Fate/Turn ZeroOrder   作:十三

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 GW終わった(絶望)。これでまた地獄の就活が始まるぜヒャッハー。

 とか言っておきながら結月ゆかりのプレイ実況動画見て久しぶりに『Fallout4』がやりたくなったり、遅ればせながらVita版の進撃の巨人のゲームをプレイしている十三です。

 皆さん、FGOイベントはどうでしたか? 私は時間が余り過ぎて種火周回した行っていないのが現状なのですが。
 なんだかピックアップガチャで水着サーヴァントが実装されるのではないかという噂を聞いたり、後々イベントでバーサーカー茨木童子討伐レイドをやるとかいう情報を聞いてなんとなくテンション上がってます。
 ガチャはいいとして、レイドってお前、サーバーのメンテは充分か⁉





ACT-4 「昏き新都のひと騒動」

 

 

 

 

「疲れた。もう帰りたい。寝たい」

 

「先輩先輩、あともう少しです。サークルポイントまで帰れれば睡眠はとれますよ」

 

「大丈夫。肉体的にはそんな疲れてないから。寧ろ疲れたのは精神的にだから」

 

 

 時刻は午後11時。住宅街の方は既に静寂に包まれている頃合いだが、開発が今も進む副都心の如き様相を呈しているここ新都では、時刻が日を跨ぐ頃になっても人工的な光源が絶える事はない。

 特に白夜とマシュ、そして孔明が現在エレベーターを使って1階ロビーまで降りているこの高級ホテル『冬木ニュータワー』は別格だ。

 

 高度経済成長期以降発展を遂げてきた冬木市新都の中でも、特にこの辺りは設備の拡張が著しい。オフィス街こそ未だ6割程度しか完成していないが、駅前のショッピングモールや歓楽街などは既に完成し、年々人口が増えてきているのが現状だ。

 とはいえ、2015年の日本の街並みを知っている白夜にとっては、未だこの街並みもどこかに”古さ”が残っている。

 

 この冬木ニュータワーにしてもそうだ。どことなく最先端という言葉に縋りつくようにして建てられたかのような痕跡がちらほら残る。特級の贅沢とはとんと縁がない一般家庭に生を受けて暮らしていた為にそうした機微には疎いと自覚はしているが、それでも違和感を感じずにはいられない。

 言うなれば、無個性だ。日本という国の個性がどこにもない。実際このホテルに足を踏み入れた際には、外国に迷い込んだのかと錯覚したほどだった。

 

 しかし、そんな事はどうでもよい。こういった愚痴じみた言葉が喉から出そうになるほどに、今白夜は精神的に疲労困憊していた。

 

 

「全く情けない。時計塔に在籍していればああした話し合いは日常茶飯事だぞ」

 

「いやそこじゃないよ。確かに緊張感凄かったけどそこじゃないからね。俺が言ってるのは」

 

 つい先程までこのホテルの最上階32階のスイートルームで行っていたのは、ランサー陣営のマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトとの会談だ。

 どうあっても脱落してもらっては困るランサー陣営と同盟関係を結ぶために話し合いに赴いたのだが―――そこに関しては白夜は一切負担を感じなかった。否、一切口を出させてもらえなかったと言うべきだろうか。

 

 全てが孔明、ロード・エルメロイⅡ世の思うがままという表現が一番正しかったかもしれない。

 自分たちが何者であるかという核心的な部分は上手い具合に煙に巻いて、まるで自分の意志で動かす人形劇のシナリオの如く、いっそ芸術的と言わんばかりの手腕で以て口車に乗せ、ある事ない事も巧みに混ぜ合わせて話を進めていったその対応力の高さには感心を通り越して辟易とした程だった。

 

 無論、相手も時計塔の一級講師にして、魔術師の中では事実上最高位の位である『色位』を冠する天才。これまで時計塔という政敵が跋扈する場所で生き抜いてきただけあって交渉術もお手の物だったのだろうが、彼の相手にする際の弱点を知り尽くしていた彼にとってはそれほど難度が高かった試みではなかったのだろう。

 貴族、そして9代も続く名門魔術師の家の当主であるというプライドの高さ。それを貶めるのではなく、逆に際限なく持ち上げる事によって終始話を有利に進めてみせ、既に監督役側から令呪の一画譲渡という報酬と引き換えに討伐命令が出されていたキャスターの潜伏場所を手土産にした効力もあってか、共同戦線を張る事には了承してもらえたのである。

 

 ……まぁ、高慢な面しかないと思っていたアーチボルト家の当主に愛妻家(実際にはまだ許嫁の段階だが)の側面があり、若干キャラ崩壊するまでに至ったのは予想外ではあったが。

 

 

「明日からはまた激戦が予想されます。先輩には英気を養ってもらわないと」

 

「まぁオルレアンの時みたく、目が覚めたら目の前にワイバーンよりはマシかなぁ」

 

 そうした他愛のない会話をしながらエレベーターを降り、最上級の礼と共に見送ってくれたホテルマンらに会釈を返してから、肌寒い新都の夜空の下に出る。

 未だタクシーが行き交う表通りに背を向けてホテルの裏手側―――人気がない方へと足を進めて行き、やがて周囲に人影が完全になくなった頃を見計らって、一同は徐に足を止めた。

 

 

「―――見送りありがとう。もうマスターの下に戻ってもいいんじゃないかな?」

 

 そう声を掛けると、白夜たちの十数歩後ろ、街灯の光が差さない場所に、揺れる影が具現化した。

 姿を現したのは若草色の戦装束を身に着けた身目麗しい長躯の武人。左右に携えた長さの違う二振りの槍こそが、彼がランサーのサーヴァントである事を示す何よりの証拠だった。

 

「霊体化したサーヴァントの気配を察するとは……何者なのだ、貴公は」

 

「あはは、いやいや。気配なんて分かるわけないじゃないか。俺はただの三流魔術師だよ? 今はただ()()()()()()()()()()()って思ったから声を掛けただけだし」

 

 或いはそれは経験則と言い換えてもいいだろう。観察眼に長けているからこそ、白夜は行動の読みを何より得意とする。

 例えば今、昨夜埠頭で出会ったこの槍兵の英霊が主の命を受けて見送りという名の監視を行っていたであろうことも、彼にしてみれば予想の範疇内であった。

 

「心配しなくても、俺たちは貴方たちに害が及ぶような事はしないよ。―――と言っても、戦争中に不確定要素しかない部外者の言葉を鵜呑みにするようなら、忠臣失格だろうけどね」

 

「無論。はっきりと言わせて貰えば、俺はまだそちらを信用したわけではない。共闘こそ了承したが、それはあくまで戦術の一部である事を忘れないでもらおう」

 

「いいんじゃないかな? 貴方が生きていた頃の”共闘”だって、そういったものだっただろうし」

 

 ケルト神話が一説、フィン物語群にて語られるフィオナ騎士団最強の戦士、ディルムッド・オディナ―――それがランサーの真名であった。

 妖精王オェングス、海神マナナン・マクリルを育ての親に持ち、異性を虜にする魔法の黒子を妖精によって授けられた英霊であり、それが原因で悲劇の運命を辿る事となった人物でもある。

 

 

 

 白夜は数多のサーヴァントのマスターとして責を担う事になった時以来、カルデアの書庫に保管されてあった数多の英雄の活躍と最期が描かれた神話や伝記などを読み耽る事が多くなった。

 それは彼なりにいずれ呼び出す事になるかもしれないサーヴァントに対してする事ができる最低限の”迎えの準備”であり、同時に彼らが触れて欲しくない生前の過ちや凄惨な最期などをあらかじめ知っておいて対処する事で関係の軋轢を生まないようにする意味合いもあった。

 

 まぁ実際のところはアンデルセンやシェイクスピアの影響で戯曲などにも詳しくなってしまったり、ナーサリー・ライムが持ってくる童話を暇潰しに読んだりしていたせいで書物全般の知識にそこそこ詳しくなったりもしているのだが、今はそれは余談でしかない。

 

 無論その知識の中には、ケルト神話群に生きた英雄たちの物語も含まれている。

 ディルムッド・オディナといえば、フィオナ騎士団首領フィン・マックールの下で忠義を尽くし、数々の武功を打ち立てた歴戦の英雄だ。その活躍は、以前にカルデアに呼んだアルスター伝説の英雄クー・フーリンも絶賛し、何れ矛を交えたいと酒の席で嬉々として言っていた事を覚えている。

 

 

 故にこそ勿論―――彼の最期も知っている。

 魅惑の黒子の影響で首領フィン・マックールと婚約を交わすはずだったエリンの上王(ハイ・キング)コーマックの娘グラーニャが、ディルムッドに恋慕の念を抱き、ケルト戦士の誇りである禁忌(ゲッシュ)に誓わせてまで彼と逃避行をする道を選ぶのだ。

 ディルムッドはその禁忌(ゲッシュ)を騎士として守り通し、憤怒に駆られたフィンが差し向けた追っ手たちの猛攻を掻い潜り、遂に先に音を上げたフィン自身の命によって許しを得るまでの実に7年もの間、彼はグラーニャを一度も抱くことなく、主君への忠義を貫き通した。しかし老君フィンは、その心中では不義を行った騎士に対する激情を渦巻かせていたのである。

 

 ディルムッド・オディナ。騎士団最強の誉れも高い彼に致命傷を負わせたのは、一頭のイノシシだった。しかし、それはただの野獣とは位が違う存在だった。

 その正体は、ディルムッドの母が夫オインガスに仕えていた執事との間の不義により生まれた異父の弟であった。彼は妻の不義を怒ったオインガスにより殺されてしまうが、父の執事が魔法の杖を使ってその死体を打ち付けると、たちまち弟はイノシシの姿に変貌し、『いずれディルムッドを殺すように』という禁忌(ゲッシュ)を執事によって掛けられた後、野に放たれたのである。

 

 そうした由縁もあって、ディルムッドは決してイノシシ狩りには同行しないというのが騎士団内の常識として知れ渡っていた。しかしフィンはそれを知りながら言葉巧みにディルムッドをイノシシ狩りに誘い、その狩りの獲物としてアイルランド北西部のベン・ブルベンという山に潜んでいた―――この魔猪を選んだのである。

 

 魔猪に掛けられた禁忌(ゲッシュ)は年月を経るごとにその凶悪さを増していき、遂には一流の騎士であるディルムッドをもその牙で以て貫いた。

 致命傷を負ったディルムッドを救う事ができたのは、その手で以て掬った水を癒しの妙薬に変える事のできる能力を授かったフィンのみ。しかし彼はたった9歩を運べば事足りるその距離で、水を二度も地面に溢した。そして三度目に運んできた際、既にディルムッドの息は絶えていたのである。

 

 

 この物語を座に上った際に知る事となったケルトの武人たちは口を揃えて言った。「老いて()けたか、フィン」と。

 その所業は、決して許されるものではなかった。現にフィンの孫であった騎士団の一員でありディルムッドの親友であったオスカーは、この一件以降フィンに対して猜疑心を隠す事がなくなり、戦場で息絶えるその瞬間にすら、祖父に対しての怒りを抱いていたほどだった。

 

 白夜自身、この結末に不満を抱かないかと言えば嘘となる。最期まで主君に忠義を尽くした騎士の誉れたる武人が、何故こうも凄惨な最期を迎えなければならなかったのか、と。

 しかしそれは、現代に生きる自分たちが考察すべき事ではない。その最後に当人が納得していようがしまいが、それは終わった時代の話だ。それを横から憐憫するのは、彼らに対する侮辱である。

 

 

 それに、実際に相対してみて分かった。彼は、ディルムッド・オディナという英霊は、卑賎な騎士などでは断じてないのだと。

 きっと彼は、自身の最期に対しても思うところなど何もなかったのだろう。主君への猜疑などただの一度たりとも思わなかっただろうし、ましてや己に禁忌(ゲッシュ)を掛けた女性に対して恨み言など心の中ですら欠片もなかったに違いない。

 全てはただ巡り合わせが悪かったのだと、そう思い至って納得したのだろう。サーヴァントとして現界した理由も、おのずと理解が及ぶというものだ。

 

 

「俺たちは俺たちの信じる事をするだけだ。貴方も貴方の信じる誓いを貫き通す。それだけなんだろう?」

 

「―――あぁ。そうだな。俺は騎士として、主の命に従うまでだ」

 

 所詮、交わす言葉などそれしかないし、それくらいが丁度よい。

 主の意志に沿って動く故に、マスターが味方である内は背中から攻撃される事はないだろう。あとはもう、状況の進み具合如何によるという事だ。

 すると、先程からずっと無言を決め込んでいた孔明が、白夜の方を向き、薄い笑みを浮かべた。

 

「とまぁ、こんな感じでこちらのマスターは飄々とした一面が多くてね。かと思えば意志は鋼以上に強固と来た。ケイネス卿からはあわよくば本性を探り出して来いとも言われたのだろうが、生憎の結果となってしまったようだな」

 

「なに、先程の会談では一言も発していなかったが、目を見ればその人格は大抵は分かる。中々良いマスターと巡り合えたようだな」

 

「そうですね。私も先輩と巡り合えて幸運でした。そこに異存はありません」

 

 何故そこまで自分に対する評価が高いのだろうと思いながらも、ディルムッドは再び霊体化してその場から離れてしまった。夜の新都に、再び静寂が舞い戻る。

 吹き抜ける寒々しい風が、思わず鳥肌を立たせてしまう。疑似サーヴァント、そしてデミ・サーヴァントである孔明やマシュは外的気候の変化にも対応し得るだろうが、本当にただの人間である白夜はそうはいかない。体温の低下を阻止する基礎魔術を掛け直してから、再び硬いコンクリートの上を三人で歩いて行く。

 

「―――伝説通り、忠に篤い騎士のようでしたね。ディルムッドさん」

 

「あぁ。私も一度しか会った事はないが、あれは相当なものだぞ。何せ騎士の正義を貫くためだけに自らの宝具を一つ自分の手でへし折ったくらいだ。―――当時は何を馬鹿な事をと思ったくらいだが、あれはあれで譲れないものがあるんだろう」

 

「でもさ、”騎士”とは言ってもアルトリアとか、デオンとかとは種類が違う訳でしょ?」

 

 今はエミヤと共に冬木市各地の脅威を掃討しながら霊脈の流れの調査を行っている騎士王や、スキルで男女の別すら思いのままの白百合の騎士などを思い浮かべて、白夜は思いついたように言う。

 

 そもそも、ディルムッドらフィオナ騎士団が活躍した時代はクー・フーリンらアルスター伝説の戦士らが活躍した凡そ300年後の事であり、その頃はまだイングランドという地にキリスト教の概念など存在しなかった時代でもある。

 だからこそ、意識概念的な意味合いでの騎士の在り方は異なるのが通説ではあるのだが、それでも根本的な在り方は変わらない。

 主に身命を捧げ、その身は主の命を全うし、誓いを守り通すために存在する。奉ずる意識そのものは、いつの時代とて同じ事だ。

 

 時にそれは、現代の合理主義的な考えとは相容れない事もあるだろう。己の利益のみを視野に入れて行動するのならば、騎士道という考え方は非常に非合理的な考えに見えるに違いない。

 ただ、それでも―――

 

「男の憧れってやつなのかなぁ」

 

 奉じる我を貫き通す―――その一途な生き方は、一介の男として憧れるものがある。

 どこまでも純粋に、どこまでも真っ直ぐに。己が果てるのは戦場であると信じて疑わないその姿勢そのものを、白夜は好ましく思っていた。

 

 まさにランサー、三騎士の一角たる英霊としては相応しい存在だろう。

 ……問題はその騎士道を、純粋な魔術師であるケイネスが理解できるかどうかなのだが。

 

 

 

「……しかし先程から、警察車両がよく通りますね」

 

 新都中心部から冬木大橋に向かって歩き続けていた最中、白と黒のツートンカラーで構成され、赤いランプを輝かせながら慌ただしく道路を行き交う警察車両の数々に目を止めたマシュが、そう呟いた。

 深夜の見回りにしては、妙に重々しい雰囲気が感じられる。それを察した孔明は「あぁ」と声を漏らした。

 

「第四次聖杯戦争開幕前から、この辺りでは厳重警備が敷かれている。原因はキャスターのマスターでもある連続殺人犯が夜な夜な犯行に及んでいたからだな。派手な時は、一家全員を皆殺しにした事もあるらしい」

 

「それは……酷いです」

 

「魔術の世界では偶に見かける光景だがな。己の魔術の発展のためならば一般人の命など埃よりも軽いと思っている屑がいるのも事実だ。それでもキッチリと隠蔽工作をするのが常なのだが……こうも騒々しいと動きにくくてかなわん」

 

 人が人を殺す様というのは、今までの特異点でも散々見かけて来た。

 戦場で兵士同士が殺し合いのは勿論の事、占領された街や村などで無辜の人達が惨殺されている姿も眼窩に映し込んできた。

 それを、”慣れた”とは思わない。今だって鮮血の海に沈んだ惨たらしい死体を見れば心が痛むし、黙祷を捧げたくなってしまう。―――否、そもそもその光景を何とも思わなくなってしまうのは、それは既に人の心のどこかが壊れてしまった証拠なのではないかと、常々白夜は思っていた。

 

 無論、その理論でサーヴァントたちを貶すつもりは毛頭ない。領民を虐げていたカーミラらの英霊も、元をただせばそう成らざるを得なかった理由があった。彼らは己の意志で人を殺し、その”殺す”という行為そのものに意味を見出し、そしてその果てに散って行った。今更それを責めるつもりなど毛頭ないが、もし彼らが悪行の限りを行っていた時代にレイシフトをする機会に恵まれたならば、それを止めさせるために奔走するハメになるのだろう。

 

 無辜の民の殺人(それ)そのものを許容するつもりは断じてない。それは許されざる悪行であり、それに対して怒りを覚えるのは間違いではないと分かっている。ともすれば、今抱いているこの複雑な感情も、正しく在るそれなのだろう。

 

「……キャスターのマスターは、魔術師として殺人を犯しているのかな」

 

「いや、違う。先程も言ったが、まっとうな魔術師ならば魔術を隠匿する為に後処理までも完璧に済ませるのが常だ。そこへいくとキャスターのマスターはただの生粋の殺人鬼だよ。後に調べて分かった事だが、彼の家系は数百年前の先祖が聞き齧り程度に魔術に手を出した程度のものだったらしい。畢竟、彼が元々己の意志でサーヴァントを召喚したとは考え辛いな」

 

「しかし、そんな人物に聖杯は令呪を託するのでしょうか?」

 

「冬木の聖杯はまず御三家の魔術師を最優先にサーヴァントを召喚できるだけの器量を持った魔術師をマスターに仕立て上げる。そして、聖杯戦争の開幕直前になっても7人全てが揃わなかった場合、そこいらにいる適当な魔術の素養がある人間をマスターに選ぶという性質を持っているんだ。

 これら外様のマスターを生粋の魔術師は軽視する傾向があるんだが……彼らは自分達と違う価値観を抱く者達がどれだけ脅威かという事を知らない。言うなればケイネス卿や、遠坂時臣などがまさにそれに当たるだろうな」

 

 そして運悪く、最後の一枠に選ばれたのが、先祖が魔術を齧っていたというだけの殺人鬼。恐らく聖遺物もなしに召喚を成功させたのだろうという事を踏まえると、根本的に性質が似通ったサーヴァントを召喚してしまったに違いない。

 それがキャスターともなれば更にタチが悪い。なるほど、魔術師のサーヴァントがサポートを行っているのならば、一般の警察の目を掻い潜って犯行を行う事も可能だろう。

 

「とくに奴は、聖杯戦争が勃発してからは年端もいかない子供を誘拐し、悪辣な殺害の限りを尽くした。君の性格ならばこういった事は許せないだろうが……霊脈が安定する明日までの辛抱だ。それで諸悪の根源は根絶やしにできる」

 

「……分かってる。今こちらの動きを読ませるわけにはいかない」

 

 そう、冷酷そうに振る舞って言葉を絞り出したものの、ギリッと歯軋りをする事はやめられなかった。

 恐らく今まで、何人もの子供たちが犠牲になったのだろう。親から離され、醜悪な殺人鬼の手に掛かって、慟哭を撒き散らしながら死んでいったに違いない。

 ただの一晩、それを見逃すという事を何も思わずに許容できるほど、岸波白夜という少年は冷徹ではない。

 

「先輩……」

 

 こちらを心配するマシュの声。それに多少救われたように感じ、僅かに冷静さを取り戻す。

 だからだろう。―――警察車両の目を掻い潜るようにして路地裏に走っていく子供の姿を発見する事ができたのは。

 

「路地裏に子供、ですか?」

 

「チッ、間が悪いな。新都の裏路地にはキャスターの放った海魔どもが犇めいている。騒ぎになるぞ」

 

 それが分かった直後には、白夜は駆けだしていた。

 こちらの動きを読ませまいと振り絞った理性も、今まさに惨たらしい最期を迎えるかもしれない子供の姿を見たとあっては黙ってはいられなかった。

 

 すぐさまネオンの輝きの影に隠れた空気の悪い場所に踏み込んだが、その瞬間、サーヴァントの魔力に引き寄せられたらしい有象無象の海魔が四方八方から飛び出してきた。

 

「ッ、一体一体はザコだが、数が多いな。―――マスター、ここは私が始末をつけておく。その間にその子供の後を追え」

 

「でも……」

 

「今の私が末席とはいえサーヴァントだという事を忘れるなよ? それに、こんな迷惑極まりない連中を野放しにしておくなど時計塔の君主(ロード)の沽券に関わるのでな」

 

 放った魔力弾で海魔を四散させながらそう言う孔明の言葉を信じ、白夜はマシュと共に路地をひたすら進んでいく。

 アルトリアやエミヤを呼び寄せる事も考えたが、彼らが今いるのは深山町の方だ。距離があるのは確かだし、何より、この程度の窮地などマシュと共に幾度も乗り越えて来た経験があった。

 

 すると、とある地下に繋がる建物の入り口前で、その子供に追いつく事ができた。

 

 

「君‼」

 

「ひゃうっ⁉」

 

 白夜の呼びかけに驚いたのは、長い髪をツインテールに括り、冬服を着込んだ一人の少女だった。光源が足りないためによくは分からないが、こんな場所を徘徊するには似つかわしくない身なりをしている。

 

「ここは危ないよ。親御さんは? はぐれちゃったのかな?」

 

「え……えっと、その……」

 

 あたふたとする少女の姿を見て、ここは同性のマシュに話しかけてもらった方が良かったかなと後悔していると、そのマシュから「先輩」と声を掛けられた。

 

「その子の持っているモノから魔力の反応がします。加えてその子自身からも」

 

「という事は……魔術師の卵、って事か」

 

「っ‼ という事はあなたたち、お父様の敵なの⁉」

 

 この聖杯戦争中において、冬木の地で出会う魔術師は、須らく陣営の敵と言っても過言ではないだろう。ならば少女の警戒は必然だし、少なくとも彼女は一族でこの戦争に参加している陣営の子という事になる。

 遠坂か、間桐か。どちらにせよ敵対する意はないと言わんばかりに、白夜は苦笑いをして軽く手を掲げた。

 

「いやいや。俺たちはどこの陣営とも対立をするつもりはない……よ。今はただ路地裏に入っていく君の姿が見えたから、心配になって追って来ただけだ」

 

「えぇ。今この辺りは非常に危険な魔生物がうろついています。危険ですので、速やかに表通りに戻った方が良いかと」

 

 その言葉は虚偽ではなく、本心からのものである事が少女に伝わったのだろう。一瞬釣り上げられた目は沈んでいき、しかしまだ胡乱ではあった。恐らく信じてよいものなのかどうかを自分なりに考えようとしているのだろう。

 しかし彼女は、幼いながらにして聡明だった。ゆっくりと、その首から下げたものを白夜とマシュに見せる。

 

「これは……宝石を使った魔道具でしょうか」

 

「うん。お父様から頂いた『魔力針』って道具。これを使って、ここまで来たの」

 

「何のために」

 

「コトネを……友達を助けるために」

 

 訊くところによると、彼女の学校での友人であるコトネという少女は、昨日から学校を休んでいるらしい。

 それだけならばまだ普通に病欠で済むのだろうが、冬木市内で児童連続誘拐事件が頻発しているこの状況である。少女はその友人の両親に電話をかけてはみたが、案の定取り合ってはくれなかった。冬木市内で起きた事件に巻き込まれたのだと、そう結論付けるのは難しい事ではなかったし、そしてそれを一般人が解決できるような代物ではない事も、彼女は分かっていた。

 

 聖杯戦争。7人の魔術師が覇を競い合う殺し合い。―――そうした事が行われる事は彼女も父から聞いていたし、それに巻き込まれないようにと母の実家に一時的に預けられたのも記憶に新しい出来事だ。

 恐ろしくなかったと言えば嘘になる。しかし彼女は、その戦争の渦中に自ら足を踏み入れた。ただ、自分の友達を救う為に。

 

「ずっと探してたら、一人の男の人が子供たちを連れていくのを見たの。そうしたら、この魔力針が突然凄い反応して……って今も⁉」

 

「マシュ、仕掛けは分かる?」

 

「……恐らく、魔力のある方向に針が反応する代物ですね。サーヴァント級の魔力を受ければ、流石にこうなってしまいますか」

 

 やがて針は、ものすごい勢いで輝いていたかと思うと、すぐに電源が切れるようにして沈黙してしまった。

 恐らくは壊れてしまった事に少女は一瞬残念そうな顔を浮かべたが、すぐに気丈な表情を取り戻した。

 

「お兄さんたちは、何か知らないの?」

 

「そうだね……サーヴァント級の魔力に対する反応を、普通の人間にするわけがない。十中八九、キャスターのマスターだな」

 

「その、連れてかれていた子供たちは、抵抗したりはしていなかったのですか?」

 

「う、ううん。皆、眠ったままみたいにフラフラしてて……」

 

「だとしたら、キャスターの製作した魔道具を身に着けていたのかもしれませんね。―――そして、子供たちがここに入って行った、と」

 

「コトネも、その中にいたの。わたし見たの‼」

 

 白夜とマシュは、怪しげな非常灯の明かりが灯るビルの地下部分を見下ろす。

 そうあっては、四の五の言っている時間はないようだ。精神的に疲弊していた筈の白夜の瞳に、闘気が戻り始める。

 

「だとしたら、行かなきゃな。マシュ、着いてきてくれ」

 

「当然です、先輩」

 

 さも当たり前のように正面から突入しようとする二人を見て、少女は驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「な、何で? ここまで来たのはわたしのワガママで……お兄さんたちは関係ないでしょ?」

 

「まぁ言ってしまえばそうなんだけどね。でも目の前で救えるかもしれない命があるのに無視するなんて、そんな胸糞悪い展開はゴメンだし、それに―――」

 

 白夜は徐に少女の頭に優しく手を置くと、先程の苦笑よりも自然な笑みを浮かべてみせた。

 

「友達の為に命張ろうとしてる子を見て、ほっとけるワケないんだよ。生憎とね」

 

「そうですね。私も同意見です」

 

 それは魔術師らしからぬ考え方ではあるのだろうが、生憎と固定観念に縛られるような身分では最初からない。助けたいから助けるという自己満足の感情だけを胸に進むのは、別に今回が初めてではないのだから。

 

「ぅ……あ、ありがと……」

 

「お礼は全部終わってから聞こうかな。マシュ、先行してくれ」

 

「はい、先輩」

 

 踏み込むのはキャスターのマスターの拠点か、さもなければ仮拠点。必然的にキャスターのクラス別スキルの一つである『陣地作成』スキルの迎撃を警戒しなくてはならない。

 そういう意味では、守備に秀で、最高位Aランクの『対魔力』スキルを保有するマシュは、先行にこれ以上ない人選であると言えた。

 

 大盾を構えて進むマシュの後ろに白夜が、そしてその後ろに身を屈めた少女が続く。そして入り口の扉を、物音を立てずにゆっくりと開けた。

 

 そこは、僅かで不気味な室内灯の明かりがある以外は、まるで視界の悪い場所だった。サーヴァントであるマシュはともかく、後ろに続く二人はまともに先を見通す事も出来ない。

 しかし、電気などという文明の利器が発明される以前の時代の特異点を幾度も旅してきた白夜にとっては、暗がりに目を慣らすのはそれほど難しくない事だった。十数秒もすれば暗闇の中から室内の設備の輪郭が見え始め、そして―――床に横たわる”それら”の姿もはっきりと捉えた。

 

「子供、たち?」

 

「はい。恐らく誘拐されてきた子供たちでしょう。しかし、これは……」

 

 マシュが倒れている子供の一人を優しく起き上がらせ、開いたままの双眸を覗き込む。

 その眼球は光を灯しておらず、不自然に色が濁って澱んでいた。

 

「幻術か何かが掛けられているようですね。それも、相当強力な」

 

「やっぱり一般人の仕業なんかじゃないか。ねぇ君、この中にその子は―――」

 

「‼ コトネっ、コトネでしょ⁉」

 

 白夜が促すまでもなく、少女は扉から差し込んだ光の中で友人の姿を発見していた。その友人も例外なく、幻術を掛けられて意識を奪われているようではあったが。

 白夜は、ゆっくりと周囲を見渡した。倒れている子供は推定でも20人ほど。全員を急な階段を上って地上まで運び、表通りまで連れていくのには時間が掛かってしまう。幻術そのものは孔明がいれば解除くらいは容易いだろうと結論付け、マシュにも手伝ってもらう為に声を掛けようとした、その時。

 

 

「あれぇ~? お兄さんたち誰? ちょっと今からパーティーの準備しなくちゃいけないから、お取り引き願ってもいいかなぁ?」

 

 耳に纏わりつくような癖のある声が、室内の奥から聞こえて来た。そうして姿を現したのは、赤みがかった髪色をした一人の青年。

 見た限りでは、容姿は整っている方だろう。その服装と併せても、一見すれば夜の歓楽街を練り歩く洒脱な遊び人のようにも見える。

 しかし、白夜は早々に「違う」と見切りをつけた。あれだけ全身から狂気と血の臭いを撒き散らす人間が、普通であるはずなど断じてない。

 

「……あんたがここの子たちを―――いや、今まで子供たちを攫って来た犯人か」

 

「人聞きの悪い事を言わないでよ。俺はただこの子たち連れて楽しい事してただけだって」

 

「…………」

 

 その”楽しい事”とやらは、男からすれば楽しいのだろうが、子供たちにとっては地獄の時間に他ならなかったはずだ。

 ふつふつと、抑え込んでいた怒りが再び込みあがってくる。

 

 前に出ようとしたマシュを、声を出さずに手だけで制する。キャスター本人はいないようだが、見通しが悪いこの状況で少女や他の子たちを守り通す事ができるのは彼女だけだ。

 相棒とも言える存在のサポートは期待できない状況で、白夜は一人殺人鬼と相対する。

 

 そして殺人鬼―――雨生龍之介は徐に右手を掲げてみせる。その手首には、紫色に怪しく光る腕輪(ブレスレッド)が填められていた。

 

「あぁ、もうメンド臭いや。とりあえずお兄さんたち、眠ってて貰える?」

 

 そう言うと同時に、ブレスレッドが一層強い光を放った。その光を目にして一瞬意識を持って行かれそうになった白夜だったが、すぐに彼から放たれた金色の光がその魔力波を弾き飛ばして見せた。

 

「……あっれ? お兄さん、何で効かないワケ?」

 

「生憎と、俺の魔術の先生は心配性でね」

 

 白夜は、ポケットから取り出した摩訶不思議な形をした金色に輝くブローチをお返しとばかりに掲げてみせる。

 

 それは、カルデアに滞在しているサーヴァントであり、白夜の魔術指導を執り行っている一人のキャスター、メディアが製作した魔道具の一つ。

 『陣地作成』と並んでキャスターのクラス別スキルである『道具作成』スキルを用いて作られたそれは、非常に強力な力を持つ。ましてやメディア自身の『道具作成』スキルが最高位のAランクである以上、生み出されるのは本当に生半可なモノではない。

 そして、とある日に白夜に”弟分へのプレゼント”として贈られたこれは、精神干渉系・直接攻撃系の如何に関わらず、使用者に向けられた魔術をキャンセルする能力を持つ魔道具だった。推定B+ランク相当の『対魔力』と同等の効力を持つこれの前には、如何に同じサーヴァントの作った魔道具であったとしても簡単に突破できるものではない。

 

「へぇ。んじゃ、ちょっと物理的に眠って貰おうか―――なっ」

 

 すると龍之介は、ポケットの中から折れ畳み式のナイフを取り出して白夜に切りかかる。その様子を見て少女は思わず息を呑んだが、当の本人は狼狽える事もなく、足を動かした。

 

「この程度なら、俺でもどうにかできるかな」

 

 まず突き出されたナイフを持ち前の観察眼で以て避け、次に足を動かして少々モタつきながら足払いを掛ける。そして体勢を崩したところで、魔力で強化した上での渾身の力で鳩尾に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 

 戦士としての才がない―――確かに今まで出会った戦士系のサーヴァントたちには、口を揃えてそう言われてきた。観察眼と洞察眼、そして戦術眼はそれこそ見事だが、それについていける体がない。故に前線で戦うには最も似合わないと、けんもほろろに言われたのは覚えているし、忘れてもいない。―――そう、()()()()()()()()()()()である。

 

 実際、彼らと普通の一般人を比べる事自体が既に烏滸がましい事なのだ。あちらは神の祝福を受けたレベルの者達がそう珍しくもなく存在している。

 故に、白夜と同じ一般人からの視点であれば、彼はそこそこ体術の心得はあったりする。幾ら才能がないと言われようと、最低限の自衛くらいはできなくては本当に足手まといだと言い張って、なるべく無理のない範囲での鍛錬を積んだ結果、そこいらの不良やゴロツキ程度の相手ならば多すぎない程度であれば複数人も相手取れる程度には成長できたのだ。―――尤も、武器の扱いが壊滅的なのは本当なので、自然と徒手空拳だけになってしまったが。

 

 すると、元々先程の魔道具のカウンターで罅が入っていたらしいブレスレッドが衝撃で完全に壊れてしまったらしく、龍之介が吹き飛ばされる軌跡に沿って紫色の破片が散って行く。

 それと同時に、子供たちの目に色が戻った。

 

 

「あ……れ?」

 

「こ、ここどこ?」

 

「ママー? パパー?」

 

 意識を取り戻した事自体は嬉しい事ではあるが、このままだと泣き喚いたりして余計収集が着かなくなる可能性すらある。キャスターのマスターは仕留めきれはしなかっただろうが、今の最優先目標は子供たちの救出。それを履き違えてはいなかった。

 

「皆、すぐそこのドアから外に出て、このお姉さんに着いて行って明るい方に向かうんだ‼ そこにおまわりさんがいるから、そこまで頑張って走ってくれ‼

 マシュ、子供たちに先行してルートの確保‼ 邪魔な海魔がいたら叩き潰せ‼」

 

「了解です‼ さぁ皆さん、こっちへ‼」

 

 マシュがドアを開け放つと、我先にと外に出ていく子供たち。最後に残ったのは、個人差で漸く幻術が解けたコトネと、それを介抱していた少女。

 

 

「ん……ぁ、れ? リン、ちゃん?」

 

「コトネ‼ 大丈夫⁉」

 

「ぅ……ん。でも、あれ? ここ、どこ?」

 

「今は説明してるヒマはないから、走れる⁉」

 

「う、うん‼」

 

 友人である少女の剣幕に押されてか、意識が覚醒してから立ち上がるまでは早かった。その様子を見て安堵した白夜は、殺人鬼を吹き飛ばした方向を注視しながら、言葉を投げる。

 

「君達も早く逃げるんだ。早くしないと追いつけなくなる」

 

「で、でもお兄さんは―――」

 

「大丈夫。君達が逃げたら、俺も行くから」

 

 とはいえ、警察に引き渡すまではできないのが本音ではある。

 悪い事をしてはいないが、参考人として同行を求められたら厄介だ。この世界、この時代での身分証を持っていないとなると、そういった事が弊害になる。

 それを少女も雰囲気で大体察したのか、一度頷いた後、改めて笑顔を見せた。

 

「ありがとう、お兄さん‼」

 

 その言葉だけを残して、少女は友人を連れて外へと駆けて行った。それを背で聞きながら、白夜は注視していた部屋の奥から視線を逸らす。

 気配は既になかった。気絶していただけならば拉致して孔明の下にでも引き渡そうと考えたが、奥に居る気配がそもそも感じられない。

 逃げたか否かの確認をしようにも、この状態では危険すぎた。もしここで海魔の群れにでも遭遇しようものならば、自分一人で対処できる保証はない。

 

 少々尾を引く感情はあったが、留まれば留まるほど危険性は高くなっていく。そう考えた白夜は、一目散に建物の中から離脱した。

 

 

「ふぅ……」

 

「先輩‼ 大丈夫でしたか⁉」

 

「あぁ、何とか。子供たちは?」

 

「えぇ。全員無事に見回り中の警察官の方に保護されました。あの女の子とコトネさんも無事ですよ」

 

「そうか。―――ま、全員無事で良かったかな」

 

「ほぅ、それは何よりだ。こちらも骨を折った甲斐があるというものだ」

 

 入り組んだ路地裏の一角から悠々と姿を現したのは、戦闘を終えて海魔を一掃した孔明だった。その様子から察するに、数の多さに辟易とはしたものの、そこまで梃子摺る事はなかったらしい。

 

「それで? 戦果は誘拐された子供たちを救出しただけか?」

 

「……キャスターのマスターと遭遇した」

 

 短くそう報告したが、それは既に孔明の予想の範囲内であったらしい。再び葉巻を口に銜え、紫煙を燻らせる。

 

「こちらの正体はバレてしまったかね?」

 

「いや、多分それはない。相手は俺たちの事を邪魔な人間としてしか認識してなかった。逃がしはしたけど、これをキッカケに拠点を移動したりはしない筈だよ」

 

「ならば何も問題はないな。全く、予想以上の大仕事になってしまった」

 

 口ではそう言うものの、孔明の表情は決して悪いものではなかった。結果的に彼も、無用な犠牲が出なかった事に関しては喜ばしい事だと思っているのだろう。

 ―――と、そこで、白夜はある事に気が付いた。

 

 

「……そう言えば、結局あの子の名前訊き忘れてたな」

 

「あっ、そ、そうですね。私もつい訊き忘れていました」

 

「何だ、路地裏に入って行ったあの子供の事か?」

 

 流石にそこまでの事の流れは知らない孔明にその少女の特徴を説明すると、彼は一瞬驚いたような表情を見せてから、失笑気味に笑った。

 

「フッ、因果なものだな。私が面倒を見ていた時も魔術師らしからぬ無鉄砲な一面は度々見せていたが、まさか子供の時から一切変わっていなかったとは」

 

「え?」

 

「あぁ、先に言っておくがマスター、君があの少女に対して同情したりする事は一切必要ない。彼女はあれで逆境を覆す事に定評のある人間だ」

 

 どうにもこちらが分からない情報ばかりを放ってくる孔明だったが、何となく、そう何となくではあるが彼女の正体が理解できてしまった。

 

 

「彼女の名は遠坂凜(とおさかりん)―――遠坂時臣の実子にして、次期遠坂家の当主だよ」

 

 

 瞬間、白夜は孔明の言葉を無視して全力で少女―――凜に対して心の中で土下座した。迷惑をお掛けして本当に申し訳ない、と。

 

 そうした事情で、深夜の新都で繰り広げられたひと騒動は、こうして幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q:なんでケイネス先生との会話シーン飛ばしたし
A:ゴメンナサイ。今回のイベでのケイネス先生の顔芸と一部キャラ崩壊が面白すぎて私は絡みたくなかった。そんな事よりディルムッド書きたかった。

Q:凜がコトネ助けに行くのって時系列的にもう少し後じゃなかったっけ?
A:if世界なので時系列的な事は気にしない方向で。

Q:結局白夜君個人の強さってどれくらいなワケよ。
A:具体的なキャラを挙げるなら最初期上条さんくらい。魔術で肉体補強くらいはできるからそれよりかは少しマシかな? でも英霊視点から見ると才能はゼロ。

Q:メディアさん過保護過ぎなんですがそれは
A:弟分は可愛がりたくなる性格。因みにリリィも贈り物をしていたりする。



 次回はようやくイスカンダルとエルメロイⅡ世の邂逅かな?


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