【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
鈴谷さんが艤装出して数分が立ちました。鈴谷さんを見たあちらは何もアクションをしてきません。もちろん、こちらのアクションは鈴谷さんだけですけどね。
すぐに赤城さんが次の手を打ちます。
「武下さん。『猟犬』2個中隊を出して下さい。正門内側のあちらから見えないところに配備です。時雨さんは夕立さんと共に『猟犬』同様、あちらの視界に入らないところで待機です」
武下さんは通信妖精に言って、多分内線だと思われるモノからどこかに電話をしました。そして、時雨さんは地下司令部を飛び出します。夕立さんを連れて行くんでしょう。
新たに2人に指示を出した赤城さんは、次の手を考えています。ブツブツと何かを言っているのが私にも聞こえてきました。
「作戦参加している娘たちには協力をこれ以上仰ぐのは無理ですから……『提督への執着』の強い娘をっ……。いや、まだ知らない娘ばかりですから……」
艦娘であと1人使いたいということでしょうか。ですが、これ以上何に使うんでしょうか。戦車に対抗するために鈴谷さんを出しましたし、もしものための『猟犬』と時雨さんと夕立さんも出しました。
もう、打てる手は打ち尽くしたのではないんでしょうか。これ以上にやることと言ったら、相手の指揮官と話すこちら側の人間を出す以外ありません。
「広く顔の知られていて、ある程度回復している艦娘……」
回復……多分、紅くんが撃たれたことに打ち拉がれてから、現状回復している艦娘のことでしょう。
「私は出る訳にはいきませんし……」
赤城さんは何かやらかしているんでしょうか。
「出来れば、奪還作戦のことは知られたくありませんから……陽動艦隊から出したいところ……。叢雲さんは……あまり知られてませんねぇ」
うなりながら、赤城さんは考えます。
「加賀さんは……うーん……」
加賀さんに関してはノーコメントの様です。どうしてでしょう。
その後も赤城さんの格闘は続き、結局導き出した答えは、『金剛さんに頼む』でした。それに伴い、正門の脇に待機させた時雨さんに金剛さんがやっていた哨戒を変わってもらい、時雨さんが開けたところに叢雲さんが入ってもらうことになりました。
「正門に来ている軍の相手をすればいいデスカ?」
「流石、金剛さん。早いですね」
「こっちに来る時に見ましたカラ……」
金剛さんは私の目の前にまた現れました。
あの時、考えていたことをふと思い出します。そして、溢れ返り、視点が合わなくなっていきます。必死に堪えて持ち直すと、赤城さんが私の顔を覗き込んでいました。
「どうされました?」
「いえ……大丈夫です」
「そうですか? では、金剛さん。艦娘の代表として、あの少将さんから色々聞き出しに行ってきて下さい」
「分かったネー」
金剛さんは緊張する素振りもなく、笑顔で振り返りました。
金剛さんが少し離れたところまで行った所で、赤城さんが彼女を止めます。
「ちょっと待って下さい」
「どうしたノー?」
「ましろさんを連れて行って下さい」
「えっ?」
どういう意図でそんなことを言い出したのか、私には全く分かりませんでした。
この鎮守府に於いて、私の存在は今一番隠したい筈です。今日発動したばかりの作戦も、私が立案したものですし、私が万が一捕まって吐かされたら、作戦は頓挫。『灰犬』は全員捕まり、横須賀鎮守府が身動き取れなくなってしまいます。
そのリスクを鑑みての言葉なんでしょうか。
「赤城。今、一番守るべきなのはましろなんデス。なぜそれを、わざわざ相手の前に出すような真似を……」
「だからですよ」
赤城さんは金剛さんに凄んで言いました。
「『柴壁』の構成員は顔が割れています。もちろん、ここに来たのなら覚えているはずですよね? そうやって来た彼らの目の前に、明らかに『柴壁』なのに見覚えのない顔が居たら……どうですか?」
「どうって……そりゃ、不信に思いマス」
「そうなんですよ。だからそこで生じた動揺を利用するんです」
「その動揺で何をするデスカ?」
「会話中の少将の出方を見ます」
赤城さんは真っ直ぐな目で金剛さんを見ます。
それに動かされたのか、金剛さんは頷きました。
「分かりマシタ。ですが、ましろに武装させてもいいデスヨネ?」
「もちろんです」
「じゃあ、ましろ。行きマスヨ」
「あ、はい!」
私は少し理解の追いついていない脳を働かせながら、金剛さんの横に並びました。
赤城さんの言っていたことを整理しているんです。顔が割れていない私を使って、動揺させて情報を引き出す……なんてできるんでしょうか。
というよりも、顔が割れていない人物が居たら、その時点で警戒を強めるのが普通です。それをなぜ、相手が動揺すると考えたか……です。
いくら考えても、結局、解が出ないまま出口に着きました。そこで立ち止まった金剛さんは、私にあるものを渡してきます。
「ましろ、はい」
「あ、ありがとうございます」
金剛さんが渡してきたのは、訓練で使った拳銃です。
普通なら小銃とか渡すと思ったんですが、どうしてこれをチョイスしたんでしょうか。
「予備弾倉は2つでいいデスカ?」
「はい。問題ないです」
「動作は?」
「大丈夫です」
入っていた弾倉を抜いて遊底(スライド)を引いて、シリンダーに弾薬が入っていないことを確認します。撃鉄を落として、安全装置を掛けてから、弾倉を入れます。
「準備はいいデスカ?」
「はい」
拳銃を腰のホルスターに入れて、私と金剛さんは地下司令部を出ました。
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本部棟前のグラウンドから正門まで、私は金剛さんの横を歩いています。
彼女はずっと前を向き、偶に周りを見渡したりしながら進んでいます。多分、侵入者のことを警戒しているんでしょうね。
腰にぶら下げている拳銃がカチャカチャと音を立て、ナイフが左側に余計な重みを掛けます。ベルトにぶら下がっているので、余計に腰に負担が掛かっているんです。拳銃も同様です。拳銃は右側にぶら下がっています。予備弾倉は腰に巻いているタクティカルベルトのアタッチメントに差し込んでいます。きっちりロックされますが、走っても落ちない程度ですので、引き抜けば簡単に取れます。
タクティカルベルトから拳銃のホルスターやナイフがぶら下がっているので、全ての装備品の重量が腰にかかっています。結構な重さですが、今では苦に思っていません。慣れてしまった、という感じです。
数分間、会話をしないまま正門前に到着しました。遠くからも見えていましたが、鈴谷さんがとても大きいです。見上げていたら首が痛くなる程に大きいですし、視界に収まりきらないほど、長いです。塗装がされているのか分かりませんが、黒とグレーの中間に見えます。そして、少しだけですが煤の臭いがします。多分、エンジンでも動かしているんでしょう。
見上げていた私を見つけたんでしょう、鈴谷さんがこっちに手を振っています。叫びはしないみたいですけどね。
「サテ、ましろ」
鈴谷さんに手を振り返していた私に、金剛さんは話しかけてきました。
「私があちらの人と話しマス。その間、ましろは私の傍を離れないで下サイ。そして、何か聞かれたとしても答えないこと」
「分かりました」
「じゃあ行きマス」
私は首に巻いていたフェイスマスクをずり上げ、鼻の上から顎までを隠しました。目元は隠しません。
鈴谷さんの艤装の回りを歩いて、正門前に出てきました。
金剛さんを見た、正門の外にいるあちらの人たちは心底驚いた表情をしていましたが、すぐに引き締めます。
「この騒ぎ、場合によってはそれ相応の”対応”をさせていただきマス」
金剛さんの開口一番のセリフがそれでした。
何いってんだと私は思いましたが、私以外は違うようです。あちらの人たちは、それを聞いただけでたじろぎます。
そんな中、回りはBDUに見を包んでいる中で、1人だけ正装のような格好をしている人が正門前に進んできました。壮年ですがたるみは無く、パットがなくても肩が浮き上がって見えます。そして、腰には軍刀をぶら下げています。もう、見るからに軍人という感じです。
帽子を深くかぶり、眉から上は見えませんが、影からみえる目はとても鋭いです。
「それで、貴方たちは何者デスカ?」
「私たちは日本皇国……」
「それは分かってマス」
横にいて、自分に向けられてないとはいえ、凄い威圧感を金剛さんから感じます。
「……陸軍の第46機械化歩兵師団だ」
部隊名を言われてもちんぷんかんぷんですので、とりあえず流しておきますが、機械化歩兵と少将さんは言いました。
外に出るまでに、鈴谷さんが教えてくれたことを思い出します。
機械化歩兵……戦車、装甲戦闘車、自走砲で編成された、機甲部隊と砲兵部隊、歩兵部隊が混じったものです。確か。他にも独立混成どうのとか、機動歩兵とか言ってました。
ですが、今は部隊名がちゃんと分かりましたので問題ないです。
「それで、その機械化歩兵師団が押し寄せてきて、どうしたんデスカ? 戦争デスカ?」
金剛さんはそう聞きます。なんだか、喧嘩腰のような気がしますが、どうなんでしょう。
「ここに元第三方面軍 第一連隊がいるだろう? 彼らが持ち込んだ装備を返して欲しい」
第三方面軍 第一連隊に聞き覚えがありませんが、どうやら言い方的に『柴壁』のことを指しているみたいですね。
少将さんは頭を少し傾けてそう言いました。
「確かに居マス。ですが、装備がどうのって……どういうことデスカ?」
「そのままの意味だ。ここに増援として送り込まれて以来、原隊に戻ってないそうじゃないか。その時、持ちだした装備を返して欲しいだけだ」
「フーン」
金剛さんは少将さんの話を訊くと、少し考えはじめたみたいです。
一方で、私は違うことを疑問に感じていました。
ただ、装備を返してもらいにきたのなら、どうして部隊を引き連れてきたんでしょうか。
その理由が分かりませんでした。
交渉というか、そういうことならば文章でも良いでしょうし、直接来るのなら、1人と付き添いに2人くらい連れて来ればいいものです。
絶対に何かあります。私はそう確信しました。
「なら、その後ろの機械化歩兵1個師団はどう説明しますカ?」
「そ、それはだな……」
金剛さんは表情と威圧感を変えずに、少将さんに言いました。
流石に少将さんも痛いところを突かれたんでしょう、顔を歪めました。
数秒間開けて、少将さんは答えました。
「税金を使わないと困る人もいるんだ。分かってくれ」
「……違いますヨネ?」
流石の私でも、今の答えが苦しいことには気付きました。言うまでもなく、金剛さんもです。
少将さんが何かを隠していることに変わりはありません。それが何なのか、というのが現状でのネックになります。
本当に、この少将さんはなんの目的でここに来たんでしょうか。
「それに”税金を使う”とは、そういう意味で間違いないデスカ?」
私には到底理解出来ない駆け引きが目の前で繰り広げられています。駆け引きをしている、ということは分かるんですけどね。どういった内容なのかは、全く分かりません。
「それで、”税金を使いに来た”んデスカ? “税金を巻き上げに来た”んデスカ?」
金剛さんの肩が強張りました。
“税金を巻き上げに来た”という意味は分かりませんが、前者は多分、最初に言った建前のことでしょうね。『装備を返して欲しい』のことです。
「さぁ……どうだろう」
少将さんは姿勢を崩します。服を擦れた軍刀が音を立て、一瞬目線が移動しました。どうやら、金剛さんも軍刀を見たようです。
私は『なんて物騒なものを下げているんでしょう。人のことは言えませんが』とか、内心思っただけでしたが、金剛さんは違ったようです。
「……」
金剛さんがどんな表情をしたかは分かりません。ですけど、後ろに立っていてもオーラは伝わってきます。悲しんでいるというよりも、なんというか、別の感情が渦巻いているような気がしてなりません。
金剛さんの表情を見たであろう少将さんは、右手を天にかざしました。その刹那、正門の向こう側に居た兵士たちが、一斉に小銃を構え、戦車の砲塔がこちらに指向します。
「なるほど……そういうことデスカ」
金剛さんはそう言いますが、私は何一つ分かっていません。何が『そういうこと』なんでしょう。
私は混乱します。ですが、それは表面上に出さないように、じっと金剛さんの後ろで立ち尽くします。
「ましろ……」
「な、何ですか?」
「逃げて下サイ……」
「え?」
「逃げてっ!! ましろっ!!」
私は金剛さんの怒号で事態を読み込めてない状態で、後ろを振り返って走り出します。私が走りだしたときにはすでに銃声が轟いており、私の足元にも弾が飛んできていたみたいです。そして、私は鈴谷さんの影に入ったとき、後ろについて走ってきたと思っていた金剛さんに話しかけようとします。
「金剛さ……ん」
ですが、私の後ろには金剛さんはいませんでした。
いないということは、きっと、あの鉛弾が一方的に飛んでいるあの場所にいるということになります。
私には少将さんと金剛さんのあの会話にどういう意味が込められていたのか、全然分かりませんでした。そして、なぜ銃撃が始まったのかも……。
どうしていいのか分かりません。鈴谷さんの艤装に跳弾する音を聞きながら、その場で立ち尽くすしかありませんでした。
奪還作戦をしていたのに、なぜって思った方ばかりだと思います。
これには意味があります。これだけは言っておきますね。
前置きは置いておいて、色々思うところがありまして、本当に少しだけ書き方が変わっていると思います。
報告ですが、『大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!』のお気に入り登録者が1000人を突破しました。ありがとうございます。
それを踏まえてですね、思うことがあるんですよ。なぜ、本編の方が少ないのか……。そして、本編がメインだろうが! と。それだけです。こんなことを書いてますが、そこまで気にしてませんwww
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