【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
配属が決まったのは、朝でした。時間的にはまだ、昼には程遠いです。私の記憶違いでなければ、この時間は執務を終わらせてから、暇をしている時間の筈です。
私は少し忘れかけている、艦娘寮の中を歩きます。
時間を置いてはいますが、やはり変わりませんね。たった数日しか居なかったここも、懐かしく思えてきます。
そんな事を考えながら歩いていると、艦娘に声を掛けられました。
「む。貴官は見ない顔だな」
身体のラインが浮き出る白が基調の服に、プリーツスカート。黒いストッキングを履いていて、ケープを羽織っています。
肌の色はかなり白く、髪の毛は薄いグレーでした。雰囲気からして日本人には見えないです。
彼女には、私は見覚えがありました。
「グラーフ・ツェッペリン?」
「そうだが……。貴官は?」
「私は、碧 葵です」
「あぁ。数カ月前に異世界から人探しに来たという。……見つかったのか?」
勝手なイメージの押し付けかもしれませんが、グラーフ・ツェッペリンさんは堅苦しい性格をしていると思っていました。ですが、そういう訳でもないみたいです。
結構、社交的ですし、笑います。
「いえ、まだです」
「それで、貴官はどうしてここを? 身なりはどうやら『柴壁』の者のようだが?」
「今はそうなってしまいました」
私は詳しくは言いません。それには理由があります。
グラーフ・ツェッペリンさんが、私を止めさせたんです。言ってはならないと、そう直感で感じ取ったんです。
「まぁいいだろう。それで、どうしてここに? 『柴壁』の者は、ここには来ないのだが」
何の気無しに言っているんでしょうけど、ものすごく怖く感じます。
何を考えているのか、分かりませんからね。それに、ここに来る前に巡田さんから聞かされていた事も気になりますし。
「ここにはお世話になってましたからね。幾ら数日とはいえ、懐かしいんですよ」
またも、適当な言葉を並べて言います。
「そうか……では、私はこれで失礼する」
「はい」
そう言って、グラーフ・ツェッペリンさんは離れて行きました。どうやら、とりあえずは見破られなかったみたいですね。
ーーーーー
ーーー
ー
私は、以前訪れた事のある、赤城さんの部屋の前に来ています。
特に行く宛もなく歩いていたら、いつの間にかここに来ていました。
私は扉をノックします。そうすると、中から返事が聞こえてきました。
「はい」
「お久しぶりです」
扉越しに言いますが、相手の返事に違和感を覚えます。赤城さんって、アルトボイスでしたっけ?
「入ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
私は、違和感を持ちながらも扉を開いて、部屋に入りました。
そうすると、ある人が座っていました。赤城さんではありません。
赤城さんとは色違いの改造袴を着ていて、髪の毛をサイドテールにしている艦娘が居ました。加賀さんです。
どうやら、赤城さんの相部屋相手は加賀さんだったみたいですね。
「貴女は確か……碧 葵さんでしたっけ?」
「はい。貴女は加賀さんですね?」
お互いに、どんな名前か言い合います。
そして私は、加賀さんの正面に座りました。
「よろしくお願い致しますね」
「はい。こちらこそ……それで、なんの御用ですか?」
加賀さんはあまり表情を変えずに、私にそう訊いてきます。
なんとなく、イメージ通りですが、なんだか変ですね。
「赤城さんに用がありまして……」
「赤城さんなら、外出していますよ」
「何処に行ったとか、分かりますか?」
加賀さんの表情を伺いながら、訊きます。
「酒保に。服を買いに行きました」
「成る程」
普通に答えてくれましたが、何だか変な感じは抜けません。
加賀さんが捉える、私はどう写っているんでしょうね。
じっと、観察されている様でならないんです。
そんな時間が20秒くらい続いた時、加賀さんは口を開きました。
「貴女……嘘は良くないですね」
突然、そんな事を言い出したんです。どういう意味でしょうか。
最初は理解できませんでしたが、やがてそれが何を指しているのか分かりました。多分、私の名前の事でしょう。たった数分前に会ったばかりですので、違和感を持つとしたらそこくらいしかありません。ですが、何故それを疑ったんでしょうか。
「嘘、ですか?」
私は分かってない風に、加賀さんに聞き返します。
「はい」
それ以上、加賀さんは答えてくれませんでした。そして、その目は私に向けられたままです。
「碧さん。貴女、何者ですか?」
とてもストレートに訊いてきます。
答えるにしても、何を訊いているのか分かりませんので、回答に悩みます。私がどういう人間なのか、どうしてここに居座るのか、そういう事を訊いているんでしょうかね?
数秒間、私は黙ったままでしたので、加賀さんが再び訊いてきます。
「貴女は誰なんですか?」
加賀さんは正座したまま、私の顔を捉えます。そんな加賀さんの顔を私は、直視できていません。顔を見ることを、私の深層心理が拒絶しているみたいです。
加賀さんの表情を見てはいけないと、そう言っている気がします。
「私はっ……」
そう、吃りながら口を開いたその時、扉が開かれました。
「只今戻りました……って、碧さんですか? お久し振りです」
扉を開いたのは、赤城さんでした。柔らかい笑顔で、私に挨拶をしてくれます。
そんな赤城さんに、私は返答しました。
「お久し振りです、赤城さん」
今、ふと思いました。赤城さんはナチュラルに、私を偽名の方で呼びました。加賀さんが私の本名を知らないと、分かっているんですね。柔軟な対応力は素晴らしいモノです。
「数ヶ月間、警備棟の周りを走らされているのを何度か見ましたが、どうでした?」
赤城さんは、加賀さんの横に正座して、私に訊いてきます。
部屋の隅に置いた物が、視界の端に映りました。あれは何でしょうか。食料品では無いようですね。
「そうですねぇ……辛かったですが、なんとか訓練も終えることが出来ました」
「そうですか。おめでとうございます」
赤城さんへの近況が、私から伝えられます。そんな話をしていますが、この場には加賀さんも居るんです。それに、赤城さんが帰ってくるまでは加賀さんと話していました。
その加賀さんから聞かれた事を、私はまだ答えてません。
「赤城さん」
「はい、何でしょうか?」
私は何も言いませんが、赤城さんの目を見ます。
優しく微笑んでいる赤城さんの目を、ただじっと見ます。すると、赤城さんは何も言わずに見る私が、それを何を意味しているのか読み取ろうとします。
表情が段々と、真剣になっていったんです。
そんな私と赤城さんに、少し戸惑う加賀さんをそっちのけて、赤城さんが言いました。
「加賀さん」
「は、はい」
「少し、席を外して貰えますか?」
赤城さんは、唐突にそんな事を言いました。
私としては好都合です。
そんな赤城さんの言葉に、疑問を持ちつつも、加賀さんは立ち上がって部屋を出て行きました。
それを見送った、私たちは話を始めます。
「ましろさん」
やっぱり、呼び方を変えていたみたいですね。
「はい」
「どうして、戻ってきたんですか?」
赤城さんの質問は、とても単純でした。ですけど、回答には困ります。
『艦娘の状態を調査』だなんて言ったら、どうなるか分かりませんからね。いくら私が、紅くんの姉とはいえ。
ですけど、嘘も吐けません。私を雇っているのは艦娘、赤城さんですからね。
業務内容を知っているのかも、私は知りませんからね。ここは任務内容は言わずに、素直に答えるしかありませんね。
「情報収集ですけど、私にはまだ任がないみたいでして」
「……成る程」
どうやら、赤城さんはそれだけで納得してくれたみたいです。
やっぱり、雇い主相手だと、中途半端な会話でも成立するんですね。
「情報収集という事は、『血猟犬』ですか?」
「はい」
よく知ってますね。
「まぁ、任務がないとのことですし、休みみたいなものですか?」
「そんなところですね」
赤城さんに適当に話を合わせます。ここで何か言っても、ボロが出る可能性がありますからね。
「なら、付いてきて頂けますか?」
そう言った赤城さんは、急に立ち上がりました。
一体、私を何処に連れて行こうとしているんでしょうか。
2日振りくらいの投稿でしょうか。
本作は、前作とは違い、毎日投稿はしないつもりです。
さて、雲行きが怪しくなりつつありますね。ましろもかなり警戒しての、初任務です。
どうなって行くのやら……。