝えておいた方がいいかもしれないな。」
「仮面の……まさか、相手は悪魔関係の繋がりも持っているのですか?」
「可能性としては十分にあり得る。 人造にしても恣意的発生にしてもどこの国が技術を持っているかは分かったものではないとのことだからな。」
仮面の彼……要するに『仮面の悪魔狩り』=紫輝がそう言ったのならば確かに警戒は必要だ。
現に、4月のブランシュの事件でも恣意的発生と弱小人造とはいえ、悪魔が関わってきたのだから。
「分かりました、伝えておきます。」
「頼んだぞ、達也。 明日は無理だが、富士では会えるかもしれん。 では、九重師匠によろしく言っておいてくれ。」
通信が切れた後、よろしく言っておくという意味を過不足なく理解した達也は僅かに溜息を吐いた。
どこまで話したらいいものか……なかなか難しい問題だった。
「というわけで、盗み聞きしてた可愛い妹君と一緒に失礼しますよーっと。」
「……深雪はいいとして、紫輝も来ていたのか。」
「申し訳ありません、お兄様。 紫輝が面白そうだからと聞き耳を立てて……私もつい一緒に……。」
この二人にならば知られても困る話ではないから構わない。
いつまでも深雪を立たせたままにするわけにはいかないので、紫輝も一緒に座らせることにした。
その流れで食後のティータイムと洒落込むことになった。
「紫輝。 聞いてるから分かっていると思うが……。」
「分かってるさ。 一応あの人にも確認は取っておく。」
アジア系の事情にはそこまで明るくないので、『無頭竜』という組織は知ってはいても悪魔が絡んでいるという確証はもっていない。
ただ、1年ほど前のあの事件の影響はまだ残っている……故に風間の言う可能性はかなり高いと言える。
「紫輝も大変ね……。 スケートの方は8月末が試合スタートとはいえ、九校戦の観戦にも来てくれるのにそこも気にしなければならないなんて……。」
「気にするな、最近退屈しててスケートの方にも悪影響出てたからな……。 暴れられるなら俺としては丁度いいさ。」
そう、あまりにも平和すぎて紫輝はフラストレーションが溜まっている。
テロによる境界弄るの爪痕も既に癒えてしまえば、基本日本は悪魔の出没は無いのだから仕方ないのだが……。
しかもその影響がスケートの練習にも出ているのだから、割と笑えない状況だ。
「悪魔が狩れないストレス……か。 相変わらず難儀だな、お前も。」
「仕事だが、趣味にもなっちまってるから仕方ないさ。」
「もう少しまともな趣味を作りなさい、紫輝……。」
この時、紫輝と契約している面々も一様に頷いていた……主にケルベロスとかネヴァンが。
その後は暫く雑談と洒落込んでから達也は紫輝を連れて地下室へと向かった。
紫輝が達也に頼まれたのは、とある新しい魔法のデバイステスト作業だ。
それもそのはず、紫輝は基本工学方面は門外漢も門外漢。
そうでなければ、CADの調整等はほぼ自分で行っていたことだろう……達也の手を借りないということは無いだろうが。
また、達也が今取り組んでいるこのデバイスは、紫輝にとっても非常に有用な代物であるのもテストを引き受けた理由だ。
「……よし、これで試してみてくれ。」
完成した術式を組み込んだデバイスを紫輝に渡す。
現代魔法の歴史を塗り替えるであろうその試作品を見て、紫輝の表情はいつも以上に愉悦の割合が多い。
達也の技量と頭脳を信用しているから、失敗や動作不良などは全く考えていない。
「魔法の断続感は無いか?」
「ああ、問題ねぇ。 負担の方も、俺の場合は大丈夫そうだ。」
一通り使用感を確かめ、紫輝による動作確認は終わった。
CADを使用した際のフィーリングからの注文が人一倍多い紫輝からのOKサインを受け、達也もひとまずは安心した。
ただし、自身を除いて動作確認を行ったのが紫輝一人というわけにはいかない。
「俺が使って安全確認できたんだし、頼んでも問題ないんじゃねぇか? …丁度来てるしな。」
その時、扉をノックする音が聞こえてきた。
この場に紫輝と達也がいるのだから、後はもう一人しかいない。
「お兄様、深雪です。」
「ああ、こっちは大丈夫だから入っておいで。」
入室を促すと、静かに扉が開かれて……普段と明らかに違う服装の深雪の姿が目に入った。
まるで妖精を思わせる衣装は、深雪の可憐さと美しさを見事に強調していた。
「なるほど、ミラージ・バットのコスチュームか。 とてもよく似合ってるよ。」
「へぇ、スケートの衣装に似てるから合ってるな。 悪魔も見入っちまうんじゃねぇか?」
「紫輝はともかく、ありがとうございますお兄様……?」
素直な賛辞と捻くれた賛辞、予想通りな感想を得て満足そうにする深雪だが、すぐに違和感に気づく。
何故座っているはずの達也と自分が全く同じ高さの目線になっているのか。
身長差があるとは言っても、流石に座っている達也より身長が低いということは有り得ない。
そう思って視線を下に向けて……ようやく解答に至った。
「お兄様……まさか、それは飛行術式……常駐型重力制御魔法!」
「ああ。 さっきまで紫輝にテストをしてもらっていてな。 安全性は確保できたから次は深雪にテストしてもらいたいんだ。」
「可愛い妹分より先にテストをした優しい兄貴分に感謝してくれよ? まぁ、達也がヘマするなんて有り得ないから本当にいらぬ保険だったんだがな。」
「恩着せがましい紫輝はさておき……おめでとうございます、お兄様! 歴史的快挙ですね!」
毒を混ぜて紫輝をスルーして、自分のことが如く歓喜の表情を見せる深雪。
だが、この賛辞は身内贔屓を外したとしても当然と言える。
加重系魔法の技術的三大難問の1つ、『汎用的飛行魔法の実現』を若干16歳にして成しえたのだから。
その後、紫輝が行った時と同じように深雪も飛行魔法のテストを始める。
徐々にスピードを上げ、自由自在に空を舞うその姿はまさに妖精そのものだ。
「おー、その衣装でやると映えるな。 これいっそアイスショーでやってみるか?」
「……流石に通らないんじゃないか? そもそもそんなに魔法が使えるスケーターなんていないだろうに。」
「ははは、それなら俺率いる第一高校スケート部の面々のグループナンバーでやるさ。」
「案外簡単に実現しそうだな……お前ならば。」
ただ、もし実現すれば魔法師が兵器として思われている現状を少しでも緩和できるかもしれない。
……そう考えると、割と面白そうだ。 達也はそう思って僅かに笑みを零す。
「んでもって深雪。 以心伝心とばかりに空中スケートするのはいいが、そこで飛ぶのはダブルアクセルだろ? ほら、飛べ飛べ。」
「……そういう無茶ぶりは止めて、紫輝。」
その後、紫輝が面白そうとばかりに空中トリプルアクセルを披露した。
……それを見た時の深雪の顔は、それはもう悔しそうだったのは言うに及ばずだ。
九校戦編1話目なので割と控えめな物語展開となっています。
以前から書いていますが、この九校戦編はそこまで紫輝が活躍するわけではありません。
何せ、原作から大きく流れを変えない場合は悪魔関係のドンパチを強引に増やすわけには行きませんからね……。
あくまで自然の流れで入れる場合、紫輝の活躍ポイントは2カ所のみです。
そして遂に真夜様もご登場。 彼女も割と設定改変が目立つキャラです。
原作では可愛らしい狂気が目立ちますが、こちらではその狂気はやや薄まってはいます。
紫輝との関係も時には親子っぽくなり、はたまた年が離れた友人、または姉弟のような感じにもなります。
ただ、本文でもあるようにあのレースゲームをやる当主二人ってどうなんだこれ。
……まあ、そこは真夜様も適度にストレスは溜めてしまう御方。 紫輝と遊んでストレス発散したいってことにしてください。