【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第41話  覚悟

 

「それは、”戦場(いくさば)”です」

 

 赤城さんは戦場(いくさば)と強調して言いました。どうして、戦場(せんじょう)と言わなかったのでしょうか。理由がどこかにあるはずです。

 

「私は艦娘。紅提督にお使えする戦しか知らぬ娘です」

 

 赤城さんの放つ圧倒的なオーラに飲み込まれます。

 

「主が亡くなったのなら、することはただ一つッ!!」

 

 赤城さんの声が力み、自然と私も腰を据えてしまいます。

 

「それは、――――――いつまでもお使えし続けること。紅提督が何処へ行ってしまわれても、私はその隣、いいえ。後ろでもいい。前を歩き、盾になってでも私はどこまでも付いていきます」

 

「私が犯してしまったこと。紅提督は『気にするな』と仰いましたが。ですが、私には無理です。『自分で捨てた』と仰いましたが、違います。『監視のために残った』と仰いましたが、違います」

 

「全てはあの日、あの時、あの場所。まだまだ未熟だった私が心躍らせ、高揚し、これからの生活に期待を持っていたその時からです」

 

「……紅提督は自殺することを許してはいただけないでしょう。自己解体申請書なんてもの、安楽死の何者でもありません。ですから、手土産に中部海域の深海棲艦を少しでも壊し、潰し、薙ぎ払うのです」

 

「紅提督は戦果を求めず、生存を、生還を、私たちの笑顔を最優先していただきました。私の最期の出撃は、そんな紅提督の意思に反することです」

 

「――――――艦娘の皆さん。私と共に征くと云う方は、静かに前に出て下さい」

 

 涙を流し、袖で拭う者。憤怒を見せ、顔を赤くする者。様々な表情をした艦娘たちが、全員一歩前に歩み出ました。

 

「……皆さん、本当に……。いいえ……。”出撃”はましろさんに合わせます」

 

「……はい」

 

 私の覚悟はとっくに決まっています。

これ以上、ここに居ても仕方ありません。これ以上、捨てるものはありません。

 ですが、やり残したことは沢山あります。

仕事をすること。今は銃を持っていますが、看護師です。そのために頑張ってきたんです。

ですから、看護師としてまだ働いていたかった……。紅くんが失踪してからというもの、職場の同僚や上司にはものすごく迷惑を掛けてきました。ですが、やりたかったこと。”誰かの命を救うこと”をしたかったです。

もっと遊ぶこと。まだまだ若いですから、友達と旅行へ行ったり、家族で遊びに行ったりしたかったです。仕事で疲れた身体を癒やしに、温泉巡りとかもしたかったです。

親孝行すること。ここまで育ててくれた両親に、これまでの感謝をしたかったです。家はいつも温かく、居心地が良く、心の休まるところでした。

そんな環境を作ってくれた両親に、さんざん迷惑を掛けた両親に、いつも心配してくれた両親に、”ありがとう”って言いたかったです。

 私の中から溢れ出てくる”やり残したこと”は、涙として私の中から出ていきます。

涙が頬を伝う感触は、辛かったときや嬉しかったときのそれとは違います。

この涙は一体、なんの涙なんでしょうか。

 

「ましろさん!」

 

 そんな私を呼ぶ声が聞こえました。

その先を見てみると、そこには西川さんがいました。

 

「ましろさんっ!」

 

 沖江さんがいました。

 

「ましろさん!」

 

 南風さんがいました。

 

「ましろさん……貴女だけに行かせたら、私たちは紅提督にどう顔向けすれば良いんですか?」

 

 武下さんが言いました。

 それはつまり、武下さんたち『柴壁』も来るということでしょう。

 

「分かりました。……ですが、良いんですか?」

 

 私は訊きます。誰にでも聞こえる、大きな声で。

そうすると、返事は点々と聞こえてきました。

 

「保険金は大量に掛かっています。もし、深海棲艦に完全に海を奪われたとしても、陸深くまで逃げて不自由のない生活が出来るはずです」

 

「私には家族が居ません。父は深海棲艦に、母は過労で……。私ももう、失うものはありません!」

 

「紅提督に付いていくと決めたんだ! 彼を守り抜くと決めたんだ!」

 

 ポツポツと聞こえてくるそれは、普段聞いていれば同情なんてしたでしょうが、私はそんな気持ちを微塵も持っていないです。

 

「私も、家族はいません。ですが、横須賀鎮守府が私にとっての家で、ここに居る皆が家族なんです!!」

 

「俺も!」

 

「私も!」

 

 聞いていれば、大多数は家族を失っている人たちばかりでした。

だいたいは父を深海棲艦に殺され、母は過労やら身売りやら、自殺やら、事故死やら……ときには深海棲艦にと聞こえてきます。

 

「……武下さん。準備を整えるには、どれくらいの時間がかかりますか?」

 

「精々、5日間というところでしょうか。鹵獲した装備の慣れ、部隊の再編成、作戦立案……作戦はあってないようなものですか」

 

「えぇ」

 

 私は再び、正面を向きます。『柴壁』全員がいる方向を。

 

「私たちの目標は、紅くんの軍刀を奪還すること!」

 

 全員の顔が引き締まります。

 

「きっと、強固なところに保管されているはずです。それならば、守りはそれそうおうになることが予想されます」

 

 私の頭の中に、ぱっと作戦が浮き出てきました。

 

「……ですので、作戦を思いつきました。後日、通達します」

 

 私がそう言うと、赤城さんはこの集会を閉めようとしました。

ですが、それをある人物が止めたのです。

 

「待って下さい! 私たちは、酒保の私たちは!!」

 

 様々な格好をした酒保の従業員たちは、私に向かって覚悟を決めた表情を見せつけます。

 

「……どうしたいですか?」

 

「もちろん、戦います!」

 

「貴女たちは『柴壁』とは違う、と聞いてきますが?」

 

「私たちは自分の意思でここに居ます。ですから、私たちも気持ちは一緒です!」

 

 酒保の責任者の人が叫びました。

 

「ましろさん。部隊の再編成に彼女たちも入れます」

 

「そうですね……。分かりました!」

 

 これで、私たちの今後の方針が決まりました。

私と『柴壁』、酒保は総力を以って、紅くんの軍刀奪還に出ます。赤城さんら艦娘たちは、私たちのタイミングと合わせて”出撃”します。

これで決まりなんです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 作戦名『甲』。

日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部の陸上総戦力を以って、軍重要施設を攻撃する作戦。

部隊は2分し、片方を陽動、もう片方が本命として、大本営に強襲を掛ける。

陽動部隊は少数にて行い、松代の日本皇国軍第二司令部を攻撃。その後、本隊が大本営を強襲。紅の軍刀奪還を目指す。

これに伴い、戦力の再編成を行う。

 

本隊:『闘犬』第1~4中隊。総勢約1100名。『ケージ』第1中隊(鹵獲戦車隊及び自走砲1個中隊)。

陽動:『闘犬』第2~6中隊。総勢約400名。『ケージ』第2中隊(鹵獲戦車及び自走砲1個中隊)

注:再編成に伴い、『血猟犬』、『猟犬』、『番犬』を解体。同じく、酒保も解体。

 

 





 佳境に入りましたね。
 こんなことを言う、ということは分かってますよね?
1、2週間したら、また活動報告を書くと思います。

 ご意見ご感想お待ちしています。ちなみに、今回から苦情は一切受け付けません。そして、作品に関する否定的な言動は全て無視します。今まではそれにも返答はしていましたがねw

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