【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第42話  早朝

 

 明朝。私たちは、再びグラウンドに集まっていました。

 日もまだ昇らぬ時間だと言うのにも関わらず、この場に集まっていた人々、艦娘たちは目をギラギラとさせていました。

 興奮で眠れなかった、そんな事を口にする者は誰もいません。

この激動の数日間の最終日。ここに、私たちはピリオドを打つのです。

 

「……おはようございます」

 

 赤城さんは一言発します。ですが、それに返事はありません。

 

「昨日は良く眠れましたか?」

 

 これにも返事はありません。

 並んでいる艦娘、人々はそれぞれ完全に戦闘態勢に入っていました。

艦娘は艤装は身に纏っていませんが、これまでに私が見てきたそれとは全く違う雰囲気を醸し出しています。

人々はそれぞれの所属毎に並び、統一された服装をしています。BDUを着込み小銃を持ち、弾倉をからだから引き下げ、手榴弾を引っ掛けています。

バックパックには医療キットや破砕用爆弾、パソコン……それぞれの特技を活かすものを詰め込んでいます。

 そして、遥か彼方。眼下に整然と並ぶ列の向こう側がキラリと光ります。

それを合図に赤城さんは話し始めました。

 

「―――これから皆さんは死にに征く訳ではありません」

 

「私たちが間違えながら、迷惑を掛けながら守り抜いた。私たちの”提督”を、殺めた者への復讐に征く訳ではありません」

 

「いつだって彼は仰います。――――――人を殺すな、と」

 

「ですから、”あの時”も私たちは動かなかったのです」

 

「ですから、”あの時”の私たちは踏みとどまったのです」

 

 グラウンドの壇上に、集まっている全員の視線が赤城さんに集中します。

 

「私たちが艦娘で無くなる時――――――それは、己の心が殺意で溢れた時です」

 

「いつだって彼は仰ってました。――――――艦娘も人だ、と」

 

「ですから、”あの時”、私たちは彼のために動いたのです」

 

「ですから、”あの時”、私たちは彼のために覚悟を決めたのです」

 

 鳥のさえずりも聞こえなくなり、遠くで自動車の走る音だけが、赤城さんの声以外にも聞こえてきました。

 

「――――――”彼”はこの世界の人間ではありません」

 

 赤城さんの言う”彼”は、紅くんのことを指しています。ですが、あえてその名前を言わないんでしょう。

 

「私たちが『海軍本部』の意向に従い、行動し、条件を満たすこと。それで私たちは”彼”をこの世界に呼び出すことが出来ました」

 

「それが間違いだったか……。答えを出すことなど出来ません」

 

「家族を失い、友人を失い、これまでに積み上げてきたものを失い……何もかもを失った。――――――私たちが”彼”に返したモノです」

 

「なら、私たちは何を受け取ったのか? ――――――提督という指揮官、温かみ、優しさ、楽しさ、笑顔……」

 

「先ほどは答えを出すことが出来ないと言いましたが、違います。もう答えは出ています」

 

「――――――私たちは何一つとして返していない」

 

「”彼”に心配を掛け、心労を積ませ、傷を負わせ、最期には自らの身体までも奪ってしまった」

 

「――――――なら何故、今になってこのようなことを始めたのか?」

 

 赤城さんが私の方を見ました。

 

「何も知らない”彼”の姉がここを訪れたからです。『行方不明になった家族を探しに来た』そう、初めて会った時に仰ってました」

 

「この世界で何が起きているのか、どんな状態になっているのかも知らない状態で」

 

「ただ純粋に探しに来たのにも関わらず、今ではこの場で私たちと共に立っています」

 

「小銃を持ち、弾倉を下げ、手榴弾を掛け、BDUに身を包んだ姿で」

 

「”彼”はきっとこんなことを望んでなどいないです」

 

「”彼”はきっと私たちがこれからすることを望んでなどいないです」

 

 赤城さんの声が少し張ります。

 

「この世界に”彼”の名前は残るでしょう。”彼”が成し遂げた実績は残るでしょう。ですが、”彼”そのものは? “彼”が何を思っていたかは? “彼”が何に苦しんでいたかは?」

 

「この世界で”彼”の名前は残っても、このことは残りません」

 

「この世界で”彼”は道具としての名前しか残りません」

 

「”彼”は何が好きで、どんな性格で、いつも何をしていたか……きっとどうでも良いんですよね?」

 

「”彼”は何に悩み、何に苦しんでいたか……きっとどうでも良いんですよね?」

 

「”彼”に何を行い、どう傷ついたか……きっとどうでも良いんですよね?」

 

 更に、赤城さんの声が強まります。

 

「誰も”彼”を見ていない! 上辺だけを見て、『提督』としての振る舞いを見て、実績を見て、ただただ深海棲艦との戦争の指揮をしている人間だとしか思っていなくて!」

 

「艦娘を指揮する青二才だと云い、小娘を戦争に駆り立てる犯罪者だと罵り、戦争から目を逸し、視界から外し、何も見てこなかった……」

 

「それを、今度は戦闘行動が止まれば怖がり、すがりつき、名前を呼び、おだて、顔色を伺い、ヘラヘラと嘲笑って調子のいいことをベラベラベラベラと……」

 

 刹那、赤城さんの目が血走りました。そして、それと同時に殺気が辺りを包みます。

 

「――――――あなた方の前には誰が立っていますか?」

 

「――――――あなた方の生活は誰によって守られていますか?」

 

「――――――あなた方がどうして何ら変わりのない日常を送れているのだと思いますか?」

 

「――――――あなた方の命、誰が守っているのだと思いますか?」

 

「政府? 警察? 軍隊?」

 

「答えはNoです」

 

「正解は――――――天色 紅。私たちの提督。横須賀鎮守府艦隊司令部の指揮官。異世界の人間」

 

「――――――未来を奪われた青年」

 

「あなた方の座っているその場所、いつも楽しんでいる嗜好品。道路に敷いてあるアスファルト。食べている食べ物。給料……全ては、”彼”によって取り戻された、いつもの風景。いつもの町並み。いつもの生活」

 

 陽が少し顔を出し、辺りが一気に明るくなってきました。

それに伴い、私のいる場所。整列している正面から見えるところで、チカチカと反射するものがありました。

 

「”彼”を失った時、時間は巻き戻りました。風景は灰色に変わり、いつもの町並みは荒れ、怯える生活。唯一、食料の供給は安定していますけどね」

 

「――――――今更気付いても遅いです」

 

「――――――今更気付いてもどうしようもないです」

 

「――――――今更気付いても何も出来ません」

 

 赤城さんが力みます。力が入り、声を張り上げました。

 

「私たちは、これより天色 紅提督の不当な扱い及び目を背けられてきた真実を訴えます」

 

「そして覚悟しておいて下さい。あなた方が何を敵に回したのかを……」

 

「先日、ここ横須賀鎮守府は陸軍第46機械化歩兵師団に攻撃を受けました。攻撃内容は鎮守府の鎮圧」

 

「ここを、横須賀鎮守府艦隊司令部を、この世界で唯一”彼”の帰る場所を、汚れた硝煙と吐息、体液で汚した者たち。そして、それに組した者たちを私たちは許しません」

 

 私の立っているところから見えているものとは、カメラです。

テレビ局の中継カメラがここにいるんです。

 

「そして私たちは宣言します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部傘下の全戦闘部隊は、これより日本皇国に裁きを下します

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――その血によって天色 紅提督の無念を雪ぎます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは”彼”、天色 紅のためではありません。ここにいる”彼”の姉、天色 ましろのためです」

 

 呼吸を整えた赤城さんは、話を再開しました。

 

「そして私たちは、”彼”の背中を追いかけます。常に孤独で、心に傷を負い続けた”彼”に……先に旅立った”彼”に逢いに行きます」

 

 ひと拍置いて再び話します。

 

「私たちは横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘そして……」

 

「私は横須賀鎮守府艦隊司令部の天色 ましろ……日本皇国の罪であり罰を下す者です」

 

 私の台詞はそれだけでした。

 どうしてテレビ局が入っていたかというと、真実を全国ネットで伝えるためです。放送局はテレビ横須賀と国営放送のみ。生中継と、朝にも放送されるそうです。

 私は息を整えて、赤城さんの方を見ました。

 

「赤城さん」

 

「……頼みましたよ」

 

 先ほどまで放っていた殺気は失せ、いつもの温かい優しい赤城さんに戻っていました。

 

「先にいってますね」

 

「はい」

 

 私はそう言って、赤城さんに背を向けました。

 もう、赤城さんの顔を見ることはないでしょう。

もう、艦娘たちの顔を見ることはないでしょう。

 私は下げている小銃のグリップを握り込み、ある人物の前に立ちました。

 

「……いきますよ。私たちも」

 

「そうですね」

 

 武下さんです。

この人が銃を持っている姿を見たのは初めてです。ちなみに、赤城さんも初めてだと言っていました。

どうやら、鎮守府が出来て以来、ずっと指揮官で外に出ることはなかったようです。

 私たちの前に並ぶのは屈強な戦闘マシーンと、戦車、自走砲、装甲車。

全てにエンジンが掛かっており、すぐに出れるようになっていました。

 私は装甲車に乗り込みます。

 

「さて……」

 

 私は腰に下がっている白い"モノ"を撫でると、声を出しました。

 

「"出撃"」

 

 




 少し、書き方が変わっている可能性がありますが、ご了承下さい。
時間を掛けてましたからね。そりゃ、こうなってしまいます。
そして、―を多用してしまいました(汗)申し訳ありません。
ちなみに、本日は連続投稿です。最終話は本日午後7時半投稿となります。

 ご意見ご感想お待ちしています。ちなみに、今回から苦情は一切受け付けません。そして、作品に関する否定的な言動は全て無視します。今まではそれにも返答はしていましたがねw
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