【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第9話  条件①

 執務室から出た私は、酒保に向かいました。よく考えたら、着替えも何一つ持ってないんです。今、着ている服も、昨日のものですし。

洗濯もしたいですからね。

 こちらに来るとき、辛うじて携帯電話と財布は持って来れたので良かったです。携帯電話はポケットの中に入ってましたし、財布は手元にありましたからね。たまたま、一緒に持って来れたんだと思います。

財布の中は、給料日後でしたので、そこそこ潤ってます。7万円くらいは入っていたと思います。

 私室に置いてある財布を持ってきて、そのまま酒保に向かいました。

 酒保の中は、至って普通のショッピングモールです。店が立ち並び、目を惹かれるものがいくつも置いてあります。ですけど、変ですね。

女性物しか置いてません。何処を見ても女性物、女性物です。男性の物は何一つ、置いてません。どうしてでしょう。それと、奥に進むと、食料品売場がありました。保存の効かないお惣菜はありませんが、それ以外のものは結構置いてあります。生鮮野菜、肉類、魚類、調味料、お菓子等など……普通のスーパーマーケットみたいですね。

 食料品売場を出て、私は下着屋に入ります。服はなんとかなっても、下着はどうにもなりませんからね。

店内に入ると、普通に店員さんが居ました。

 

「いらっしゃいませー」

 

 そう、声を掛けてくれます。一瞬、錯覚しましたが、ここは鎮守府の中にあるんですよね。

私は店員さんに軽く会釈すると、下着を見て、自分のサイズに合うモノを何セットか取ると、会計をします。選びはしたんですけど、あまり悩まないんですよね。

 

「28600円になります」

 

 ブランドはよく見てませんが、そこそこのところ何でしょうね。一応、3セット選んでますけど。

 

「30000円、お預かりします。1400円のお返しです。ありがとうございましたー!」

 

 ここで私は、店員さんに違和感を感じました。

今まで行った、お店で一番、接客態度が良いんです。気持ち悪いくらいに、です。

手際よく、綺麗に。そして、満面の笑顔でした。そんなお店、入ったことありません。

 

「ありがとうございます」

 

 癖で、受け取る時にお礼を言ってしまいます。いつまで経っても、治らないです。

 私がお店から出ると、また、あることに気付きました。

この酒保と呼ばれる施設、店員さん以外にすれ違ってません。どういう事なんでしょうか。酒保はてっきり、横須賀鎮守府で働く人のための施設だと思ってましたが、違うんでしょうか。

 不思議に思いながらも、私は洋服屋をはしごして、3泊4日分くらいの洋服を買いました。ちなみにどのお店の店員さんも、下着屋さんの店員さんみたいに、気持ち悪かったです。

 袋をいくつか下げて、中を歩いていると、誰かに話し掛けられました。振り返ると、女性ですが、格好からして警備の人です。

 

「すみません」

 

「はい?」

 

 私は受け答えをするのに、立ち止まりました。

 

「貴女、艦娘の方ではないですね」

 

 舐め回す様に、私を見た警備員さんはそう、私に言いました。

 

「はい。2日前からここにいる者です」

 

 私がそう答えると、警戒されました。明らかに、雰囲気が変わったんです。

 

「どういう事ですか?」

 

 ピリピリとしたオーラを発して、警備員さんは私に問いかけます。

答えに悩みます。本当の事を言うか、言わないか考えます。

黙っていても仕方ないですし、どうせ知られるでしょうから、とりあえず誤魔化します。

 

「異世界から来たものですから、ここに匿われたんですよ」

 

 嘘は言ってません。ですけど、本意は伝えません。中途半端に、言いました。

警備員さんは少し唸ると、開放してくれました。

 

「……そうですか。では」

 

 それだけを伝えて、警備員さんは腰からぶら下げている警棒と、拳銃をカシャカシャと揺らして、遠ざかって行きました。

警備員さんの後ろ姿を数秒間見届けると、私は出口に向かいます。一度、荷物を置きに、私室に戻ります。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 酒保から私室に帰って来ました。ふと、携帯電話を見てみると、時刻は午後3時過ぎ。昼からあまり時間が経ってないです。

荷物を部屋の隅に置いて、ベッドに寝転がります。少し、背伸びをして、天井を見上げました。勿論、知らない天井です。昨日、ここで寝てますが、天井の記憶なんてありませんからね。

 

「葵さん、いらっしゃいますか?」

 

 天井を見上げていると、ノックと共に声が聞こえました。多分、大淀さんです。

 

「いますよ」

 

「失礼してもよろしいですか?」

 

「どうぞ」

 

 起き上がって、ベッドに腰掛けるのと同時に、大淀さんが入ってきました。

片手には何やら、書類を持っているみたいです。

 

「酒保に行ってらしたんですね」

 

「はい。着替えが無いものですから」

 

 買い物した袋を片付けなかった事を少し後悔しつつ、大淀さんの用事を訊きました。

 

「それで、どうされたんですか?」

 

「はい。こちらから連絡した事がありまして、お邪魔させていただきました」

 

 そう言って、大淀さんは傍らに持っていた書類を出して、読み上げます。

 

「大本営海軍部から、葵さんへ。提督と同様に、異世界からいらっしゃったとの事。ですが、今回は異例とします。引き続き、鎮守府にいらっしゃるのでしたら、所要の手続きをしていただきたいです。こちらが、書類になります」

 

 大淀さんは、私に1枚の紙を渡しました。

 紙に目を落とし、目を皿にして文字を読みます。

 

『発、大本営海軍部。宛、碧 葵。

 横須賀鎮守府艦隊司令部に在る状態に於いて、貴女は長期滞在を希望するのであれば、以下の条件を課す。

一 横須賀鎮守府にて使役する事。ニ 艦隊司令部所属艦娘の戦意高揚。

以上に従う場合のみ、横須賀鎮守府艦隊司令部に引き続き、在る状態である事を認める。』

 

 回りくどく、面倒な書き方で書かれています。文章を噛み砕くと、鎮守府に居たければ労働し、艦娘の士気を上げろということです。ただで置かせてもらえるとは思ってませんでしたので、こちらとしては納得です。ですけど、条件の後者に関しては、私でどうにかなるとは思いません。

この書類を渡した大淀さんも、困った表情をしていました。

 

「どうされますか?」

 

 私は少し悩んで、決めました。ここに居なければ、紅くんに会えません。

 

「大淀さん」

 

「はい」

 

「ペンを貸してもらえますか?」

 

 少し驚いた表情をした大淀さんから、ボールペンを借りると、すぐにサイン欄にサインをします。勿論、碧 葵と書きます。

サインした後、確認して大淀さんに渡しました。

 

「はい。これでいいですよね?」

 

「はぁ……いいんですか?」

 

「ん? 何故です」

 

 大淀さんは、少し困った表情で私に言ってきました。

 

「横須賀鎮守府は特殊な施設です。普通なら通らない要求なども、網を通る水のように通り抜けますが?」

 

 つまり、言いたい放題言えるということでしょう。何故、そんな事になっているか分かりませんが、それは私にとって良くないことです。甘えですからね。

ここに居させてもらう以上、何かしなければなりません。

 

「いいんです。タダ飯食らいにはなりたくありませんからね」

 

「そうですか。……分かりました。提出してきますので、返信があり次第、条件を果たして下さいね」

 

 そう言って書類を大淀さんは仕舞いましたが、少し浮かない顔をしています。

 

「大淀さんは、今の書類に何か思うことでもあるんですか?」

 

 そう聞くと、すんなり答えてくれました。

 

「条件の前者に関しては、理解できます。ですけど、後者が問題です」

 

 艦娘の戦意高揚に何か、問題が在るみたいですね。

 

「何かあるんですか?」

 

「はい。戦意高揚に関して、100%無理と言っても過言ではありません」

 

 やる前からバッサリと切られてしまいました。

 理由を思い浮かべてみると、1つ浮上してきました。紅くんの存在です。

艦娘たちにとって、紅くんがどんな存在だったかが、大淀さんを『無理』だと言わせた理由になるのでは、と思いました。

単純に、『信頼できる提督』ならば、同列かそれ以上の指揮能力を見せたら士気も上がると思います。

もしそうだとしたら、大淀さんは『無理』だなんて言わないでしょうね。精々、『多分、無理』となら言うでしょう。私という人間をまだ、2日くらいしか見てないですからね。そんな短期間で、私の能力を見抜けるとは思えません。

少し捻ると、『紅くんの事を、提督として見ていない』と言うことです。つまり、別の人間として見ていたという事です。どう見ていたかなんて様々ですが、それ以外として見ていたのなら、考えられる可能性です。

先ず無いと思うのが、『紅くん以外の指揮者を必要としていない』という事です。そうなると、組織としてどうなのかと、私は思いました。上に立つ人間が変わると、機能不全を起こすなんて、疾患もいいところです。

 結局のところ、どの理由も有り得そうで有り得ない、という回答になってしまいました。これは前途多難ですね。

 

「善処しますよ……」

 

「期待してますね。では、失礼します」

 

 大淀さんは部屋を出て行きました。書類を提出に行くんでしょうね。

 私は、ベッドに寝転がると、天井を見上げました。

ここにいることで、条件を課せられるのは想定内でしたが、まさかこんな条件を加えてくる等、思っても見ませんでしたから。

それに、大淀さんから『無理』と言われた事。本当に無理なんじゃないか、と思ってしまいそうです。

 紅くんと会える日までに、私はここで何をしていく事になるんでしょうね。

 

 




 昨日はキーボードを枕に、寝てしまいました(汗)
これも何度目でしょうね。
まぁ、前作程切羽詰まって書いてませんので、いいんですけどね。度々、日が開くと思います。その時は、疲れているんだなぁとか思っていて下さい。
 鎮守府に居る事は、色々弊害があるんですよね。提督だからすんなり進んだことも、別でしたら、こうなってしまうんです。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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