ポケモン世界に転生したので好き勝手に生きてみる   作:にわか党

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視点が変わります。
 


0036

 

 アタシが生まれてから17年育った村は少し変わったところだった。

 水の民と呼ばれる一族の末裔で遥か昔から1つの宝玉を代々守って来たらしい。

 子供の頃から聞かされる昔話は神様や初代巫女様の伝説で、アタシはオバァが話してくれるそれを聞くのが大好きだった。

 代々の巫女は村で最強のポケモントレーナーがなれる。

 そして、初代巫女様の予言ではアタシの代で使徒様が現れると知ったアタシは幼い頃から誰よりも強いトレーナーになろうと必死にトレーニングをした。

 元々、ポケモンと触れ合うのが好きだったし、アタシ達水の民はみずタイプのポケモンと心を通わせ易い性質を持っていたからみずポケモンを中心に育てていった。

 年が経つにつれアタシはトレーナーとしての技量を上げていき、いつしか村でアタシに勝てる奴はいなくなっていた。

 到頭、ずっと目指していた巫女になれたんだ。

 それからも1日も無駄にする事なくトレーニングに明け暮れた。

 全ては使徒様が現れた際に行われるバトルに全力で挑む為に。

 神様に連なる者とのバトルだ。

 アタシが出来る最高のバトルで勝ちたいと思った。

 それはきっと凄い事で価値あるアタシの生きた証になる。

 ポケモン達もきっと喜んでくれる。

 

「遂にこの日が来たねぇ」

 

 使徒様が現れる予言の日、オバァと予告状と書かれたカードを見ながら向かい合っていた。

 

「緊張しているねぇ」

 

「……してねぇよ」

 

「海を見てくるといいさぁ、海はいつも変わらず私達を見守っていて下さる。バトルには海のような広く水のような静かな心が必要さぁ」

 

 オバァの言葉に従ってアタシは近くの海に行った。

 海岸を歩きながら海を見ていると強張っていた筈の心が溶けていくようだった。

 流石は先代巫女、オバァの言った通り海を見に来て良かった。

 これでアタシの全てをぶつけられる。

 そろそろ戻って最後の調整をしようと思った時だった。

 

「ラプラスだー!」

 

「可愛いー!」

 

「フィーン!」

 

 そんな子供の声に視線を向けるとまだ子供の小さなラプラスが泳いでいるのが見えた。

 この辺りにラプラスは生息していない。

 誰かのポケモンだろう。

 その予想は当たった。

 ラプラスのトレーナーはアタシと同じくらいの歳で灰色の髪をした優男。

 見ているとそいつはポケモンを餌に子供の母親をナンパしてヘラヘラしているクソ野郎だった。

 アタシの一番嫌いなタイプだ。

 だけど、そいつに向けられるポケモン達の信頼は信じられないほどに強いのがアタシには分かった。

 何でこんな奴に。

 そう思うと余計にイラついた。

 そいつはラプラスを見ていたアタシにも気付き声を掛けて来た。

 

「宜しければラプラスを撫でてみますか?」

 

 その整った顔に余程拳をめり込ませてやろうかと思った。

 アタシはそいつは無視する事にしてラプラスに手を触れた。

 素直で愛くるしいラプラスにクソ野郎の事なんて忘れるくらいに落ち着いた気持ちになれた。

 ただラプラスに触れた事でこの子があの男を好きな気持ちも同時に伝わって来た。

 本当はそんなに悪い奴じゃないのか?

 

「そろそろウチの者が戻ってくる頃なので一緒にお茶でもどうですか?」

 

 やっぱり唯の軟派なクソ野郎だった。

 

「アタシはお前みたいな軟派な奴が嫌いだ」

 

 チッ、せっかく海を見て良い気分になれたのが台無しだ。

 ついてねぇ。

 もう一度海を見て周り気を落ち着けてから戻った。

 村の外れにある洞窟は宝玉の隠し場所である祠があり、同時に修練場所にもなっている。

 いつものようにそこへ向かいモンスターボールからポケモンを出した。

 

「グラージ!」

 

 ラグラージ。

 アタシの最初のポケモン。

 ミズゴロウの時からずっと一緒に育って来た大事なパートナー。

 

「いよいよ今日だ。大丈夫、お前ならきっと勝てる」

 

「グラァ!」

 

 気合いは充分。

 コンディションも文句無しに最高だ。

 大丈夫、勝てる。

 アタシはラグラージと調整をしながら何度も自分に言い聞かせた。

 そして、彗星が現れる夜。

 運命の時が来た。

 洞窟の陰でオバァと待っていると空から使徒様は舞い降りた。

 一点の曇りもない純白の衣装を見に纏い、機械仕掛けの供を引き連れて。

 

「何とも神秘的な場所ですねーーーーあなた達もそう思いませんか?」

 

 この暗い中で気配を消していたアタシ達に気付いていた。

 流石、神様の使徒。

 只者じゃねぇ。

 単純に嬉しかった。

 これまでにない凄いバトルが出来る。

 そう思うと不思議と心が高鳴った、筈だった。

 

「昼間は名乗れませんでしたが、シローといいます」

 

 使徒様の正体は昼間に会ったあの軟派なクソ野郎だった。

 こんな奴が初代から代々巫女達が、一族が待っていた使徒だと?

 巫山戯んな!

 アタシが待ってたのはこんな奴じゃない!

 渡さねぇ。

 巫女達が、オバァが守って来た宝玉は絶対に渡して堪るか。

 乱れた気持ちを落ち着けてバトルに集中する。

 そうだ、こいつに勝ってこれまで通りアタシ達が宝玉を守っていけばいい。

 アタシはこんな奴に負けねぇ。

 だが、あいつが出したヒンバスを見て良く育てられているのは分かった。

 油断なく、アタシは勝つ事だけを考えた。

 

『使用ポケモン、ハ、一体。何方カノ、ポケモン、ガ、戦闘不能ニ、ナッタ時点デ、バトル終了トシマス。デハ、バトル開始』

 

 バトルが始まりアタシは攻めた。

 これまでの経験からラグラージのキレは最高だったと偽りなく言える。

 それでも躱される。

 どれだけ追い詰めてもあいつはヘラヘラした表情を変える事も無く冷静に指示を出し、ヒンバスもそれに全力で応えていた。

 強い絆。

 それを証明するようにヒンバスはギリギリの局面で進化した。

 守り、躱し、反撃し、最初に追い詰めていた筈のアタシ達の方がいつしか攻めあぐねていた。

 そして、最後の雨雲を凍らせて巨大な氷塊を落とす攻撃。

 あんな事を実際にやれる奴なんて想像もしなかった。

 完敗だった。

 ラグラージは限界を超えて力を発揮してくれた。

 勝負を分けたのはトレーナーの差だ。

 アタシがあいつに負けてた。

 戦略の面で読みも発想もあいつの方が上だった。

 ポケモンとの信頼ですらも。

 

「……アタシはお前なんか認めねぇ」

 

 本当に認めたくなかったのはアタシの弱さだ。

 今まで必死にやって来た事は無駄だったのか?

 いや、そうじゃねぇ。

 きっと何かあいつの強さの秘密がある筈だ。

 それを知ればアタシはもっと強くなれる。

 そしたらあいつに勝てる。

 思い立ったが吉日。

 アタシは家に帰ると直ぐに荷物を纏めて飛び出した。

 洞窟の方へ走ると天へと登る不思議な光を見た。

 足を止めそれを見ているとその光は祠に宿っていると言われている巫女達の魂の光なんだと何となく思った。

 

「行くのかい?」

 

 光が止み、洞窟の方からしたオバァの声。

 

「行ってくるといいさぁ。知りたい事、見たい物、それらは世界を広げてくれるさぁ。それと、いつでも帰っておいで。待ってるよ」

 

 オバァ、有り難う。

 アタシはあいつを追い、変なヘリに乗ってあいつが所有しているという島へと付いて行った。

 そこで見たのは馬鹿でかい島に館、そこにいるポケモンは全てが本当にあいつを信頼し懐いていた。

 そして、ポケモンに向けるあいつの表情はヘラヘラしたままなのに少し違うように感じた。

 

『コノ島ニ、居ル以上、働カザル者、食ウベカラズ、デス。貴女ハ、コレカラ、使用人トシテ、私ノ指揮下ニ置キマス』

 

 それからアタシはこれまでに体感した事の無いような恐怖を味わった。

 地獄のような訓練が1日中続き身体的にも精神的にもボロボロだった。

 イラつく事にあいつは島の探検だとか言いながらポケモン達とずっと遊んでいたらしい。

 ブン殴りてぇ。

 アタシが此処に来たのはあいつの強さの秘密を知る為だ。

 なのに当の本人はダラダラと遊んでいるだけ。

 次の日の朝、少しの睡眠の後に鬼ロボットに叩き起こされて起床。

 裏庭ではあいつがポケモンと朝の運動だと言って生身で技を受けていた。

 躱したり受け流したり人間とは思えない動き。

 あの身体能力は神様から頂いた物だと鬼ロボットが言っていた。

 もしかして、あいつの読みが鋭いのは神様から他人の心を読むような能力を授かっているから?

 そう思ったがそんな能力はないらしい。

 なら、あいつの強さの秘訣は何なんだ。

 

『サテ、今日モ、ビシビシ教育シテ、イキマス』

 

 朝から夜遅くまで無茶苦茶な訓練が6日続き、その間あいつは島で遊んだり小さいロボットとポケモンを連れて何処かへ出掛けたらしい。

 出る飯が美味いのと部屋が豪華なのがせめてもの救いだった。

 6日目の夜中、重い身体を引き摺りながら当てがわれた部屋へと戻ろうと廊下を歩いているとテレビがついているような音が聞こえてきた。

 消し忘れか?

 あの煩いロボットでもそんな事もあるんだな。

 面倒くせぇけど消しとくか。

 そう思って電気の点いている部屋を少し覗くと中にはあいつがいた。

 椅子に座りズラリと並ぶ幾つものモニターを見ているようだった。

 映っていたのは全てポケモンバトルの映像だ。

 あれだけの数のモニターに映ったバトルを同時に観てんのか?

 そんな事が可能なのか?

 

『可能デス』

 

「ッ!?」

 

 突然、掛けられた声に驚き振り返ると鬼ロボットがいた。

 訓練中もだったが、こいつの方が人の心が読めるみたいだ。

 

『コノ距離デ、アノ、シロー様ガ、我々ニ、気付カナイ程ノ、集中力ト、情報処理能力ガ、アッテコソデスガ』

 

 そうだ、あいつは気持ち悪いくらいに鋭い。

 どんなに静かに近付こうが逆にギリギリ見えるくらい遠くを通ろうが必ず気付く。

 周囲にある物全てを把握している節があるような奴だ。

 

「……いつもあんな事してんのか?」

 

『マダ、サーナイト、ガ、ラルトス、ダッタ時ニ、アル、バトル、デ、深イ、ダメージ、ヲ、負イマシタ。御自分ノ、判断ミス、ダト、思ワレタ、シロー様ハ、ソレマデ、偶ニ、バトル、ノ、映像ヲ見テイタノヲ、今デハ、ポケモン達ガ、寝静マッテカラ、毎晩アノヨウニ。シロー様ノ、睡眠時間ハ、貴女ヨリモ、短イデスヨ』

 

 背筋に冷たい物が通ったような気がした。

 

『アノ様ナ事ヲ、セズトモ、シロー様ナラ、豊富ナ知識ト、センス、デ、並ノ、トレーナー、ナラ、勝ツ事ハ可能デス。シカシ、ソレダケデハ、貴女ノ様ナ、実力アル、トレーナー、トノ、バトル、デ、無駄ナ、ダメージ、ヲ、ポケモン、ニ、与エテ、シマウカモ、シレナイ。ソウ御考エ、ナノデショウ』

 

 神様の使徒なんだろ、そこまでする必要があるのかよ。

 

『アノ方ハ、世界中ノ誰ヨリモ、ポケモン、ヲ、愛シテイマス。同時ニ、私ノ様ナ、ロボット、デサエモ、家族トシテ、見テ下サル、深イ優シサ、ヲ、御持チデス。故ニ、ポケモン達カラモ、好カレルノデス』

 

 どんだけ理解してんだよ。

 

『御仕エスル者、トシテ、当然デス』

 

 アタシは静かに部屋を離れ自分の部屋へと向かった。

 次の日の朝も何事も無かったようにポケモンのケアや技の練習に付き合い、それでも尚笑っていた。

 どんな精神構造してんだ。

 地獄の訓練も最後の日は大分慣れたもので疲れはそれほど感じなくなっていた。

 

『コレデ、教育課程ハ、終了シマシタ。明日カラハ、シロー様ニ、御仕エ、シテ頂キマス。今ノ、貴女ナラ、私程デハ、無イニシテモ、充分ニ役立ツ、デショウ』

 

 こいつの自信過剰なところにも慣れて来てるな。

 

「あ、終わりました?」

 

 タイミング良くあいつが現れた。

 

『ハイ、先程、完了シタ、トコロデス』

 

「良かった。俺もさっき準備が終わったところなんですよー」

 

『ソレハ、良イ、タイミング、デジタ』

 

「……今日何かあるのか?」

 

「まあ、良いから取り敢えず裏庭に行きましょうか」

 

 怪しい態度の奴に背中を押されながら裏庭に出るとテーブルや椅子に手作りの装飾が施され、そのテーブルには大量の料理が並べられていた。

 

「1週間お疲れ様でした。これはミズチさんの鬼特訓お疲れ様会と歓迎パーティーです。装飾はヒマナッツ達がしてくれたんですよ?」

 

「ヒッマ!」

 

 テーブルで踏ん反り返りながらドヤ顔のヒマナッツ。

 

「料理は俺が。まあ、ガンタの腕と比べたら大した事無いですが不味くはない筈ですから。それと、これもどうぞ」

 

 差し出されたのは水辺のポケモンが捕まえ易くなるダイブボール。

 それが開かれ中からポケモンが出て来た。

 

「サンゴ、サンゴ!」

 

 全体的に丸く枝の様な頭の先が特徴のサニーゴだ。

 ただし、普通のじゃねぇ。

 体色が青い。

 色違いだ。

 

「色違いのサニーゴは幸運を呼ぶと言われているらしいですね。なのでプレゼントにと思って探してやっと昨日ゲット出来たんです」

 

 アタシは寄って来たサニーゴを抱き抱えた。

 

「改めて宜しくお願いします、ミズチさん」

 

 そう言って差し出して来た手をアタシはサニーゴを抱えたままゆっくり握り返した。

 

「ミズチでいい。同じ歳なんだろ。それに雇い主が使用人にさん付けは変だ」

 

「そうですかねー」

 

 やっぱりヘラヘラしてるのはイラつく。

 

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