魔法少女リリカルターニャ   作:キューブケーキ

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その1 対協商連合戦

 親愛なる帝国軍同胞の皆さまこんにちわ。ターニャ・デグレチャフ魔導士官候補生、改め魔導少尉です。

 ようじょの皮を被って士官学校でチート能力を発揮していたら、何だか評価されて北方に送られました。優秀なので試験免除で実地研修ですか。これは出世コースに乗ったと考えたら良いのでしょうか?

 

 さて、中隊配属された士官候補生について考えてみましょう。通常は入校を繰り返し各種特技教育を受けて来る訳です。それを積み重ねて半人前の新米士官になります。士官学校を出たところで、まだ一人前の士官と言えませんよ。

 そう言えば同期がよく口にしてるZAPってなんでしょう? まったく意味がわかりません。

 

 野戦任官の少尉と言えば、教育を未了で士官としての素養が欠けていたりしますが、それは平時の理論です。まあ、慢性的に人手不足な軍隊では仕方がありません。

 と言う訳で新米少尉に成りました。頑張りますと言って良いのかどうか。

 職場の空気はちょっとブラックでピリピリしてました。

 

 それも仕方がありません。世の中、仕方がない事ばかりです。

 私が居るのは、協商連合との競合地域となる北部国境。最前線である北の防人です。

 

 北方が最前線としてきな臭くなったのも国際情勢の変化が大きい。

 つい先日、時空管理局を名乗る集団が、突如として世界に武装解除、自治権の放棄、魔導師の差し出しを求めて来たのです。

 時空管理局って何これ。今まで、近代ヨーロッパ風の世界に転生したと思っていましたが、次元航行艦やらSF展開で無茶苦茶です。これも存在Xの陰謀でしょうか?

 

 管理局はどうやらかなりの近代兵器──と言うか、超科学兵器や魔法やらを備えている様で各国は脅威に晒されました。

 そして日和見に長けた協商連合は、管理局に尻尾を振ったそうです。玉無しのチキン野郎ばかりですな。

 

 そして管理局の武力を背景に協商連合は調子に乗って挑発して来ました。

 

「また巡回が襲われたぞ!」

 

 輸送隊や巡回が度々、敵の襲撃を受けていた。IEDや地雷、待ち伏せ攻撃も受けた。

 迫撃砲や機関銃まで用意しており、相手は明らかに軍事教練を受けたプロだ。犯人は分かりきっていた。

 侵略者の手先に成り下がるとは、なんて下劣な輩だ。猫のうんこだ、ダニだ。

 

 そして私は陸軍との連携の研修を引き続き実施中でした。

 

 まず軍隊とは男性的社会です。女性が進出してるとは言え、戦いに女性らしさは求められません。

 それでも、見目麗しい女性は周りからちやほやされて厚待遇です。

 私は一桁の幼女ですよ。そんなのありません。

 だから願うのです。

 おっぱいよ、大きくなれ。おっぱいよ、大きくなれと。

 

 冗談はともかくとして、協商連合のクソ虫どもは管理局に降伏した事で上の首がすげ変わって、帝国に喧嘩を売ってきました。競合地域への進駐です。

 国境を守る帝国軍北方方面軍は機甲部隊を含めて2個軍団。ちょっと舐めすぎですね。

 此方が警戒していた管理局の魔導師やらは現れませんでした。代わりに協商連合軍の砲火が国境の帝国軍陣地を蹂躙したのでした。

 

 基準砲の試射、続いて効力射が終わると前進して来る。定番通りの攻撃手順です。

 

 おや、敵の砲兵は錬度は帝国軍より劣るのか弾着の散布が広い。

 逆に位置を暴露して味方の砲兵に潰され始めている。

 対砲迫戦で先ずは一勝か。

 

「デグレチャフ少尉、大隊本部に出頭しろ」

 

 呼び出しがかかりました。

 魔導師としてのお仕事、前進観測班のお手伝いだそうです。

 

 此方は初めから守りが堅かった。

 味方の航空優勢で戦場の制空権は確保されたと言える。そう言う訳で、空は我らの物だった。

 邪魔者が居なければ空を飛ぶほど楽な事は無い。まさに気分は上々。

 

「ピクシー04より23a、位置に着いた」

 

 ピクシー04と言うのは通信系で私の呼出し符号で、23aは砲兵のFOだ。

 BETA相手のゲームじゃないんだからCPとかHQと呼んだりはしない。相手だって無線傍受を行っている。人間相手なんだから略語を使ってはもろばれだ。

 

『23a、ピクシー04。了解』

 

 お仕事は空からFOのお手伝いで、私のデータがFOから戦砲隊に送られ、各砲班に活かされる。目に見える成果は仕事への意欲をかきたてる。

 どんどん頑張るぞ! と思っていたけど、演算宝珠のデータを送るだけなので、ふわふわ飛んでるだけです。

 我が軍は敵を火力で圧倒しております。自慢の管理局による支援とやらは何処に行ったのでしょう。あくびが出るほど暇で良いのでしょうか?

 

 

 余裕をぶっこいて居たら何やらフラグを立てていた様です。

 

 巨乳が見えた。持つ者の余裕か風を切って現れた。

 あれは敵だ。

 元男としてナイスなおっぱいに恨みは無いが、現幼女としては許せん。

 見ろ、あの重武装を。

 量産型の演算宝珠と無線機、観測機材を装備した私と大違いだ。

 きっと奴はビッチな雌犬だ。女の体を武器に良い待遇を受けているんだ。

 

 巨乳死すべし。

 

「ピクシー04より23a、敵魔導師、中隊規模、急速接近中」

 

 さっそく御注進してやった。

 

『23a了解、ちょっと待て』

 

 そうしたら、友軍魔導小隊が10分で来てくれるから時間を稼げと言われた。

 中隊相手に幼女一人でってマジでか。児童虐待で訴えれるレベルだ。

 なぜこうなった?

 

「お、おぅ……ピクシー04了解」

 

 しかし私は士官としての習慣から了承の返事を返した。

 

『幸運を祈る』

 

 祈るだけならただだ。逃げれば敵前逃亡扱いだろう。

 戦うしかない。おお、神よ──って違う。思わず忌々しい存在Xに祈りかけた。

 ああ、テンションが下がって来る。職業軍人の責務を考えたら、転職するには遅い。

 

「おうちにかえりたい。ぱぱ、まま……こわいよ……」

 

『ピクシー04!?』

 

 いたいけな幼女の台詞を演じてみると、無線から焦った声が聴こえてきた。

 聞かれてた!

 

「何でもない」

 

 うわ、恥ずかしい!

 これも奴等のせいだ。畜生め。

 この怒りをぶつけるだけだ。

 パンが無ければケーキを食べれば良い。武器が無ければ奪うか拾えば良い。

 ここは戦場だ。頭を働かせなければ死ぬ。

 

 じっくり、がっつりと包囲をして来る敵魔導師の相手に、滴る汗を拭いながら空中機動する。敵も魔導師、数こそ少ないが協商連合の精鋭だ。敵の目的は味方砲兵の排除だろう。そして私は、敵の行動を邪魔する位置に居た。

 

 敵を誘惑するほど私が魅力的ってか?

 

 撃ってきた。アウストリア人の持ち込んだ7.7mmの弾だ。

 

「くくくっ」

 

 初戦を逆境で飾るとはこれも糞ったれな存在Xの仕業だろうか。相手の手のひらで踊ってやるつもりはない。

 

「甘いわ!」

 

 ひょろひょろ弾など効かん。魔導師は頑丈なのだああああっ!

 

 私は受けるより攻める方が好みなんだ。魔法式の多重起動が不可能なら、防御より攻撃重視にした。我の敢闘精神に不足なし!

 守りを捨てて得られる高機動、零戦と同じだ。

 この世は殺すか殺されるかだ。

 

 軍人としての将来と評価は、戦場で何を成したかで決まる。上の判断が時間稼ぎの遅滞行動なら、身を呈して稼ぐ事が私の役目。死なない程度に頑張る。

 

 ふふん、着いて来い、着いて来い。

 攻撃術式を展開しながら敵を誘うと、爆裂干渉式を撃ってきた。回避すると、弾道の先に居たのは回り込んだ敵だ。友軍誤射を誘発してやった。

 

 まずは1つ。兵力の差を活かせぬまま死んでゆけ!

 飛び散る血液が見えた。死ぬには良い日だったろ? 

 

 敵に動揺が見えた。勝ったな。

 この勢いで2つ目を落としにかかる。魔導刃と軍用シャベルを両手に持って敵に向かう。

 魔導刃に敵の意識が向いている間に、シャベルで首をぶった切る。ざっくりと手応えを感じた。

 きっと今夜は筋肉痛かも。

 

 3つ目、反転して追撃して来ていた敵に向かう。ACE COMBATでドッグファイトの基礎は学んでいる。空戦機動とは結局、相手のケツ穴に此方の得物を叩き込めば勝ちだ。

 

 ボディタッチは親愛の表現の一つでもありますが、この場合は違う。

 魔導刃をケツに突き刺してやった。叫び声をあげて落ちていく敵の姿が見えた。あいつは間違いなく戦闘行動不能だろう。

 くくく、勝利とは格別な味わいだ。子宮が疼く──って、尿意だ。空中戦は体が冷える。うん、さっそく戦訓を伝えて、尿漏れ対策でオムツの配布を軍に提案すべきだ。

 

 気持ち良く戦っていたが、敵は距離を取って火力により此方の動きを封じようとして来た。

 これは不味い。

 

 何とか4つ目を落とした所で私も行動不能に成った。

 くそ、くそっ!

 

 

 

 その後、敵に落とされた私は友軍に無事、収容された。

 

 

 

 知ってますか、現代医学に魔導医療が組合わさると、死に体でも完全蘇生するそうです。

 魔導医療万歳! って感じでしょうか。

 

「良かったねおちびちゃん。すぐに前線復帰出来るよ」

 

「はい先生、有難うございます」

 

 軍医殿の献身的な治療によって前線復帰が叶った。

 人としてお礼を言いましたが、内心は別です。

 

 もっとゆっくりしたかった。

 

 そのまま退役か後方勤務が望みなのですが……。人生、上手く行かないな。

 私の体はまだ発育中、つまりまだまだ魔力も戦技も進化すると言う事だ。

 こんな所で殺られはしない。それは素晴らしい事だけど、やっぱり疲れます。

 

 さて、負傷までして得た成果ですが、権力と利益と言う形で労いを受けました。

 

 幼女なのに敢闘精神で戦った。あんたは偉いよ。帝国軍魔導士官の誉である、云々と言う事で銀翼突撃章を受領しました。銀翼とか聞くとガンパレみたいで、すごいダサいです。

 恩給とか付くのかな?

 なんでもこの勲章、死んだ人が貰ってるそうで、私が野戦病院のベッドでお世話になってる間に授与が決まったそうです。

 過去に貰った人は死んでるし縁起悪……。

 

 

 

 

 天国に近いノルトラント。

 帝国軍北方方面軍司令部は魔導師を直轄部隊として集中運用していた。戦場の火消しだ。

 第17混成魔道襲撃大隊である。

 

 こんにちわ、ターニャ・デグレチャフ魔道少尉です。

 この前の戦傷が癒えると同大隊の第205強襲魔導中隊に、補充要員の第3小隊長として配属されました。

 

 そしてその間も戦況は刻々と変化をしています!

 

 ノルデン戦区で協商連合軍に抵抗していた味方の戦線が、管理局次元航行部隊のL級次元航行艦船による支援を受けた協商連合軍によって一部突破を許してしまった。軍司令部は崩れた戦線を再編成すべく我々の投入を決定した。

 

「敵兵力は歩兵3個大隊基幹で砲兵を伴っている。制空権は我々が確保しているが、手間取れば友軍に被害が出る。速やかな排除が求められるぞ」

 

 中隊長イーレン・シュワルコフ中尉から彼我の状況説明を受けた。うちの中隊は元々、第7強襲挺団が原隊だ。混成って言うぐらいだから臨時集成で編成されたらしい。

 

「今回は管理局も相手だ。デグレチャフ少尉、銀翼突撃章叙勲者の腕前、期待してるぞ」

 

 あはははは、やったね。タフな殺し屋と思われている。

 

 本当、泣きたい。

 

「はぁ……」

 

 次元航行艦の搭載する魔導砲は砲兵の火力を凌駕する。敵の空戦魔導師は意外とそれほどの数は揃っていない。ほとんどが陸戦魔導師だ。これなら私達も何とか戦えるかもしれない。

 

 第3小隊は私を含めて4名。全員が他所から補充で送られて来たばかりで、出来立てほやほやの小隊だった。だから部下とのコミュニケーションは大切です。

 部下は幼年学校の基礎課程を修了したばかりの新兵で、下の毛も生えているのか分からない小わっぱどもです。

 クルスト・フォン・バルホルフ、ハラルド・フォン・ヴィストの両名はユンカーの家系に相応しく志願兵だ。やる気に満ちており頼もしい。

 一方、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ。こいつは駄目だ。徴兵義務で来ただけ、やる気も覇気も無い。精々、足だけは引っ張ってくれるなと思った。

 

「小隊長殿、管理局の魔導師は手強いと聞いていますが」

 

 クルスト伍長が質問してきた。

 分からない事を分からないと訊ける事は大切だ。不安なまま抱え込むより相談すると言う勇気を持っている。

 

「心配するな。管理局のくそったれどもには私のパブリチェンコを味わわせてやる」

 

「パブリチェンコ、ですか?」

 

 困惑の表情を浮かべていた。ああ、そうか。紹介をしてなかったな。

 

「クルスト、まさか幼年学校では自分の相棒である銃に名前を付ける事を教えてないのか」

 

 3人が顔を見合わせて頷いた。

 

「それはいかんな、銃は相棒だ。愛情を以て接してやれば答えてくれる」

 

 すぐに付けてやれと命令した。

 うんうん悩んでいた新兵諸君だが、クルストはアリエル、ハラルドはベレニス、セレブリャコーフ伍長はオレイユと名付けていた。

 

「では諸君、相棒の名前が決まった所で楽しいピクニックだ。訓練飛行と行こうでは無いか」

 

 新兵である小隊は無様な結果は出せないと意気込んでいた。

 

 我々の正面に展開するのは協商連合軍第6師団。開戦以来、消耗しているが、その分の補充や増援を受けており錬度も高い。そこから抽出された部隊だから装備と士気も活きの良い連中だろう。

 まともにぶつかり合うには厄介な相手だから、さくっと撃破したら離脱するだけ。対地攻撃の支援任務はまともな防空網が無ければお遊び同然だ。

 クルストとハラルド、私とセレブリャコーフそれぞれロッテを組むと出撃した。小隊のシュヴァルムは目標上空で各々のロッテに分かれて目標を叩く計画だ。

 

 問題は駆けつけてくるであろう管理局の魔導師だ。

 戦争で兵力は大事だが、兵力だけでは戦争には勝てない。前世でもローデシア軍の越境作戦だって南アフリカの協力があった。戦いは火力だと教えてくれている。

 つまり敵のインテリジェンスデバイスは中々、厄介だと言う事だ。

 通常は非殺傷設定と言う自ら制限をかけているそうだが、管理外世界と言う事で解除されている。当たれば此方もただでは済まない威力だ。

 任務としては単純だが気を抜けない。

 

 私達が向かったのは敵の進撃経路にある橋梁だった。敵の大隊はここを経由して補給を受けている。

 

「報告より敵の防備は硬いな」

 

 橋の付近には高射砲、機関銃等が配備されていた。この突出部を起点に攻勢に転じる積もりだ。

 そう言う意味でも橋は重要だ。だから管理局も出張って来ていると言えた。

 補給を絶てば前線の敵は干上がる。ここで軽く任務をこなし帝国の魔導師が飾りではない事を敵や味方にも知らしめてやる。

 

「セレブリャコーフ伍長、訓練と同じだ。術式を展開しろ」

「は、はい」

 

 明瞭な返事を返さないと、こいつは使えるのかと不安を感じてしまう。

 だけど、どんなカスだろうと屑だろうと使いこなす事が上官の責務だ。

 爆裂術式を展開し最初に対空陣地を吹き飛ばす。続いて橋の上に居た敵の車列を叩いた。

 積み荷が弾薬で、誘爆して橋が破壊できるなんてご都合主義は無い。

 爆発の轟音と硝煙の香りが心地良い。

 

「小隊長!」

 

 代わりに敵の歓迎委員がやって来た。

 無慈悲で圧倒的な力を持った管理局の魔導師だ。

 敵にしてみれば、帝国軍が攻勢に転じ対応に苦慮する中で放った反撃の矢だ。早急に我々を排除しなければ、その矢も効果を発揮する前に落ちてしまう。


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