【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
侵入者が侵入してから3日が経ちました。今日まで、侵入者の姿を見たなどの情報は1つも入らず、ただ混成警備艦隊が巡回を続けているだけです。
沖江さん曰く、『この状態は約1週間続きますよ。それ以降になると金剛さんたちだけが動き、他は解散して通常に戻ります』とのことでした。
この日程の基準は分かりませんが、判例なんでしょうね。それを聞いて、こんな状態が1週間も続くのかと思ってしまいます。
極度の緊張状態ですので、普通の人なら持ちません。横須賀鎮守府ならではなんでしょうかね。
私はこんな状況下でも、あることをしなければなりませんでした。
紅くんの奪還作戦の話を進めなければならないんです。話が浮上してきた後、色々なことを知ってしまったので考える暇が無かったんですよね。
(この前、武下さんに『血猟犬』は使えないと言われたから……)
考えを巡らせます。
最初の情報収集の段階で躓いています。ですが、ここさえクリアしてしまえば、後は予定通りに進めれる筈です。
考えます。考えに考え、時おり全然関係のないことも考えてしまいますが、考えます。
(『猟犬』は情報収集に向いてないですし、『番犬』は以ての外ですね)
横須賀鎮守府にある唯一無二の諜報部隊である、『血猟犬』を使えないとなると、本当に情報収集手段がなくなってしまいます。
他に手はないかと考えます。
あれやこれやと考えますが、どうしても『血猟犬』よりも良い部隊が見つかりません。
そんな時、私はあることに気付きました。
私が見ていたのは、『柴壁』の人員構成などに関する資料です。記憶は定かではありませんが、横須賀鎮守府に直接使役しているのは『柴壁』だけではないはずです。そう、酒保の従業員も元軍人なんです。どこ出身かなんて分かりませんけどね。ですが、『柴壁』のように特殊部隊やら憲兵ではないでしょう。一般部隊若しくは後方支援系だと思います。勝手な私のイメージの押し付けですけどね。
思い立ったらすぐ行動に移します。私は自分の部屋から出て、寮を飛び出し、酒保に向かいました。
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酒保に着いた私は正面の入り口から素早く入り込み、なるべく見られない様に移動していきます。そして辿り着いたのは、この世界に来てた時に課せられた滞在条件をクリアするべく、働き口を探していた時に訪れた場所です。サービスカウンター的なところにいる人に話し掛けました。
「すみません。責任者の方、いらっしゃいますか?」
対応してくれた人は、私の格好に驚きながらも対応してくれました。
「分かりました。少々お待ちください」
そう言って、どこかに内線で電話をかけること数分後、以前にも来てくれた人が現れました。そして、前回同様同じことを言ったんです。
「会議室に行きましょう」
「分かりました」
私はその後を着いて行き、会議室に入ります。
「どうされましたか? 前回いらっしゃったときは私服だったみたいですが、今回は『柴壁』の制服なんですね」
「はい。結局、『柴壁』に……。それで話というのはですね、あまり信頼関係も築けていない現状で頼むのも忍びないことですが……」
そう言って、私は責任者の方にあることを聞きました。
「酒保の従業員の方々は全員、軍人だったと聞きました。本当ですか?」
「……えぇ、そうですね。私は補給部隊でしたが、色々な所属だった者が集まっていますよ」
私の質問の意図に気付いているかはさておき、勘ぐられてはいないようです。
質問を続けます。
「その中に戦闘部隊だった方は?」
「っ?!」
何かを感じたのか、一瞬空気が張り詰めましたが、すぐにそれは薄れます。
少し考えた後、責任者の方は話しました。
「数人が憲兵と特殊部隊出身者が居ます」
そう言うと、私が発言するのを遮って、私に質問してきました。
「こんなことを訊いて、何かあるんですか?」
そう訊いてきましたが、私の予想では確かめているんでしょう。
同じ鎮守府内で、同じ雇い主。性質も同じと考えると、酒保は『柴壁』と同じはずです。
『柴壁』と同時に軍を退役し、横須賀鎮守府に雇われたという経歴がある双方の組織はきっとトップ同士が繋がっているはずなんです。
確固たる核心はありませんが、そうだろうと私は考えていたんです。
きっと責任者の方も、私が来たということで何を言われるかなんて分かっている筈です。
「奪還作戦です」
「……」
私はそう言うと、責任者の方は黙りこみ、すぐに反応をしました。
「分かりました。該当する人間を集めて話をします。ですが、期待できませんよ?」
どうしてでしょう。特殊部隊や憲兵出身なら『柴壁』と同じです。『血猟犬』までとはいかないでしょうけど、それ相応の人間がいるはずなんです。
「貴女……そうね、”ましろさん”と言えばいいですよね? ましろさんの考えていることは小耳に挟んでいます。そして、今、何を求めているのかも」
淡々と話します。
「貴女の求めているのは特殊部隊でも憲兵でもないですよね? 諜報員のはずです」
私の顔色を伺って、責任者の方は続けました。
「『柴壁』の『血猟犬』が出せない理由なら聞かれたと思います。こちらに話を持ってきたのは良い判断です」
そう言って責任者の方は立ち上がりました。
「こちらで人員選抜を行い、出頭させます」
「ありがとうございます」
私があまり喋らなくても、話がトントンと進んでいきました。
聞いている限りだと、奪還作戦の話はリークされていたみたいですね。
私は責任者の方に頭を下げて礼を言い、酒保を後にしました。
これからは出頭するであろう人たちに渡す詳細な資料を作らなければなりませんからね。
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私は奪還作戦の準備を確認します。
最初に紅くんが収容されている軍病院の特定。その後、軍病院の構造等の情報収集を行います。ここまでが、今回必要な情報収集です。それ以降の『血猟犬』が担う予定であった任務は全て『猟犬』に任せ、実働部隊は全員が『猟犬』ということになりました。
酒保から選抜される人員対象の資料を作ります。ですが、今回は考えました。この作戦が外部に漏れると、奪還作戦が行えなくなるんです。紅くんは別の病院かどこかへ移送されてしまい、どこに居るのかも検討が付かなくなりますからね。
ですので、私が説明で使う用だけを用意することにしました。
自分が使うためだけの資料を作り、酒保から来る人たちを待ちます。
そんな中、私はあることを考えていました。
この作戦の土台には、『紅くんが生存している』があります。一番大きな支えだと声を大にして言えることです。
なぜ、こんなことを考えたのかというと、この作戦が失敗した時のリスクを考えたんです。どういった意味での失敗か、それは『紅くんが生存していなかった』時のリスクです。横須賀鎮守府、大本営、日本皇国へのリスクは計算済みです。横須賀鎮守府は機能を完全に失うことは目に見えています。大本営は国民と国土を守ることが出来なかったということになります。そして、日本皇国は滅亡のカウントダウンがもうすぐそこで終わります。どういう意味で滅亡するかなんて、いくらでも考えられます。
ですが、これだけのリスクを考えましたが、一番重要なことを忘れていました。
私はどうなるんでしょうか。実質作戦立案者であり、人員編成や作戦内容まで考えた私はどうなるんでしょうか。
視点を変えてみましょう。
私は横須賀鎮守府にとってどういう人間なのかというと、『紅くんの実の姉』ということです。これは横須賀鎮守府内でも大きな存在ではあります。ですが、確証が持てません。疑れば、私はホラ吹きだって言えますからね。大本営は私の存在はただの異世界人としか考えていません。少なくとも私の本名は割れていませんからね。横須賀鎮守府での様子を見ていると、私の本名を聞いてどういう人物なのか分かれば、横須賀鎮守府と同じような対応をすると考えられます。否、それよりももっと丁寧になる可能性もありますね。
日本皇国での扱いは紅くんの扱いと変わらないと思います。デモ隊の話を聞く限りでは、反感を募らせる人間も少なからず居るということになりますからね。となると、もし私の素性が世間に知られた時の動きというのは、自ずと決まってくるものです。
私は腰を伸ばしながら、考えていたことを一時中断しました。
考えすぎるのも頭が疲れるからです。
ポキポキとなる腰に手をあて、少し立ち上がってみます。そして数歩歩いてみたり、足首を回してみたりします。そして、同じ場所に座りました。
(確かに、この世界は私の思っていたよりも面倒です)
これまでの考えを纏めると、そういうことになります。
特に、異世界人にとってはですけど。
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部屋の扉をノックする音がしたので、私は返事をします。
私の部屋をノックする人なんてそう居ないです。沖江さんか、『血猟犬』の先輩が2人くらいだけです。
返事と同時に入ってきていいと伝えると、BDUを着た数人の女性が入ってきました。一瞬、『柴壁』かと思いましたが、『柴壁』の中に見覚えのない顔でしたのですぐに分かりました。この人たちは酒保の従業員ということに。
「このような格好でないと、寮に入れないものですから……すみません。私たちは酒保から責任者の命によりここへ」
「ようこそ来て下さいました」
私は立ち話もと言って、部屋に招き入れて座ってもらいます。
「直接呼び出されたことと、何故、貴女のところに向えとおっしゃられた趣旨はここで判ると伺ったのですが」
代表でしょう。私に訪ねてきます。私たちはどうしてこの格好でここに来させられたのか、と。
「勿論、説明します。ですけど、どれもこれも伺わなければならないことがありますし、少し席を外すことになると思いますが、よろしいでしょうか?」
「はい」
彼女たちの了承も得たことですし、あることを訊いてみることにしました。
「私の名前、分かりますか?」
そう訊くと、ポカンと数秒間フリーズしてしまいました。ここへ来たのは全員で4人です。その全員がフリーズしてしまったんです。見ていて滑稽でしたが、マジメな話ですので笑いません。
「は、え、えぇと……天色 ましろ……さんですよね?」
やはり知っているようです。ということは、このことが伝えられてないのはやはり艦娘だけのようです。
それはそれで何か問題が起きるような気がしなくもないですが、どうせ後で皆が知ることです。
「正解です。……すみませんね、変なことを訊いてしまって」
「いえ、それで他になにか?」
「えぇ……貴女がたは全員、軍の特殊部隊出身ということでよろしいでしょうか?」
そう言うと全員が頷きました。どこの部署だったかはさておき、そうだと言うのなら問題ないと思います。
「私は海軍諜報機関に……」
「私もです」
「私は海軍部情報課でしたが工作員ではなく、実働部隊です」
「私もです」
聞き覚えのあるところが出てきましたね。ですけど、私はあることを思い出しています。酒保の従業員は全員、紅くんの最初の暗殺騒ぎの直後に来た人たちのはずです。今、鎮守府が目をつけられている組織ではありますが、つけられる前に抜かれた人たちのはずですので、問題ないと思います。
というか今考えてみると、結構な綱渡りをしているんですね。大本営は。
酒保の従業員に海軍諜報機関と海軍部情報課隷下の実働部隊の人間を紛れさせる等。バレたら速攻艦娘に文字通り”始末”されてしまいます。
私は気付いてしまいましたが、多分口外することがタブーでしょう。頭の片隅においやっておきます。
「これから話すことは口外禁止です。いいですか?」
念を押して言い、私は本題に入りました。
「私は水面下で複数の艦娘と『柴壁』を使って紅くんを奪還する計画をしています。貴女たちにはその初動、情報収集を頼みたいのです」
一気に辺りが緊張感で包まれ、私の部屋に来た彼女たちも体勢を換えます。背筋が伸び、アゴを引きました。
「何の情報を収集するかと言うと、紅くんが収容されている軍病院の特定と内部の構造等の情報を集めていただきたいのです」
「それは、私たちが鎮守府の外に出て、情報を集めてくるということでしょうか?」
うちの1人が私に訊きます。
「はい。これを元に、奪還作戦を開始する算段です」
そう言って私は手を地面に付きました。
そしてそのまま頭を下げます。もとよりここで正座をしていましたので、形的には土下座になるでしょう。
ですが、土下座になっていても構いません。これを逃せばもう、情報を集めることもできませんので、奪還作戦自体が無くなりますからね。
そんな私を見て、すぐに彼女たちは私に顔を上げて欲しいと言ってきます。ですので、私は顔を上げました。
「紅提督のお姉様がそんなことを……私たちには恐れ多いです。……私に異存はありません」
そう言ったのは代表です。それに続き、残りの3人もやると言ってくれました。
「そうですかっ! ありがとうございますっ!!」
私は今度はちゃんと頭を下げて、お礼を言います。
そしてすぐに顔を上げると、私は立ち上がりました。そんな私に、代表は『何方に?』と訊いてきます。
「赤城さんと武下さんに伝えに行くんですよ。もう、これで始める準備は出来ましたからね」
そう言って私は代表たちに帰ってもらい、私は最初に赤城さんのところを目指します。
赤城さんと武下さんの最終確認を取って、少し鈴谷さんに話を聞きに行ったら、この作戦は始動です。遂に、紅くんの安否の確認が出来ます。
先日、Twitterの方で投稿するといって投稿しなかった人です。申し訳ありません。
今回から、侵入者騒ぎを一時置いての奪還作戦の話になります。色々と紅にすら知られていなかった真実が出てきていますが、まぁ、普通に考えればそうなるでしょうねってことです。ですけど、現状は完全にコチラ側ですので問題なしです。
特別編に関してですが、題名が長くなりそうです。ですが、投稿しますよ。別小説としてですが。
といっても途中までしか書き上がってないので、刻み刻みになると思います。ご了承下さい。コレの予約投稿が終わってから、すぐに活動報告にて趣旨を伝えますので、ぜひご覧ください。
ご意見ご感想お待ちしています。