【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
思考回路がショートした私に、鈴谷さんは話し掛けて来ます。
何も考えられない今の状況で、鈴谷さんの発言をいちいち考えてる暇なんてありませんので、全て鵜呑みしてしまうでしょうね。
「紅提督と同姓同名の諜報員は、紅提督を撃った後に、自決してるんだ」
リアクションをしない私に、鈴谷さんは話し続けます。
「年齢は紅提督よりも8歳上。だけど、さっきも言った様に、容姿は少し違えど声は同じ。そんな彼の目的は、紅提督の暗殺って事は確実なんだけどね、撃つまでにかなりの時間話しているみたいだったんだ」
気になる事を、鈴谷さんは口にしました。
「でも、何話してるかなんて分からなかった。鈴谷たちがいたのはガラス越しだったし、距離もかなりあったからね」
「たち?」
「そうだよ。鈴谷と赤城さん、巡田さんが一緒のところから見てた」
そう言って鈴谷さんは立ち上がりました。
やはり椅子は埃っぽかったのか、スカートに付いた埃を払うと、懐から封筒を出して私に差し出します。
「何ですか、これ?」
その時には、思考回路のショートもある程度回復してました。
渡された封筒を覗くと、中には紙が折り畳んで入っています。
「それさ、赤城さんに渡しておいてくれる? それとさ……」
鈴谷さんはさっきまでの、分からない表情から一変し、大粒の涙を頬から流し始めました。
向こうを向いていた鈴谷さんは、此方に振り返り、私の目を見ます。
その目は透き通っていて、綺麗な目でした。
「許して欲しいなんて口が裂けても言えないんだ。だからさ、貴女の、ましろさんの弟を見殺しにしてしまった事が、ずっと、ずっと心を蝕んでいてねっ……」
突然、鈴谷さんの身体が光に包まれました。
その光に目を瞑って、数秒後に目を開くと、鈴谷さんの身体にはゴテゴテとしたものが付いてました。
艤装です。私が見慣れた姿をした、艦娘の鈴谷さんがそこにはいました。
「詫びる事も何も出来ないのなら……。この生命、紅提督のために使おうって思ってたけど、もうその紅提督がいないんじゃ意味ないんだ。だから、鈴谷は逝くね」
私は鈴谷さんの最後に言った言葉、『逝く』のイントネーションに違和感を感じ、受け取った封筒の中身は慌てて引っ張りだした。
やはり、中身はどちらも鈴谷さん自身が『消えてしまう』ものが書かれています。
『自己解体申請』。もう一方は、『出撃許可証 3-4単艦』。
単艦出撃は鎮守府正面海域でなければ、危険だと言われているのにも関わらず、北方海域最深部に向けた単艦出撃をするみたいです。どちらも、鈴谷さんは『消えてしまいます』。
それはつまり、『死』を意味します。
これは巡田さんの時も、赤城さんの時もありましたが、今回は巡田さんと同じ状況ですね。非常に不味い状況です。
「待って下さい」
私は冷静に止めます。ここで私の気が動転していたら、これから話す事も信用してもらえないかもしれません。
私は巡田さんや、赤城さんに話した事をそのまま話します。
大本営からの連絡が無い意図や、紅くんが連れてかれる前の容体から想像できる状態、国内の情勢を考えた政治的な思案があるということを話します。
それには鈴谷さんも、耳を傾けてくれました。
最後まで話し切るときには、鈴谷さんの身体からは艤装が無くなっていました。
「そっかぁ……”ワケアリ”って奴だね」
「そうだと思いますよ」
私は胸を撫で下ろします。ひとまず、”自殺”はしないみたいですからね。
「それで、ましろさん」
「何ですか?」
「鈴谷以外にもこの話はしてるでしょう?」
やっぱり、鈴谷さんは何だか変ですね。色々と見抜かれていますし、普通なら持ってない様な情報も持っています。どんな情報網を使っているんでしょうか。
「はい。巡田さんと赤城さんに……。それと、『柴壁』の人たちは本名『は』知ってます」
「『柴壁』の人たち、大丈夫だった? あの人たち、マジヤバいからね。紅提督に心酔し切ってるからさ」
さらっとそんな事を言う鈴谷さんですが、鈴谷さんも大概でしょうね。
と言うか、艦娘に限った話ですが、紅くんに対して上官部下の関係以外にも向けている感情が在るように思えてならないんです。特に、赤城さんやら金剛さん、大井さん、鈴谷さん……。
何をすればこんな事になるんでしょうね。
別の意味で、紅くんの事が心配になってきました。
「そんな風には見えませんでしたけど、とりあえず優秀だということはひしひしと感じました」
「だろうねー。あの人たち、米海軍特殊部隊を被害なしで全滅させるくらいだから……」
さらっと、とんでもない事を鈴谷さんは言いましたが、私は聞かなかった事にします。後々に分かる事になるでしょうからね。
「……とりあえず、ましろさんと話せたからいいかなぁ…………」
そんな事を、突然鈴谷さんは口走りました。
どういう意味なんでしょうか。
「それで、紅提督が軍病院に収容隔離されたままだったっけ?」
「はい。話を聞いた限り、紅くんが撃たれてから4ヶ月近く経ってるみたいですね。それだけあれば、傷は塞がっているでしょうし、リハビリも進んでいる筈です」
きっと、連れてかれた後は緊急手術をした筈です。それならば、体内に残った弾丸の破片や穴や傷は縫われているでしょう。
太腿と足の甲を撃たれたということは、術後も固定されているはずですから、傷が直った後はリハビリしていると思います。となると、既に歩けるようにはなっていると考えられるんです。
「じゃあやっぱり、ましろさんがさっき言ったみたいな事が起きてるの?」
「恐らく……。国内の混乱や、旧『海軍本部』残党を警戒しているんでしょうね。国唯一の対深海棲艦戦闘を優位に進める基地の司令官をまた、手に掛けさせる訳にはいかないでしょうからね」
そうでなければ、本当に死んでしまっているかもしれないです。
そんな事が脳裏を過ぎりますが、振り払います。ポジティブに考えてないと、何も行動出来ないですからね。
「多分、それ以外にも理由があると思う」
「……どんなですか?」
私が出した以外にも、紅くんを隠す理由があるのでしょうか。
「考えただけでも腹が煮えくりかえるけど、政治的に利用されているのかもしれない」
「理由を、聞いてもいいですか?」
「うん。紅提督が居た時は、国内の状態は戦前そのものだったの。食料を輸入に頼っていた面を除けば、安全で平和だったみたい。だけど、政府や軍としてはその状態を良しとはしてなかったみたいなの」
この件に関しては、時間がモノをいいますね。それに、経験。
「一度海に出れば、深海棲艦が手ぐすね引いてるからね。そんな深海棲艦と戦っているのが、突然現れて戦争を押し付けた相手と、異世界の未成年の青年。そんな事を知った国民は、安全で平和な世界から外の世界を見ている様で、興味関心なんて沸かなかった」
私は静かに訊きます。
「だけど、ある事をきっかけに私たちや紅提督の存在が明るみになって、ある運動が起きたんだ。何だと思う?」
私は頭をフル回転させて考えます。
安全で平和なところから、別の世界のように深海棲艦との戦争を見ていて、その戦争の事を知る機会を得たんですね。その時に艦娘と紅くんの存在を知ったとなると、思いつく事はただ一つです。
「戦争反対運動、ですね」
「正解。それと年端も行かない小娘と青年に戦わせて、軍は何をやっているんだっ! てね。デモとか色々な活動が起きたんだけど、戦争反対運動だけなら良かったんだ。勝手に言わせておけばいいからさ」
鈴谷さんはため息を吐きました。
「住宅街や繁華街に近い、横須賀鎮守府は自治体から出て行けって言われていたんだ。理由としては、軍事施設が近くにあったら何があるか分からない、だって」
鈴谷さんの話し方からすると、怒るのを通り越して呆れているみたいですね。
「だけど真意は違ってた。真意は、戦争に巻き込まれたくない、だってさ。笑っちゃうよ、ホントに。日本皇国存亡を賭けた戦いだっていうのに、私たちに紅提督に戦争を押し付けた政府(地方自治体)が民間人を扇動して、『戦争ヤダ! 怖い!』なんて言って軍に志願もせず、内地で私たちの技術で用意した食料プラントから生産された食べ物を食い散らかして、胡座をかいて言うんだから」
鈴谷さんが今のところをいう時だけ、少し早口になりました。相当、腹立たしいことだったんでしょうね。
鈴谷さんが、今言った事は私の居た世界でもありました。
ですけど、状況や国の体制が違いますので、比べることなんて出来ません。ただ、鈴谷さんの言う事が本当ならば、普通に考えても都合がいい話ですよ。
戦争を押し付けておいて、その発言は頭に来ますね。
「その発言には紅提督も頭を抱えてたし、実際、その手の運動が一番激しかった」
そう言って一息吐いた鈴谷さんは、話を再開しました。
「今言った事を踏まえて、鈴谷が紅提督を隠している理由として考えたのは、『紅提督を隠せば、戦争は止まるんじゃないか』っていう事」
鈴谷さんはゴミを見るような目つきで、そんな事を言います。
「浅はか過ぎるんだよね……。でも、そんな事は関係ないじゃん? 紅提督を連れ戻せばいいからさ」
全くもってその通りです。
紅くんを連れ戻せば、どうにでもなりますし、私も紅くんの顔を見ることが出来ます。
こっちに来て、紅くんがいないと分かった時から、そうするつもりでしたからね。
「そうですけど、大多数の艦娘がこの事を知らない今、行動を起こす事は出来ないと思いますよ?」
「そうかなぁ?」
まだ動き出すには早計ですからね。そう鈴谷さんに釘を刺しますが、意味が無かったみたいです。
「『柴壁』があるよ? あの組織は言うなれば、紅提督のために汚れ仕事も厭わない実働戦闘部隊だよ?」
「え?」
なんとなくそんな雰囲気は感じていましたが、本当にそうだったんですね。
ただだもでない上に、従順過ぎる『柴壁』には狂気すら感じますが、そんな事を揉み消す程の強さがありますからね。
そんな事は、私の視野にすら入ってません。
「赤城さんに許可取って、作戦を立てて武下さんに作戦指示書出したら、すぐに始まるよ? 紅提督奪還作戦」
「奪還ですか?」
「うん。だって、連れてかれたからね。任意でもないし……。でも、軍の病院の方が、設備が良いってのは分かるんだけど、あんまり拘束期間が長いとねぇ」
そう言って、鈴谷さんは私の前に立ちました。
「紅提督がいないんじゃ、作戦立案の時点でのレベルがたかが知れてるけど……まぁ、やれなくはないかなぁ。それでさ、ましろさん」
「何ですか?」
私が口に出さないだけで、話が淡々と進んでいく状況に、鈴谷さんが話しかけてきました。
「作戦立案、頼めない?」
どんな事を期待して、私に言ったか分かりません。
ですけど、そう私に言った鈴谷さんの目は真剣でした。
私に頼んだ理由は分かりません。ですけど、話を訊いている限り、まともに作戦立案出来ない状況だからこそなんでしょうか。それとも、鈴谷さんは私に何かを感じて、それを頼りに頼んだだけなんでしょうか。
土日は割りと時間があったので書けました。多分また、スパンが広くなると思います。
鈴谷のアレな感じは、いつものことですので気にしないでください(白目)
次回から、情報収集から強制的に出る事になります。お楽しみに(メソラシ)
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