【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第10話  条件②

 

 私は布団を整えて、立ち上がりました。今日で鎮守府に来て3日目です。今日はやることがあります。

大本営海軍部というところからの、鎮守府滞在条件をクリアする為に行動しなければなりません。

まず1つ目です。『横須賀鎮守府にて使役する事』、です。という事は、この横須賀鎮守府で働き口を見つけなければなりません。

そう思って、昨日、たまたますれ違った金剛さんに聞いてみました。

 

『そうデスネー……。見た感じダト、何処も手が足りてると思いマス』

 

 と、返答がありました。確かに、飽和とまでは行きませんが、横須賀鎮守府の労働力は充実していると思います。

『柴壁』という民間軍事組織に入る事が、一番確実でしょうね。

 

(色々回る前に、朝ごはん食べてきましょう)

 

 そう思い立ち、私は部屋から出ていきます。着ている服は、昨日買った服です。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 食堂で朝食を済ませました。私はこれから、とりあえず条件をクリアするために、労働の出来るところを回ってみる事にしました。

先ずはですが、事務棟に行ってみようと思います。

 

「すみません。責任者の方、いらっしゃいますか?」

 

 私はとりあえず、事務棟の入り口から入ってすぐにある、カウンターでそう受付の人に言いました。見たところ、外部から入るところはここしかありませんでした。他にも入り口はあったんですが、関係者用の入り口みたいです。

 

「はい。少々お待ちください」

 

 受付の人はそう、答えるとどこかに内線で電話をします。

数秒後に受話器を置くと、私に返事をくれました。

 

「応接室にご案内します」

 

 そう言われて、私は受付の人の後について奥へ入って行きました。

応接室に通されましたが、至って普通の部屋にしか見えません。会議室というよりも、規模が小さいみたいですからね。

 

「どうされました? 見たところ、艦娘の方ではないみたいですが」

 

「はい。先日ここに来ました、碧 葵と申します」

 

「あぁ、碧さんですね」

 

 どうやら、あちらの人は分かっているみたいです。多分、ここが横須賀鎮守府の施設だからでしょう。それに、ここは鎮守府と外との連絡手段として使われるらしいですから、私の偽名のやり取りが耳に入らない訳がないですよね。

 

「はい。それで、大本営海軍部からの……」

 

 私がそう言いかけると、遮られてしまいました。

 

「その件ですが、ここでは出来ません」

 

 抽象的でしたが、意味は分かります。

ここでは働けないという事でしょう。

 

「よろしければ、理由をお聞かせ下さいませんか?」

 

 私がそう聞くと、快く教えてくれました。

理由として第一にあるのが、『取り扱う仕事』でした。事務棟というのは、外との連絡手段です。鎮守府が外と連絡する事なんて言えば、大本営などの軍上層部しか無いでしょう。そう言ったところとのやり取りを、"民間人"である私に見せる訳にはいかないそうです。次にあるのが、『見せられないものがある』でした。これも、第一とほぼ同じような理由ですね。私には見せられないような事務処理がある、という事です。

つまり、事務棟では働く事が出来ない、ということになります。

 

「そうですか……ありがとうございました」

 

「いえ。横須賀鎮守府の中なら、何かしらあるはずですよ。諦めないで探して下さい」

 

「はい」

 

 応援されてしまいましたが、私は事務棟を出て行きました。

なんというか、悔しいみたいな気持ちは芽生えませんね。『貴女は要らない』と言われた訳ではないからでしょうか。

 次に向かったのは、酒保です。酒保はかなり広い施設です。どれだけ人がいても、問題ないと思い、私は話をする事に決めました。

 酒保に入り、サービスカウンターのような場所で従業員さんに声を掛けます。

 

「すみません。責任者の方、いらっしゃいますか?」

 

 事務棟の時と、同じセリフです。普通に使ったら、ただのクレーマーの様にも聞こえてしまいますね。ですけど、ここだとそのようには感じません。不思議です。

 

「貴女、艦娘の方ではありませんね……少々お待ち下さい」

 

 何だか、事務棟の時と同じようなセリフを言われたような気もしますが、素直に黙って待ちます。

そうすると数分後、私の前にある女性が現れました。多分、酒保の責任者でしょう。

会議室に行くとのことでしたので、後ろを付いていきました。

 

「どうされましたか?」

 

「はい。先日、ここに滞在する条件として……」

 

 そう話を切り出した時、またもや遮られてしまいました。

どうやら、私のことは知られているみたいですね。碧 葵の方でしょうけど。

 

「あぁ、碧さんですか。えぇっと……それで、条件とは?」

 

「はい。条件に、横須賀鎮守府で労働する事があるんですよ。それを達成する為に、私を雇っては頂けませんか?」

 

 そう、私は酒保の責任者の人の頭を下げます。

責任者の人は、少し考えると答えをくれました。

 

「現状、即決することは出来ません。なにせ、人数が多いですし、把握しきれてませんからね」

 

「そうですか。……ありがとうございました」

 

 私が会議室から出ようと立ち上がった時、止められました。

 

「時間がかかりますので、他で見つかるといいですね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 酒保もダメでした。もう、私の考えて、アテにしていたところはこれで全滅です。

この他にどこか、あるんでしょうかね?

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 行く宛無いまま、本部棟の中を歩き回っていたら、あることに気が付きました。

大淀さんに鎮守府を案内してもらいましたが、その時に案内されなかった部屋がいくつもあるんです。例えば、会議室です。鍵がかかってなかったので、覗いてみたところ、かなり広い会議室でした。多分、60人以上座れる会議室です。その他にも、強引に封鎖されている部屋や、通信室、書類保管室、火器保管室などがありました。どれも厳重に鍵が掛けられていて、見るからに使ってないんだろうな、と思いました。特に、火器保管室です。鍵に埃が積もっていましたからね。きっと、長い事開いてないんでしょう。

 そんな風に、本部棟の中を探検していると、ある部屋を見つけました。

医務室です。その名の通り、診療などをしてくれる部屋ですね。入り口は開いてましたので、使っているんでしょう。

他にも、使われている特殊な部屋はあります。用具倉庫、自習室、教室、懲罰室等など。懲罰室に関しては、使っているようには見えませんでしたが、中に荷物が置いてあったので、倉庫として利用されているんでしょうね。

 私は結局、どこで労働するかを決め悩んでいました。どこかで労働するにしても、2つ目の条件の事もありますので、艦娘と密接にならなければなりませんからね。

それを踏まえると、1つしかありませんでした。

 

(医務室でしょうね……)

 

 医務室でした。今更ですが、私の元居た世界での職業は、看護師です。一応、免許はありますし、半年間だけですが、経験もあります。医務室なら遺憾なく、私の能力を発揮できると共に、2つ目の条件のクリアを目指しやすいのでは、と思いました。

 この事に関して、妖精さんに言ってみたところ、『私たちでは決めかねます。赤城さんとかに聞いてみないと分かりませんね』と返されてしまいました。

ですので、私は赤城さんの元を訪れています。

 

「ここに滞在する条件で、労働しなくてはならないんですけど、どこで働けばいいんでしょうか?」

 

 私は赤城さんの部屋で正座しながら、訊きます。

 部屋を見ると、見るからに1人部屋ではありません。誰かと相部屋なんでしょうね。

 

「大淀さんからそんな事を聞いたような……。そうですねぇ」

 

 赤城さんは考え始めました。私はそれをただ黙って、待っています。

 

「……私から見ても、ほとんど無いでしょうね。外へ買い物には送り出せませんし、中でも……」

 

 そう言った赤城さんは、言葉に詰まりました。多分、何か引っかかる事でもあったんでしょう。

 

「あるかも、知れません」

 

 そう、赤城さんは言いました。会う人、会う人に無いと言われ続けてきたというのに、どこにあるんでしょうか。

 

「本当ですか?」

 

「はい。……と言っても、紅提督のお姉様に鎮守府で労働させる等、恐れ多いです」

 

 赤城さんは渋りました。どういった考えで、そんな事を言っているか分かりませんが、『働かざるもの、食うべからず』です。

 

「そんな事ないですよ。『働かざるもの、食うべからず』ですよ? タダ飯食らいにはなりたくありません」

 

 正直な気持ちを、赤城さんに伝えました。

 

「そうですか?」

 

「はい」

 

 本音ですよ。ニートはしたくないですからね。

 

「分かりました。……私が思い付いたのは、『柴壁』で働く事ですね」

 

「『柴壁』ですか……」

 

 『柴壁』は、横須賀鎮守府が雇っている民間軍事組織です。そこなら働けるのでは、と赤城さんは言うのです。

 私は、赤城さんから提案されて少し考えました。

聞いて最初に思った事は、『無理』でした。理由としては、まだこの世界に来て日が浅い事と、横須賀鎮守府という組織自体が特殊故です。後者に関しては、ひしひしとそれが感じられていたんです。

紅くんへの思い、体制、大本営の鎮守府への弱腰な態度……。見るからにおかしいです。

 そんな様子しか見ていないものですから、『柴壁』で働き始めたとしても、付いてけないと思ったんです。

 

「『柴壁』は……無理ですね。ごめんなさい」

 

「そうですか? なら、もう思いつきませんね。力になれずに、申し訳ございません」

 

 赤城さんは頭を下げました。それに釣られて私も、赤城さんに頭を下げてお礼を言います。

 

「こちらこそ、話を聞いて頂き、ありがとうございました」

 

「いえ、当然のことです」

 

 私は少し、そのまま赤城さんと雑談をしました。他愛もない話です。異様に、紅くんの事を聞かれた事が気になりますけどね。

 




 どうも。2日振りに浮上してきました。
最近、更新速度が遅いのは、リアルのほうが忙しいからです。まぁ、忙しくなくても、偶に1日空けてしまうかもしれませんけどね。

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