【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第14話  情報収集②

 配属が決まったのは、朝でした。時間的にはまだ、昼には程遠いです。私の記憶違いでなければ、この時間は執務を終わらせてから、暇をしている時間の筈です。

 私は少し忘れかけている、艦娘寮の中を歩きます。

時間を置いてはいますが、やはり変わりませんね。たった数日しか居なかったここも、懐かしく思えてきます。

そんな事を考えながら歩いていると、艦娘に声を掛けられました。

 

「む。貴官は見ない顔だな」

 

 身体のラインが浮き出る白が基調の服に、プリーツスカート。黒いストッキングを履いていて、ケープを羽織っています。

肌の色はかなり白く、髪の毛は薄いグレーでした。雰囲気からして日本人には見えないです。

彼女には、私は見覚えがありました。

 

「グラーフ・ツェッペリン?」

 

「そうだが……。貴官は?」

 

「私は、碧 葵です」

 

「あぁ。数カ月前に異世界から人探しに来たという。……見つかったのか?」

 

 勝手なイメージの押し付けかもしれませんが、グラーフ・ツェッペリンさんは堅苦しい性格をしていると思っていました。ですが、そういう訳でもないみたいです。

結構、社交的ですし、笑います。

 

「いえ、まだです」

 

「それで、貴官はどうしてここを? 身なりはどうやら『柴壁』の者のようだが?」

 

「今はそうなってしまいました」

 

 私は詳しくは言いません。それには理由があります。

グラーフ・ツェッペリンさんが、私を止めさせたんです。言ってはならないと、そう直感で感じ取ったんです。

 

「まぁいいだろう。それで、どうしてここに? 『柴壁』の者は、ここには来ないのだが」

 

 何の気無しに言っているんでしょうけど、ものすごく怖く感じます。

何を考えているのか、分かりませんからね。それに、ここに来る前に巡田さんから聞かされていた事も気になりますし。

 

「ここにはお世話になってましたからね。幾ら数日とはいえ、懐かしいんですよ」

 

 またも、適当な言葉を並べて言います。

 

「そうか……では、私はこれで失礼する」

 

「はい」

 

 そう言って、グラーフ・ツェッペリンさんは離れて行きました。どうやら、とりあえずは見破られなかったみたいですね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私は、以前訪れた事のある、赤城さんの部屋の前に来ています。

特に行く宛もなく歩いていたら、いつの間にかここに来ていました。

私は扉をノックします。そうすると、中から返事が聞こえてきました。

 

「はい」

 

「お久しぶりです」

 

 扉越しに言いますが、相手の返事に違和感を覚えます。赤城さんって、アルトボイスでしたっけ?

 

「入ってもよろしいですか?」

 

「どうぞ」

 

 私は、違和感を持ちながらも扉を開いて、部屋に入りました。

そうすると、ある人が座っていました。赤城さんではありません。

赤城さんとは色違いの改造袴を着ていて、髪の毛をサイドテールにしている艦娘が居ました。加賀さんです。

どうやら、赤城さんの相部屋相手は加賀さんだったみたいですね。

 

「貴女は確か……碧 葵さんでしたっけ?」

 

「はい。貴女は加賀さんですね?」

 

 お互いに、どんな名前か言い合います。

そして私は、加賀さんの正面に座りました。

 

「よろしくお願い致しますね」

 

「はい。こちらこそ……それで、なんの御用ですか?」

 

 加賀さんはあまり表情を変えずに、私にそう訊いてきます。

なんとなく、イメージ通りですが、なんだか変ですね。

 

「赤城さんに用がありまして……」

 

「赤城さんなら、外出していますよ」

 

「何処に行ったとか、分かりますか?」

 

 加賀さんの表情を伺いながら、訊きます。

 

「酒保に。服を買いに行きました」

 

「成る程」

 

 普通に答えてくれましたが、何だか変な感じは抜けません。

加賀さんが捉える、私はどう写っているんでしょうね。

じっと、観察されている様でならないんです。

そんな時間が20秒くらい続いた時、加賀さんは口を開きました。

 

「貴女……嘘は良くないですね」

 

 突然、そんな事を言い出したんです。どういう意味でしょうか。

最初は理解できませんでしたが、やがてそれが何を指しているのか分かりました。多分、私の名前の事でしょう。たった数分前に会ったばかりですので、違和感を持つとしたらそこくらいしかありません。ですが、何故それを疑ったんでしょうか。

 

「嘘、ですか?」

 

 私は分かってない風に、加賀さんに聞き返します。

 

「はい」

 

 それ以上、加賀さんは答えてくれませんでした。そして、その目は私に向けられたままです。

 

「碧さん。貴女、何者ですか?」

 

 とてもストレートに訊いてきます。

答えるにしても、何を訊いているのか分かりませんので、回答に悩みます。私がどういう人間なのか、どうしてここに居座るのか、そういう事を訊いているんでしょうかね?

数秒間、私は黙ったままでしたので、加賀さんが再び訊いてきます。

 

「貴女は誰なんですか?」

 

 加賀さんは正座したまま、私の顔を捉えます。そんな加賀さんの顔を私は、直視できていません。顔を見ることを、私の深層心理が拒絶しているみたいです。

加賀さんの表情を見てはいけないと、そう言っている気がします。

 

「私はっ……」

 

 そう、吃りながら口を開いたその時、扉が開かれました。

 

「只今戻りました……って、碧さんですか? お久し振りです」

 

 扉を開いたのは、赤城さんでした。柔らかい笑顔で、私に挨拶をしてくれます。

そんな赤城さんに、私は返答しました。

 

「お久し振りです、赤城さん」

 

 今、ふと思いました。赤城さんはナチュラルに、私を偽名の方で呼びました。加賀さんが私の本名を知らないと、分かっているんですね。柔軟な対応力は素晴らしいモノです。

 

「数ヶ月間、警備棟の周りを走らされているのを何度か見ましたが、どうでした?」

 

 赤城さんは、加賀さんの横に正座して、私に訊いてきます。

部屋の隅に置いた物が、視界の端に映りました。あれは何でしょうか。食料品では無いようですね。

 

「そうですねぇ……辛かったですが、なんとか訓練も終えることが出来ました」

 

「そうですか。おめでとうございます」

 

 赤城さんへの近況が、私から伝えられます。そんな話をしていますが、この場には加賀さんも居るんです。それに、赤城さんが帰ってくるまでは加賀さんと話していました。

その加賀さんから聞かれた事を、私はまだ答えてません。

 

「赤城さん」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 私は何も言いませんが、赤城さんの目を見ます。

優しく微笑んでいる赤城さんの目を、ただじっと見ます。すると、赤城さんは何も言わずに見る私が、それを何を意味しているのか読み取ろうとします。

表情が段々と、真剣になっていったんです。

そんな私と赤城さんに、少し戸惑う加賀さんをそっちのけて、赤城さんが言いました。

 

「加賀さん」

 

「は、はい」

 

「少し、席を外して貰えますか?」

 

 赤城さんは、唐突にそんな事を言いました。

私としては好都合です。

そんな赤城さんの言葉に、疑問を持ちつつも、加賀さんは立ち上がって部屋を出て行きました。

それを見送った、私たちは話を始めます。

 

「ましろさん」

 

 やっぱり、呼び方を変えていたみたいですね。

 

「はい」

 

「どうして、戻ってきたんですか?」

 

 赤城さんの質問は、とても単純でした。ですけど、回答には困ります。

『艦娘の状態を調査』だなんて言ったら、どうなるか分かりませんからね。いくら私が、紅くんの姉とはいえ。

ですけど、嘘も吐けません。私を雇っているのは艦娘、赤城さんですからね。

業務内容を知っているのかも、私は知りませんからね。ここは任務内容は言わずに、素直に答えるしかありませんね。

 

「情報収集ですけど、私にはまだ任がないみたいでして」

 

「……成る程」

 

 どうやら、赤城さんはそれだけで納得してくれたみたいです。

やっぱり、雇い主相手だと、中途半端な会話でも成立するんですね。

 

「情報収集という事は、『血猟犬』ですか?」

 

「はい」

 

 よく知ってますね。

 

「まぁ、任務がないとのことですし、休みみたいなものですか?」

 

「そんなところですね」

 

 赤城さんに適当に話を合わせます。ここで何か言っても、ボロが出る可能性がありますからね。

 

「なら、付いてきて頂けますか?」

 

 そう言った赤城さんは、急に立ち上がりました。

一体、私を何処に連れて行こうとしているんでしょうか。

 




 2日振りくらいの投稿でしょうか。
本作は、前作とは違い、毎日投稿はしないつもりです。

 さて、雲行きが怪しくなりつつありますね。ましろもかなり警戒しての、初任務です。
どうなって行くのやら……。

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