【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
第3話 横須賀鎮守府
光が消え、私の視界が元に戻ると、私は知らないところに居ました。旅行に行くどころか、遊びになんて滅多に行かない私ですが、ここが私の知らない場所だというのは分かりました。
どんなところに居るのか、先ずは目の前の景色を私は見ました。鉛色をした空、今にも雨が降り出しそうです。その下にはビルが生えています。どうやら私は高いところに居るみたいですね。最後に、足元を見ました。
(これ、なんでしょうか)
テラスなのですが、足元は木の板でもコンクリートでも芝生でもありません。袋が敷き詰められています。
足踏みをしてみると、少し沈むので多分、土嚢でしょうか。何故、こんな高いところに土嚢があるのでしょう。
変に思いつつ、後ろを振り返ってみると、そこには信じられないモノが置かれていました。
どう見ても機関銃です。長い筒が空に向けられています。そして、地面に長い溝があります。大人の男の人が入れる程度です。機関銃の後ろは壁になっていて、さらに向こうには扉もあります。その扉の横には大きなポスターが貼ってあります。
『深海棲艦等に恐れるな! 銃を持て、砲を構えろ!』
そう書かれていて、とても恐ろしいイラストが書かれています。
深海棲艦という文字を見て、私はピンときました。深海棲艦なんて単語、艦これでしか使いません。つまり、私は艦これの世界に来てしまったのです。『パラレルワールド』に来てしまった、と言ってもいいでしょう。
私は光に包まれる前に、見ていたのです。紅くんのパソコンに映る、あのおかしな光景を。赤城さんはこちらに背中を向け、こちらを向いていた白い服の男の人。アレはどう見ても紅くんです。間違いありません。
となると、紅くんは艦これの世界に消えてしまったのだ、と解釈しても問題ないです。
そんな事を私が考えていると、背後からいきなり声を掛けられました。
「そこの」
私に声を掛けてきた人は男の人です。そしてその人は、迷彩服を着ています。小銃を脇に閉め、銃口は私の足元くらいに向いています。多分。
「はいっ?! なんでしょうか?!」
「いやっ。どうして対空陣地に居るのだろうと思いまして……」
(成る程。だから機関銃が上を向いているのですか)
私が現れたのは、どこかの対空陣地だったという事です。それらしいところではあるんですけどね。
私に声を掛けた男の人は一体、何者なのでしょうか。私が言うのも何ですけど。
「高いところから外を見たくなりまして」
そう適当な理由を私は言いましたが、疑っている顔をしています。
「それならわざわざ、軍の対空陣地のあるビルに登らなくても良かったのでは?」
今、確かに男の人は軍といいました。やはり、ここは艦これの世界のようです。
「それは……」
もう、適当な理由は言えません。怪しまれて警察に連れてかれるのが目に見えています。ですので、私は正直に言おうと決心しました。
そう思った矢先、男の人は小銃を肩にかけると、私をジーっと見てきます。いやらしい目ではありません。なんというか、観察すると言うのが合っている見方です。
「……貴女は、雰囲気が変ですね」
私を観察していた男の人はそう、私に言いました。
雰囲気が変、というのはどういう意味なのでしょうか。
「どういう意味、ですか?」
私がそう男の人に聞くと、ヘルメットを脱いで答えてくれました。
「なんとなくですが、1度だけ見たことある人に雰囲気が似ていたんです」
私にそう言った男の人は私をまた観察すると、ある事を訊いてきました。
「先ほど、高いところから外を見たくなったと仰ってましたね。本当は何かを探しに来たのでは?」
この男の人は鋭いです。全くもってその通りです。
この状況ではもう、嘘は吐けませんので、真実を伝えます。私が紅くんを探しに来た事を伝える為、携帯電話を取り出しました。
「その通りです。本当は、この人を探しに来たんです」
そう言って私が見せた写真に、男の人はとてつもなく驚きました。
見せた写真は紅くんです。他はモノしか写ってませんので、私が探しに来たのはこの写真に写っているただ1人の事になります。
「この、人はっ……」
男の人は額から汗を流し、下唇を噛むと、そう呟きました。
この様子からして、紅くんを知っている様ですね。
「もしかして、知っているんですか?」
私はその男の人に聞きます。知っているのなら、情報が欲しいです。何でもいい、些細なことでもです。
「はい。……ですが、何処に居らっしゃるのかまでは分かりません」
男の人は敬語を使いました。ということは、紅くんは偉い人になっているということでしょうか。艦これをしていて、艦これの世界に居るのなら、提督をしているのだろうとは思いますけど。
「会った事は?」
「あります」
これで無いと答えられたら振り出しに戻るところでした。この男の人から、紅くんと何処で会ったか聞き出せれば、また一歩近づきます。
「何処で?」
「横須賀鎮守府です」
どうやら紅くんが提督をしている可能性が上がった様ですね。
「何をしている人か、ご存じですか?」
「えぇ。横須賀鎮守府艦隊司令部司令官、提督ですよ」
(当たりですね)
紅くんが提督をしている事は確実となりました。
「そうですか。では、私はこれで」
そう言って私は携帯電話でGPSを起動し、位置情報を取得しようとした時、その男の人に止められました。
「待って下さい。ここからどうやって向かうつもりですか?」
「どうやっても何も、電車やバスで……」
「平時なら構いませんが、今は戦時です。おいそれと女性を放り出すような真似は出来ません」
少し、この世界の状況が分かってきました。深海棲艦との戦いは、戦争とされているみたいです。この男の人の言い方だと、戦時になると国内の治安が悪化するみたいですね。最も、今がその戦時なんですけど。
「少々お待ちください。連絡をとりますので」
徐ろに電話みたいなもので話しだしたその男の人は、誰かに連絡をとると、私に言いました。
「横須賀鎮守府に向かう、軍のコンボイが近くを通るそうです。そちらに話をつけましたので、乗っていただきます」
「そうですか……ん? 軍のコンボイですか? つまり、輸送隊とかではなく?」
異世界に来ているということは分かっていますが、どうしてコンボイという単語が出てくるのでしょう。どこか、別の国ならわかりますが、国内です。
コンボイというのは、護衛付輸送集団のことです。
「はい。前は無かったのですが、海軍が現在、戦闘力を失っています。その為に、深海棲艦が戦線を押し上げて来ていまして、陸から50kmのところまで攻められているんです。そんな状況なものですから、輸送をしているトラックなんかを攻撃するんです。近海に来ている深海棲艦の空母から発艦した艦載機がです。ですのでトラックには必ず、軍の護衛が付くんですよ。地対空迎撃に特化した迎撃車両が。ですから皆、コンボイと呼んでいるんです」
「そうなんですか」
「今回に関しては運が良かったです。普通は、民間人をコンボイに同乗させる事はないですからね。それに貴女はどうやら提督のお知り合いの様子。提督に助けられた身、恩返しも出来ておりませんので、最初はこれくらいで。では、参りましょうか」
そう言ったその男の人は歩き出したので、その後ろを私は付いていきます。
テラス、対空陣地と通り抜け、私の前を歩く男の人と同じ格好をしている人を沢山見ました。軍の対空陣地だからでしょうね。その同じ格好をしている人たちはどうやら、かなり士気が低いみたいですね。皆さん口々に『提督が……』、『提督さえ戻ってきて下されば……』と言ってます。私の弟は、この世界でそれだけ色々な人から信頼されているのでしょう。ですが、皆さんの言っていた意味を別視点から見てみると、私の弟は居ないというような意味合いになります。どういう意味なんでしょうか。
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その男の人の知り合いらしき人と合流しました。ここには既にトラックの集団、コンボイが到着しています。長い列を作り、途中に何台も戦闘車両らしきものも止まっています。本当にコンボイみたいですね。
私はテラスで会った男の人から言わた通り、その知り合いの人の案内でコンボイの最後尾、食料を運んでいるトラックの荷台に入りました。空きスペースに身体をねじ込み、座ります。
間もなく、トラックは動き出しました。私の座っているところから、外の景色は見えます。ですが、空気は最悪です。通りかかる人、全員とはいきませんが、この世の終わりみたいな表情をしています。
さっきの男の人の話を思い返してみると、この国の様子が手に取るように分かります。
劣勢、迫り来る深海棲艦、国内治安の悪化……。
そんな事を考えていると、どうやら目的地に着いたみたいです。
「乗り心地、悪かったですよね? 申し訳ありません」
私はトラックから降ります。
「ありがとうございました」
お礼を言って辺りを見渡すと、そこには片面に大きな塀が何処までも続いていました。塀を眺める私に、降ろしてくれた人は話してくれました。横須賀鎮守府のことを。
「横須賀鎮守府。正式には日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部。たった半年で深海棲艦から次々と海域を奪還した、日本皇国の矛です」
私はそれを黙って聞きます。
「この国で、横須賀鎮守府を知らない人は居ません。そして、私たちと深海棲艦との戦争は、横須賀鎮守府無しではどうにもなりませんでした。近海から始まり、北はアルフォンシーノ、西はカスガダマ、南は沖ノ島まで、あらゆる方面の海域を奪還。欧州との貿易の再開、アメリカとのコンタクトまでも行いました」
「それは……凄いことなんですか?」
「はい。それに私たち、下っ端には噂しか来ませんけども、不確かな情報は更にあります。新鋭大型戦略爆撃機の大編隊による海上への絨毯爆撃戦術、最新鋭艦載機の開発と運用、現行戦闘機の改良、遠方から大破寸前の状態で帰還、残留兵の回収……。挙げ出したらキリがありません」
話を聞いて、想像するだけで恐ろしいモノがあります。どれだけの事を紅くんはしていたんでしょうか。
「では、物資の運び入れがありますのでこれにて」
「はい。ありがとうございました」
すぐにコンボイは走り去り、塀の途中にある門に入っていきました。
それを見送った私は、塀にそって歩きます。どこかに正門があるはずです。
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歩くこと数十分、私はひときわ大きな門にたどり着きました。その前には、テラスで話し掛けられた男の人と同じ格好をした人が4人、立っています。
その人たちの中で、1番近くに居た人に私は声を掛けました。
「あのー、すみません」
「はい、どうされましたか?」
柔らかな物腰で答えてくれるその人は、どうやら女の人みたいです。
「提督はいらっしゃいますか?」
疑り深い女の人は、上司に話してくるといって離れていきました。数分後、戻ってくると、要件を訊いてきます。
「中へお入り下さい」
どうやら疑いはしたようですが、中に入れてくれるみたいです。
セキリュティーが甘い気もしますね。
門のすぐ横にあった小さい小屋で待つ事、7分くらい。いかにも士官、というような格好をした人が現れました。見た目は完璧、髪の短いラ○ボーです。
「私は警備部の武下と申します。提督に御用があるとの事、ご案内させていただきます」
その武下と名乗ったラ○ボー風の男の人に着いて鎮守府の中を歩きます。
中に入った最初の感想は、広い。否、広すぎます。道幅は12mはあります。そしてグラウンドらしきもの、大型ショッピングセンターらしきものまであり、大きな建物が2つも立っています。そしてレンガ造りの建物、マンション、平屋が繋がっているモノがありました。それ以外にも、点々と建物があります。それだけ建物があるにも関わらず、鎮守府はおかしいです。これだけ広くて、建物も多いのに誰も歩いてないんです。
武下さんの後ろを歩く事、15分。大きな建物の前に着きました。横には、『警備棟』と書かれている看板があります。この建物の事を指してるのでしょう。
警備棟に入ると、迷彩服を来た人たち立ってます。小銃を携えていますが、こちらには向けずに、肩にかけてるだけです。
私と武下さんは、その間を通り抜けて会議室のような部屋に入りました。
「お座り下さい」
「ありがとうございます」
私は椅子に腰を掛けます。私が座ったのを確認すると、武下さんも腰を掛けました。
「さて、私は貴女に聞かなければならない事があります」
一気に辺りの空気が凄みました。ピリピリとした空気を肌に感じます。
「貴女は何者ですか?」
そう武下さんは私に訊いてきました。まぁ、その疑問は勿論のことでしょうね。
ですが、私は質問を質問で返します。
「それを答える前に、聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
雰囲気、服装を見る限り偉い人だというのは自明です。なら、私がどういう人間かというのを知らせなければなりません。
ですが、普通に私が異世界人だと言っても面白くありません。ですので、言い換えて伝えます。
「日本皇国とは、何でしょうか?」
効果てきめんです。表情は変わりませんが、空気が変わりました。少し時間を置くと、武下さんはそれに答えてくれました。
「深海棲艦が出現してから、国名を変えたんですよ。日本国から日本皇国へ」
ざっくりとした説明でしょうが、趣旨は伝わったと思います。
私が反応を返そうとした時、武下さんはさっきとは違う質問を私にしてきました。
「貴女、異世界から来ましたね?」
どうやら伝わったみたいです。
「よく分かりましたね。その通りですよ」
武下さんはぼそっと何かを言いましたが、私には少ししか聞こえませんでした。『まさか』だけでは、何を言ったのかは分かりません。
「なんとなく、ですよ。それで、貴女はどうしてここに?」
「ここに、私と同じ境遇の方、提督がいらっしゃるだとか。よろしければ、私を置いていただきたいのです」
「成る程……そうですか」
私は嘘を言いました。ここに居られる口実を手に入れる為です。
「分かりました。話は付けて置きます」
武下さんはあっさりと了解を出しました。多分、上の人に伝えるということでしょう。上となると、多分ですが、提督に伝わるのでしょうね。提督は紅くんですので、問題無い筈です。
「それと、貴女のお名前は?」
「碧 葵(へき あおい)です」
私は武下さんに偽名を伝えました。ここで私が本当に紅くんの姉だと証明出来るモノはありません。本名を言って、写真を見せてもそれだけでは信じては貰えないでしょうから。
ここには身元を確認出来るものもありませんし、第一、本人が異世界人だと言っているのなら調べるのも野暮です。これですんなり通る筈です。
「分かりました。では、ここでお待ち下さい。案内を呼びます」
そう言って立ち上がった武下さんは私に敬礼をします。それに私は答礼をしました。私は文民なものですから、額に手をあてる敬礼はしません。右の手のひらを胸の前にかざすだけです。
「おぉ、博識ですね。普通の人は、それを知りませんよ?」
「当然です。それに、私は文民です」
「それでは、失礼します」
私は右手を降ろして、椅子に腰を掛けます。どうやら後で、人が来るみたいですからね。
気になる事があります。ここに来るまでに、話した人たち。全員が迷彩服を着てました。一般人に会ってません。トラックからは見てますけどね。
その人たちを軍人として見るべきか、隊員として見るべきかは明白でしょうね。コンボイの人は"日本皇国海軍”と仰ってましたし。
更にもうひとつ、気になる事があります。横須賀鎮守府が先陣切って戦っているというのに、何故、前線が海岸線から50kmまでしかないんでしょうか。色々な矛盾が生じているのです。その矛盾を証明するにも、情報が圧倒的に少ないです。
そして、この敗戦ムードは何なのでしょうか?
私が現れた場所、テラスにあった対空陣地。深海棲艦による本土攻撃。それの対策でコンボイで動く、陸上輸送路。実際に私は見たことありませんが、第二次世界大戦、太平洋戦争末期の日本国内の状況を彷彿とさせます。
紅くんの来た、艦これの世界で一体、何があったのでしょうか。
「失礼します」
私が考え事をしていると、扉がノックされました。そして、私が返事をする前に誰かが入ってきました。女の子です。それも、見覚えのある女の子でした。
「大淀型軽巡洋艦 大淀と申します。案内役として、貴女を案内させていただきます」
「大淀ですか……最期の連合艦隊旗艦ですね。私は、碧 葵です」
「よくご存知ですね。女性でそういう事を知っている方は珍しいですね。碧さんは、そういうのが好きな方なのですか?」
「たまたまですよ」
そう、たまたまなんです。紅くんが携帯電話で、何かを調べているのはよく見かけましたからね。その時に聞いたとき、たまたま紅くんが調べていたのは大淀さんの事だったというだけです。
「では、付いてきて下さい」
そう言った大淀さんは扉を開きました。私は立ち上がり、大淀さんの後を付いていきます。
後ろから見る大淀さんは、格好はともかく、どう見ても人間にしか見えませんね。
艦娘はここまで人間に近いものなんですね。
警備棟を出た私たちは、大淀さんの案内で、鎮守府の中を歩きまわりました。グラウンド、大型ショッピングモール、警備棟、事務棟、本部棟、艦娘寮、食堂を見て回りました。他にも、埠頭、工廠、倉庫、要塞砲、滑走路跡なども見て回りました。
回るのに3時間以上、歩きっぱなしでしたが、鎮守府は平坦でしたので、そこまで疲れる事はありませんでした。それと、大淀さん曰く、大型ショッピングモールみたいなモノは"酒保"と呼ばれているそうです。
「さて、お部屋にご案内します。見ての通り、ここは軍事施設です。ですので、宿泊施設はありませんので、艦娘寮へご案内します」
「はい」
私が女性だったからでしょう。艦娘寮に通されました。多分、男性でしたら、警備棟の空き部屋になっていたんでしょうね。
艦娘寮に入れば、誰かとすれ違うと思ってましたが、そんなにすれ違いませんでした。すれ違ったのは、霧島さんくらいです。書類を持ってました。
「ここをお使い下さい。では、お夕飯の時に呼びに来ますね」
そう言って、大淀さんは私を1人部屋に案内すると、どこかへ行ってしまいました。部屋の鍵も置いていきましたが、タグがついてません。管理外の部屋なのでしょうか?
私は部屋の中を見渡してみます。かなり清潔な部屋です。ですけど、使われていた部屋には見えませんね。備え付けのモノは、水道と鏡、ベッド、机と椅子、クローゼット、棚だけです。収納には何も入ってません。
何もすることがありませんので、私はベッドに倒れ込みました。そして、そのまま目を瞑ってしまったのです。
今日は少し多く投稿します。良い節目が見つからなかったものですからねぇ。
前回前々回と比べてまぁ、読みやすいものだとは思います。
感想の方で紅が艦これの世界に行ったという仮説を立てたましろの事に関して話があがりました。確かにいきなり艦これの世界に行ったのではないかって考えるのはどうかと思います(汗)
ですけど、第1話から第2話で時間軸は約半年経ってます。詳しくは感想欄にてそのやりとりの様子を気になった方は御覧ください。
ご意見ご感想お待ちしてます。
2016/05/14 リメイク版に更新しました