【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
気付いたら私は寝かされていました。
地下司令部に居たはずなのに、今はどうやらベッドの上みたいです。
「気付きましたか」
ベッドの傍らには赤城さんが座っていました。
何が起こったのか、と聞く前に赤城さんから説明がなされました。
「地下司令部で金剛さんと話している時に、いきなり取り乱して気を失ったんです。私は2人の会話からは内容を汲み取ることはあまり出来ませんでしたが、何かあったんですか?」
心配そうにしている赤城さんに、私は端的ながら説明を聞いた。
起きた時点で何となく察していましたが、やはり気を失ったみたいですね。確かに、アレ以降の記憶はありませんし……。
「どう……だったか、忘れちゃいました」
とっさに出た言葉がそれでした。
理由なんて明白です。今ここで”あのこと”を赤城さんに教えてどうなるんでしょう。動き出してしまった作戦は止まりません。そして、きっと取り戻すその時まで止まるとは思いません。そんな感じがしたんです。
私は頭の大部分を占めている金剛さんの意図、金剛さんが何を思って作戦に望んでいるのかを表に出さない様に振る舞います。
「とりあえず、ましろさんが気を失ってから半日が経ってます。それまでに起きたことを報告しますね」
赤城さんは袖から紙を出して広げると、それを読み上げ始めました。
「『灰犬』は1箇所目の軍病院に接近。情報収集を始めました。内部への侵入はまだですが、内部構造の情報を入手。ただし、機密区画は分かりませんでした。以上です」
半日でそれだけできるのなら上々ではないでしょうか。
「私が居ないことで対処できなかったことなどは?」
「ありません」
私はベッドから立ち上がり、靴を履きます。
いつまででも寝ていても仕方ないですから、すぐに地下司令部に戻ることにしたんです。
そんな私に、2人だけしかいないからこそなのか、赤城さんが訊いてきました。
「ましろさんが気を失う前に、本当に一体何に気付いたんですか?」
真剣な眼差しで私を見ながら訊いてきます。
彼女の中でも、大体の目星は付いているんでしょう。だから、確認のために私に訊いたんだと思います。
赤城さんは聞くことが怖くないんでしょうか。
私だったら絶対に嫌です。アレだけ遠回しに言っていても、気付いてしまえばスポンジのように理解していきます。言い回し、類語などなど。
「とてもじゃないですけど、言いたくないですね。私だって、信じた訳ではありませんし」
気を失うほどだったのに、信じてないなんて言えたものです。
どこか、私の中で分かっていたんじゃないでしょうか。言われてきたこと、聞いてきたことを総合して考えれば、そういうことに行き着くこと。そして、分かっていたからこそ、違うことを考えて誤魔化していたんです。
「そう、ですか。……無理に訊いても申し訳ありませんし、また話す気になった時にでも。じゃあ、戻りましょうか」
「えぇ」
私は赤城さんの後を追って、ベッドの部屋を出ました。
出た廊下に見覚えがありませんでしたので、多分地下司令部にある施設の一部だったんでしょうね。
薄暗い廊下を歩き、階段を1段も登り降りすることなく、地下司令部に到着しました。
「あ、おかえりー。ましろも倒れたって訊いたからびっくりしたよ」
その場にいたのは、武下さんと鈴谷さんでした。どうやら、交代で金剛さんとは変わったみたいですね。
正直、私としては好都合です。今、金剛さんとは会いたくありませんからね。
「心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
そう言って、私は椅子に座ります。
この椅子に、どれくらい私は座ることになるんでしょうか。最低でも1ヶ月は座ることになるでしょうけど、本音を言ってしまえば、早く次の段階に入って欲しいものです。
そんなことを考えていると、地下司令部にある艦娘がやってきました。
「失礼するね」
来たのは時雨さんでした。
一体、何の用があって来たんでしょうか。
「時雨さん……ということは、外で何かあったんですね」
「うん。……外に皇国陸軍1個師団が来てる」
「っ?! 本当ですか?」
「嘘だったらここまで来て知らせないよ」
どうやら何かが起きたみたいですね。時雨さんが言うには、軍の部隊が来たとか。
時雨さんが話した途端、この部屋の空気が一瞬で変わったのを考えると、良くない方みたいですね。
「……目的は?」
鈴谷さんが時雨さんに訊きました。
「さぁ? でもね、ナントカって言う少将が来てるみたい。師団長だってさ」
少し考えた赤城さんは、あることを訊きます。
「誰かを呼んでいるんですか?」
「それがね、誰を呼んだらいいのか分からないみたい」
時雨さんは困った顔をします。
なんだか、様子を聞いている限りだと、誰かを呼んで話がしたいんじゃないかと思います。
「……師団ですか。編成は?」
「聞いてる限りだと歩兵師団。でも分からない。独立混成師団って可能性もある。もしそうだったら厄介だね」
「そうですか。……話を聞いたのは時雨さんですか?」
「うん。僕はたまたま通りかかっただけ。正門前で当番だった憲兵さんと近くを巡回していた『柴壁』経由で僕に伝わったんだ」
「じゃあ伝令お願いします」
話がトントンと進んでいきます。何をしに来たなんて私には分かりませんが、いいことではないでしょうね。武器を持ちだしたのなら。
「どちらの代表かが赴きます。何方がいいか聞いて下さい」
「分かったよ。じゃあ、行ってくるね」
「はい。お願いします」
時雨さんを見送って、すぐに赤城さんが考え始めます。多分、今後の対策でしょう。
これまでなら、紅くんが対策してきたでしょうから、自分たちだけで対処することはあまりなかったんでしょうね。
私は考えを巡らせます。
ここに来た目的はなんでしょう。交渉・攻撃・帰属……これだけ考えられますが、攻撃が一番考えられますね。帰属が一番あり得ないです。
帰属するのなら、タイミングがあるでしょう。
一度、軍を辞めた『柴壁』のメンバーと同じタイミングで来れば、流れに乗じて入れたかもしれません。彼らが軍を辞めて、その上で装備を奪取してきたというのなら、それ相応の覚悟があると見ることが出来ます。ですが、この場合は一番遠い正解です。
「武下さん。……もしかして」
「……はい。十分考えられます」
主語が無い会話が武下さんと赤城さんの間で交わされ、すぐに赤城さんが指示を出しました。
「通信妖精さんっ! 至急、『灰犬』へ緊急通信っ!」
「はいっ!」
会話の内容と赤城さんの指示で、私はピンと来ました。
情報収集に出ている『灰犬』が捕まってしまった、ということでしょう。
「横須賀鎮守府より『灰犬』。現状を報告せよ」
「繰り返す。横須賀鎮守府より『灰犬』。現状を報告せよ」
通信妖精さんのコールだけが、地下司令部に響きます。
『こちら『灰犬』。現在、1箇所目の軍病院付近の公園です』
「横須賀鎮守府より『灰犬』。全員健在ですか?」
『こちら『灰犬』。勿論です』
「横須賀鎮守府より『灰犬』。引き続き、任務を続行せよ」
『こちら『灰犬』。了解』
通信を終えた通信妖精さんが、赤城さんの方を見て頷きました。
ちなみに、通信内容は室内にスピーカーで流れるので、皆に状況が分かります。
そこで私は気になっていることがあります。
独立混成師団が何か分かりません。何かが混じってるってことは分かるんですけど、それが何で、どんな危険があるのか……。
空気に流されて、知っていることが前提で話が進んでいるので、私は聞けずにいました。そんな時、鈴谷さんが横から小声で教えてくれました。
「ましろさんって、もしかして分からなかった? さっきの?」
「はい……。恥ずかしながら……」
「独立混成師団ことでしょ?」
私は首を縦に振りました。
「定石だと、歩兵部隊中心に機甲部隊、砲兵部隊、工兵部隊などが一緒になってる部隊のことを混成師団って言うの。その混成師団が他の部隊と連携せずに、単独で行動することができるとそれは独立混成師団って言うんだ。最も、混成師団なんて言い方しなくても、機械化歩兵、機動歩兵とかって言うこともあるけどね」
はははっと笑いながら鈴谷さんは教えてくれました。ですが、鈴谷さんに悪いですが、機甲部隊ってのが分かりませんでした。
「あ、ありがとうございます」
「ううん。気にしないで」
私は勢いで、終わらせてしまいました。どこかのタイミングでそれのヒントになることを教えてもらわなければなりませんね。
そうしていると、赤城さんが次々と指示を出していきます。
「前のスクリーンに正門前の監視カメラを出して下さい」
監視カメラなんてあったんですね。まぁ、当然のことでしょうけど。
私は前のスクリーンに表示された映像に目を向けます。そこには、鉄格子の門の向こう側に並んでいる兵士たちの姿が見えました。並んでいるといっても、そこまで均一かつ順序がしっかりとしている並びではありません。来た順で並んでいるんでしょう。トラックやら大きい車やら、戦車、変な戦車が並んでいます。その近くには、小銃を持った歩兵が並んでいました。
さっき鈴谷さんに教えてもらったことを思い出します。砲兵がどれか分かりませんが、機甲部隊ってのが分かりました。きっと、戦車部隊のことです。それ以外に思いつきません。
「……鈴谷さん」
「なに?」
「正門前に行ってきて下さい。やることは……分かってますよね?」
「……うん」
赤城さんはまた指示を出しました。今度は鈴谷さんです。
正門前に行けということですが、何をしに行くんでしょうか。
「すみません、武下さん。あそこにいる相手の装備の説明をお願いできますか?」
「勿論です。……見る限りだと、独立混成師団と言いたいところですが違うみたいです。装備は90式戦車、89式装甲戦闘車、99式自走砲、ハーフトラック……。機械化歩兵師団って言った方が良さそうです」
「戦車に自走砲に装甲車……トラック……。トラックの中身は?」
「多分人を乗せてきたんだと思います」
「なるほど……なら、鈴谷さんを向かわせて正解だったのかもしれませんね」
その刹那、室内と空気が揺れました。何だと思いスクリーンに目を向けると、正門の内側に粉塵が待っていました。何が起きたのか分かりません。
徐々に粉塵が晴れ、そこで何が起きたのか分かるようになります。スクリーンいっぱいに映る船がありました。ゴツゴツと無骨なその姿は、豪華な客船とは相反する存在です。
コンクリートの地面を砕き、そこに鎮座していたのは、鈴谷さんでした。艦橋からこちらに向かって手を振っています。
「吉が出るか凶が出るか……」
赤城さんはそう呟きました。
そんな赤城さんに、私は訊きます。
「どうして……鈴谷さんを?」
「勿論、攻撃されたときのためです。駆逐艦や軽巡の方がコンクリートの整備の被害は抑えられましたが、12.7cmや14cm、15.5cmでは戦車には歯が立たないでしょうからね」
つまり、場合によっては攻撃するということです。
確かに、鈴谷さんの装備は20.3cm連装砲。きっと徹甲弾を使用するでしょうから、当たればひとたまりもありません。それに、榴弾を使ったとしても、戦車は分かりませんが、他はひっくり返ってしまうでしょうね。
今回はノーコメントで(オイ)
またもや事件が起きる臭いがしますが、いつものことですよ。ですが、今回はデモ隊ではなく陸軍ですね。正規軍。
軍の装備品に関してですが、自衛隊より引っ張ってきてます。ただし、99式だけは少し名前を変えました。
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