【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
どうやら、門の憲兵と少将の交渉が終わったみたいです。私が左翼の『柴壁』に合流してから20分が経ったころでした。
『ましろさん』
そんな時、私がつけていたイヤホンから声が聞こえました。
武下さんです。携帯無線機のマイクをオンに切り替えて、マイクに向かって声を出しました。
「はい」
『門の憲兵が此方の許可を得ずに正門を開放するようです。監視カメラでは映らないので、何か撮影出来るもので攻撃の様子を撮影して下さい』
「……分かりました。ですけど、撮影出来るものなんて持ってませんよ?」
『中隊長は携帯電話を持っています。借りて撮影を』
「はい」
私はマイクをオフに切り替え、中隊長の江島さんに話し掛けました。
「江島さん。携帯電話を貸して頂けませんか?」
「いいですけど、何に使うのでしょうか?」
「攻撃の撮影です」
「……分かりました」
江島さんはBDUのポケットに手を入れ、携帯電話を出して私に渡してくれました。
「ロックは掛けていません。メモリーも大丈夫のはずですので、長時間の撮影も大丈夫な筈です」
「ありがとうございます」
私は手袋を取り、ホームからカメラを起動。動画撮影モードに切り替えて構えました。
そのまま手袋をポケットに仕舞い、少し離れたところに居る夕立さんに声を掛けます。
「夕立さん」
「何かしら?」
「号令があれば艤装を出しますよね?」
「そうね。さっきまでの鈴谷さんみたいに」
「なら私を乗せて下さい」
そう私が言うと、夕立さんは黙り込みました。考えているんでしょう。
私がこのようなことを頼んだのには理由があります。
カメラで撮影する。被写体は第46機械化歩兵師団です。それらが私たちの鎮守府を攻撃している様子を映像で収め、それを利用するためです。
そうだと私は少なくとも思っています。
「……いいけど、撃たれる可能性があるわ」
「所詮撃つのは小銃です。戦車や装甲車もいますが、入ってくるのは先頭集団。歩兵です。正門を潜った先から金剛さんたちが後退した距離は数百m。歩兵を入れたら車両なんて入りませんよ」
そう私が言うと納得したんでしょう。首を縦に振りました。
「タラップから登れると思うけど、どうなるか分からないわ」
「よじ登りますよ」
「ならいいわ。……号令があるまで離れてて」
離れてて。つまり、出した時に砂塵やら色々飛び散るんでしょう。
それに巻き込まないためにそう言ったんです。私は元いた場所に戻り、しゃがみこみました。
交渉は終わっていますので、正門が開閉して相手が雪崩込むのを待つだけです。
私は心臓は高鳴り、極度の緊張に見舞われます。
初めての実戦です。金剛さんと出てきた時はノーカウントです。これからが、私の『柴壁』としての初陣が始まろうとしていました。
ーーーーー
ーーー
ー
正門が開ききり、遂に外の第46機械化歩兵師団が雪崩込んでこれる状態になりました。
私たちはいつでも抑えつけられるように、臨戦態勢を取っています。
今か今かと正門を睨み、中隊の背後ではどうやら兵器が次々と運び込まれています。武下さんか赤城さんが命令したんでしょう。それは木箱というか、箱で届けられていて、中隊の中でも数人だけが、その箱の中身を出して組み立てています。
どうやら組み立てていたものが組み上がったみたいです。まだ奴らは入ってきてないので、前の所属の兵科で扱った経験のある人間に次々と渡されていきました。
『パンツァーファウスト』。渡された人たちはそう言ってました。
ロケットみたいなものらしいです。人に向けて撃つものではないんでしょう。特別な扱いをするものらしいですから。
程よく『パンツァーファウスト』が行き渡った頃、正門の向こうで号令が聞こえました。
こちらも全員が動き出します。
「『猟犬』第3中隊。”ネズミ”が侵入を始めるみたいです」
江島さんがマイクに向かってそう言いました。
これから攻撃命令を聞くんでしょう。
「了解しました。……中隊待機! 夕立艤装背後にて臨戦態勢!」
その言葉だけでどういうことを言われたのかが判断出来ます。中隊は待機です。夕立さんが艤装というか船体を陸上に出して、その背後に隠れるみたいです。
それなら私は夕立さんの艤装に登ります。
夕立さんもどうやら赤城さんから指示を受けたみたいです。ある程度まで正門までの道に進み、刹那、身体が光だしてその場に砂塵が舞いました。
砂塵が晴れるまで待つ必要はありません。そこにいるであろう夕立さんのところまで私は向かいました。
砂塵が舞ってから数分後、私は艤装によじ登って船の中央。建物みたいな構造物のドアを開き、階段をできるだけ駆け上がりました。
行き着いた先はどうやら操縦室(?)みたいなところです。艦橋というプレートがあるドアを潜ると、夕立さんが仁王立ちしていました。
「ましろさん」
「来ました。ありがとうございます」
「別に良いわ。……だけど銃撃があると……」
「撃たれても当たらなければいいんですよ。じゃあ、撮影してきます!」
出る前に夕立さんに撮るならと、場所を教えてもらいました。
その場所に腰を低くして覗き込むように正門の状況を確認します。そこからは砂塵の向こうで蠢くものが見えています。ですけど、前には進んでいません。精々、正門から50mというところでしょうか。
その状態のまま、また数分が経つと砂塵が落ち着き、辺りの様子が把握出来るようになりました。
正門からこちら側に入り込んだのは歩兵部隊だけみたいです。後に装甲車や戦車、鼻の長い戦車みたいなのが並んだままの状態です。
『ましろさん。状況は逐一夕立さんや叢雲さんから入っています。これからはましろさんのするべきことを伝えます。よろしいですか?』
「はい」
艦娘同士では謎のコミュニケーション方法で遠いところに居る相手と会話が出来るみたいですが、私と艦娘ではそうはいきません。赤城さんは武下さんから無線機を借りているみたいですね。
『第46機械化歩兵師団がこちらに攻撃する様子を撮影すること。被弾しないこと。そちら側に付いている『猟犬』第3中隊の指揮をお願いします』
「分かりました」
私はそう言って無線機を切り、借りた携帯電話のカメラを奴らに向けます。
撮影を開始し、陰から覗き込むかのように状況を観察しました。
第46機械化歩兵師団は歩兵を先頭に正門を潜りながら、それぞれの部隊が道の脇に並んでいきます。その間をゆっくりと歩兵が入っていきます。
「ある程度侵入してから攻撃するみたいね」
陰から覗くようにしてい見ている私に、夕立さんが背後から話し掛けてきました。近づいていることは感づいていたので、私はそこまで驚きもせずに返答します。
「そうみたいですね。……ここで戦車に入られるのは厄介です」
「十中八九、戦車が入ってきてから攻撃が始まると思うけど……」
夕立さんは声色を変えずに話します。
「夕立さんは戦車の大砲に耐えられるんでしょうか?」
ふと思ったことを夕立さんに訊きます。返って来た回答は私の想像を遥か上を行っていました。
「耐えられるに決まってるじゃない。私を倒すのなら戦車は200両くらい必要よ」
「10両あれば良いのでは?」
「深海棲艦は人間の現行兵器があまり通用しないの。艦娘も同じで人間の兵器はあまり通用しないわ。艦娘を制圧するのなら、艤装を身に纏っていない状態の時に奇襲するか、艤装をこうやって出している時に内部に乗り込んで制圧するか……この2択しか無いわ」
なんだかよく分かりませんが、この世界の現状を垣間見た気がします。深海棲艦のことも、艦娘のことも。
夕立さんは妖精さんたちに指示を出しながら、私に話し掛けてきます。
「基本的にこういう場合は対空兵装を対人に使うから、駆逐艦でも要塞になるのよ。ほら、こんなの当たったら一撃だから」
そう言った夕立さんは、私の視界の端に大きな弾を見せてくれました。多分、これが対空兵装の弾なんでしょう。なんて多きさでしょうか。15cmはあるんじゃないでしょうか。
そんな物が当たったら、人体はどうなるんでしょうかね。私も一応、医療従事者ですからそういうことが気になります。
「肉に当たれば吹き飛び、骨に当たれば吹っ飛ぶ。どのみち吹っ飛ぶのよ。これくらいの大きさになるとね」
夕立さんはそれを仕舞い、話を続けました。
「さぁーて。第46機械化歩兵師団はどういう風に動くのかしら」
「ある程度入ってきたら攻撃。若しくは鎮守府に散り散りになるでしょうね」
「私は前者だと思うわ。後者に関しては目的が見えないから」
「なるほど……。赤城さんも前者だと思っているみたいですよ?」
「それはこの配置で察してるわ」
彼らに目を向けたまま、話を続けます。
動画の撮影時間も10分が過ぎようとしていた頃、動きがありました。
全歩兵の侵入が終わり、攻撃態勢に入ったのです。小銃が全方向に向き、侵入できた装甲車数量がこちらに機関砲を向けています。
この状況は赤城さんも夕立さんと叢雲さんからそれぞれ聞いているはずですから、そろそろ指示が出るはずです。
私の想像ですと、現状待機。攻撃はあちらからやらせると思います。
『赤城です』
「はい」
『現状待機です。攻撃はあちらからやらせます』
私の想像通りでした。そもそもそういう算段でしたからね。
『それを踏まえて色々と話をしておこうと思います』
「どうぞ」
『私設軍事組織『柴壁』は一部を除き、敷地外での火器の使用は許されていません。ですから、側面より挟撃・包囲殲滅・面制圧が出来ません。正門も塞ぐことが出来ませんので、そこでの戦闘は確実です』
そんなことは分かってますよ、と内心思いました。
『ですから、相手がその場に留まって殲滅されるか、鎮守府外に撤退すればこちらの勝利です』
「追い出す、と?」
『その通りです。それとましろさんの任は重要です。紅提督が居ない今、映像はこちらに紅提督が居ない状態でも相応の力を発揮するポテンシャルを与えてくれます。”外交”・交渉・取引……。何にでも使えます』
赤城さんはそう説明しましたが、それが本当に機能するかは別の話のように思えます。
どこに出すか、どのように使うかによってそのポテンシャルは変化しますからね。
『越境に重ね戦闘行動。私たちはその行動を侵略と判断し、これに対応。シナリオなんて勝てば此方の好きなように出来ます。最も、あちらが正規の命令で動いているのなら通用しませんが』
「正規、ですか?」
『はい。大本営からの命令、天皇陛下からの勅命ならば、私たちは賊です。神聖な日本皇国の大地に鎮座する国民を脅かしている集団、そう解釈されても何ら不思議はありませんからね』
赤城さんの言っていることは正しいです。普通に考えればそうですからね。
ですけど、賊っていうのはどうなんでしょうか。その”神聖な日本皇国”を攻めている深海棲艦はどうなるんでしょうか。同じように賊として排除すると?
無理でしょうね。私たちでさえも、物理的な排除は無理でしょう。深海棲艦との戦争に関してはあまり知りませんが、艦娘と日本皇国は協力関係にあると聞きました。それに、現行兵器は深海棲艦にあまり効果がない、と。
つまり、そういうことでしょうね。世間的な排除は可能なのでしょう。情報操作・統制でもするんでしょうか。
『勝てば官軍です。この騒ぎ、私たちが勝ちます』
「無論、そのつもりです。紅くんも返して貰わないといけませんからね」
『はい。では』
ここで赤城さんとの無線は終わりました。
夕立さんは元の場所に戻っていたみたいです。今居る場所から中を覗き込むと、夕立さんは相変わらず指示をあちこちに飛ばしていました。
私は気を引き締め、彼らを動きを注視します。
その刹那、大きな動きがありました。第46機械化歩兵師団に攻撃の合図があったみたいです。それと同時に歩兵たちの小銃による掃射、装甲車数両の攻撃が夕立さんや叢雲さん、正門の正面数百mに鎮座する金剛さんの艤装に銃弾が一方的に飛びます。
とんでもない轟音が耳を劈き、私は痛む耳を我慢しながらも、撮影は辞めませんでした。全体を映しては人を絞って撮影。そして、私たちの動きや叢雲さんの動き、金剛さんの動きを映します。
はたから見れば射撃訓練のように思えますが、これは攻撃です。私はそう確信し、次にあるであろう指示が分かっていながらも、緊張しながら待ちました。
スパンが開いた代わりに投稿毎の文字数が増えております。
なんだか週刊になりつつありますが、スパンは縮めようと思いますので頑張ります。
内容に関して、これまでずっと続いている話。あまり時間が経ってないんですよね。それだけ濃いんですよ。はい。
重要な作戦ですし、余すことなく書きたいですからね。
詳しい説明などを求められることは無くなりましたが、きっと読者の皆さんは色々と見失っているのではないかと思います。
ご意見ご感想お待ちしています。