【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第22話  動き

 鈴谷さんを睨みつける赤城さんは、弓を引いたまま問いました。

 

「何故、それを貴女が知っているんですか?」

 

 そう訊く赤城さんに対して、鈴谷さんはいつもと変わらない調子で答えます。

そんなやり取りを私は見ている事しか出来ません。この2人の間に入ったら、無いと分かっていても、撃たれるかもしれないからです。

 状況が動いたのは、執務室に人が入ってきてからです。

多分、用事があって来たであろう時雨さんと夕立さんでした。2人はすぐにこの状況を飲み込み、赤城さんと鈴谷さんの間に入ります。

 

「一体、どうしたのさ」

 

「何で、仲間同士で艤装を向け合っているのかしら」

 

 そんな時雨さんと夕立さんの訴えに答える事のない、赤城さんと鈴谷さんも遂に口を開きました。

 

「いつも思っていたんですが、何故鈴谷さんは、情報をそこまで持っているんですか?」

 

「何でだと思う?」

 

 鈴谷さんは20.3cm連装砲を構え直します。

 

「……誰かから聞いたとか、噂を集めた。とかですか?」

 

「誰かから聞いた? 違うね。……鈴谷はずっと後をつけていたんだよ。だから知ってた」

 

 鈴谷さんはニヤリと笑います。それと同時に、私は背中がゾクゾクとしました。

鈴谷さんの言い方だと、私はずっとつけられていたということになります。

今考えると、とても怖いです。幾ら鈴谷さんとはいえ、誰かに後をつけられるなんて考えただけでも怖いです。

 

「今回は"ましろさん"をつけて情報収集してたからね」

 

 鈴谷さんがそれを言った途端、赤城さんの表情が一変しました。とんでもなく怒っているように見えます。むしろ、殺気まで出ているんじゃないでしょうか。

 それとは別で、赤城さんはきっとある事を考えているでしょう。

時雨さんと夕立さんが、私の本名を知らない事です。赤城さんには、武下さんと『柴壁』にしか知られてないと言ってますから当然でしょうね。

 ですが、時雨さんと夕立さんには見抜かれてしまったんです。

鎌掛けだったのかもしれません。ですけど、私が言ってしまったのには変わりありませんからね。

 

「鈴谷が知らないと思ってた? 違うね。鈴谷が今、何をしたいか、何をしなければならないか。鈴谷自身、自覚して行動してるだけだよ」

 

 一応、鈴谷さんの視界に入っている私の方を、鈴谷さんは横目で見ました。

 

「今回はしなければならない方だったの。そもそも、赤城さんが何の疑いもなく、"ましろさん"を鎮守府に入れたからだよ。だから、鈴谷は疑ってかかった。何者なのか、何の目的があってここに来たのか、軍人か文民か……」

 

 表情は変わり、真面目な目で赤城さんの目を見て、鈴谷さんは言いました。

 

「天色 紅提督の姉で、紅提督を探しに来て、看護師だったって事くらいしか分からなかったけどね」

 

 赤城は凄い形相で時雨さんと夕立さんを見ます。

見られた時雨さんたちは驚きはしますが、そこまで怯えることはありません。

きっと、赤城さんが2人を見たのには理由があります。多分、2人がこの話を聞いて、気が動転してないかを確認したんでしょう。

 

「赤城さんは知らないかもしれないけどさ……」

 

 少しの沈黙の後、鈴谷さんはそう切り出します。

 

「奪還作戦立案は鈴谷だよ。鈴谷が言わなくても、そのうち誰かが言い出したかもしれないけどね」

 

 赤城さんは目を見開きました。この事実に関しては、赤城さんも初耳です。私も言ってませんからね。

 

「多分、"ましろさん"が赤城さんに相談しているということは、艦隊を、艦娘を動かす必要があるからだよね。違う? "ましろさん"?」

 

「……必要ですよ」

 

 地道な情報収集をする力があるのと同時に、洞察力もある鈴谷さんに私は驚きを隠せません。この異常なまでの鈴谷さんの情報戦能力はどこから来てるんでしょうか。

 一方で赤城さんは、鈴谷さんの発言に納得し、鈴谷さんの本質を理解したんでしょうね。

もともと、艦娘同士で同じ鎮守府の仲間だったら知っていると思ったんですけど、違うみたいですね。

 そんな中、赤城さんの様子が変です。ずっと時雨さんと夕立さんの方を見ているんです。そこまで気がかりなんでしょうか。

それもそのはずです。2人はあまりに無反応過ぎますからね。

その時、時雨さんが口を開きました。

 

「赤城。僕らが驚かない事に疑問を持っているでしょ?」

 

 赤城さんは少しですが、驚いた表情をしています。多分、必死に隠しているんでしょうね。私もですけど、赤城さんの考えている事を見抜くとは、時雨さんも鈴谷さん同様に、何か変なところがあるみたいですね。

 

「はい」

 

 赤城さんは時雨さんの問に、素直に答えました。

その答えを聞くと、今度は夕立さんが話し始めます。

 

「私たちは"ましろさん"が変な事は気付いていたわ。この前、それを問い詰めたら教えてくれたの」

 

 言い方は少し乱暴だが、その通りです。会うなり、訊いてきましたからね。『何か隠してるよね?』と、訊かれましたからね。

 

「あまりにいきなりでしたし、2人の洞察力が凄くて……」

 

 私は赤城さんにそう言います。

そして、少し沈黙を挟んだ後、赤城さんは言いました。

 

「時雨さんと夕立さんは、"ましろさん"がやろうとしている事を知っていますか?」

 

「知らないけど、ここに入ってきた時からの会話を思い返せば分かるわ。『紅提督奪還作戦』でしょ?」

 

 そう夕立さんが言うと、赤城さんは引いていた弓を下げました。

 

「その通りです」

 

 引いていた弓を下ろしたのを見ていた鈴谷さんも、20.3cm連装砲を下に向けました。

下に向けはしましたが、艤装を消すことはありません。まだお互いに警戒しているんでしょう。

 

「だろうなと思ったよ。この前ここに来た時に、"ましろさん"が何かを一生懸命考えてるのを見たからね」

 

 時雨さんはそんな事をいいますが、私は少し寒気がしました。

あの時、2人が入ってきた時には私は散らかしていたレポート用紙は隠したはずなんです。

状況から考えて、何かを書いているには変わりないですが、それが作戦の事だなんて何故、知っていたんでしょう。

 

「僕を欺くのは無理だよ」

 

 そう、時雨さんは私の方を向いていいます。

思考も読まれているのかもしれません。

 この状況は結構長い間続きました。

約20分間の沈黙の後、赤城さんが口を開きます。

 

「皆さん……。揉めるのは後にしましょう。それよりも聞いて下さい」

 

 赤城さんはそう言って、艤装を消しました。それに続いて鈴谷さんも艤装を消します。

私は黙ってそれを見守っています。

 

「『紅提督奪還作戦』には陽動が必要です。出て下さいますか?」

 

「陽動ね……鈴谷はいいよ。そのつもりだったし。誰も言わないのなら、鈴谷が立候補するつもりだったし」

 

「僕も構わない」

 

「私も」

 

「そうですか……。私は立ち位置的には出れません。ですので鈴谷さん、頼めますか?」

 

 そう赤城さんが言うと、鈴谷さんは艦娘の名前を挙げていきます。

それには規則性がありません。そのメンバーに深い意味があるんでしょうが、何かは私には分かりません。

 

「長門さん、霧島さん、加賀さん、熊野、吹雪、叢雲、イムヤ……金剛さんが居る。深く話さなくても、『最初に"気付いた"艦娘』の皆は絶対やってくれるよ」

 

 鈴谷さんの言った、『最初に"気付いた"艦娘』とは何なんでしょうか。

私にはさっぱり意味が分かりません。きっと、艦娘の間での特別な用語なんでしょう。『気付いた』という単語が強調されていましたが、それにかなりの意味合いを持っている事は分かりますが、何に『気付いた』と言うのでしょうか。

 

「そうですよね……。金剛さんとか、『分かりマシター! 丁度腕が訛っていたところデース!』とか言って元気よく行きそうですよね」

 

 赤城さんはそんな事を言いながら笑います。

鈴谷さんや時雨さん、夕立さんも笑いますが、私は笑えません。意味が分からないからです。『気付いた』から金剛さんが笑う事に、何が関係あるんでしょう。

 

「流石に半年もサボってたからさ、安全策の編成を選ぶけどいい?」

 

「構いませんよ」

 

「じゃあ残りの3枠に金剛さん、加賀さん、叢雲を呼んでおくよ。この3人なら、何も言わずに来るだろうからね。それじゃあ、今から行ってくるね」

 

 そう言った鈴谷さんは、執務室から出て行ってしまいました。

それに続くかの様に、時雨さんと夕立さんも出ていきます。

 

「そうと決まれば、艤装の点検をしなくちゃだね」

 

「久々の出撃で腕が鳴るわね!」

 

 そう言って走り出て行く姿は、少女そのものでした。ですが、話している内容は少女が話さないような事です。

 執務室に残された私と赤城さんは、ソファーに座り直します。

 

「さて、陽動の件は問題無しになりました。そちらで『柴壁』を動かせるかによって、この作戦が実行されるか否かが決まります。よろしくお願いしますね」

 

 赤城さんはそう言って頭を深々と下げます。

相当、奪還作戦に期待しているんでしょうね。紅くんが帰ってくるのならと、意気込んでいるんでしょう。

そんな赤城さんに、私も頭を下げます。

 

「いえいえ。ですが、『柴壁』が動かない可能性が……」

 

 と言いかけた刹那、赤城さんに止められました。

 

「それはないですね。彼らなら必ず動きますよ」

 

 その言葉を言った赤城さんの目は、とてもまっすぐとしていました。

とてつもなく信頼しているんでしょうね。

 

 




 最初に、一週間遅れてしまって申し訳ありません。
リアルの方で課題やらに追われていまして、やっている暇がありませんでした。こういう事もありますよね。
 やっと開放されましたので、急いで書きました。
プロットは用意してありましたからね。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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