【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
私は赤城さんと別れた後、そのまま警備棟に来ました。
一応、赤城さんの手配によって、無期限有給が既に取れています。なんというか、本当に『柴壁』と艦娘の関係が凄いです。
多分、詳しい内容は知らせていないんでしょうけど、一応、組織で会社である『柴壁』に、クライアントが平1名に無期限有給を取らせろと命令して、『はい分かりました』って、簡単に取らせるんですからね。というか、無期限有給ってなんですか。
そこからして色々おかしいですよね。
私としても、働かないで給料を貰うのも忍びないものですから、早めに復帰しようと思っています。
それはさておき、私は警備棟に入り、その足で『柴壁』の隊長室に向かいます。そこには武下さんがいますからね。
「失礼します」
「どうぞ」
隊長室の扉をノックして、扉を開きます。
中では、何かの書類を読んでいた武下さんが此方を向いています。
「ましろさんですか。どういったご用件ですか?」
「少し、お話があります。お時間をいただけないでしょうか」
「給料の値上げでしょうか? まぁいいでしょう、会議室にでも」
軽口を言いますが、きっと分かっているんです。『会議室』なんて、本当に給料の値上げ交渉ならその場でしますからね。
「分かりました」
私はそれをツッコまずに、立って歩き出した武下さんの後を追います。
ーーーーー
ーーー
ー
会議室に着くと中から鍵を閉めて、椅子に座ります。
そして、武下さんが何の用かと、私に訊いてきました。
そんな武下さんに、私はあることを開口一番に言います。
「奪還作戦をしませんか?」
「奪還作戦ですか?」
助詞のない言葉に、武下さんは一瞬固まりますが、すぐに何の奪還作戦かを理解したみたいです。
「成る程……。いや、こちらでもご勝手ながら奪還作戦立案は行っていますが、いかがいたしますか?」
「……初耳ですね」
「そりゃそうですよ。私が1人で考えているものですからね」
そう、武下さんは話します。
どうやら、私が鈴谷さんに言われて始めなくても、勝手に始まっていたみたいですね。それに関しては、鈴谷さんが私に頼んだ時に予想していました。
「その反応を見る限りだと、想像通りということですか?」
「はい。鈴谷さんが想像していましたよ」
「鈴谷さんですか……状況を考えると、私に話が回ってきたのは最後みたいですね」
「その通りです」
武下さんも、他の艦娘と負けず劣らず、察しのいい人です。
言葉足らずでも、意味が的確に伝わるのは少しありがたいです。
「『柴壁』を動かしたいと、そういうことですよね?」
「はい」
何も言わずとも、かなり伝わっているみたいですね。
「いいでしょう。全面的に協力しますよ」
「ありがとうございます!」
「して、作戦の方は?」
当然の様に、武下さんは訊いてきますが、あいにく手元に作戦草案がない状態です。私が覚えている範囲で、話せればいいでしょう。
「水面下で準備を行い、殺傷を禁止したものです」
「ほぉ」
それは想定外だったんでしょうか、少し意外だと言わんばかりの表情をしています。
「そのためには、最初にどれだけの情報を持てるかがキーとなりますね」
「そうでしょうね。……ということは?」
「はい。『血猟犬』を動かしたいんです」
そう私が言うと、武下さんは眉をしかめました。
この反応には私も想定外です。『柴壁』は紅くんが絡むと、従順になるという事を私の遠い記憶にあるんですが、違うみたいですね。
「現在『血猟犬』の担っている任務の重要性は、貴女も理解していますよね?」
「はい。体外的な活動で、閉鎖的な鎮守府に於いては無くてはならないものですね」
「分かっているのならいいですが、それを無くすということはどういう事になるか分かっていますか?」
「いえ……」
『血猟犬』が今の任務を放棄したらどうなるかなんて、私は考えたこともありませんでした。
ただ、そういう任務が重要で、選りすぐりの人間が外に出ているのだとばかり思っていたからです。
「彼らからの体外的な情報が寸断されてしまうと、横須賀鎮守府艦隊司令部は、喉仏を的に晒したのと同等になるんですよ」
「はい?」
武下さんの言った事が、私には理解できませんでした。
喉仏を晒すということはつまり、弱点を晒すという事ですね。つまり、『血猟犬』の任務自体に何か他の意味があるということでしょう。
「『血猟犬』の任務は情報収集です。それは分かっていますよね?」
「勿論です」
「その情報収集に、鎮守府を良しと思っていない組織のメンバーリスト作成と監視があるんですよ」
これに関しては初耳でした。しかも、この鎮守府を良しと思ってない組織なんてあるんでしょうか。
「良しと思ってない組織ですか?」
「はい。一番私たちが恐れているのは『旧海軍本部』、『海軍部情報課』。他には海軍の『諜報機関』、『皇国公共安全保障局』。それらの横須賀鎮守府に対する偵察行動をしているメンバーの監視、リスト作成。芋づる式に、メンバーの顔が割れていってはいますが、組織が何分多い為、時間がかかっています」
『旧海軍本部』と『海軍部情報課』に関しては、『柴壁』に入った時の座学で聴きましたが、その他は聴いたことがありませんね。
「『諜報機関』? 『皇国公共安全保障局』? が分からないのですが……」
「知らないのも無理ないですよ。存在自体が隠されていますからね。海軍の『諜報機関』はそのままです。軍の情報部隊のことですよ。『皇国公共安全保障局』というのは、アレです。えぇと……そう! アメリカにありますよね? 中央情報局とかいうヤツ、それの日本版ですよ」
「『諜報機関』は分かりましたが、CIAですか?」
「それです。そのようなものだと、思っていて下さい。その組織から目を付けられているんですよ、横須賀鎮守府は」
武下さんはそう話しますが、こんな話をしているのに、そこまで隠している雰囲気はありません。どうしてでしょうか。
そんな事は置いておいて、話を訊きます。
「話を聞く限りだと、『皇国公共安全保障局』が一番危険だと思ったんですが、何故優先順位が低いんですか?」
多分、これを訊くのはタブーだったのかもしれません。
そう、直感的に感じました。
「普通はそう考えますよね。ですけど、この順位は危険度から付けています。高ければ高い程、暴力的で行動的。低い程、穏便で鈍重な動きなんですよ。だから、最も上にある『旧海軍本部』が、艦娘のヘイトを集めているんです。何故なら、紅提督の着任から殆どの事件は『旧海軍本部』絡みでしたからね」
そう言い切った武下さんは、少し呼吸を整えてから続けます。
「話が脱線してしまいましたね。『血猟犬』を動かすのなら、それ相応のリスクがあるということですよ。『柴壁』の隊員と酒保の従業員、総勢1200名の命、”思い”と引き換えです」
「命、”思い”……ですか」
「はい」
武下さんはそう言って黙りました。
表情からは読み取れませんが、決めかねているんでしょう。
「少し、昔話をしましょうか。とは言っても、ましろさんがいらっしゃる前のことなんですけどね」
武下さんは急に、そんな事を言い出します。
「横須賀鎮守府が、昔からデモの対象になっていた事は座学で聞きましたよね?」
「はい」
多分、確認を取ったんでしょう。
「対外的活動の対応は当初『門兵』と呼ばれていた私含め、20人弱だけで行っていたんですよ。巡田さんの紅提督暗殺未遂からはメディアの取材やデモによって、誹謗中傷や罵倒を受ける日々が長かったんですよ。それに私たちは、上司部下関係なく、ライオットシールドで行く手を防いで、攻撃を受けていたんです」
そう言って武下さんは、上着を脱いでノースリーブになると、肩を指さしました。そこはざっくり切られたような切り傷が生々しく残っています。
「この傷は、あるデモ団体にやられました。そんな私たちに紅提督はいつも差し入れを持って来ては、『ありがとうございます』って言うんです。紅提督の方が書面上階級は上ですが、歳は私たちよりも下です。ですけど、彼は私たちに敬語を使うんです」
上着を着直して『お見苦しいものを、すみません』と私に言いました。
「座学で習ったとは思いますが、門兵が120人になっても変わりませんでした。艦娘の運動会に誘っていただいて、ご飯まで用意してもらったこともありました。鎮守府文化祭(仮)にも、参加させていただきました。一緒に門の警備をしたこともありましたね」
武下さんはニコニコと笑います。相当楽しかったんでしょうね。
「それからは色々な事があり、陸軍第三方面軍第一連隊の一部が門兵に加わったんです。それからは門兵が今の人数になりました。それでも提督のねぎらいはありましたよ。とはいっても、その時期には色々な事があって1回あっただけですけどね」
陸軍第三方面軍第一連隊と言われても、何処の何の部隊かは私には分かりません。
武下さんも説明は端折りましたからね。
「その1回というのは、アメリカとの合同作戦で出撃した艦隊に、紅提督が付いて行った時のことです。紅提督が帰還された後に、あれやこれやと引っ張りだして500人くらいでバーベーキューパーティーしましたね」
武下さんは満足そうな顔をすると、話を再開します。
「こんな軍事施設、世界中回ってもありません。確かに大変な思いもしましたが、全て紅提督の裁量で片付けてきたんです。本来ならば、私たちのような"元"から居た人間がしなければならない事を、半ば強制的に連れてこられた異世界の学生が運営していたんです。そんな彼に年上でありながらも尊敬し、それと同時に、私たちは彼にある思いを抱いたんですよ」
武下さんは凄みます。それに私はかなり怯みましたが、私に対したものではないです。
武下さんの、『柴壁』やここに残ると決めた人たちの"思い"なんでしょう。
「彼を絶対に殺させてはならない。この身を引き換えにしても」
そう言った武下さんの目は、とてつもなく力が入っていました。
「命を狙われ、迫害され、独りになり、縋る者も居ない状況下で、彼は戦い抜いたんです」
途中から私の聴いたことのない単語が出てきました。命を狙われたのは知っています。迫害されていたのもです。ですが、独りであった事と縋る者が居ないってどんな状況だったんでしょうか。
「ましろさんは知っているとは思いますが、撃たれる前の紅提督の状況はとても18とは思えませんでしたよ」
私は紅くんが撃たれた事は知っていますが、その前の詳しい状況はよく知らないんですよね。
「侵入者に見つかり、連れて行かれ、撃たれたのにも関わらず、侵入者の懐柔をしていたそうです」
「っ?!」
痛くて泣き叫んでいたとばかり思っていましたが、全然違いました。
泣き叫ぶどころか、懐柔をしていたなんて思いもしません。
「巡田の報告書に、そう書かれていたんです。あ、あと……」
武下さんは続けました。
「家族や友人、親戚と引き剥がされ、知らない土地で重い責任を押し付けられ、夢を捨てた……。そう赤城さんは紅提督の事を話していました」
私の思考が止まった瞬間です。
赤城さんが言っていたという言葉、多分私も聞いたことがあります。
口では何も言いませんが、記憶を必死に掘り起こしましたが、私の思い違いでした。赤城さんは何一つとして、そんな事を言っていなかったんです。
徐々に怒りが込み上げてきます。勝手に呼び出して、指揮をやらせ、挙句負傷して運び出されて、今度は何かに利用されているのかもしれないんです。そう考えただけで、私の頭から正常な考えはどんどん消え失せていきました。
「……私、そんなこと聴いてません」
「なんですって?!」
「呼び出されて指揮をしていたのは聴きました。ですが、状況を想像すれば簡単ですよね。家族や友人から引き離されてしまうのも、指揮官が重い責任を背負うことも、独りになってしまっていることも。……夢までっ」
机の下でミチミチと音を立てます。ドクドクと手の平が痛みだします。
そんな私に、武下さんは追い打ちをかけました。当然でしょうね。武下さんからは、机の下の状況なんて見えてないでしょうし、私の表情も見えない筈です。俯いていますからね。
「大井さんとは話しましたか? その大井さんが私のところに来て言ったんです。『どうして誰でも提督の事を"ヒト"として見ないのか?』って言っていたんです」
怒りは今の言葉で頂点に達しました。
身勝手に呼び出しておいて、今度は"モノ"扱いだったんでしょう。そんな中、"独り"戦ってきたということです。
私が口を開く前に、武下さんはある事を言いました。
「紅提督は誰にも弱音を吐かなかったそうですよ」
もう私の怒りは限界を超えました。
溢れんばかりの怒りを押しこらえ、立ち上がります。椅子が音を立てると、武下さんは此方を見ました。
そして、みるみる顔色が青くなっていくんです。
いやぁ……。
シリアス路線で行くとは言ってましたが、こりゃもう『鬱』タグ入れた方が良いかもしれませんね(白目)
前作でも紅があまりにひどい仕打ちを受けていた事が……。
ご意見ご感想お待ちしています。