電車でたまたま座れたのでのんびり目的地まで音楽を聴きつつ窓から見える流れていく景色を眺める。
ふむ、やはり緒方めぐみんの『青のレクイエム』はいい曲だな。
「おっ」
外の景色に見覚えのある景色が見えてきたから思わず声が出た。
親父に修行へ連れ出されてから5年かぁ。
京都の学校には通ってたとはいえ、ほとんど毎日修行の毎日だったからな
ずいぶんと懐かしいな。
あんのクソ親父・・・あんな若作りな優男の風貌しときながら結構スパルタだからなー。
・・・冷静に考えると親父も母さんも見た目が詐欺レベルの若々しさだよな。
息子の俺が言うのもおかしいんだが。
二人ともいい年なはずなんだがな。
まあ、俺も強くなることができたから感謝してるんだがな。
それにしても川神もずいぶんと久し振りだな。
小学校を卒業してからだから5年は京都の方で修行してた感じだからな。
ファミリーの奴らは元気かね?
そんなことを思いながら外の風景を眺める。
『川神駅~、川神駅に到着致しました。』
「お、着いたか。」
なんか色々なことを考えているうちについてしまったようだ。
電車から降りて、駅を出る。
「ほう、そこまで駅前は変わってないみたいだな。
まあ、たかが5年程度だからな。
あー、でもあそこにマック出来たのか。
今まで無かったのが不思議だったしな。」
5年も離れていたからそれなりに変わっているものかと思ったがそこまで変わっていなかった。
まあ、そうそう変わるものでもないか。
「さて、まずはどこに顔出したものか・・・。
取りあえず、川神院に行って挨拶しておくか。」
流石に今回は目的があって帰ってきたんだし依頼主にまず顔出すのが筋か。
もう思い、5年前の記憶を頼りに川神院を目指した。
◆ ◆ ◆
「・・・・・・くそ。
結構、迷った・・・。」
結局、駅前から川神院に向かうのに2時間くらいかかった。
俺の記憶が間違い無ければ、30分くらいで着いたはずなんだが。
まあ、そもそも道に迷った俺の記憶だからそれすらも合ってるか怪しいが。
まあ、途中で入った食堂が美味かったからいいや。
「おー、久々に来たけど相変わらずすげえ気だな。」
相変わらずとは言ったが、5年前より気の察知が出来るようになった分、更に強く感じることができる。
ここは世界でも有数の壁超えの強さを持った武術家が集まっている。
「ほうほう、なにやら見知ったような気を感じたから誰かと思えばお主か。」
なんとなしに川神院から発せられている気の圧力を眺めていると俺に話しかけてくる見知った声が聞こえてきた。
「久し振りだな、じじい。
今は気を抑えているから気づかれるとは思わなかったぜ。」
「相変わらず口が悪いのう・・・。
久しいな、狂志郎。
随分と見違えたぞ?
恐らくはわしでようやく気付けたかどうかじゃな。
無明神風流を会得したと見えるな。」
「ああ、おかげさまでな。
全く、あの親父普段は見た目通りの優男で人畜無害なんだが剣のことになると容赦なかったぜ・・・。」
声が聞こえてきた方に返事を返し、目を向けると髭を長く伸ばして着物を着ている妖怪じじいがいた。
川神鉄心。
数十年前の全盛期には世界最強と謳われ、今は老いもあり弟子を育てることに尽力を注いでいる。
が、今もなお世界最強クラスの強さを維持している武術家だ。
「ほっほっほ。
村正殿は剣に対する姿勢は真摯じゃからな。
・・・さて、お主が帰ってきた理由は伺っておるよ。
すまんな、わざわざ京都から来てもらって。」
「別に構わねえよ。
いつかは帰ってくるつもりだったんだからな。」
そう、いつかは帰ってくるつもりだった。
俺の最強の称号を手に入れるという目標は必ず川神に帰ってこなくてはならない。
「・・・それで、百代は武神の名を引き継いだと聞いたがどれくらい強くなったんだ?」
「ふむ、そうさの。
現時点で少なくとも壁越えの強さは持っておる。
まだ、わしの方が強いがいずれ全盛期のわしすらも超えるじゃろう。
我が孫ながら恐ろしい才能を秘めた娘じゃて。
・・・まあ、それはお主にも言えることじゃろうがな。
あの無明神風流歴代最強とも言える村正殿が太鼓判を押すのじゃからな。」
「褒められるのは吝かではねえけど、やめてくれ。
俺はまだまだ、だ。
少なくとも、じじい・・・あんたにはまだ勝てない。」
老いたとしても元最強を名乗っていたじじいだ。
今もなお、世界でも5本の指に入るほどの実力には変わりない。
「当たり前じゃ。
武神の名前をモモに継承したがまだまだ若いもんにはまけてやれんわい。」
ふぉふぉふぉ、と笑いながら言う。
・・・全く、この先退屈しなさそうで何よりだ。
そんなことを思っていると唐突に真剣な顔をして気を張り詰める。
思わず、袋に入っている刀に手が伸びる。
「問おう、お主はどこまで強くなるつもりじゃ?
その力を何に使う?」
そう言って俺に訪ねてくるじじい・・・いや、川神鉄心。
俺を試すつもりか?
まあ、俺の返す言葉なんて決まっている。
「-----無論、どこまでも。
そして、最強の称号を手に入れる。」
「何故じゃ?
それなりの実力はあるじゃろう。」
「別に理由なんてねえよ。
ただ、漢なら単純な強さで最強を目指してみたいだろ?」
俺の答えにじじいはそうかとだけ答えて、俺の答えに満足したのか笑みを浮かべながら闘気を納めた。
「それで?
今日はこの後どうするんじゃ?」
「百代達は学校でいないんだろ?
転入は来週って聞いてるから町をぶらついてから帰るぜ。
・・・ああ、そういえば島津寮とか言うところに行けって言われたな。」
「そうか。
ならば、夕方頃に町はずれにある廃墟ビルに行くといいぞい。」
「はあ?
そんなとこに何があるってんだよ?」
「ふぉっふぉっふぉっ、それは行ってみてからのお楽しみじゃな。
それじゃあ、またの~。」
「あ、おい!
・・・ったく、なんでだよ。」
まあ、いいさ。
どうせ、やることもないんだしな。
今日は平日の金曜(強調)だし、どこに行っても空いてるだろ。
適当に時間を潰してじじいの言ってたところに行ってみるとするか。
◆ ◆ ◆
視点は変わり、ここは川神市の郊外にある廃墟ビルで辺りは夕方を過ぎて暗くなり始めていた。
本来であれば立ち入り禁止なのだが、風間ファミリーの一員である島津岳人の親のコネで秘密基地として利用している。
そして、今日は金曜集会という風間ファミリー独特の集まりがある。
「さってと、みんな!
今週もお疲れさん。
お前ら、土日の予定はなんかあるか?」
ファミリーの面々はそれぞれの定位置に座りながら順番に答えていった。
「私は金がないからなー。
午前中は鍛練だが、午後はやることないぞ。
やーまーとー、金貸せー。」
「こないだ姉さんに貸した金返してもらってないんだから駄目に決まってるでしょ。
俺は特に予定入れてないから暇だよ。」
「私もお姉様と一緒で午前中は修行で午後は何もないわー。」
「私は愛する大和とデートするという予定が「嘘をつくな嘘を。お友達で」うー、いけずぅ。
・・・ということで私も暇だよ。」
「俺様はたまたま、彼女がいないので暇だぜ!」
「ガクトに彼女いたことないでしょ?
僕も暇だよ。」
「わ、私もひ、暇ですぅ・・・。
友達いないですし・・・。」
『おいおい、諦めるなまゆっち!
まだまだ、高校生活は始まったばかりだぜ!』
「自分で自分を励ますのか、まゆっち・・・。
自分も特に予定はないぞ?」
それぞれに休みの予定を確認する彼らのリーダーであるバンダナを頭に巻いた快活そうな少年の風間翔一。
「それで?
わざわざ予定を聞くってことは何かやりたいことでもあるのか、キャップ。」
ファミリーの参謀役を務める直江大和が翔一に尋ねる。
「別にやりたいことはない!
ただ、暇だからなんか遊びたいだけだ!」
「いや、ないって言い切られても困るぞキャップ。」
別にやりたいことなどないと強く言い切る翔一にガクトがツッコミを入れる。
このようにその場のノリで生きている翔一だが、この風のように駆け抜けていく男を皆認めて不思議とついてくる。
「また、アバウトだね。
しょーもない。」
京が手元の本から目を離さずに呟く。
「なー、暇だからあそぼーぜー!」
「いや、暇なのは分かるけど急に言われてもね?」
モロが苦笑いしつつ困ったように答える。
皆が色々と意見を出しているが中々決まらない中でふと百代が違和感を感じた。
「・・・ん?」
「・・・?
どうかした、姉さん?」
たまたま、百代の様子に気づいた大和が声をかける。
「いや、なんか私のセンサーに引っかかったような・・・。」
「センサーってだれかの気配ってこと?
姉さんが曖昧な表現するって珍しいね。」
「うーん、私自身ここまで自信がないのは意外なんだが・・・。」
腕を組みながらうーんと首を傾げる百代。
何を隠そうこの百代女子は武神の称号を持っている世界屈指の武闘家でチートと言われても仕方ないような強さを個人で持っている。
百代の放った技が宇宙から確認できた際には「なんだMOMOYOか」と納得されてしまうレベルだ。
「・・・っ!」
「・・・姉さん?」
急に身構えた百代に大和は不思議そうな顔をして声をかける。
ふと、外から足音が聞こえてくるのが分かった。
「この距離になるまでまるで気付かなかったが、相当の使い手がここにくるぞ・・・!」
その言葉にファミリー全員がいつでも動けるように構えた。
かつかつ、と外から足音が段々と大きくはっきりと聞こえてきた。
そして、音が止まり部屋の扉が開かれた。
「んー、気配が感じるのはここかぁ?
ったく、あのじじい俺に何させたいん・・・だよ?」
現れた人物は由紀江・クリスの新規の二人を除く結成当時からファミリーの者は全員が知っている人間だった。
もっとも、知っているといっても年月が経ち成長した姿だったため一瞬分らなかったが、その『眼』をみてすぐにわかった。
黒い着流しに長い黒髪を後ろで適当なゴムで縛っている少年。
そして、その男の印象付けているのはその紅く輝く鬼のような眼だった。
「「「「「「「キョウ!!!」」」」」」」
数年前、この町を去った風間ファミリーの一人で壬生狂志郎であった。