【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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After Story 日本皇国最期の盾の話②

 

 私はある松代の第二司令部にある、総督の執務室の前に来ていた。

 要件はただ1つ。

現在の海軍以外の行動を聞き出すこと。海軍の運営は私が行っているので、調べる必要がない。だから、動きの全く掴めない陸空軍の情報を手に入れるのだ。

それであわよくば、話を振ろうと思う。

反攻作戦を煮詰めているのなら、『番犬艦隊』の存在を明かすのだ。

 私が再編成をしているとはいえ、大まかな部分だけだ。

三軍の再編成を行う仕事をしたのは私だが、そこから細かいところは、それぞれの軍で行っている。

これからの動きもそちらで決めているから、総督から聞き出そうという算段だ。

 

「新瑞です」

 

 私は扉にノックし、返事を貰ってから入室する。

 総督もどうやら激務のようで、部屋に入ると目につくのは、机に積み上げられた書類の数々。上に上げた書類も混じっていることだろう。

 

「丁度休憩しようとしていたところだ。ソファーに座って構わないぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 私は帽子を脱ぎ、ソファーに腰を掛ける。

 ここのソファーも、私の執務室とは変わらないソファーを使っているみたいだ。最高級将校だからと、何か違うものを使っていると思っていたが、どうやら違っていたみたいだ。

その辺の将校と変わらない様子。

 

「要件は何だね?」

 

「えぇ。……少々、お聞きしたいことがありまして、お尋ねしに来た次第です」

 

 私は普段通り振る舞い、話をし出します。

 

「先日、大まかな再編成を終えましたが、それ以降の動きが気になりまして……」

 

「そんなことか。……あまり海軍の方と変わらぬよ。全国に居る人員を集めに奔走、装備を集めに奔走。まぁ、君のところよりも遥かに手数は多いようだがな」

 

「こちらは4桁も居ませんもので……」

 

 どうやら、書類上では同じことをしているようだ。

 だが、私が聞きたいところはそこではない。

将校たちの思案する軍事行動の有無だ。これのみ。

 

「陸軍の方は空軍よりも装備が小さいが故に、もうそろそろ回収も終わる様子だ。新瑞の提出した再編成を基に、指揮系統の整備やなんかも終わっているようだし、あの”事件”前とほぼ同じに戻ったようだ」

 

 なるほど。なら、陸軍は今すぐにでも行動できる、ということでしょう。

 だが、空軍はどうだろうか。

総督の言い方だと、空軍は装備の回収に時間が掛かっているみたいだ。

それもそうだろう。戦闘機や輸送機、装備品、整備機材なんかを集めようものなら、大体は大型の機械になる。戦闘機や輸送機が動けないのなら、その場で解体して運ぶだろう。

私たちの動きが鈍いのは、ただ人手不足というだけだったのだ。

 

「今後の方針とかは、どうされているんでしょうか?」

 

 私は少し踏み込んで訊いた。

 流石に総督相手に、これは分が悪いかと思ったが、答えた。

 

「陛下からは、国内の治安維持に力を入れる様に」

 

 そうきたか、と思う。

だが、まだ続きがあるようだ。

 

「とはいえ、陸軍部から上申書が来ていてな」

 

 そう言って総督は私にある書類を差し出してきた。

それを受け取り、私は目を通す。

 内容はとんでもないものだった。

 

「放棄した沿岸部へ侵攻、ですか」

 

 そう。私としても、好都合の上申書が来ていたのだ。

 

「あぁ。そこからは面倒事だ。主に海軍部、新瑞にとってだが」

 

 総督はまた書類を差し出してきた。

それもまた、陸軍部の上申書だった。

内容は、かさばね型汎用護衛艦の建造を早急に進めて欲しいというものと、海軍部への資源配当を割譲するということだった。

つまり、かさばね型汎用護衛艦を複数建造し、再び海に繰り出す算段を立てるということらしい。

 背景には思い当たる節はいくつかある。

その中の1つとして、リランカ島へ送り込んだ人員の撤退だ。

リランカには連隊規模の兵力が駐留中だ。それを失うのは惜しい。そして、そこにはいくつか揚陸艦が停泊しているのだ。

巨大な船舶1つでも、今の日本皇国には貴重な財産だ。

 

「……現状の海軍陸上戦力を全員水兵に転換したところで、精々運用できるのは4隻が限界でしょうね」

 

「分かっているじゃないか」

 

 そういうことだ。

 陸軍は港までの道を切り開き、資源を此方に割譲する代わりに、領域の主権を奪回することを海軍に引き継ごうとしているのだ。

 普通に考えれば、当然のことだ。

だが、今までのことを鑑みると、やはり陸軍に押し付けられているような気がしてならない。前科があるが故のことだ。

 

「ですが総督」

 

「なんだね」

 

 そんなことを踏まえて、私は意見する。

陸軍に押し付けられていることを前提に、話を進める。

 

「かさばね型汎用護衛艦を建造し、艦隊を編成したとしましょう。ここまでは順調に進めたとします。ここから私たちを阻むものは沢山ありますよ」

 

「分かっている。深海棲艦への効果。艦隊の練度。連携……」

 

 総督はあれやこれやとデメリットを挙げていく。それは全て、あり得ることばかりで考え抜かれていた。きっと、総督も考えていたのだろう。

 

「……なにより資源、人員なにもかもが不足している現状、横須賀鎮守府艦隊司令部のようにはいかないだろう」

 

 そう。私たちでは、あの横須賀鎮守府艦隊司令部のようには上手くいかない。

 郵便で戦死通知が引っ切り無しに配達される国内。資源が枯渇し、配給制になってもずっと不足したままの内地。出征していく家族。

見るに堪えない。そして、いつの日かの情景が連想されてしまうだろう。

 きっと、国民は絶望するだろう。

私はそうとしか思えなかった。

 

「……新瑞は何か思うところは無いかね?」

 

 そう総督は訊いてくる。

決断が下せれない、そんな状況だということが暗に伝わってきた。

陛下の命令と陸軍部からの上申書。きっとこの様子だと、空軍部からも何か来ている可能性がある。

そんな中、総督は私に意見を求めてきた。

 日本皇国軍の頭脳は、基本的に戦争を経験していない。

深海棲艦との戦争を経験している人間は、須らく戦死したか、生きていたとしても亡くなっている。

そんな軍の中で、最も戦争を間近に見てきた人間は、他の誰でもない私だ。

そんな私に総督が意見を求めるのは最もだろう。

 そんなこのタイミングを、私はあの交渉のスタートにしようと決めた。

そう。彼女たち『番犬艦隊』を使うことだ。

 

「……あります」

 

 私はそう言って、少し席を外す。もちろん、総督の許可を取った。

廊下に出て、自分の執務室に入ると、私は待機していたビスマルクたちに声を掛けて連れ出した。

 そしてそのまま、簡潔に説明しながら戻り、再び総督の執務室に入った。

 

「すみません」

 

「構わない。……して、その者は?」

 

 総督は私が連れてきたBDU姿の女性を指差した。

 私はビスマルクたちに、被っていたBDUのキャップを取るように指示し、紹介する。

 

「この者らは、日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部所属 『番犬艦隊』です」

 

「よこ、すか、だとっ?!」

 

「えぇ。横須賀鎮守府艦隊司令部所属の艦娘は中部海域に全員が向かった訳ではなかったみたいです。彼女たちは残り、”ある命”を全うするためにここにいます」

 

 表情を崩さない、まるで人形みたいなビスマルクたちの方を見て、私は言った。

 

「『放棄した領域の奪還し、日本皇国最期の剣となる』と」

 

 総督は目を見開いている。目の前で起きた現象を理解しきれていないのだろうか。

そう思ったが、あまり時間を掛けずに、私に質問してきた。

 

「新瑞、どういうことだ。何故、横須賀の艦娘が我々にっ……」

 

「『天色 紅の意思』だそうです」

 

 それだけで説明は出来た。

 

「諸事情で沖に出れなかった彼女たちは横須賀に残り、あの”事件”後、松代まで私のところに」

 

「……あの”事件”の前後の状況は分かった」

 

 総督は腕を組み、少し考える。

 ここまでのことが起きてしまうと、どうしても状況を整理して、今後の行動を決断するのには時間が掛かってしまうみたいだ。

 仕方のないことだが、少し時間を置く。

その間、私は何も考えない。ビスマルクやグラーフ・ツェッペリンと話したことを、そのまま総督に伝えるだけだ。

 

「私の提案はこうです。『番犬艦隊』を使い、最低限の領域を奪回。その後、首都機能を回復させ、現状維持に務める」

 

 私はそう言った。

まだ、ここで『番犬艦隊』からもたらされることは伝えない。

 

「資源は乏しいですが、底が尽きるまでに代替案を作れば良いんです。本来の日本皇国の領域を取り戻し、国力は低下しますが、それまで通りの国を取り戻すんです」

 

 私は淡々と言います。

 

「内陸部に避難し、何時深海棲艦に滅亡させられるかを怯えるか、元の領域まで取り戻して生活するか、ですよ」

 

 私は似たような言葉を使って、同じことを繰り返した。

 総督は考えた様子を止めないことから、まだ決め兼ねているのだろう。

この状況を打破する案が提示されたが、あまりに頭にないことが出てきたからだろう。

 

「……分かった。これは上申しよう」

 

 そう言った総督は、陸軍部の書類を置くのかと思ったが、違っていた。

 私の目の前で、その書類を破り捨てたのだ。

 

「陸軍部の案は不採用。私は海軍部の君の案を採用する。元の領域まで取り戻し、平行線のままで停戦する。そうだな?」

 

 おおよそその通りだが、何となく違う気がしなくもない。

だが、大体はそういうことなので、私は頷いた。

 

「えぇ」

 

 そう言って、私は立ち上がる。もう話は終わりだ。

あとで上申書を書き、提出に来ればいい。

 立ち上がって帰ろうとする私を、総督は止める様子はない。きっと、私が持ってくるだろうと考えているのだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 あの後、私は上申書を書き、総督に提出。

そのまま、陛下の元へ送られたそうだ。

現在は返事待ち。ことがことだけに、決定するのに時間がかかるのだろう。分かっていたことだ。

 

「空軍部も細かい再編成は完了したみたいだな」

 

 私は見ていた書類を要約し、口にした。

今ここには『番犬艦隊』が居座っている。行くところもないからだ、と言っていた。

ちなみに、住んでいるところは宿直室。全員がそこで寝泊まりしているらしい。

私は宿直室で寝ないで、そのまま家族の元へ帰っているので問題など起きない。

少々不安はあるが。

 食事はレーション。選択は宿直室に洗濯乾燥機があるので良いらしい。

 一番の問題は艤装だ。

今、どこに置いてあるのかを聞き出したところ、ここの駐車場に止めてあるトラックに積んであるらしい。少々の資材を積んだ状態で。

運転はやっていたら慣れた、とビスマルクが言っていた。

 

「そろそろ総督から書類が届くでしょうね」

 

 私の話を訊いてたビスマルクがそんなことをつぶやく。

 

「あぁ。作戦の草案が、な」

 

「……ねぇ、新瑞」

 

 書類に目を落としていた私に、ビスマルクが再び声を掛けてくる。

 私の呼び方だが、どうも司令官とかそういう呼び方は出来ないらしい。当たり前のことだが。

それで落ち着いたのが、この呼び方。だいたいの艦娘も同じように呼んでいる。私の名字を呼び捨てるか、さん付けする。

 私としても、軍の施設にいてそんな呼ばれ方をするとは思ってなかったから新鮮ではある。

 

「もし、放棄した沿岸部の奪還作戦が展開された場合、作戦の主導権はどこにあるのかしら?」

 

 話の流れ的に、訊いてくることは当然だろう。

 私としても気になるところではある。

もし、海軍に主導権があれば、ビスマルクらの『番犬艦隊』を主眼に置いた作戦を考える。だが、主導権が他にあったらどうだろうか。

空軍が主導権を取るとは思えない。ならば陸軍で考えるとしよう。

 陸軍は己の戦力を鑑みて、縦深戦術を取ると思われる。

それぞれの内地から、沿岸部の要衝に向けて一斉に進軍。街の奪取を図ると思われる。

その場合、陸軍の総戦力を投入することになるだろうから、総力戦という形になってしまうだろう。

こうなってしまえば不味いの一言だ。

 総力戦になった場合、勝っても負けても戦費が嵩む。そして、負けた場合は特に考えたくない。

負けた場合は、深海棲艦の攻撃により、各地の部隊が撃破されることを指す。

つまり、総力戦で挑むこの作戦で部隊が撃破されることとは、そのまま日本皇国の防衛力を削られることに等しい。

現在の海軍と同じような状況に陥るということだ。

 

「可能性が高いのは陸軍だ。空軍はあり得ない。海軍は言わずとも」

 

「……そうなるわよね」

 

「あぁ」

 

 そう。空軍と同じ割合で、海軍が主導権を取ることはない。

そもそも、この作戦は陸戦だ。海軍が主導権を握ることが出来るのは、精々強襲揚陸作戦くらいだ。

 

「だから効果的な『番犬艦隊』の運用は出来ないだろう。総督と陛下が陸軍に『番犬艦隊』の存在を簡単に教えるとは思えないし……」

 

「だから、もし陸軍主導の奪還作戦が起きた場合、余計な犠牲や戦禍があるでしょうね」

 

 ビスマルクは直接は言わないが、暗に『海軍が主導権を取らないと、奪還作戦も失敗に終わる可能性が十分にある』ということを私に伝えていた。

私はそれを読み取って思考する。

 現状、陸軍に主導権を握らせることほど危険なものはない。

握らせたら最期、日本皇国はお終いだ。国内の秩序さえも保てなくなるだろう。

最悪だ。一番可能性が高い結果の結末が。

 

「一応、上申書には海軍主導の奪還作戦を示唆するような書き方をしたが、どう捉えられているかは分からない。最低でも総督は、この現状を私たちの次によく把握している。だが、これを決めるのは陛下だ。陛下が把握してなければ、私たちは無駄死にする」

 

「そんなこと、私たちはごめんよ。陸軍が主導権を取ったら、私たちは協力関係を一方的に破棄させてもらうわ」

 

 そう云うだろうとは思っていた。だから、覚悟はしていたが、直接言われてしまうと、それなりの衝撃がある。

 

「冗談でも、そういうのはよしてくれ」

 

「冗談な訳ないでしょ。私たちは海軍よ。現状を把握出来ていない陸軍の立てた作戦に赴き、犬死するのだけは勘弁よ」

 

「それは私も同意見だが……」

 

 私はそう言ってペンを置く。今やっている執務は、正直処理を後回しにしても良いものなのだ。

再編成以降、此方にはろくなモノが回ってこない。重要案件でもなければ、海軍の軍備に関することでもない。内容は読まずにサインするだけでいいものだってあるくらいだ。

 

「海軍主導の作戦に意見具申することは?」

 

「無理だと思う。きっと作戦の本隊は陸軍から捻出された陸上部隊になるだろう。そうすると、一番損害を被ることになるであろう陸軍が主導権を握るのは自明」

 

 どの視点から見ても、その考えに辿り着いてしまう。

 海軍が主導権を握る確率等、ほとんど無いに等しいのだ。

 

「総督や陛下に任せるしかない。聡明な総督だ。きっと、此方を選んでくれるに違いない」

 

 そう言って私は椅子に深く腰をかけた。

 





 話が順調に進んでいます。
もう少しで半分ですので、まだまだお付き合い下さい。

 新瑞視点というのは、書いていてとても新鮮です。
どういう風に、艦娘を見ているか。紅を見ているかが考えられますからね。
書いていてもとても楽しいですよ。

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