【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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After Story 日本皇国最期の盾の話③

 

 やはり、総督も陛下も聡明な方だ。

 上申書を提出してから2週間後。私の元に、ある書類が届いていた。

それは、現在の前線を押し上げる作戦の作戦草案を考えて提出するように、といった趣旨の命令書。出処は総督ではなく、陛下直々。

 こんな命令書は、軍人何十年とやってきた私でも初めてのことだった。

 考えてみれば、作戦自体が大事。国の行く末を見据えるための作戦だから、それも当然といえば当然なのかもしれない。そう考えると、こういうもので送られてくることも当然なんだろう。

 私の脇でそれを見ていたプリンツ・オイゲンは、艦娘たちにそれを知らせた。

 

「海軍が作戦の主導権を握りましたよ」

 

 そう報告しても、歓声が上がる訳ではない。

そういう結果になるのが、当然だったかのようなリアクションをしたのだ。

むしろ、そうなって貰わないと困る、とホッとしていたのだろう。

 

「新瑞」

 

 ビスマルクが話しかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「作戦の方は考えてあるの?」

 

「あまり……。戦力の把握から始める必要があるから、総督に掛け合って準備する必要のあるものが」

 

 そう。作戦を草案ではあるが、立案する上で不可欠なものは、自らの戦力がどれほどなのかを把握すること。

それが出来てなければ、作戦を立案して実行したところで、どこかで作戦が瓦解するのだ。

こんなこと、士官学校で最初に教えられること。当然のことなのだ。

 

「……それぞれの軍に捻出出来る部隊と装備の数を聞けば良いんじゃないの?」

 

 ビスマルクはそう言った。

 確かにその通りだ。悩んでいても仕方がないし、こちらから出せる部隊の予測をしたところでどうしようもない。

聞くのが良いに決っている。

 私は机から便箋を引っ張り出し。文章を書き始めた。

3通だ。宛は総督と陸軍部長官と空軍部長官。この2人もまた、あの事件から繰り上げで大将になった人間だ。元々は地方の統括をしていた人間らしいが、詳しいことは知らない。

 最初に陸軍部と空軍部に送り、いい返事ならば総督には送らない。

良くない返事ならば、総督に送り、陸軍部と空軍部に催促の文書を送ってもらうのだ。

面倒な手を使うが、同時進行しようと思うのなら、これが一番良い手だろう。

 今時、電子メールでのやりとりでも良いが、やはり軍の施設だ。

電子メールだと何があるか分からない。もし、ハッキングされて中身の情報を知られて、何処かに情報を流されてしまったら大問題だ。

内容はそこまで問題にはならないが、電子メールでこういう内容のやりとりをしたことが問題として浮上してしまうということ。

 手書きで文書を送るのが安全且つ確実なのだ。

 

「ねー、新瑞さん」

 

 今度はプリンツ・オイゲンが話しかけてくる。

 私はこの艦娘はどうしても好かない。

きっと、天色が居たならば、とても明るい少女だったんだろう。だが、今の彼女にはそんな面影は残っていない。

 

「草案の状態でもいいから、どんな作戦か聞かせて欲しいです」

 

 笑顔でいることは確かだ。だがその笑顔は何処か作り物のような顔で、生気を感じない。

口角も上がりっぱなしだ。

一言で言ってしまえば不気味としか表現出来ないような様子なのだ。

 こんな表情なのは決まって、私やなんかと話す時。

ビスマルクやグラーフ・ツェッペリンなどと話す時は、自然に笑っているように見えるのだ。

 作り笑いなのは見れば分かる。

見て分かるくらいには人間を見てきたつもりだ。

 

「部隊の規模にもよるが、進軍経路は考えてある」

 

 私は地図を取り出し、赤えんぴつでそこに印を付けた。

 

〈松代→軽井沢〉

 

 おおよその最初の移動先だ。

 

「作戦前に全部隊は松代に集合。その後、部隊は車列・隊列を組んで、一度、軽井沢に仮設されている軽井沢臨時集積場に向かう」

 

 そのままラインを引き、軽井沢の辺りを囲む。

 

「軽井沢臨時集積場で休息した後、出発。今度は放棄されている日本皇国陸軍大宮基地に向かう。移動手段は変わらず」

 

〈軽井沢→大宮〉

 

 続けて、大宮に向かってラインを引き、印をつける。

 

「ここには装備が多少なりとも残っていると思われる。陸上部隊はここである程度、物資を捜索。回収していく」

 

 そのまま次は大本営の辺りに印を付けた。

 

〈大宮→大本営〉

 

「ここからは、君らの出番だ。もし、深海棲艦が東京湾奥まで入り込み、港を占領していた場合は」

 

 そう言いかけたら、プリンツ・オイゲンが先に答えてしまった。

 

「開けたところで艤装を出して、艦砲射撃及び対空砲火。陸上部隊の支援、ですね」

 

 察しが良いというか、それ以前の問題な気がするが、感が鋭い。

 普通なら、陸上部隊と共に大本営に進軍。大本営周辺で艤装を出し、艦砲射撃及び対空砲火を選ぶところだろう。

 だが、ここに私の狙いがあった。

 

「ここで展開する意図は『深海棲艦の艦載機の目を引き付けること』、『もし陸上に深海棲艦が居たならば、弾着観測射撃を行って貰うため』だ」

 

 プリンツ・オイゲンは唸る。理由は分からない。

 

「後者の可能性は低いですが、そちらの支援をするというのは利に叶っていますね。普通の将官なら、大本営周辺で展開させるでしょうし」

 

 全くもってその通りだ。

 流石にそんな安直な行動はしない。

そう思い、続きを言おうとした時、プリンツ・オイゲンの独り言が聞こえてしまった。

 

「生かしておいて正解だったんですね。……ましろさん」

 

 私は聞かなかったことにする。否。誰にもこのことは言わないようにする。

もちろん、文章としても残さない。私の記憶だけに留めておくのだ。

 

「陸上部隊は東京の要衝の戦時復旧を行い、大本営に入る。そのまま、大本営に保管されている重要書類などを後送し、少数の部隊は駐留。これと同時に、支援をしていた貴女方はその場にグラーフ・ツェッペリンを残し、大本営まで前進」

 

 この後は地図を使う必要はない。

口頭で色々と伝えていくことになる。

 

「後送と同時に、松代から補給物資の運搬を行う。コンボイでの補給だ。大宮に残ったグラーフ・ツェッペリンの補給後、大本営まで前進していた貴女方への補給を行う」

 

 もちろん、弾薬だけだ。燃料はあまり使わないだろうから。

そんな時、聞いていたであろうグラーフ・ツェッペリンが質問を投げかけてきた。

 

「私が大宮に残る意図はなんだ?」

 

「意図としては、松代と大本営間を行き来するコンボイの直掩をしてもらいたい。ここで聞いておきたいのだが、搭載している艦載機はなんだ?」

 

 話を進めすぎたが、何を積んでいるかによっては、この作戦を少し変更せざるを得ないのだ。

 

「Ju-87C改とFw-190T改、流星だったかな」

 

 そう言った。私は記憶を掘り出し、色々と思い出していく。

Ju-87はスツーカ。急降下爆撃機だ。悪魔のサイレンとかなんとか、っていう。Fw-190T改は完全に改造機だろう。そんな型番はないんだろう。

 そんなことを考えていると、ビスマルクがツッコミを入れた。

 

「違うわ、ツェッペリン。スツーカは紅提督の指令でカスタムされてたじゃない。なんだったかしら。……D-5かD-7で、翼内のMG151/20の装弾数を増加させて、エアブレーキを……」

 

 この先は私も何言っているか分からなかった。専門用語が多い。

流石に、将官ではあるから、それなりに兵器のことは頭に入っている。無論、横須賀鎮守府で使っていた装備もだ。

だがやはり、航空機は分からない。難しいのだ。

 

「フォッケウルフも魔改造して、既に原型留めてないじゃない」

 

「あぁ、そうだったかな。……モーターカノンもMG151/20を外して別物に載せ替えて、翼内の機関砲も門数増やしてたな」

 

「えぇ。それでいて機動性はむしろ良くなっているという、意味の分からないフォッケウルフね」

 

 とりあえず、魔改造されたものを使っていることは分かった。

 それがどういう用途で使われているのかが問題なのだ。

局地戦闘機として使っているのか、制空戦闘機として使われているのか……。

 

「フォッケウルフの用途は?」

 

 スツーカも流星も戦闘機ではないから対象から外す。

 

「制空としても使えるし、局地戦闘機としても十分だ」

 

 つまり、多用な用途があるということだろう。

ならば、私が立てていた草案にも使える。

 

「さっきも言った通り、グラーフ・ツェッペリンの艦載機隊には、コンボイの直掩を頼みたい。場合によっては、航空支援を頼むこともあるだろう」

 

 ここで私はえんぴつを置く。

 

「大本営が取り返せたのなら、他の方面も容易に取り返せるだろう。今回の草案は、全体の斥候として大本営の奪還を目指すものだ」

 

 私はプリンツ・オイゲンの顔をみた。

一応、これで草案を言ったつもりだ。まだまだ細かいところの調整は必要だが、これが一番利に叶っていると、私は思っている。

 だが、プリンツ・オイゲンは表情を変えない。

どうしてだろうか。何か不満でもあったのだろうか。そんな風に考えてしまうが、これが今のところの最善策だと思っている自分もいる。

一体、何を考えているのだろうか。

 

「……その先は?」

 

 どうやらこれが聞きたかったのだろう。

 この先は考えていない訳ではない。だが、色々と問題が山積みなのだ。

 

「横須賀鎮守府艦隊司令部の復旧と、住民を疎開先から戻すところまでは考えている。だが……」

 

 だが、この先が問題なのだ。

 大本営を奪還し、横須賀鎮守府艦隊司令部を再稼働させたところで、その後の行動をどうしようかと悩んでいるところなのだ。

 一応、海軍工廠で建造中のかさばね型汎用護衛艦を何隻か進水と艤装を終わらせ、完全に日本皇国海軍独自の艦隊を以て、前線を押し上げることを考えていたのだ。

だが、備蓄資源は無限ではない。国内に供給させたり、消耗品の生産やらで減っていく鋼材やボーキサイトは補給が寸断されてしまった状態だ。

 何度も言っていることだが、資源は有限。

幾ら、押し戻して仮初の平和を取り戻すためとはいえ、一時は資材を大量に使うことになるのだ。それを私は懸念しているのだ。

 

「海は別だ。……状況が最悪で、眼中に入れてすらいない」

 

 これが今の最大限の回答だ。

 プリンツ・オイゲンもこの国の情勢がどうなっているかを知らないはずがない。だが、それを踏まえての質問だったんだろう。

 私がどういう采配をするのか。どこまで手を進めるのか。

 

「……ですけどね、新瑞さん。それじゃあ、私たちが『最期の剣』たる理由がないんですよ」

 

 突然、そう言ったのだ。

 一瞬、フリーズしてしまう、私の思考回路。すぐに復旧し、思考を開始する。

 『最期の剣』たる理由……。ビスマルクたちが私の指揮下に入る理由だ。

中部海域にも向かえず、『柴壁』と共に侵攻した訳でもない。どちらでもない存在。言い方が悪いが、中途半端な存在に見出された、自分が存在するための理由だ。

 決して死に場所を求めている訳ではないんだろう。

その命を燃やし、燃やし尽くして遂に灰になることを望んでいるのだ。それは、天色がしてきたことを引き継ぎ、自分たちが出来ることを最大限にすることで。

 だから、自分たちのことを蔑ろにしているような、私の草案にそういう言葉が出てきてしまったんだろう。

 私は勝利を最優先で考えていた。

それは作戦を立案する上で、最大限に求められることだ。今の場合もそうだ。

だが、この場所では違う。

そう言った、大勢のための作戦ではない。この8人のための作戦を考える必要があるのだ。それは、軍人として、将官としては最低のことだ。だが、私はそれをしてでも、やらなければならない理由があるように思える。

 私は何故、生かされたのか。

 あの事件で、私は怒り狂った『柴壁』に殺されなかった。見て見ぬふりをされた。見逃されたのだ。理由として、自分で思いつものは全て挙げてみた。

そこから考えてもみた。

だがやはり至るのは、全てはこの流れ。『神奈川東京埼玉撤退戦』から奪還作戦までの流れを、私に関与させるためのものだったのかもしれない。そういう風に思えるのだ。

 

「時間を貰いたい。考えさせて欲しい」

 

 私は頼む。時間があれば考えられるだろうから。

 幸い、作戦も草案段階だ。時間はいくらでも掛けていられる。

永遠に先延ばしすることは出来ないが、身動きがしやすいうちに話を進めなければならない。私の地位だって、いつまであるか分からないものだ。

 

「分かったわ。だけど、そこまで時間に余裕はないと思うわよ」

 

 そう言ったビスマルクはソファーに座ってしまう。

他の艦娘もまた然り。静かにソファーに座っているだけだ。

 私は自分の椅子に座り、考え始める。

ビスマルクを最期の剣たらしめる働きをさせる作戦を。どう使うか、どう動かすか、どう配置するか。

いくらでもあるだろう。だが、効果的に使わないと彼女たちも納得しないだろう。それはきっと、自分たちがどういう”命”を受けているのかを十分に理解しているから。

理解していないのなら、中部海域に赴いた赤城たちに付いていったことだろうし、残っていたとしても、横須賀鎮守府に居たままだったはずだ。

 こんな遠方まで来る理由なんて、それくらいしか思いつかない。

 私は思考に自らのエネルギーを注ぎ込む。

それだけ、彼女たちの存在や”命”、なにより、彼女たちの主人への報いなのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ビスマルクたちを有用に使う算段が付いたのは、話をしてから2日が経った頃だった。

 それまではずっと、草案を纏めながら、ビスマルクたちのための”場所”を用意することを考えていた。

 草案は自分の中でだいたいが出来上がっていたので、そちらに思考を傾けることなく纏めることが出来た。

草案は一日寝かせ、明日の朝にでも見直してからまた寝かせる。それを3日繰り返し、総督に提出すればいい。

 

「一連の奪還作戦の後、ビスマルクたちにはその”命”を全うしてもらおうと思う」

 

 私を前に、直立不動のビスマルクたちに私は伝えた。

 彼女たちの”場所”を。

 

「作戦中の動きは以前教えた通りでやってもらう。支援攻撃や直掩だ」

 

「露払いってところかしら」

 

 全く以てその通り。

作戦行動中のビスマルクたちは露払い。本隊は陸軍から捻出される陸上部隊だ。

 だが、その露払いもどうなるか分かったものではない。

深海棲艦の艦載機隊との衝突となると、U-511以外は船体を出し、対空戦闘をする必要が出てくる。

効果的な迎撃だ。

 こちらの対空兵装を使ったところで効果なんてたかが知れている。

効果に確信がある艦娘が対空砲火をした方が良いに決っているのだ。

 この対空戦闘は、作戦行動中に予測される攻撃の中で2番目に確率が高い。

なら、1番目は何だというのだろうか。

それは、深海棲艦による艦砲射撃。

この時、深海棲艦は偵察機を飛ばすと思われる。予測の範疇だが。

そうなった場合、為す術無く砲撃を受けるのか。否。ビスマルクたちに反撃をしてもらう。

こちらも主砲による砲撃を行い、相手の門数を減らしておくのだ。

 

「だが出番はある。必ずだ」

 

 私がそう言うと、何も返答をしなかった。

 そんなことは分かっている、と雰囲気から見て取れる。

ここまでは別に、何通りも事象があることは想像出来た。だが、この作戦の終わった後が問題だ。

 私はビスマルクたち『番犬艦隊』に、沖に出ない程度の範囲に存在する深海棲艦の撃滅をさせるつもりなのだ。

非情なのかもしれない。かさばね型汎用護衛艦を使えば良いのかもしれない。誰もがそう思うだろう。

私は違う。かさばね型汎用護衛艦が深海棲艦に対して有効かなんて分かっていない。ならば、確実に有効打を叩き出す艦娘にその任を任せるのが建設的なのだ。

それが、彼女たちに課せられた”命”を全うすることにも繋がる。

 本当ならば嫌だ。私が手足の様に動かせる戦力ではないが、現有戦力で一番効果的な攻撃手段なのだ。

それを、もしかしたら”掃除”で失ってしまうかもしれない。そういう予感が頭を過るのだ。

 自陣の兵士を鼓舞する材料にもなると考えてはいた。

窮地に追いやられても尚、艦娘は私たちに手を差し伸べてくれた。多くの仲間を失い、指揮官を失い、家を失った彼女たちはまだ、武器を持って立ち上がる。

あの早朝の生放送の内容を知らない者は居ないはずだ。

なら、より一層、艦娘が武器を持って私たちの前に立つ意味が分かるだろう。理解出来るだろう。

 死んだ目が訴える言葉というものは、力強いものを感じさせる。

そこまで長くはないが、同じ部屋で過ごして分かることは沢山ある。

思い、願い、希望、絶望。殆どが絶望なのは言うまでもない。だが、その中に思いや願いというものは必ず残っていた。

逢いたい、話したいという気持ちが滲み出ていることを感じた。

そんな彼女たちのために、私は彼のようには行かないが、それなりの場所を用意するのだ。

 

「……ツェッペリンはね」

 

 立ったまま動かないでいた私に、ビスマルクはそう切り出した。

私は何も話さない。もちろん、他の『番犬艦隊』もだ。

 

「端島に居た時から、紅提督をテレビで見ては『会いたい』、『あの人こそ、私のアトミラールだ』と言っていたわ。私は口にはしなかったけど、同じことを考えていたの」

 

 昔話だろう。何か思うことでもあったのだろうか。それとも、何か第六感的なものが働いたのだろうか。

 

「幾時か申請を出して待ち続け、私たちは横須賀鎮守府艦隊司令部に移籍を果たした。あの時、許可をして話を取り付けたのは新瑞だったわね。あの時はありがとう」

 

 スッとビスマルクは頭を下げた。

 

「紅提督の下に行った後は、見ていた世界の色が変わったわ。灰色で、ずっと私たちよりも小さな駆逐艦の娘たちがボロボロになって帰ってくるのを見ていたあの端島とは」

 

「虹色。だけど、黒や灰色のない、美しい色。そんな世界があそこにはあったの」

 

「楽しかったわ。紅提督とは、本当に運が良くないと話せなかったけど」

 

 ビスマルクは優しく笑った。だが、視線は下の方に向いている。

 

「そんな時だったの。ツェッペリンの様子が変なことに気付いたのは。何か体調でも悪いのか思って心配していたけど、すぐにその原因は分かったわ」

 

 チラッとビスマルクはグラーフ・ツェッペリンの方を見た。

 

「紅提督を提督として認め、敬愛していたのと同時に、1人の女として好きになっていたってことに」

 

 優しく笑ったまま、話を続けた。

 

「私は今でもどんな風に紅提督を見ていたかなんて分からない。友愛って言われたら、それはそれで納得してしまうわ」

 

「だけど、ツェッペリンは完全に恋をしていたの。紅提督の気を惹こうと行動し、話しかけていた姿は私も何度も見たわ」

 

「……紅提督は自分のことを卑下にしていたけど、人柄や心の奥にあるものとかに惹かれていったんだと思う。艦娘っていう色眼鏡無しにだけど」

 

 フフッと笑ったビスマルクは続けた。

 

「意味不明な信条とか、たまに出る素顔とか、年相応のことをしたりだとか」

 

「好きなことをするとき、話すときの表情とか、勉強をしているときの表情。戦闘指揮をしてるときの顔でもなく、艦隊を見送るときの顔でもない紅提督の表情」

 

 私は何一つとして知らない。それは、横須賀鎮守府に居なければ分からないことばかりだ。

 

「そんな表情を知っていたから、ツェッペリンは恋い焦がれた」

 

「皆知っていたけどね」

 

 またビスマルクは笑う。

 

「だから、奪還作戦」

 

 話が急に戻った。

そして、ビスマルクは顔をあげた。だが、その顔に優しい笑顔は残っていない。

無表情。凍りついたように、表情のない固まった顔だ。

 

「ツェッペリンのためにも、そして、私たちのためにも、その”命”を全う出来るようにして欲しい」

 

 ビスマルクは帽子を脱いだ。

 

「紅提督の最期の剣として、私たちを送り出して欲しい」

 

「彼に逢った時、恥ずかしくないような手土産を持たせて欲しい」

 

「彼に笑って逢えるように……私たちは頑張ったんだって言えるようにっ……」

 

 消え入りそうな声でそう言ったビスマルクは、帽子を深くかぶると、ソファーに座ってしまった。

 私はなんと声を掛ければいいのだろう。

 直接、艦娘のこういう声を聞いたのは初めてだった。

だから、どうして良いのか分からない。だが、分かりたくても一生分かることが出来ないだろう。

 




 今回もアフターストーリーです。
やはり、話の中心となるのは『番犬艦隊』と新瑞ですね。そりゃそうですよ。
題名から察したでしょうけど、このアフターストーリーは新瑞が主人公ですからね。
 さて、大和の方を書けよと思った方も少なからずいらっしゃるでしょう。
すみません。完全にスランプです。気長にお待ち下さい。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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