【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第21話  執務室

 『艦娘の精神状態の調査』は、1日だけでは無く、数日間行う事を知らされました。その間、執務室を中心に少しずつ情報収集していきました。

それと平行して、鈴谷さんに頼まれていた紅くん奪還作戦も練り直しを繰り返し、レポート用紙のゴミでゴミ箱が溢れ始めた頃、煮詰まりました。

約1週間、任務前や後に奪還作戦のあらすじや内容を考えていました。

 先に結果を言ってしまえば、一応完成しました。

それを携えて、私が動き出したのは鈴谷さんに言われてから9日経った頃です。その9日間は『艦娘の精神状態の調査』を日中行いつつ、寮に戻ってからは作戦を考えていました。ご飯も最初の1日は夕食もちゃんと食べていましたが、それからは食べていません。1日2食生活です。

 午後9時過ぎに私は寮を出て、艦娘寮に向かいます。この時間なら、あの人のまだ起きているでしょうからね。

艦娘寮までの道には街頭がポツポツとありますが、横須賀鎮守府の中です。危険なんて絶対にありえませんので、何も考えずにただ歩きます。

艦娘寮までは歩いて10分も掛からないくらいのところにあります。

私たちの寮が立てられているところは、元は滑走路だったそうです。紅くんや艦娘、連絡などを迅速に行う為に、結構近くに作られたという事を、沖江さんから訊きました。とはいうものの、一番の理由はそこが空き地だったからだそうですけども。

元は、横須賀鎮守府管轄の土地では無かったそうですが、大本営が許可を出したそうで、それからは横須賀鎮守府の土地という事になったそうです。

住民からの抵抗も無かったらしく、ジェットエンジンよりも遥かに音の小さい戦中のレシプロ機を嫌がる人は居なかったみたいですね。

 艦娘寮に着いた私は、その足で赤城さんの部屋に行き、ノックをします。

片手には作戦草案があります。これは後で鈴谷さんのところにも持って行きます。

 

「夜分遅くにすみません。赤城さん」

 

「あら、碧さん。どうされました?」

 

 私のことをそう呼んだということは、室内には加賀さんがいるということですね。

片手にあるモノを見せるために、私は赤城さんを連れ出します。

 

「少し、時間を頂けませんか?」

 

「……はい。分かりました」

 

 赤城さんを連れて向かう先は、執務室です。

鎮守府の中では一番、人が来ない事は皆周知ですからね。最も、紅くんが居たなら話は別でしょうけど。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室にはやはり誰も居ませんでした。

室内の照明を点け、私と赤城さんはソファーに腰掛けます。

 

「それで、ご用件は?」

 

 赤城さんは、座るなり私に訊いてきます。

そりゃそうでしょうね。こんな時間に呼び出すことは今までありませんでしたからね。

 

「赤城さんにしていただきたいことがあります」

 

 私は膝の上にある紙はまだ出しません。

 

「内容によります」

 

「でしょうね……。紅葉狩り、いえ。奪還作戦の草案が出来ました」

 

 私は開かずに、机に作戦草案を出します。

勿論、赤城さんはそれに一瞬だけ目線を落として私の目を見ます。

 

「ましろさんたちだけで動くのではなかったのですか?」

 

「当初はそのつもりでした」

 

「ということは、私にしていただきたいということは……」

 

「艦隊を、動かして欲しいのです」

 

 私がそう言うと、赤城さんは表情を曇らせます。

そんな事は想定済みです。約半年もの間、艦隊を動かしていないのです。それに防衛線は私が来た当初よりも後退し、今では海岸が最前線とされています。

横須賀鎮守府周辺の海域はまだ、こちら側に制海権はありますが、いつまで持つか分かりません。

 

「一応、話を聞きましょう。内容によっては、艦隊を動かせないですからね」

 

「分かりました」

 

 私は作戦草案を赤城さんに渡します。説明する場合、2部必要ですから片方は私が開きます。

 

「大まかに、奪還作戦には準備期間を含めて1ヶ月は掛かると思って下さい」

 

 そう切り出し、私は説明を始めます。

 

「最初に『柴壁』の『血猟犬』を軍病院に派遣し、内部の情報収集を行います。作戦が進行したとき、必要になる可能性がありますからね」

 

「ある程度まで情報収集が完了したら、赤城さんが大本営に向けて紅くんの容体確認と具体的な帰還日時を求めて頂きます。人選に関してですが、どうやら赤城さんは大本営海軍部長官に顔を覚えられている、というのを理由としておいて下さい」

 

「返答があり、前向きなものであればその時、奪還作戦は中止します。もし、返答が変わらずになければ段階を移行させます」

 

「『柴壁』の『番犬』より数人、横須賀郊外にて騒ぎを起こします。内容は『横須賀鎮守府から艦隊が出撃した』です」

 

「この時、実際に艦隊には出撃していただきたいんです」

 

「この出撃は陽動です。軍の目が海に向いている間に、『柴壁』の『猟犬』が横須賀鎮守府に補給物資を届けに来るコンボイを襲撃。奪取し、兵士に偽装した『猟犬』は軍病院に向かいます」

 

 そう淡々と説明していると、赤城さんが突っ込んできました。

 

「少し待って頂けますか? 補給部隊を襲撃するとは、”殺す”ということでしょうか?」

 

「いいえ。気絶させてから監禁します。勿論、作戦終了次第、開放しますよ?」

 

 そう答えて、私は説明を続行しました。

 

「『血猟犬』による情報収集は、コンボイが軍病院に到着するまでに終わると思いますので、そのまま情報を『猟犬』に渡して待機します」

 

「動き出すのは頃合いを見計らいますが、コンボイを奪取しますのであまり長くは待てません。ですので、半日以内に動かします」

 

 私は自分で書いた作戦草案の紙をめくりながら、噛み砕いで説明していきます。

勿論、時間短縮の為です。

 

「頃合いを見て、『血猟犬』と『猟犬』は共に軍病院に侵入。駐留している兵士を無力化して、紅くんのいる病室に突入。そのまま連れ出します」

 

「『猟犬』が使用したコンボイを使って『血猟犬』と『猟犬』、紅くんは軍病院を脱出し、横須賀鎮守府を目指します。これが奪還作戦の草案です」

 

 そう言って私は紙を置くと、赤城さんの目を見て言います。

 

「ですので今回は横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘を、陽動に動かせないでしょうか!」

 

 私は訴えます。紅くんの奪還作戦ならば、十中八九動くと言うでしょうけども、それでもやらないと言いかねません。紅くんと艦娘との信頼関係がどのようになっていたかもわからないですし、何より司令塔が居ない状態での艦隊指揮になりますからね。

 

「……ましろさん」

 

 真剣な目をした赤城さんが、私を呼びます。

 

「紅提督が生きているかもしれないと、私におっしゃいましたよね? 私たちは紅提督の艦娘で、紅提督の艦。少なくとも私は、紅提督がご帰還するのであれば、何があろうと、何であろうとやりますよ。それこそ、この手を血に染めてでも……」

 

 赤城さんの握った拳が固くなります。

 

「私の方で艦娘を数人、”そそのかして”おきます。作戦決行日時と、陽動開始時刻は逐一頂きたいので、武下さんに掛けあってきますね」

 

「……何故、武下さんに?」

 

「私設軍事組織『柴壁』は、私たちの出資で成り立っているものですが、現場指揮をしているのは武下さんです。『柴壁』に所属している貴女を、無期限有給を取り付けてきます。奪還作戦まではそちらに集中したいでしょうし」

 

 武下さんへの連絡は、赤城さんの私への配慮でした。

有り難いです。正直、任務と並行してやっていくにはかなり無理がありましたから。

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、たいしたことではありませんよ。では早速、私の方でも進めておきます」

 

 そう赤城さんが言った刹那、執務室の扉が開きました。

扉を開いたのは、ある艦娘です。

 

「ちぃーっす」

 

 入ってきたのは鈴谷さんです。タイミングを考えると、丁度いいのか分かりませんが、とりあえず探す手間は省けました。

 

「鈴谷さんっ?!」

 

 一方で赤城さんは驚いています。この時間に執務室には誰も現れないと確信していたからでしょうね。

そんな赤城さんの事を露知らず、鈴谷さんは私の横に座り、作戦草案を覗き見します。

 

「ほぉ……奪還作戦」

 

 そう鈴谷さんは呟きました。てっきり『できたんだ』とかって言うと思っていましたが、予想が外れます。それと同時に、非常に不味い事になったかもしれません。

赤城さんは、私の本名が鈴谷さんに知られている事は知らないんです。ですからきっと、赤城さんは『碧さん』と、私のことを呼ぶはずです。

 

「碧さん。すぐに仕舞って下さい」

 

 私の想像通りでした。すぐに赤城さんは、作戦草案を仕舞う様に私に言ったんです。

私はとりあえず、それには従いますが、鈴谷さんはそれでも私の持っている作戦草案を見ます。速読しているんでしょうけど、それを見ていた赤城さんは少しずつ表情が変わっていきます。なんというか一言で言えば、『怖い』です。

見ていたら身震いを感じる程の表情で、発するオーラも変わりました。温かいオーラを常に纏っている赤城さんからは想像できない様な、冷たくて鋭く、感覚を鈍らせる様なオーラです。

そんな赤城さんを物応じせず、鈴谷さんは速読していきます。

 

「ふーん……随分と強引じゃん?」

 

 そんな風に呑気に私に言った鈴谷さんには、赤城さんの発しているモノが感じられてないはずがないんです。

なのに、平気そうにしています。どういった神経をしているんでしょうか。それとも、鈍いだけなのかも。そんな想像が私の頭の中を飛び交う最中、鈴谷さんは私にあることを訊いてきました。

 

「これ頼んでいたヤツ? "ましろさん"」

 

 その刹那、赤城さんは立ち上がり、光に包まれました。

光が晴れると、赤城さんの身体には私の元居た世界で見た赤城さんと同じ格好をしています。弓を引き、矢を番えています。その矢尻は鈴谷さんの方向を向いていました。

ですが、その鈴谷さんも両手で何かを構えています。

鈴谷さんのイラストに書かれている20.3cm連装砲でしょう。

身体も赤城さん同様、元居た世界で見た鈴谷さんと同じ格好をしています。それに、どうやらカタパルトも持っているみたいですから、航空巡洋艦みたいですね。

冷静にそうやって見ていますが、状況は理解不能です。こんな事を考えているのも、今の状況に私の脳みそがついていけてないんです。

 

 




 お久し振りです(4日ぶりくらい)
最近は本当にまったりと書いていますが、プロットを用意してもそれ通りに行かない現状です。
ですけど、オチに関してはもう考えてありますし、前作ほど長くするつもりはありませんので。
それと本作では、エンディングはマルチにする予定です。
まぁ、そりゃそうですよね(トオイメ)

 ご意見ご感想お待ちしています。

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