【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
第12話 『柴壁』
『柴壁』に入った事によって、私は常に迷彩服を着ることになりました。私服を買いはしましたが、まぁ、仕方ないですね。
それと、今日の座学の後に西川さんからの連絡がありまし。私は一応、”書類上”では雇用されていますので、お給料が出るみたいですね。
扱いに関しては、『新卒二等兵 基本給23万円(保険込)』という事でした。どれだけ財力あるんですか、横須賀鎮守府艦隊司令部。
それはさておき、今日も体力作りです。迷彩服を来て、キャップを被って警備棟の周りを永遠と走っています。休憩は西川さんの裁量でありますが、『柴壁』に入る以上、並以上の戦闘力を必要とされるそうで、私が紅くんの姉だろうが関係無しにやるとの事でした。ですので、現在進行形で私は限界寸前の状態を走りこんでます。
「そんなもんですかッ?! そんなんじゃ、大本営の実力行使で引っこ抜かれて、陽の照る場所に出れなくされますよッ?!」
(さらっと……とんでもないっ……事をっ?!)
何も考えてられない状況の私が、唯一、それだけを考える事が出来ました。
陽の照る場所じゃないって、どんな場所なんでしょうか。
息を切らせながら、痛む腿にムチを打ちます。走りながら、げんこつを腿に振りかざし、叩きます。
目だけを横にずらすと、平気な表情をしている西川さんが並走しています。とんでもないです。私からしたら、バケモノですよ。
「まだまだ走りますからねッ!! あと、5周ッ!!」
返事をしている余裕もありませんので、私はただただ前を見て走るだけです。
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午前中はひたすら走るだけでした。昨日もそうでしたが、必要な事だということは理解しています。ですが、身体がやはり追いつかないですね。
筋肉痛のまま、走り込みでしたので、昨日以上に苦しかったです。それに、足の裏も痛いです。擦れているんでしょうね。
昼食を摂った後、座学があります。一応。内容は、『指揮系統に関して』でした。
組織の特殊さ故、指揮系統も不思議でした。
先ず、命令は私設軍事組織『柴壁』のリーダーである、武下さんからの命令が通常時です。緊急時は現在の体制だと、赤城さんからの協力”要請”によって、『柴壁』の人員は一時的に、艦娘の指揮下に置かるそうです。ちなみに武下さんも、その指揮下に入るそうです。
次に任務です。任務内容は以前にも説明があった様な気が増しますが、詳しい事を聴きました。
『柴壁』は人員によって、部隊が分けられているそうです。
一般的な人員は、『番犬』と呼ばれているそうです。由来は色々とあるそうですが、最も大きな影響を受けているのは、横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘が非公式に編成している、”番犬艦隊”というものから由来しているみたいですね。元の”番犬艦隊”とは、紅くんお付の護衛艦隊の事らしいです。その”番犬艦隊”の請け負っていた任務を、将来的には、『柴壁』が担うという意味を込めているみたいですね。
次に、『猟犬』です。由来としては、『番犬』の中でもエリートが集められた、特化部隊みたいなものらしいです。この前会った、長政さんがそちらの所属らしいです。
主な任務は、侵入者の警戒や排除等だそうです。と言っても、全く出番がないみたいですね。
最後に、『血猟犬』です。由来は、犬の中でも嗅覚の鋭い犬種から取られた名前だそうです。任務は諜報などを担っているみたいですね。体外的な組織だということです。普段は、『諜報班』と呼ばれているとの事でした。ちなみに、巡田さんは『血猟犬』だそうです。
他にも、様々な部署があるみたいです。ですけど、犬に関連した名前が付けられているのは、これだけみたいです。どうやら、戦闘要員の括りは一括で、犬で括られてしまうみたいですね。
「今日の座学はこれまでです。休憩を挟んで、射撃訓練を行います。地下に来て下さい」
これで座学は終わりみたいですね。内容としては難しくないものの、覚えなければならないので、結構大変です。ですが、テストなどはしないそうですので、有り難いです。
「はぁー……」
西川さんが姿勢を崩して、歩き出した途端、私は机に突っ伏せました。
昨日もこんな調子でしたが、身体が追いつく訳もありません。かなり疲労が溜まっています。
眠気と格闘しながら、私は地下に向かいました。
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地下は外の温度とは正反対で、とても涼しいです。ですけど、硝煙の臭いが鼻に効きます。昨日もですが、思わず鼻をつまんでしましました。
「2日ではまだ、慣れないですよね……」
そう西川さんは、苦笑いしながら言います。
地下では、射撃訓練をします。約2週間、拳銃を扱い、その後の2週間は短機関銃を扱います。最後の2週間で、小銃を撃つとの事でした。
「いいですか。昨日言った通り、立って構えて下さいね」
私の後ろで、西川さんはそう言います。正面の5m先には、紙で出来たターゲットが壁に貼られています。素人は5mでも外すというらしいです。それを基準に、どんどん距離を遠くしていくと、昨日言ってました。
「脇を閉めて、両目をちゃんと開いて下さい」
私は返事をせずに、構える事に集中します。拳銃を両手で支え、照準器で的を狙います。
突き出す様に出した、拳銃の引き金を引きます。
耳を劈く音と共に、腕に衝撃が走ります。握っている方の手のひらと、手首がジンジンと痛みます。
それを我慢して、ズレた照準器で的を狙って、同じように引き金を引きます。
何度か撃った後、的を見に行って、西川さんから指導を受けます。射撃訓練はこれの繰り返しです。
今は立ちながら撃ってますが、中腰になったり、立膝で撃ってみたり、屈んで撃ってみたり、姿勢を変えて撃つ練習もします。どんな体勢でも、撃てるようになるための訓練ですね。壁に隠れて、手を出して、頭を数秒間出して撃つ訓練もしました。
ですが、ただ姿勢を変えて撃つだけではありません。上と繋がる階段を全力疾走して戻って来て撃つ訓練もします。息の上がった状態でも正確に撃てるか、という訓練です。走る時は、拳銃を持ったまま走りますので、片手に約1kgの鉄の塊を持ったまま走ります。それだけでも、かなり苦しいものでした。
射撃訓練を終える頃には、手の感覚がありませんでした。昨日もでしたけどね。
そんな手を擦りながら、西川さんの話を聴きます。
「今日の訓練は終わりです。身体をゆっくり休めてくださいね」
「はい」
私は西川さんにお辞儀をします。軍人ではありませんからね。
そこは徹底するつもりです。
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私室は艦娘寮から移動して、『柴壁』用の寮に移りました。どこにあるのかと言うと、鎮守府の中を10分くらい歩いたところにあります。
嘗ては、滑走路があったらしいですが、そんな痕跡は何処にも残ってないんですよね。
建物は2棟立っていて、男女で分かれています。そりゃそうですよね。ですけど、内装は全く同じとの事です。何でも、妖精さんが同じ設計図から作っただとか。それは同じになりますよね。
西川さん曰く、『柴壁』の人員数は約800人居るらしいです。
しかも全員、いわゆるエリートというものらしいです。海軍憲兵出身と言われても、分かりませんが、凄いという事は伝わりました。特殊部隊出身の人なども沢山いるそうです。
とんでもない組織なんですね。
ですが、よくよく考えてみると、全員は以前は軍人だったそうですが、一斉に退役したそうです。それでも軍は、止めなかったみたいです。私だったら、必死に止めていたでしょうね。
「部屋の勝手はどうですか?」
「丁度良いですよ。今のところ、困った事はないですね」
私の部屋に、沖江さんが来ています。相変わらずの迷彩服ですけど、上は脱いでいて、肩を思いっきり出したノースリーブです。私もですけどね。
「それは良かったです。それと昨日、色々伝え忘れていました」
そう言った沖江さんから聞いた話だと、酒保が利用出来ないという事でした。鎮守府を出てすぐには栄えたところがありますので、そちらを利用して欲しいとの事でした。
「酒保は艦娘専用に作られた施設ですから、私たちが利用する訳にはいかないんですよ」
沖江さんはそう、笑って言います。
「艦娘専用ですか?」
「はい。元の横須賀鎮守府は、買い物も満足に出来ないところでしたからね。必要最低限の日用品しか、売ってませんでしたから」
笑いながら、沖江さんは言います。
私としては、全然笑えないんですけどね。
「横須賀鎮守府にある施設は全て、艦娘の為に後で用意されたものですので、利用しないようにしてくださいね」
そう念押しのように言った、沖江さんのセリフを反芻しました。
よくよく考えてみれば、横須賀鎮守府にはグラウンドがありました。ですけど、訓練であそこを使った事は今のところありません。
使えるものなら使うんでしょうけど、そういう理由があったから使わなかったんですね。
「分かりました」
「では、ご飯は昨日と同じように。また、後ほど」
そう言って、沖江さんは部屋を出て行きました。
昨日のご飯は、寮と寮の間にある食堂で食べました。味としては、間宮さんの作るものとほとんど変わらないです。とても美味しいんですよ。
レパートリーは、こっちの方が多いみたいですけどね。
食堂は男女が入り乱れています。流石にノースリーブで行くのは恥ずかしいのか、女性はみなさん上着を着ていますが、男性はノースリーブですね。
こちらの食堂は、カウンターで直接頼むのではなく、発券機で発券したものをカウンターに置いて、番号札を貰うだけです。
私の番号は『26』でした。
「こっちですよ」
沖江さんが、席に座りながら手を振ってくれます。
私は沖江さんの横に、座りました。
「すみません」
「いえいえ。ここは全員が知っている顔で名前も覚えてますから、新入りは入り辛いんですよ」
そう沖江さんは言いました。
確か、『柴壁』が出来てから、私が初の新入りだそうです。
「そうなんですか?」
「はい。ましろさんの名前は皆知りませんけど、配属が決まれば嫌でも知る事になりますからね」
そう言って沖江さんは、番号が呼ばれたのか、立ち上がって取りに行きました。
嫌でも知る事になるって、何があるんでしょうね。
トレーを持って戻ってきた沖江さんと入れ替わりで、私の番号も呼ばれたので、取りに行きます。
戻ってきて、私は沖江さんと話しをしました。
どういった経緯で異世界から来たのか、『柴壁』に入った理由等を聞かれました。まぁ、嘘を言っても仕方ないですので、素直に答えるんですけどね。
大本営とは繋がりがあまりないみたいですから、言っても問題ないかと考えました。
「そんな事が……。紅提督がこっちに来られてからはの事は知ってましたが、向こうでそんな事になっていたんですね」
「はい。両親も紅くんの友だち、学校も……」
沖江さんは、黙って聞いてくれました。
そんな話が終わってからの、沖江さんの言葉です。
「私は紅提督着任の時から居ましたので、これまでの事は全部見てきました」
沖江さんは、おかずをつつきながら話します。
「西川君の座学を聞いているなら分かるでしょうけど、本当に色々な事がありましたからね」
「大雑把にしか聞いてませんけど、なんか細かい事であったんですか?」
「えぇ。紅提督は頻繁に『イレギュラー』という単語を使ってましたね」
「『イレギュラー』ですか……」
ここに来て、急に新たな情報を手に入れました。
『イレギュラー』という単語をよく、紅くんが話していた、という事です。その言葉にどんな意味を込められていたのか、私は当分先まで知ることはありません。
何時ぶりの投稿でしょうか? そろそろ大和の方も投稿しないといけませんね(汗)
今回か、次回で第一章は終わりですね。予告しておきますが、第ニ章に突入すると、時間がすっ飛びます。どれくらい飛ぶかは、ご想像にお任せしますね。
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