Fate/Turn ZeroOrder   作:十三

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 どうも皆さまこんにちわ。漸く一つ内定が貰えたと思ったら、今度は卒業論文が迫ってくる始末。そしてまだ就活は続けます。十三です。

 
 まず拙作をお読みいただいている方々に感謝の念を申し上げたいと思います。
 先日活動報告欄に挙げました、『間桐桜を救出するか否か』というアンケートに、実に17名の方々にご回答を頂きました。ありがとうございます‼

 知り合い曰く、「おいコレ①を選ばせる気マンマンじゃねぇか。誘導尋問だろ」と言われましたが、改めて見るとそんな感じがして申し訳ない気で一杯でした。そこは至らぬ点としてしっかりと反省させていただきます。

 そしてアンケートの結果、9割近くの方が①の「間桐桜の救出」を選択していただいたため、この作品もそちらの線で書かせていただきたいと思います。


 それでは、ルート分岐した一作目、よろしくお願いいたします。




ACT-8 「未だ届かぬ紫の哀願」

 

 

 

 

 

 

 

たすけて‼ ここからだして‼―――

 

 

 

 

 

 

 ―――最後にそう叫んだ時の事すら、もう既に思い出せはしない。

 

 一体どれだけの時間が立ったのだろう。たった1ヶ月前の事だったかもしれないし、1年前の事だったかもしれない。―――いや、もしかしたらもっともっと前の事だったかもしれない。

 

 楽しかった頃の思い出など、もう色褪せて思い出せない。地下の蟲蔵に続く階段を生気のない動きで下りながら、彼女は”ヒトらしく”生きていた頃の記憶を反芻する。

 だが、駄目だった。外の光が差し込まないこの場所では、鼻が曲がるような饐えた臭いが何もかもを邪魔する。

 

 

 抵抗は無意味だと、本能的に悟った。

 言いなりになるのが自分の生きる唯一の手段だと、本能的に理解した。

 

 

 ギチギチと、耳障りなナニカとナニカが擦れる音が聞こえてくる。

 否、彼女からすればもはやそれも”耳障りな音”ではなくなっている。生活の一部。聞こえなければならない音。

 蔵の底には、悍ましい数の蟲が犇めいている。自分の中の何もかもを変え尽くしたソレは、少女という魔力源を察知したのか、鳴き声はよりけたたましくなる。

 

 ふと自分の髪に手をやると、髪飾りが触れた。

 それは、何もかもを失った筈の自分が未だ大事にしていた、唯一の宝物。これだけは、何があろうとも手放そうとはしなかった。

 一瞬だけ、光を失った眼に輝きが戻ったような気もしたが、すぐに暗闇に溶け込んでしまう。

 

 

 そうして今日も彼女は、蟲が犇めく蔵の底に、一人飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

「……マスター、それは本気か?」

 

 怪訝な感情を隠そうともしないエミヤの声が、朝方の森の中に短く響いた。

 視線を向ける先に居るのは、数時間の仮眠を経て目を覚ましたマスター、白夜の姿。

 あれだけの大立ち回りを演じておいて睡眠が数時間だけというのは些か少ない気がするのだが、レイシフトした時などは大体このような感じだ。白夜が教わった基礎魔術の中には、睡眠時に自己精神を解体してストレスを一掃するモノも存在した。普通の魔術師が”精神的に不安定になる可能性がある”という事で使用を躊躇うそれを、白夜はレイシフト先では愛用している。その為、疲労を残すというような事はない。

 

 だが、そんな状態でも夢を見る事がある。

 それは単に一度解体された精神のピースを覗き見ているような行為に過ぎないのだが、眠りに落ちる前、その当人が最も精神の奥底に「引っ掛けた」人物や事柄の夢を見る可能性が高くなる。

 そして今回、白夜が夢として見たそれに何度も顔を覗かせたのが―――。

 

 

()()()()()()()()()訊くのはよしておけと、数時間前に私は君に言った筈なのだがね」

 

「まぁ、うん。覚えてるよ。それがちゃんと俺の事を考えて言ってくれたって事もね」

 

「なら―――」

 

「でも、精神解体された状態ですら夢で見る程印象が強かったんだ。……俺の視力じゃあ、あの時彼女の目の色までは見えなかったけど、うん、マシュの言った通りだと思う」

 

 彼女は間桐邸の前まで来ていた白夜達に視線こそ送っていたものの、そこには僅かな興味すら宿っていなかったように思えた。

 何故それが印象に残ったのかと言えば、単純な話、対比だろう。

 それまでサーヴァント達―――即ち大小の差こそあれど己の中に宿る意志を燃やして動き、戦う者達の渦中にいたのだ。だからこそ白夜にとっては、彼女が向けて来たのであろうその、()()()()()()()()()が逆に気になったのだ。

 

「確かに現状、彼女に関わったところで状況的な益にはならないって事は分かってる。……それどころか、下手に他陣営に手を出したら致命的なイレギュラーを起こす事にもなりかねない」

 

「…………」

 

「それでも……あー、何て言うのかな? 放っておけないっていうか、何て言うかね? このまま放っておいたら()()()()()()()()()()()()()()()だって思ったんだ」

 

 それは勿論、あの間桐桜という少女の事が異性として気になっているという訳ではない。

 そもそも、理屈だとかそういう問題ではないのだ。イレギュラーが排除されれば消えてしまう泡沫の世界だとしても、ただそれでも視界に止めて、心のどこかに引っかかってしまった。知りたいと思った理由はそれだけで、それ以外ではない。

 

「あの、エミヤさん。貴方がそこまで言い渋るという事は、彼女には何か特別な理由があるということですね? それこそ言ってしまえば、()()()()()()()()()()()()ような理由が」

 

「……あぁ、その通りだ。マスター、断言しよう。今私が君に間桐桜の事を話せば、君はそれが頭から離れなくなる。如何に忘れようと努力しても、根っからのお人好しの君の事だ。それも年端も行かない子供が相手となれば、黙ってはいられないだろうさ」

 

 その言葉に対して、白夜は反論する事はできなかった。

 要はエミヤは、「訊くのならば覚悟をしろ」と暗に言っているのだ。訊けば引き返せなくなる。その覚悟はあるのか? と。

 それに対して白夜は―――

 

 

 

「それでも、訊きたい。何もしないで後悔するより、何かをやって後悔する方が、ずっと良い」

 

 

 どちらにせよ良心の呵責に悩まされるのならば、知っておいた方が良い。

 どちらにせよ後悔するのなら、少しでも前のめりで居た方が良い。

 

 何もせずに悔やむのが一番の悪手であるのだと、彼は今までの歩みで学んでいた。

 

 するとエミヤは、何かに納得したようにフッと軽く微笑んだ。

 

「まぁ、そう答えるだろうとも思っていたさ。余計な事に首を突っ込んで節介を焼きたがる君ならばな」

 

「……あれ? 褒められてないね、俺。貶されてるね」

 

「いやいや、褒めているとも。大体の人間は首を突っ込むところまではするがね、広げた風呂敷を畳むところまではできないものだ。その点君は悪運も相俟ってかマシな方だと思っているとも」

 

「あ、やっぱ褒められてないねコレ」

 

「先輩先輩、私はちゃんと先輩の事を凄いと思ってますよ‼」

 

「あー、ありがとね。マシュ。真意100%の言葉ってなんでこう、胸に沁みるんだろ」

 

「それが人の言葉というものだ。―――そんな訳でいいかね? 教授にアルトリアも」

 

 エミヤがそう声を掛けると、結界の様子を見に行っていた孔明とアルトリアが山道の外れから顔を出す。孔明の方はと言えば、呆れたように息を吐きながら頷いた。

 

「どうせ私がそう言っても聞かないのだろう? ―――まぁそれに、良い機会でもある。マスターは少々、魔術師の界隈の”闇”について門外漢過ぎるからな。不謹慎ではあるが、それを学ぶという点でも知っておくべきだろう」

 

「あの少女―――マトウ サクラと言いましたか。彼女には何かあるのですね?」

 

 徐にそう疑問を投げたアルトリアに対してエミヤは一瞬呆けたような表情を浮かべたが、すぐに「あぁ」と納得した。

 

「そうか、君はまだ()()()の記憶は取り戻していないんだったな。ならば仕方あるまい。―――ではマスター」

 

「うん」

 

「君は、間桐桜の髪の色を覚えているかね?」

 

「髪の、色?」

 

 そう言われて、眠りに落ちる前の数時間前の事を再度思い出す。

 遠目からだったため目の色までは流石に分からなかったが、髪の色は覚えている。薄い紫―――菫色だった筈だ。

 

 それを伝えると、エミヤは一つ頷いて、そして続けた。

 

「その通りだ。だが、元来彼女の髪の色はそんな色ではなかった。凜からは彼女は母親似だと言われた事があるからな、恐らくは深緑系統の色だったのだろう」

 

「髪の色って、そんなに簡単に変わるものでもないよね? 染めでもしない限り」

 

「あぁ。そして勿論、彼女の髪色は今も以前も自然のそれだ。色素が抜けてしまった理由は、彼女の持つ魔術回路の性質や魔術属性を強引に変質させてしまった事に起因する。―――本来彼女は、()()()()()()()収まるほど凡俗な才能ではなかったんだ」

 

「……それって」

 

「彼女の以前の名は遠坂桜。―――遠坂家の次女で、凜の妹に当たる」

 

 

 普通の家庭であればそのまま遠坂家の次女として姉共々健やかに成長していく未来が送れたであろう彼女は、しかし1年前に間桐家に養子に出された。その原因は、彼女が持っていた稀有過ぎる魔術師としての素養である。

 

 魔術師の家系は、親から子、子から孫へと生涯の魔術の研究成果である魔術刻印を受け継ぐことで発展していく。その性質上、家の魔術を受け継げるのは一名のみ。二子以上をもうけた魔術師は、そこで葛藤に晒される事になる。

 二人以上の子に平等に魔術刻印を受け継がせることはできない。であれば、家督を継いだ以外の子は魔術とは関係のない凡俗の身に堕ちるか、他家の魔術師の養子に出されるのが常であった。

 そして運の悪い事に、遠坂桜という少女はあまりに魔術師としての才能に()()()()()()()()

 

 その魔術回路の数・質は勿論の事、彼女が抱えた生来の魔術属性は『架空元素・虚数』。

 物質的な五大元素に属さない架空元素を使役するという、余りにも希少価値が高すぎるその能力は、その時点で彼女を「凡俗の世界に堕とす」という選択肢から除外せねばならなくなった。

 魔術の世界にとって、奇跡とも呼べるほどの価値のある能力・研究成果は、須らく高すぎる好奇心という名の害に晒される事となる。魔道の家門の加護がなければ、彼女は遠からず”保護”という名目でホルマリン漬けの標本にされる未来が目に見えていたからだ。

 

 

 その時点で、父である遠坂時臣は苦悩の淵に立たされることになった。

 

 片や長女の凜は五大元素全てを使役する『五大元素使い(アベレージ・ワン)』。

 片や次女の桜は目に見えぬ元素を使役する『架空元素・虚数』の担い手。

 

 両者が両者とも、稀代の才能を以て生まれてきてしまった。

 どちらに遠坂の魔道の家門を背負わせるか。―――悩み抜いた挙句に彼は、次女の桜を他家の養子に出す事に決めた。

 代々宝石魔術を扱う遠坂の魔術系統では桜の才覚を活かしきる事ができないと判断した上での決定だったのだが―――彼が養子先に選んだ家がまずかった。

 

 

 かつて聖杯を降臨させる儀式を共に執り行った御三家の一角、間桐家。

 現在ではほぼ形骸化しているとはいえ、名目上は同盟関係が続いている家であり、彼はそこに、桜を託したのだ。

 ―――それが、どのような結果を齎すか知らぬままに。

 

 

「結果的に、先程言ったとおり間桐の家でも彼女の才能を扱う事はできなかった。間桐の翁、間桐臓碩はそれを既に理解していたようでな。彼女にまともな魔術の教育を受けさせなかった」

 

「……まともな教育でなく、それで魔術回路や属性を変質させるほどの”コト”……」

 

「……間桐の魔術は”刻印虫”と呼ばれる蟲を媒介にして使役される。今の時点で彼女はもう、髪の毛の先から足の爪先まで蟲に()()()()()()()()()だろう。臓碩は結局、彼女に”次代の間桐”を産ませる胎盤以上の価値を見出していなかったという事だ」

 

 ギリッ、と。握った拳に自然に力が籠ってしまうのを感じた。

 一般人の目から見れば、非人道的にも程がある。人の命を軽く見過ぎていると断言できる程であったし、それがさも当然であるかのように罷り通っているその現状にも、怒りを覚えずにはいられなかった。

 

「……外道ですね」

 

「……酷すぎます」

 

 見ればアルトリアとマシュも憤懣やるかたない表情を見せていたが、そんな中で孔明は眉間の皺を深くさせるだけに留めている。

 

「孔明、()()()()()は魔術師の世界ではよくある事なの?」

 

「そんな事はない。―――と言いたいところだがな。権謀術数、お家騒動のバカ騒ぎが日常的に渦巻く魔術師の世界では他家から「次代の優良な魔術師を産ませるためだけ」に養子を取ってくるケースはそう珍しくもない。これは、代を長く積み重ねた家系によくある話だ。彼らは最高の魔術刻印を最良の魔術師に受け継がせることに命を賭ける。優生学的な手段に訴えるのも日常茶飯事だ。―――だが」

 

 そこまで言って孔明は、現実とは違う、本心を滲ませるような声色に変わった。

 

「『架空元素・虚数』―――あぁ確かに希少価値が阿呆みたいに高い属性だ。まともに教授できる魔術師など世界を探しても片手で数えられるかどうかと言ったところだろうな。

 だからこそ、それ程までに「育てる価値」がある才能の塊をただの胎盤として扱うという馬鹿さ加減が我慢ならん‼ あぁ、クソっ、よりにもよって暴走の危険性がある蟲を使うだと⁉ 間桐も馬鹿だが、こんな家に娘を送り込んだ遠坂の当主も馬鹿だ‼ 改めて見てそれが良く分かった‼」

 

「……何だかんだで人を育てるの好きだよね、孔明。流石正統派ロード」

 

 稀有な才能が生かされない状況に置かれている現状に怒りを見せている孔明を見てクスリと苦笑した白夜だったが、根本的な意味では笑えていない。

 孔明は一応”教育者”の観点から今回の件を見ているのだろうが、生憎と教育の領域にはとんと無知な白夜は、単純に人の倫理観に照らし合わせて怒りを見せていた。

 

 彼が知る女性英霊の中には、悲惨な末路を辿った者達が少なからず存在している。

 

 元は島の守護者であったのにも関わらず、最後は怪物として描かれ、英雄に退治されたメドゥーサ。

 守るべき祖国をローマに蹂躙され、娘共々凌辱の限りを受けたブーディカ。

 神の声に従い勇敢に戦に臨み続けたのにも関わらず、最後は異端審問に掛けられ悪辣な罠に嵌められたジャンヌ・ダルク。

 惚れて尽くした男に裏切られ、裏切りの魔女と誹られて生涯を終えたメディア。

 

 しかし彼女らは、その記憶を既に過去のものにしている。それらの屈辱の歴史すら、彼女たちにとっては「自分が辿った軌跡」の一つに他ならない。

 

 

 だが彼女は―――間桐桜は違う。

 彼女の物語は、まだ()()()()()()()()()。自らの意志で人生を歩む前、親の愛情と言う名の庇護を受けて育つ時期だというのに、彼女は既にこれ以上ない程の「絶望」を味わってしまった。

 

 きっと彼女は、自分が何故”こんな目”に遭わなければいけないのか、という理由すら知らないのだろう。ならば、目から生気が抜け落ちる理由も分かる。

 当然のことながら、子供は大人よりも精神的な苦痛に対する抵抗力が弱い。だからこそ、心労的な負荷が溜まりに溜まって、それが限界以上に達してしまった場合―――子供は抵抗する事を止め、心の一切を閉ざしてしまう。

 疑問に思わなければ、抵抗しなければ、これが当たり前だと思えれば―――少なくとも”苦しむ”事はなくなるのだと、本能的にそう察してしまうのだ。

 

 

「そんな事……あっちゃダメなのになぁ……」

 

 白夜は、乾いた声でそう言うしかなかった。

 彼自身、別に絶望に満ちた少年時代を送ったわけではない。魔術とは関係のない世界で、普通の両親に育てられ、普通に学校に通い、普通に友達と日々を過ごしていた。

 だが、否、だからこそ分かる。こんな事が正当な事だと罷り通ってはならないのだという事が。

 

 姉妹の縁も切り離され、親の愛情すらも切れ、養子に出された家では拷問にも等しい虐待じみた目に遭わされる。

 味方はおらず、それが間違っているとすら思われず、彼女はただ、薄暗い牢獄の中でたった一人、いつ終わるともわからない絶望に浸されながら―――()()()()()()()()()()()。壊れるな、と言う方が無理な話だ。

 

 無論、魔術師の界隈にはそれに準じた考え方があるのだろう。一般人とは乖離しきってしまった常識が、その世界では当たり前のように罷り通っているに違いない。だからこそ、つい1年ほど前まで一般人でしかなかった自分が口を挟む事など烏滸がましいのではないかと、一瞬はそう思った。

 

 

 だが―――()()()()()()()()()()()

 

 彼は断じて、それを”正しい事”だとは認められない。非凡の身であるが故に平穏無事な生活が送れなかったのだとしても、それでもまだ何かあった筈だ。

 彼女が今よりも心安らかに過ごせる環境が、どこかにあった筈なのだ。

 

 

 

「―――どうだねマスター。君は、彼女の事を忘れる事ができるか?」

 

 改めてエミヤから投げかけられたその問いに、白夜は力なく笑ったままに首を横に振った。

 

「駄目っぽい。あー……覚悟はしてたはずなんだけどなぁ。予想以上にキツいよ、コレ」

 

 己の無力さを噛み締めながらそのまま仰向けの状態で草むらの上に体を投げだしてしまう白夜の顔を、マシュがそっと覗き込む。

 

「先輩は、そのままの先輩で良いと思います。世の不条理とか、そういう事に精通するのは勿論大切な事でしょうけど……ですが、それは慣れてはいけないものだと思います」

 

「マシュ……」

 

「立ちましょう、先輩。私たちにはまだ、やるべき事がありますから」

 

 そう言ってマシュが差し出してきた手を握って、白夜は立ち上がる。

 それと同時に、ジジジ……という電子音と共に久しく聞いていなかった人物の声が届いた。

 

 

 

『あぁ、やっと繋がったよ‼ あーもう、冬木(ソコ)の障壁固すぎやしないかい⁉』

 

「あ、ドクター」

 

「お久し振りです。やっと送信できるようになったんですね」

 

『うん、お陰様でね。中途半端にそっちの映像と音声が「受信」しかできない状態だったからさぁ、もうカルデア(コッチ)は大変だったよ』

 

 凡そ3日ぶりくらいに声を聞いたのはカルデアから通信でサポートをしてくれているDr.ロマン―――ロマニ・アーキマン。

 普段であればレイシフトした直後からデータサポートをしてくれる彼なのだが、今回に至っては冬木に張り巡らされた強固な結界に阻まれ、それが破壊された後も霊脈が安定するまでは通信が途絶されたままという状況であった為、今の今まで彼の声を聞く事がなかったのである。

 

「大変? 何が―――あぁ……(察し)」

 

『あ、分かる? 分かっちゃう? まぁ察せるよねぇ。君たちがレイシフトした直後からこっち、”正式な”聖杯戦争に行ったって事でモニターを見てたサーヴァントが多くてね。()()()バッチリ見てしまったんだ』

 

「具体的に被害はどんな感じ?」

 

『まず昨日の一連を見てミス・アタランテと金時くんが「あのギョロ目殺す」って言ってモニター室を飛び出して行ってね。それをジャンヌ・オルタちゃんが慌てて追いかけて危うく大乱闘になりかけた。

 他にもケルト陣がおつまみとお酒持参で「相変わらず女運なさそうだよなアイツ」とか言いながら居座ってランサー・ディルムットの様子を見てて酔って汚すし、子ギルくんは「相変わらず拗らせてますねぇ、大人の僕は」とか言いながら乾いた笑みを浮かべっぱなしだし、Xちゃんは「やっぱり私以外のセイバー皆殺す」とか言ってバーサク状態入って近くに居たネロ帝や沖田くんに喧嘩吹っかけるし、ライダー・イスカンダルを見てミスター・テスラが対抗心燃やして無理矢理レイシフトしようとしたりetcetc……』

 

「わぁ酷い」

 

「ですが、まぁ。予想は出来ましたね、ハイ」

 

 今頃カルデアは一部の良心あるサーヴァント達によって復興作業の真っ最中なのだろう。心中お察しはするが、生憎とレイシフト先からは何もできそうにない。

 しかしながらいつも通りのカルデアの日常を聞けてホッとしていると、ロマンの声色が真剣なそれに変わった。

 

 

『ま、そんなわけで話は聞いていたよ。盗み聞きみたいな形になって申し訳ないけどね。

 ともあれ、間桐桜ちゃんの事に関しては、非情ではあると思うけど、どうしようもないというのが僕の見解だ。たとえ間桐の家から助け出したとしても、”その後”が未確定だからね。「遠坂」と「間桐」、この二家を敵に回しても臆さない魔術師を味方につけなければどうしようもない』

 

 人一人の命を預かるという事は、そんなに簡単な事ではない。ましてや、身柄をいつ狙われるか分からない才能の塊のような魔術師の卵であれば尚更だ。

 必要なのは強固な”後ろ盾”で、それを現地で見つけ出さなくてはならない。尤もなその言い分に頭を悩ませていると、通信にとあるサーヴァントが割り込んできた。

 

 

『まぁ、ない事もないんだけどな、後ろ盾ってヤツ』

 

「式さん?」

 

『オレの知り合いだよ。面倒くさがり屋で下らない事に金を使うし、私生活は基本壊滅的だが……まぁ虐待紛いの事はしないだろうし、魔術師としては一級だ。お家の干渉とやらも「下らない」とか言って跳ね返すだろうしな』

 

 両儀式―――アサシンクラスのサーヴァントとしてカルデアに滞在している彼女が齎したその情報は、まさに白夜が求めていたような情報だった。―――だが。

 

『だけどな、()()()()()()()。そもそもアイツ―――蒼崎橙子は”そっちの世界”じゃオレが知っている所にいるかどうか分からん。並行世界ってヤツなんだろ?』

 

「蒼崎橙子……成程、第五魔法の使い手の姉か。時計塔では悪名が轟いているが……『封印指定』が掛かった「賢者」タイプの魔術師だ。身元引受人としては間桐よりかはマシに見えるが……」

 

『何だかんだで面倒見は良い奴だ。放り投げたりはしないだろうが……でもアレだろ? ”居るか居ないか分からないような奴”を探せるほど、余裕があるわけじゃないんだろ?』

 

 それもまた、正しい言い分だった。

 白夜達の大前提の目標は冬木の聖杯を起動される前に破壊する事。それを十全な状態で果たすには、戦力を割く事は許されない。

 そういった意味でも、今現在の状況では彼らは自由に行動する事はできない。諸問題が見えていながらも指を咥えて見ているしかない状況は心苦しかったが、それは最初にエミヤに言われた通りの事であった。

 

 

「……取り敢えず俺たちは、今やるべき事をやろう。ねぇ孔明。今日は昼間は何かする事ある?」

 

「いや、夜になったらケイネス卿と再び会う予定があるが、それまではないな。気分転換に町でも歩いてくると良い」

 

「孔明は?」

 

「私は新都の方に仕掛けた八門遁甲の結界のチェックをしてくる。あぁ、心配するな。これは性分のようなものだ」

 

『一度聖杯戦争を経験した人がいると心強いよね。―――それはそうと白夜君、『限定召喚(インクルード)』の方はまだ良いのかい?』

 

「あー……」

 

 白夜は空を仰いで数秒考えるような仕草を見せてから「今はまだ良いかな」と返す。

 

 

 『限定召喚(インクルード)』とは、守護英霊召喚システム・フェイトに組み込まれているプログラムの一つである。

 通常、岸波白夜をマスターとしたサーヴァント達は、霊器容量の関係で同時に6体までレイシフトをする事ができる。

 こうしてマスターと共にレイシフトを行ったサーヴァントはカルデアに帰還するまで行動を共にする事ができるが、弱点が一つだけ存在する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事だ。

 

 無論それは通常の聖杯戦争では当然の事なのだが、人理修復を成すために赴く特異点ではまともな聖杯戦争が行われている可能性はほぼない。

 その時代に生きている人間たちをも巻き込み、聖杯が齎すサーヴァントの召喚機能を以て戦役を引き起こすその姿は、ある意味「正しい意味」での聖杯戦争と言えるかもしれない。

 

 そうした状況においては、火力と単騎能力に特化したサーヴァントだけではどうにもならない状況というものが発生する可能性がある。

 時には斥候・隠密に長けたサーヴァントが活躍し、敵の戦力に合わせて的確な戦力分析も行わなければならない。そうした時に常に6体フルメンバーで活動していると戦力の入れ替えができない為、後手に回る可能性があるのだ。

 

 そのような状況に合わせて活用されるのが、『限定召喚(インクルード)』というシステムである。

 これを使用してカルデアから召喚されたサーヴァントはレイシフト先での現界時間が最長数時間とかなり制限されるが、1体の召喚につき所持している聖晶石を複数個使用する事で自由に戦力の補強をする事が可能になり、更に独自召喚という扱いになるため、一時的に対象サーヴァントに『単独行動』スキルが付与される。戦略の自由度が高くなるという点では、メリットと言えるだろう。

 

 反してデメリットはと言えば、持ち込める聖晶石の数に限りがあるため、必然的にシステムの使用回数も制限されるという事だ。

 未来を確定させる概念が結晶化した疑似霊子結晶である聖晶石は、イレギュラーが入り込んで未来が不確定になっている特異点に多数存在すると、それだけで霊器そのものに不具合を生じさせる恐れがある。今回白夜が持ち込んだ聖晶石の数は合計6個―――それは『限定召喚(インクルード)』2回分に相当する。

 

 

「今はまだ、戦局が大きく動いてないしね。極論ランスロットもギルガメッシュも、()()()()()()作戦はあるんだ。でもそれじゃあ、今回は駄目なような気がしてね」

 

「ふむ、バーサーカーはともかく、アーチャーは当初から倒すプランを組んでいたんだが……」

 

「いや、()()()()()()()()()()()()

 

 多分、と言う割にははっきりと断言した白夜の言葉に、孔明は少しばかり目を見開いた。

 

「一応マスター権限で昨夜ギルガメッシュのステータスを覗いてみたんだけどね、あれはやっぱり、”普通の英霊”とは格が違うよ。俺にはあのサーヴァントが()()()()()()()で収まるとは到底思えない」

 

「……英雄王ギルガメッシュは神代の時代を終わらせて、人の文明の時代を切り開いた大英霊でもある。成程、確かにそうであっても不思議ではない。これは盲点だったな」

 

 己の思考が至らなかった事を悔やむ孔明だったが、白夜もそういった根拠があって言ったわけではない。ただの感覚の話だった。

 仮にギルガメッシュの魂が英霊一騎分に収まらなかった場合、大聖杯にくべる魂の総量を見誤ってしまう恐れがある。規定以上の魂を送り込んでしまえば、その時点で聖杯は起動を始め、状況は最悪の一途を辿る事になってしまう。

 

「分かった。君の意見も考慮して、結界の確認がてらもう一度策を練ろう。アーチャー、セイバー。君たちもマスターに着いて行ってくれ。日中とはいえ、無粋な輩が仕掛けてくるとも限らないしな」

 

「了解した。……が、貴方はどうする教授。馬鹿にするわけではないが、肉弾戦が苦手なキャスタークラスだろう」

 

「自分の脆弱さなど百も承知だ。ならばそれに応じた護身の術はある。いざとなったら令呪で呼び戻すでも何でもしてくれ」

 

「分かった。それじゃあ皆、とりあえず街に出ようか」

 

 白夜は気持ちを切り替えるようにできるだけ明るくそう言って、山を下り始める。

 しかしやはり、心の中に住み着いてしまった靄のような感覚を払う事はできそうになく、マシュ達に背を向けたその表情は、どこか曇ったままだった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 





 初っ端説明回で申し訳ありません。でも改めて今桜ちゃんが置かれている状況を説明したかった。悔いはない。

 そして書いといてなんですけど、鬱度が高い。Zeroって元々鬱度高めの作品ですけど、彼女のところだけは群を抜いてるんですよね。まぁしょうがないっちゃあしょうがないんですが。


 そして、守護英霊召喚システム・カルデアに新たな機能を(勝手に)付け加えました。……あれ? 独自設定のタグ付けてたよね? 大丈夫だよね?

 『限定召喚(インクルード)』の元ネタは、まぁ皆さんご存知の『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』でございます。個人的に一期のゲイ・ボルグの召喚シーンが好きです。
 
 今作ではこれを「聖晶石を対価にカルデアにスタンバイしているサーヴァントを限定的に召喚する」という機能にいたしました。現界時間は制限されますが、単独行動スキルを付与されて自由に動けるなどのメリットがあります。

 基本聖杯大戦レベルのルール無用さが適用されるグランドオーダーでは、通常の聖杯戦争では実感しない、「複数騎のサーヴァントを効率的に運用する」という技能も求められます。今作に於いては「レイシフト時に選択したサーヴァントは入れ替えができない」という設定になっているので、この『限定召喚(インクルード)』というシステムがないといざという時に困るのです。白夜君も、そして作者も。

 無理矢理感が否めない設定ではありますが、どうかご容赦くださいませ。



PS:今期のアニメがそろそろ終わり始めるという絶望感に苛まれながら、結局茨木童子ちゃんは実装されなかったという追い討ち。どうなっているのか(諸行無常)。
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