協商連合は元々、少数の魔導師を試験的に運用している程度の戦力しか無く、この戦線で脅威となるのは管理局の魔導師だけだ。
帝国軍は優秀かつ勇猛な魔導師を育て上げている。
兵科として独立した教育が出来るだけの下地が、魔導師の供給を支えている。
ただし無尽蔵では無い。人的資源は限られている。そして神ならぬ人の身で魔力の容量も限られている。
それは管理局も同じだろう。
だから管理局の魔導師は確実に落とさねば成らない。
『来たぞ!』管制官から諸々、飛ばした簡潔な言葉で告げられた。
戦場に身を置くと言う事は、要するに殺し、殺される覚悟を持つ事だ。
理想論や正義感を振りかざすのは良い。それぞれの正義や信念がある。だが戦場で足を引っ張っては意味が無い。
私は自分の手を汚す事に躊躇はしない事を心がけている。部下にも同等の判断力を求めたい。
何故なら、きっちりと割り切れない者から早死にするからだ。
しかしセレブリャコーフはどうだろうか?
将校は前線向きとデスクワーク向きの二種類に分けられる。職業軍人と違う徴兵された兵士ならば事情に関係無く戦場に放り込まれる。兵士止まりな思考で将校は出来ない。
だからセレブリャコーフには、敵を殺す事に慣れて貰わないといけない。
手を抜いて死ぬのが彼女だけなら自己責任だが、部下や仲間を巻き込む事だけは断じて許せない。
無能は無能なりに使い道はあるが私の部下は無駄死にはさせない。
戦争は効率的な殺人行為の積み重ねを言う。殺しの技術を伝授する人材育成は、一見、無駄に思える事の積み重ねが意味を成す。人材育成は初期投資が必要だし、一人前に成るまでは様子見も当然だ。即戦力として人材が揃うなんて事は無理だ。未経験者に経験を積ませてこそ戦場が見極められると言えよう。
殺しをルーチンワークと割り切れる様に成れば、戦場に適応して軍隊生活を楽しめるだろう。
敵の魔導を感知していた。敵魔導師は5人。
管理局の魔導師は空中機動を得意とする空戦魔導師と陸戦魔導師に分けられるらしい。言ってみれば私達も空戦魔導師の分類に入る。
敵地上軍の進攻を支援する管理局魔導師は陸戦魔導師だった。
空戦魔導師よりはやりやすい敵だ。新米に相応しい相手だと思った。
視点変更:とある管理局の魔導師
童貞は30歳を越えると魔法が使える。そして俺も魔法使いに成った。
「君を管理局にスカウトしたい」そう言われた。誰だよおっさん。
拉致同然に連れていかれ検査を受けた結果、魔力量こそ多いが俺には魔導師の適正が低かった。
結局、陸曹として採用され事務職となった。
時空管理局本局会計課から地上本部に派遣されそれなりに働いていると、古代遺物管理部機動六課に移動となった。
「梨本太一と言います。宜しくお願いします」
この部隊が出動すると巻き添えで様々な人を殺傷し物を壊した。
「曹長、被害額がヤバイ事に成ってますけど」
経理を担当するリインフォース空曹長は部隊長の八神はやて二等陸佐に作られた人格型ユニゾンデバイスだ。当然、八神2佐の利益を優先して行動する。
「そこを何とかするのが太一さんのお仕事です」
揉み消せる次元では無い。重傷者への補償もあった。
仲良しこよしで問題は表面化する前に火消しする。本来なら処罰される不祥事もお友達で固めた馴れ合いで済ませてしまう。被害者の救済もせずに良心の呵責を感じない連中が俺には理解出来無かった。
「マジですか」
「マジです」
予算は足りない。しかし隊員の施設や現品給与の食事、消耗品は潤沢に支給されている。
交際費も多かった。様々な手当てによる高給も彼女達の活躍では当然と受け止められていた。
しかし都市部での市街戦は大きな破壊をもたらしていた。被害者の数も多い。
企業の粉飾決算何て可愛い物だ。機動六課は中国共産党並みに死傷者を隠蔽し、莫大な交際費や手当てと言う形で公金を横領していた。
「機動六課は予算を他所から横領しています。それに聖王教会から多額の寄付も受け取っております」
事実に愕然とした。証拠を集めて人事に告発したが握り潰された。
「あんな梨本2曹、言いたく無いけど、良い子ぶって告げ口見たいな事は止めてくれへんかな? 横領って言うけど、私的に使ってる訳とちゃうで」
上司から叱責を受けた。
「しかし、予算は決められた範囲で仕事をすべきなのでは無いでしょうか」
「そんなん知らんわ。犯罪者どもが暴れるから、事件は起きるんやで。ほっといたらええって言うんか?」
「それは……」
「あかんやろ? だったら波風たてずに大人しくしとき。悪い様にはせえへんから」
俺にはどうする事も出来無かった。仲間からの受けも悪くなった。
「こそこそと嗅ぎ回って本局の薄汚い鼠ですね」
「裏切り者は捨てられるんだよ。分かるよね?」
「なのはやはやてを傷付けた貴方を許さない」
部隊で俺は孤立した。隊長陣から殺意さえ向けられている事も感じ取った。
「貴女達の正義って何ですか。真実を揉み消す事ですか?」
「太一、あんたもうちょっと賢い思ってたけど残念や。安心して死んでええから。任務中、不慮の死で二階級特進。そう言う事にしたるわ」
デバイスを向けられた。命からがら逃げ延びた俺はレジアス中将に保護を求めた。しかしレジアス中将は犬猿の仲を演じていただけだった。出来レースの管理された冷戦構造だ。
同じ穴の貉であり戦場に送られた。この世界に。
視点回帰:デグレチャフ
敵の魔導師は地を這うようにやって来る。のろいな。のろすぎる。
成る程、魔導師とはいえ陸戦魔導師は飛行能力が低いな。軽く跳躍に利用して移動してるだけだ。これなら楽勝だろう。
我々は上から下を叩く位置にあった。最良の位置であるが、同時に自分の位置を暴露しており落ち着かない。
空から降りる時は、しばしば小便を漏らしそうな気持ちになる。ヒヤッとするあれだ。たまに少しちびってしまう時もあるが、戦闘の恐怖で大を漏らすよりはましだろう。ミート・チョッパーで知られると対空機関銃の歓迎は最悪だ。あれは注意力をガンガン削ってくれる。空で注意力を失えば墜ちるだけだ。だから教育機関で実弾訓練による洗礼を行う事は意義がある。
まあ、実戦に勝る訓練は存在しないと言うが、それは正しい。演算宝珠が魔導師にとって命にも等しい物だと認識する。
「セレブリャコーフ、やれるな?」
「はい」
敵の陣形に注目する。前衛が2、中央は指揮官か? その後方に2。連中のパターンだと、その内、一人は長距離支援射撃を行うはずだ。
私はセレブリャコーフの取り零しを狙う。
地を這う者に遅れはとらん。
それに向かって来るのは人類の敵だ。あらゆる感傷を捨てて征途に赴かねばならない。
支配者気取りの管理局に搾取されるよりは祖国の為に戦って死ぬ方が精神衛生上も健全だ。
大局的に見て管理局の本拠地が分かるなら、移動手段があるなら、核や化学兵器、生物兵器も使ってでも叩いている。それが分からない今は敵の尖兵を撃破する事だ。
陸戦魔導師とはいえ敵も魔導師、デバイスと言う高性能の武器に恵まれている。
しかし我らは退かぬ。強敵であっても戦うだけだ。魔導士官とはそう言う物なのだ。
演算宝珠の機能も有するデバイス。あれを使うか量産する事が出来れば戦争に勝つ事が出来るだろう。しかし、オーバーテクノロジーは解析には行かない。
ヒヨコを崖から落として飛行制御を教える様な物だ。習熟する前に死んでしまう。
新兵器の登場は期待しない。一昼一夜で出来る事では無いからだ。
私としてはセレブリャコーフの敢闘精神にそれほど期待はしていない。残りの部下も駆けつける。まずは一撃を入れて敵の動きを見て、私が加わるか考えたい。
新米に経験を積ませて育てる事は祖国の勝利に、そして私の順風満帆な生活に繋がる。それは、結婚をして子供を生むかはともかく、五体満足に退役する事も不可能ではないだろう。
地上では混乱から回復していないのか、反撃も散発的で組織立って居なかった。
これが罠なら見事な偽装だが、混乱は本物だろう。敵の魔導師は支援無しで向かってくるしかない。それは此方も望む所だ。同じ条件で戦える。
戦争とはなるべく敵に苦労させて負けさせる事にある。その条件を満たしつつあった。