【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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After Story 日本皇国最期の盾の話①

 私の執務室には誰も来ない。

 仕事は相変わらず、全軍の再編成。とは言え、先ほど終わらされた。

全国の海軍海兵が松代に終結しつつあるのだ。とは言え、総数は1000名にも満たないが。

 今日であの”事件”から約4ヶ月が経った。

陸軍は再編した部隊で兵站を築きながら地方へ散っていった。空軍は一度統合し、そこから4つに分けた。それぞれ、それなりに近い飛行場を拠点とした航空隊を結成。四方の警戒をしながら、撤退してきた飛行場から物資を輸送している。

 私は手持ち無沙汰になってしまった。海兵が到着するまで、処理する必要のある書類が無いのだ。

 そんな時、私の執務室の扉を叩く音がした。

誰かが来たみたいだ。

 

「開いている」

 

 私はそう言って、手元にあった残存海兵の資料に目を落とした。

どうせ、陸軍か空軍の将校が来たに決っている。こちらで保管している装備を譲って欲しいとかなんとか。

 私はずっとその頼みを突っぱねていた。もし、ここで譲ってしまえば、到着する海兵たちの装備が無くなってしまうからだ。

 だが、私の予想は大いに外れた。

入ってきたのは松代の入り口で受け付けをしている軍の非戦闘員だ。

 

「失礼します。新瑞へお会いしたいという方々がいらっしゃってます」

 

「む? 誰だ?」

 

「それが……身の上を全く教えていただけなくて」

 

 私は不審に思った。

私を訪ねてくるような人間は、もうこの世には誰一人として居ないのだ。しかも、身の上を言わないとなると、誰が来たか怪しいものだ。

だが一方で、変な違和感を持っていた。

どうして、内線で話せばいいものを、こうやって執務室まで直接出向いたのか。

何か聞かれたら不味いことでもあったのか。もしくは、見られたら困るものでも何かあったというのだろうか。

 私の中に思案が駆け巡る。

 

「良かろう。海軍の将校を尋ねてくるような相手だ。たかが知れている」

 

 そう思い、私は持っていた書類を机に置いた。

 

「して、私はどこに行けば良いのだ? 会議室か?」

 

「いえ……それが」

 

 そう言いかけた受付嬢の背後から、ゾロゾロと8人、部屋に入ってきたのだ。

身なりからして怪しい。だが、武器を持っているような様子はない。

 この者は一体何なのだろうか。

 

「ありがとう。もう戻っていい」

 

「失礼します」

 

 私は受付嬢を受け付けへ戻し、入ってきた8人に問うた。

 

「怪しい奴らめ。……だが、私に用があるということは、そうとうな物好きらしいな」

 

 私の右手は軍刀の柄に触れた。

そんな私の行動が、この8人に見えていない訳がない。

 

「……なんか言ったらどうだ?」

 

 様子がおかしい。

この8人。ロングコートやパーカーなどで肌を隠している。もちろん、顔もだ。

そして、一言も口を開かないのだ。

一体、何をしに来たのだろうか。

 

「まぁ、ここに入れたということは、それなりの人間だとは思うが……。悪く思うな。私に恨みのある人間は検討が有りすぎて困る」

 

 そう。何も言わない。姿を見せないとなると、そういう考えに至るのは自然だ。

それに、私は大将。私を将とさせたのは、自らの力だけではない。一将功成りて万骨枯るとも言う。私の視界に入らなかった、報われない功労者だと言う可能性も否定できないからだ。

 だが、私の予想は大きく外れることとなる。

 

「将なれば、部下に殺される覚悟もすべし。よく言う言葉だけど、たいがいの将はその言葉を理解していないわ」

 

8人のうちの1人が、被っていたフードを脱ぎ捨てた。

 野太い男の声かと思えば、透き通った高い声。

太陽光に反射して、長いブロンドの髪が光る。そして、碧眼が開く。

フードの代わりに、特徴的な帽子を頭に乗せて、碧眼が私の目を捉えた。

 この顔に私は見覚えがあった。

 

「横須賀鎮守府艦隊司令部 『番犬艦隊』所属 ビスマルク級戦艦 1番艦 ビスマルク以下、8名。”命”により、貴官の指揮下に入るわ」

 

 そう。あの横須賀鎮守府の艦娘。

 中部海域に向かい、全滅したと思われていた艦娘だったのだ。

ビスマルクに続き、それぞれがロングコートやパーカーを脱いでいく。

 

「同『番犬艦隊』所属 アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦 3番艦 プリンツ・オイゲン」

 

「レーベレヒト・マース」

 

「マックス・シュルツ」

 

「グラーフ・ツェッペリン」

 

「U-511……」

 

「アイオワ級戦艦 1番艦 アイオワ」

 

「『番犬艦隊』ではありませんが、水上機母艦 秋津洲」

 

 全員の顔が見えた。

確かに、彼女たちはあの横須賀鎮守府の艦娘だ。

 

「私たちは紅提督の意思を継ぐ者」

 

 ビスマルクが私の目を見て、そう云った。

力んで云った訳ではないだろう。だが、その目力はとてつもないものだ。

強い確固たる意思。覚悟。そういうものを感じさせた。

 

「そして、禁忌を犯す者よ」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 あまりに来訪者が以外すぎてショックを受けたが、私はすぐに我に帰った。

 彼女たちの身なりは酷かった。

撤退戦の時に、戦闘地域に居た可能性が高い。そして、横須賀から松代までかなりの距離がある。鎮守府から出られない艦娘が、いきなり県をいくつも乗り越える旅をするのには無理がある。

 身体や髪を隠していたパーカーを脱げば、私がよく見かけた服装をしていたが、煤だらけでボロボロだった。

 

「取り敢えず、ボロボロの身なりをどうにかしないといけないな」

 

「あぁ、これね」

 

 私がそう言うと、ビスマルクはそう言って自分の服を指差した。

 

「制服みたいなものだから、着なくても良かったのよ。日本皇国軍の制服はあるかしら?」

 

 つまりはこういうことだ。服を用意して欲しい、と。

私はすぐに書類の山から、調達した補給物資のリストを見た。そこに官給品の軍服が入っていた記憶があったからだ。

 すぐに書類を引き抜き、確認を取る。

やはり入っていた。士官用の制服だ。ちなみに、海兵のものだから、迷彩柄のBDUだ。

 

「戦闘服しかないが、構わないか?」

 

「えぇ。あるだけね」

 

 そう応えたので、私はあるものを作った。

海兵のリストに新たに生存が確認された兵士の名簿だ。

これをビスマルクたちの隠れ蓑にする。

 バレた時はその時で考えればいい。そう思った。

我ながら大胆で無計画な行動だが、仕方ない。今から抜け出して買い出しに向かっても、不審に思われること間違い無しだ。

 

「もし無いって言われたら、このまま過ごすつもりだったけどね」

 

「それは目立つから勘弁して欲しい」

 

 私は書き終えた書類を右側の箱に入れ、ここで待機する様に言う。

そして執務室を出て行った。

 ここに海軍所属の兵士は居ない。私が何か行動するならば、自分で動く必要があるのだ。

 BDUを海軍所有の倉庫から持ち出し、執務室に持ち込んだ。怪しまれないよう、段ボールに入れてたので、すれ違った他の軍の将官にはバレてないはずだ。

 

「隣に宿直用の部屋があるが、使っていない。そこで着替えると良い」

 

「分かったわ」

 

 ビスマルクたちに着替えを渡し、私は椅子に腰を掛けた。

 ビスマルクたちは何をしにここに着たのだろうか。中部海域に散ったとばかり思っていたが、何かの作為があるのか。

 

「着替えたわ」

 

 考えていると早いもので、すぐにビスマルクたちは部屋から出てきた。どうやら持ってきたBDUのサイズは合っていたみたいだ。

 私は一息吐き、あることを訊く。

 

「ビスマルク」

 

「何かしら?」

 

「中部海域に向かったのではなかったのか?」

 

 遠回しに訊いても仕方のないことだ。なので、私はストレートに訊く。

変にはぐらかされないためだ。

彼女たちがどう意図してここにこのタイミングで現れたのか、それが知りたいのだ。

 

「さっき言った言葉の通りよ」

 

「天色の意思を継ぐことと、禁忌を犯すこと……か?」

 

「えぇ」

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの、言葉通りの意味よ」

 

 全く意味が分からない。

天色の意思を継ぐ、といえば何となく想像が付く。だが、『禁忌を犯す』とはどういうことだ。これっぽっちも分からない。

 

「前者は日本皇国を守ること」

 

 言葉通りだというのなら、それ以外ない。私は分かっていた。

 

「後者は日本皇国に技術を提供すること」

 

 さっぱり意味が分からない。

技術提供等しても、何が変わるかなんて分からない。それに、何を提供するというのだろうか。戦術、部隊運用法、艦娘……。戦術も部隊運用法も必要ない。今更、そんなモノを提供されても仕方のないことだ。しかも、そちらから提供されるというよりも、こちらが提供することの方が有り得そうだ。艦娘なんてあり得ない。もし、艦娘の何かを教えることだったとしたら、それは何になる。

国力もほとんど残っていないこの国に。

 

「技術提供が何故禁忌に?」

 

 そもそもの謎はそこだ。技術提供自体、別に禁忌を犯すことでもないと私は考える。教えたところで、呪われるとかそういうものでもないだろうに。

 

「禁忌という言い方が違ったかもしれないわ。正しく言えば、災いが起こる可能性が非常に高い、ということよ。つまり、ハイリスク・ハイリターン」

 

 かなり言葉を省略したみたいだ。

ビスマルクは何かの軍事技術を提供し、それを使い、日本皇国が攻勢に移行する可能性がある。そして、それが成功するか失敗するか。その差が天と地との差があるということを意味しているのだと思う。

 

「……リスクは?」

 

 そういう言葉を使ったということは、メリットとデメリットがビスマルク側で明確に分かっている、ということになる。

それならば、聞かなければならない。

 

「日本皇国滅亡」

 

「っ?!」

 

 とんでもないリスクだ。

 

「り、リターンは?」

 

「戦線の押し上げ。私たちが生き残れば、もしかしたら、今まで通りとはいかないけど、戦線を戻せる可能性があるわ」

 

 リターンもかなり大きい。

この絶望的な状況から、元通りとまでは行かないが、力を戻せるということらしい。

 

「さぁ、どうする?」

 

 ビスマルクは私の目から視線を外さずに言った。

 だが、どうして彼女たちはそこまでしてくれるのだろうか。

今更だが、疑問に思った。

 彼女たちの守るべき対象は天色 紅、ただ一人だけのはずだ。だが、天色は居ない。なので、彼女たちに守るものは残っていないはずだ。

どうしてだ。どうして、彼女たちはそんなことをしてくれるのだ。

 

「……考えさせてくれ」

 

「その回答が返ってくると思っていたわ」

 

 想像通りだった、という訳らしい。彼女もまた、頭が切れるのだろうか。

 

「どうせ上申でしょう? 同行するわ」

 

 そして、行動まで見透かされていたのだ。

とんでもない。天色はこんな艦娘を何人も……。だが、天色にはここまで頭を回す必要がなかったんだろう。なにせ、提督だったからだ。

 

「上申する前に色々と説明させてくれない?」

 

 準備を始めようとしていた時、ビスマルクがそう言って私の動きを止めた。

何か説明する必要のあることでもあるのだろうか。

 

「良いだろう。そこで頼めるか?」

 

 私はソファーを指差した。

松代に来て、一度も座らなかったソファー。ここを訪れるのは報告に来る下士官だけだからだ。座って長話をする必要もない。

 

「分かったわ」

 

 そう言ってビスマルクも了承してくれたことだし、少し長話をしよう。

上申はそれからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「まずは私たちがどうしてここに来たのか」

 

 それが最初だろう。

 

「私たちはさっきも言ったけど、横須賀鎮守府艦隊司令部所属『番犬艦隊』。つまり、紅提督の非常時の近衛兵。否。近衛艦と言った方が正しいのかしら」

 

 少しジョークを交えてくるが、そんな余裕が彼女たちにあるのだろうか。

 

「そうなった理由から説明しなきゃらないけど、良いかしら?」

 

「構わない。その辺りの情報は全く分かっていないんだ」

 

「そうでしょうね。貴方たちが鎮守府から持ち出した資料の殆どは、機密文書ではないもの。機密文書は中部海域に向かった赤城たちが、出撃前に焼却処分していったわ」

 

 知らなかった。あそこから持ち帰って文書はどれも、私たちが知らなかったことばかりだったからだ。とは言え、たしかに考えてみれば機密とはいえないものばかりだった。

 

「原型は紅提督暗殺未遂事件。それの対策として、赤城さんが比叡、夕立、時雨、朝潮で構成した、紅提督直掩の護衛艦隊。通称『番犬艦隊』よ」

 

「任務内容は常時艤装を身に纏い、身辺警護を行う。トイレとお風呂以外ね。編成理由に関しては、自明よ。暗殺者から紅提督を守るための最終防衛線の役割が与えられていたわ。『番犬』と名称が付いた理由は、犬のように嗅覚を研ぎ澄まし、いち早く危険を察知。これを迎撃出来るだけの力を持ち合わせ、冷静な対処を行える艦隊、という意味が込められているそうよ」

 

「そこから暗殺未遂事件は終息。その後、構成艦娘を入れ替え。比叡、夕立、時雨は練度が高く、戦闘参加回数が多いため、出撃できない私たちがその変わりを務めることになったわ」

 

 出撃が出来ない、とはどういう意味だろうか。訊いてみる価値はありそうだ。

 横須賀鎮守府から持ち出した文書には、ビスマルクたちが出撃していたという記録は残っていない。他の艦娘にはムラがあるものの、出撃はしていたのだ。

 

「どうして出撃が出来なかったんだ?」

 

「沖に出れなかったのよ」

 

「は?」

 

「正確に言えば、沖に出ようとしたら機関が停止するからよ。後進だけは出来たから、鎮守府に戻ることができたけど」

 

 意味が分からないが、ここで問いただしても無意味だ。

 

「最初は移籍組って呼ばれていた私たちだったけど、主力艦が遠方に出撃する際には、私たちが傍に付いていたわ」

 

「主力艦というのは?」

 

「長門や金剛、赤城、加賀なんかのこと。深海棲艦に対する攻勢のほとんどが彼女たちが主軸となった攻撃艦隊だったわ」

 

 それは文書に書かれていた。それに出撃回数や行き先を見ても、それは明白だった。

 

「私たちが『番犬艦隊』である所以と、そのものの意味ね」

 

 そう言って一息吐いたビスマルクはどうやら説明を別にパスするようだ。

 

「それで、何故、私たちがここに現れたのか」

 

 グラーフ・ツェッペリンが話すようだ。

 

「紅提督が亡くなり、先の『甲』作戦にて『柴壁』と横須賀鎮守府艦隊司令部所属の艦娘はその言葉通り、全滅した」

 

 あの”事件”は当事者からはそう言われていたのか。

 

「私たちも本来ならば中部海域に向けて出撃する予定ではあったが、お決まりの赤城のミスで外されてしまった」

 

 お決まり、とはどういうことだろう。

私には分からない、横須賀鎮守府に居たからこそ分かることでもあるのだろうか。

 

「沖に出られない私たちは、自己解体をすることも叶わず、途方に暮れた。だが、出撃前に赤城があることを任せてくれたのだ」

 

「私たちが任されたのは、横須賀鎮守府が完全に無くなった後の日本皇国の戦力となること」

 

「深海棲艦に対する攻撃手段の乏しい日本皇国軍に加勢し、日本皇国の延命を図れ、とな」

 

 グラーフ・ツェッペリンはそう言って嗤った。

 

「だがそれだけでは、攻撃した側が今度は味方をすると虫が良すぎると、手土産を用意したのだ」

 

 グラーフ・ツェッペリンの身体が光だし、艤装に身を包む。そして、飛行甲板のような腰にアームで固定されたところから、何かを取り出した。

 

「これは、設計図か?」

 

「あぁ。F-15J”改二”? とF-2改?」

 

「そちらが置き土産にいつの日か置いてったジェット戦闘機の改修機だ」

 

 確かに図面はそうだ。だが、ところどころ変なところがある。

私は海軍の人間だから、空軍の兵器に詳しい訳ではないが、何か変だということは分かった。

 それに、前に天色から直接その話は訊いてた。存在は認知していたのだ。

 

「元となった元型機よりも全体的に大幅に性能は向上している。F-2改なんてものは、もう原型と留めていない。性能は零式艦上戦闘機と同等だ」

 

 化物だ。置き土産に置いてったオンボロ戦闘機をそんなモノに作り変えていたなんて。

だが、それがいい結果に繋がったのかもしれない。

 

「だがこれは新規で製造する必要が……」

 

「ない。アップデートパッケージを用意して換装するだけだ。最も、F-2改に関してはほとんどの部品を変える必要があるから、それこそオーバーホール並に大変らしいが」

 

 化物を通り越して、もう訳が分からない。

だが、日本皇国が抗うことを諦めていないのなら、それを受け取るはずだ。

 

「それが前者の説明、か?」

 

「あぁ。ここからは後者の説明だ」

 

 私は話を戻す。機体性能を訊いたところで、現場の航空兵がこれを扱えなければ意味がないのと、後者を見つめなければならないのだ。

 

「日本皇国滅亡というのは、もし禁忌に触れた場合の結末だ。とはいえ、日本皇国だけで済めばいいが」

 

 つまり、禁忌に触れたら世界が終わるということらしい。既に、終わっているようなものだから良いとは思うのだがな。

 

「紅提督はこの現象を『イレギュラー』と呼んでいた」

 

 ここで察した。この話は私にも天色はしていた。

 

「こちらで運用した兵装が向こう側にも現れる、とかいうやつか?」

 

「あぁ。だが、何故護衛艦は現れない? ジェット戦闘機は現れない?」

 

 そこまで考えたことはなかった。確かに、鎮守府以外の軍組織では、深海棲艦の迎撃任務で出撃していた部隊があった。あそこには艦娘も居ない。こちらの世界に元々存在していた者たちでしか構成されていない。

 

「それは、”妖精”と呼ばれる存在の息がかかっていないからだ」

 

「”妖精”だと? 急にメルヘンチックになったな」

 

「誰もはそう思うだろう。だからこれを見て欲しい」

 

 そう言って、グラーフ・ツェッペリンはおもむろに、艤装に触り、何かを手の平に乗せて、私の前に差し出した。

 

「これが”妖精”だ。彼女たちは貴官らは知らない、日本皇国の生命維持をしている者だ」

 

 手の平に乗る、身長が15cmあるかないかという小人。2等身で可愛らしい身なりだが、来ている服をよく見れば、それは軍服だった。

 

「彼女たちと私たち艦娘は一心同体。引き離すことの出来ない存在だ」

 

 そう言ったグラーフ・ツェッペリンは、自分の肩に”妖精”を乗せると、話を続けた。

 

「”妖精”と私たちは呼んでいるが、貴官に簡単に説明すれば、末端の兵士のようなもの。そして、航空兵であり、整備兵であり、研究員であり、非戦闘員である」

 

 なるほど。説明が分かりやすい。”妖精”という者は、私たちと同じようなものなのか。

 だが”妖精”が何か、ということが分かったのと同時に、分からないことが出てきた。

なら、艦娘は何なのか。

 既に無い端島鎮守府からのこれまでの報告書に記されていたが、艦娘は艤装の母体。海に巨艦を出している時は、艦長のような存在。艤装を纏っている時は、船を手足の様に動かす。そこに、間接的なものはない。視神経や運動神経、身体機能と艤装が連動しているようだ。

 

「大方理解した。して、どうして”妖精”の息が掛かった兵装でなければ、深海棲艦に有効な攻撃が出来ないのだ?」

 

 そう私が訊くと、グラーフ・ツェッペリンはすぐに応えた。

 

「それが分からないままなんだ。このことを調べていたのは紅提督だったんだ。その紅提督は、そちらの”身から出た錆”に殺されたからな」

 

 つまり、調査は永遠に中断されてしまったということだ。

 

「っ……。惜しかった……な」

 

 私はつい、心の声を漏らしたしまう。その刹那、執務室の空気がガラリと変わった。

冷え切った空気。張り詰める室内。明らかに、目つきの変わった艦娘たち。

 

「惜しかった、だと?」

 

 小銃ほどの大きさの艤装、ミニチュアサイズになった艦砲だろう。グラーフ・ツェッペリンの右手に握られていた2基4門が、私の顔を捉えたのだ。

 身体が動かなくなる。こちらに向けられた殺気は尋常じゃない。これを向けられて10分は耐えれないだろう。

 

「それは”人”としてか?」

 

 鋭い目が私を逃げさせまいと睨む。もとより逃げるつもりはないが、脊髄反射で動き出してしまうかもしれない。それが逃げる行動ではなかったとしても、グラーフ・ツェッペリンから向けられるそれが発光することは分かっていた。

 

「あぁ、もちろんだ」

 

 そう言うと、グラーフ・ツェッペリンは艤装を下ろす。

どうやら私は正解を選べたようだ。

 何事もなかったかのように、話が再開された。

 

「話を戻そう。……”妖精”によって製造された兵器はすべからく、深海棲艦に対して有効な一撃を加えることができる。それは、私たち艦娘が証明している。私たちが司る艤装の全ては、”妖精”によって製造されたものだ。弾薬も一度は”妖精”に引き渡された後に、艤装に補充される」

 

 要するに、”妖精”によって何か手を加えられ、その行為が深海棲艦と渡り合えるだけの攻撃力を与えてくれる、ということみたいだ。

 

「ここまでが前置きだ」

 

 そう言ったグラーフ・ツェッペリンは、自身の帽子の位置を直すと、話を再開した。

 

「紅提督から訊いているとは思うが、もう一度伝えておく。”妖精”が製造や弾薬補給の段階で関わっていた兵装のすべてが、深海棲艦にも反映されていく。艦娘の艤装にVLSシステムを搭載すれば、深海棲艦の水上艦、潜水艦全てにVLSシステムが搭載される。新型特殊砲弾を使用すれば、深海棲艦の艦砲もそれを撃ってくる。これに関しては前例があるな」

 

 グラーフ・ツェッペリンは指を折りながらあれやこれやと例を挙げていった。

 

「超長距離大型爆撃機、高高度局地戦闘機、戦術……。私たちが試行錯誤し、試したことは全て、深海棲艦にも反映されていくんだ。但し、戦術に関しては不得意みたいだったがな」

 

 腰に手を据えたグラーフ・ツェッペリンは腰のベルトに指を掛けた。

 

「つまり、先ほど見せた設計図のアップデートパッケージに換装したジェット戦闘機が実戦配備され、深海棲艦と対峙しようものなら、あちらもそれを投入してくる確率が高い」

 

「深海棲艦の手に落ちた海岸沿いの飛行場から、こちらに向けて空を埋め尽くす程のジェット戦闘機が飛来する可能性がある、ということだ」

 

 これがハイリスク・ハイリターンの内容か。

 確かに、とんでもない賭けだ。

だが、行動選択の余地はあった。

 

「依然、天色が言っていたことを思い出したのだが」

 

 私がそう言うと、全員が黙りこむ。元々、ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンしか口を開いてなかったが。

 

「我々が奪還作戦。もとい、深海棲艦の支配地域に侵攻しなければ、その現状を維持することが出来る、と言っていたのだが」

 

 そう言うと、グラーフ・ツェッペリンは何かに気付いたようだ。

 

「……ふむ。だがそうすると、国力が低下した日本皇国に未来はないと思うが?」

 

 グラーフ・ツェッペリンの言う通りだ。

 現在の日本皇国に国力は無い。食料プラントも日本皇国各地に建造されたが、半分以上が海岸沿いにある。そして、内陸にあるプラントだけでは、人口約1億人を満足に食べされることが出来るか怪しい。だからといって、プラントを増設したとしても、確保できている資材をかなり使ってしまうことになる。

 選択し難い。そんな状況に置かれているのだ。

 

「私たちは政治が分からない。だからなんとも言えないが、攻められて何かを失ったなら、取り返そうとする動きが必ず何処かで起きているだろう。それは軍内部かもしれないし、世論かもしれない。今は無くとも、後々数年経ってから、深海棲艦に奪われた領域の奪還に動き出すのでは無いか? 例えば、再編成が完了した軍。装備を満足に供給出来た軍」

 

 私の目を見る。

 さっき、一瞬視線がズレたが、その時に机に乗っていた軍の再編成に関する資料や何かが目に入ったのだろう。

 確かに、考えられないことではない。そして、それが起きる可能性が高い。

海軍が力を失った今、陸空軍合同の反攻作戦が企てられている可能性は大いにある。深海棲艦との戦を海軍以上に知らない連中だ。きっと、安易な戦術を考えているに違いない。

そう私は思ったのだが、またそれは、私もそれと同類だ。私も深海棲艦との戦をどうすれば良いのかなんて分かりやしない。対人戦闘を想定した戦闘で行われるのは確かだ。私もそれしか知らないがために、対人戦闘を主軸に置いた総力戦を提案するだろう。

 

「この国の方針を決めるのは天皇陛下だ。私の印象としては、今上天皇が反攻作戦を命令するようなお人柄には思えない。何か、確固たる確信がなければ動かないのではないか? とも考える」

 

 グラーフ・ツェッペリンは2つの意見を出してきた。

反攻作戦が決行される。現状維持を選択する、の2つ。

私としても、後者であるとしか考えられ無い。だが、世論と、国民と共に歩む日本皇国が、絶対的に後者を選ぶとは限らない。

前者を指示する国民が少なからず居ることは絶対だ。

 なら、日本皇国の未来はどうなる。やはり、見えない先しかない。そして、徐々に衰退していく。

 

「決断するのは天皇陛下だ。選択肢が増えることは、お喜びになることだろう」

 

 つまり、丸投げするということだ。

確かに、私は現場指揮官の1人でしかない。国の行く末を左右するようなこの戦に、自分の決断1つで先に進むことは愚行だ。

 

「先ずは総督に上申。そこからきっと、話は進んでいくだろう。その時になれば、貴官も、私たちも呼ばれることとなる」

 

 グラーフ・ツェッペリンの声だけが木霊する執務室に、緊張とはまた違った空気に変わった。

 

「私たち日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部所属 『番犬艦隊』は、天色 紅提督の遺した最期の剣」

 

「――――――そして、貴官は日本皇国最期の盾」

 

 『番犬艦隊』が私の顔を見る。

感情の渦巻くその目に移る私は、どのように見えているのだろうか。

 

 




 これがアフターストーリーです。
 結構本気の物語を作ってますが、あまり長くなる予定はありません。
視点は前話と同じく、新瑞です。横須賀鎮守府が無くなり、松代へ異動した後の話です。
 アフターストーリーのエンディングは1つ。
これまで読んできて下さった読者様なら当然、想像の出来る結末ですはい。
まぁ、この言葉だけでも想像がついてしまうでしょうね。

 次の本編エンディングまでの噛ませですので、それなりに楽しんで下さい。
もしかしたら、アフターストーリーの方を凝ってしまう可能性が……。

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