【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
第32話 『紅葉狩り』①
朝食を摂り終えた私は、独りで外に出て『血猟犬』を見送り、補給部隊しか使わない門の前に来ています。
この場には、私と武下さん。赤城さんと酒保の従業員で、今回の作戦の初動に征く人たちしかいません。
酒保の従業員をこれからは、『灰犬』と呼び、紅くんが収容されている軍病院の特定。施設の構造などの情報を集めに行きます。BDU姿だと怪しまれるので、女性らしい格好をして、身体には携帯火器を忍ばせています。
人数の少ない見送りに寂しさを感じつつ、私は『灰犬』に声を掛けます。
「何としても、紅くんが収容されている病院を突き止めて下さい」
「はい」
代表、今の小隊長が私に答えました。
「では。お願いしますね」
「はッ!! 行って参ります!」
そう言って覇気のある返事のあと、振り返り歩き始めた『灰犬』の背中を私は見つめました。この作戦も全ては彼女たちの情報が頼りです。
もし情報収集に失敗したり、万が一バレて捕まるようなことがあれば作戦は再起不能になります。
どうか成功することを祈りながら見えなくなるまで、私は門の向こう側を見つめました。
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見送った私たちは、そのままあるところに入りました。
そこは地下司令部で、横須賀鎮守府の指揮所に当たります。どうやら地上施設が無くても、鎮守府として活動が出来るそうですが、紅くんはここを非常時にしか使わなかったそうですね。基本的には執務室からか、自分が鎮守府内を歩き回っていたらしいです。
今回は無線機を用いてやりとりをするとのことでしたので、作戦立案者である私がすぐに緊急時に対応出来るようにと、地下司令部に入ることになったんです。武下さんは『よっぽどのことがなければ、定時連絡を貰うだけですよ』と言ってました。
「こちらが通信妖精です。他にも役職のある妖精がいますが、基本的に通信妖精とのやりとりが多くなります」
「そうですか。……よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
手のひらに乗ってしまうのではないかというサイズの妖精さんは、私に向かって敬礼をして席に戻って行きました。
「さて……出て行ってから30分程経っています。情報収集を始めたころでしょう」
武下さんはそう言って、用意されていたであろうパイプ椅子に腰掛けました。
束の間の休憩です。
「『灰犬』には何の情報もなしに、手がかりから探しているでしょうから、短くても1週間は掛かりますよ。最も、横須賀周辺ではないところにいるんでしたら話は別ですが……」
「そうなんですよね……。コチラ側は情報が不足しすぎています。そういうことなので、赤城さん!」
私は赤城さんを呼びます。艦娘で今回の作戦に関係のある中で、長時間姿を消していても問題のない艦娘である赤城さんは、私の呼び掛けに応え、通信妖精のところに歩いて行きました。
ちなみにこの場に居る艦娘はもう1人います。鈴谷さんです。こちらは金剛さんと交代制らしいですけどね。
「通信妖精さん。一般電話回線って何処ですか?」
「それならあちらに」
通信妖精さんに話し掛けた赤城さんは、一般電話回線とかいう単語を発して、普通の机に置かれていた固定電話の受話器を持ち上げました。
そしてボダンを何回か押して、受話器を耳に当てます。
「……横須賀鎮守府の赤城です。新瑞さんをお願いできますか?」
そうです。赤城さんは最初の偵察、『灰犬』が出たのと同時に、再度安否を確認するんです。その返答次第で、私がこの部屋から出て行くかこのまま居座るかが決まります。
私の居るところからは、電話越しの声は聞こえません。
「あ、新瑞さん。横須賀鎮守府の赤城です」
「えぇ。要件はですね……紅提督の容体か安否をっ」
「それ、この前お聞きした時も同じことを応えてましたよね? 『私でも分からない。掛けあってみたが、私にも教えてもらえないんだ』って……」
「……何ですか? もちろんですよ! いつまで経っても紅提督の安否どころか容体も教えていただけないんですもの! 確かに軍病院の方が施設もいいでしょうけど、連れて行った方は、横須賀鎮守府の長、国防の要なんですよっ! 私たちにとってはとても大切な人なんですよっ……。貴方たちも散々『救国の英雄』だとか持ち上げるだけ持ち上げて、自分たちのしていることは棚に上げるんですかっ?!」
「『それは……』ってねぇ! だったら前に私がこうやって連絡を入れてから期間が空いてるんですから、そのうちに調べるとかしたらどうなんですかっ!! 私たちは貴方たちの作った『檻』の中からは出れないですから、調べることも出来なんですよっ!!」
最初は落ち着いた雰囲気で電話をしていた赤城さんですが、後半はヒートアップしてしまっているようです。声を荒げて怒っているという風には見えませんが、これまでに見てきた赤城さんからは、まるで想像も出来ないような姿です。
「もう良いですっ!! 総督に掛けますからっ!! 失礼しますっ!!!」
少し乱暴に受話器を置いた赤城さんは、またボタンを押して受話器を耳に当てました。
「総督ですか? 横須賀鎮守府の赤城です」
「はい。ご無沙汰しています。……それで要件はですね、紅提督の容体か安否をお教えいただきたく……」
「はい。4ヶ月前にも新瑞さんに聞いてみたんですが……。……えぇ」
「そうですよ? 新瑞さんは曖昧なことしか言いませんでしたからね……。それで総督なら、と思いまして……」
「はい……はい……」
「……それですと、新瑞さんと仰ってることが同じですよ? 私たちは提督の容体若しくは安否が知りたいだけです」
「なぜ皆さんはぐらかすんですか? ただ『生きている』『死んでいる』『元気』『危篤』そう仰って下されば良いんですよ?」
「……総督までもが、新瑞さんと同じことを仰るんですか? ……もう一度伺います。紅提督の容体若しくは安否を教えて頂けませんか?」
「そうですか。……はい。失礼します」
どうやら電話が終わったようです。
今相手をしていたのは、赤城さんは電話口で『総督』と仰っていました。そもそも『新瑞』という人物から私は知らないです。
私は微動だにせずにいると、鈴谷さんが私に近づいてきました。
「新瑞って人は、大本営海軍部長官。海軍のトップのことね。それで総督って人は、大本営総督。つまり、日本皇国の陸海空軍の中で2番目に偉い人ね。1番はもちろん天皇陛下」
「あ、そうなんですか。わざわざありがとうございます」
「いいよ。それでね、多分聞いたと思うけど、日本皇国って国名から察してくれると有り難いんだけど、天皇制が復活してるんだ。だから今、この国で1番偉いのは天皇陛下」
鈴谷さんは赤城さんを見ながら私に教えてくれます。
そうしていると赤城さんはこっちに戻ってきました。
「ダメです。教えて頂けませんでした」
結果は不可。作戦続行です。
私はすぐに通信妖精に伝えます。
「作戦続行です」
「分かりました。撤退命令は棄却します」
何の棄却かというと、『灰犬』の撤退命令です。
赤城さんによる確認が出来なかった時、棄却されるものです。もしも確認が出来たなら、生死問わずに取れたのなら、撤退命令を出して作戦終了です。
こんな面倒な手を入れたのは、時間短縮のためです。
私は少しため息を吐いて首を動かします。
そんな私に赤城さんは話しかけてきました。
「ここまでは想定通りですよね? 大本営が以前と同じ対応をすることは」
「えぇ。だからこその『紅葉狩り』です。教えてもらえないのなら、自ら知りに行くものです」
私はそう言って用意されていた椅子に座りました。パイプ椅子がギシッと音を立てます。
私の回りにはパイプ椅子が4つ用意されています。私と武下さん、赤城さん、鈴谷さんのものです。
ここに私たちが居座ることが前提の様ですね。
用意したのは妖精さんたちらしいです。よく分かっています。
「これで『灰犬』がどれだけ正確な情報を持って帰ってくるか、ですね」
「えぇ。誤ったものですとそこで作戦はおじゃんです」
私と武下さんはそんな話をしますが、一方で鈴谷さんがあることを言い出しました。
「ねぇ、ましろさん」
「何ですか?」
「私たちは強行的な手段を取ることができること、念頭に置いておいてね」
いつもの調子でそんなことを言います。
一方で、私の心臓が跳ね上がりました。強行的な手段というと、多分ですが『提督への執着』を利用したものでしょうね。
いつぞや聞いた話、『日本皇国は紅くんに生かされている』ということでしょう。
日本皇国国民全員を人質に問いただすんでしょうね。『紅提督の容体は? 安否は?』と。そうすれば日本皇国政府並びに大本営、天皇陛下も真実を口にするということです。その一方で、横須賀鎮守府の艦娘はその手段を好んで使おうとはしないんでしょう。話し合いや戦略で解決しようとするはずです。紅くんがそうしてきたと言ってましたからね。紅くんをリスペクトしているというのなら、その手段を取らない方がおかしいくらいです。
ですが、それを口にしたということは”そういうこと”なんでしょうね。
一向に口を開かない大本営と、紅くんがどうなったかだけが知りたい横須賀鎮守府。何か、大本営は隠しているんでしょうね。状況から察するに、紅くんに何かあったか。
良くて記憶喪失や、身体機能の麻痺、欠損……。悪くて”死亡”。あくまで、戦死扱いではないでしょう。なぜなら異邦人ですからね。私だってどんな扱いか分かりません。『柴壁』に居る以上、横須賀鎮守府が守ってくれることは確かですけどね。
「それは、紅くんが嫌がることですよね?」
「もちろん」
私は確認のために訊きました。本来なら訊く必要はありませんからね。
「あーあ。少なくとも1週間は暇なんだぁ……。まぁ、今までもそうだったけどさ」
鈴谷さんはそう言って話を逸しました。
何か考えあっての言動でしょうね。
「仕方ないですよ。本格的に動けるのは『灰犬』が帰って来てからです」
「分かってるよぉ。……ん? そろそろ金剛さんと交代の時間だ。じゃあ、鈴谷はこの前の侵入者を探しに行ってくるねー」
何かの拍子に思い出したんでしょう。鈴谷さんは急に立ち上がって去って行きました。
金剛さんとは交代でここに居座ると言ってましたからね。
私は金剛さんと顔を合わせるのが怖いです。
何故なら、ここに来て間もない時、会った人や艦娘には偽名を名乗っていた時、金剛さんはそんな私に色々と世話を焼いてくれました。といっても、モーニングコールや私のやっていることの手伝いくらいですけど。
金剛さんの中で、もしかしたら私のことを気付いていたのかもしれないと思うと、とてつもなく怖くなります。何を言われる、何をされるかじゃありません。ここに入ってきて、私の顔を見た金剛さんの表情を見るのが怖いんです。
私は肩をすくめました。何れ金剛さんはここにやってきます。それが笑顔なのか、別の表情なのか……。ただ何もせずにそれを待っていることは、ただただ怖いんです。
今回より、1つのエンディングに向かっていきます。
皆さんのご協力により、投票の結果、『1』が選ばれました。どんなエンディングかは活動報告にも書きました通り、終わるまで明らかにしません。
これも活動報告に書きましたが、全てのエンディングを投稿する予定ではありますので、どのみち全て見ることになるんですよね(汗)
果たして、皆さんが選んだ最初のエンディングは一体……。
そんな訳で前作と比べたらかなり短くなりましたが、これくらいで良いだろうと思い、エンディングに持ち込みます。プロットももう、ここまででエンディングに入れる予定でしたからね。
ご意見ご感想お待ちしています。