モニカは朝から自分の開発チームのガレージに来ていた。
理由は自分の専用機が遂に完成し、ロールアウトされたことを聞き、確認しに来たのだ
まだ出来たばかりで塗装はされておらず、素材に使われている金属がそのまま鈍い銀色を放っていた
第七世代相当KMF『グリフレット』
キャメロットから提供された新技術を導入し、見た目は騎士の鎧のような姿で、機体性能は『ランスロット』シリーズに負けない性能を持ち、フロートシステムを一体型にしており、機動性をあげれるように通常の物より小型だが、出力の高い物が搭載されていた。左手にはハドロン砲を内蔵した盾を装備し、さらに自分の戦い型に合わせて造られた銃剣『デュランダル』を装備したそれはまるでブリタニアを守護する戦乙女のようだ
「これが貴公の新しい機体『グリフレット』か?」
モニカは声のする方に目をやった
怒髪天な髪形と橙色のマントを羽織り不敵な笑みを浮かべながらこちらに近づく人物、モニカ達の同僚であまり会いたくない人物、ルキアーノ・ブラッドリー卿……戦いを好み相手の命を奪う事に快感を得ている人物でその戦い方から戦場では別の名前で呼ばれる事が多い……
通称『ブリタニアの吸血鬼』
「『グリフレット』とより『エレイン』のほうが良いのではないか?」
「どういう意味かしら?ブラッドリー卿?」
「貴公が『エレイン』のような人間になったという意味だが?」
彼が言っているのは数居る『エレイン』で最も有名な人物の事だろう。
ランスロットを想うが気付いて貰えず、彼を想いながら亡くなる悲恋の女性……
モニカもそうだと言いたいのだろう
モニカから出ている雰囲気でその意味を理解したのを確認してルキアーノは話を続けた
「貴公もつまらない女になったな……たった一人の男に腑抜けにされてしまうとは……」
「そうですか」
モニカは素っ気ない返事を返した
相手にしない……これが一番良い対処法だと考えた。
それには気付いているはずだが、ルキアーノは話すのを止める様子はなかった
「身体も心もアイツに捧げて、本当に惨めだな……お前はアイツが寂しさを紛らわせるための道具だ……抱きたい時に抱くだけの女……本当に憐れだな!」
その言葉を聞いた瞬間、胸が苦しくなるのを感じた……
同時にルキアーノへの怒りも大きく膨れ上がった……
彼は周りに興味がないような印象を持つ人間が多いが実際は違う。
彼ほど自分の周りに目をやっている人間はいない。
理由は彼らしいものだが、それゆえに相手の内を読む才能が非常に優れている。
だからモニカはルキアーノと会いたくないのだ。
ライ以上に自分の心を知られるのは非常に不愉快だ。
それも誰にも触れられたくない事なら尚更だ
ライが一番に想っているのは自分ではない……
一番触れてほしくない事を一番触れられたくない人物に触れれてしまった……
「貴方に何を言われようと興味がありません。私が彼をどう愛そうと貴方に問題がありますか?」
モニカはルキアーノを睨んだ
だが、ルキアーノだろうはその視線からは以前のような殺気が混じってはいたが同時に以前にはない悲しみが滲み出ているのを感じた
以前のモニカなら相手にしたい武人であり、力で捩じ伏せて自分の物にしたい女と感じさせる気迫を纏った女傑だったが、今目の前にいるのは武人ではあるが、女でありたいと心から願っている生娘……そんな印象しか感じられない……
まさに『エレイン』のようだった……
想い人が誰を想っていようと愛し続ける女性……
モニカの意志は硬い……
何を言われようと変わらない……
『モニカ・クルシェフスキー』から『エレイン』に変わってしまった事を感じルキアーノはモニカに興味が無くなってしまった……
「…つまらんな」
相手にする気が失せ、ルキアーノはガレージを出ることにしたが、ふと頭に浮かんだ人物の事を伝えてやる事にした。
自分のお気に入りだったモニカをただの『女』に代えた人物、モニカの想い人、ライ・アッシュフォードの事を……
「アイツは私と同じ匂いのする人間だ。その意味が分かった時、お前がどうなるか楽しみだ…」
その時は私が慰めてやろう……そう言ってルキアーノはモニカのガレージから出ていった。
彼の言う『その意味』というのは分からないが、彼が言っていた事は身に染みていた……
だが、自分が決めたこと、彼を愛し続ける事を恥じる気など一切なく、むしろ誇らしく思っていた。
「……ブラッドリー卿と何を話してたの?」
ルキアーノが出て行ってから数分後、モニカのガレージにライが表れた。
来る途中でルキアーノと出くわしたようだ
その顔には少しだけ困惑が滲み出ている。
ルキアーノに何か言われたのだろう
「あら?妬いてくれたの?」
「…少しだけ」
今、ライが纏っている雰囲気は妬いている物ではなく、困惑が渦巻いているのが分かった
ライがいつものライでないのがモニカには分かったが……
「残念だけど教えてあげないわ」
言えるわけがない。
恥ずかしくて言えるわけがない
ルキアーノに自分の心を読まれしまい、触れられたくない事を触れられてしまったなんて……
「安心して。私は貴方を愛している」
ルキアーノが何を言ったか解らないが、モニカが言えるのはこれだけ……
でも、これだけで充分だ
「分かってるよ」
その言葉を聞いてライは笑顔になり、それを見てモニカは顔が熱くなった。
ライにはちゃんと想いが届いているのが分かった
「お前達は何時も一緒だな」
モニカの専用機の動作チェックに向かう途中でノネットに呼び止められた。
『ナイト・オブ・ワン』ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿がノネットにライを連れてくるように言ったらしい
『ナイト・オブ・ラウンズ』の中で唯一他のラウンズに命令することが出来る人物がわざわざノネットを使ってまで呼んでいると言うことは何か大事な用件だろう
ライは急いでラウンズ専用のラウンジに向かっていた
そんな時にノネットは今の状況を見て言った
「何か問題がありますか?エニアグラム卿」
「問題にはなっていないが、注意はされはじめているようだぞ」
ノネットの言葉を聞いてライとモニカは目を見開いた
なぜそうなったかはノネットの話で分かった
「ライが以前、シュナイゼル殿下との約束を棒に降り、モニカを優先した事がヴァルトシュタイン卿の耳にも入ったようだ」
「マジですか……」
「マジだ……」
以前、モニカの話を聞くためにシュナイゼル殿下の約束を断った……
約束を断る連絡を副官のカノンに伝えたがカノンが周りに言いふらす様な人間ではない……
だが、シュナイゼル殿下の周りにいる誰かがヴァルトシュタイン卿に言ったのだろう……
ブリタニア軍内部でライは余り好かれてはいない……
理由はライの異常な出世スピードだ……
ライの出世によって機会を失った人間は沢山いる。
恐らくそういう人間達がライを陥れるためにやった事だろう。
「モニカを一番に考えるのはいいが、少しは自粛しろ」
「了解です……」
ノネット注意は最もな事だ
ライは素直に従う事にした……
「お!やっと主役達のご登場のようだ」
ラウンジにはいるとジノがライ達に向かって話し掛けてきた。
ラウンジにはナイト・オブ・ラウンズが勢揃いしていた。
何時も顔を出さないルキアーノやドロテアも今回は来ていた。
「主役って誰の事かしら?ジノ」
モニカはジノに聞き返したが、返事は別の人物から返ってきた。
「お前達に決まっておるだろうが!!」
ドロテアがモニカとライに怒鳴り付けてきた
それを見てスザクがライに話し掛けてきた
「ライ。あまり人目のつく所でモニカと一緒にいるのは少し控えた方がいいよ」
「スザクまで……」
まさかスザクにまでそれを言われてしまうとは思わなかった。
君も散々ユフィと同じ事をしていたよね……
「なら、私が一緒に居る」
「アーニャは何を言っているの!?」
そう言ってアーニャはライの腕に巻き付いてきた。
それを見てモニカも怒りながら逆の腕に巻き付いてくる。
その状況にスザクは苦笑いを浮かべ、ドロテアとノネットは呆れ果て、ジノは顔を引きつらせていた。
「いや~両手に華とはこの事だな!アッシュフォード卿?」
「……ブラッドリー卿」
ルキアーノの顔を見てさっき彼に言われた事を思い出していた
(お前は誰を想っている?
愛する者を想いながら他の女を抱くのはどんな気分だ?
他の女達に愛されるのはどんな感じだ?
お前は何を想い、何を求めて戦場に身を置いているのだ?
誰を探しているのだ?
要らないなら私が貰ってやるから何時でもモニカを捨てていいぞ)
正直、今すぐ殴りたい……
いや、殺してやりたかった……
自分を知ったような口振りが腹立たしい……
モニカへの想いを否定する奴を許せない……
そんな考えをルキアーノは感じ取り、懐に手を入れていた。
それを見て、ライも自分の腰にある拳銃に手を掛けようと思っていたが、腕に巻き付いているアーニャが邪魔をして掛ける事が出来ない。
ルキアーノがナイフを取り出そうとした時、一人の人物がラウンジに入ってきて、その場にいる人間を一瞬にして圧した
「静かにせんか!貴公らはブリタニア最強の騎士『ナイト・オブ・ラウンズ』だ!騎士の手本とならねばならない貴公達が下らぬ事にうつつを抜かすな!」
ライを呼んだ張本人、『ナイト・オブ・ワン』ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿だ。
「『下らない事』ですか……」
モニカにはそこが引っ掛かったようだ。
確かに周りの人間には下らない事になるが、当事者であるモニカにとっては下らない事にはならない。
現に今、他の女に言い寄られているのだから……
その言葉に腹をたて始めた……
「モニカ。少し落ちて!」
そう言ってライはモニカの目を見詰めた。
熱い視線にモニカは赤くなり、ヴァルトシュタイン卿は目の前でイチャつくライを睨み付け抗議した。
ヴァルトシュタイン卿が言いたいことは分かったがライはヴァルトシュタイン卿に指摘されている事よりも自分の腕が折られる前にモニカを止めることを優先したかったのだ。
「アッシュフォード卿!クルシェフスキー卿との関係を大事にしたい事は理解出来るが、皇族との約束より優先するなど騎士にあるまじき行為だ!」
「申し訳ありません!ヴァルトシュタイン卿!」
謝るしかない……
否定できる立場ではなかった……
現に今、彼の目の前でイチャついたように見られていたはずだから……
逆らえばどうなるかは目に見て明らかだった……
「クルシェフスキー卿もだ!貴公の父上から抗議が来ておる!『公然で没落貴族との関係を認めた覚えはない!』とな!」
「あの方に私達の事を言われる筋合いはありません。適当に返事をしておいてください。ヴァルトシュタイン卿」
ヴァルトシュタイン卿に注意をされているはずなのにモニカは素っ気ない返事を返した
理由は父親の話が出たからだ
あの人物が納得する必要はない……
だが、ヴァルトシュタイン卿に抗議をいれるとは思わなかった
「ちょ!?モニカ!?もしかしてお父さんに話してなかったの!?」
ライは驚きモニカに問いかけてきた。
ライには知られたくはなかった……
父親に認められていない事を……
ライはてっきり認められていると思っていた……
なんと言って誤魔化そうか悩んでいると、別の人物から異論がとんできた
「聞き捨てならんな。ライはエニアグラム家が後ろ楯をしているのに、理由が『没落貴族』だからとは」
ノネットは顔を渋くしていた。
ライを否定するということはライの後ろ楯をしているエニアグラム家を否定するのと同じだ。
貴族であるモニカの父親がそれを理解していない筈がない。
つまり、ライと一緒に自分の娘だけではなく、ノネット・エニアグラムも侮辱した事になる。
ノネットは怒りの炎を燃え上がらせていた。
「それにもうすぐ『没落貴族』では無くなるしな」
「へ!?」
そんな中でジノが言ったことを聞いてライは思わず間抜けな声を出した。
それを聞いてヴァルトシュタイン卿は1回咳払いをして説明を始めた
「それを貴公に伝えるためにも今日呼んだのだが、最近の貴公達の行動について私の所まで来た以上、無視も出来ないからな。この場まとめて伝えておこうと思ったのだ」
注意だけで済ませるつもりだったのだかな……っと!付け加えていった
それを聞いてライは恥ずかしくなった
なぜラウンズが勢揃いしているか理解した。
ライを祝うために皆が集まってくれていたのだ
「アッシュフォード卿。貴公の働きを陛下もお認めになり、アッシュフォード家に『伯爵』の爵位を与える!」
「ありがとうございます!」
ライはラウンズになり、数々の戦場で戦い勝利を収めてきた。
その事を評価され、ライを引き取ったアッシュフォードが伯爵に返り咲けた。
ライはとても嬉しかった。
自分の実力を認められた事もそうだが、何よりも自分を助けてくれたアッシュフォードに、命の恩人とも言えるミレイに恩返しすることが出来たことが一番重要な事だった。
「おめでとう!ライ!」
「ありがとう!スザク!」
スザクが祝いの言葉を述べたのに続き、ジノ、アーニャ、ノネットが祝ってくれた。
ヴァルトシュタイン卿は肩に手を置き、「さらに励めよ」と一言だけ言葉をかけてくれた。
ドロテアは何も言わなかったが彼女から険悪な雰囲気は感じられなかった。
ルキアーノはつまらなそうにしていた。
そしてモニカは自分の事のように喜び、目に涙を浮かべていた。
ライはこの時、今日は幸福な1日になると思っていた。
だが、数十分もしない内に幸福な1日ではなくなった……
ラウンジのモニターが、いや全世界の有りとあらゆる情報機器がある者の復活を伝えた……
それを見てスザクは何時もの優しい彼から、冷酷な彼に心が入れ替わったのをライは感じた……
そしてライもその混沌の渦に巻き込まれていく事になる……
その中で彼は大切な者と再び出逢う……
そして新たな出逢いには新たな別れが付きまとうことをまだ知らない……
そして……
彼の……
ゼロの復活が世界を……
戦乱の世に巻き戻し始めていった……
名前の間違えを修正しました。
申し訳ありませんでした