【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
結局、赤城さんから聞き出せたのは、紅くんの事だけでした。意図的に隠している訳ではなさそうでしたので、疑ってもいないんですけどね。
紅くんの私室で話をした後、赤城さんは用事があるといって何処かに行ってしまいました。話を聞こうと思っていたのは、素性がバレている赤城さんだけ。先ほど、赤城さんの部屋に訪れた時に、加賀さんが私を疑っていました。
加賀さんに話をしてしまおうと、一瞬頭を過ぎりましたが、踏みとどまりました。どんな事が起こるか分かりませんからね。加賀さんがどんな反応を示すかなんて、この世界に来てからというもの、嫌という程見てきました。皆が皆、そういう反応をするとは限りませんが、紅くんに近しい相手は全員同じ反応をしていたんです。それなら、他の艦娘も一緒と考えてもいいでしょう。
そんな事を考えながら、アテもなく本部棟の中を歩いていると、ある艦娘とすれ違いました。特徴的な色をした長い髪を揺らしているその艦娘は、鈴谷さんです。
これもまた、私の勝手なイメージの押し付けになるかもしれませんが、鈴谷さんのキャラクターは、若い女性という感じがします。私が言うのもなんですけどね。
今時な言葉を使っていて、テンションも高く、一緒に居て楽しそうな雰囲気を出していると思っていましたが、違います。
暗くはありません。ですけど、何だかイメージとのギャップがあります。勝手な私の押し付けなんですけどね。
「ん?」
そんな私に、鈴谷さんは気付きました。正面から歩いて来ていれば、誰でも気付きますものね。
「異世界から来たっていう人? 随分前に、『柴壁』に入ったって聞いたけど、もう訓練終わったんだ」
なんというか、そんな事を言う鈴谷さんに、私は違和感を覚えました。
私が『柴壁』に入ったっていうことを知っている艦娘は、赤城さんくらいでしょう。鎮守府の中を散歩していて、たまたま私を見かけたのなら分かりますが、私が訓練していた時間帯には、艦娘はおろか人も見かけませんでしたからね。
そうなると、どうして鈴谷さんが私が『柴壁』に入った事を知っているんでしょう。
「はい。私の自己紹介は」
そう私が言いかけると、鈴谷さんに遮られました。
「天色 ましろ、で合ってるよね?」
思わず、私は腰の拳銃に手を掛けました。引き抜きはしません。
「やめてよ。その物騒なモノ、引き抜かないで」
鈴谷さんの方から、私が何に手を回したかなんて見えないはずなのに、そんな事を言います。この鈴谷さんは一体、何者何でしょうか。
何から何まで、全ておかしいです。
「聞かれたら不味いことなんでしょ? 場所、移動しようよ」
そう言って、鈴谷さんは廊下を歩き出します。私はそんな鈴谷さんの後ろを警戒しながら、後を付いていきました。
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本部棟から出て、鎮守府の中を数分間歩くと、あるところに着きました。
あまり鎮守府の中を見回っては居ない私ではありますが、今いるところに見覚えがあります。訓練の座学中、西川さんに教えられたところでした。
そこは、地下牢。建てられた当初に作られた、地下に用意されている大人数収容出来る地下拘留所です。滅多に使わないそうですが、有事の際、『番犬』がここに入ってアンブッシュするそうです。
そんなところに、鈴谷さんは私を連れてきたんです。
「外は暑いし、人気のないところって限られてるからさ。こんなところでごめんね」
そんな事を言って、鈴谷さんは地下牢のある一角にある、椅子を引っ張ってきて座りました。勿論、私の分もあります。
持ってきて貰った椅子に腰を掛けると、鈴谷さんはある事を話し出しました。
「これさ……今まで黙って持っていたんだけど」
そう言って鈴谷さんが私に差し出したのは、手帳くらいの大きさの何かでした。
高級感のある生地で、固くて薄い、手帳みたいな物です。ですけど、色が茶色をしています。中を開いてみると、同じく、茶色に変色した紙が挟まっていました。
よく見てみると、紅くんの写真が貼られていて、名前や生年月日、所属、階級が書かれていました。
「これって……」
「ましろさんも、同じの持ってるでしょ? 認識票、身分証明書だよ」
私はとっさに、ポケットに入っている自分のを出すと、並べて見ます。
「紅提督は将官だから、色が違うよ。それ、本当は紫色だったんだ」
鈴谷さんの一言で、この色が何の色なのかが分かりました。
この色はきっと、紅くんの血が乾いた色です。
それ以外で、こんな色になるなんて、茶色の絵の具でも掛けないと変わりません。コーヒーを溢したのなら、コーヒーの香りがしますからね。
「じゃあこの色は?」
「血だよ。紅提督の。話は聞いてると思うけど、鎮守府の外にある廃工場で撃たれた時にも持っていたんだ」
鈴谷さんはそんな事を話しながら、足元に落ちている木片を蹴り飛ばしました。
「鈴谷はね、紅提督が外に連れてかれるのも、撃たれるのも見ていたんだ。でも、何も出来なかった。行動すれば、紅提督を撃った人に何されるか分からなかったし、先ずは紅提督の安全確保が第一優先だったからね」
すれ違った時とは違い、少し饒舌になっている鈴谷さんの話を、私は黙って聞いています。
これまでに話を聞いた中で、紅くんが撃たれたのを見ていた艦娘はこれで2人目でしょうか。赤城さんと、鈴谷さん。巡田さんも見ていたそうですが、艦娘ではないですので、含まれませんね。
今分かった事があります。鈴谷さんがどうしてここに連れてきたのか。それは、私の本名を確かめたかったからではないでしょうか。
そうでなければ、ここに来る前に確認なんかしないでしょうから。
「その認識票、鈴谷が持っていてもいいんだけど、ましろさんに渡すよ。紅提督のお姉さんなんでしょ?」
そう言って鈴谷さんは、無理をした笑みを私にしました。
確かに、こういった物は親族が持っているのが普通ですものね。ですけど、紅くんも死んだとはまだ言い切れませんので、”遺品”とは言いたくないです。精々、預かり物といったところでしょうか。
「ありがとうございます」
リアクションに少し戸惑いつつ、私はそれを受け取って懐に仕舞いました。
いつか、返すものですからね。
「それで何だけど、ましろさんに話しておきたい事があってね」
そう切り出した鈴谷さんの言葉に、私は耳を傾けます。
「何でしょうか」
「紅提督が撃たれた事は、誰とは言わないけど、数人から聞いてるんだよね?」
「はい」
「誰から撃たれたってのは知らないみたいだから、教えるよ」
また、鈴谷さんはとんでもない事を言いました。
私がどの当たりまで、紅くんが撃たれた事を知っているんです。紅くんが撃たれた時の話をしていたところは全て密室で、私以外には話していた人以外は居なかった筈です。なのに、鈴谷さんはまるでその場に居たかのように言います。私が何処まで知っているのかを。
「天色 紅」
「は?」
私の周り、空間が止まったかの様に感じました。
鈴谷さんは何を言っているんでしょう。撃たれたのは紅くんで、撃った犯人は侵入者だって事は知っています。ですけど、そんな事、誰も言ってませんでした。
「天色 紅って言う日本皇国海軍、元『海軍本部』、諜報部の諜報員。紅提督を撃ったその人だよ」
「ちょ……待って下さい! 紅くんが自分を撃ったって事ですか?!」
頭の中が酷く、混乱しています。同姓同名なら分かりますが、天色という苗字からして珍しく、名前も紅で、日本に居るか居ないかという名前ですのに、何で同姓同名の人間が同姓同名の相手を暗殺するんでしょうか。ですけど、その確率は限り無く『0』に近いです。いいえ、『0』です。
なら、自分で自分自身を撃ったとしか思えません。
「違う。だけど、同じ」
鈴谷さんの言っている意味が分かりません。違うのに同じって、どういう意味なんでしょうか。
私の頭は次第に、正常な思考が出来なくなってきていました。既に混乱していて、異常だということは自分でも分かっています。ですけど、正常な判断が出来ません。
「じゃあ何なんですかっ?!」
私は我を忘れて、鈴谷さんに訊きます。
紅くんがこの世界に居た事も、撃たれた事もここまで動揺はしませんでした。ですけど、この件に関しては頭が全く働きません。
同姓同名で、国内に居ないであろう名前である筈なのに、その人物が海軍の諜報員で、紅くんを撃った人だなんて。
「体格こそ違えど、顔も声も同じ。つまり、この世界に元から居る『天色 紅』だよ」
私の目に映る鈴谷さんの表情は、言葉では言い表せません。
怒り、悲しみ、そんな風に見えますが、何処か違う。そんな表情を私に向けて話しています。
その一方で、私の思考回路は完全にショートしてしまいました。
もう、鈴谷さんの言っている言葉の意味を考えられなくなってしまっていたんです。
何日振りの投稿でしょうか(汗)
というより、最近暑くなってきましたね。自分も毎朝満員電車に揺られています。朝方からムシっとした熱気に包まれながら、行き来してますのでドッと疲れる様になりました。
そんな電車の中で、『あぁ……世の中のサラリーマンの皆さん。本当にお疲れ様です』って考えてます。
そんな事はさておき、話がシリアス続きですがついてこれてますか?
元からその路線だって事は書いてありますので、大丈夫だろうと信じたい(白目)
ご意見ご感想お待ちしてます。
もう少しで評価バーに色が付きそうですので(メソラシ)