【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第24話  艦娘にある共通意識と、ましろの怒り

 

 怒りが頂点に達した私は、武下さんにある事を訊きました。

 

「それには武下さんも”気付いていた”んですか?」

 

 訊くまでもありません。武下さんも”モノ”としていた人の1人なんでしょうね。

 

「いいえ。大井さんに気付かされました。ですがっ……」

 

 そう言いかけた武下さんの言葉を遮ります。

武下さんは口をつぐみ、私の方を見ました。

 

「武下さんの言い方ですと、鎮守府の全員が”気づいてなかった”みたいですね。”モノ”として見ていて、紅くんがどんな扱いだったんですか?」

 

 私は凄んで言います。

 私の立場というのは、複雑です。異世界から来た来訪者であるのが前提条件です。ですが、”救国の英雄”である紅くんの実の姉であるというのが、この世界に於いて大きなアドバンテージではありますね。この世界の実情を殆ど知りませんが、現状から見てみると、私という存在がかなり大きい事は確かです。

 英雄の姉というのは英雄の最も近しい他人ではありますが、英雄を傍で見守ってきた人でもあります。言うなれば王様の血族です。それだけのネームバリューがありますからね。

 こんな事を考えだしたのには、ある理由があります。明らかに私が年下で、上下関係的にも下であるにも関わらず、私に対して敬語を使っている事です。『柴壁』の人間は全員がそうでした。

そう考えると、私が比喩した”王様の血族”というのに、誰しもが合点しますよね。

 

「名前を誰からも呼ばれていませんでした。皆さん、『提督』『司令官』『司令』と呼んでいましたし、大本営の人間も『提督』と呼んでいたんです」

 

 簡潔に言ったんでしょうけど、少し考えなければ意味が分かりませんでした。

つまり、紅くんは一度も名前で呼ばれていなかったということですね。

 ですがそれは想定の範囲内でした。この世界に来た時、金剛さんに訊かれた事があったんです。

 

『そ、そうなんデスカー。ということは、葵は提督なんデスカ?』

 

 この言葉の意味。前後の話の内容を照らし合わせると、この世界に於いての提督という存在は、紅くんの様に”呼びだされた”存在でなければならないということです。

そして、同じように前後の会話内容を考えると、横須賀鎮守府艦隊司令部以外では紅くんと同様の手で提督になっている鎮守府はないということです。

 ということは、『提督』と呼ばれるのは紅くんのみ。一般名詞だった『提督』という単語は、紅くんを現す『固有名詞』になってしまっていたんです。

つまり、『提督』=『紅くん』という事です。

そして、誰からも『提督』と呼ばれていた紅くんは、一ヒトとして見られていたわけではなく、『提督』として見られていたんです。個人を否定し、役職で呼んでいたということですね。

 

「……そうですか」

 

 そう私が言うと、武下さんは更に説明をします。

今度は、”モノ”の意味ですね。

 

「『旧海軍本部』の意向で、艦娘の指揮をしているのは、紅提督やましろさんがいらっしゃった世界の人間。それも、ゲームプレイヤーでした。プレイヤーからの指示はそちらではリアルタイムで出ていたようですが、此方は違います。印刷機から排出される指令書を元に、艦娘が作戦行動をするんですよ。ということは、艦娘の皆さんが呼ぶ『提督』という存在は、いうなればただの司令塔であり、上位階層。酷い言い方ですと、『紙』ということらしいです」

 

 私はそれを聴いて、感情が抑えられなくなりました。

握り拳を机におもいっきり叩きつけて言います。

 

「本当に”モノ”扱いだったんですかっ?!」

 

「はい……ですが、このことに気付いたのは大井さんです。気付くのにかなり時間を要しましたが、今では艦娘の皆さんは”気付いて”います」

 

 武下さんはおずおずと答えます。

きっと、さっき机を叩いたからでしょうね。

 武下さんにとって、私という存在がどうなっているのか分かりませんが、部下という以前に別の見方をしているように思えてならないです。

畏怖しているとは思えません。ですけど似た感情を抱いていることは確かです。

 

「紅くんがこの世界で提督をやっていたのは約7ヶ月。その間はずっと、艦娘に”モノ”として見られていたんですか?」

 

「……多分」

 

 歯切れの悪い回答に少し苛立ちますが、きっとかくにんが 取れていないんでしょうね。

 

「この世界に来てよく分かりましたよ」

 

 吐き捨てるかのように私は言います。もうやけくそというか、自暴自棄というか、この世界に来てからというもの、紅くんに関する事は大体がマイナスの話が主体でしたからね。

 

「日本皇国も艦娘も身勝手です。艦娘に戦争は押し付けるし、その艦娘の指揮は異世界の学生に押し付ける。何考えているんですか?」

 

 武下さんに言ってもしょうがない事を、私は吐き出します。

 

「そればかりか人として、個人として認めずに、独りだと分かっているのに何もせず、夢も見れないなんて……」

 

 私は頭を掻き毟りました。一体どうなっているんでしょうか、この世界は。

紅くんにとっては、この世界はとてつもなく最悪な世界だったのかもしれません。何もかも自分のことさえも認めてもらえず、さらには迫害された上に命を狙われる。

 

「私たちは最善を尽くしていました。艦娘の方も、”気付いてから”はかなり気をかけていたみたいですし……」

 

 そういう武下さんの発言を、私は遮ります。

 

「そんなこと関係ありません。紅くんが何を考えて、どんな事に目を向けていたか。深海棲艦の殲滅? ふざけているんですか? 口には出さずとも、絶対考えていた筈です。自分の置かれている状況や、周り、自分に降りかかる理不尽に嘆いていたんじゃないんですか?」

 

 そう言うと、武下さんは黙ってしまいました。

言い返すのを止めたんでしょう。

 

「まだ何か私に教えていないこととかはありませんか?」

 

 私は訊きます。

 

「ありますよ……」

 

 それに武下さんは答えました。

私は無言で武下さんの顔を見ます。そうすると、武下さんは話し始めました。

 

「ここには提督非公認の艦娘振り分け指標みたいなものがあったんです。艦娘たちは一方を『近衛艦隊』、他を『親衛艦隊』と呼んでいました。『近衛艦隊』は艦娘の中でも少数派で、提督を含めて恐れていたというか、警戒していたんです」

 

 私の知らない言葉が出てきます。それも当然でしょうね。私の知らないことを話している訳ですから。

 

「『近衛艦隊』と『親衛艦隊』の違いは、『提督への執着』の強弱にありました」

 

 また私の知らない単語が出てきます。ですが、『提督への執着』というのが、その単語の意味通りなら、わざわざ訊かなくても分かりますよね。

 

「『近衛艦隊』は強く、『親衛艦隊』は弱かったんです。ですが、その認識は違いました。『親衛艦隊』も勿論ですが、『近衛艦隊』は異常に、紅提督に振りかかる危険察知が早かったんです。そして、紅提督の危険と訊くと、途端に豹変して、それまでの性格がウソのようになります。一方で『親衛艦隊』は、察知はしますが、断然『近衛艦隊』の方が早いんですよね」

 

 私は黙って訊きます。

 

「この『近衛艦隊』『親衛艦隊』が鎮守府内で飛び交っていた当時は、双方の違いがどれだけの察知速度か、破壊衝動を理性的に抑えられるかという言わば、差別化するための言葉があったんです」

 

「ですけど違いました。本当は紅提督を”ヒト”として見ているか、”モノ”として見ているかという違いだったんです。ですから座学でも聴いたでしょうけども、鎮守府で起きた前半の事件の殆どは悪化する前に『近衛艦隊』によって未然に阻止されていたんです。提督を”ヒト”と判断して、感情を汲み取り、最善策を見つける。少数派であった『近衛艦隊』がやってきたことだったんです」

 

 そろそろ色々な言葉がゲシュタルト崩壊を始めていますが、なんとかまだ聴いていられそうです。

 

「ですが当時は私含め、鎮守府に籍を置く人間や艦娘は『近衛艦隊』を差別していたんです。暴力的で直情的と。暴力的だったのは、ただどうやって解決すればいいか分からなかったから、とされていますが、本当にそうだったかは分かっていません」

 

 未確認情報も入り混じっているんですね。

この鎮守府では様々な事が起きていたことは座学で知っていましたが、正直ここまでとは思ってませんでした。

 

「一時は疑心暗鬼になっていた鎮守府内で、内偵がうろつき、隣人がどちらかで双方に情報を流していたりと、第二次世界大戦下のナチ政権に蹂躙されていたドイツのようになっていました」

 

 想像するのも嫌になるほどのものだった事は伝わります。ですけど、そこまで酷い状態だったのにどうして、纏まっていられるんでしょうか。

当然、紅くんの存在でしょうけど。

 

「今では『近衛艦隊』『親衛艦隊』なんて単語は死語になりましたが、私はましろさんがこの世界に来てしまったことによって、それが再発するのではないかと考えています」

 

「え?」

 

「紅提督が生きている、取り戻そうとましろさんから話を聴いた私たちと、紅提督が死んでしまったと思い込み、感情を押さえつけた結果、表情を失い、傷口に塩を塗られまいと動く艦娘たち」

 

「それは本当ですか?」

 

「憶測に過ぎません。ですが、十分にあり得ることですよ?」

 

 武下さんはそう言い切ります。

話を聴いている限りだと、可能性は五分五分です。

 少し考え事をする私をみて、武下さんは少し息を吐きました。ため息に近いものです。きっと、気を抜いたんでしょう。私が出していた怒りが、収まったように見えたんでしょうね。ですけど、それはないです。現在進行形で、正常な判断はできるものの、かなり頭に血が登っているのが自分でも分かりますからね。

 

「それでも、紅くんを個人として見ていなかったんですよね? 話を戻しますが、どうなんですか?」

 

 顔は見ません。驚いているのは自明ですからね。

その証拠に、武下さんはすぐには答えません。口ごもっているのが分かります。

 

「……た、確かに、提督と呼んでいましたし、大本営でも提督の事は提督と呼ばれてましたし、どこに出るにしても提督でした……」

 

「紅くんにはちゃんと天色 紅っていう名前があるんですよ? それを提督提督って、役職名じゃないですか。違いますか?」

 

「……いいえ」

 

「それで、なんでしたっけ? 独りでいることや、夢を奪ったでしたか?」

 

「は、はい」

 

 屈強な身体を持った武下さんが、みるみる小さくなっていきます。

 

「確かにいきなりでしたし、行き先は異世界ですから、家族も友達も一気に失いますよね。それで艦娘からは”モノ”扱いで、あなたたち人間は代名詞呼び? そりゃ当然、独りでしょうね。それに夢を奪った? それはこの世界に呼び出す力とやらを使った責任でしょう?!」

 

「ごもっともです……ですが」

 

「言い訳ですか?」

 

 武下さんが遮りましたので、私は聴くことにします。余計な事は言わないと思いますからね。

そしたら、武下さんの口からとんでもない言葉が出てきました。

 

「確かに呼び出す力の運用に関する決め事をしたのは私たち、人間です。ですが、力の行使は全て艦娘が行ったものです。責任転換みたいで申し訳ないですが、真実ですので……」

 

 本当に申し訳なさそうに言う武下さんを尻目に、私は会議室の扉に手をかけていました。

その私を武下さんは止めます。

力では勝てる訳ありませんからね。

 

「待って下さい! 貴女がその事実を彼女たちに突きつけたら、それこそ崩壊します! ましろさんの真実を知っている艦娘がいると思いますが、彼女たちがましろさんの事を知ってとったであろう行動を思い出して下さいッ! 彼女たちは確実に死にますよっ!」

 

 抵抗虚しく、振りほどけなかった武下さんから、その言葉が聞こえました。

それを聞き、私は抵抗を止めます。

 記憶にあるんですよ。鈴谷さんが単艦出撃するという趣旨の命令書と解体申請書を持っていたことや、時雨さんと夕立さんが目の前で解体申請書を書いていたこと。横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘をまとめているであろう赤城さんが、自分の立場も顧みずに土下座をして、額から血を流していたことも。

 

「罪に苛まれて、逃れようと……ですか?」

 

 私は振り返って、武下さんに訊きます。

その回答が武下さんから返ってくる事はありませんでした。

 





 いやぁ、シリアスなのか? と最近考え始めました。見方変えると、鬱なんですよね。
内容的にも……。ですけど、現実指向で書いてますので、一応シリアスということで。

 武下との対談が長く続いていますが、次の第25話でラストになります。
ここから本格的に動いていきますよ(トオイメ)

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