Fate/Turn ZeroOrder   作:十三

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※前回までのあらすじ

・王の宴を開きます(参加者半強制参加)
・ダイナミックエントリーinアインツベルン城
・テンションが高いエミヤオカン
・どう考えてもギャグでは終わらない雰囲気 ←New






ACT-15 「王の試練」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そのユメは、一体どこから(たが)ってしまったのかと、今でも偶に思う事がある。

 

 

 カンタベリー大寺院の敷地内に突き刺さった黄金の剣を引き抜く事には、何の躊躇いもなかった。義兄のケイは酷く複雑そうに顔を歪めていたのは覚えているが、それでもやらねばならぬと思っていた。

 己以外にこの剣は引き抜けないと、そう確信していたかどうかは定かではないが、それでも引き寄せられたのは事実だ。

 

 たとえ不老になり、肉体的成長の一切が止まる事になったとしても。

 たとえ王となり、ただの一人の少女として生きて行く事が不可能になったとしても。

 

 それでも、引き抜いた。ヒトでありながら人ならざる運命を自分で手繰り寄せる―――その結末には決して後悔は抱くまいと、それだけは常に心の片隅にあった。

 

 

 ―――戦い、戦い、戦った。

 

 サクソン人やピクト人とだけではない。唐突に訪れる冷害を始めとした異常気象、神秘の色が色濃く残っていたブリタニアだからこそ巻き起こる幻想の加護を受けた獣たちが引き起こす被害とも、だ。

 

 王とは、常に最善の一手を望まれ続けられる存在だ。己の命一つが、民を救う事もあれば見殺しにすることもある。

 その中で彼女は、常に過たないように選び続けてきた。一人の民を犠牲にして多くの民を救う事もあったし、一つの村を犠牲にして国を救う事もあった。

 

 人でなしと、そう陰口を叩かれることがあったのも知っている。王には人の心が分からないと、騎士の幾人かがそう囁いたことがあった事も。

 だが彼女は、それに対して憤怒の感情を抱く事はなかった。命を犠牲にして命を救う―――それが”最善”の策であったと胸を張って言えたかどうかは彼女自身にも分からなかったのだから。

 

 ただそれでも、理想の王たらんと振る舞い続けていた。

 困窮に喘ぐ民たちの希望に、光たらんと在り続けた。民を導くのが己の使命―――王の使命であるのだと。

 

 

 

 

 

 

 ―――だが、国は、彼女が光を齎し続けようとした王国は、血と砂塵に巻かれて滅び去った。

 

 栄枯盛衰は世の常なれど、滅びを回避する術は幾らでも思いついた。―――無論、後の祭りだという事は分かっていたが。

 自身に忠義を誓っていた多くの騎士が死んだ。戦乱の中で多くの民が死んだ。

 

 夷狄の進軍でも幻想種による蹂躙でもない。滅びの原因は円卓の崩壊から始まった。

 故にこそ、彼女は思った。この滅びの運命は―――変える事ができるのではないかと。

 

 願ってしまったのだ。

 黄昏空の下、幾人もの騎士の死骸が無造作に打ち捨てられた地の上で。

 悪辣の魔女が生み出した反逆の騎士の心臓を聖槍で貫いた感触を思い出しながら。

 嘗ては共に円卓を囲い、ブリテンという国のために数々の苦難を乗り越えてきた騎士たちの姿を脳裏に浮かべて。

 

 ただの村娘に立ち返ることも許されず。

 ただの一度の誤りも許されず。

 ただの一度も翳りを見せることすら許されなかった孤高の王は―――。

 

 

 涙を流すことも、吼える事もせず、ただ沈黙のままに救いを求めずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曇りなき澄んだ夜空に浮かぶ宵月の下、純白の花々に囲まれたアインツベルン城の中庭で開かれた王の宴。

 

 ギルガメッシュの計らいにより酒は揃い、そしてエミヤが己のプライドを賭けて作り上げた料理も概ね好評を貰っていた。

 

 

 

「ガハハハ‼ うむ、美味いッ‼ アーチャー、貴様料理人としての腕前も相当なモンだのう‼」

 

「征服した西アジア諸国の料理を席巻した貴方に言われると光栄だな、征服王。―――騎士王、君はどうかな?」

 

「えぇ、はい。見事な腕前です。私の時代にもこのような料理があったらと思わずにはいられない」

 

 異なる国、異なる時代の者達が集うこの宴で、万人の舌を唸らせる料理を作り出すというのは並大抵のことではない。それが、舌の肥えている王族であれば尚更だ。

 しかし今回のシェフは、カルデアの食糧事情の約6割を取り仕切る伝説の料理人、鉄人エミヤである。事家事に携わることに関して一切の妥協を許さない彼だからこそ、このような場を作り出すことができたのだ。

 

 見れば、アイリスフィールは見たことのない料理に嬉しそうに舌鼓を打ち、ウェイバーも緊張感を忘れて黙々と料理を口に運んでいた。孔明は眉を顰め続けながらも、それでもナイフとフォークを動かすことはやめない。ディルムッドは純粋な騎士ということもあり、王が集う場所で料理に口をつけることを躊躇っていた節はあったが、寧ろこの状況で口にしないことのほうが非礼に当たると察したのか、皆に遅れて舌鼓を打っている。

 かく言う白夜自身も、いつもカルデアで食べているそれより豪勢な食事を目の前に図らずもテンションが上がっている状況であり、それは隣の席に腰を下ろしているマシュも同様だった。

 

 

『先輩、エミヤ先輩が本気です』

 

『基本的に家事に関しては本気だけどね。今回はいつも以上にテンション高めだなぁ』

 

 言うなれば、新しいサーヴァントをカルデアに招いた時に開く歓迎会の時のテンションに似ているだろう。何故かいつの間にか給仕服に着替えているあたり、本人も意外とノリノリなのかもしれない。

 だが、そんなどこか和やかな雰囲気も、卓の上からあらかた食事が消えた頃、一変する。

 

 

 

 

「……さて、宴も(たけなわ)と言った頃合いだが、そろそろ本題に入ろうかのう」

 

 口火を切ったのは、イスカンダルの重々しい声だった。それにアルトリア(セイバー)も、黙って酒を口にしていたギルガメッシュも反応する。

 

「余はな、本来であればこの場で貴様らと王の”格”を問うつもりであった。各々が一時代の国を築き、拡げ、そして護り続けた王だ。であれば、その”格”を問う手段は何も刃を交わすだけではあるまい」

 

「……よもや酒の呑み合いでそれを決するというのか? 征服王」

 

「馬鹿を言うでないわ。確かに酒宴に共する酒の質は大事ではあるがな」

 

 ただそれだけで王の格が計れるのならば、万人の味覚を唸らせた酒を出したギルガメッシュが頂点に君臨するだろう。

 だが、そのような単純なものではない。元より、イスカンダルはこの場でそれをするつもりはないと発言したのだ。

 

「……雑種、よもやそれを告げるためだけに(オレ)の手間を取らせたのか?」

 

「あぁもう急くでないわ。余が考えを改めたのはな、先日そこの小僧と話をしたからだ。―――この冬木に於いて我らが手にするべく相争っておる聖杯、その異常性についてな」

 

「っ⁉」

 

 すると、アルトリア(セイバー)は焦燥感を露わにした表情で白夜の方を見やった。

 

「どういう、事ですか。ハクヤ‼」

 

「……まぁどういう事も何も、言葉通りの意味なんですけど」

 

 思えばこの説明をするのも何度目だろうかと思いながらも、順を追って説明するしかないのがもどかしい。

 元より、聖杯の魔力を介して召喚されるのがサーヴァントという存在だ。余程特異な存在でもなければ、その異常に気付くこともないだろう。

 

 そもそも、触媒を用意していない召喚で反英霊にカテゴリーされるサーヴァント―――今回でいえばキャスターのジル・ド・レェが召喚されている時点で疑いを持ってしかるべしではあるのだろうが、どうにもカルデアでの特異召喚に慣れすぎている白夜はそこら辺に疎いのが現状だ。

 だからこそ、真っ当なオリジナルの聖杯戦争を経験した孔明―――ロード・エルメロイⅡ世の存在というのは有り難いのだが。

 

 

「第三次聖杯戦争でアインツベルンが召喚した英霊……それが諸悪の根源と?」

 

「事実だ、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。貴女自身に非はないが、貴女を生み出したアインツベルン家には非があると言えるだろう。……尤も、今の今まで傍観していた他の御三家も同罪と言えなくもないがな」

 

 実際、得たところで何の益も齎さないどころか世界に害を及ぼす存在に変質している可能性は高い。

 大方は孔明が説明を行ってくれたお陰で説得力を持たせることができたため、初めてその事情を聞くアイリスフィールも信じざるを得ないような複雑な表情を浮かべていた。

 だからこそ、王でありながらも騎士であるがゆえに常識的な倫理観を有しているアルトリア(セイバー)も理解してくれると白夜は思っていたのだが―――。

 

「…………」

 

 アルトリア(セイバー)はやりきれない、といったような表情のままに、鋼色の籠手に包まれた両手を握り拳にしていた。

 その様子を見れば、否が応にも理解できてしまう。騎士として主に忠を尽くすことのみを望んだディルムッドとはまた異なり、彼女には聖杯に託する確たる望みがあったのだろう。

 

 それをイスカンダルも見抜いたのか、手元にあった酒を一気に飲み干すと、アルトリア(セイバー)に言葉を投げる。

 

「その様子を見るに、セイバー、お前さんにはどうしても聖杯に託さなくちゃならん願いがあるみたいだな?」

 

「無論だ、征服王。私はそれを成すために時を超え、この地にやってきた。それを成さねば私は―――」

 

「民や騎士らに顔向けができぬと―――()()貴女は本気でそう思っているのでしょうね、アルトリア()

 

 アルトリア(セイバー)の願いを窘めるような口調で遮ったのは、自身と同じアルトリア。いつの間にか末席の自分の席から離れていた彼女は、その表情に僅かな憐憫も含ませながら嘗ての己の目の前に立っていた。

 

「……どういう意味でしょうか」

 

「その願いを口にする前に、頭を冷やしたほうが良いと言っているのです。今の貴女は、迫りくる焦燥感と筋違いの使命感に憑りつかれている。……そんな有様で、「王」を名乗ることなどできません」

 

 嘗ての己に対して挑発とも取れる言葉を投げるアルトリアを、しかし白夜は止めようとはしなかった。彼女が抱えていた無念、それを知っていたエミヤも、黙したまま動かない。

 そして各々の予想通り、アルトリア(セイバー)は聞き捨てならない事を言った自分自身を睨み付け、強い口調で迫った。

 

「筋違いの使命感、だと? ―――私が、他ならぬ私自身が‼ そのような戯言を言うか‼」

 

「私だから言うのです、アルトリア。激昂する前に冷静になって思い返しなさい。ランスロット、ガウェイン、ベディヴィエール、トリスタン、アグラヴェイン、ギャラハッド、パーシヴァル、ケイ、ガヘリス、ガレス、パロミデス―――その他キャメロットの城に集った騎士たちの顔を。庇護下にあった民たちの顔を」

 

「私がそこまで耄碌したとでも言うのか‼ 褪せず思い返せるからこそ望むのだ‼ ブリテンの滅亡の運命を‼ 滅びゆく歴史そのものを‼」

 

 耐え切れずアルトリア(セイバー)が叫ぶと、堰を切ったかのように噴き出した高笑いが庭園中に響いた。

 その声の主は、無論の事白夜達でもなければ、神妙な面持ちのままのイスカンダルでもない。黄金を身に纏った英雄王だけが、嘲笑を滲ませた笑いをあげている。

 

「何が可笑しい‼ アーチャー‼」

 

「これが笑わずにいられるか‼ 故国の滅亡を憂い、あまつさえ叶わぬ繁栄を杯に託すだと? 道化の戯言もかくやの妄言だ‼ 気に入ったぞセイバー‼」

 

 その言葉にアルトリア(セイバー)は思わず聖剣を取り出しそうになるが、それはもう一人の己の手によって制される。しかし彼女自身も思わないところがないわけではないようで、鋭い視線をギルガメッシュに向ける。

 

「貴女は黙っていてください、ギルガメッシュ。徒にアルトリア()を煽らないでいただきたい」

 

「ほう、そういう貴様はどうだ。世を知らぬ箱庭の姫のような詭弁を弄さないと?」

 

「白無垢のような私を期待していたのであれば、残念でしたね。そのように称されるには、私はあまりにも多くのものを見、聞き、身を以て体験しすぎた。―――無論、それを後悔したことなど一度たりとてありませんでしたが」

 

 ギルガメッシュが不機嫌そうに眉を顰めたのは、己の期待していた言葉が返ってこなかったからだろう。しかしそんな視線を受けても、アルトリアの表情は凪のように落ち着いている。

 そんな彼女の姿を見て、ギルガメッシュとは対照的にイスカンダルは興味深げに口を開いた。

 

「うむ、その在り方もまた良しか。しかしな、《《アルトリア・ペンドラゴン》》、今の貴様は「王」ではないぞ」

 

「……分かっています、征服王。ですから先ほども言った通り、今の私はただの英霊に過ぎない。ただのセイバー、ただのアルトリアです。故に王の会談に入るつもりはなかったのですが……ロード、貴方の気持ちが良く分かったような気がしますね」

 

「こればかりは実際に味わってみなければ分からないものだ。気にすることはないだろう」

 

 先達と称するには些か奇妙な形ではあるが、アルトリアにとってみればこの場は望まぬ形で己の信念が揺らいだ場であった。

 他者、それも他の国の王によって半ば言い負かされるような形で揺らいでしまったからこそ、その後に形容しがたいひねくれかたをしてしまった。その原因は嘗ての第四次聖杯戦争のマスターであったり、己の最期だったりと幾らも考え付くが、目に見える契機となったのがこの場であったのだと彼女は思っていた。

 

 本来であれば言葉通り静観するつもりでいたのだが、嘗ての自分の焦燥感などを改めて客観的に見てみると、口を挟まずにはいられなかった。

 自分と同じ末路を辿るというその姿を見ていられなかったと言えば聞こえはいいが、要は自分の我儘であることもまた理解していた。だからこそ現在のマスターである白夜が止めるようなことがあれば口を慎むつもりでいたのだが、念話では彼はアルトリアを止めるようなことはなく、寧ろ背中を押してくれていた。

 

『何かマズい状態になったら俺たちで何とかするから、言いたいことを言えば良いと思うよ。……あ、でも熱くならないように気を付けて。あくまでも冷静に、ね』

 

 その言葉を思い出し、激情に駆られそうになった心を慌ててクールダウンする時もあった。

 だが、この程度の言葉の交わし合いで大人しく引くほど柔ではないことは自分自身だからこそ一番良く分かる。ましてや嘗ての騎士がバーサーカーに堕ちてまで現界しているとなれば、精神的な猶予もないのだろう。

 現にアルトリア(セイバー)は、今もアルトリアを厳しい視線で睨み続けている。その上ギルガメッシュに不快感を抱かれたとあらば、結果としてマスターに迷惑をかけることになってしまったかと軽率な行動を反省せざるを得なかったが、その時孔明が口を開いた。

 

「セイバー、君が聖杯を求める理由は分かった。それそのものについては王でなければただの部外者である我々は何も言うまい。

 だが、君が願いを叶える為に聖杯を手にすれば、悪意の泥が溢れ出し、少なからずの犠牲者を出すだろう。……高潔な君は、それを望まないはずだ」

 

「っ……それは……」

 

「征服王イスカンダル、貴方とて同じ筈だ。貴方の願いである受肉が果たされたところで、征服すべき土地が焦土と化していたのならば意味はあるまい」

 

「ほぅ、余の願いを知っているのか、キャスター。ただまぁ、確かにな。人の営みが存在しない場所を征するのは、それは「征服」とは言わん。余の求めるところではない。……坊主、貴様はどうだ」

 

「ぼ、僕は元々聖杯に興味はないよ。知ってるだろオマエなら。……それが害を及ぼすモノなら、尚更だ」

 

 暴君としての一面も持つイスカンダルではあるが、しかしながらその「征服」はその地に住む人々の営みを破壊しつくしてまで行うものではないという事を、孔明は理解していた。

 勝利して尚滅ぼさぬ。征服して尚辱めぬ。―――それこそが真の意味での征服であると、彼は豪快に言い切って見せたのを今でも鮮明に思い出せる。

 

 アルトリア(セイバー)とて同じだろう。己に常に正しさを課してきた彼女であれば、この聖杯戦争で勝利に近づくことが何を引き起こすのか。その結末を見て見ぬふりをする筈がない。

 過去の彼方に消えた故郷と今の人々が暮らす現代の選択を迫られて迷いなく前者を取れるようであれば彼女の中に葛藤など生まれなかっただろうが、彼女自身の性格も相まって、事はそう簡単ではない。

 

 だがそれでも、納得はしてもらわなければならないのだ。

 大魔術の隠遁という建前で聖杯の稼働を止めなければならないという使命が孔明には―――ロード・エルメロイⅡ世にはある。例えそれが特異点と化した並行世界軸の話であっても、そこに第四次聖杯戦争が関わってくるのならば、出向く義務が存在する。

 

 

 

「下らん」

 

 だが、そんな覚悟を嘲るように、最古の暴君は一蹴する。

 

「雑種共が、誰の許可を得て我が蔵の宝物の価値を定めている。(オレ)の臣下ですらない貴様らが卑しくも物乞いのような真似をするならば……万死に値する愚行と見做すぞ」

 

「おうおう、貴様も少しは頭を柔らかくせんか、バビロニアの英雄王。聖杯が貴様の宝物であるとかないとか、ンな事はもうどうだっていいという事が分からんのか」

 

「……言葉を選べ、雑種。征服王などと己惚れておきながら、所詮はただの盗掘者か。(オレ)の財は、(オレ)の思慮で以てのみその価値を定められる。例え聖杯(我の宝物)が蛇蝎もかくやの汚物に堕ちていたとしても、(オレ)の目に叶う代物であったのならば存分に活用してやろう」

 

「っ、アーチャー‼ 貴様は何の躊躇いもなく使うというのか‼ 世の営みを崩壊させかねない魔具を―――」

 

 アルトリア(セイバー)がそう抗議するも、言葉を遮るように彼女の首元に『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から覗いた宝剣の切っ先が突きつけられる。応じるように『風王結界(インビジブル・エア)』を纏わせた聖剣を取り出すという一触即発の状態になったが、それでもギルガメッシュの口は閉じない。

 

「この世は醜悪だ。ウルクの地では当然のように存在していた個の存在価値というものが見当たらん。怠惰に、無意識に、無価値に生きるモノらが跋扈する世界がどうなろうが、(オレ)の意に介する事ではない」

 

 幼少期の聡明な彼であれば、ヒトの醜悪さを感じてはいても己の見識そのものを狭めるような行為はしなかっただろう。

 だが、暴君の側面が強い彼は違う。古代ウルクの時代では奴隷ですらあったヒトの存在価値を無為に貪り続ける現代社会の人間の在り方を「無意味」と捉えてしまった。それこそ、聖杯が齎す悪意に吞まれて滅せられようがどうでもよいと思ってしまうほどに。

 

 それは紛れもなく、「王の裁断」であった。本来であれば、その裁断に異を唱えることは許されることではない。

 だが、この場には彼と同じ「王」が他にもいる。その中の誰かが真っ先に反論するものだと、そう思ってしまうことは不思議ではなかった。―――そう、普通であるならば。

 

 

 

「―――英雄王」

 

 

 口火を切ったのは、白夜だった。音も立てずに末席の椅子から立ち上がり、その瞳は真っすぐにギルガメッシュを見据えている。

 

 その瞬間、アルトリアはアルトリア(セイバー)の傍らから霊体化して離れ、白夜の傍に再び現界する。マシュも表情を引き締め、エミヤと孔明も内心で溜息を吐きながら動向に気を配り始める。空気の流れを察したディルムッドも、臨戦態勢の一歩手前に入っていた。

 

「何だ、雑種。貴様に口を挟む権利を与えた覚えはないぞ」

 

「申し訳ないけれど、貴方の裁定は受け入れられない。聖杯は必ず封印するか、破壊する。―――それだけは絶対に譲れないんだ」

 

 瞬間、重力が数倍になったかのような圧力に精神が軋む。それは紛れもなく、視線の先の暴君から放たれたものであり、それはデミ・サーヴァントとしてただの人間よりも頑強であるはずのマシュですら思わず跪いてしまいそうになるほどであった。

 だが、それでも岸波白夜の意志は全くと言っていいほど揺るがない。心の中では恐怖心もあるだろうし、圧に耐えている部分もあるだろうが、表情には一片の曇りもない。

 「戦闘能力で役に立たない分、精神力では負けるわけにはいかない」とは彼の口癖のようなものだが、相手が原初の王でもその姿勢は変わらなかった。

 

 己の圧で引かなかったその様子を見、ギルガメッシュも席を立つ。前に出ようとするマシュたちをやんわりと止めながら、白夜も更に前に出た。

 彼我の距離は数メートルという位置で向かい合った二人。ギルガメッシュは嘲弄するでも激昂するでもなく、ただ天上からの視線で以て白夜を睥睨する。

 

(オレ)を王と知っての戯言か? 雑種」

 

「戯言じゃなく、本音だよ。貴方にとっては無意味に見えるかもしれないけれど、ヒトは決して無価値な存在じゃない。貴方()の判断一つで消し去られてしまうほど、ちっぽけな存在なんかじゃない」

 

 それは、英霊でもなく、魔術師としてでもなく、ただ一人の普通の「人間」として数多の特異点を渡り歩いた白夜だからこそ言える、綺麗事ではない本音だった。

 人は誰しも、懸命に生きている。罪を犯し、何を成したわけでもない人間であっても、生きている事が罪であることはない。懸命に生きようと足掻いていても、天運に左右されて命を落とす人もいる。救おうとしても救えなかった命など、数えあげればキリがない。

 

 だからこそ白夜は、原初の王の前であろうとも言ってみせる。貴方の判断一つで失われるほど、ヒトの価値は安くはない―――と。

 

「……雑種如きが。吼えるではないか」

 

 高らかな怒気ではなく、あくまでも静かに、ギルガメッシュはそう零す。

 黄金の光が視界を照らすまでに、そう時間はかからなかった。光輝く武器は十数挺。その全てが、白夜に剣鋒を向けている。

 

「先ぱ―――」

 

「待ちたまえ」

 

 流石に黙ってはいられず、盾を構えて白夜を守ろうと動いたマシュを、エミヤが制する。その意図が分からず、冷静さを失いかけていたマシュはエミヤに鋭い視線を向けた。

 

「何でですか、エミヤ先輩‼ あのままじゃ先輩が―――」

 

「あの場所に、一人で立つのが彼なりの覚悟だ。それは決して無視できるものではない」

 

「でも―――」

 

「仮にそれを無視して君があの場に立とうものならば、それは最悪の事態を招く」

 

 それが何を意味しているのかを察したマシュは、不承不承と言った表情で一歩下がった。

 とはいえ、エミヤとて平静とした感情で傍観しているわけではない。それは孔明とて同じだった。

 特に孔明は、ああいうギルガメッシュを一度見た事がある。あの男の最期を看取った後、冬木大橋の路上で言葉を交わしたあの数十秒は、最も死を覚悟した時間であったと言っても過言ではない。

 

 慢心がなく、裁定者として冷徹に徹した状態のギルガメッシュを前にした時に、退くも(おもね)るも最悪の手段。

 王の決定に異を唱えるのであれば、相応の覚悟を示すのが必定。言葉だけではなく、その身を以て示さなくてはならない。

 護るものなど何もない身一つ。今の白夜は文字通り無防備だ。あの状態であれば、英霊でなくとも仕留めるのはそう難しくもないだろう。

 

 視線を合わせたままどちらも逸らす気配がない状態が数分続き、そして何の前触れもなく、黄金の武具が奔流となって白夜の立っている場所を襲った。

 

「――――――ッ」

 

 一つでも当たれば、即死は免れない。否、そうでなくとも余波だけでダメージは受けるだろう。

 立ってはいないだろうと、誰もがそう思った。そもそも評価規格外EXランク宝具の斉射を受けて立っていられる人類などそうそう存在しない。

 だが―――。

 

 

 

「―――雑種」

 

「何、か?」

 

「貴様は(オレ)の宝物を封じ、あまつさえ破壊するといったな」

 

「えぇ、まぁ」

 

「何の為にだ」

 

「世界の為に」

 

 岸波白夜は立っていた。

 武具は全て彼の周囲を取り巻くように地面に深々と突き刺さり、余波で切り裂かれた肌からは鮮血が垂れ流されている。その出血量はとても軽傷とは言い難く、傍から見ても相当の痛みを伴っているのは明らかだった。

 

 だが、その視線は未だにギルガメッシュの双眸を捉えて離さない。退かず、阿らず、曲げる事などありえない意志を変わらず燃やして原初の王の問いかけに間髪入れずに答えていく。

 

「雑種の分際で世界を背負うか」

 

「背負えはしない。貴方のように強くはないからね。だから、皆の力を借りて救いに行く。皆の未来を守るために」

 

 それ以外の理由はなく、それ以上の理由など存在しない。

 人々に持て囃される栄光など要らず、英雄の称号など以ての外。どうしようもなく後手に回り、世界終焉のカウントダウンの中で、それでも未来(あす)を勝ち取るために戦うことを止めなかった一人の少年の意志が、その言葉には詰まっていた。

 

 虚栄、偽り、そんなものは一切含まれていない。数多の英霊と共に幾多の死地を潜り抜けた少年の生死を賭けた状況の言葉に、そんなものが含まれているはずがない。

 

 そしてそれは、再びギルガメッシュの口角を吊り上げさせるに充分なものだった。

 

 

「ククッ、フハハハハハハハッ‼ それが貴様か‼ 貴様の意志か‼ 雑種の分際で、このギルガメッシュの前でようも大言を吐いたものよな‼」

 

 高笑いと共に、地面に突き刺さった武具たちは霧散して消え失せた。立っているだけでも押しつぶされそうな圧力からも、同時に解放される。

 

「面白い。セイバーを玩弄して堕ち行く姿を見るのも一興かと思ったが―――気が変わった。雑種、名を何という」

 

「岸波、白夜」

 

「白夜、杯は貴様にくれてやる。その上で貴様がどう足掻くか、この(オレ)に余さず見せるが良い。……虚言であればその瞬間、貴様の首は胴と別れると覚悟しておけ」

 

 そう言い、ギルガメッシュが背を向けると、白夜は思わず膝をついた。駆け寄ってきたマシュによって手早く応急処置を済まされていく彼だったが、ギルガメッシュの言葉は未だに続いていた。

 

「さて、まずは―――」

 

 直後、アイリスフィールの体内に存在する膨大な量の魔術回路が一斉に励起し始めた。

 それは、彼女がこのアインツベルン城、ひいてはアインツベルンの森に張っていた結界内に侵入した存在を感知したという事。()()()は常人では考えられないスピードで、この宴の場に迫っていた。

 

「この煩わしい黒子共を討ち払って見せるが良い」

 

 煙幕のような漆黒の靄から湧き出てきたのは、黒衣の軍勢。その個体がそれぞれ髑髏の仮面を身に着けているが、その輪郭は茫として見定めることができない。

 百の貌を持つハサンの一角。ぐるりと宴を囲むそれらの脅威から同盟相手を守り抜く。

 

 それが今、白夜に課せられた原初の王からの最初の試練だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 どうも。ネロ祭りのエキシビションメイヴを相手に、取り巻きボッコボコにしてから酒呑ちゃんの方具で逆にデバフ掛けまくってフレジャックちゃんに仕留めてもらった十三です。気持ちえがったー。

 長らく更新できずにすみませんでした。活動報告にも挙げたのですが、卒業論文の方に手間取ってしまいまして……いやぁ、辛かった。
 一応、一応ではありますがひと段落したのでまたぼちぼち更新を再開していきます。皆様方にはご不便をおかけしますが、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

 さて、この話から『Fate/Turn ZeroOrder』の後半戦の開始ですかね。悪ノリし始めた聖杯くんが何をしでかすかご覧ください。それと、桜ちゃんの事も忘れないであげてくださいお願いします。

PS:プリズマ☆イリヤ映画化だとう⁉ 攻めすぎじゃないか⁉ いや嬉しいけど‼
PS:プリズマ☆イリヤと言えばイベントで配布されたクロのスキルの使い勝手が良すぎてオカン涙目なんですがそれは。


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