Q:今物語全体のどの辺り?
A:終盤の序章(すぐ終わるとは一言も言ってない)
Q:アインツベルンは?
A:マジで余計な事しかしない。
※尚、今回からZeroアルトリアは「アルトリア(ルビでセイバー)」、FGOセイバーは「アルトリア」と記述していきます。この期に及んで書き分けが困難だという事を思い知らされました。
―――鳴動する。
何者かがいる。担った仮の名、仮の姿であるとはいえ、この常闇に手を伸ばそうとする者が。
―――鳴動する。
昏き微睡みの中で、
無窮の闇。地の底よりも尚深く、常世の静寂よりも尚深いこの場所で。
―――鳴動する。
60年という年月は、
―――鳴動する。
儀式場に、「異物」がある。己諸共消し散らそうと企む者共が。
”闇”と”悪”を担うには、余りにもその者共は「違い過ぎた」。本来であれば眠りから覚める事もない―――その筈だった。
―――鳴動する。
闇の底の底から沸き上がってしまったその僅かな意思が、斯くも穢された
―――鳴動する。
世界を紅蓮に染め上げる前に、煩瑣な異物を片付けるとしよう。
生まれ落ちる産道は霞一つない闇道でなくてはならない。―――”光”を担う者など、存在してはならない。
―――鳴動する。
―――鳴動スル。
―――*―――*―――
冬木市は深山町を更に西へと行った先、県境まで延々と続く国道線の先には、深い森林地帯が広がっている。
新都では急激な開発事業が続いているとはいえ、都心からこれだけ離れていれば自然はありのままの姿を残しており、自治体も手を加えていない鬱蒼とした風景が広がっており、直線距離で30キロも行けば、未開発地域という言葉がこれ以上ないほどに似合う場所へ潜り込む事になる。
何も事情を知らない人間からすれば、そこは名前も分からない国有地以外の何物でもないだろう。
だがその地域一帯の所有者は、実体のハッキリしない外資系企業―――
しかしそこには、「あやかしの城」が存在する。
事情を知り得た人間、またはその城の周囲に張り巡らされた結界を突破した者にしか、その城は門戸を開くどころか姿を見せる事もない。
重層の幻術、そして魔術結界―――それこそは60年に一度という限られた期間だけ主を迎え入れる白亜の石城。
妄執に囚われた一族が、その桁外れな財力と執念にモノを言わせて周囲の原生林を含めて「支城」としたそれは、今まさに一族の人間を迎え入れている最中だった。
本来であればこの城に、招かれざる客などは立ち入る筈はなかった。
一族の人間以外でこの城の門戸の前に立つ人間がいるとすれば、それは聖杯戦争という戦役の中で雌雄を決するべき魔術師とサーヴァント以外有り得ない。
そう思っていた―――筈だった。
「ガッハッハ‼ おうセイバー‼ 中々荘厳な城を拵えているではないか‼ うむ、王が宴を開く場としては申し分ないわ‼」
「こんばんは、アインツベルンさん。アポなしで失礼します。遊びに来ました」
「先輩、戦車でのダイナミック入城ではアポ有りであっても多分失礼だと思います」
「白夜殿にマシュ殿、論点が恐らくお二人ともズレているかと」
「いきなりですまないがキッチンを貸してくれないかね? あぁ心配は要らない、食材は此方で用意してきた」
「アーチャー、とびっきりの料理をお願いいたします。貴方の腕ならば間違いはないと思いますが」
「なぁ⁉ これは僕がおかしいのか⁉ この状況を異常だと思ってる僕が変なのか⁉」
「安心しろ、この件に関してはお前は間違ってはいない。……森林伐採エントリーをもう一度味わう事になろうとはな」
「「………………」」
アインツベルンの森の結界が強引な手段で破られたという感覚を察したアイリスフィールと共に城の玄関で侵入者を迎え撃つ形となった
マスターは2名、サーヴァントは合計で6体という、本格的に攻城をしに来たのだとしたらほぼ絶望的な状況ではあったが、イスカンダルの戦車の中にほぼ無理やり詰め込まれたような状況で和気藹々と(※一部を除く)会話を続ける面々は、どう見ても戦闘の火蓋を切り落としに来たとは思えなかった。
「……何をしに来たんですか?」
「だから言ったであろうが。宴を開きに来た、と。安心せい。今宵は貴様らと刃を交わそうとは思っておらん」
「その言葉を信じろと―――」
「あ、ま、待ってくださいエ……アーチャーさん‼ そもそもこの城にはIHどころかガスコンロすらあるかどうか怪しいですけれど大丈夫ですか⁉」
「問題ない。いついかなる状況でも材料さえあれば完璧な料理を作り上げるのがプロというものだ」
「流石ですね。期待しています、
「この会話の流れでこの人がアーチャーのサーヴァントだって言って信じる人どれくらいいるんだろうなぁ」
「……あ、いえ。申し訳ありません。信じます」
「確かにあの目は嘘をついてるようには見えないわねぇ。―――あ、キッチンなら2階の右奥にあるわ」
アイリスフィールの案内に対して「感謝する」とだけ述べたエミヤは、大量の食材が入った買い物袋を引っ提げてそのまま跳躍し、その場から一瞬で去ってしまった。
本来なら追うべきである
「ほぅ、意外と容易く信じたな」
「……よしんば本当に攻め入ってきたのだとしたら、このような茶番はしないでしょう。数で此方が劣っている以上、軍略にも長ける貴方がそのような事をするとは思えない」
「ふむ」
「それに……」
言葉を区切り、視線をイスカンダルから白夜の方へと向ける。
「ハクヤ、貴方も同意してそこにいて、そのような顔をしているのなら、私としても認めざるを得ないというものです」
「……信用されてるのは素直に嬉しいんだけど、簡単に信用し過ぎるのも危ないんじゃないかな?」
「えぇ、まぁ。少々軽率であるのは否定しませんが……他ならぬ
それは、彼女なりの誠意の示し方だったのだろう。すると、それを合意と取ったのか、イスカンダルは同じく戦車の後ろに積んでいた巨大なオーク樽をひょいと肩に担ぎあげる。
「話は決まったな。では宴に誂え向きな場所に
あくまでも傲岸不遜な態度でそう言い放つイスカンダルの様子は、傍目から見ればただの無粋な乱入者でしかなかったが、それでも嘗ては4~6世紀のゲルマン民族、12世紀後半のモンゴル帝国と同じく、一生涯で国の版図を大きく広げた功績のある大王だ。多数の民族を巻き込みながら進軍した彼に、既存の常識などというものは通用しないのだろう。
白夜も、もうそこは分かりきって割り切っていた。懸念があるとすれば、ただ一つ。
「(この二人、多分
そんな、今この場に於いては経験で孔明と自陣のアルトリアしか理解していない事を案じながら、白夜はこれから起こるであろう事を想起して僅かに胃が軋む感覚を覚えたのだった。
―――*―――*―――
場所は移り、アインツベルン上の中庭。幻想的な白い花が咲き誇る場所は宴の場所としては些か神秘的に過ぎた場所ではあったが、アイリスフィールの頼みでその場所に汚れ一つない巨大な卓が運ばれた事で、一応体裁だけは整える形となった。
唯一イスカンダルだけは畏まった様相の宴に対して不承不承という態度を隠さなかったが、酒だけならばまだしも、エミヤの料理も提供されるというのなら、間違っても地べたに並べるという愚行は犯せない。
食べ物に対する礼儀の示し方というのは、一応日本人の端くれとして知っている白夜ではあったが、エミヤのそれは鬼気迫るものがある。
カルデアでも、食事を粗末に扱おうとしようものならば、たとえ相手がジャックやナーサリーであろうとも怒る。それくらい彼は、「料理」というものにかけては他の家事の練度に負けず劣らずガチであった。
「ほぅ、それ程あの弓兵の料理は美味なのか」
「実際大したものですよ。少なくとも”王の舌”を唸らせるレベルではあります」
栄華を極めた時代のローマ皇帝`sを始めとして、王族に連なる者だけでなく、生前に宮殿料理などを飽くほどに食べてきたサーヴァントでさえ、エミヤの料理を絶賛するのだ。
本当に何故アーチャーのサーヴァントとして召喚できたのかと疑問に思ったことなど一度や二度ではないが、実際文句がつけられないレベルで美味いのだから、大抵の人間は深く考えるのをやめる。白夜もその一人だった。
「そう、なのですか」
すると、それを意外と近くで聞いていた
なまじ彼女の故郷やその時代の食糧事情を知ってしまっているからこそ、これについてはコメントがし辛い、というのが白夜の本音ではあったのだが。
それを見ると、やはり同じ人物でも対応の仕方が違うという事を痛感させられる。
しかしこの時代の、第四次聖杯戦争時の彼女は、常に研ぎ続けている刃のような雰囲気を感じさせる。焦燥感というよりかは、使命感に駆られているような、そんな感じではあった。
そんな彼女を横目に見ながら、準備が整うまでマシュと共に幻想的な庭を見渡していると、不意に話しかけてきた人物がいた。
「本城ではいつも雪が降ってるから、こういった景観は見れないのよね。どう? 素敵でしょう」
「えぇ、本当に。冬の季節という事も相俟って、儚くも幻想的な光景ですね」
白夜の心情はマシュが代弁してくれたため、本人は笑みを向けるだけで感想とした。すると声をかけてきた本人は、僅かに不安な面持ちを残しながらも、鷹揚に笑って見せる。
「改めて名乗るのは初めてね。セイバーのマスター、アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ」
「此方こそ。岸波白夜です。ここにいるマシュと、さっき厨房に飛んで行ったアーチャーと、そこで若干落ち着きがないセイバーと、後仏頂面でそこに立っているキャスターのマスターです」
少々省いた説明にはなったが、嘘は吐いていない。すると、アイリスフィールは一瞬ポカンとした表情を見せて、そして軽く失笑する。
御三家の一角、アインツベルンの現当主であるユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンが創り上げたホムンクルスにして、小聖杯の器を守護する”外装”―――確実に聖杯を降誕させるためにかの錬金術師の一族が用意した、大聖杯の炉心《冬の聖女》ユスティーツアの後継機。
白夜は孔明から既にそういった概要を聞いてはいたが、改めて顔を合わせてみると人間と変わりないように見受けられた。容貌こそ人間離れしているが、80人近くの英霊を見てきた白夜にとっては、その程度の事では感覚を乱す要因にはなり合えない。
「でも、意外でしたね」
「? 何が?」
「一昨日は確かにそちらのセイバーと共闘しましたけど、敵対している事には変わりありませんから。こうして声をかけてくれたのは少し予想外でした」
「あぁ……えぇ、まぁそうなのだけどね」
ふぅ、と一つ息を吐き、アイリスフィールは近くに立っている
「冬木に来る前は少し気張りすぎてたセイバーが、貴方たちと戦った後は少し年相応なところも見せてくれたのよ。調子に乗ってブティックとかに連れ回しちゃったりしちゃったけど、変に硬くなる事もなくなったの」
「そう、ですね。セイバーさん……アルトリアさんは騎士が戴く王ですから、気を休める事ができないのは当然だと思います」
「勿論、現時点で貴方たちが敵対勢力という事も分かっているわ。貴方たちと本気で矛を構える時が来たら、その時はその時よ。箱入り娘とは言え、その辺りは承知しているわ。
でも今はセイバーも多少はリラックスしてるみたいだし、こうして挨拶を交わすくらいなら罰も当たらないと思わない?」
それは、今まで幾つもの戦場と呼べる場所を渡り歩いてきた白夜達にとってみれば少々軽率だと思わなくもない。人から向けられる好意は、決して敵対心がないという事とイコールではなく、そういう意味では今この時も警戒心を抱いていて然るべき時ではある。
だが、そういった無鉄砲なお人よし具合は自分もある程度同じようなものだと気付いてはいる為、一概にアイリスフィールに忠告をすることもできない。
しかし、と。白夜は今度はマシュに話しかけ始めたアイリスフィールを眺めながら、周囲の高所に目を移していく。
孔明から聞いたアイリスフィールの情報はもう一つある。それは、
初日の埠頭での対決の際に孔明がマシュに対して警戒しろと言っていたのもそれが関係しているのであれば、セイバーのマスターは恐らく純粋な魔術師ではない……という事は考えていたのだが、事ここに至ってその考えに少しばかり揺らぎが生まれ始めた。
先程彼女が言った「セイバーのマスター」という言葉。孔明の言う事が正しければ、あれは偽の役割であるはずであり、本来のマスターはこの城のどこかに潜伏しているという事になる。
だが、白夜が見る限り、彼女が「偽の役割」を演じているようには見えなかった。こればかりは相手の演技力の高さに騙されているという可能性も勿論あるのだが、改めて言葉を交わしてみると、アイリスフィール自身、それ程情報を偽る手段には長けていないようにも見えた。
なら、真実は何なのか。まさか本人にセイバーのマスターか否かを直接聞くわけにはいかない以上、孔明の情報が誤っている可能性も有り得る。
そもそもこの第四次聖杯戦争自体、あの正体不明のアサシンという不確定要素が紛れ込んで更に特異点化している以上、
「―――よもや王たる
黄金の魔力を棚引かせ、純白の空間に降り立ったのは、圧倒的なまでの
黄金鎧が擦れる音が響く度に、心臓の鼓動が早まる錯覚を覚えながらも、白夜はなるべく平常心を保っていた。
「おう、ようやっと来たか、金ピカ」
「戯れだ。しかし宴などと言い張っておきながら酒の一つも卓に並んでいないという有様は、
「貴様がちいと早く来すぎたんだろうが。肴の準備がそろそろ整うらしいんでな。酒はそれに合わせて並べるつもりだったが……まぁ、お前さんの言う事も一理あるな。元より時代の違う王が集う宴であるならば、形式などいらんだろう」
そう言い放ち、イスカンダルは石畳の上に置いていた酒樽の
「ふむ、余の見立ては間違っておらなんだな。中々美味な酒だ」
満足したようにそう言い、そのまま再度柄杓でワインを掬うと、それを
すると彼女も、何の疑問も抱かないようにそれを受け取り、一息に飲み干して見せた。
そのやり取りだけを見るならば特に疑問を挟むことはない。
王同士が盃を交わすという事は、それ自体が既に武力によらないれっきとした「勝負」である。挑まれれば避けるわけにはいかず、拒否する事は自らの王としての”格”が下であるという事を自ら認める事にもなる。
だからこそ、今のイスカンダルと
『柄杓はそういう風に使うものじゃないんだけどなぁ‼』
『先輩、ここはスルーしましょう‼ 何だか口を挟んではいけない雰囲気が漂ってきています‼』
生粋の日本人から見たら違和感しかない道具の使い方は白夜をヤキモキさせるのには充分だった。
それでも、真面目な顔をしてやり取りをしている二人の間に割って入るだけの勇気は示せず、やむなく卓の末席に近い位置に腰を下ろす。
「ほれ、お前さんも」
「…………」
柄杓を向けられたギルガメッシュは眉に深い皺こそ刻みはしたが、振り払う事もなくそれを受け取り、
その行動こそが、彼もまた一時代を築いた国を治めた”王”であった事の何よりの証明ではあったが、しかし飲み干した後に嫌悪するような表情を見せた。
「何だこの安酒は。よもや貴様、この程度の酒が王の宴に相応しいとでも思っていたのではあるまいな」
「そうかぁ? 中々上等な酒だと思うんだがな」
「ハッ、程度が知れるというものだな。ならば貴様ら雑種に最上級の酒というものを味あわせてやろう」
そうしてギルガメッシュが『
チラリと、自分の対面の席に座るアルトリアの方に白夜が視線を移すと、彼女は複雑そうな表情はしながらもただ無言で頷いた。どうやら、味に関しては本当に本物であったらしい。
まぁ、「王の中の王」と自称するだけの王が宴の酒に毒を盛ったり、味の劣る酒を出すはずもないかと少しばかり感心していると、予想外の事態が起きた。
「おい、雑種」
その声が耳朶に入り、ふと視線をギルガメッシュの方に向けると、その真紅の双眸は確かに白夜の方に向けられていた。
ギルガメッシュは手にしていたもう一つの黄金の酒器を白夜の方へと投げつけると、変わらない傲慢な口調で言い放つ。
「
面白い玩具を見るかのような視線を受けて、やっぱり面倒くさい感じに目をつけられていたかと再度実感した白夜ではあったが、この場に於いて彼の誘いを断るわけにはいかない。
イスカンダルから渡された黄金の容器から並々と酒を注ぎ、それをまずはゆっくりと口に含んでいく。
「……
まず最初に感じた感情がそれで、言葉から出た言葉も同様だった。
年齢こそ日本基準の飲酒可能年齢に達していないが、カルデアで酒豪のサーヴァント達に囲まれていてはそんな理屈も通らない。
幸いにしてアルコールに関しては平均以上の強さを生来的に有していた白夜は主に巻き込まれるような形で今まで様々な酒をサーヴァントたちと共に飲んできたが、この酒はその中でもダントツでトップに入る代物だった。
それこそ、ギルガメッシュの幼少期である子ギルが飲み会のノリで宝物庫から出した事のある酒よりも美味い。まさにそれは、人間の手によって作られる限界を超えた、神代の代物と言っても過言ではない酒だった。
「何だかもう、それ以外言葉が浮かびませんね」
「どうやら最上を見極めるだけの審美眼はあるようだな。
どうも、と言葉を返そうとしてしまい、それを直前で堪えた。今のギルガメッシュは自分との「対話」を望んでいる訳ではない。ましてや「王」という地位が絶対的であり、神格と同一視されていた時代は、庶民が王の言葉を聞くどころか姿を見る事すら許されていなかったのだ。
掛けられた賛辞には、ただ黙礼だけで返す。ここでギルガメッシュの機嫌を損ねてしまっては、この宴自体が崩壊してしまうだろう。それだけは避けなくてはならない。
「うむ、まぁ言うだけあってコイツの美味さは絶品だな‼ ……そういえばそっちの騎士王はコッチに来んのか?」
イスカンダルが白夜の言葉に同意するように褒め称えた後、白夜と同じく卓の下座近くに座ったアルトリアにそう声を掛けたが、彼女は一言「いえ」と返した。
「今の私は騎士王である前にサーヴァントです。王としての敬意は、そちらの私に払うといいでしょう」
「そういうモンか。まぁそれならばそうさせてもらおう」
一見何事もないようにそう言ったアルトリアではあったが、実のところ彼女は内心では僅かに焦っていた。
当時の彼女は、色々な事が分かっていなかったのだ。血に染まったカムランの丘で黄昏を眺め続ける世界から抜け出すには聖杯を手にするしかなく、また聖杯に願う望みも愛国心から来る短絡的なものだった。
そして今、その当時の自分がまたこの場で宴に参加してしまった。その意味を理解できないはずがない。
すると、予定よりも早く始まった宴の会場に、鼻孔を擽る良い匂いが冷風に乗って運ばれてきた。
「おう、漸く肴が運ばれてきたようだな。―――んじゃあ、始めるとするか」
雲一つない常闇の月下、王として国を治めた英霊たちの宴が、始まろうとしていた。
―――*―――*―――
同時刻―――
アインツベルン城と同じく、冬木市の住宅街から離れた郊外に存在する円蔵山。
その霊山が内部に擁するのは、大空洞「龍洞」と呼ばれる場所であり、聖杯戦争の核とも言える超抜級の魔術炉心『大聖杯』が敷設されている。
200年前、遠坂、マキリ、アインツベルンという魔導の三家が《魔導元帥》キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの立会いの下創り上げられたその機構は、《冬の聖女》ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンの魔術回路を拡張・増幅したものであり、60年という月日をかけて冬木の霊脈から少しずつマナを吸い上げ、七騎のサーヴァントを英霊の座から召喚するに足りる魔力を蓄え、降霊の時期を委ねるシステムである。
謂わば、魔術の粋を極めた機構の最たる存在。これまで四度もの聖杯戦争に必要な魔力を溜め込んできたそれこそは、偉大なる先達が築き上げた絶対不可侵な聖なる存在。―――そこに歪みという疑念を挟み込むこと自体、遠坂時臣は考えなかった。否、考えたくはなかったのかもしれない。
恐らく彼の少年、岸波白夜によってその異常さを伝えられる事がなければ、この場所を調査しようともしなかっただろう。
大聖杯の起動は恙なく行われ、後は首尾よく最強のサーヴァントを呼び出す事に成功した自分が聖杯戦争を勝ち抜き、そして最後には自身のサーヴァントを令呪で自害させることで『根源』に繋がる”孔”を開く。―――その計画に狂いは生じないものと、半ば本気でそう思っていた。
「っ……‼」
遥か昔、御三家の間で結ばれた「大聖杯への不可侵」の条約。
時臣自身もそれを先代当主である父から言い含められ、それを今日まで守り通してきた。それが御三家たる遠坂家の当主の務め、義務であると信じて。
だが、今こうして円蔵山の一角に足を踏み入れただけで理解してしまった。そして同時に後悔もした。
自分は何故
それは、一言では表せないほどに混沌とした異常事態だった。
地面に手を当てて地脈の様子を探ってみれば、不快感の塊のようなモノが這いずり回っているような感覚が分かる。それは例えるならば側溝から溢れ出したヘドロ。管理者として見過ごせるようなものでは到底なかった。
放っておけば、必ず良くないモノを誘き寄せてしまう。円蔵山に積もり積もった怨念の塊は、いつか冬木市全土を覆いつくすだろう。そうなれば、全てが手遅れ、後の祭り状態だ。
「……綺礼」
「はい」
この観測に際して、時臣は言峰綺礼を共に付けた。
本来であれば既に脱落者として扱われている綺礼を共に付けるという事は、他のマスターに見咎められれば余計な追及は免れない。
とはいえ、時臣が単独で龍洞内部を調査した事が間桐とアインツベルンの当主の耳に入れば、そちらの方が面倒くさい事になる。どちらにせよリスクを負う事にはなるが、時臣はこの第四次聖杯戦争時にのみリスクを負う方が軽微だと判断し、こういった行動を取ったのである。
「私は龍洞周辺に結界を張る。君はアサシンを使って龍洞内部を調査してくれ」
「承知しました。……私自身は内部に潜入せずともよろしいのですか?」
「君は今現在は脱落者とは言え、一応私の門下という扱いになる。藪を突いて蛇を出すような真似はできればしないでおきたいのでね」
そう言葉を残し、時臣は龍洞寺の方へと至る道のりを戻っていった。綺礼はそれを視線のみで見送り、そしてアサシンに念話を飛ばす。
冬木市各地に散らばっていたアサシンの大半を呼び戻すのに十数分はかかったが、それでも彼は師である時臣の命に従って洞の内部へとアサシンを潜入させた。
後は此処に留まり続け、斥候から戻ってきたアサシンが齎す情報を聞き、精査すれば良いだけ―――その筈だった。
―――気付けば、洞内部に繋がる穴に向かって、歩を進めている自分の姿があった。
それに対して、綺礼は最初は内心で動揺していた。龍洞内部に自分が入る事は御三家の大聖杯不可侵に抵触する恐れがある。それは即ち、師である時臣を徒に窮地に立たせてしまうという事に他ならない。
それは駄目だと一度は足を止めたが、しかし無意識に足は動き続ける。視線は月の光も届かない穴の中に固定され、動く事はなかった。
―――呼バレテイル。
不意に、脳裏にその言葉が過った。
声が聞こえるわけではない。幻聴が耳朶に届いたわけではない。言うならばそれは、魂に直接”ナニカ”が語り掛けてくるような感覚。
舗装のされていない洞窟内部を歩く音、肌を擦過する冷気は、外気温のそれよりも針のように刺々しい。
良くないモノがあるという事は、魔術師としては二流の綺礼でも分かる。今ならまだ引き返せると心のどこかで引き留める声が湧き続けるが、それでもその足が止まる事はない。
―――この先に。
―――コノ闇ノ先二。
「一体、何があるという」
心がそのまま吐き出されたかのような言葉が出てきた瞬間、
それはまるで、植えた状態で獲物を見つけた食虫植物のような有様だった。八極拳の達人たる綺礼を以てしても、その異常事態に対処する術はなかった。
声を挙げる間もなく、身じろぎをする間もなく。
肥大化した
しかし
―――泣く、鳴く、啼く。
60年間膨らみ続けた悪意が、産道を突き破るようにして鳴動する。
悪夢の序章が、始まろうとしていた。
どうも、鎖とランプは即回収。ゲイボルグ? 既に全部掻っ攫いましたが何か? ―――イベントは全力で素材を回収しに行くスタイルの十三です。呼符でマリーさん来ました。もう深追いしない。
ところで水着のアン&メアリーがヤバいほど可愛いんですけどどうしたらいいんだろコレ。
では今回はあとがきでもQ&A(という名の茶番)を書いていきます。
Q:途中からディルさん空気なんですがそれは。
A:忠実な騎士は話に余計な口を挟まないんですよ。えぇ。(……言えねぇ。途中までガチで存在忘れてたとか口が裂けても言えねぇ)
Q:Zeroセイバーとアイリさん、白夜君に気を許し過ぎじゃないですかねぇ。
A:これでも完全に信用してるわけじゃないんですが、「まぁこの少年なら宴の場で変な事はしないだろう」と思われる程度には緩んでいます。流石タラシの岸波。
Q:麻婆死んだ?(by愉悦部)
A:死んでねぇし(怒)
尚、自分はstaynightをやったのが結構前なので大聖杯に関してのアレコレの知識がところどころ曖昧だったりします。何かありましたら感想欄かメッセージ欄でお知らせいただければ幸いです。
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