ポケモン世界に転生したので好き勝手に生きてみる 作:にわか党
「それで、何処へ行きますの?」
隣を歩くカトリーナさんがそわそわした様子で聞いてくる。
「先ずはショッピングストリートを見て回ろうと思っているんですけど、良いですか?」
「私はそれで宜しくてよ。元々、ジム戦が終わったら行こうと考えてましたし。でも、荷物になりませんかしら?」
「ああ、それは大丈夫ですよ」
後ろに控えていたガンタが、ズイッと前に出る。
『私ガ、オリマスノデ、例エ、等身大ガビゴン、ヌイグルミ、ヲ、御買イニ、ナッテモ、問題アリマセン』
安定の自信過剰。
「そんな大きな物があるかは疑問ですが、確かぬいぐるみの専門店はこの先にありましーー」
「そこまでシローがぬいぐるみが好きなら仕方無いですわね! 私は別に興味ありませんけど付き合って差し上げますわ! さあ、行きましょう!」
好きなんてまだ一言も言ってないんですけどねー。
取り敢えず、カトリーナさんはヌイグルミ好きと心のメモに記しておきましょ。
少し歩いた場所にあったファンシーな感じの店にガーディをモンスターボールに戻してから入り、商品を見る。
ぬいぐるみの専門店だけあって店内は一面ぬいぐるみだらけ。
更に、ここのぬいぐるみは天然素材に拘った物で人気が高く、客層は若い女性が非常に多かった。
行きつけにしたいくらいですわ。
「…可愛い」
うっとりした表情で綺麗に並べられたぬいぐるみを見るカトリーナさんがぼそっと呟いた。
それを見てにやけそうになる俺は間違っていない絶対に。
食い気味に見て回るカトリーナさんの後を追って俺達もぬいぐるみを見ていく。
様々なポケモンのぬいぐるみがあり、大きさも抱えられない様な物から掌サイズの物までバリエーションも豊富。
店に入ってから寝ているチルットとは違い、ヒマナッツとラルトスも楽しそうです。
「すいません、ちょっと良いですか?」
後ろから肩を叩かれて声のした方を振り向くと、そこには店員さんらしき女性がいた。
「あ、もしかして店の前にロボット停めたのまずかったですか?」
「い、いえ、それはびっくりしましたけど大丈夫です。実はお客様のその素敵な帽子はどこの商品か聞きたくて声を掛けたんです」
ガンタさんじゃなかったです、すいません。
「ああ、そういう事でしたか。残念ながら帽子じゃなくて本物なんです」
「えっ!?」
やだ、店員さんが大きい声出すから視線が痛い。
それでも起きないチルットは逆に尊敬しますわ。
「も、申し訳ありません。あまりにも自然に乗っていたので帽子なのかと」
まあ、俺も何だか乗せてるのが早くも違和感無くなってますし。
「全然気にしてませんよ」
「本当に申し訳ありませんでした。それで話は変わるんですが、もし宜しければ商品の参考にしたいので写真を撮らせて頂きたいんですけど…」
何ていうか、商魂逞しいですな。
「構いませんよ」
「ありがとう御座います!」
身に付けていたエプロンのポケットからカメラを出した店員さんにシャッターを切られまくった。
目がマジ過ぎてちょっと怖いんですが。
「…随分と楽しそうですわね」
怒気を多分に含んだカトリーナさんの声が背後から聞こえた。
あの店員さんの目を見て楽しそうだと思えるんですか。
「あ、すいません、デート中でしたか。宜しければ彼女さんも一緒の写真も撮りましょうか?」
「か、彼女じゃありませんわ!」
そんなに否定しなくても良くないですか。
「では、写真の御礼に、恋人同士のお客様限定商品のラブカスキーホルダーをどうぞ」
照れ隠しと解釈した店員さんがカメラを出した逆のポケットからラブカスのぬいぐるみが付いたキーホルダーを差し出す。
もちろん、俺は貰います。
「はい、カトリーナさんの分です」
「え、あ、可愛い…じゃなくて!」
「まあまあ。貰えるんだからいいじゃないですかー」
タダは嬉しいですよね。
「美男美女でお似合いのカップルですね!」
店員さんは何故か煽ってから去っていく。
それからカトリーナさんの機嫌が直るのに数分掛かり、俺がここでぬいぐるみを一つプレゼントするという事で落ち着いた。
「こちらのキバゴも可愛いですし、でも、こちらのフカマルも…」
既にぬいぐるみ好きを隠す気が無いんですね。
口を出したり出来ない雰囲気なので俺はヒマナッツとラルトスとぬいぐるみをまた見ています。
「ヒマナッツとラルトスのぬいぐるみもありますねー」
「ヒマヒマ!」
「ラッル!」
あなた達の方が何億倍も可愛いですよ。
それにしても、全部のポケモンがいるんじゃないかと思う程、種類が多い。
割と広い店内なのに敷き詰められた様に並べられたぬいぐるみから一つを選ぶのにどれだけ掛かるんですかねー。
「ヒマー?」
ヒマナッツがヌメラのぬいぐるみの前で首を傾げた。
「それはヌメラですよ。可愛いですねー」
ヒマナッツと同じ丸いフォルムが堪りませんわー。
こうしてぬいぐるみを見ていると本物をゲットしたくなりますな。
そんな事を考えていた時、カトリーナさんの方から視線を感じた。
「選び終わったんですか?」
「いえ、それはまだですけど…シローはヌメラが好きなんですの?」
「ええ、丸くて可愛いですよね」
俺は基本的にポケモン全てを愛していますが。
「…そうですわね」
カトリーナさんが笑った。
それは怒っている事が多いイメージを吹き飛ばす様な優しさに溢れた笑顔だった。
直ぐにぬいぐるみ選びに戻ってしまったので一瞬ではあったが、俺の脳内にしっかりと永久保存しておきます。
それからかなりの時間が経ってやっとプレゼントするぬいぐるみが決まった。
女性の買い物って長い…。
「これくらいで女性の御機嫌を取れると思わないで下さいね」
チゴラスのぬいぐるみが入った袋を大事そうに抱えて言うセリフじゃないと思いますよ。
でも、ツンツンした女性は嫌いじゃないのでご馳走様です。
「すっかりお昼時になってしまいましたわね」
俺もまさか店を一軒見ただけで午前中が潰れるとは思いませんでした。
「ランチの準備も万全ですよ」
「そう、何処のお店かしら?」
「付いて来て頂ければ分かります」
「サプライズという事ですのね」
カトリーナさんが抱えていた袋をガンタに預け、俺の隣を歩く。
時々、他愛ない話を挟みつつ進んだ先は海とヒヨクシティを見渡せる位置にあるしずかな丘。
「シロー、この辺りにはお店なんてなかったと思いますけど?」
「ええ、店はありませんよ。ですが、ここに世界一のシェフはいます」
一瞬にしてガンタが日差し除けパラソル、テーブル、椅子を展開した。
あれかな、モンスターボールにでも入れてるのかな?
「…私の荷物を預けた時も思いましたけど、あれは何処から出てきますの?」
俺にも分かりません。
まさに神のみぞ知るですな。
訝しむカトリーナさんを適当に誤魔化し、今日も今日とてヒマナッツのあまいかおりで野生のポケモンを呼ぶ。
寄って来たのは、ナゾノクサ、ハネッコが三匹ずつにフラベベとミノムッチが一匹ずつだった。
「シローの意図が分かりましたわ」
モンスターボールを取り出して何やらカトリーナさんが勝手に納得した様子。
「つまり、ランチタイムの前にバトルでお腹を空かせーー」
「違います」
薄い桃色の髪にチョップを落とし、空かさず止めに入った。
なんでこの人はこんなに脳筋なの?
来てくれたポケモン達が怯えない様に笑顔でポケモンフーズを配っていく。
「御飯をあげるだけならそうと言って下されば私だって…」
早々にバトルを仕掛けるとは俺も予想外でしたよ。
「カトリーナさんのポケモン達の分もありますので宜しければ」
「御言葉に甘えますわ」
さっき取り出した物と合わせて四つのモンスターボールからポケモンが出てくる。
前に見せてもらったオノンドを始め、コモルーとハクリュー、ヌメルゴンとドラゴンタイプばかりのラインナップ。
「メルゴーン」
「あ、ちょっと、こら!」
出て来て直ぐ、ヌメルゴンがカトリーナさんに抱き付き、露出していた肩や頬擦りしている顔がヌメルゴンの粘液でヌメヌメになる。
何て素晴らしい光景…。
「ありがとう御座いますっ」
「何故、綺麗にお辞儀をしていますの!?」
失敬、身体が自然に動いてしまいました。
ガンタが持ってきたポケモンフーズでやっとヌメルゴンから解放されたカトリーナさんは粘液塗れ。
しかし、心配は御無用。
瞬きする間にガンタが元通りにしましたよ。
もう少し見ていたかった…。
「ヌメルゴンはカトリーナさんが大好きなんですねー」
テーブルに用意されたお洒落なパンケーキを食べながらヌメルゴンを見る。
可愛い上に良い仕事をするとは、やりおる。
「ところ構わず抱き付く困った子ですわ。それにしても、美味しいですわね」
上品に食べながらも、その食べるスピードは早い。
お気に召した様で何より。
「シローは毎日こんな美味しい物を食べていますの?」
「ええ、ガンタのおかげで」
「それで何故、太らないんです…」
パンケーキを口に運ぶカトリーナさんから睨まれる。
朝はやたら激しい運動してますからねー。
「シローは乙女の敵ですわ」
敵認定されました。
「ご馳走様。とても美味しいランチでしたわ」
『光栄デス』
カトリーナさんの食べるペースに合わせていた俺も食べ終わり、ガンタが皿を下げて紅茶を出してくれた。
いつ飲んでも美味しいガンタクォリティ。
ポケモンフーズを食べ終わったポケモン達には俺が作ったポフレが出される。
「チルルー」
「ノーンド」
頭上のチルットと隣に寄って来たオノンドにポフレを食べさせてあげると、嬉しそうに鳴いてくれた。
オノンドさんお持ち帰りしたいんですけど。
ヒマナッツとラルトスはモンスターボールから出したガーディや他のポケモン達と仲良く食べている。
「メルゴーン!」
テーブルの隣で地面に座っていたヌメルゴンがポフレを食べて目を輝かせる。
そんなヌメルゴンを撫でてぬいぐるみの店で見せた優しい笑みをカトリーナさんが浮かべた。
「そういえば、シローは何をしている方なのかしら。失礼ながら私、シローは何処かの御曹司なのだと思って調べましたけど全く分かりませんでした」
思い出した様にヌメルゴンから視線をこっちに移し、問い詰められる。
「ただの放蕩者ですよ」
「そうやってはぐらかすところが怪しいですわね」
全然はぐらかしてないんですけどね。
ムキになった様子で追求してくる。
「では、御両親は何をなさっている方ですの?」
両親ですかー。
前の世界の両親は記憶から消されてますし、それに今はもう別人ですしね。
「両親はいないと言いますか、敢えて言うなら神様ですかねー」
うん、間違ってはいないはず。
しかし、聞いてきた本人は地雷を踏んだ様な表情になっていた。
「あ、あの、私そんなつもりでは…」
「気にしてませんから大丈夫ですよ」
わたわたと慌てるカトリーナさんに出来るだけ気にしてない風を装って笑って見せる。
完全に勘違いしてますし。
「カトリーナさんは何故ジム巡りを?」
気まずい雰囲気になりそうだったので、今度は俺から切り出した。
「それは当然、バトルが好きだからですわ」
「随分とストレートな理由ですね」
「失敬な。これでも昔はバトルがあまり好きではなかったですのよ?」
それは意外。
「何かバトルを好きなった出来事でも?」
「そうですわね。きっかけはこの子かしら」
カトリーナさんがポフレを食べているヌメルゴンをまた優しく撫でた。
「十歳の誕生日プレゼントに初めてのポケモンとして頂いたのがヌメラだったこの子ですの。私はドラゴンタイプのヌメラが大好きでしたから」
やっぱりドラゴンタイプ好きなんですね。
「その日から私はヌメラと毎日のように遊びましたわ。でも、ある日街で他のトレーナーに言われましたの。そんな弱いポケモンしか持ってないなんてトレーナー辞めた方がいい、と」
「酷い事言いますねー」
ポケモンの価値は強い弱いではなく、存在そのものでしょーに。
「その時は私をどう言おうがどうでも良かったんです。ただヌメラを馬鹿にした態度が許せませんでした。直ぐに謝罪を求めましたら、バトルで勝てたらという事になりましたので私は当然それを受けましたわ」
「勝てたんですか?」
「いいえ、バトルの事など何も知らなかった私はなす術なく負けてしまいましたわ」
ヌメルゴンを撫でながら遠い水平線を見るカトリーナさんは、恐らくその時の事を思い出しているのだと思った。
「大切なパートナーを馬鹿にされても何も出来なかった自分が情けなくて、その日から必死にバトルの事を学び、ヌメラと特訓を重ね、一月後にはヌメラを馬鹿にしたトレーナーをボコボコに出来ましたの」
ボコボコて…。
「そのバトルの後にヌメラがヌメイルに進化した時は本当に嬉しかったですわ。あの感動が忘れなくて今ではすっかりバトルが好きになったという訳ですの」
「素敵な理由ですね」
俺もウチの子達の誰かが進化したらバトル好きになるかもしれませんな。
「ですから、先程のお店でシローがヌメラを可愛いと言ってくれた時はとても嬉しくなりましたわ」
ここではにかむのは反則です。
それからポケモン達がポフレを食べ終わるまでカトリーナさんとの談笑が続いた。