【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

16 / 86
第15話  情報収集③

 私が赤城さんに連れてこられたのは、一度来た事のある場所でした。

一際大きな扉の部屋、”執務室”です。ここには以前、赤城さんに連れてこられた事があります。あの時は、赤城さんに私の本名を明かした時でしたね。

 

「では、入って下さい」

 

 赤城さんはそう言って、扉に手を掛けて開きました。私はそれに付いて、執務室に入っていきます。

中は相変わらず綺麗にしてありますが、やはり使っている様子はありません。それに、紅茶の香りがしています。以前来た時も、していた様な。

 

「金剛さん。また、紅茶を飲んでいったみたいですね」

 

 どうやら紅茶の香りは、金剛さんが飲んでいった後みたいですね。どうしてでしょうか。

わざわざ、ここで飲む意味があるという事でしょうけど。

 

「そうなんですか?」

 

「はい」

 

 赤城さんは、給湯室に入っていきました。お茶でも淹れるんでしょうか。

ですけど、すぐに赤城さんは出てきたんです。何かを確認しに行っただけみたいですね。

 

「やはり、金剛さんでした。……いつもの事ですし、まぁいいでしょう。それでは、こちらに」

 

 そう言って赤城さんは、ある扉に手を掛けました。

その扉は、以前来た時には開かなかった扉。どんな部屋なのかも聞かなかったところです。

 扉が開くと、中には普通のワンルームがありました。ベッド、キッチン、机に椅子、本棚、テレビ。少し離れたところにトイレとシャワー室でしょうか。

その部屋を見て、私は直感的に何の部屋かが分かりました。ここはきっと、紅くんの部屋です。

そして、その中に見覚えのある艦娘が1人、掃除機を持っていました。

 

「赤城さん」

 

「あら、大井さん。今日の掃除ですか?」

 

「はい。今朝はやることがありましたので、この時間に。……そちらは、碧さんですか?」

 

 大井さんです。何故この部屋で、掃除機を持っているんでしょうか。

居ないとはいえ、男の部屋に掃除機を持っているとなると、変な想像をしてしまいます。

 

「はい。お久し振りです」

 

 私は、食堂であった事を忘れたかのように振る舞って、挨拶をします。

大井さんとの出会いは、なんというか、居た堪れないものでしたからね。

 

「その格好、『柴壁』に入ったんですか?」

 

「はい」

 

 私は必要最低限の返答をします。あまり、『血猟犬』だという事を、知られたくはありませんからね。

 

「ここは、紅提督が使われていた部屋です」

 

 やはりそうだったみたいですね。言われる前から、なんとなくですが、想像は付いてましたからね。

 

「そうだろうと思ってましたよ」

 

「あら」

 

 私は赤城さんにそう言います。

紅くんの部屋だろうな、と思っていた事に偽りはありませんから。

 

「では、私はこれで失礼しますね」

 

 掃除機を持った大井さんは、コンセントを抜いて仕舞うと、そう言って部屋を出て行ってしまいました。

私たちが来たので、切り上げてしまったんでしょうか。

大井さんを見送った私に、赤城さんは話し掛けました。

 

「大井さんは、訳ありで紅提督に他の艦娘よりもお世話になっていたんですよ」

 

「え?」

 

 やっぱり、元の世界でのイメージが強いからか、そんな事を思わず口に出してしまいました。

紅くんに手を焼かれていたということなら納得が行きますが、ほぼ確実にそれ以外でしょうね。

 

「大井さんは『提督への執着』が発現してなかったんですよ」

 

 多分、私がその知識を知っている前提で言ってます。まぁ、ここで働くのなら知ってないといけない知識ですからね。当然と言えば、当然なのかもしれません。

 それでも、横須賀鎮守府の艦娘には必ず、『提督への執着』が発現するのではなかったんでしょうか。

ですけど、赤城さんの言い方だと、大井さんは異質だったという事になります。何かあったんでしょうね。

 

「そうなんですか?」

 

「はい」

 

 正直、どうしてなのか気になりますが、がっついて聞いても変に思われるだけです。それに、任務とは関係なさそうですから、聞いても仕方ないかと。

ですけど、個人的にはとても気になります。

紅くんに世話になっていたなんて、まるで私みたいじゃないですか。

 

「『提督への執着』がないと、ここでは生き辛いんですよ」

 

 突然、赤城さんは語りだしました。私としては、有り難いですね。どうしてなのか知りたかったですから。

 

「横須賀鎮守府艦隊司令部所属の艦娘の会話の内容は、大きく分けて3つです。1つ目は、戦闘に関して、です。これは私たちが艦娘であるが故の、仕方のない事ですね。海域の情報共有や、戦術の交換等々……。大半が、戦術の交換ですね。砲雷撃戦、航空戦の戦術の模索。どんな戦い方をすれば、味方の被害を抑えられるかを考えています」

 

 艦娘としては当然の会話なんでしょうね。もし、私が艦娘だったなら、絶対にそういう話はするでしょうから。

 

「2つ目は、横須賀鎮守府に用意されている娯楽施設のことや、艦娘同士のコミュニケーションで起こった事等です。これに関しては、人間の女性も同じような事はしますよね?」

 

 私たちが友達同士でやるような事を、艦娘もやっていたみたいですね。

これに関しては、女性の姿をした艦娘でも普通なことなんですね。

 

「3つ目ですが、基本的に艦娘の会話は3つ目の事が殆どです」

 

 赤城さんは、遠い目をして言います。

 

「紅提督の事です」

 

 『提督への執着』があるのなら、そうであるのが当然ですよね。主な会話の内容が、紅くんだと考えると、結構変な感じがしますが。

 

「常に会話の中心にいたのは、紅提督でした。何をしていて、何を読んでいて、何を食べていて、何が好きで……。そんな事を、話していました」

 

 唐突に、赤城さんはあるものを袖から出しました。

ノートみたいですね。良くそんなものが、袖に入りますよね。まぁ、改造袴のようですし、袖はそのままですからね。ですけど、こうやって普通の時は、たすきがけはしてないみたいです。手首まで袖で隠れてますし。

 

「これは紅提督のノートです。中を見てみると、航空戦術について沢山書かれています」

 

 そう言って、赤城さんはページを捲って見せてくれました。

確かに、戦術の事が書かれているみたいですね。と言っても、私は全然分からないんですけどね。

 ですけど、それがどうかしたんでしょうか。

わざわざ見せてくれたということは、何かノートに関連した話があるからでしょうね。

 

「艦娘たちは、提督と話す為に、提督の興味のある事を調べたりもしていたんですよ」

 

 優しい顔で、そんな事を赤城さんは言います。

 

「ですので、提督と話すときはだいたい何かしらの準備をしていったんです」

 

「そうなんですか」

 

 紅くんが消えるまでは、考えられなかったことがこの世界で沢山起きていたんですね。

 それよりも、もともとの目的を忘れていました。

艦娘の精神状態の調査です。紅くんが居なくなった初期は、かなり荒れていたそうですが、今の状態が分からないとの事。それを調査する様に言われたんです。これも、ここで紅くんを待つためにやらなければならない事ですからね。

ですけど、今は赤城さんの話を訊いているのもいいかもしれません。個人的な興味ですけどね。

 

「じゃあ赤城さんも?」

 

「いえ、私は準備無しでも出来ましたので」

 

「準備無しでも?」

 

「はい」

 

 となると、紅くんと赤城さんで話しが合うネタがあるという事でしょうか。

紅くんと話すなら、本の事とか学校のことくらいしか……。ミリタリー系もかなり齧ってるみたいですから、そっちも話せるんでしょうけど、相手は女性ですからね。

 

「紅提督は艦載機とかの話が好きでしたからね」

 

 よりにもよって、ミリタリー系でした。

赤城さんが、そういう話が出来る事が意外ですが、それは女性として考えていたからでしょうかね。

 

「よく、運用法とか一緒に考えたものです」

 

 そう言って、赤城さんはノートを閉じて袖に仕舞いました。

 

「それそれで、置いておいてです。ここにましろさんを、お連れした理由です」

 

 いきなり本題に入るみたいですね。

少し身構えます。

 

「紅提督の私室には、皆さんは勝手に来ませんからね。人を遠ざけるには丁度良いんですよ」

 

 そう、赤城さんは言いました。

ですけど、これほど艦娘に慕われていたのなら、艦娘たちも気兼ねなく遊びに来そうですけどね。

 

「紅提督の私室ですので、それこそ無許可で入る事はしませんのでね。私や他数名は勝手に入りますけども」

 

 いたずらっ子っぽく、赤城さんは舌を出します。

 

「紅提督って、ご自宅でも料理とか読書とかよくしていたんですか?」

 

 赤城さんは突然、そんな事を訊いてきました。

 

「良くしていましたよ。本棚も、こんな風になっていましたし、料理も良く作ってくれていました」

 

 嘘は言いません。訊いてきた赤城さんからは、変な違和感は感じませんでした。

 

「以前、北上さんと共に朝食を食べそびれた紅提督が朝食を作って食べていた事があったんですよ。その時の話を同じメニューが食堂で出る度に北上さんが話すものですから、皆さんが嫉妬してしまったことがありました」

 

 嫉妬と訊いて、少し悪い事を想像してしまいましたが、続きを聞けばそんな事はなかったです。

 

「紅提督に作って欲しいと頼んだところ、作って下さった事があったんです。紅提督に申し訳ありませんでしたが、とっても美味しかったんですよ」

 

 そんな風に、嬉しそうに話す赤城さんの話を聞きますが、紅くんは一体何を作ったんでしょうか。

赤城さんに訊いてみます。

 

「そうなんですねぇ。ちなみに、何を紅くんは作ったんですか?」

 

「オムレツですよ」

 

 その刹那、私は忘れていた事を思い出しました。ここ8ヶ月くらい、紅くんのオムレツを食べていません。

すっごく好きなのに、忘れてました。

 

「オムレツっ?! オムレツ食べたいっ……」

 

 考えただけで唾液が流れ出てきます。

全然食べてませんからね。

そんな私を見ていた赤城さんがオロオロし始めました。

 

「えっ?! ましろさんっ?! す、すみませんっ!!」

 

 突然謝る赤城さんに、私はすぐに我に戻りました。

 

「はっ?! 大丈夫ですよ」

 

「そうですか?」

 

 心配そうに言う赤城さんに、私は違う話を振ります。

 

「紅くんは普段、何をしていたんですか?」

 

「そうですねぇ……普段は本を読んだり、艦娘の話し相手をしていたり……色々やっていたみたいですよ」

 

 いきなり、見ていないかのような言い方を赤城さんはしました。

『みたい』という事は、誰かからそうだと訊いたということですね。その間、赤城さんは何をしていたんでしょうか。

 

「本を読むのはいつもの事ですけど、話し相手ですか」

 

「はい。午後からは執務がありませんでしたので、秘書艦が許す限り、話が出来たんですよ」

 

「そうなんですか」

 

 秘書艦が許す限りって、赤城さんが秘書艦をしていた訳では無いんでしょうか。

 

「まぁ、大体は遊びに来て欲しいだとか、準備したネタで話したりとかですかね」

 

 そうだろうとは思いましたが、やはりそうでした。

どれだけ、紅くんと話したかったんでしょうか。

 

「そうなんですねぇ。赤城さんは、何をしていたんですか?」

 

 間はさておき、訊いてみます。

赤城さんの口ぶりでは、秘書艦をしていなかったみたいですからね。

 

「私ですか? 大体は資料室とか、艤装とかにいましたよ。偶に工廠に……」

 

 資料室ということは、勉強でもしていたんでしょうか。

 

「そうなんですか? 何をされていたんですか?」

 

「”特務”ですよ」

 

 聞き慣れない言葉が出てきました。特務。つまり、特別任務という事でしょうか。

そんなものを任されていたんですね。

 

「特務ですか」

 

「はい。デイリー外の建造開発や、航空戦術の研究、実証等ですね。と言っても、かなり紅提督にはご迷惑をお掛けしていましたが」

 

「凄いですね。というか、そんなに信用されていたんですか?」

 

「はい。他の艦娘より信頼されていたと、自負してますよ。ですけど、怒られてばかりでしたけどね」

 

 そう言って、赤城さんは色々話してくれました。大体は怒られた内容ですけどね。建造したのはいいんですけど、案内だけして提督のところに連れて来なかったりだとか。というか、それだけでした。

急に秘書艦が目の前に現れて、問答無用で執務室に連れてかれて、こっぴどく怒られたりしていたみたいです。

そんな話を訊いていると、これまでの赤城さんからは想像も付きませんね。

 

「そんな提督からの信頼が、私にとって大きなアドバンテージだったんですよ」

 

 そんな事を、ドヤ顔で赤城さんは言います。何だか、硬い表情が崩れてきたみたいですね。これは、本来の赤城さんなのでしょう。

 今までの話から、艦娘は確かに紅くんの話をするみたいですね。赤城さんの話をしていたのに、紅くんの話に変わりましたし。

 

「それに紅提督とは、一緒に」

 

 そう切り出した赤城さんは、急に話すのをやめました。途中で切り上げたら、気持ち悪いんですけど。

 

「一緒に?」

 

 私は訊きます。気になりますからね。

 

「あっ、いえ……何でもないです」

 

 赤城さんは慌ててそう言って、話を逸しました。

 

「紅提督曰く、身の回りの事は出来るそうで、掃除洗濯は自分でやっおられました」

 

 だろうな、と内心呟きます。紅くんなら、それくらいしていて当然です。

赤城さんの話を聴きつつ、部屋をまた見渡しました。至って、普通の部屋です。紅くんが使っていたと言われても、納得のいく状態ですね。そんな中、私はある写真が目に入りました。

紅くんは部屋に写真を飾らない筈なのに、それだけは写真立てに入れられています。

私はその写真立てに近づいて、手に取りました。

入っていた写真は、どうやら全員で集合写真を撮った時の何でしょうね。紅くんが最前列のセンターに座り、その周りを艦娘たちが笑顔で囲んでいます。凄く微笑ましい写真です。そんな写真立てを赤城さんに見せて、私は訊きました。

 

「これは、いつ撮ったものですか?」

 

「確か、紅提督が此方にいらしてから3、4ヶ月くらい経った頃ですね」

 

 中に映る紅くんの姿は、白い学ランのような服装をしています。海軍将官の制服なんでしょうね。そうでないのなら、他に何があるというのか分かりません。

 特に見ていても仕方ないですので、写真立てを元あったところに置きます。

 それにしても、私が見てない間に結構成長していたみたいですね。あの写真に写っていた紅くんは凛々しかったです。失踪する以前も、偶にそういうところは見て取れましたが、ここまでになるとは思ってもみませんでした。まぁ、紅くんが今の私を見たら同じ事を思うんでしょうけど。

 

「その写真が撮られた頃は、この鎮守府には娯楽というものが何1つ無かった時ですね」

 

 そんな普通に、独り言を言うかの如く、赤城さんは話し始めました。

 

「艦娘が”人”として扱われていなかった頃ですので、仕方ないといえば仕方ないんですけど。そんな私たちの為に、わざわざ色々なものを買って来て下さった事は今でも忘れません」

 

 袖に手を入れて、赤城さんはそんな事を言います。

 

「私の我儘にも、付き合って下さいましたし」

 

 何処か、金属の擦れる音がします。なんだろうかと思っていると、その音源は赤城さんの方からしていました。

少し気になりますが、気になってないような素振りを見せます。

 

「そんな提督でしたよ。紅提督は」

 

 赤城さんは、袖から手を引き抜きました。その手には、あるものが握られていたんです。多分、さっき音を出していた音源なんでしょうね。

見た感じ、小さな懐中時計に見えます。

 

「私の我儘で、外に連れて行って頂いた時に、買って頂いた物です。他の艦娘に知られでもしたら、かなり困るのにも関わらず、私に贈って下さいました」

 

 チェーンが手首に巻き付けられ、時計のところを手の平に乗せて言いました。

 それを聞いていて、私は何だか面白くありませんでした。なんといいますが。表現し辛い感情です。

そんな感情を、押し殺して赤城さんの話を聴きます。

 

「”特務”も懐中時計も、きっと提督の信頼からでしょうか?」

 

 そんな事を言う、赤城さんを私はどんな目で見ていたんでしょうね。

自分からはとてもじゃないですが、見れないです。どんな顔をしていたのか、気になります。

 

 




 今回は、前回とは打って変わって文字数が多いです。
勢いに任せて書いていましたので、仕方ないかと思います。
 何だか最後のところ、気になりますよね。プロットにはそうありましたので、書いてます。謎が解決されていく、ひぐ○しの解みたいなものかと思っていたであろう皆さん、申し訳ありません(フカブカ)

 ご意見ご感想お待ちしてます。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。