どうやら世界は、マッ缶のように甘くは出来ていないらしい   作:さめのひと
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初投稿作品です。

皆様、よろしくお願いします。


第一章 ~序章~
第1話+TIPS


【第1話】

 

 季節は春、今は4月6日。

 人気のない住宅街の道路に寝転がりながら、俺は心の底から本音をボソリと呟く。

 

 「働きたくねぇ…」

 「任務なんだしまじめにやれよ…」

 『もう、本当にごみぃちゃんはごみぃちゃんだなぁ』

 

 …呟いただけでこの突っ込まれようである。

 

 「まぁ、気を張りすぎても疲れちゃいますし。」

 と、ぽわぽわとした雰囲気を持つ少女がすかさずフォローする。

 

 俺、”比企谷 八幡” が率いる”比企谷隊”はいつもこんな調子である。

 

 『有紀寧さんもごみぃちゃんを甘やかさないでください。』

 「そうだぞ宮沢。万年ニート気質の隊長さんはケツ引っ叩くくらいでちょうどいいんだし。」

 「二人とも辛辣すぎるだろ…」

 

 だが、彼らの言うことは最もである。

 一応任務中である以上ダラダラしているのは如何なものなのかとは思うが、ずっと気張ってても

いざって時に動けなくなってしまうだろう。

 

 『はいはい、ボサっとしてないで。誤差1.12 ゲート開くよー!』

 

 その声とともに 轟音が響き、黒いワームホールのようなものが何もない空間に現れる。

 その中から生物とも機械とも取れる白い物体が這い出てきた。

 

 「じゃぁ、今日もダラダラと社畜生活をエンジョイしますか」

 

 その一言が合図となり、俺達は現れた白い物体の排除にかかる。

 

 

―この世界はT(iba)県三門市に突如として現れた近異民(ネイバー)と

それらから市民を守らんとするボーダーという組織のIF物語である。―

 

 

 

 「お疲れさん。お前らの後俺らだから」

 「太刀川さん、後はお願いします。出水、任せるぞ。」

 「ちょっとちょっと!僕を無視しないでください!」

 

 うるせぇ唯我。テメェは戦力にならないだろうが。俺は心の中で毒づく。

 

 とりあえず今、俺達がいるところはボーダー本部である。

 防衛任務の交代、引継ぎのために立ち寄り、後続の太刀川隊に情報を引き継いでいる。

 

 

 俺達はボーダーという組織に所属していて、先ほどの生物とも機械とも取れる白い物体

つまりは近異民(ネイバー)と呼ばれている異形の兵器を狩ることを生業としている。

 

 正確に言えば、白い物体というのはトリオン兵と呼ばれている兵器でありネイバーそのものは

通常の人間とほぼかわりないということを大半の人間は知らない。

 

 だが、俺達の部隊は成り立てとはいえ、A級9位と上位の部隊なこともあり

そのあたりの事情は既に把握している。

 

 そうこうしているうちに引継ぎも終わり、太刀川隊は防衛任務へと出発していた。

 

 「あとは報告書書いて家帰って寝るだけ。つかれた。」

 「お前ほぼダラダラしてただろ、比企谷」

 

 すかさずツッコミを返す青年。名を”岡崎 朋也”と言い、比企谷隊のシューターを務めている。

 

 「まぁ、トリオン兵が出てきてからはかなり動いてましたし」

 

 と、フォローをしている少女。彼女は”宮沢 有紀寧”と言う。

 彼女は比企谷隊のアタッカー若しくはスナイパーを勤めている。

 というのも、彼女はアタッカーにしてもスナイパーにしても優秀ではあるのだが

流石に両立は不可能なのか、アタッカー用のトリガーセットとスナイパー用のトリガーセットを

使い分けているのである。

 

 『小町、おなかすいたからちゃっちゃと報告書出してきてよニートなごみぃちゃん』

 

 この辛辣な物言いをする少女。彼女は”比企谷 小町”。俺の妹で、比企谷隊のオペレーターを務めている。

 

 「いやいや待て小町。俺超働いたからな?今日撃破数だけで言えばたぶんトップだからな?」

 「トリオン兵出てくるまでだらけまくってたじゃねェか、お前。」

 「いやいや、待ってください朋也さん。アレはアレです。英気を養うってヤツです。」

 「確かにずっと気を張り詰めてていざという時に動けないというのも問題ですからね~」

 

 この部隊で唯一俺の肩を持つ部隊一の優しさを誇るゆきちゃん。

 ちなみに俺が宮沢のことをこう呼ぶのは本人から頼まれたからである。

 

 だが

 「宮沢。策敵全部妹に押し付けてるダメ兄貴の肩なんざ持つ必要ないからな。」

 この一刀両断である。

 

 「まぁいいや。とりあえず上に出す報告書書くから二人とも先に帰っててください。」

 一応その二人の中に年上が含まれるため敬語で話す俺。超礼儀弁えてる。

 

 『あれ、小町は?』

 「小町は撃破数のデータとかの兼ね合いもあるからちょっと付き合ってくれ。」

 『りょーかい。』

 

 そうして俺はボーダー上層部に提出するための報告書を妹と共に製作するのであった。

 

 

 

 

 「えぇっと、岡崎さんがバムスター3体にモールモッド4体、バンダー2体かぁ。」

 「朋也さん思ったよりも倒してるなぁ…」

 「お兄ちゃん、それ皮肉にしか聞こえないから」

 

 小町の指摘もその筈である。

 何故なら、今日の俺の戦績は バムスター2体,モールモッド13体,バンダー8体 というソロとしてはかなりの戦績を残してる。

 

 「給料。金が全て。働く以上は全力でやらないとな。」

 「お兄ちゃんらしいなぁ」

 

 俺がソロとしては破格の戦績を残せる理由のひとつに、彼のスコーピオンの使い方があるのは間違いないだろう。

 風刃という黒トリガーを用いてのみ使用できる”空間に斬激を伝播させる”という性質を見て

俺が独自に編み出した、スコーピオンを使用した風刃もどきのような使い方があってこそだろう。

 具体的には、スコーピーンを線状若しくは円状に地面に張り巡らせ、もぐら爪という技に

プラスしてスコーピオンの範囲を瞬時に拡大し、切り刻むというものである。

 そもそも、その元になっている黒トリガーについても説明が必要だろう。

 黒トリガーとは、優れたトリオン能力を持った人が自分の命と全トリオンを込めて作り上げるある意味最終兵器のようなものである。

 その性能は通常のトリガーとは段違いで、現在風刃を所有している”迅 悠一”との相性も相まって彼と黒トリガーに確実に勝とうと思えば比企谷隊クラスの部隊が3部隊以上は必要だろう、と俺は考えている。

 だがまぁそんな黒トリガーだが、起動するにあたっては黒トリガーとの相性があっていなければならず、誰でも起動できるわけではないというデメリットもある。

 俺は起動出来なかったもからこそ、発想力を持って似たようなことを行っているだけなのだが。

 流石に付け焼刃なこともあり、性能そのものは雲泥の差ではある。

 まぁ、トリオン兵レベルであればそこまで問題なく倒せるし、対人戦においても不意をついて使えばそのまま狩りきれる場合も多々あるのだ。

 

 「最近なんか数が多いよね… ん?有紀寧さん、今日おとなしめの戦績だねぇ」

 「ん? えぇっと…バムスターが1にバンダーが6か。確かにゆきちゃんらしくないな」

 

 まぁ、バンダーを多めに倒してるところを見るとサポートに徹してくれていたのだろう。

 今日ゆきちゃんはスナイパーだったし。

 

 そんなことを考えながら俺はちゃっちゃと報告書を仕上げていく。

 

 「よし、終わったぞ小町。」

 「おっけぇい。じゃあ小町が提出してくるね!」

 「お、まじか。じゃあ頼むわ。」

 流石マイシスター。俺の頼もしい右腕になるまである。

 はーい、という声と共に小町は作戦室から出て行ってしまった。

 

 ちなみにボーダーの部隊ランクがA以上になると作戦室が貸与されるのだ。

 これが割りと快適だったりするから困る。

 

 とりあえず小町の帰還を待つとするか…なんて考えていると誰かが入ってくる気配がした。

 小町だとしたら早すぎる。誰だ?

 

 「お疲れ様、比企谷君。差し入れもってきたよ!」

 と、作戦室のドアを開けたのは三上歌歩だった。

 彼女は俺が過去に所属していた風間隊のオペレーターを務めている。

 その関係からか今でも防衛任務上がりのときにたまに差し入れを持ってきてくれたりする。

 

 「おう、サンキュ。わざわざ気を遣わなくてもいいのに…」

 「ううん、私がしたいからやってるだけだもん。気にしないで!」

 

 とは言うものの女子からの奢りという時点でヒモへの第一歩を踏み出してしまう気がするので

とりあえずマッ缶代と三上の分のジュース代を渡そうとした。

 

 「ああいや、そういうつもりじゃないから!」

 「いいから受け取れ。俺は施しは受け取らん主義だ」

 「あ…うん、ごめんね?じゃあいただきます」

 三上は少し頬を顔を赤くしながら苦笑して受け取る。

 なんだ、俺からの報酬というのがそんなに気に食わないのか。プライドにでも障るのか。

 ただまぁ、パシらせたままよりはマシだろうと思いとりあえずそのままにしておく。

 …顔が赤いけど、今のやり取りで俺が三上を怒らせるようなことしたか?

 

 「三上、毎度毎度ありがたいのは確かなんだが、俺なんかに気を遣わなくてもいいぞ?」

 「ううん。か、風間隊の頃によくお世話になってたし、比企谷くんともっとお話したいし…」

 

 あれか、敵情視察ってやつか。一応上がりたてとはいえ俺達A級部隊なわけだし。

 まぁ、まず風間さん達がそんなこと頼むとは思わんが…

 

 「お、おう。ってか三上っていっつも気ぃ遣って、しかもみんな三上を頼ったり甘えたりしてるけど

 三上自身はどうなんだ? 誰かに頼ったり甘えたりしてるところなんてあんまり見ないしさ。」

 

 これは俺にとって純粋に疑問だった。

 三上は俺が風間隊にいた時からそうだったが、基本的に人を頼ろうとしない。

 だが、三上自身は有能さの塊のような人間なので割と頼られたり甘えられたりすることが

多いことは俺も良く知っている。なにせ一時期同じ部隊でしたしね。

 

 「え、え? うーん、そういうのってなんか周りの人に迷惑かけちゃいそうで…」

 

 なるほど、三上って実はこういうタイプだったのか。

 こういうタイプの人間はちょっと危うい。

 もうちょっと話を引き出して聞きたい所ではある。三上の今後のためにも。

 自分ひとりで溜め込んでたらいつか爆発しちまうから俺程とまでは言わずとも誰かを頼ったり

誰かに甘えるということを三上の場合は覚えたほうがいいだろう。

 

 だが、踏み込んで聞いてしまっていいものか。

 普通に雑談してるタイミングでいきなり真剣な話、というのも相手の機嫌を損ねかねない。

 

 ウン、ボッチノトキノケイケンチ、スバラシイ。

 

 …とはいうものの、三上はそういうのは特に嫌悪感を抱くタイプではないだろう。

 一応同じ部隊でやってきたのだ。なんとなくはわかる。

 

 そして、今二人きりという状況。

 

 三上のような美人と二人きりというのも些か緊張するが、真剣な話をする、という意味において

ある意味一番話しやすいかもしれない。

 

 なんて長々と思案していると

 

 「比企谷君?」

 

 怪訝、というよりも心配そうな目で俺の顔を覗き込む三上の姿があった。

 

 「あぁ悪い悪い、ちょっとどう話すか整理してたんだ。」

 「どうしたの?」

 

 俺はなんとなくではあるが話の順番を決めて、口を開いた。

 

 「いやさ、別に人を頼ることは悪いことでもないし、頼らずに一人で溜め込んでたらいつか

持たなくなると思ってな。なんというか…なんかあったのか、人を頼らない理由みたいなのが?」

 

 話したくないならそれでいい、とも付け加えておくことを俺は忘れない。

 無理に聞き出そうとは思わないが、風間隊のときには散々世話になってる。

 軽くでもいいから恩返しはしておきたいって思うしな。

 

 「いや、うーん…うん。」

 

 なんか話すことを迷っているみたいだ。この隙に俺は小町に

「今三上と真剣な話をしているから戻るのはまってくれ」とLINEを送っておく。

 

 「つまんない話になると思うけど、それでもいい?」

 「俺から尋ねてるんだ。別に構いやしねぇよ。」

 

 そうして三上はゆっくりと口を開き始めた―

 

 

 

 

 ―三上の話を総括すると、忙しい三上の母親に代わり3人もの兄弟の面倒を見ていたおかげか

よく人から頼られるようになって、三上が誰かを頼る機会そのものがあまりにも少なくなった、ということである。俺とは大違いだ。

 俺が思うに、そうしてるうちに三上自身が人に頼りなれてない、頼り方が分からないうちに

無意識に頼ることに抵抗を覚えていたのかもしれないな。 

 三上は優しい、というか押しに弱い一面があるせいか、頼られても断らないし、周りが頼ってくる

ものだから、自分自身が回りを頼る機会もあまりなかったのだろう。

 

 とりあえず、今思ったことを三上に伝えてみると、少し驚いた顔をしながら

 

 「確かに、そんな感じなのかなぁ…」

 

 と呟いた。ここはもう一押しかな?

 

 「ならこれからは少しくらい人を頼ってもいいんじゃないのか?

  なんだったら俺は妹から頼りすぎと叱られるまである」

 「えっ?比企谷君も兄妹、いるんだ」

 「あぁいるぞ。俺とは似ても似つかない、いい妹だ。」

 

 小町は本当に天使である。

 それはさておき。

 

 「まぁ、だからこそ三上の気持ちは分からなくはないけどな。けど、三上一人でがんばり続けて

もし倒れでもしてみろ。三上じゃなくてその妹や弟が悲しむことになるし、風間さんや歌川とかも

”俺が気づいていれば”って悔やむのは目に見えてる。あの人達はそういう人達だから」

 

 口に出したりはしないが俺もその一人だ。

 

 「なんだか、比企谷君が自分で経験したみたいな言い方だね。」

 「ちょっと事情は違うが、俺も妹にキレられたことあるからな。」

 

 アレはマジで怖かった。忍田さん共々説教されてたまである。

 それは置いといて、ここで軽く誘導尋問の時間だ。

 

 「三上だって、出来ることなら誰かに頼ったり、甘えたりしたいだろ?」

 「いや、でも…そんなの迷惑掛けちゃうし」

 「さっきも言っただろ?三上一人でがんばりつづけて何かあったら三上の周りの

人間が悲しむんだ。それに、迷惑掛ける掛けないじゃない。三上自身がどうしたいか、だ。」

 

 ここまで言えばおそらく大丈夫だろう。少し言い過ぎたかもしれないが、三上に倒れられるより

は全然マシだ。

 

 「…私だって、誰かに甘えたいよ」

 

 よし、この言葉を引き出せた時点でミッションコンプリート。

 周りの人間という言葉を使って三上に誰かを頼ったり甘えたりすることに抵抗をなくさせる

ことが出来た、と思いたい。

 

 「ならいいじゃねぇか、甘えたって、頼ったって。少なくとも三上の周りの人間は三上に頼って

ほしいって思ってるくらいなんじゃないか、とも思うけどな。そういう好意くらいは素直にもらって

お礼を言えばそれでいいんだしな。」

 

 そう言い切ると、会話が止まる。

 これでいい方向に変わってくれると、俺は信じてるぞ。

 

 「幸いにも三上の周りには風間さんや歌川だったり綾辻だったり、甘えても頼っても笑顔で

引き受けてくれる人がたくさんいるんだからさ。それだけはちゃんと分かっててくれ。」

 

 言い終わると同時に俺のスマホから音が鳴る。

 確認すると、小町から「報告書出し終わったよー」とLINEがきてた。

 

 「んじゃまぁ、俺はそろそろ行くわ。風間さん達によろしくな」

 

 そう言って、立ち去ろうとすると

 

 「比企谷君」

 

 何故だか、呼び止められた。

 

 「ん、どうした?」

 「その、さ。私…比企谷君にも甘えてもいいのかな?」

 

 なんともこっ恥ずかしいことをぶちこんできやがった。

 

 「ま、まぁ、偶にならな。愚痴くらいならいつでも聞いてやるよ」

 

 三上は客観的に見ても美少女だ。キョドるのもシカタナイネ。そういうと三上は

 

 「ふふっ。相変わらずだなぁ、比企谷君は。でも、ありがとう。」 

 

 …今日の俺、ちょっと熱く語りすぎたな。

 そんなことを思いながら三上に背を向けたまま「おう、お疲れ。」と言って作戦室を後にした。

 

 

 

 

 

【TIPS:三上歌歩①】

 

 比企谷君が作戦室を後にして、私は彼のちょっと捻くれた、けど掛けてくれた優しい言葉の

数々を反芻していた。

 

 「ちょっと捻くれてるけど、本質は優しい人だものね。」

 

 そう呟いて、私は思う。

 彼も、人に甘えるほうではないから。

 彼にとって、私も甘えられるような存在になりたいと。

 

 「やっぱり私、比企谷君のことが好きなんだなぁ」

 

 既に1年以上前から抱いてる思いを、私は改めて自覚した。

 

 

【TIPS:比企谷小町①】

 

 報告書を忍田さんに出しに行っている途中に、唐突にケータイが鳴った。

 確認してみると

 「おりょ、お兄ちゃんからラインだ。」

 

 とりあえずLINEを立ち上げて読んでみると、 「今三上と真剣な話をしているから戻るの

はまってくれ」という内容だった。

 

 「お兄ちゃんが歌歩さんと真剣な話?」

 

 いざという時以外にまず真剣なんて言葉が身にならないようなあの兄が、真剣な話をしていると

いうこと自体が珍しい。

 

 「これは、あとで問い詰めてみなければなりませんなぁ」

 

 私は、ニヤニヤしながら将来の義姉候補の一人と何を話しているのか思案しながら本部長室へ

向かっていくのだった。




今回はプロローグ的なのとみかみか回です。


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